木々の多い地形から離れ、見晴らしのいい場所を見つけた俺は、ぼんやりと空を見渡していた。
勿論、空に浮かぶ雲とかを眺めているわけじゃあない。自然の恵みをこの身をもって実感しているわけでもない。
むしろ若干落ち着きが無いような仕草で、空のあちこちへ視線を移していた。
西、北、東、南へと視線を動かしていると、ある時にその視線の先が定まった。
「見つけた……」
その視線の先の空には、一筋の濃い灰色が伸びていた。
「……煙の柱の下とか言ってるけど、ただの狼煙だよね」
周囲に誰もいない中、心のなかに抑えるまでもなく言葉をこぼす。
もしかしたら、あの手紙を書いた人物は少しばかり厨二病を患っているのかもしれない。
もし出会ったら少し気をつけよう……と言うより、ポーションを盗んだという時点で要注意なんだが。
とりあえず、あの狼煙の下に行ってみようか。
居た。その存在を認識すると同時、近くの木の陰に隠れた。
黒ずくめの奇妙な人が、地面に腰を下ろしてパタパタと火を仰いでいた。傍から見ると訳の分からない光景だ。
さて、どうするべきか。
こんなに不審な人物なのなら、PKしても問題無い気がしてきた。いや寧ろ、そもそもこの人はプレイヤーなのだろうか。
もしかしたらコレはイベントであって、あの不審者はNPCなのかもしれない。
だとすれば、あの手紙に書かれた"仮想の〜"と言う一文は、開発者の粋な計らいだろうか。
もしそうなら……サムズアップでも贈ってやろうか。上下逆で、だが。
と、そんな感じで開発者に恨みを募らせていると、あの不審者の視線が俺の方へと向いていることに気付く。
「……!」
まさか、バレたか?
黒ずくめが立ち上がると、こちらに正面を向けて近づいてくる。
この様子を見て、ようやくバレたと気づいた。
「まっず……」
どうしよう、迎撃するべきなのだろうか。
そうだ、一発だけなら誤射って言うし、その一発で有害無害の判別をすれば……。
「……ニャア」
「ん、猫?」
足元に猫が擦り寄ってきた、こんな時に何故猫が?
いや、こんな時にそんな事を気にする必要なんて無い。
足元の猫を中心に捉えてた視界から元に戻すと、今度は視界の7割が仮面で占められた。
「ご機嫌よごっ?!」
目元から20cmの距離、いわゆる目と鼻の先にある仮面に対して、思わず拳を振るってしまった。男らしく、グーで。
・
・
・
「痛い……仮面が無ければ昏倒していたぞ、お嬢さん……」
「いや、あんなに近寄るのが悪いの。反省して」
猫を抱き上げたまま、目の前の不審者に対して言い放つ。
この不審者は仮面を付けていて、服装は黒ずくめ。これじゃあ、どこかの怪盗の服装と殆ど同じだ。現実ならば110番モノである。
というか、一瞬だけ目を離した隙にあの距離にまで近づいてくるなんて。とんでもなく機敏だ。
「……しかし」
「反省して」
「ニャ」
俺の言葉に賛同するように、抱き上げていた猫が短い鳴き声を上げる。
「……す、すまない」
「はい、よろしい」
俺はそう言った後、猫がモゾモゾと離してほしそうに動き始める。素直に猫を開放すると、今度は不審者の横に付いた。
その様子を見ると、一度気を取り直そうと、咳払いをしてからまた話し始める。
「それで、私を呼んだのは君って事で良い?」
「ああ、如何にも、ワタクシがお嬢さんをココへお呼び立てしたのだ」
「やっぱり」
「うむ、お嬢さんのポーションも頂戴させてもらっている」
不審者はなんとも無いように言い放つが、普通に窃盗である。窃盗罪である。
アレを奪って、更には俺と合流するだなんて。何か要求でも吹っかけるに違いない。
そうなると面倒だ。どんな要求をされるのか、なぜだか嫌な予感がしてならない。
そうだ、むしろ強引に行ったほうが楽に事が済むかもしれない。
「力尽くで奪い返して良い?」
「おっと! それは止めたほうが良いぞ、お嬢さん」
不審者が俺の言葉に対し、大げさに後ずさる。
しかし、よく見れば余裕綽々の様に見える。特に武器を持っていないが、魔法でも使うのだろうか。しかし杖のようなものも見当たらない。
「お嬢さんが剣を抜けば、ワタクシはこのポーションを持って逃走を始める。そうすればお嬢さんは”コレ”を取り返せずじまいだ」
ポーションを見せびらかしながら言う。
逃げ足に自信でもあるのだろうか。残念ながら自分は走るのが速くなるスキルなど無いし、逃げ切れられたらポーションの奪還は不可能だろう。
一撃で仕留めるにしろ、自分の剣や魔法ではそれを可能とする腕が無い。
「……」
恨めしそうに睨んでみるが、仮面の下にある顔は見えないから、表情がよく分からない。
「そのポーチの中にある”依頼”を達成するだけでいい。そうすれば、このポーションを返却しよう。……リボンまであるのをみる限り、拘りがあるのだろう?」
「うっさい。……依頼って、コレ?」
ポーチから一枚の紙を取り出す。ポーションと代わるように入っていた物だ。
依頼主はシスイカという。どこかヌメヌメとしていそうな名前をしているが、流れ的にこの人がシスイカなのだろう。
「という事は、君がイカ?」
「イカッ……!」
「やっぱり変な名前なのデス」
イカ呼ばわりしたら、大ダメージでも受けたかのようにのけぞった。
そんな反応するなら、もう少しマトモな名前にすればよかったのに。
「ご主人、やはり偽名は”泥棒猫”するべきでした、デス」
「あ、ああ……って、勝手に人化するんじゃない! 戻れ、戻れ!」
「やデス」
って待て、何か一人増えてるぞ?
「え、誰?」
「なんと、ワタシを忘れただなんてヒドイデス、お姉さん。ワタシはキャットなのデス」
キャット、と言われてようやく思い出す。
確かに声が同じだ。しかしあの時の様な黒いローブは着ていない。
その所為で、あの時抱いた中性的な印象が、今のこの子に当てはまらなかった。
前は中性的だと思っていたが、今ではローブが外れ、華奢な格好が見える。お陰で女の子っぽい印象が強くなっていた。
見ると、キャットの名の通り、その頭の上に2つの猫耳が乗っかっている。
しかも腰の辺りからも尻尾が2本生えている。波打つようにゆっくりと揺れているのを見ると、本物だと分かった。
しかし、2本だ。2本の尻尾ということは、この子は猫又なのだろうか」
「……猫又だったんだ」
「なのデス」
「キャット! 猫に戻らないとおやつを減らすぞ!」
「にゃっ」
あ、一瞬で戻った。
猫又は人に化ける猫だと言われているが、そういう能力なのだろうか。
「……失礼した」
「いや、うん。別にいいけど」
しかし、ピリピリとした空気が何処かに行ってしまった。どうやら、キャットがその空気を掻っ攫っていったらしい。
正に泥棒猫である。
「……」
「……」
代わりに喋りづらい空気が漂ってきた。
お互い無言なのはどうかと思い、自分から口を開こうとする。
「ええっと。それで、報酬は?」
「む、請けてくれるのか?」
「報酬を聞いてから考える」
依頼を達成してポーションを取り返すだけでは、なんの利益もない。
逆に失敗すれば損失となるが、それはそれだ。
「……ダンジョンを捜索、発見すればその内部を調査するという内容だが、その調査で得た宝を幾つか分けよう。それでいいか?」
「ダンジョン、ね」
その単語を聞いて、初心者指導書に書かれていた1文を想起する。
ダンジョンと言うのは、世界各地で出現と消滅を繰り返す構造物であり、その内部には、貴重な装備や財宝が隠されているらしい。
大抵は洞窟なのだが、稀にそうでないダンジョンも出現するのだとか。
冒険家気質の人には涎垂ものである。
「探して、見つけて、中を調査。って事で良いの?」
「大まかに言えばな。どうだ、請けるか? お嬢さんにはすまないが、詳細は依頼の達成を約束してからでないと伝えられないのだ」
そう言われ、少し考える。
ダンジョン探索に戦闘は避けられないだろうが、スキルやレベルを鍛えようという目的がある俺には、むしろ都合のいい環境だ。
ただ問題なのが、その危険度だ。
詳細を聞きたいところなのだが、、約束しないと言ってくれないらしい。ケチなもんだ。
さあ、どうしよう。
この厄介事に足を踏み入れて、ポーションを取り返すか。それともポーションを諦めて立ち去るか。
「……うん。約束する」
考えた末に、俺は答えた。
強くなるという目的に、ダンジョンは好都合ではある。それと同時に危険だろうが、俺が囮として扱われない限り、それはこの不審者も同じである。
「依頼を受注するよ」
「感謝する、お嬢さん!ならば、これから同行することになるだろうから、先ずは自己紹介をしよう」
俺が依頼を受けると行った途端、口調に含まれるテンションが上々になった気がした。
その様子を見ていると、突如、戦隊ヒーローの様なポーズを取って、仮面に手をかざして言い放った。
「ワタクシの名はイツミ・カド! ペットを従える”テイマー”である!」
「えっと、私はケイ。魔法戦士をやってる」
「ケイお嬢、これから宜しく頼むぞ」
お互いの自己紹介が終わるが、足元で静かに俺らを見つめている猫を見る。
俺の目線そっちのけで、二本の尻尾をふらふらと揺らしつつ地面に丸まっているが……。
「この子はキャットって名前なの?」
冗談半分でそう言った。
そこまで安直な名前を付ける人間は、世界中のどこにも居ないと思っていたが。
「うむ、キャットという名前だ。存分に可愛がってくれ」
そのことを聞いて、思わず「えっ」と言葉を漏らす。
本当にキャットと名付けているんだろうか、いや、もしかしたら何かの間違いかもしれない。
少し考えて、地面で丸まる猫に声をかける。
「えっと……キャット?」
「にゃ」
あ、これは名前を呼ばれ慣れている反応だ。と察した。この名前は嘘ではなかったようだ。
何故だ、何故こうも俺の関わる人物は、総じてネーミングセンスが奇妙なのだろうか。そんな運命でも背負っているのか。
頭を抱えてこの奇妙な運命に嘆くが、それも数秒で済ませる。運命に抗うことは不可能なのだ。
運命に抗うことを諦め、立ち直った俺はイツミ・カドに1つ質問する。
「どこから探すの?」
「うむ、その前に質問なのだが、”嫌な気配”、又は”予感”に覚えはないか?」
「はい?」
「”嫌な気配”か、”嫌な予感”だ。ダンジョンが出現する際、周囲の生物の魔力を揺さぶるだとかで、そう言った感覚を覚えさせられるのだ」
確かにあるにはある、レベル上げの時に一度あったっきりだが……。
「その気配、少し心当たりがあるかも」
「な、あるのか! 何処だ!」
「ちょ、近い」
一気に詰め寄ってきた。反射的に迎撃するようにをかましてしまうところだった。
一歩下がって距離を取ると、落ち着くようジェスチャーしてから、説明を始めた。
「その気配を感じ取った時、確かここらへんで行動していたと思う」
「ほう! 方向はわかるのか?」
興奮した様子だが、そんなに詰め寄んないでほしい。
更に一歩下がってから、その時のことを思い出そうとする。随分と前の出来事というワケでもないから、すぐに思い出せるだろう。
「方向はあんまり……いや、あの時あっちに移動したから、逆の向こうかな?」
とは言ってみるが、あまり自信を持てない。もしかしたら間違っているかもしれない。
「間違ってたらゴメン」
「問題ない! 元から虱潰しの予定だったからな!」
そう聞いて、俺は驚く。
そんな様子の俺を差し置いて、イツミが早速と言った感じで移動を始めた。
「虱潰しって、それぐらい情報がないの?」
自身も付いていくように歩きだしつつ、そう質問した。
「うむ、ワタクシが聞いたのは噂の中の噂。辛うじて当事者を見つけたものの、曖昧な話しか聞けなかったのだ」
「……例えば?」
「1人目は、この付近の森のなかで”感じた”と。2人目も同じように、そして3人目もまた同じ様に答えた。因みに4人目は沈黙を貫かれた」
あ、そう。と俺は軽い相づちを打つ。
「ノーコメントの理由は、ワタクシが見るからに怪しい、だそうだ」
「え、その格好で聞き込みしたの?」
「そうだが?」
バカでしょ。
……とは口に出さないが、ジトっとした目線を送ってやる。
彼の後ろに付いてくる猫も、同じように呆れている気がした。
・
・
・
「ご主人」
歩いていると、突然キャットが人の姿になった。
一体どうしたのかと、驚いて立ち止まると、キャットが伝えようとしている事を聞く。
「ダンジョンがあるデス、この先をもう少し歩いた方デス」
「おお! 良いぞキャット!」
そう言われて、前へ歩み出てその先を探してみる。
それらしい物を見つけると、その意外なダンジョンの見た目に驚く。
「え、裂け目?」
地震によって生まれた亀裂か、まさかこれがダンジョンなのか?
もう少し洞窟の穴とか、そういうのを想像していたのだが……。
「間違い無いのデス。只の裂け目には見えますけど、魔力の流れが確かにココへ向かっています、デス」
「だそうだ! ケイお嬢の情報が無ければ、辿り着けなかっただろう。感謝するぞ!」
「……どう致しまして」
とは言ったものの、やはり裂け目にしか見えない。そのせいか、目の前にダンジョンがあるという実感がわかない。
まあ、確かに車が丸ごと入れそうなぐらいには隙間が開いているが……。
「……入るの?」
「勿論!さあ、共にお宝を頂きに行こうではないか!」
「……仕方ないか」
ため息を付くと、イツミがこの亀裂の中に入ろうと準備する様子を眺める。
この下に降りるためのロープを、何処かに括り付けようとしているんだろう。
少し考えると、何も言わずに詠唱を始め、そして目的の魔法を発動する。
「『ストーンツリー』」
「む、おお。感謝するぞ!」
「ん」
この石の柱ならば、人一人の体重を支えるぐらいは出来るだろう。
もし降りる途中で折れたらと思うが、心配は無用。この人を先に降りさせれば、安全確認は無事に取れる。
と、さり気なくイツミを生贄にした俺の意図に気づかないまま、彼は石の柱にロープを括り付けてから降りていった。
「ワタシも先に行くのデス」
キャットもそう言って、猫になってから亀裂の中へ飛び込んでいった。
大丈夫だろうかと思って見下ろすが、なんと、ロープを伝って降りている最中のイツミの肩に乗っていた。彼はとても迷惑そうにしているが、傍から見れば愉快である。
この荷重を受けている石の柱を見るが、人と猫の体重を支えても尚微動だにしていない。これならば俺が降りても問題ないだろう。
下の二人が底まで降りるまでの間、俺はここでじっと待つことにした。
……あ、そう言えば俺スカート履いてるじゃん。
どうしようかと少し考えると、ロープを伝う二人に向けて声を張った。
「キャットー! 私スカートだから、その人の事頼んだよ!」
「ミャッ」
猫語などさっぱり解らないが、この返事が了承の意だと察すると、満足して頷いた。
・
・
・
「む、着いたのか、ケイお嬢?」
ロープを伝って下まで降り、底へ足をつけると、後ろから疑問形の言葉をかけられる。
その声に振り向いてみれば、彼の仮面の目にあたる部分が、キャットの肉球によって塞がれていた。
なるほど、疑問形だったのは視界が塞がれていたからか。
目線を少し見上げる様にすると、彼の頭上の跨るようにして乗っているキャットが、その身を屈めて前足を仮面の目に当てているようにしていた。
「ありがとう、もう良いよ、キャット」
降りている最中の2人の様子も微笑ましいものだったが、この様子も中々である。
「にゃ」
その可愛らしい様子を眺めるのも、キャットがイツミの頭上から降りることで見納めだ。
「む、なんだ、その笑顔は?」
「あいや、気にしないで」
顔に出ていたか、と指摘されてから気付き、慌てて表情を正す。
「視界が復活して、早速お嬢さんの笑顔が見えたものだから、思わずドキっとしたぞ」
「……そう」
万が一にも惚れられたら、グーでもしてやろうか。
そんな事は兎も角として、気を取り直す。
そこらを眺める様に視界を巡らせてみるが、差し込む陽の光は弱々しく、先日訪れた森の暗闇ほどでは無いが、それなりに暗い空間であった。
しかし、ダンジョンらしき物は見当たらない。それとも、この場所が既にダンジョンの領域なのだろうか。
「……どうすれば良いのかな?」
「うむ、どうやらここはまだ玄関前らしい。まずは玄関を探さねばな。キャット、頼むぞ」
「にゃ」
キャットは短く返事をして、耳をキョロキョロと動かしながら歩き始めた。
あの耳で魔力を感じ取っているんだろうか、と思いつつ、俺たちは後を付いていく。
壁に何か壁画があるわけでもないし、これでは只の亀裂である。
しばらく歩いたところでキャットを先導とする俺ら3人は立ち止まった。
キャットが突如として立ち止まり、周囲のあちこちへと目線を移していた。
「どうした、キャット」
イツミがその様子を見て、声を掛けた。が、キャットはそれに反応せず、ただ周囲を見渡し続けている。
「……集中しているな」
「そうなの?」
見慣れない家に連れ込まれた野良猫の様子にも見えるが、まあ飼い主がそう言うのならそうなのだろう。
無事
「……見つけたのデス」
突然、キャットが人化してからそう言った。
「……何も見えないよ?」
「いえ、見づらいだけなのデス。この岩が入り口を塞いでいるのデス」
そう言い、岩に指を向ける。よく見ると、確かに隙間のようなものが見える。
この裏に入口があるのならば、あの岩をどうにかして動かす必要があるだろう。
「ケイお嬢、魔法でどかせるか?」
「試してみる」
ストーンツリーの魔法なら、と思って詠唱を始めた。
あの魔法は地面から生えるように発生するから、上手く使えば持ち上げてどかせるかもしれない。
「『ストーンツリー』」
十分な詠唱時間になると、早速発動させ、その様子を見た。
岩の真下で伸びるようとする柱は、その為の弊害となる岩を退けようと押し付けたものの、押し負けてしまった。
その結果、柱は岩をよけるように、ぐにゃりと曲がって伸びた。
「へえ、こうなるんだ」
面白い現象が起きた。これを応用すれば、好きな形の柱が作れそうだ。なんて内心にて期待するが、今はそういう場面ではない。
結果的に岩はほんの少しずれたものの、余計に柱が増えただけで終わった。
「無理、か」
「重すぎるかな。次の方法を試してみる」
今度は、魔法をぶつけて移動させてみよう。
適任なのは”ストーンアロー”か。
この魔法を追加詠唱無しで放つと、アローの名に反して、3歳児の投げるボールのような速度で飛んでいく。
しかし追加詠唱を重ねると、その時間に比例して速度が上昇する。
幾ら質量の少ない物体でも、音速を超える速度でぶつけてしまえば、それこそゴリラ3匹が同時に突撃するような威力をもたらすだろう。
……多分。
残念な事に、この世界はシステムで動かされている。物理演算も、それに合わせて現実とは違ってきているかもしれない。
だが、このゲームはリアル志向のシステムが多々見られるし、この方法を試みるのも無駄ではない。
「……」
まだ追加詠唱を重ねる。
音速を超える弾速になる詠唱時間なんて把握していない。それこそ20分間の詠唱が要る可能性もある。
……いや、それは流石にないか。物理学の知識が頭に残っていれば、大体の値が求められるかもしれないが、覚えていない物は無理だ。
まあ、2回目を放つMPが無いわけじゃない。適当なタイミングで放ってから様子を見れば良いか。
「……『ストーンアロー』!」
直後、物体が手元に現れたと
かなりの速度だ。目にも留まらぬ速さとは、正にこのことだろう。
しかし、未だ鎮座する岩を見ると、あんまり有効ではなかったのが分かった。
「ふむ……、表面を削るだけか」
「うーん……」
俺の魔法では、ゴリラ3匹分のパワーを捻り出すことは不可能だったらしい。
レイちゃんならば、3匹どころか5匹分のパワーを出せるかもしれない。
だからといって、呼びに行くなんてことは出来ないが。
「ねえ、どうするの? これ」
「高威力の爆弾でも持ってくるか。一度戻ろう」
「分かった……って、あのロープで登るの?」
「む、決まっているだろう。階段が用意されていると思ったか?」
……この高さを登るのか。
「うう、面倒だなあ」
「ワタシはご主人の肩を借りるのデス」
「自分で登りなさい!」
「……ふくくっ」
このやり取りが面白くて、これからあのロープを登るという事を忘れ、思わず笑ってしまった。
「じゃ、戻ろ戻ろ」
笑い混じりでそう進言すると、降りてきた場所へ戻ろうと、足を進め始める。傷の付いた岩を背にして歩き出そうとした。
「……っ!」
直後、俺の前で歩いているキャットが、全身を跳ね上げるようにして振り返った。
「お姉さん!」
「え?」
俺に駆け寄ると、腕を掴んで引っ張りだした。
キャットは何のために俺を引っ張っているんだ?
背中に受けた大きな衝撃を受けてから、俺はようやく理解した。
「ケイお嬢!」
仮面でくぐもった声が耳に届く……が、しかし、その声は俺の意識には届かなかった。
見直しして気づいた。描写が薄いし、駆け足気味だ。直す気も出ないけど。
追記・と言いつつ直してしまう。
あ、次回はタイトル詐欺卒業します。