平和な日常までもう少し?
3話 追手、奇跡、温もり
少女は少なからずショックを受けていた。
闇夜の雨に打たれながら飛び回り、地面を蹴り回避しながら少女はビル群、路地裏を駆け抜けてどうにか追手の攻撃を避け続けていた。
攻撃を受けてから丸1日ずっと追われ続けている。
同じ実験体と呼ばれる者達からの攻撃、こうなる事は分かっていた筈だったが想像するのと実際に受けるのでは差違があるのだと気付かされた。
意思の無い濁った瞳で感情は無くただ、命令により植え付けられた殺意のみで追跡する彼ら彼女らと自分も同じ存在だと思うと心が重くなるのが分かる。
「…嫌だな」
背中にチリチリと殺意を感じながら少女は逃げ続けた。
今、少女が戦えているのも男に会うという目的と他の実験体とは比較にならない力の差があるからである。
本当なら殺意なんてものを受けてしまえば身体はすくんでしまい何も出来なくなるのは当たり前の事。
表情には出さないが少女は恐怖に染まりそうになる顔を引き締め逃げに徹する。
場所は特定出来ないが、どこかの街中まで逃げる事に成功したが事態はあまり著しく良くない。
そういう命令が下されているのか追手の実験体は力を極力使用しないで襲い掛かって来た。
検査衣はもうボロ布となりただ羽織るような形となっていて身体はあちこち傷を負い満身創痍な状態。
何より彼らは静かに動く。
人気の無い路地裏でほとんど音を出さず飛ぶように動ける実験体や少女は軽く言っても人として規格外であった。
研究所の人間は余程、少女達の様な状態存在を公にしたくないのか、追手の執拗なまで迫り様はおそらく殺処分の命令が下されているはずと予想する。
「………もう」
限界が近い。
力のみで何とか凌いできた少女は戦闘経験は皆無、精神的にも肉体的にも限界で気を抜けば倒れてしまいそうな程だ。
「もう少し…もう少し…!」
彼はもうすぐ近くにいる。
それだけが今の少女の心を支えていた。
実験体達の力により精製した投擲物による攻撃を回避して地面を蹴り更に狭い隙間に飛び込む瞬間、足に激痛が走る。
自身の周りに展開しているオーラ状のバリアも弱まってきていた。
痛みで視界も霞んでしまい飛ぶ事も集中力が乱れて不可能な状態。
「まだ…!」
少女は足を引きずりながらも走り出す。
そのビルの隙間、奥の出口に誰かが歩いているのが見える。
少女には見えた。
その先、夢に見た男がいた。
「ーーーッ!」
気持ちが溢れて言葉に出来ない。
しかし、距離があるこのままでは声を掛ける事も出来ずに通り過ぎてしまう。
「………助けて!」
掠れた声はおそらく彼には届かない。
だから少女は行かないでと強く思い願った。
すると、男は立ち止まり携帯を眺めた後、携帯の通話に応じている姿が見えた。
引きずる足を無理矢理動かして歩く。
更に気持ちが強まっていくのが分かる。
救ってほしいと、助けてほしいと強く願った。
「…もう少し」
そして距離は近付くと身体が反応し全力で走る。
縮まる距離の中、少女は出来る限りの全力でジャンプし男の胸に飛び込んだ。
「ーーっおお!?」
男に抱き止められてゆっくりと顔を見上げる。
そこには夢の中で見た男が心底驚いた顔でこちらを見ている。
「………ああ」
それが可笑しくて思わず笑いながら少女はようやく安堵し意識が遠退き気を失ってしまう。
「ーーーお、おい、待て」
その温もりを感じながら気を失う少女の心の中はただ穏やかで安らぎに満ちていた。
早くタイトル通りの名前で少女を呼びたい。
リアルでもそうですが、思いがけない出会いの際、自己紹介って難しいんだよな…