ウチのキャラクターが自立したんだが   作:馬汁

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第8章 イツミの使い魔
64-ウチのキャラクターと俺の炭鉱町


 先日。帝都をひとしきり楽しんだ……楽しめたのか? 

 とにかく観光を終わらせたところで、依頼という仕事を一つ貰った。

 

 依頼内容。

 地元の炭鉱で、モンスターが発生したから、これを退治してほしい。

 

 まあ、普通のモンスター退治だ。

 

 問題の炭鉱があるという町へ入ると、その数や本数は帝都には劣るものの、所々にパイプが伸びているのが見える。

 

「場所が変わっても、特徴は変わらないな」

 

「あの帝都もそうだけど、どこの場所も燃料が大量に必要になるんだろうね。だったら、炭鉱町はその需要を賄う重要拠点だ」

 

「ここから見えるあちこちの黒煙だけで、どれだけ消費してるのかがわかるぐらいだしな」

 

 水蒸気という動力を扱うからには、水を加熱する施設が必要になる。

 そして勿論、燃料も供給せねばならない。

 

「……よくよく考えたら一大事だよな。唯一の、ではないにしろ、重要な資源だろうに」

 

「本当は国で対応したかったけど、奴らの対応をしなきゃいけないから冒険者任せ……って感じかな」

 

 ゴシップ記事でも書けそうな憶測を語り合いながら、目的地へと向かう。

 炭鉱町に来たら、先ず依頼主と顔を合わせたい。

 

 炭鉱の責任者という立場が居るという建物の住所は、このメモ帳に記されている。

 

 この炭鉱町には結構な賑わいが見られ、整備も行き届いている。

 通行を邪魔するものといえば、その賑わい。つまりは行き交う大量の人ぐらいである。

 

「……ここが?」

 

 看板や人に道を尋ねながら到着したのは、ちょっと大きめの二階建ての建物。

 石炭を掘り出すという産業を仕切る施設なのだろうか。

 

 であれば、ここに依頼主がいる筈だが。

 

「そうなるな。じゃあ任せたぞ」

 

「はいはい」

 

 ケイ以外には声が届かない俺に代わって、彼女に依頼主と話をしてもらう。筆談ぐらい出来るが、ケイが一緒にいるのであれば、その方が双方にとって楽だろう。

 

 ここの扉の隣に、警備らしきドワーフが1人で暇そうにしていた。

 手始めにと、ケイが彼に話しかけた。

 

「こんにちは。暇そうだね」

 

「ええ、とんでもなく暇で……おや? 見慣れない顔だ。冒険者かい?」

 

「そう。鉱山の中にモンスターが湧いたっていう依頼でね」

 

「おお! これは待ってました。ここの炭鉱夫どもが皆揃って強張った顔をするもんで、こっちまで気が滅入ってたところなんだ」

 

 ふむ、結構深刻な被害が出ているのだろうか。

 

「じゃこっちへ」

 

 警備員が建物の中に招き入れる。

 中はまるで酒場の様なあり様で、カウンターと多くの机と椅子、そして大量の樽が見える。

 

 ……産業を仕切る施設と予想していたが、考えを改めた方がいいだろうか。

 

「……酒場?」

 

「はっはっは。僕たちドワーフがどういう性分なのかは知ってるでしょうに」

 

 ドワーフとしては、ここに酒場があって当然らしい。

 まあ、異文化として受け入れる事にしよう。

 

 しかし階段を上がると、酒の匂いが多少漂うものの清潔な雰囲気の廊下がいきなり出てくる。

 一応、公私を分ける様なことはしているようだが。

 

 そう考えながら歩いていると、警備員が、少し大きめの扉に手を掛けて、ノックもなしに押し開いた。

 

「聞いてくださいマスターさん! 依頼の件で冒険者が来てくれましたよー!」

 

 まるで友人の家に訪れているかの様な態度で、部屋の中にいる人物に話しかけている。

 

「これっ。言葉遣いはともかく、ノックぐらいせんか!」

 

 老いた、しかし力強い声を放つのは、酒を片手に持っていた老人である。

 

「驚いて酒を落としちまったらどうするんじゃ!」

 

 ……そのしょうもない言葉がなければ、俺たちは“厳しいオヤジ”という評価をしているところだったろう。

 

「まあまあ。とにかく2人を見てください。なんか、如何にも強そうじゃないですか?」

 

「……取り敢えず、そこの2人はそこに座ってくれ」

 

 備えられたソファーを指してそう促されたから、遠慮なく腰を下ろす。

 そして老人も対面する位置にあるソファーに座った。ソファーがその重さを受け止めるために、随分と深く沈んだ。

 

「騎士の様な装いじゃが、剣士と弓使いと言った所か。そしてそこの剣士は……魔法を使うんじゃろ」

 

「おお」

 

 装備だけでは見抜けない所まで言い当てた事に、ケイが軽く声を上げる。

 と言っても、本気で感心している様には見えない。

 

「さすがマス──」

 

「いい加減にせい。何十年前の話だと思っておる……。で、名前は何と言う?」

 

「私はケイ。キミの言う通り、魔法剣士をやってる。で、隣のがソウヤ。一身上の都合で姿も声も無くしちゃった弓使いだよ」

 

 ケイが2人分の自己紹介をした所で、マスターと呼ばれた男が立ち上がる。

 

 やはりドワーフだから身長が低いが、しかしドワーフとしては高い方だ。

 声はしゃがれているが、筋肉には衰えが見られない。

 

「儂はライドウ。ここの鉱山を仕切っとる老人だ」

 

「そうなの?」

 

 それだけじゃないんでしょ? と言外に探る様な言葉に、老人……ライドウが嘆く様な溜め息を吐いた。

 

「……元は冒険者、戦士であった。ただそれだけじゃよ」

 

「ヒューッ。カッコイイですマスター!」

 

「しつこい、さっさた持ち場に戻らんか……」

 

 彼がそう言うと、警備員は一目散に部屋から出る。

 陽気な割には、あっさり退場したな……。ライドウが溜め息をつくのを横目に、バタンと閉じる扉を見送った。

 

「取り敢えず、長旅ご苦労であった。酒でも出したい所だが……その面構えから察するに、今すぐにでも討伐に向かうようだの」

 

「うん、そのつもり。討伐目標の情報は?」

 

「元気が有り余っとるようで何よりだの……」

 

 早速と情報を貰おうとするケイに、ライドウが横の方を向いて、壁にかかった大きな地図を見上げた。

 

 部屋に入った時から視界に入っていた物だったが、それは壁紙でもなんでもなく、坑道の構造を表す地図だった。

 

「これを見なさい」

 

 現実世界でよく見るもので例えれば、階数のある大きな駅の構内図が一番近いだろうか。

 階層ごとに分けられた図の中に、一本だけ赤く染められた針が刺さっていた。

 

 上から2つ目。『第2階層』と記された図の端に、赤い針がある。

 

「この赤い印。これが主な目撃場所じゃ」

 

「あっさ」

 

「そう言うでない。最深部に潜まれるよりも厄介なんじゃよ」

 

「狩る側としては楽で良いんだけど」

 

 相手方の反応を気にせず良い放たれた言葉だが、ライドウは気にせず、机から一枚の紙を手に取った。

 

「それで、今日の獲物なのじゃがな?」

 

「うん」

 

「大蜘蛛」

 

「おお」

 

 大蜘蛛、少なくとも人間大の大きさなのだろう。

 久しぶりにファンタジーな経験が出来そうだと、期待を寄せる。

 

 依頼の詳細としてその辺りの情報も書かれていたし、今更驚く事はなかった。

 

「これより詳しいことはのう……。目撃者は皆揃って動揺してるもんじゃから、大きさと色程度しかな。確か、緑色と言っていた」

 

「坑道に入り込むぐらいなんだ、“大蜘蛛”とか言いながら、大きさは小さいんでしょ?」

 

「報告によると大体5mじゃが……侮るでないぞ」

 

「ふむふむ、緑色で大体の身長が5m……」

 

 すると、ケイが天井を見上げて考え込んだ。

 悩む様な素振りではなく、段取りを決めているような感じだった。

 

「番いの存在や卵が生まれている可能性を考えて、最低でもこの階層は全て確認しよう。……因みに、この中央にある……昇降機? って奴以外に、上下の階層につながる道はあったりする?」

 

「儂らが確認している範囲には無いの」

 

「それなら、この階層だけで良いかな。まず最初は目撃地点に直行して……」

 

 彼女はまるで買い物の計画を立てる様に、緊張のかけらもない顔で地図を見ている。

 

「ん、なんか書いてある……鉱毒?」

 

「おお、それか。この区域は鉱毒で立ち入り禁止となっているが、ちゃんと密封されておる。巨人の一撃でも放たれない限り穴が開くことはないから、安心せい」

 

「ふんふん、ここに毒ね。覚えておこう」

 

 ……む、なにか企んでいる気がする。

 と言っても、依頼の後も炭鉱夫が立ち入れないような環境になる事には……ならないと思うのだが。ケイには良識ぐらいある筈だ。

 

「他に伝えておきたい事は? 出来るなら直ぐに潜るつもりだけど」

 

「これは頼もしいの。行く前にこれだけ持って行きなさい。第2層目の構造だけが書かれた地図じゃ、報告を元に更新しとるから、信頼性は高いぞい。そこまでの案内は適当な鉱夫でも捕まえるんじゃな」

 

「うん、ありがとう。早ければ日が沈むまでには戻ってくるから」

 

 

 因みに。

 

 依頼主とパーティの主戦力が順調に話を進めている傍、俺はケイの横でぼうっとしているだけだった。

 よく考えなくても俺要らないな。いつもの事だ。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「弓矢、効くと思うか?」

 

 建物から出て、帝都と比べ鉄の匂いが少ない道を歩く。

 俺の問いかけに、ケイは貰ったマップを見ている。

 

「効くと思うけど、相手は虫だからねえ。痛みで怯んでくれない分、やりづらいかも」

 

「虫の痛覚、あるのかさえ分からんな……」

 

 ……まあ、内臓なり関節なりを貫けば、多少動きは鈍くなるだろう。

 しかし相手は蜘蛛。大きいとは言え虫だ、あの細い足を射抜けるのか疑問である。

 それに動きも機敏な筈だろうと思うと、懸念が大きくなる。

 

「やりづらいと言えば、土魔法も考えて使わないと。新しく生成する分ならともかく、下手に壁や床の土を引きずり出したら……」

 

「崩壊だな」

 

「そんな事したら怒られそうだし、そもそも危ないや」

 

 地形に気を使って戦う、なんて機会は滅多に無い。

 俺の弓矢ごときで地形を抉るとか崩壊させるなんて事は出来ないが、俺も一応気にかけるとしよう。

 

 

「……お、鉱山が見えてきたぞ」

 

 俺が言うと、ケイは手元のマップから目線を上げて、俺の言葉を確かめる。

 

「おー。流石炭鉱町と言われるだけある。……しかも私が知ってる鉱山よりも効率的に掘り出されてる」

 

 何処からか伸びてきているパイプが、中央に向かっている。

 ライトのついたヘルメットを被ったドワーフが、大きな声で合図を掛け合いながら作業している。

 

 敷地の中央には、穴とそれに隣接してある建物が見える。

 蒸気を吹き出しつつ回る歯車が、“箱”を持ち上げ、そして穴の中へ下ろしている。

 上がってくる箱には鉱石を満載されており、それらが自動的に降ろされる先には、またまた蒸気を吹き出しつつ動くベルトコンベアがあった。

 

「それにしても、どこもかしこも蒸気だらけ……。蒸し暑い」

 

 しかしドワーフは、この蒸気や温度に負けず元気に働いている。

 地下空間でもこうだとすれば、もっと暑い空間で行動する事になるだろう。

 ……辛くないか? 

 

「魔法でどうにかなるのか?」

 

「一応は、……この世界で多用したら目立つけどね。鉱山に潜った後にしようか」

 

「そうだな、じゃあ適当に作業員を捕まえるか」

 

 事情の説明なら、依頼で大蜘蛛の討伐に来たとでも言っておこうか。

 誰に声を掛けようかと周囲を見渡していると、仕事をひと段落させたような様子のドワーフを見つけた。丁度いい。

 

「ちょっといいかな」

 

「およ、騎士さん……じゃなくて、冒険者? ああ、もしかして依頼で来てくれたんか。こりゃ有り難い」

 

「察しが早い」

 

「同僚の大半は怖がっててね、皆んなアンタの事を待ち望んでたんよ。さ、来たとなれば俺の出番か。そこまで案内するよ」

 

「あ、良いの?」

 

「なんでい、案内して欲しいから声をかけなかったワケじゃないんか」

 

 そんな事は無い。

 2人揃って首を横に振った俺たちに対し、ワッハッハと笑いながら案内を始めてくれた。

 

 

 その案内の過程で1つ判明した事があるが、遠くからも見えていたあの石炭を持ち上げている機械は、資源だけでなく人員の昇降にも使われていた。

 山盛りの石炭が入る箱と、人間用の床が交互に来ている。

 

 案内しているドワーフを先導に、俺たちはそこへ乗り込んだ。地面の下に潜り込んで行く中、ジメッとした空気に、不快感というほどでも無い感じになる。

 

「坑道に潜ったことは?」

 

「廃坑道なら」

 

「ほん、なら注意点を告げる必要はなさそうか」

 

「一応ね。天井を支えている物は傷つけない。傷ついているものを見つけたら、近づかない。地面、壁、天井に衝撃を与えない。くらいかなあ」

 

「後、ここは炭鉱なんでね。火は控えんと、大変な事になっちまうよ」

 

「勿論」

 

 注意点について幾つか話して、そして2階層目の空間が見えてくる。

 

 天井が高く、そして支柱も高く張られているこの空間。

 1階層目では作業員と設備が多く見られたが、こちらは逆に見当たらない。

 

 そして、この大きな空間からつながるであろう数々の道がある筈なのだが、その全てが閉鎖されている。

 

 全員が昇降機から降りて、ケイが辺りをぐるりと見渡す。

 

「こんな感じか。……問題はなさそうだね」

 

「頼もしいなあ。大蜘蛛の場所は分かってるん?」

 

「目撃場所は把握してる。地図も持ってきた。……武器も備えもある」

 

 大蜘蛛の行動範囲によっては、あの封鎖された道を通った後直ぐに遭遇する恐れもあるだろう。

 弓を構え、得物の調子を確かめる。毎朝弄っているから心配の必要はないだろうが……、調子はいいみたいだ。

 

「滅多な事にならない限り坑道をぶっ飛ばすような事はしないから、安心して見送ってね」

 

「ええ、良い知らせを期待してますぜ」

 

 

「それじゃあ、行こう。ソウヤ」

 

「おう」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「……行った?」

 

 ケイが、昇降機を見上げて呟いた。案内してくれた作業員の姿は、とっくに向こう側へ行っている。

 

「もういいよ」

 

 ……誰に話しかけている? 

 ケイの妙な行動に、俺は察した。今、この場には3人目が居る。

 

「……まさか、貴方達と出会うとは思わなかったのデス」

 

 直ぐ後ろで、聞き覚えのある声が聞こえる。俺たちは振り返る。

 ゲームの中では長い付き合いとなりつつある、仮面を被る怪盗のペット。キャットがそこに居た。

 

「でも、討伐隊が貴方達で幸運良かったデス。これなら話が早く済みそうデスね」




5500文字前後……。
幕間を除けば、結構な短さではなかろうか。
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