私は、ずっと嫌いだった。
泣き虫で、誰かの力を借りなければ何もできない。引っ込み思案で臆病、自分からは何も行動が移せない。何も変えられない。……挙げ句のはてには一番大事な存在すらも傷つけてしまう。
そんな優柔不断で弱虫な私が、自分自身が、一番大嫌いだった。
守られて当然だ。守れなくて当然だ。甘いって言われてもしょうがない。救いようもない、バカ。
そんな私が、今まで大切にしてきたものすらも切り捨てようとしている。親も、友達も、仲間も、夢も、μ'sも、そして……今までの思い出も。全部。
涙は出なかった。悲しくも、ない。だって、これは私が背負う罪だから。感情を押し殺してでも成し遂げたいことだから。
……何もできなかった私が進むべき道、だから。
「さよなら……凛ちゃん」
わ………はっ……
んぁ……にゃ?
……はっ、……ど……たい! ……んな…っ! ……ずに! ……ちゃんにっ!
ココ……何処にゃ? 凛、寝てたのに…んぅ…起きちゃったにゃぁ…。
………たちでっ、こん………おわ……っ、……るよっ!
んっ……何か…声が聞こえる。薄っすら目を凝らすと……白い…ベットが見える。その上には人の影が…。
……しますっ! ……しはっ、これ………でも、かこ………ても、…めい……、……を……たいっ!
テープが…途切れてるみたい。人影は…誰かに何か言ってる。聞こえづらい……でも…悲しそうな声だっていうのは……何となく凛でも分かった…。
わた……、私を魔法、少女にしてくださいっ!
魔法…少女。魔法…ジリリ……少女って……ジリリリリ……
ジリリリリリリリリリ……
「……にゃに?」
「こらー! 凛ー! 起きてるのーー!!」
「ふぁ!? お、起きてるにゃー!!」
飛び上がるように目覚まし時計を止める。同時に太陽の光が視界に射し込んできた。
ふ、不思議な夢だったにゃあ。夢なのに変に印象に残っちゃった。特にいきなり「魔法少女」なんて言葉が飛び出してきたからビックリ…。
「でも……何で魔法少女…?」
魔法少女ってアレだよね。女の子が可愛い服に変身して、ステッキを振り回して、悪者をやっつけるアレ。凛も小さい時によくテレビで見た気がするにゃ。フリフリの衣装とか憧れた事もあったっけ。凛の幼稚園からの大親友もよく……
「……あれ? 大親友…って?」
「凛ーー!!」
「あわわっ! 今、着替えるー!!」
私の名前は
「んしょ、んしょ。うーん、やっぱりちょっとブカブカかな?」
チャームポイントは何と言っても男の子にも負けない元気の良さ! 実際に小さい時は男の子と混じって野球とかサッカーとかして遊んでたにゃ! 女の子っぽくないってよく言われたけど、男子女子問わず友達がいっぱいできたのは良い思い出にゃ!
「……って、にゃー!? 早くしないと遅刻するにゃー!!」
でも、そんなお友達のほとんどは近くのUTX学院の方に行っちゃった。今、その学校がとある理由もあってとても人気なんだ。現に音ノ木坂に入学したのも凛を数えて数少ない。おかげで中学時代の友達たちとも離れ離れ。……まあ、LINEとかでやりとりできるからそこまで距離は感じないんだけどね。
「もごもごご…」シャカシャカシャカ
凛も最初は友達が行くからUTXにって考えたけど、ここから近いっていう事とお母さんの母校っていう事もあって音ノ木坂の方を選んだ。
まあ、一番は凛の意思だったんだけどね。UTXとは違って緑も綺麗だったし、体も動かしやすそうだったし。後、凛の学力が足りなかったのも! 音ノ木坂の方も友達がいなかったら危なかったんだにゃ!
「ぺっ! ふぅー…」バシャバシャ
で、無事どうにか合格できた凛は今日入学式を迎える。友達と離れ離れになっちゃったのは残念だけど、また新しい出会いが始まるのは楽しみで仕方ない!
友達100人でっきるかな~、なーんちゃって♪
「お母さん、おっはよー!」
「こら、凛! 目覚ましくらいちゃんとセットしなさい! 今日は入学式でしょう!」
「せ、セットしたよ! たまたま起きるのが遅くなっちゃっただけにゃ!」
「あっ、寝癖が付いてるわよー!」
「行きながら直すー!」
「鞄はー!」
「持った持ったー!」
お皿に乗ってあるパンを口に咥え、カバンも持ち、そのまま玄関の方まで駆ける。お母さんからの問答をノリノリで返しつつ、革靴に足を通す。新品だったから通すのに時間かかっちゃった。
えへへ、やっぱり楽しみだにゃ~♪
「行ってきまーーす!」
玄関のドアを開け、凛は光に向かって飛び出していった…。
「海未ちゃーん! ことりちゃーん! こっちこっちー!」
「穂乃果! 後ろを向きながら走ると危ないですよ!」
「穂乃果ちゃん待ってー!」
新しい始まりを告げるように桜が飛び散る。今日から花の高校生である。
生徒たちが意気揚々と校舎の中へと入って行くのを横目に、私は深呼吸を一つする。環境が変わり、それを受け入れるというのはある種の勇気がいる。実際、魔獣との戦いとは別の緊張が襲ってきた…。
「……やっぱり都会の空気にはまだ慣れないのかしら?」
私の名前は
私はある理由でキュゥべえと契約した、いわゆる魔法少女だ。魔法少女とはキュゥべえとの契約でどんな願いでも叶う代わりに、ソウルジェムを与えられ、魔法少女として戦う責務を背負う存在だ。そこでの戦いに終わりはなく、その使命から逃れることはできない。表に認知されることもなく、影で日々戦い続ける。
イメージ的にはまあ日曜の朝辺りに放送している可愛い系アニメで合ってる。命がけだけど、正義が闇を打ち砕く部分は本物の方でも変わりはない。……小さい時の私もそこでの物語や戦いなんかに憧れていた。
「見滝原も立派な都会だとボクは思うのだけどね。むしろあっちの方が近未来的とも言えるよ」
「もう、そういうのは雰囲気で理解してよ、キュゥべえ」
そして、私の肩に乗っているのが噂のキュゥべえ。この子は魔法少女か魔法少女の素質がある者しか目に映らない。地球とは違う、別の星から来た、簡単に言えば宇宙人……と言っても、外見は私が想像していた銀色タイツの人型ではなく、猫とウサギを足して二で割った比較的可愛らしい小動物的もの。アニメで例えるならマスコットキャラクターね。私が一人で戦っている時、よく傍にいてくれた、ある意味では恩人みたいな存在だ。
「あぁ……何か見滝原が恋しい…」
まあ、要は不測の事態が起こったってわけだ。
「ところでいつまでそこで立ち往生してるんだい? 早くしないと遅刻扱いになってしまうよ?」
「はぁ……ホント女の子の気持ちが分からないんだから…」
キュゥべえの言う事も最もか。ため息を零しながら校舎の中へと足を―――
「うわああああぁ!! 危ない危なーーい!!」
「え?」
ドガッ
いきなり背中に衝撃が走り、抵抗ままならないまま、私は前のめりになって倒れ込んでしまう。しかも、顔面からモロに。魔獣の戦いの時でもこんな失態は犯さなかった。こんなの佐倉さんに見られたら笑われそう…。
「いったたー……あっ! ご、ごめんなさい。急いでて…」
「い、いえ、私の方こそ避けられなくてごめんなさい…」
顔を抑えながら振り向くと、くりっとした可愛らしい瞳が私の顔を覗かせた。心配しているのか彼女と私の距離はちょっと近かった。
「大丈夫…ですか?」
「え、ええ、ありがとね…」
差し出してくれた手を取り、私は立ち上がる。改めて彼女の方を見る。身長は私より少し低いくらい…かしら。ダージリン色の髪もショートヘアーで私よりも短い。女性的というよりはやや中性的でボーイッシュという印象を抱く。
イメージ的には髪を彼女の髪色に染めた美樹さんにも―――
「……」
「え、えっとえっと、まだ痛いですか? お顔にぶつけちゃったから…」
「! い、いえ、何でもないの。少しボーっとしちゃって」
慌てて
落ち着きを取り戻すように、私は一回呼吸を挟む。
「それより早く教室に行った方が良いんじゃないかしら。時間的にも―――」
「あ……あーーっ!! そ、そうだったにゃ!!」
「……にゃ?」
「あ、えっと、その……せ、先輩、どうもすみませんでしたにゃあーー!!」
「せ…ええっ!?」
思いっきり頭を下げられ、女の子はそのまま校舎へと駆け出してしまう。ボーイッシュとか猫語とかそういうのはともかく先輩って…。
「うぅ……キュゥべえ、私ってそんな歳取ってるように見えるのかしら…」
「見方によればそう捉えられるのかもしれないね。彼女が仮に契約すれば、キミは先輩魔法少女になるのだから」
「もう、そういうのを聞いてるんじゃないわ…」
トホホ……まさか同級生相手に先輩扱いされるとは…。
教室に入る前に自分の姿をもう一度鏡で確認したい。そんな気持ちに晒されながら、トボトボとその跡を追うように私も校舎の中へと入っていった…。
「……」
「……であるために、部活動等の希望届は早めに提出するように」
ドキドキの入学式が無事終わり、今は教室に戻り先生の連絡事項を聞いている。どうやら今年入学した凛含めた一年生は一クラスしか満たなかったらしい。生徒不足はやっぱり深刻なんだなっていやがおうにも感じちゃう。
にゃあ~…… それにしても時間ギリギリだったにゃ。入学式当日に遅刻なんてシャレにならなかったよぅ…。
(それに先輩にはぶつかっちゃうし…)
あの雰囲気的に三年生かな。美人だったしオーラもあったしお胸も大きかったし、それに大人っぽいっていう言葉がピッタリな人だった。凛とはまるで真逆の存在。
そして、そんな先輩に思いっきりぶつかり猫語を口走った凛は今後下級生イジメに遭う運命に…!
(にゃあああぁぁ、そんなの嫌にゃあああ!!)
いきなりの高校デビュー失敗だにゃ! 何だか自然に涙目になっちゃう。と、とにかくあの先輩を探してもう一回謝らないと。あ、でも、謝るだけじゃ物足りないからラーメンくらい奢る必要あるかな。でも、それだと何だかパシリ扱いされちゃうよ~。
そんな悶々とした中で考えていると、隣から凛の腕をちょんちょんと叩くのを感じた。こんな大変な時に何だと凛は振り向く。
「あっ、今朝はどうも…」
そこには凛がぶつかったあの先―――
「って、えええええええええ!!?」
ビックリして思わず大声出して立ち上がっちゃった。クラス全員、先生も凛の事を変な目で見つめる。
「あっ、す、すみませんでした…」
一言謝り静かに着席する。凛は改めて隣の人物に目を向ける。
「せ、先輩じゃなかったの…?」
「もう、リボンの色で分かるでしょう。あなたと同じ色よ」
言われてみれば確かに。そういえば一年生のリボンの色は青色だっけ。同級生だったんだ。何だ、ちょっと安心したにゃ。肩の力が一気に抜けていくのが分かった。
「あっ、あの時はホントにゴメンね。痛くなかった?」
「まあ、平気よ。それ以上の経験もなくはないから…」
「?」
「い、いえ、こっちの話! それより先輩扱いした方が問題あるんじゃないかしらー」
その子はやや不満げに頬を膨らませて足をバタバタさせる。何だろう。最初のイメージと反してちょっと子供っぽくて可愛い。もちろん、巻き髪で金髪でキレイだし、オーラもあるし、お胸もバインバインだし、美人って言うのがピッタリな人なんだよ。それでいて凛よりもずっと可愛いんだよ。
(何か羨ましいなぁ…)
思わずその子のことをボーって見ちゃう。男の子っぽい凛には無縁のものをいっぱい持ってるよ…。
「? どうしたの?」
「にゃ!? な、何でもないよ! あっ、そういえば名前! 名前はなんて――」
「じゃあ、そろそろ一人ずつ自己紹介と行こうかー。出席番号順なー」
名前だけで終わるなよー、ってニヤニヤしながら先生は付け足してくる。その子は軽くウィンクしてきた。
「自己紹介の時に言うね♪」
「あっ……う、うん…」
そんな姿にやっぱりズルイなぁって思っちゃう凛がいた。
「星空…凛さんね」
「巴マミさんかぁ…」
連絡事項、自己紹介が終わり、生徒たちはそれぞれ帰りの支度を済ませようとしている。それかお互いに初めましての挨拶をしている。あ、でも、初めましての方が多いかも。凛たちもまさにそうだった。
「えっと、星空さんはスポーツが大好きで…」
「うんうん♪」
「猫が大好きな女の子でしたっけ?」
「違うよー、もう。確かに好きだけど癖で猫語が出ちゃうの!」
「ああ、確かにあの時も出てたわね。まあ、自己紹介の時に初めて知ったんだけど」
「あーっ、わざと間違えたー!」
「ふふっ、あの時の仕返し。先輩、ちょっと気にしてたのよ?」
クスクス笑いながらゴメンゴメンと凛を
「えっとえっと、巴さんはケーキと紅茶が大好きで…」
「うんうん」
「おっぱい大きくてそれを自慢してる!」
「ふふっ、大丈夫よ。星空さんもそのくらいになるから♪」
「なーんで凛がカウンターくらってるのー!?」
頭を抱える凛に笑いが止まらない巴さん。それを見た凛も何だかおかしくて笑っちゃった。しばらく笑い合った後、凛は思い切って巴さんに言う。
「ねえねえ、友達になってよ巴さん!」
「えっ? 友達…」
一瞬、巴さんはビックリしたような表情をする。もしかして凛と友達になるの嫌だったかな…。
「あっ、違うの。いきなりだったし、その……嬉しくて…」
「? 嬉しい?」
「うん。中学、友達そんなにいなくてね。そんなことを言ってくれる子、初めてで…」
えぇー、嘘だーって凛は言おうとしたけど、巴さんの表情からしてホントのことなんだって分かった。目もウルウルしてる。
そんな巴さんの姿を見てたら何だか凛も泣きそうになっちゃった。何があったか分からないけど、一人でずっと悩んでたのかな。何とか元気づけたいな…。
(……よーし)
「マーミちゃーん!」
「!」
マミちゃんが驚くのを余所に、凛はそのまま後ろに回り込みほっぺをスリスリする。一部生徒に見られてる? 気にしないにゃ!
「マミちゃんマミちゃんマミちゃん、マッミちゃーん♪」
「も、もうどうしたのよまたいきなり。急に名前呼びになってるし…」
やや困惑気味に凛のことを見る。そんなマミちゃんに笑顔で答えてあげた。
「えへへ、マミちゃんは凛の友達だよ! 友達だから名前で呼ぶんだー!」
「え? でも…」
「良いの! 友達になるのにでももヘチマもいらないよ! だって、マミちゃん悪い子じゃないじゃん!」
「星空さん…」
「凛。凛って呼んで。凛もマミちゃんって呼ぶから」
星空さんは禁止ね! とマミちゃんの唇にそっと指を置く。そんなこんな凛の勢いに押されたのかマミちゃんはまた笑顔になった。気づくと涙もなくなってる。
「ふふっ、何かいろいろ考えていた自分が馬鹿らしい。こんなに優しい友達が近くにいるのにね…」
「えへへ、マーミちゃん♪」
「うん。こちらこそよろしくね、凛さん」
「マミちゃんマミちゃん♪」
しばらくお互いの名前を呼び合い、新たな友情を
「ねえねえ、マミちゃん。これからラーメン食べに行こうよ! 凛、オススメの場所知ってるからさ!」
「ら、ラーメン? 凛さんはラーメンが好きなの?」
今日は入学式もあって学校自体終わるのが早い。ちょっと遅めに校舎を抜けた凛たちはまだお昼ごはんも食べていなかった。そろそろお腹も鳴る時間帯である。
「うん、凛は大好きなんだ! もしかしてラーメン嫌い?」
「いえ、そんな事はないわ。私も好きよ。ただ、凛さんの方はちょっと意外で…」
一緒に帰る途中の新しい友達、巴マミちゃんは凛の事をまじまじと見つめる。そんなに意外だったかな? 凛、普通にラーメン好きなんだけどなー。
「でも、そうね。昼食もまだだからこれから食べにいきましょうか」
「ホント、マミちゃん! やったー!」
「ふふっ」
じゃあ、早速お母さんにメールして、お昼、友達と食べるから大丈夫って伝えなきゃ。携帯を取り出しメールを送ろうとする。
そんな時、マミちゃんは凛のあるものがない事に気がつく。
「あれ? 凛さん、鞄は?」
「え? あ、あーーっ!!」
送信ボタンを押すと同時に凛は声を上げる。そういえば教室に忘れてきちゃった。新しい友達ができたことでちょっと浮かれてたよぅ…。
凛は体の向きを学校へと移す。
「ご、ゴメン、マミちゃん。今すぐ取りに行くね!」
「それじゃあ、校門前で待ってるわ。ゆっくりでも構わないからね」
「ホントだよ? 勝手に帰っちゃダメだからね!」
「そんなことしないわよ♪」
あっ、そうだ。既に学校に行きかけてる足を止め、凛は振り返る。
「マミちゃーん! 電話番号とメールアドレスとLINE! 後で教えてねー!」
もう学校内にはほとんど生徒の数は見当たらなかった。凛は駆け足気味に廊下を走る。マミちゃんはゆっくりでもって言ってくれたけど、長く待たせちゃうのは流石にかわいそう。凛のせいでもあるし、ここは早く戻らないとね!
「えっと……ここだっけ?」
ちょっと迷っちゃったけど一年生の教室を見つけ、その扉の前に立つ。流石にもう誰もいないと思い込んでいた凛は、勢いよく扉を開けた…。
「あっ」
「……」
でも、いた。手前側の机の方に一人だけ…。
「お、驚かせちゃってゴメンね…」
ややバツが悪そうに頬をかく。大きな音立てて怖がらせちゃったかな。ちょっと気まずいな。ちょっぴり気になったので凛は彼女の方へと近づく。
その子は茶髪のやや長めのショートヘアーでメガネをかけていた。そして、可愛い顔立ちからは想像もつかないほどの鋭い目線。ツリ目っていうのかな? それともジト目? もしかして怒らせちゃったのかな? 視線は下を向いていた。
見覚えはある。確か最初の方で自己紹介してたっけ。確か名前は…かよ……
「あ……あーっ!
「……」
危ない危ない、名前を間違えそうになっちゃった。名前だけの自己紹介は小泉さんと西木野さんだけだったからいろんな意味で印象に残ってた。まあ、西木野さんの方はちょっとほっぺを赤くしてたから緊張していただけなんだなーって思う。小泉さんの方は全然そういうのがなかったんだけどね…。
凛はそんな小泉さんに話しかける。
「ねえねえ、何やってるの? まだ帰らないの?」
「……」
「あっ、折り紙? 折り紙折ってたんだー…」
「……」
小泉さんは口を開いてくれない。そういえばあの自己紹介の発表以外誰ともしゃべっていない。根暗…っていうのかな? 無口で無表情だし、メガネだし。それに誰もいない教室で折り紙と来たものだ。ちょっと暗すぎるんじゃないかにゃーって凛でも思っちゃう。もうちょっと明るく笑顔で振るまえば絶対可愛いと思うのに…。
「えーっと、何折ってるの?」
「……」
「も、もう! 凛の話を聞い―――」
「天使」
「にゃっ! て、天使?」
いきなり声を出した事にビックリしてしまった。それに小泉さんの折っているものにも…。
天使ってそんなものどうやったら折れるのと小泉さんの手元を覗くと、細かくキレイに形作られている天使っぽい折り紙がそこにあった。思わず凛は見とれてしまう。こんなの凛がやっても到底折れそうになかった。
「うわぁー……言われてみると本当に天使っぽい。小泉さん、折り紙が上手なんだねー!」
「……あげる」
「え? い、良い、のっ!?」
凛が反応する前に小泉さんはその折り紙を手渡し、自分の鞄を持って立ち上がる。視線はさっきから全然凛に合わない。まるで凛なんて最初から視界に入ってないみたいだった。
「それじゃ……星空さん」
「あっ、名前覚えてくれてたんだ! えへへ、何か嬉し―――」
小泉さんは凛の名前だけを言い残し、あっという間に教室の外へと出て行った。
結局この日、凛と小泉さんの目が合うことは一度もなかった……何だか複雑な気分…。
「うーん……気難しいそうな子だにゃ…」
一人残された凛はふぅと息を吐く。でも、凛の名前を覚えてるってことはちょっとは印象に残っているってことなのかな? 一応、悪い子じゃないとは思うんだけど…。
(別にこんな凄いものを渡さなくても、凛は誰とでも仲良くするのに…)
天使の折り紙を見回しながらそんなことを考えちゃう。明日辺り、また小泉さんと話してみたいなー。
「……ハッ! そういえばマミちゃんのこと忘れてた!」
貰った折り紙を鞄の中へ入れ、そのまま凛も教室を後にする。まあ、時間はたくさんあるんだ。小泉さんとも話す機会だっていっぱいあるはずだよね。
だって、長い高校生活は今日始まったばっかりなんだから!
この時の凛は、気づいてあげられなかった。あの子が、小泉花陽さんが……かよちんが。どんなに辛くて悲しくて苦しんで……傷ついていたのか。一人で重たすぎるものを抱えていたのか…。
「契約は成立だ。その祈りはエントロピーを凌駕した。さあ、解き放ってごらん。キミの力を…!」
気づいて……あげられなかったんだ…。
はい、初めましてフィムと申します。ここまで読んでいただきありがとうございます!
さて、プロローグですが、マミさんはまきりんぱなと同級生で、ある事情から音ノ木坂学院に入学する新入生です。見滝原はどうしたー、って思うかもしれませんが、それは次回の話で明かされるでしょう。
後、かよちんこと小泉花陽ちゃんですが、どうしてこうなったと言わざるを得ない。話す時は話しますが基本的には無口です。笑顔もほとんど見せません。アイドルやお米話のマシンガントークも一切ありません。お前、一体ダレちんだよ(笑)
また、幼馴染の凛ちゃんはかよちんのことを覚えてません。ある理由もあり、初対面だと思っちゃってます。
まあ、こんな感じで始まりましたが、次回の更新も頑張っていきます! 次回はアニメ「ラブライブ!」第1話の展開に沿って書いて行きます!