駆逐艦『秋雲』は何故絵を書き始めたのか──息抜きの短編です

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秋雲先生が何故絵を描くのか

「秋雲。私は時々とても恐ろしくなるんだ。君は艦娘で、私は人間だ。我々が見ている世界は、果たして同一なのか? お互いに分かり合えている様で、芯の部分で何も分かり合えていないのではないだろうか」

 

 何時も寡黙で怖い顔の提督がそう言ったのは、きっと泥沼化した大規模作戦で心が疲れていたからだと思う。その後すぐに「忘れてくれ」と誤魔化していたけれど、私は提督の悲しそうな顔を忘れる事はできなかった。

 どうすれば、私の世界を伝える事が出来るだろう。

 任務中も上の空でずっと考えて、思い付いた。

 

 艦娘として生まれて初めて、一枚の絵を描いた。

 

 大好きな沢山の姉たちと、青い海。

 そして、真ん中におっきく提督。

 これが私の世界の、ほとんど全部だった。

 

 その日の提督は、普段よりもっと怖い顔をしていた。

 少し躊躇われたけれど、私は決心して絵を渡した。

 

「これが私の世界です」

 

 絵を受け取った提督は、黙ってそれを眺めていた。

 暫くして、提督は激しく涙を流した。

 私の描いた絵の上に、涙の雫が幾つも落ちた。

 

「同じだ! お前と私の見る世界は何も変わらない。同じ景色だ。同じ美しい世界なんだ。ありがとう秋雲、私はやっと君たちの事が分かった──」

 

 提督は号泣しながら、絵と一緒に私を強く抱き締めた。

 どうして提督がここまで感激するのか、はっきりとは分からなかった。でも、きっと提督には提督にしか分からない苦しみがあって、今までずっと苦しんでいたんだなという事は分かった。

 だから私も、一緒になって泣いた。

 

 大規模作戦は、その数日後に終わった。

 苛烈を極めた最後の攻撃も、提督の采配で一艦の犠牲も出さずに済んだ。

 提督の顔は、憑き物が落ちた様に澄み渡っていた。

 

 艦娘と人間の見る世界。

 生まれも役割も違っているけれど、見ている景色は同じだ。それを守りたいと願う気持ちも、きっと同じなんだ。

 私はそれを伝えたい。

 提督が泣いてくれた様に、私が一緒になって泣いた様に、私の絵で人間と艦娘の心を通わせる手伝いが出来たなら。果てなき戦争の中に、一欠片の勇気をもたらす事が出来たなら。

 殺すために生まれた私が、何か新しいものを生み出せたのなら──

 

 秋雲という艦娘が、生きて、死ぬ理由に十分だ。

 

 だから私は今日も絵を描き続けている。

 

 

 

 ◆

 

 

 

秋雲「さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい! サークル『オータムクラウド』最新作は陽炎×不知火、禁断の姉妹愛──ゲェッ、不知火姉さん!? これはちが……ア゛ア゛アアアアア!!!」

 

提督「どうしてこうなった」


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