1500文字の短いお話です。
閉じられた視界、頭を包む窮屈な硬い感覚。
頭のあたりを触ると、ヘルメットのような感触が伝わってくる。
それを両手で挟むと、ゆっくりと持ち上げる。
「……ふう」
光を遮るヘルメットを外すと、視界が解放されたように光が入って来た。
身体を見下ろせば、少女らしい胸の膨らみはどこにもない。後ろ髪を触っても、ポニーテールはどこにもない。
窓を見れば、外の暗い風景に重なって、俺の姿が映っていた。
今までの"ケイ"の姿はどこにもない。当然だ、彼女は実在する者ではないのだから。
そう、
さて、『ゲームは1日1時間』という言葉がこの世にある。
この言葉に込められたメッセージは兎も角として、このゲーム、『ヴァーチャルファンタジー』では似たような言葉が存在する。
『ゲーム内は1日1時間』
勘がいい人間ならば、この言葉を聞くだけで直ぐにピンとくるだろう。
もしピンと来なくても、少し分かり易く言葉を換えれば、すぐに理解してくれるはずだ。
言い換えるなら、『ゲーム内の1日は、現実の1時間に相当する』と言えばいいか。
……そう言う事だ。もう大半の人間は、この様な説明で理解するはずだ。
俺がゲーム内で過ごして来た時間は、1日と少しぐらいだろうか。しかし現実では、1時間ちょっとしか経っていない。
そのせいで時間の感覚が狂う事もある。現実で少しの間を過ごしても、向こうではかなりの時間が経っている事だってある。
だが、VRゲームではそれが常識。ゲーム内時間イコールリアル時間、というゲームもあるにはあるが、基本的には時間は同期していないのが普通だ。
さて、部屋でぼーっとしているのもなんだ。
とりあえず居間にでも行くとしよう。
「あら、創也。お早う」
居間にきてみれば、母がココアを飲みながらくつろいでいた。
お早うと言われ、慌てて現在時刻を確認する。今は午後の8時。明らかにお早うという時間ではなかった
何かの間違いで、朝までゲームをしていたのかと勘違いしてしまった。
俺は目の前の母を、恨む様な目で見つめる。
「変かしら?あの被り物を被っている間、本当に静かだったのよ。まるで寝てるみたいだったから、お早うが良いのかしら、って」
それにしたってお早うは……って待て、俺があの世界にいる間、母は俺の部屋に入って来たのだろうか。
絶対に入るなとは言っていないが、勝手に侵入しないでほしい。
「あら、不満そうな表情だけれど、部屋に入ったのは掃除する為だったのよ? 少しぐらい良いじゃない」
絶対に嘘だ。俺個人、ごちゃごちゃしたものを嫌っている為、部屋は綺麗に保たれているのだ。掃除する余地など無いはずだ。
「うふふ」
……なるほど、今理解した。この母絶対わざとだ。
今思えば、俺の黒歴史ノートが発見されたのは、キャラクタークリエイトから戻って来たときである。そのことを考慮すると、その時点で母は俺の部屋に侵入していたと言うこととなる。
自らの失態に頭を抱え、今後ゲーム中の部屋のセキュリティについてどうしようかと考え込む。
「……ねえ」
何だろうか、急に改まって。今俺は母に対する侵入対策を考えているところだ。
「あの女の子達はキャラクター、実在する人じゃ無いんでしょう?」
う……、その話は俺の急所、或いは弱点に当たる。出来ればこの話はよして欲しい。
さあ、どうやって俺のこの思いを伝えようか、なんて思っていると、母が発した言葉が俺の意識に割り込んで来た。
「それにあの字、創也が高校生ぐらいの頃の文字だったわよね」
ああ、そうだ。あの本は過去の俺が書いたのだ。少なくとも今の俺は、同じ様な失態などしない。
少なくとも、
「……ねえ、思い出したりしないかしら?」
何を、とは今更な事を問う必要など無かった。
俺は口を噤んだまま、首を横に振った。
・
・
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現実での休息を終え、俺は再びゲームへと戻ることにした。
自室へ戻ろうと、その扉を開いたところで、後ろから声をかけられた。
「ねえ、創也」
なんだ、とでも言う様に後ろを振り返る。
また黒歴史ノートの話でもされたら、俺は黙って部屋に入るところだったのだが。
「私も、
「……」
「私、創也の声を久しぶりに聞きたいのよ」
その言葉を受け、俺は目を見開いて母を見つめた。
しかしその言葉を理解すると、俺は目を和ませて、しかし口は苦笑する様な形にして頷いた。
母がこちらに来るのは良いのだけど、残念な事に、向こうに居るのは俺ではなく、"ケイ"なのだ。
サブタイトルに章とかは表記しませんが、本質的に次回は別の章となるでしょう。
多分。
追記・章管理なんて機能があったのか!
と言うことで早速活用しました。
あ、話と話の間で場面が飛ぶことがありますが、基本的に話の冒頭でその場面の解説(あらすじ)を行ってます。
今回は例外ということで、そういったものは無いですが。