幻想殺し(モドキ)は救いたい   作:ミミヤヤ

1 / 2
ハジマリ

 光る子供が生まれた、それが『個性』という特殊能力の発端であったらしい。どこで生まれたkか何て言うのは知らないし、それが具体的に何時のことなのかも知らない。でも、分かるのは、そんな個性が今この社会では当たり前として受け入れられている、ということ。

 

 過去、中世であれば――よくは知らないけども――魔女狩り等、異端に対して過激的に過ぎる処置を取ってきたのだが、現代は違う。個性という魔女に対して、柔軟なまでに存在を肯定し、浸透していった。そして、その力は良くも悪くも強大である。故に――

 

 ――(ヴィラン)は湧き――

 

 ――ヒーローも躍り出た。

 

 そんなヒーロー社会である世界の、日本の、一人の少年の物語である。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 日常というものは往々にして不幸の連発だ。

 

 道を歩けば水を被り。

 

 また道を歩けば財布を落とし。

 

 またまた道を歩けば――

 

 

 ――(ヴィラン)と遭遇する。

 

 幸せとは不幸であることに気付かないこと、という言葉もある。ならば、気付いてしまった人はどうすれば良いのだろう。そこまでしっかりと語ってほしいものだ。

 

 この『個性』社会で、能力を驕り、悪に走る者は多々居る。

 

 不幸な少年の代名詞こと上條 冬麻は、齢十五にして人生の節目に立たされていた。目の前には風を操るという『個性』を保持した危険人物。加えてここは裏路地と来たものだ。幾ら、ヒーローといえど、流石に助けには来れない。というか、気付かないだろう。

 

「不幸だぁ……」

 

 上條はいつもの如く、とはいかず硬さを帯びながらも口癖の言葉をつぶやく。そんな上條の様子に気分を良くしたのか、下品な笑いを高らかに上げる男は、風をさらに周囲に帯び始めた。

 

 轟々と唸る風音に、脚が後方へ下がろうとするのだが、既に下がり切った後で壁しかない。塵を巻き上げ、小石を巻き込む強風を、男は溜め込むように圧縮し始めた。

 

(やばい、どうする……!! 後ろはダメだ、戦うか? 無理だっ、かと言ってあの一撃を受けたら間違いなくヤバイ!)

 

 思考は束の間、風は一筋の鉄槌となって上條へと向かって行った。唸り、うねり高鳴り、小石も塵も凶器となって牙を向く。

 

「ぅ、うぉおおおああああああああああああああ!!!」

 

 悲鳴にも似た鼓舞の叫びを支えに、風撃の通る下を低姿勢で避けながら駆ける。後方から炸裂音とも言える盛大な音と風が吹き荒れてきたが、構わず前方に駆ける。狭い路地は一本道で、駆ける先には男が立っている。男を超えなければ、上條の助かる道は無い。

 

「ケハハハ!!! 無駄だよムダァッッッ!!!」

 

 だが、その道は断たれた。風が分厚い壁となって立ちふさがったのだ。あまり体格が良いとは言えない身体をしている男を見る限り、この個性頼りの力だ。ヒーローが居たのなら、こんな輩は即座に制圧出来たに違いない。しかし、ここにいるのは、一人の高校生である。ごくごく平凡な、ただ一つ個性を上げるのならもの凄く『不幸』であるという一点を除けば、だ。

 

 風の壁に進行を阻まれ、踏鞴を踏み後ろに尻もちをつく。強打して下半身がジンジンと痛むが、風の脅威が迫る中では些事も同然。

 

「どうしたぁ? もう降参かよぉ、もっと頑張れよ、這ってでも惨めに逃げてみろやぁ……」

 

 下卑た笑みに悔しさと恐怖が這いよる。冷たいコンクリの地面には、風で頬を切ったのか血の痕が付着している。

 

 風は再び収束を開始。渦となり、肥大化し、圧縮される。あまりにも長い溜めの時間なのに、上條はあまりの風圧に立ち上がることができなかった。

 時間をかけて作られたソレは最早小さな台風。少しでもまともに受けたら、ただの人の身では助からないだろう。この悪辣で非道なる男に、最後が言い渡されるのは屈辱以外の何物でもない。

 

「死ねやゴラァアアアアア!!」

 

 放たれた風撃は、地面を削りながら接近する。純粋な風の力のみであるそれは――しかし先ほど以上の脅威。

上條はただ、防衛本能が反射的に働き、両腕を眼前で交差をするくらいしか動けない。そして――

 

 ――ぶつかった。

 

 猛烈な風が、名の通りの烈風が鉄槌以上の、トラックが一台衝突してくるのと同等以上の風圧が上條を襲う。上條は耐え切れず吹き飛ばされ、その衝撃により死に至る。

 

 

 

 

 

 ――筈だった。

 

 交差した手に当たった瞬間、甲高い音と共に風が霧散した。

 

 あまりにも理解不能な出来事に、両者は動けずにいた。

 

「け、ケハハハハ、慣れねえことをしたから思わず操作を解いちまったみてえだ。だが、次はそうはいかねぇ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、上條は急いで逃げ出そうとするのだが、風を腹部にぶつけられ、蹲ってしまう。その隙に男は風を圧縮、時間をかけていない分、威力は弱まっているが、それでも十分な殺傷能力が籠っているだろう。

 

「今度こそ、死ねやぁああああああああああ!」

 

 迫る風に、立ち上がろうと膝に左手を置き、右手を気休め程度に前へ向ける。だが、やはり間に合う訳も無い。風撃はまず、上條の右手に当たり――

 

 ――霧散した。

 

 甲高い音と共に、風を収束していた力は消え去り、解放された風が服の裾を揺らす。

 上条も、そして男すらも思う。これは操作ミスなんかじゃない。

 

(俺、なのか?)

 

 右手を見るが、そこには何の変哲も無い見慣れた手があるのみ。無個性らしく、何の取り柄もなく、特徴もない身体に、あれだけの風を霧散させる力があるとは到底思えなかった。

 

「おい、おいおいっ。オイオイオイオイオイッ!? 何をした、どんな手品だそりゃぁよぉ!? お前は無個性の愚図だろうが、なに俺様の力に逆らってやがんだゴラァアアアアア!」

いぎ

 猛る男に、上條はある覚悟をする。今までの二回の無効化、これは自信の腕、それも右腕が関わっていた。これが偶然とは思えないし考えられない。

 

「一か八か、だな」

 

 立ち上がる。男を見据えて、駆けだしたっ。

 

「くたばれぇえええええ!!」

 

 三度、風が襲い掛かる。髪も揺らす風圧に負けず懸命に前へと進み、風とぶつかる瞬間に右手を振り上げた。右手は激しい風の流動に僅かに拮抗しながらも――

 

 パキィイイン!

 

 三度――風が霧散した。棒立ちとなる男の脇を、上條は駆け抜けた。こんな相手とはもう同じ空間に居たくはない。そんな思いが上條の脚を前へ、前へと進める。

 

 大通りに出ると、人は疎らだが確かに日常風景が広がっている。人間というのは不思議なもので、一人ではないというだけで気がゆるむ。赤信号、皆で渡れば怖くないの理論だ。

 

「く、はぁはぁッ。散々な目に遭った。とにかく、ヒーローを呼ばないと」

 

 走りながら、ポケットの中にしまっていた携帯を取り出す。が、肝心な貴重品のソレは画面は無残に割れ、電源が入らない。

 

「こ、壊れてるぅッ!?」

 

 不幸だ。

 

「ふ、不幸だぁ……。近くに交番なんて……ッ!?」

「おい、オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイぃ!? 誰が逃げて良いなんて言ったんだよ、このクソ雑魚野郎がよぉ」

 

 風が周囲に危害を及ぼす光景が後ろには広がっていた。怪我をしている人もちらと見える。自身の愚かさを、上條はようやっと気付かされる。

 

 すぐさま右手を構えて逃走を止めた。民間での、個性の個人的使用は禁止されていることだが、何分上條自身、右手の力が『個性』かどうかなんてわからない。更に言えば相手がヤル気満々なのだ。正当防衛は許可されて然るべきである。

 

「ケハハ、オレもバカじゃないんだぜぇ? ……その右手を降ろせ」

 

 男は近くに居た女性の首根っこを掴んで人質とし始めた。女性は苦しいのか呻き暴れるのだが、男の怒声に怯えてしまったのか涙を流しながら身体を震わせる。

 

「おいッ、その人は関係ないだろッ。その手を離せ!!」

「元はと言えばお前が逃げるのが悪いんだろう? 俺は誰かを殺したいんだよぉ、この手で誰かを殺める。ヒーロー? 犯罪? 関ッ係ナイナァ!! 俺は家族も何かも全てを奪われた。俺が、俺だけが救われなかった!! ヒーローなんて所詮そんなものなんだよぉ。だから、俺が、俺が奪う側になってやる。ヒーローなんて夢をぶち壊ぁす。俺は人を殺すゥウウウウウウウ!!」

 

 あまりにも支離滅裂で理解しがたい男の存在は人質をなってしまった女性を更に恐怖へと陥れる。

 

「クッ……」

 

 女性の身に何かあれば、それは上條にとって後悔にしかならない。ならば、この場での最善は、自身が右手を下ろすことに他ならない。上條は睨みながらも、従うしかなかった。

 

「それで、イインダヨォオオ!!」

 

 風が上條を攻め立てる。口から吐き出される血が、コンクリを塗らす。周囲の疎らだった人々の恐怖が人を呼んだのか、気付けば周辺は人が集まっていた。中には携帯を操作し、ヒーローを呼んでいる者も居る筈。そう祈りながら、激しい烈風の衝撃に耐え続ける。

 

 既に、満身創痍。悲鳴と痛みだけが知覚できる。決して、右手は使わなかった。

 

「そうだよ、その調子だぁ……」

 

 ニヤついた口元を隠しもせずに、女性を引きずりながら、上條へと接近していく。とどめを刺すつもりなのだろう。掌には風を圧縮し続けた、風の球体が音を発する程まで保持されている。右手で防がなければ、致命傷――死ぬ。

 

 だが、使う気などなかった。

 

「……へっ。……お前なんかに、屈しねえよ」

 

 痛々しくも、挑発するように――笑った。

 

「ケハ、お前を殺せば、俺はやっと奪う側だぁ……。そうすれば――「そうはさせないっ!!!」」

 

 遙か上空から、巨体が降ってくる。赤と青を基調としたヒーロータイツに包まれた鍛えられた肉体。V文字の逆立った金髪は眩しい。そして告げる。

 

「私が来た!!!」

 

 ヒーローの象徴、オールマイト。彼が来た。

 

「ッ、オォオオオルマイトォオオオオ!!!」

 

 憎い、そう言わんばかりの叫びをあげる男に、オールマイトが拳を掲げた。

 

「そうっ、私はオールマイトだッ! 私が来たからには、誰一人傷つけさせぇええええええん!!」

 

 女性を引きはがすと、オールマイトはその巨腕を以て男を殴りつけた。派手なクレーターの跡が地面に残る程の威力で、拳は振るわれる。男は倒れ、女性も無事。

 歓声が沸いた。ヒーローの登場、そして活躍にさっきまでとは打って違い、喜びが溢れる。オールマイトが讃えられるその空間が出来上がった。

 

(ヒーロー、はは、やっぱすげえ)

 

 倒れたまま、思う。

 

 

 そんな時だった。

 

「ヒーローなんていない、ヒーローなんていない、俺が、俺が俺が俺が奪い側だぁああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああ!!!」

 

 まだ、意識があった。執念とも言える憎しみの意思が、風を増幅させ、圧縮、猛烈な速度で見当違いな方向に撃ち出された。これが上方に向けてだったなら、どれだけ良かっただろうか。しかし、奇しくも向かった先は集まっていた民衆へ向けて。

 即座にオールマイトが動こうとするのだが、何故か膝をついてしまう。

 

 気付けば、上條の身体は動いていた。

 

(家族を奪われた、その辛さがあいつを悪に染めちまったんだろう。だけど、そんなことで、誰かを危険に曝していいわけがない!)

 

 駆けた身体の勢いそのままに、風撃に向けて右手を叩き付ける。操作下から逃れた風は霧散していく。上條はそこで終わらず、立ち上がっていた男に向けた再度向かっていく。

 

「ヒーローが居ないなんてお前の幻想を――」

 

 右手を強く握りしめ、風を操ろうとする男よりも早く、

 

「――ぶち殺す!!!」

 

 殴り飛ばした。

 

 今度こそ、意識を飛ばした男は、白目を向いて倒れ伏す。上條も、満身創痍の身体での無理が祟ったのだろう、体重を支え切れず、そのまま倒れ込んだ。

 

 上條の行いを民衆は、オールマイトすらも、驚愕の目で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。