ウチのキャラクターが自立したんだが   作:馬汁

61 / 78
特別長い
冗長な物語構成なのである


54-ウチのキャラクターと俺の魔法講義

「ボクのお姉さん、別に面倒くさがりってワケじゃないんだけド、何かがある度にボクに頼ってくるんダ」

 

 ケイのふとした問いを受け、彼女の人となりの説明をし始める。

 やはり身体が弱いから、そういう事になるのだろうか。

 

「それは身体が弱いから?」

 

「ううん、半分正解。身体の調子とか関係ない事もやるから」

 

 つまり身体の善し悪しに関わらず世話をしている?

 その上面倒くさがりでもないとは、どういうことなんだろうか。

 

「あーんさせられたり、髪をとかせられたり」

 

 あーんとは……。聞く限りでは別に腕が不自由な訳ではないらしいが、一体どういう事なのか。

 

『何故そこまで? 嫌ではないのか』

 

「そんなワケないジャン!!」

 

 そんな訳ないらしい。

 

「じゃあアレか。好きでやってるということだね」

 

「それは……ちがくないけど、ちがうモン」

 

「そっか」

 

 おー、ケイが随分と優しげな顔をしている。あんな表情出来たのか。

 もしかしたら、俺もそんな表情をしているのかもしれない。目も口もない顔だが。

 

「ちがうモンっ!! 罰ゲームダシ!!」

 

「うんうん、そっかそっか」

 

「ボクはただ……えっと……そう! ゲームで負けたペナルティとしてやってるだけだかラ!」

 

「なるほどなるほど、そうだよねぇ。……げーむ?」

 

 ……と、ケイが苦手な話題が出てしまった。

 彼女と会話を代わろうと、言葉を書き、見せる。

 

『姉とゲームをやっていたのか』

 

「むー……昔はよくストリートウォリアーで対戦してた。あとはゴザエモンとか」

 

 やや不機嫌な態度から察するに、勝率はあまりよろしくないのだろう。

 彼の頬がプクーっと膨らむ。

 

『やけに古いゲームだな』

 

「昔の頃からやってたカラ、ゲーム。新しいのだとCLIMAX of LEGENDS一緒に遊んだカナ」

 

『クライマックスオブレジェンズ?』

 

「うん。少し古いけど、バトルロワイヤルゲームの1つだヨ。」

 

 最新のでも古いゲームを遊んでるんだな……。少なくとも数年前以前の記憶が無い俺の頭には残っていない。

 遊ぶゲームに拘りでもあるんだろうか。

 

 

「そういえば2人は一緒にゲームとか遊ぶノ?」

 

「あー……何かを遊ぶ事って、あんまり……だよね?」

 

 目を見合わせる。

 ケイの言う通り、特に2人で何かを遊んだ事はない。

 

『やり方を教えるために一緒に料理した事ならある』

 

「まあ、強いて言えばそれぐらいだよね。その辺りで言えば買い物もたまに付き添うし」

 

『マトモに会話できる人がいれば楽できるからな』

 

「ナルホド~……。一緒に料理とか買い物デートとかしちゃって、ひょっとしたらラブラブさん?」

 

 何を言い出すんだこのショタは。

 

「違うよ」

 

「違うノ?」

 

「間違いなく。……あと、今後またそういう事言ったら、下を掻っ切ってあげる」

 

「はうっ」

 

 こら。ケイはまたそうやって子供を脅かすんだから。幾らイヤな勘違いをされたからって、そうまでする事ないだろう。

 まあ冗談だろうが。……いや、冗談でも()はやめてあげて。お前も男だろう。

 

「ほーらメチャくん、こっちに来なさい。どうしようもない誤解をするような頭を矯正してあげるから」

 

「わー、逃げローッ!」

 

「あっ、待てこの!」

 

 ケイの怒気に恐れ慄いた――にしては陽気な口調に聞こえたが――メチャちゃんくんは、とっとここの場から走り去っていった。

 ケイもそれを追おうとするが、数歩進んだ所で諦めて立ち止まる。

 バカバカしさでも感じたのか、嘆きのため息をついてからこっちに戻ってくる。

 

「……どうも、あの子供は友情と愛情の違いを知らないらしいね」

 

「彼の場合は知ってて地雷を踏み抜いていった気がするのだが」

 

「だとしたら絞ってやろうか」

 

 一体何を絞るのだろうか。水分が約60%の人体を絞っても、出るのは血肉のみである。

 ……なんだか猟奇的な絵面が浮かんできた。思考を切り替えよう。

 

「はあ、気分が悪くなった。私が男と付き合うわけがないでしょうに。……想像したら余計悪くなった」

 

「まあ落ち着け。ケイもいい加減大人だろう」

 

「……そうだね。ちょっと飲み物でも飲んで落ち着こう」

 

 お湯でも沸かして何か飲むのだろうか、と思ったのだが四次元ポケットから瓶を1つ取り出した。

 ラベルにはレモンジュースと書かれている。

 

 人目が離れていった直後に魔法に頼った事に俺はむっとしたが、特に何も言わなかった。それに落ち着いて貰わないと魔法講座に支障が出る。

 

「キミもなんか飲む?」

 

「いや、別に飲まない。……それの中に何を入れてるんだ?」

 

「目に付いた美味しそうな物を適当に。暇な時間に買っては溜め込んでるよ。それにモンスターの肉とか。この中に入ってる食料だけで、2人でも5年は持つだろうね」

 

「5年……?! 一体どこにそんな量を買うお金が」

 

「いや、狩ったやつを片っ端から詰め込んでるから」

 

 だとしても一体どれだけの数をやったんだよ……。

 

「この世界の事だから、ちょっと焼けば食える状態なんだよね。そうだ、取り出して直ぐに食べられるように、予め調理しておく?」

 

「良いアイデアだが、どうせならキッチンでやりたいな」

 

「それもそっか」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 その後、俺はケイから魔法についての講義を始めることになった。

 手元にある勉強道具はメモ帳とペンだけだ。

 

「私の世界の魔法について、多少は知ってるんだよね?」

 

「まあ。属性やそれぞれの象徴。それとケイが使ってる魔法の種類ぐらいだ」

 

「ふんふん、日常的によく使ってるのは転移と亜空間だね。光と闇は時と空間に相当する属性だから、そういう事が出来るんだ」

 

「見慣れたもんだが、本来はそう手軽に使えるもんじゃない……んだよな?」

 

「十分な魔力と、知識と理解と、あとは慣れだね。魔力、知識と理解は敷居が高いけど、それさえあれば手軽に使えるよ」

 

 そりゃそういうものなのか……。詳しくは知らないが、転移とかは消費魔力が桁違いになる印象なのだが。

 

「とりあえずそれは置いといて」

 

 コホン、とケイが仕切りなおそうと咳払いをする。

 

「前にも言ったけど、私の世界の魔力の在り方は、この世界の物とは若干違うんだ。この世界は空気の中に漂っていて、魔法で干渉できるけど、私が元いた所じゃ身体や物体にしか宿らない。空中に出るのは物から物へと移る時ぐらいかな」

 

「ガスと電気みたいなものか」

 

「そんもんかな。で、私の魔法は後者の法則に応じた物なの。まあ当然だよね」

 

 ガスはガスの使い方。電気は電気の使い方があるのは当然だろう。

 

「今日はその魔法の肝心な基礎を教えるよ。メモの準備はいい? 大丈夫、理論上はこの世界の住民にも使えるはずだから」

 

「それを聞いて安心した。準備万端だ」

 

「それでこそ私の自慢の生徒だ。さて、まずは魔法を生み出す際の理論だけど……」

 

 

 

 ……学校に通っていた記憶は、言うまでもなく残っていない。精々が大学をやめるまでの数日程度である。

 そんな俺に勉学ができるかという懸念があったのだが、意外と心配は無用であると数分して気付いた。

 

 ケイ先生の説明は多少分かりづらい点があったものの、そういった点は主に専門用語や、ケイが勝手に()()()()()()だと決め込んでいる事が殆どだ。

 質問すれば答えが返ってくるし、その答えを聞いても説明を理解出来なかった。という事はあまり無い。

 

 それに、俺だってケイの世界の魔法を全く知らないワケではない。あの本を通して大雑把な知識ぐらいは蓄えているのだ。

 

 手の平サイズメモが、あっと言う間に数ページを越す。別に彼女の言葉を一字一句を聞き逃さず写しているワケではないが、俺の速筆能力は彼女の喋るスピードに余裕で追いついていた。

 

「……これまでが、体内の魔力を利用した魔法の理論。ここで一区切りしよう、質問はある?」

 

 ケイの言う理論を簡単に纏めると……。

 魔力を制御下に起き、

 主に思考によって魔力を操作し、

 それによって術者の望む事象を生み出す。とのことだ。

 

 補足するならば、その思考の性質によって属性が表れるというものがある。

 火は技術、水は生命と、属性の示す象徴がその基準となる。

 そのせいなのだろうか。ケイの世界では、個人が持つ得意属性は、その人の性格を体現しているという認識があるらしい。

 

「特には……いや、1つだけある」

 

「なに?」

 

 ケイの説明には多少の不足があったものの、その不足の殆どを俺が質問したり指摘したりで補っている。

 だから、この講義自体に疑問があるわけではなかった。

 

 ただ……、

 

「講義してくれたのは理論だけだよな」

 

「うん」

 

「肝心の実用的なところを聞いてないんだが。入門向けの魔法ぐらい教えても良いじゃないか」

 

「……あ」

 

 理論だけ学んでも仕方ないのだ。

 俺が魔法を使うのに必要かもしれないが、それ自体が魔法を発動してくれるわけじゃない。

 幾ら食材や調理器具の適切な扱い方を学んでも、料理のレシピ自体を知らなければどうにもならないのである。

 

「そ、それではコレより魔法実習を始めます」

 

「……」

 

 俺は何も言わなかった。

 

「今スッゴイ呆れられた気がする……。コホン、とりあえず理論を分かってくれれば後は楽な筈だから、少し端折るね」

 

「わー流石ケイ先生」

 

「うっさい。まずは理論にあるように、精密な魔法を使用するのなら、それだけ慎重に魔力を制御しなければ行けない。逆に、多少雑に扱っても良いようなら、魔力を大雑把に動かしても良いの」

 

「肝心の魔力の動かし方はどうするんですか先生」

 

「コレばっかりは感覚としか言いようがないかな。でもキミは元の身体で魔法を使ったことがあるんでしょ? 行ける行ける」

 

 いやな。

 魔法を使ったことがあるって言っても、その魔法はシステム的なアレで補助されていてだな。

 

 ……『詠唱』という単語と『魔法名』の2つさえ覚えてれば小学生でも出来るんだよ。

 

「ハハハ、冗談冗談。そっちの魔法が出来るからって応用出来るもんじゃないのは分かりきってるよ」

 

「お前……」

 

「さてさて、まずは体内の魔力を感じる所からかな」

 

「……どうするんだ?」

 

「まずはキミの魔力を根こそぎ吸い出そっか」

 

 ふむふむ、まずは俺の魔力を……、

 

「は?」

 

 根こそぎ? 吸い出す?

 

「待って、いや待て。本末転倒じゃないのか」

 

「ほら、よく言うじゃん。”失ってから初めて気付く”ってさ」

 

 いやだからって……。

 

「魔力を失ったら、体内で何かが欠けている感覚がするはず。呼吸は問題ないけど息苦しい感じかな?」

 

「……欠けた部分の感覚を掴むのか?」

 

「ちょっと違う。吸い取った後、しばらくしたら今度は魔力を吸収してもらう。そしたら欠けた部分が満たされていく感覚がする。そしたら魔力の存在も普段以上に知覚出来るはず! って算段だよ」

 

 ……少し気が進まないが、ケイがそこまで言うのなら効果があるのだろう。

 

「ポイントは、欠けた部分に意識を集中して、満たされるタイミングで動きの変化を探す。ってところだね。早速行くよ?」

 

「……分かった。何かの間違いで変なことするなよ」

 

「大丈夫大丈夫。私の方の世界だと、蓄えた魔力を出すと元に戻るのは時間がかかるけど……」

 

 それだけ言って、ケイが篭手を外す。素手で吸い取るつもりなのだろう。

 

「この世界の人間は、空気中の魔力を取り込んで、そして吐き出してる。呼吸するようにね。だから、ちょっと吸い出した程度でも()()が続いてさえいれば問題ない……。ほら、脱いで」

 

「俺もか……」

 

「脱がないと上手く出来ないでしょ。鎧に魔力を溜めてるわけでも無いんだから」

 

 それもそうか。

 しかしこの防具は少しばかり着脱に時間がかかる。ごそごそと脱いでいくと、しばらくしてようやく人形の姿が表れる。

 

「よし……。ほら、済んだぞ」

 

「人形姿を見るのも久しぶりだね。服屋の時以来だったか」

 

「人形じゃないにしろ裸姿を見る機会がないのは当たり前だろう」

 

「そりゃそっか」

 

 

「……じゃ」

 

 その一声をかけられ、俺は少しの不安を感じつつも体の内側の感覚に集中する。

 VRの身体の魔力を感じ取るなど可能なのかすら不明だが、とりあえずやってみるしかない。

 

「どう?」

 

 しばらくしてから、ケイが俺に経過の確認を行う。

 特にコレと言った感覚は掴めていない。ケイの手がくすぐったいぐらいだ。

 

 ステータス画面を呼び出せば、確かにMPの値が減っているのが確認できるのだが。

 

「数字は確かに減ってるが、実感はできないな」

 

「ふむ……。まあ空になるまでやろうか」

 

 空までやるのか……。

 MPの減少は加速し、ついに1ケタに到達し……ゼロになる。

 

 その時、なんとなく息苦しくなるのを感じる。

 喉の調子は通常通りなのだが……まるで空気を吸っているのに吸えていないような感じである。しかし呼吸の感覚から、実際には酸素を吸えているようだ。酸素がこの世界にあればの話だが。

 

「なんか息苦しいな」

 

「他には?」

 

「……いや」

 

「うーん、空にしてもこの調子か……」

 

「人形化が影響しているのかもしれない」

 

 実際この身体になってから、全てのステータスが正真正銘の初期値になっているのだ。鈍感になっても可笑しくない。

 あるいは、異なる世界の技術にこの世界の法則(ステータス)など関係ないと言うのであれば、やはり仮想の身体と実際の身体の間にある壁が原因だろう。

 

「まあ良いか。今度は入れるよ。これがダメだったら他の手を考えよう」

 

 諦めはしないのか。とは思っても言わない。

 ステータスを見れば、彼女の言ったとおりに今度はMPが増加していた。

 

 前半で感じ取った変化と言えば呼吸ぐらいだ。

 アドバイスの通りに、目を閉じてその辺りに集中する。これで感覚が掴めれば良いのだが……。

 

「……?」

 

 ここで、俺は違和感を覚える。

 今度は新鮮な空気を吸う時の、その空気が体内を通る感覚に集中した。

 

 呼吸により体に取り入れられる空気は、気管か食道かのそこらを通って行く筈だ。

 

 これは……。

 

「どう?」

 

「……まずまず、と言ったところだ。それらしき存在は分かった」

 

 もしかしたら錯覚、勘違いなのかもしれないが、とりあえず見当を付ける事は出来た。

 仮想の身体の事だから、あんまり信用はしていない。

 

「その感覚を掴んだなら、今度は自発的に動かしてご覧」

 

「動かす……?」

 

「そう。揺らぐ程度でも、意思に反応しているのであれば制御が一部出来ているようなものだよ」

 

「制御か……」

 

 とは言っても、感覚でしか捉えられない()()を、どやって制御すれば良いのだ? 手で触れられるワケじゃ

 あるまい。

 

「私が最初に魔力を制御したときは、意識の中で魔力を包んで動かす様な感覚だったかな」

 

「意識で魔力を……」

 

 こう、か?

 

 意識の中で、その存在をどうにか掴み取ろうとする。

 確かな手応えはない、しかし魔力に揺らぎを感じた。そよ風で揺れる木の葉のような……。

 

「おお?」

 

 ケイが声を上げる。お得意の気配察知が、魔力の動きを感じ取ったのだろう。

 彼女は揺らぐ程度でも良いと言っていた。しかしこれでは個人的に満足できない。俺は揺れる魔力をかき集めるように意識した。

 一点に集めるように……。

 

「……へえ、面白い。見るからに初々しい魔術師の魔力って感じだ」

 

 言ってろ!

 

 ……あ。

 集中力が切れたのか、魔力が霧散する様な感覚を得る。

 

「っと、どうしたのかな? 集中力でも切らした?」

 

「いや、お前のせいだろ」

 

「それにしても反応しすぎ。戦闘中じゃ使えたもんじゃないね?」

 

「ぐ……」

 

 確かにケイの言う事は最もだ。緊張で魔力の制御が乱れるに違いないだろう。

 もし使えるようになったとしても、実戦で役立たないのでは―――

 

「まあ気にしないで。次は、その魔力を外側に押し出してみよう。出来るかな?」

 

「……分かった」

 

 まだ魔力をマトモに動かせてないのに、魔法を覚えた後のことを考えるのは早計だ。

 ケイの指示に従い、その通りに魔力を動かそうと試みる。

 

「よし……」

 

 まずは魔力を掴み取る。

 

 魔力は揺らいだ。

 

 もう一度掴み取ろうとする。

 

 揺らぐ。

 

「……」

 

 やろうとしても出来ないぞ?

 

「何やってんの?」

 

「やってるんだよ」

 

「いや答えになってないし」

 

 それからも何度か試したが、体内の何処かに誘導することは出来ても、体の外に押し出すようなことは出来なかった。

 

 

「疲れた……」

 

「結局出来なかったね。ほれ、レモンジュース」

 

「ああ、ありがとう……。甘いな」

 

「蜂蜜と砂糖入りだからね」

 

「それは世間一般にははちみつレモンと言わないか? なぜラベルにはレモンジュースとだけ……」

 

「それを言ったら、レモネードとも言えるんじゃない?」

 

 ……そうだな。

 

「さて、魔力制御の結果について言わせてもらうと、どうも魔力を放出するよりも内側で操る方が適正があるみたいなんだよね」

 

「属性の適正以外にそんなのがあるのか」

 

「あるんじゃない? あっちの世界と魔力の動き方違うから、知らないよ。……でもそれなら、あれから試した方が良いかもね」

 

「”あれ”?」

 

「強化魔法だよ」

 

 強化魔法……。

 

 内側で操る適正の方が高いからとケイは言ったが、なるほど確かに強化魔法が管轄の内にありそうだ。

 しかし攻撃出来ないような魔法だけじゃ、孤立した時に心細いのだが……。まあそれはいいか。

 

「強化魔法ってどんな物があるんだ?」

 

 ……とは言ってみたが、一応は強化魔法の事をある程度知っている。

 彼女の世界において、強化魔法の効果は4属性にそれぞれ対応するように種類がある。

 火属性は純粋な筋力強化、

 水属性は身体の治癒能力や免疫力の強化、

 雷属性はスタミナ強化、

 土属性は全体的な耐久力の強化と。

 

「一番人気なのは、雷属性の身体強化かな。主に持久力上昇の効果がある」

 

「効果は地味に聞こえるが、それが人気なんだな……」

 

 しかしこれは知らなかった。その辺りの設定は、まだ読んでいない所で言及されているのだろうか。

 それとも、書かれてはいないが設定として存在しているのだろうか。

 

「持久力ってのは鍛えるのに時間が掛かるの。魔法で手っ取り早く強化出来るんなら、手を出すのも当然の事でしょ? 水属性の方も似た感じ」

 

 育てづらいステータスを強化してくれると言い換えられる。確かに人気になり得るものだと納得する。

 

「ま、この魔法も習得する難易度が高いんだけどね。諦めて鍛えるのに集中する人もいるよ」

 

「だめじゃん」

 

 まあ、身体を鍛えて且つその魔法が使えるとなれば、特別大きな効果が得られるかもしれないが……。

 

「因みに興味本位で訊くが、光や闇の強化魔法ってあるのか?」

 

「当然。というか強化魔法って1属性につき1種類ってワケじゃないから、いくらでもあるよ。ただ方向性が属性別に似たりよったりってだけで」

 

「なるほど」

 

「それでまあ、光の強化魔法と言えば、自分だけ加速させるとか?」

 

 おお、それは自分以外の全てが遅く見えるというアレか。

 

「でもその分物理的な負荷が大きいからあんまり使わない。空気が重く感じるから好きじゃないんだよね」

 

「自分だけ加速するのはそんな感覚なのか。それで闇は?」

 

「本当に興味本位だね……。闇属性だと、自分自身の身体を拡張空間に隠したりとかだね」

 

「拡張空間? 亜空間とは違うのか」

 

「大雑把に言えば、箱の中に2つの空間を重ねるのが拡張空間。拡張空間は、世界の法則がそのまま適応されるから、気軽に入れるんだよね。でも亜空間だとそうも行かないから」

 

「へえ……、確かに『時』と『空間』だけあって、規格外だな。……あれ、この適性も性格で変わるようなもんなのか?」

 

「ううん。その2つは属性の理解がそのまま適正に代わるの。そして理解する為には研究、私のような先人が居るのなら学ばなければいけない」

 

「なるほど、そりゃ性格程度で上手く使えるようになるわけ無いか」

 

「ま、その時が来るのは当分先だけどね。早くて20年ぐらいかなー?」

 

 20年……。

 しかしそれぐらいの数字では驚かない。光や闇魔法という物は、物語が終盤になってようやく使える様になるというのがベターだ。

 ステータスも魔法知識も浅い俺に早くから出来るとは微塵も思っていない。

 

「……って違う違う、脱線してるって」

 

 脱線? ……ああ。

 話題を半端に中断されて不完全燃焼だが、そういえば確かに話がズレていた。俺たちは魔法を教わっているところだった。

 

「わかった、話を戻そう。俺が教わる強化魔法はなんだ?」

 

「そうだなあ……水……いや、最初は土にしよう」

 

 ふむ、土属性。効果は耐久力の強化か。

 

「つまりあれか。硬くなるのか、俺」

 

「だね。おめでとう、晴れて人形からストーンゴーレームになれるよ」

 

 そんなもん別になりたくないぞ。

 

「まあ見た目変わんないんだけどね」

 

 だろうな。

 一部を除いて見た目に影響が無いのは、あの本を通じて既に知っている。ビジュアルを気にする乙女には優しい仕様なのだ。

 

「で、どうすれば良い?」

 

「魔法を構築する際に必要なのは、結果とそれまでの過程を想像すること、そしてそれを効率化するための詠唱文。あ、あと勿論魔力も」

 

「大雑把だな……」

 

「イメージと言っても一筋縄じゃないよ? 物によっては計算が必要だし、高度になってくると頭で物事の演算が出来ないと上手く発動できないのもある。魔法の為に物理学や錬金術を習う人もザラに居るよ」

 

「そういうものなのか」

 

 聞いていると、難しそうに感じてきた……。

 しかし今からやるのは高度な魔法ではない。そこまで難易度は高くない……筈だ。

 

「詠唱文は……えーと、『魔力の成す形は、鋼の如き……―――』、あー、身体? 肌? ゴメンちょっと待って」

 

「おい」

 

「あーいや、うん。これは入門書の文そのままの引用だから、さ? 読んだのもう何十年前だから仕方ないでしょ。それに私の詠唱って殆ど省略してるし」

 

 まあ確かに、当分使っていない物を忘れるのは良くあることだが……。それでよく人に魔法教えようって気になったな。

 

「身体、だとうっかり余計な所を……いや、ソウヤの身体なら大丈夫か? ……よし、じゃあ『―――鋼の如き身体』が無難かな。後はこの詠唱文の通りに魔力を扱うだけだね」

 

「いや、その言い方されると不安になるんだが? うっかりやったら身体がどうなるんだよ?」

 

「大丈夫大丈夫! で、その詠唱なんだけど、言葉を発する方に集中してはいけないよ。あくまで主なのは思考による魔力の構築で、その補助が詠唱なの」

 

「心配だな……。失敗したらどうなるんだ?」

 

「どうもならないよ? で、つまりは詠唱を一文字も欠かさず覚える必要は無いの。ただ、イメージの基準として丁度良いってだけ」

 

「いや、でもさっき体をうっかりどうのって」

 

「だから大丈夫だって! 強化魔法は一歩間違えると弱化魔法に衣替えしちゃうけど、でもそれまでだから」

 

 むう……ま、まあ弱化ぐらいなら大丈夫か? リスポーンは出来るが、ダメージを受けてうっかり街へ戻るような事はしたくない。

 

「……信じるぞ」

 

「そんな決意を見せられても」

 

 だって、今から俺はこの世界のルールから逸脱するんぞ?

 ……人形姿になった時点でそうなっているかもしれないが。

 

 とにかく、やるか。

 

 

「……『魔力が成す形は』」

 

 魔力を制御下に置く。

 その存在は俺の意思に従い、しかし曖昧に動いている。

 

 魔力を全身に押し広げ、そして魔力を事象へと変換する。

 

「『鋼の如き身体』」

 

 

 ふと、ある迷いが頭をよぎる。

 

 こんな世界(VRMMO)で作られた身体で、異常な存在(ケイ)の力を扱えるのか?

 

 

 ……分からない。いや、分からないのなら試すべきだ。

 

 意識を魔力に戻す。既に全身へ送られた力に対し、俺は強く、そして具体的に念じる。

 硬く、強固な力を―――!

 

 

 ―――……。

 

 

 

 ……俺は、どうなった?

 

 

「うーん……失敗だね!」

 

「……失敗?」

 

 本当に失敗したのか、と自分の肌を突いたり抓んだりする。

 ……何時も通りの人形だった。

 

 そうか、失敗したか……。残念だ。

 

「まあ気にしないでよ。最初から出来るなんて思ってないし」

 

 確かに初回から完璧など求めるものではないが。

 しかし、この身体ではケイの魔法は扱えないと言う可能性が大きいように感じられて、どうも無力感が……。

 

「この世界の人間には出来ないんじゃないか?」

 

「バカもん。私が出来ると言ったら出来る。大魔法使いを甘く見るんじゃないの」

 

「ううむ……分かった」

 

 とりあえずはケイの言葉を信じるとしよう。

 

 

「じゃ、魔法実習はここまでとします! お疲れ様」

 

「お疲れ」

 

 地面に横になり、雑に置かれたポーチや防具の場所に向かってメモ帳を放る。

 

「本当に疲れた……」

 

「貧弱」

 

「否定しない」

 

 地面に横たわったまま伸びをする。裸だからか、妙な開放感がある。

 ……って、裸じゃねえか。

 

 ええと、ローブは……あった。

 

「なんだ、裸で寝ない方なんだね」

 

「一度は同じ部屋で寝ただろうに。もう服を着るのに慣れたから、人形姿に軽い抵抗があるんだよ」

 

 主に防御力的な面で。

 なんならあの防具を着たまま就寝したい所だ。

 

 ……そんな事をすれば、疲れが全く癒えないまま目が覚めそうだが。

 

 

「……明日だねえ」

 

「帝都に着いたらどうするんだ?」

 

「レイナや他の隣人達にお土産かな。でもあの子が目覚めるまで待たないといけないし、腐るものはダメそうだね」

 

「……そうだな」

 

 目覚めるまで……。

 現実の世界での朝を迎えるまで、この世界では一週間近く待たなければいけない。

 

 それに朝起きて直ぐにここへ来る事も無いだろう。人によっては、現実での夜でしか訪れることの出来ない者だっているのだから……。

 

「……プレイヤーってのも大変だね」

 

「そう思うのか?」

 

「そりゃあね」

 

 ケイが空を眺めて、呟くような声で言った。

 

「2つの世界を生きる、ね」

 




あんまり魔法の設定について掘り下げてもなあ……。
でもあんまり浅すぎても世界が曖昧になっちゃうからなあ……。

とりあえず、魔法の設定はこの物語の主軸に大きくは関わってこない、と一言だけ置いておきます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。