ウチのキャラクターが自立したんだが   作:馬汁

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55-ウチのキャラクターと俺の帝都訪問

 翌朝。

 

「ケイ、荷物は纏めたか?」

 

「私物はあの車の中だよ。忘れるわけがないし……それに、ね?」

 

「まあな。一応聞いてみただけだ」

 

 ケイの魔法で色々と変形してしまった寝床を元の形に戻し、野営の道具も殆ど仕舞い込んだ。

 朝食の器は既に2つが空になり、もう1人の分だけがぽつりと残っている。

 

「……?」

 

「……ん、どうしたの、私の顔なんか見つめて。私の顔に食べかすでもあるの?」

 

「いや、別になにもないが……」

 

 そういうわけでは無くてだな。

 

「顔色悪いぞ」

 

「ああ……。まあ、久しぶりの硬い寝床だから、ちょっとね」

 

 ……まあ、そういう事にしておこう。

 彼女は女の子だから”そういう日”もあるのかもしれない。ゲームの世界にそんな事があるとは思えないが、彼女は例外だからな。

 

 荷物を纏めた俺達は、メチャちゃんくんが寝泊まりしている車に歩み寄る。

 相も変わらず車の上にはエミータが仁王立ちしている。

 

「おはよう、エミータ」

 

「お早うございます。ケイさん、ソウヤさん。現在時刻は5時54分32秒です。早起きですね」

 

「秒単位で伝える必要はあるの?」

 

「それではミリ秒単位に切り替えますか?」

 

「なんでそうなるのかな」

 

 予兆もなく愉快な話を生み出し始めた2人をよそに、車の窓を覗き込む。

 俺たちの雇い主は未だに夢の中のようだ。

 

「マスターは現在睡眠中。過去一週間の起床時間の平均値は8時5分21秒です」

 

「また秒単位」

 

「大分待たないといけないな……」

 

 ううむ、そうすると手持ち無沙汰だ。適当にゴロゴロして待つべきだろうか。

 

「……起床させますか?」

 

「ん、良いの? 一応は依頼主さんのペースに合わせようと思ってたんだけど」

 

「貴方達がマスターよりも先に起床した際、マスターを強制起床させる事を許可されています」

 

 それは都合が良い。それでは早速、取っておいた朝食を温め直すとしよう。

 

「あ、じゃあお願い。起きたらこっちに来てもらうように言ってね」

 

「……伝言、了解しました」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 見るからに眠そうな細目で、身体も焦点もふらふらとしているメチャちゃんくんを朝食と共に迎え入れた俺達は、彼に朝食を食べさせた。

 彼は朝に弱いらしい。スプーンを動かす手もぼんやりと器を叩いてる。

 

「半分夢の中?」

 

 隣でその様子を見ていたケイの言葉は、中々的を射ていた。この世界に生きている時点で半分夢の中に居るようなもんだ。

 

 そんな彼にコーヒーを飲ませた。意識が朦朧とした彼に飲ませるのはそれほど難しくなかったが、飲んだ途端に目が覚めて、舌の上を走る苦味にすぐ不機嫌になってしまった。

 ……美味しい食事を2口ほど食した所で、すっかり機嫌を良くしたが。

 

 

「あぐー、ご飯食べてすぐに運転だなんて、胃袋に悪いヨゥ……」

 

 その様なことが有りつつも、俺達は車に再度乗り込み、移動を再開した。

 

 車が土を散らしてタイヤ痕を残しつつ、今日も順調に目的地へ行く。

 

「このまま無休憩で走行した場合、到着予定時刻は」

「ああそういうの良いから」

 

 秒単位での報告をしてくるだろうと察したケイが、うんざりする前にその言葉を遮ってしまった。

 

「メチャくん、交代しなくていいの?」

 

「……そうしよっかナ。エミータ、操縦を交代しテ」

 

「正式なコマンドにて指示を行ってください」

 

「んー、あれ? おっかしいな、この辺りは更新して必要なくなったと思うんだけド……」

 

「……」

 

 エミータは何も答えない。機械には不具合がつきものなのだろうか。

 

「まいっか、『コマンド・ユーハブコントロール』」

 

「はい、『アイハブコントロール』」

 

 ……どっかで聞いたことがあるような言葉だな。

 メチャちゃんくんのコマンドに一度応答したエミータは、端末の蓋を開いてからそこに人差し指を挿した。

 

 後ろから見ていた俺は、一瞬だけ指先が変形したのを目撃した。

 

「初めてロボットらしい所を見たな。指が変形したぞ」

 

「キミにも出来るんじゃない?」

 

「何をぶっ飛んだことを言っているんだお前は……」

 

 人形の身体を改造するってのも、中々なロマンがあると一部の人は言いそうだが……少なくとも俺は反対である。

 

「何でだろう……。えっと、『コマンド・バージョンチェック』。口頭で」

 

「イエス。機体番号、BA-F004。ガーディアンヴァリアントVer 1.2。搭載モジュール、魔石推進装置―――」

 

 意味はなんとなく分かるようで、それでいて全く理解できない単語の羅列を並べだす。

 数分、いや十分はするだろうかという具合の長さだ。

 

「よくあんなん覚えてるよね……」

 

「覚えていると言うか……”記憶”だろうな」

 

「……同じじゃないの?」

 

 同じではない。人間の脳がするモノではなく、もっと電子的な、0と1で出来ているようなモノだ。

 人のように忘れたりすることは無いだろう。

 

「―――インストール済みAPI、銃火器操作API Ver 0.8.0、魔結晶駆動四輪車操縦API Ver 1.5.7、総合家事API Ver1.8.1」

 

「バージョンは1.5、コマンドを省略したのは1.4だったはずで……アレ?」

 

「どうしたの?」

 

「いや、なんでもナイ……。うーん?」

 

 ハンドルを手放した彼は、代わりに不具合の原因について考え込んでいる。開発者としてはそこがどうしても気になるらしい。

 何処からか、何十世代も前の携帯といった印象の――ここの世界観においては十分オーバーテクノロジーなのだが――端末を取り出して、その画面に何かを表示させている。

 

「ほっとくか。俺たちが口を挟んでも混乱しかしなさそうだ」

 

「賛成」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 結構な時間を車の中で過ごし、俺はぼんやりとフロントガラスを眺めていた。

 

「これはっ―――砂漠か!」

 

「んぁ、何……?」

 

「起きたか、外を見てみろ!」

 

 ……なんて、眠気に揺れていたケイを叩き起こしてまで騒いだのも1時間と40分前。

 黄色あるいは黄土色の風景を見飽きた俺は、頭の中を無にしてぼんやりと眺めていた。

 

「砂漠っていうか、荒野だね」

 

 ケイの指摘さえ、空っぽの頭の中を通過していく。今の俺は立派な人形そのものである。

 

「雨はどれぐらい降るの?」

 

「あんまり降らないヨ。降ったら祭りが起きるんじゃないかナ」

 

「まあそんなもんだよね」

 

 風景の中、遠くの一箇所にぽつりとキャンプがあるのが見える。

 代わり映えしない黄色に飽きていた俺は、無意識にそこへ視線を向け……。

 

「……?」

 

 見張りでもしていたのだろうか、一人の男が、細長い杖のような物を持ってこっちを見ていた。

 その杖を、まるでライフルを持つときの様な構えで、こちらを……。

 

「ライフル?!」

 

 空っぽだった頭が活気を取り戻す。

 また銃だ。ますますこの世界が何か違うものになってしまっていると感じる。

 

「4時方向に人間を視認しました。銃火器で武装しており、服装にも昨日の昼に遭遇した敵との類似性が見られます」

 

「んー……エミータ、無視して。止まる必要はないヨ、ルート変更もナシ」

 

「了解です」

 

「万が一追ってきたら、ケイねえに手伝ってもらおっカ。良いよネ?」

 

「勿論。護衛なんだから」

 

 考えるまでもなくケイは頷いた。

 

 

 しかしその警戒は喜ばしくも無意味であった。何時まで立っても追ってくる者は見えてこない。

 ……代わりにまた別の武装集団が見つかるのだが、それらは同じく追ってくる事も攻撃する事もなかった。

 

「……一応訊くけど、ここらへんは元々こんなだったの?」

 

 ”こんな”というのは、今のように武装集団がそこかしこに点在する状況の事を指すのだろう。

 俺に言わせてもこれは少々多い。森で虫を見かけるぐらいの頻度で目撃するのだ。

 

「間違いなくこんなじゃなかったヨ。絶対戦争と関係してるよネ……」

 

 俺も同じ意見だ。

 あの戦争によって持ち込まれた銃が悪者の手に渡ったり、兵士が野生化して野盗となったのだろう。この時代において、敗北を喫した兵士はそうなると何処かで聞いたことがある。

 それにしては数が多いような気がするが。銃を持つ者が必要とする何かが、この地にある可能性が……ああ、そういう事か。

 

「銃の弾薬を作ってもらいに来たのかもしれない」

 

「弾薬……弓でいう矢と同じって認識で良いんだよね」

 

「ああ。この世界で高い技術力を持つのはドワーフだ。この辺りに行けば弾薬が得られると思われているのかもしれない」

 

 もしその技術が無くとも、実物を参考に複製する事は出来るだろう。

 材料の都合でそれすら出来ないとなっても、今度はその構造を参考に、似たような武器が造られるに違いない。

 

「だからこの辺りに集中してるのか」

 

 それにしたって、運営はこの世界をどうするつもりなのだろうという疑問が絶えず浮かんでくる。

 

「本当、一体どうなるんだか……」

 

 今まで何度繰り返したかも分からない運営に対する疑問を、今日も溜息を付きつつそのワケを考えている。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 荒野をしばらく走っていると、また周辺に変化が表れているのに気付く。

 不自然に木々が多く見られるようになって、黄色より緑色が目立ってくる。

 

 オアシスの周辺にて植物が元気に茂っているのか、と思ったのだが、メチャちゃんくんによるとそれは違うらしい。

 

「その理由には、ちょっとした歴史が関わってくるんだヨ」

 

 昔はそもそもこの周辺に荒野などが無く、森林に草原に川と、自然豊かな地形だったとのこと。

 しかしドワーフが大規模な土地の開発を進め、その結果環境が変化してしまったらしい。

 

 どうやら、環境破壊をするのは人間だけじゃなかったようだ。

 

「それで、数十年前ぐらいから対応策がとられるようになって、最近は結果が目に見えるようになったんダ」

 

 それがあの、黄色の中にぽつんと見える緑色というワケか。

 

「ほら、帝都が見えてきたヨ」

 

 

 サウス・テクニード帝都

 

 サウス国では主にドワーフ種が居住しているとされ、その技術力と生産力は他国と比べ物にならないというのが人々の認識だ。

 その技術とは、具体的に一体どのようなものか、実際に目にしなければわからないのだが……。

 

 都の姿が徐々に現れる。

 最初に見えたのは、上空を一筋に伸びる黒の、あるいは白の煙。

 

 そして煙突が、鉄が、建物が視界に映り……。

 

「スチームパンク……」

 

 その様子を当て嵌めるのに最適な単語を、ぽつりと呟いた。

 

「おお……!」

 

 なんというか、世界観が違う。

 あちこちから白や黒の煙が上がり、遠くからでもからくり混じりの建築物が目立つ。

 

「初めて来たんデショ? 驚いても仕方ないヨ!」

 

 スチームパンクどころか、サイバーパンクな技術を持つ彼が何か言っている。

 車やアンドロイドを一から作って見せてしまう彼が、「この街は古臭い」と言い放とうが、何処の誰もが反論を述べる事を諦めるだろう。

 

 しかし俺はそんな言葉を口にすることはない。興奮と感動の影響下にあるこの感情が、そのような事を言おうとすら思えなくするのだ。

 

 

 門の目の前まで車で走らせ、門番の姿が見える距離までやってくる。

 エンジン音が止み、停止するとメチャちゃんくんが窓を開けて、門番の男に手を振った。その男は驚いているのか、面白い顔で硬直している。

 

「やっほーイ! こんにちは!」

 

「て……鉄の唸り声?! ミッド国に行っていたと聞いていましたが、無事だったのですか!」

 

「うん、怪我もしてないヨ。ちょっとだけ大変だったけどネ」

 

 はて、この門番と彼は知り合いなのだろうか。それに名前ではなく、鉄の唸り声と呼ぶのは一体……。二つ名か何かか?

 

「話は聞いています。ミッド国では戦争やドラゴンの襲撃があったと……。さぞやお疲れだったでしょう、お通りください」

 

「その前に、人の護衛も連れてるから確認してくれル? ボクは密入国なんてさせたくないからネ」

 

「人の護衛が居たのですか? お手数ですが、確認を取らせてください」

 

「うん。後ろの方に座ってるヨ」

 

 俺達のことが話に上がったらしい、門番が後部座席の窓を覗き込む。

 こちらからも門番の顔が見えた。背の低い男が門番だったが、彼は言うまでもなくドワーフだろう。

 

「貴方達が護衛の2人ですね。ご苦労さまです」

 

「そっちもお疲れ様。依頼主さんとは知り合いなの?」

 

「おや、その声は女性の方でしたか。メチャちゃんさんはこの都では特に名声を持っておられますので……恥ずかしながら、私が一方的に知っている形です」

 

 名声を持つ……という事は、鉄の唸り声はという呼び方はやはり二つ名なのだろう。なかなか浪漫溢れるものだ。ケイも何処かで二つ名を得たりしていないだろうか。

 

「私はケイ。でこっちはソウヤ。呪いで声も姿も失った可哀想なヤツ」

 

 どうも。と会釈だけする。

 

「2人ですね。顔を見せて頂いても?」

 

「おっと、ごめんね」

 

 入国審査の一環だろう。特に反対する意味も無いし、頭部を露わにする。

 顔を理由に入国拒否でもされたら、残念だがここで引き返すとしよう。

 

 この真っ白な顔を門番の男が見るが、哀れなものを見るような目をするだけで、顔の事は気にしないでいてくれるらしい。何も言わずに何か小さな道具を取り出した。

 

「それでは証明書を」

 

「はいよ」

 

 俺の分も含め、ケイがそれらを渡す。国外に行くと分かっていたから、こういう物も用意していたのだ。

 

 門番が持っていた道具を証明書にかざして、何かを軽く確認するとすぐに返してきた。

 

「問題ありません。通っていいですよ。サウス・テクニード帝都へようこそ」

 

「……検問軽いね」

 

 まあゲームだからな、と俺は口にせぬまま心の中にて呟く。この辺りは現実寄りではないらしい。それならいっそノーパスで通らせても良いじゃないか、って話になるが。

 門番が軽く礼をし、彼が定位置に戻ると車がゆっくりと動き出す。

 

 

「どう? この都、凄いデショ」

 

「うん、すごいよ、かなり。見たこともないような物が沢山ある。この驚きをどう言い表わせばいいのか……。ほら、アレとか」

 

 ケイにそこまで言わせるのも無理はない。ケイの居た世界は蒸気機関車も存在しないようなファンタジー世界だったのだ。

 

 彼女が指差す先には、水蒸気に囲まれながら機械を操って何かを加工しているドワーフが居る。

 それだけでなく、窓で聞こえづらいが、如何にも”工業”という感じの騒音が絶えず車内に響いてくる。

 

 視線を何処かに移せば、また別のドワーフが作業しているのが見える。こっちは金槌で鉄板を叩いている。

 

「それに……これだけの技術が外に出てないのに驚きだよ」

 

「あはは、そうだネ」

 

 そう言われてみればそうだ。

 隣の国だと言うのに、技術力の差がありすぎる。ちょっとぐらいは似たような技術がミッド国の方で見つかっていたかもしれないが……、この街並みを見た限りではそんな物は見当たらない。

 文化がまるっきり違う。

 

「これはね、一定以上の水準の技術力を持つドワーフには、特殊な義務が発生するのが理由なんだヨ」

 

「義務?」

 

「無闇にその技術を広めない、ってネ。この法律が決まる前の昔、広めたドワーフが原因で大きな争いが起きたらしいんダ」

 

 なるほど、そこには歴史があるということか。

 図書館の中を探ればその辺りも詳しく知ることが出来そうだ。

 

「だから、普通の人はその基準の下に限って技術を高めてるノ。それだけでも装備は高品質な物が作れるし、建築だって正に貴族御用達の出来なんダ」

 

「へえ……詳しいんだね」

 

「これでも生まれと育ちはこの帝都だからネ」

 

 これだけ詳しく話してくれた事に驚きはしない。今更見た目と中身の矛盾を気にする意味はもうないだろう。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「あれ、そう言えば俺達の依頼はもう終わってるよな?」

 

「あ、そういえば」

 

「ん、どーしたノ?」

 

 俺がとある事に思い出し、それにケイが反応する。

 ケイの声に、メチャちゃんくんが振り返る。

 

「急かすわけじゃないけど、これで依頼は終わりなんだよね?」

 

「……え」

 

 なにやら空気が澱んだ。

 何事かとメチャちゃんくんの方を見ると……、その目をうるうるとさせながらケイを見つめていた。

 

「……帰っちゃうノ?」

 

「いや、そんなワケないし! ちゃんとお姉ちゃんに挨拶していくから!」

 

「ヤッタ!」

 

 なに、ショタの上目遣いで動揺しているんだお前は。俺の知らない所でショタコンの気でも出来たか?

 

「あ……うう……」

 

 ケイもそれに気づいたのか、一瞬だけ俺を見て気不味そうに目を逸らす。

 

「……へっ。今の仕草、すごく乙女らしかったぞ」

 

「黙れ人形」

 

 うむ、今度はケイらしくなった。

 

 

 土や砂のダートコースだった外とは違い、しっかりと舗装された道路の上を車が走る。

 市街地ということもあってか速度は遅く、不安定な地形による振動も全く感じられない。

 

 外から聞こえてくる騒音を無視すれば、大分平和な道だった。

 

 スチームパンクの街並みをひとしきり楽しんだ所で、車が減速を始める。

 生産職トップクラスの人物だとはいえ……、彼の家は意外と庶民的だった。大豪邸に住んでいるワケじゃなかったらしい。

 

 様々な工具や機器が設置されている……作業場と言うべき部屋だろうか。車を停める為に空けられていたであろうスペースに、エミータは手慣れたハンドルさばきで。いやハンドルを握ってはいないが、すんなりと駐車した。

 

「……スチームパンクだ」

 

 スチームパンクという言葉が指す通り、水蒸気を主な動力としているのだろう。天井にはパイプが伸びており、機械に接続されている。場合によってはパイプの代わりに歯車が動力を通している所もある。

 スチームパンクに特別興味があったわけでもなく、その単語を知っていただけなのだが……中世の古めかしい感じとも、ファンタジーの不思議な感じとも違う、なんとも言い難い雰囲気が漂っている事に何故か感動している。

 そう、柄にもなくワクワクしているのだ。あの機械は触っても大丈夫だろうか、とあちこちに目線を飛ばすのも無理はない。

 

「ただいま!」

 

「お帰りなさい、メッチー」

 

「姉さま久しぶり~!」

 

 え、姉さま?

 

「……あっ! いや、ボクは別に姉さまなんて言ってないヨ!」

 

「うふふ、再会を喜んでいる時も罰ゲームを忘れないで居てくれるなんて、うれしいですわ」

 

「むぅー!」

 

 罰ゲーム……。

 と言うと、彼女が例のお姉さんという事か。

 

 質素ではないが豪華でもないドレスを着た、黒く長い髪が綺麗なエルフだ。落ち着いた雰囲気、言い換えれば大人気のある態度の女性である。

 

「えっと、始めまして。キミがメチャくんの……お姉さん?」

 

「ええ、その様子だとわたくしの事は既にご存知なのですね。弟が迷惑をかけてないと良いのですが……」

 

「いや、うん。あはは、別に何も無かったよ……」

 

 うむ、メチャちゃんくんは見た目に反して意外と落ち着いた所があるから、迷惑になるようなことは特にしなかった。よく出来た弟だと言うべきだろう。

 俺はキャンプでの件を頭から追い出して評価した。

 

「私の名前はケイ。こっちはソウヤ、呪いで姿と声を失ってる」

 

「あら、呪いですか? 苦労しているのですね」

 

「ずっと前からこんなもんだから、気にしなくていいよ。私だけは聞き取れるしね」

 

 ケイの言葉に乗じるように俺も頷く。

 

「そうですか……わかりました。わたくしはハルカと申しますわ」

 

「よろしくね。それでキミは……エルフ、なんだよね?」

 

「ええ、れっきとしたエルフですわ」

 

 ケイが戸惑い気味に発した疑問に、ハルカは当然かのように答えを返す。ハルカが耳を少しだけ掻き分けると、そこに尖った耳が見える。

 

 まあ、気持ちはわかる。ドワーフの弟に、エルフの姉。血の繋がりを全く感じない組み合わせである。

 完全に不可解な家族構成だというワケでも無いと思うが。

 

「ま、まあ探りは入れない事にするね」

 

「別に構わないのですけれど、まあ無理する必要もありませんわね」

 

 まあ、現実での姉だと言うことだろうし、こちらでの種族が違っても特におかしくはない。俺としては態々突っ込む意味はないと思う。

 

「さて、蒸気臭い場所で話すのもなんですし、こちらへ上がりませんか? 長旅で疲れていることでしょうし、お茶をご用意しますわ」

 

「お茶? それじゃあありがたく貰おうかな」

 

 おお、俺もお邪魔するとしよう。




スチームパンクな異世界転生、あんまり見ないな。
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