ウチのキャラクターが自立したんだが   作:馬汁

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最終話


63-ウチのキャラクターと俺の姉弟との別れ

 翌朝。

 

 適当な朝食を取り、直ぐに向かったのはメチャちゃんくんの家。

 中から怒鳴り声が聞こえてくるわけでもなく、若干の生活音が聞こえるのみである。

 

「ごめんください」

 

 ノックする俺の代わりに、ケイが声で呼びかける。

 するとゆっくりとした足取りの足音が聞こえてきて……、それに駆けるような足が上乗せされる。

 

「私が出ますわ!」

 

 扉越しに聞こえたその声で、ケイが微笑んだ。少なくとも悪い方向に向かうことは無かった様だ。

 

 待つこと約1秒。元気にガチャと開かれる玄関扉の向こうには、心なしか雰囲気の変わったハルカがいた。

 

「やあ」

 

「挨拶にしてはフランクすぎないか?」

 

「おはようございます。やっぱりケイさんとソウヤさんでしたのね、待っていましたわ!」

 

 俺の言葉は無視されつつ話が進む。

 

 ケイの礼の片鱗もない挨拶になんとも思っていないのか、彼女はそのまま俺たちを家の中に招き入れ。

 内装は以前来たのと同じ。気になるのは姉弟の関係性だが……。

 

「この様子だと……」

 

「ええ。メッチーにも納得してもらえました。ケイさんが家まで送ってくれたお陰ですわ」

 

「それは良か……んん、“私が家まで送ったお陰”で?」

 

「ええ。少しばかりですけれど、家に居たお友達に手伝って頂けたのです」

 

 家に居たお友達に……? 

 一体誰のことだ、と思って部屋の中に入ると、メイド服姿のアンドロイド……エミータがリビングにて立っていることに気づく。しかし、アンドロイド達が待機するポジションとは別の位置で。

 

「昨日の事は、本当に感謝しますわ。エミー」

 

「本日で6回目の言葉です。ハルカさん」

 

「10回も言わないと足りないぐらいです」

 

「1回で十分です。そもそも、感謝の言葉を告げられるべきなのは貴方ですよ」

 

 ……あー。

 エミータって、こんな喋り方だったか? もう少し機械的というか、形式的というか……。

 でも今は、感情や表情の変化が、少しばかり感じられるような……。

 

「えっと……キミがエミータ?」

 

「はい。BA-F004、エミータです。……私の事を忘れたのでしょうか?」

 

「ああいや、ヤケに雰囲気が変わっているなって……」

 

 ケイも同じ意見を抱いていたらしく、俺が言いたいことをそのまま言ってくれる。

 

「その件に関しては、マスターもこの場に居る状態で話した方が良いでしょう。少々お待ちください」

 

 するとエミータが何処かへ向かって行った。メチャちゃんくんを連れて来るつもりだろうが……。

 

「ケイさん、ソウヤさん。お茶です」

 

 入れ替わりに、他のアンドロイドが入ってきた。この人は確か……ベス? 

 

「ああ、どうも……。キミはいつも通りっていうか……以前のエミータと同じだ」

 

「はい。今朝の自己診断の結果はオールグリーンでした」

 

「うん、そのメンドくさい言葉遣い、間違いなくいつも通りだ」

 

 ケイが納得し、その様子を見届けたベスは、他の待機中のアンドロイドの横に並んだ。

 どうやら、変化したのはエミータのみらしい。

 

「……ここのアンドロイド4人って、命令にだけ従う人形みたいなモノって思ってたけど……、エミータってもしかして例外?」

 

「後天的な例外です、そういう風にした原因は私にあるのですわ。……簡単に言えば、記憶データを共有したら、うっかり感情が芽生えちゃったのです」

 

「感情ってうっかりで芽生えるもんなの……?」

 

「ええ。まあ、芽生えたとは言え比較的感情に乏しい、というレベルですけれど」

 

 それでも十分では……。

 いくら高性能な人工知能を積んでいたとしても、そこへ感情という概念を与えるなんて、難しい。

 ……この世界の住民の大半はそれだが。

 

 

「……戻りました」

 

 しばらくお茶を飲んで待っていると、エミータが戻ってくる。

 メチャちゃんくんを連れてくると言っていたはずなのだが、彼女の背後に人影は見えない。

 

「少々お待ちください。マスターは現在心の準備とのことです。……私には理解し難いですが」

 

「ありがとう、エミー。貴方も長い時間生きていれば、きっと分かるかもしれないわ」

 

「そうですか。それは将来に期待ですね」

 

 無表情のままガッツポーズを取るエミータ。

 ケイが微妙な顔でその様子を見守る。未だにエミータの変化に慣れていないようだ。……俺もだが。

 

「ま、まあいいけどね……。本当に以前とは見違えて見えるよ、エミータ」

 

「初対面の当時は、擬態していましたので。……あ、マスターが準備を終えたようです」

 

「ん」

 

 それを聞いたケイが、何かに気づいたのか向こうの扉を見る。

 俺も釣られてそこをみると、扉が半開きになっている。

 

 

「……」

 

 そして、ひっそりと出てきたのはメチャちゃんくんの頭部である。

 

「…………オハヨウ」

 

「おはよう。メチャく……って、どうしたのそのクマ?」

 

「なんでもないヨ……」

 

 と彼は言うが……、何もないのにクマができるわけ無いだろう。

 昨日の夜更かしが影響したのか? しかし、ケイが彼らを家に送ったのは深夜の2時かそこらである。そこまで酷いものにはならないと思うのだが……。

 

「無理もありません。あれから結局、2時間は口論していましたので」

 

「ええ……?」

 

「因みに、この内の4分の3。つまり1時間半は拗ねたメッチーが部屋に閉じこもっていた時間です」

 

「ええ……」

 

「……むー」

 

 今の話から予想できる就寝時間は、約深夜4時……なるほど、それはクマが出来てもおかしくない。

 

「因みに、先程の心の準備の時間というのは完全な誤りで、正確には寝起──」

「エミータ!」

 

「イエス、マスター。元気な声が聞けて何よりです」

 

「んもうっ……!」

 

 アンドロイドが主人をからかってる……。

 

「エミー。そこら辺で許してあげて下さいな」

 

「はい。お友達の言葉とあらば」

 

 奇妙な事が目の前で巻き起こっていることに唖然としている俺たちに、メチャちゃんくんが気づくことはない。

 代わりにメチャちゃんくんがドスンと椅子に……と言うには些か質量が小さく、実際の音もポスンと言ったものだが、とにかく乱暴に座った。

 

 

「……ソウヤにい、ケイねえ。……昨日はありがとう、あと、ごめんなさい」

 

「あ、ああ。うん。ちゃんと話し合った?」

 

「ちゃんと話したよヨ。……正直、腑に落ちないところもあるんだけド」

 

「それでも上出来だよ」

 

 気持ちはわかると言わんばかりに頷くケイに対し、メチャちゃんくんは難しい顔をしている。

 

『なにか気になることが?』

 

「……いや、大した事じゃないヨ。エミータがどうしてこうなったんだろうって」

 

「既に説明したはずですが?」

 

「うん。姉さまの記憶を共有したら、そうなったんでしょ? でも腑に落ちないっていうか……」

 

「唯一私たちの整備、維持を担当できるエンジニアがその様子では、心配になってしまいます」

 

 そう言っている割には、顔が心配している様には見えないのだが。

 しかし、アンドロイドが感情を持ち始めた話には興味がある。先ほど保留にされていた話を再び持ち出す。

 

「そう、その話。どうしてエミータだけが?」

 

「はい。ハルカさんが別の視点で見てほしいという理由で、記憶データを共有。これが原因と予測されます。具体的に言えば、記憶と共に参考となる分析データが送信され、この分析データが()()と判断し、現在の特殊な思考パターンが形成されるに至りました。つまり、私は“人の考え”を教わったのです」

 

「……言ってることの大半が意味わからないんだけど、一番最後だけ取れば良いんだよね?」

 

「はい」

 

「人の考えを教わった。それで概ね間違いありませんわ」

 

「なるほど」

 

 人がAIに感情を与えるのはともかく、AIがAIに感情を与えるとは……。

 時代も変わったものだな。……いや、別にそこまで時代の変化を実感してはいないが。記憶無いし。

 

 

 ハルカの変化の経緯を知り、なるほど、と手元のお茶を少しだけ飲むと、ふとメチャちゃんくんがもじもじとしている様子なのが視界に入った。

 

「それで……その、詳しい話が知りたいのかナ……?」

 

「うん?」

 

「えっと、ケイねえ達がここに来たってことは、説明させられるのかなーっテ。……巻き込んじゃったし」

 

 いや、俺達は2人の様子を見に来ただけだ。向こう側の都合を説明させてもらう気はない。そもそも、メチャちゃんくんがゴタゴタしたあの時に、大抵の説明はされてる。

 

「特には……。死んだお姉さんを蘇らせようとした。そして今の彼女に納得行かなかった。ただソレだ──」

 

 ケイの肩をどつく。

 メチャちゃんくんにとって、今回の件は非常に大きい。ただソレだけ、だなんて言ってはいけない。

 

「あ、別に気にしなくて良いヨ。下らない喧嘩だったのは分かってるカラ」

 

 ああ、なんて気遣いの出来る大人なんだ……。見た目は子供だというのに。

 

「ごめんね」

 

「ううん。……そうだ、何か質問とかあったりする?」

 

「質問?」

 

 と言われても、俺からなにか訊きたいことなんて特に……いや、あった。

 俺から一つ質問。と声に出す代わりにすっと手を挙げる。

 

『ハルカへの質問だが、昨日の夜に何してたんだ?』

 

「その事なら、途中からケイさんと合流したのでご存知かと思いますが……?」

 

『いや、帝都の外。森のなかで見かけたから気になったんだが」

 

 その時、メチャちゃんくんの瞳がグイっとハルカの方に向いた。

 ハルカはしまった、と顔を緊張させている。

 

「……まだ、何か隠してるの?」

 

「え、えっとですね」

 

 ……訊いてはいけないことを訊いてしまったらしい。

 彼のハイライトのない瞳をみて、質問を取り消すにも遅いと直感した。

 

 横でもエミータが、あっちゃーと言わんばかりに顔に手を当てている。手の隙間から無表情の顔が見えるが。

 

「あっちゃー」

 

 口に出すのかよ。

 ……するならするで、もう少し感情を込めてくれないだろうか。場の空気が重いのか軽いのか判断しづらい。

 

「説明して」

 

「……外の敵を奇襲して武器と弾薬を集めてましたわ。私には戦闘用のパーツが無いので、こういった武器が必要……でしたの」

 

「へー」

 

「ちゃ、ちゃんと攻撃を受けないように立ち回りましたわ! だからこうして生きているワケですし!」

 

「へー」

 

「あれ? でもあの時は銃持ってなかったよね。帝都の中であの傭兵たちと戦ってたじゃん」

 

「あ、あー……。倉庫に置いてきてしまって」

 

「……へー、倉庫に」

 

「そっか。まあ、素手でどうにか出来るもんね」

 

「…………へー、素手で」

 

 メ、メチャちゃんくんの目が怖い……。

 物理的に押しつぶされると錯覚するぐらいの重圧だ。ケイとエミータは涼しい顔をしているが……俺は重苦しい顔で2人の様子を見るぐらいしか出来ない。

 

「……後で」

 

「はいっ」

 

「オハナシ」

 

「わかりましたワッ」

 

 とりあえず、地雷を踏んでしまった俺は口を閉じて、謝罪の念を送っておくことにした。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「あ、そういえば昨日、運転中の事なんだけド。アレってさ」

 

 何かに恐怖しているハルカを置いて、まるでフィルターに掛けられたかの様な澄んだ顔に戻ったメチャちゃんくんが、別の話題を持ち出した。

 運転中、と言うことは俺たちが王国から帝都へ移動している間のことだろうか。

 

「どのアレでしょうか?」

 

「コマンドが効かなかった時の事……。プログラムを見直しても結局分からなかったんだけど」

 

「ああ、ソレですね。私の見解では、あの新しいコマンドは非常にダサいですので」

 

「ダサい……」

 

 ダサい……。

 

「という事で、今後はカッコいいコマンドを設定する、それとロマンのあるパーツの搭載などの改修が、私としては有効な運用を望めるかと」

 

「いや、どう考えても関係な」

「強く希望します」

 

「……考えておくヨ」

 

「せんきゅー、マスター」

 

 非常に人間臭いエミータの要求に、メチャちゃんくんが苦笑いする。

 元からアンドロイド扱いなんて出来ない容姿だが、振る舞いもコレでは、最早完全な人間である。

 

 

 多少空気が和んだところで、帝都の事やオススメの工房や店など、世間話を繰り出す。

 それ続けていく内に、気が付くと手元のお茶は空になっていた。

 

「それじゃ、何時までもここに居るわけにも行かないし、そろそろ出るよ」

 

「うん、わかった。……あ、そうだ。フレンド登録しない?」

 

「フレンド登録?」

 

「あ、ゴメン。ソウヤとね」

 

 む? フレンド登録ぐらいケイと……と思ったが、彼らはケイのことをNPCだと思っているんだったか。

 まあどうせ、フレンド欄は共有されているのだし、俺がやってもケイがやっても変わらないだろう。

 

 レイナの時にやった手順を思い出しながら、友達の証というアイテムを出現させる。

 

『友情の証がポ―チ内に出現しました。登録するプレイヤーに渡してください』

 

 この世界では結構な時間を過ごしたと思うのだが、これで2人めのフレンド登録である。

 

 非常にシンプルなフォントで書かれた『友情の証』という文字が、如何にも人形らしい。

 ……それはとにかく、交換だ。

 

「……うんっ、登録完了したヨ。もし何かあったら、何時でも話してネ。出来ない事があるかもしれないけど、助けるカラ」

 

「……有難う」

 

『「メチャちゃん」とのフレンド登録を完了しました』

 

 これまたサイバーチックな友情の証を仕舞い、立ち上がる。

 ケイはなにやらメニュー画面を確認している。……どうやら、フレンド欄を確認しているらしい。

 

「増えてる……」

 

「ケイも、そろそろ行くぞ」

 

「あ、ごめんごめん。……それじゃあ、また今度」

 

「帰りは気をつけてネー」

 

「お元気で。またご縁があれば、その時は一緒にお茶会をしましょう」

 

「うん、さようなら」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「……良かったね、2人がなんとも無いみたいで」

 

「だな。エミータに関しては本当に驚いたが……でも、2人の仲を取り持ってくれたらしいしな」

 

「うん」

 

 メチャちゃんくんの家を離れて、適当に道を歩く俺たち。

 

 このあとの予定は……特に無い。

 元々はちょっとした旅だという目的だが……滞在期間については特に決めていなかった。

 

「これからどうしようか」

 

「傭兵共の今後には気をつけたいよね。一度魔法陣を潰したとはいえ、また魔法使いが設置してもおかしくないから。……そういえば、衛兵に突き出した奴はどうしたの?」

 

「……知らないな。あの後、近所にあった衛兵の詰所に、適当に」

 

 夜遅くではあったが、運良く起きていた衛兵が居たので、一応はスムーズに行けた。

 

「そういえば。あちらさんも戦争に関しての情報が行き渡ってたみたいで、奴があの勢力の一員だと分かった後、大慌てだったな」

 

「そりゃそうか。銃を主な武器とする勢力。本格的に帝都にも矛先が向いたら大変なことになるだろうからね……。いくらこの技術力を兼ね備えているとはいえ」

 

 そう考えると……。ううむ、また騒がしくなるのだろうと、容易に予想ができる。

 国が敵の侵入に気づけば、一気に帝都の空気が重苦しくなるだろう。

 

「お前はどうしたい?」

 

「……特に、どうにも。以前の戦争ならともかく、今の彼らは、簡単な統制と小規模の……いや、多く見積もって中規模の戦力を持ってる。けどその程度なら、国の力でどうとでもなる。バカな判断を平気にするような人が行動しない限り」

 

「じゃあ、不干渉って所だな」

 

「キミは帝都をどうこうしたいって気持ちはないんだね」

 

 ……俺、どうこう出来るような力なんて持ち合わせてないからな。

 ケイが乗り気じゃなければ、俺も乗り気になれない。

 

「この薄情な人形に失望したか?」

 

「いいや」

 

「そうか」

 

 まあ、今更失望されたって殆どダメージがないワケなのだが。

 

 

「そうだ、ここの依頼処で何か請けてみないか?」

 

「何か?」

 

「適当に……とは言え、なんでもってワケじゃない。帝都だけってのもアレだし、他の町や村に訪れる機会があっても良いと思うんだ」

 

 依頼処には、国内のどこかから依頼が飛んでくることがある。国が兵を上げてやる程の物ではない程度のもの、例えば畑の防衛や、素材やアイテムの調達など。メチャちゃんくんの依頼のように、人を護衛する依頼だってモチロンある。

 

「帝都周辺以外は、荒野か砂漠しか無い国だけどね」

 

「……そういえばそうだったな」

 

 まあ、無いワケじゃないと思うんだが。

 

「けど、行くだけ行ってみるか。ついでに周辺の町や村について調べよう」

 

「おー」

 

 さあ。

 観光気分の旅は、まだもう少し続く。

 

 

 ……多分。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「私も、彼女の様にスタイリッシュに戦ってみたいものですわねえ」

 

「姉さま?」

 

 ケイさん達が玄関から帰っていった後、彼女たちが去っていった方向を眺めて、思わず呟いてしまった。

 その呟きに、メッチーが私の方を見る。

 戦い、という単語に反応したように見えた。

 

「安心してください。流石に魔法を使ったり転移したりなんて、期待していません。私、すっかり機械の身体になってますから」

 

「……そうだね」

 

「ええ」

 

 まだまだ複雑そうな表情をしているメッチーは、完全には割り切れていない。

 

 私と、そしてエミーの言葉により落ち着いてはいるけれど、彼は私のことを姉だと信じきれていない。

 姉だと認識して、けれど、心の何処かで疑念を抱いているのでしょうね。

 

 

 ……正直な所、私だって心配なのです。

 

 アンドロイドでありながら、人の心を持つ個人であるから、分かる。

 少し記憶を植え付けられて、感情や思考という()()()()()からと言って、私は人間にはなれない。

 

 私には、足りない物がある。

 

 それが何なのかは、分からないですけど。

 

「ハルカさんも私のような戦闘用カスタマイズを適応しますか? 同性能同機能を持つウィングマン(仲間)と共闘するというのは、私としては興味があります」

 

「良いですわね。エミーの戦いを見たことはありませんが、面白そうですわ。メッチーはどう思うのです?」

 

「……」

 

 ……まあ、そうなるのも無理ないですわね。少し軽率な発言でした。

 私を改造することで、姉という存在から離れてしまう、とでも思っているのでしょう。

 

 

「メッチー……いえ、冬明(トウメ)ちゃん」

 

「う……」

 

「私は春香じゃないかもしれませんし、人間でさえないかもしれません」

 

 ビク、と冬明ちゃんの肩が震える。

 

「……けど、これだけは言わせてください」

 

 

 ……私が人間で在るために、春香で在るために必要な物が何か。それは分かりません。

 

 ただ、冬明ちゃんに必要なものが何か。それは、一つだけ分かっています。

 

「この体が鉄で出来ていても、血の代わりに電気が通っていても、私は冬明ちゃんの()()()です」

 

 姉という存在。

 それこそが、彼が冬明として在るために、必要な物です。

 

 

 ……春香さん。私は姉として在れていますか?





誰かが、誰かを目標に努力していたとする。
その人に追いつこうと、横に並ぼうと、あらゆる手を講じている。
そうしていると、「その人と同じ事が出来る」と言うのが、いつの間にか目印になってた。

それを見た誰かが、言った。

人は、別の誰かになるなんて出来ない。


創作物でときたま聞くセリフですが、この弟姉と合わせて考えてみると、別の意味が浮かび上がりそうですね。
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