午前2時、イギリスの都市 ロンドン某所。
イギリス清教 必要悪の教会《ネセサリウス》が所有するアパートの一室に1人の少年が毛布に包まっていた。
あどけなさが残る童顔に暗闇でも目立ちであろう鮮やかな茶髪、何も知らない者が見れば至って普通のどこにでもいそうな少年にしか見えないがこう見えてもこの少年、必要悪の教会の非正規エージェントであり世界に20人はいないとされる聖人であるのだから驚きである。
この物語は、そんな少年の安眠を妨害する1本の電話から始まる…。
☆ ☆ ☆
さっきからずっと電話が鳴ってやがる。うるさい。正直かなりうざェ。
このまま電話を叩き潰してやろォかと思ったがオレはグッと堪える。何せここはオレの家じゃなくて必要悪の教会の所有物だァ。んなことしたらあの暗号紛いの日本語喋るバカになに言われっかわかったもんじゃねェ。
とりあえず無視だ無視。こんな時間にかかってくる電話はなんざ禄なもんじゃねェ。静かに寝させろ。聖人だって眠いんだよ。
それから数十秒後、まだ電話は鳴ってやがる。面白ェ、たかが電話の分際でこのオレに喧嘩売ってるとみえる。オレは岩をも砕く拳を電話目掛けて振り下ろそうとした。だが電話は狙ってたかのよォなタイミングで切れやがった。すると今度はオレの携帯が鳴った。
「……もしもし?」
『なんだいるじゃないかにゃー鬼やん! なかなか出ないから留守かと……』
「死ね」
コイツにはこの一言だけで十分だァ。オレは通話終了ボタンに指を移すが、それを敏感に感じ取ったのか電話の向こうから慌てた間抜けな声が聞こえてきた。
『ま、待つぜよ鬼やん! 悪戯電話じゃないから切らないでー!』
「テメェ今何時だと思ってやがる!? 学園都市とここじゃ9時間時差があんだよコラ!」
『おおー久しぶりに聞いたぜよ鬼やんの怒声。それ聞いたら土御門さんもイギリスのマズい飯が少し懐かしくなるにゃー』
なるほど、喧嘩売ってるのはテメェだったか。いいぜ、高く買ってやるよ。骨1本や2本じゃ済まねェから覚悟しろ。
『まぁ冗談はこれぐらいにして、本題に入るにゃー。鬼やん、鬼やんにも学園都市に来て欲しい』
…………………ハァ?
学園都市に? このオレが?
それこそ冗談だろ。
『学園都市は報告を遥かに上回るほど進歩して強大だった。ぶっちゃけ俺1人じゃ手に余ることもなくはないんだよ。上の連中に何回か助っ人送るように要請したんだが人手不足だと断られた。そこで、非正規の鬼やんなら連中の容認なしでも大丈夫だと思って声掛けたんだよ』
前々からコイツはバカだと思ってたが想像以上のバカだ。
なんでオレがスパイ活動なんざしなくちゃなんねェ。んなゴキブリみたいなコソコソする真似なんざ死でも御免だァ。
「断る。バカも休み休み言えやコラ。オレがスパイなんざできるヤツじゃねェのは知ってんだろ。それにオレは聖人だぞ? 非正規とはいえ上の連中が出す訳ねェだろォが」
『その辺は折り込み済だ。鬼やんも知ってると思うがイギリス清教は聖人には動向は把握するが刺激しないというスタンスを取っている。鬼やんが適当な理由でもいって学園都市に渡ると言えば向こうは何もしないだろう。それこそ下手に刺激して鬼やんの機嫌を損ねたら元も子もないからな』
まァ確かにな。聖人の力は味方にいればこれほど心強いもんはねェが敵に回ればこれほど怖いもんはねェ。特にオレの性格はかなり扱いにくいから基本的に連中はオレのすることには何も言ってこねェ。
だがそれでオレが学園都市に行く理由にはなんねェよ。日本はオレの故郷だが別になんとも思わねェ。何度も言うがオレはあのスパイ活動ってのが死ぬほど嫌いだァ。
『心配せずとも鬼やんにスパイやらせるほど俺も馬鹿じゃない。足を引っ張られるのは俺も御免だからな。鬼やんには基本的に俺の邪魔者を消してもらう。陰陽師としては最高位の俺もこの街じゃ無能力者《おちこぼれ》だ。手に余ることも多いんだよ』
「つまりオレはテメェの掃除機って訳か。ますます引き受ける気が失せたぞコラ」
『鬼やん、お前言っていたよな。オレは何にも縛られない、オレの運命はオレだけが作るって。それも今の鬼やんを見てると戯言にしか聞こえんな。聖人という理由なだけで魔術師となり、最大主教の敷いたレールを進んでいる。断るならそれも構わないが俺の中で、鬼やんの評価が口先野郎に決定するだけだから構わないがな』
口先野郎だと? オレがあの年齢詐欺のクソアマの敷いたレールを進んでいる?
笑えねェ冗談だな。面白ェ、そこまで言うならテメェの誘い乗ってやろォじゃねェか。
「格下のテメェにそォ思われんのは我慢ならねェ。いいぜ、乗ってやるよその誘い」
オレの運命はオレが作る。誰にも邪魔させねェ。
それがオレ、神鬼大和なんだよ。
ーーーTo be Continue