ウチのキャラクターが自立したんだが   作:馬汁

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58-ウチのキャラクターと俺の森林浴

 時計塔がオレンジ色の光に照らされ、今の時間がどうであるかを、規則的に回る針以外の手段で示していた。

 

 すっかり日も暮れてしまい、高い建築物ばかりで傾いた光は地面に届かない。

 代わりと点々と付き始めた明かりが、太陽の代わりに地上を照らしていた。

 

 街灯が道に沿って立てられていたのは見えていたが、実際にその役割を果たす様子を見るのは初めてだった。

 

「……」

 

 ケイは、窓からぼんやりと外を眺めている。

 この方角からでは赤く滲んだ時計塔は見えないが、人々の様子を伺う分には問題ではなかった。

 

「夜、街の様子を見て回りたいもんだね」

 

「観光か?」

 

「うん、いくら巡っても好奇心が尽きないぐらいだよ」

 

 まあまあな宿屋を訪れ、その一室を今日の寝床として借りたのだが、ケイはこの部屋でゆっくりするだけでは満足できない様だ。

 寛ぐには十分なベッドが2つもあるのだが。

 

「そうだな、俺も興味津々といったところだ」

 

 ケイの肩越しに窓を覗き込むと、何かしらの労働を終えたのであろうドワーフ達が、陽気に笑いながら話をしていた。歩きながら酒を飲んでいるドワーフも居た。

 

「キミはどこに行ってみたい?」

 

「……何とも言えないな。強いて言えば、面白いところだな」

 

「それじゃあ、また時計塔の上に行ってみようか。きっと綺麗な街並みを見下ろせるよ」

 

「やめてくれ」

 

 直ぐにケイから離れた。もう二度とあんな所に行くものか。

 

「へっ、女々しい男」

 

「お前が言うな!」

 

「へへへ」

 

 このケイの暴れん坊っぷりはどうにかならないのだろうか。この俺があの本を書き換えてやれば、どうにでも出来るかもしれない。

 …………悪ふざけでもやろうとは思えないが。

 

 

「それじゃあ、私は外行くよ」

 

「なんか気になる場所でもあるのか。もしかしたら、観光以外の目的じゃないか?」

 

「む、どうしてそう思うの?」

 

 どうして……って。

 

「腹は減ってない筈なのに、何処かに行こうとするからな」

 

「キミの中での私ってそこまで食い物に拘るヤツなの?」

 

「暇あらば何か買って帰ってくるからな」

 

 一時期、三食それぞれの後に必ずお菓子を買ってきていた記憶がある。

 

「……この世界の食べ物、私からしたら珍しいんだよ」

 

 確かにポテトチップスや菓子パン類はケイの世界には無い。

 だとしてもそこまで買ってくるか、とは思っているのだが。机の上に出来た菓子の山を思い出す。

 

「とにかく、私は行くから」

 

「まあ待て、俺も行く」

 

「はいはい。ちゃんと身支度はしといてね、ローブか鎧かは任せるけど」

 

「……鎧で行こう」

 

 外していた防具をまた装備し直す。ケイも鎧の姿で行くようだ。

 また鎧の鏡合わせコンビか、と内心で軽く笑う。

 

「それで、結局何処に行く予定なんだ?」

 

「んー」

 

 ケイは何かを悩んでいるのか、少しだけ顎に手を当て思考するが、直ぐに結論が付いたのかその手をこちらに差し出してくる。

 

 転移するのか、と理解した俺は無言でその手を握る。

 

「『転移』」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「……で、ここは?」

 

「森の中だよ?」

 

「それは分かっている。街の観光だと思ってたんだがな」

 

 様々な道具が入ったポーチを持ってきて正解だった。

 ここは見た所森、何の変哲もないただの森。わざわざここに来るのだから、本当に何もない、というワケでは無いと思うのだが。

 するとケイが歩き出す。それを見て俺は慌てて追いかける。

 

「別にここが何かあるってワケじゃ無いんだけど……。まあ、もしかしたら”彼ら”と関係がある……かも? って所」

 

 彼ら、と言うと……。

 

「移動中に見かけた、あの銃の集団か」

 

「そ。奴ら、どんな手段で入ってきてもおかしくないから」

 

「そうか?」

 

「ん。だからちょっとした見回り。軽く一周かな」

 

 この帝都には、都と森を隔てるように高い壁が築かれている。一周するにも時間も体力も要る。俺は一瞬だけ帰ろうかと思ってしまった。

 それに、想定している敵が侵入するには門を突破するか、魔法か何かで……ああ。

 

「そういえば、奴らは魔法の弾を打ち上げる兵器を使っていたな」

 

 すると……今まで彼らは銃だけが取り柄だと思っていたが、魔法が全く使えないわけではないのだ。

 もしかしたら、現実世界での常識を持った俺には想像もできない方法があるのかもしれない。

 

「うーん、戦争の跡をもう少し調べれば良かったかなー。物を知らないってのは面倒だ。……あ、でも今頃は砲台の残骸も死体も、跡形も無く回収されてるだろうし……。しかも、ここじゃ死体は残らないんじゃん」

 

 うげー、とケイが頭を抱える。ケイは意外と計画性が無いらしい。

 俺は後ろからその姿を眺める。

 

「情報ならアレがあったよな」

 

「”クエスト”の事? あれに書かれてた奴ならとっくに読んでるよ。もし鵜呑みにするなら、彼らは別の大陸からやって来たって事になるね」

 

 ほう、システム機能を使いこなしているようで何よりだ。

 

「それでも分からないことは多いんだけどね。だから今回は、適当に森を散歩する程度だよ。奴らの痕跡を見つければラッキーって程度に思っておこう」

 

 ふうん。

 つまりケイは、銃の集団が帝都に入り込むのを防ぎたいが、そこまで苦労するしてやろうとは思っていないらしい。

 俺達がやったのと同じ方法では、奴らが入国することは出来ない。だからこうして、奴らの行動を絞り込もうとしているのだろう。

 

「しかし痕跡を見つけるって、どうやって? 魔力を持たない奴相手じゃ、探れるのは地面か木ぐらいだろう。それに普通の冒険者が残した物だという可能性だって十分にある」

 

「なんかそれっぽいのがあるんじゃない?」

 

 それっぽいのって、かなり適当だな……。

 

「まあ良いじゃん。たまには蒸気と煙が混ざってない空気が吸いたいでしょ」

 

「別にあれが嫌なわけじゃ……まあ、どっちかというとこっちの方が息が楽で良いが」

 

「でしょう? 目的の物が見つからなくてもよし、気軽に森林浴しましょうよ」

 

 ……まあ、良いか。

 彼女の言う通り、奴らの痕跡探しはついでとでも思っておこう。とりあえずモンスター相手に軽く警戒はしておいて、奴らの事を重く捉えることはせず、軽い気持ちで歩く。

 

 

「あ、薬草」

 

 静かな風を感じ、それに揺れる枝や葉を眺めつつ歩いていると、ケイが何かを見つけて屈む。

 

 そう言えばケイは、レイナと何度か採集の手伝いをしていたんだったか。それなら役立つ植物なんぞ嫌でも覚えるだろうな。

 

「っと、『植物採集』技能のレベルアップ……。これ鬱陶しいな」

 

「レベルアップの通知か。確かオプションで無効に出来なかったか?」

 

「出来るの? 教えてよ」

 

「まずメニューを開いて、右端の……そう、それだ」

 

「ん、通知設定ってある。これ?」

 

「そう」

 

 ケイも慣れたもんだ。後は俺の指示を待たずに設定を完了してしまった。

 特に難しい操作方法ってワケじゃないし、ちょっと時間があれば慣れるもんだが。

 

「そういえば、ケイのステータスは今どうなってるんだ?」

 

「見たいの? そんな大したものじゃないと思うけど」

 

 思えば俺は、今までケイのステータスを最初の一回以降全く目にしていない。

 ケイ自身はステータスやスキル等に興味を持っていないらしく、ケイがその画面を開いている所を盗み見する機会さえなかったのだ。

 

「ほら」

 

「お……うわ、普通」

 

 ドラゴンの事もあってか、随分とレベルアップしている……が、ケイの実力に見合った数字とは思えない。肉体能力のステータスは仕方ないとして、魔法に関わるステータスがちょっと優秀なぐらいなのは如何なものか。

 技能スキルに関してもそうだ。『詠唱』スキルは勿論、『魔道具』や『剣』の技能レベルまでもが最大値を誇っていても可笑しくないというのに、以前見た時より5,6程値が増えているだけだ。

 職業による成長ボーナスの恩恵が受けられないスキルに関しては、それ以下の値でとどまっている。

 

 ……俺が過大評価しているだけという可能性は、まあ、あるかもしれない。

 

「立派な魔法剣士だが……ケイに見合った数字とは思えないな」

 

「まあ私って異世界人だし、当然じゃない?」

 

 それは……いや、確かにそうかもしれないな。

 ああ、そういえば。

 

「この数字が大きくなれば身体能力に補正が掛かると思うんだが、どうだ?」

 

「あ、そうなの? 知らなかった」

 

「……実感は無いみたいだな」

 

 ふむ、彼女にはステータスの影響がないのか。

 それともステータスの影響が本当に微々たるもので、自覚するには小さすぎるか……。でも、これぐらい成長していたら、微々たる数字とは思えない。前者で考えるほうが妥当か。

 

 

「っと、何かあるね、ここ」

 

 何か……? かなり漠然とした表現だ。もしかして敵だろうかと、弓を構えて警戒する。

 ……そんな事をしても、戦いに関しては俺の力なんて微々たるものだろうが。

 

「これは……あ、そうだ。どうせだしソウヤに任せちゃおう。最近キミの活躍、あんまり見てないしさ」

 

「俺が? いや、ケイ。せめて”何か”とは具体的に言ってくれないか」

 

「そこを把握する所から練習、って所で」

 

 なんだそれは……。

 

「……」

 

 俺が不満を目線で送ってみるも、ケイは何も言わずに見返してくる。

 はぁ。仕方ない、俺の成長のためだと思って、頑張ってみるか。

 

 弓周囲を注意深く観察して、周辺の状況を探る。

 見た所、ケイは”その場所”を教えてくれるような事もしそうにないから、ここからは完全に俺の仕事になる。

 

「そうだ、私のプレゼントのことも忘れないでよ」

 

 勿論だ。近距離戦になるのなら、短剣での格闘も視野に入れるつもりだ。俺としては遠距離攻撃のできる間合いが最善だが。

 

「……」

 

 さて、とりあえず何かしようと思ったのだが、どうすれば良いのか全く分からない。

 少しだけケイの様子を伺うが、彼女は俺を見返すだけで、特にヒントを教えてはくれない。

 

「不親切だな……」

 

「にしー」

 

 なんだその笑いは。

 緊張感がどうも感じられない現状に、思い切って肩の力を抜いてしまう。

 

 ……歩き回るか。

 

 矢をつがえた弓を軽く引きつつ、気配を自分なりに探りながら歩く。

 俺に狩人の真似事だなんて、随分な無茶だと自分でも思うのだが。

 

「後で狩人の心得なんかも教えてくれよ」

 

「それ私に頼むこと? どっちかと言うと私は騎士なんだけど」

 

 静かに言葉を交わしつつ、観察を続ける。

 何かそれらしい物を見つけ、そっと近寄り、何もないのを確認して、がっくりとしつつもまた周囲を探る。

 

 それを何回か繰り返し、いよいよウンザリしてきた頃か。

 言葉にし難い感覚が、変化を掴み取る。

 

 奇妙にも、その感覚を”何かに似ている”という事に気付く。これは……、

 

「……魔力?」

 

「お」

 

 そうだ。これは確か、昨晩のケイが教えてくれた感覚……。

 

『技能スキル「魔力感知」を習得しました』

 

 ……その通知が入ったってことは、本当に魔力だった様だ。ケイの代わりに答え合わせをしてくれたシステムさんに、心ばかりの感謝をする。

 しかも幸運なことに、スキルを習得したのを境にして、補助が働いているのか魔力の感覚がほんの少しだけが明晰になった気がする。

 

 この感覚を逃さないように意識し続け、そしてゆらゆらと歩き回る。

 場所によって気配の強弱が違うようだ。それをある程度把握すると、気配がより強く感じられる方向にゆっくりと進む。

 勿論警戒は怠らない。敵が居ないとも限らない。

 

 ……暗くなってきたな。

 

「なあ、これで途中点って事で答えを教えてくれないか?」

 

「それじゃあ練習にならないでしょ。でも魔力に気づいたところにはマルをあげよう」

 

 なんだそのセンセイ面は。昨日の魔法講義の続きでもしようというのか。

 

 このまま魔力の気配が強まる方向に向かっていると、木々の密度が薄れていくのに気付く。いつの間にか沈んだ太陽の代わりに、帝都から壁越しに漏れる光が、この場所をほんの僅かに照らしていた。

 足元の凹凸を目で把握するには暗いのだが。

 

「ここに何かありそうだな」

 

「どこに何があるんだい?」

 

 ケイはまだ惚けている……。そろそろ教えてくれたって良いじゃないだろうか。

 一応、周囲にモンスターらしき気配が無いか確認しておく。持ち前の感覚では5m先のモンスターだって見逃しそうなものだが。

 魔法ランタンを取り出して、灯りを付ける。

 

「これで……見つけた。この穴がお前の言ってたヤツか」

 

「うん、おめでとう。百点満点」

 

「甘々だな」

 

 とりあえずケイを満足させられたようで良かった。俺は穴の中へ落ちないようにしつつ、その奥を覗き込む。

 大きさ2メートル程度の木の枠が、穴に土が崩れ落ちるのを防いでいるように見える。

 ランタンを掲げて穴を照らす。角度が急な階段が、光の届かない暗闇へと続いている。

 

「ダンジョン……か?」

 

「どっかの人が掘ったのかな。多分ダンジョンでは無さそう」

 

「そうか、入って探検でもするか?」

 

「うーん……入り口の近くだけね」

 

 ああ、許可出すのな。てっきり保留にするとでも思ったのだが、あの集団と関係のある場所という可能性もある。

 ……なんて、疑い始めたらキリがないか。

 

 ランタンをケイに渡し、彼女が先に階段を降りる。光源が穴の中へと入り込んだことで、より奥の空間の輪郭がハッキリ見えるようになる。

 俺もその後をそっとついていく。

 

「整備されてるね。それもこまめな掃除まで……昔の物が放棄されているわけじゃ無さそうだ」

 

「誰かの住処か?」

 

「どうだろう」

 

 地面に敷き詰められた磨かれた石を踏み進んでいくと、この世界には見合わない雰囲気を感じさせる扉が見えてきた。

 

「これは……」

 

 引き込み式の鉄の扉には取っ手も何もなく、代わりに横には数字のパネルがあった。

 見るからに、パスワードを入力すれば開きそうな扉だ。

 

 現代的で、世界観にそぐわない。俺はあの小さなドワーフのことを思い出した……。

 

「……戻ろう。これは奴らとの関係性が無さそうだ」

 

 一目見ただけで分かる。ケイが懸念している事には一切の関係はない。

 そう俺は意見して、階段を登ろうとして……、肩を掴まれた

 

「『転移』」

 

「っておい!」

 

 ケイが突然魔法を発動する。肩を掴まれた事で一緒に転移してしまった。

 視界が切り替わって、扉の向こう側に連れて行かれたのだと悟る。ああ、コレでは不法侵入ではないか。

 しかも、ここの所有者は恐らく知り合い。もし鉢合わせたらどうするつもりなのか

 

「……なんか不都合なことがあったら直ぐに出る。良いな?」

 

「はいはいはい」

 

「聞いてないなお前」

 

 ああ。分かった、見つかったら彼女に全ての責任を押し付けるとしよう。そう決意すると、俺は周囲を観察する。

 ここは研究室なのだろうか、と予想を付けるには十分な道具や設備、そしてファイルに纏められた紙をあちこちで見られる。

 モチロン、その雰囲気は先程まで堪能していたスチームパンクの世界観とは異なる。

 確かホログラムと呼ばれるものだったか。宙に何か画面が投影されているのを見つける。

 

 うむ、アンドロイドがそこに佇んでいても違和感がない……。

 

「……って、本当に動いてるアンドロイドに遭遇したらどうしよう」

 

 少しでも気配を感じたら、お得意の転移で俺達を逃して欲しい。

 数日の旅を共にした依頼主さんを裏切りたくはない。とっくに裏切っているが、気づかれるまでがギリギリグレーゾーンである。

 ……メチャちゃんくんが俺達の行動に怒る様子は想像できないが、それはそれだ。

 

「ケイ」

 

「ん、何?」

 

「何かの気配を感じたら、絶対に逃げるぞ」

 

「そうだね」

 

 なんて事だ、聞いちゃいない。

 俺は溜息をついて、諦める。せめて変なことをしないよう、ケイの様子を見ておこう。

 

 

 改めて彼女の様子に注意を向けてみると、好奇心によってあれやこれやを見て回っているわけじゃなく、何かを探して回っているようだった。

 一度も訪れていない場所だ。ここになにか落とし物をしたワケではない筈だが。

 

「……あっちか」

 

「あ、待て」

 

 なにかに目星を付けたのか、彼女は突然目的を持ったかの様に、迷わず別の扉を開いて行ってしまった。

 

「……一体何なんだ」

 

 彼女を追いかけて、開きっぱなしの扉を覗き込む。さっきの部屋とは違い、ここは倉庫になっているようだ。

 ふと、何故家から遠い場所にこの様な施設を設けたのかが気になった。車があるとはいえ、あの森の中を突っ切れるとは思えない。

 

「多分、ここに……」

 

「というか、何を探してるんだよ」

 

 しかし俺の問いに答えもせず、更に倉庫の奥の方へと突き進む。

 何がケイをそこまで惹きつけるのか見当もつかない。

 

 ダンボールが作られていないこの世界、木箱という時代相応のモノが積まれているが、その中身はサイバーパンクという、近代的どころか未来的なものばかりだ。

 ホコリを被った木箱をそっと開いてみると、中には基板やチップらしきものが入っていた。

 

「これを作る素材なんて、この世界にあるのか……?」

 

 詳しく知るわけじゃないが、少なくともプラスチックは作れないはずだ。あれは石油が原料だが、この世界で石油が出回っているとは聞いたことがない。

 俺はそっと木箱の蓋を閉じた。

 

「こっちは……うわ?!」

 

 手に引っかかった細く長い何かに驚き、思わず手を振り払った。

 今のは……髪? 

 

「どうしたの?」

 

「い、いや……」

 

 よく見ると、箱の隙間から黒く長い髪の毛が垂れている。これに俺の手が触れたのだろう。

 

「……カツラが入ってたみたいだ」

 

「カツラ? なんでここに?」

 

 俺が知るワケないだろう。

 

「それは兎に角、そっちの探し物はどうだ?」

 

「え? うーん……あ、あった!」

 

 手に残る微妙に気色悪い感触に気を落としていると、彼女が突然歓声に近い声を張り上げる。

 

「って、何これ?!」

 

「勝手に盛り上がって急に驚くな。今度は一体なんなんだ?」

 

 ようやく探しものが見つかったみたいだが、様子が変だ。俺はケイの横まで来て、彼女が見つけたものを俺も目にする。

 

 なんと、ケイが見つけたのは心臓であった。しかも不思議なことに、宿るべき身体が無いままに、未だその鼓動を続けている。

 ややグロテスクなのだが、それ以上の不思議を目にして感心してしまった。

 

「すごい。不死の心臓だよ、……いや、不死鳥の、って言うべきか」

 

 フェニックスの素材、なのだろう。メチャちゃんくんの所有物だ、ケイが盗むようなら俺は一声上げるつもりだが。

 

「一体何の魔力かと思ったら、これが源だったんだね」

 

「何を探しているのかと思ったら、魔力の源が目的だったんだな」

 

「うん。只ものじゃないと思って、確認しておこうと。……あ、もしかしてここってメチャくんの倉庫? フェニックスの部位を保管してるってことは、そうでしょ」

 

 は、何を今更? 俺はてっきり、気付いていた上で家宅捜索していたと思っていたのだが。

 

「ちょっと、”何を今更”みたいな目で見ないでよ。仕方ないって」

 

 まあ、別にいいのだが。……ケイも意外と鈍い。いや、現代人としての文化を持ち合わせて居ないのなら、多少は仕方ないかもしれえないが。

 

「うう……でも、流石にちょっと不味いことしたかも……」

 

「見知らぬ人相手ならまだしも、な。さて、用事も済んだだろう、転移で戻るぞ」

 

「わかった。バレない内にさっさと───」

 

【ピピッ】

 

「!」

 

 その音を認識した直後、俺達はすぐに身をかがめて近くの木箱の影へと息を潜める。

 

 何時もシステムの恩恵を授かっているプレイヤーにとっては、とっくに聞き慣れた電子音。

 しかしそれは耳元に直接鳴らず、部屋を軽く反響しつつ耳元に届いてくる。つまり、それはシステムによる通知などではなかった。

 

 電子音の後に、恐らく扉の駆動音と、誰かの足音が続けて聞こえてくる。

 不味い、人だ。

 

 俺達は口を閉じ、一切物音を立てないようにする。

 咄嗟の事だったから、ケイは別の場所に隠れてここからは見えない。

 

 

「……あら?」

 

 この声は……。

 

「扉、開けっ放しにしてたかしら。私ったらうっかりしてたわ」

 

 間違いない、ハルカだ。

 この施設の所有者であろうメチャちゃんくんの関係者だ。ここにやって来ることに疑問を抱くことはなかった。

 

 しかし、やってしまった。倉庫の扉を開きっぱなしにしていた。

 足音が近づく。彼女はこの部屋に入るつもりだ。

 

「えーっと、確かここに……」

 

 彼女もまた捜し物という用事がある様だ。倉庫の扉が閉まって、足音が更に近づく。

 幸いこの場所には物が多く置かれていて、通り道となりえる所が複雑になっている。俺達がいるところに来るなんて、そうそうあるわけ────

 

「こっちかしら?」

 

「……!」

 

 こっち来た。何故だ。

 

 コンクリートと靴が鳴らす音が、近づいてくる。

 数メートルもしない距離に、彼女が近づいてくる。

 

 なんなのだ、俺がやっているゲームはMMORPGであってホラーゲームではないのに、今にも見つかってしまいそうなこの状況に、俺は恐怖している。

 

 ほら、今まさに彼女は眼の前を通り過ぎようと───

 

 

 ───え?

 

 今、なにか……見えたような……。

 

 

「と、ここにありましたのね。これを交換して……よし、元通りですわ! さ、早く帰らないとメッチーにまた怒られてしまいます!」

 

 

 …………。

 

 頭が思考と思考で、たった2つの線が複雑に絡まってしまったような。まるでお互い矛盾した事実が奇妙にも当然のように共存している。

 それに唖然と、どうにも出来ない矛盾に取り込まれた思考に、俺はその場で地面を見つめることしか出来なかった。

 

 

「おーい、ソウヤ。あの人はもう出ていったよ」

 

「……」

 

「ソウヤ?」

 

「……まさか、そんな事は」

 

「ソウヤ、起きてる?」

 

「……」

 

「……破ァッ!」

 

 衝撃が脳天から付き下ろすように、頭が打ち下ろされる。

 

「──―っつぁ?! いったいし痛い! 何故グーで殴る!」

 

「キミがボケっとしてるからだよ」

 

 思考は痛覚と衝撃でリセットされ、そこで初めてケイの姿を認識した。篭手の付けられた手でのパンチだったから、その威力も段違いだった。

 この威力で瀕死状態にならないのが不思議なぐらいだ。

 

「……気の所為、見間違い、だったのか?」

 

「突然落ち着いたと思ったら何言ってんのキミ。ほら、戻るよ」

 

「あ、ああ……」

 

「……まさか、ドッペルゲンガーにでも化かされた?」

 

 そう言われて、ついさっき見た物の事を思い出す。

 あれは……。

 

「ほら、気をしっかり持って」

 

「……気にかけてくれてありがとう。もう大丈夫だ」

 

「はいはい、この調子じゃあ時計塔にも行けなさそうだね。仕方ない」

 

 ……待て、この調子じゃなかったら連れて行くつもりだったのか? 時計塔に? 

 

「お、俺は見ての通りこの調子だからな、あそこに立ったら秒で落ちるに違いないだろうな。ハハハ」

 

「節穴の目で見ても分かる虚勢を見せてくれてありがとう。ほら立って」

 

「っと」

 

「じゃあ帰ろう。……『転移』」

 

 そうして、俺達は帝都の宿屋の借り部屋へと戻ってきた。




観光も終わり。
書き手としてはスチームパンクな描写を楽しみたいのだが、山場が来ないまま10話を過ぎようとしてるのだ。普段からすれば結構長いぞ。
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