とある魔術の事象選択《オールセレクト》   作:ロッソネロ

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お待たせしました! 幻想御手編、完結です。少し無理あったかな…。
感想や誤字脱字あればご指摘よろしくお願いします。


セレクト10

「原子力実験炉!? それってかなりマズいじゃない!!」

 

胎児の進行方向に原子力実験炉があるのがわかると御坂は立ち上がり、走り出そうとする。しかし大和は御坂の肩を掴み、それを防いだ。

 

「オイ、どこに行く気だ」

 

「決まってるでしょ!? あのバケモノ止めに行くのよ!」

 

「テメェじゃ無理だ。それに見てただろ。アレは攻撃されると再生し、再生すると身体が大きくなる。テメェが攻撃すればするほど巨大化するだけだ」

 

「じゃあ何もせず黙って見てろって言うの!? ふざけんな!!」

 

「そォは言ってねェだろ。テメェはすぐに木山んとこに行ってアレの正体と対処法を聞いてこい」

 

そう言って大和は御坂から手を離し歩き出す。

 

「ちょっと! アンタはどこに行くのよ!?」

 

「オレはテメェにはできないことができる。正体と対処法を聞き出したら加勢しろ。いいな?」

 

そう言って大和は胎児に向かって飛んで行った。一体大和が何をする気なのかわからないが御坂はとりあえず木山のところに向かうのだった。

 

 

 

 

御坂が木山のところに到着すると、そこには目を覚ました初春が一緒にいた。

 

「初春さん! 大丈夫なの!?」

 

「御坂さん! 私は大丈夫です。それよりもあれは一体……」

 

初春は巨大な胎児を指差しながら御坂に訊ねた。

 

「それを今から聞くのよ。木山春生、アレは一体何なの?」

 

「おそらくAIM拡散力場の集合体、幻想猛獣(AIMバースト)とでも呼でおこうか。幻想御手のネットワークによって束ねられた一万人のAIM拡散力場が触媒になって産まれ、学園都市のAIM拡散力場を取り込んで成長しようとしているのだろう。そんなモノに自我があるとは考えにくいが、ネットワークの核であった私の感情に影響されて暴走しているのかもしれないな」

 

「どうすればあれを止めることができますか?」

 

今度は初春が訊ねた。

 

「車の中で君に渡した幻想御手の治療プログラム、これでネットワークそのものを破壊すれば再生能力は消える。おそらくあれを自立させている核のようなものがある筈だ。ネットワークを破壊した後にそれを潰せば倒せる筈だ」

 

「確証の有り無しはどうでもいいわよ。今はどんなことでも可能性があるならやるしかないわ! 初春さん、お願いできる?」

 

「はい! 任せてください!」

 

御坂にそう言われると、初春は力強く頷いた。

初春の返事を聞いて、御坂はこのことを大和に知らせるべく走り出した。

 

 

 

 

その頃大和は幻想猛獣の進行を何とか食い止めていた。下手に攻撃すればまた再生し巨大化するだけなので攻撃は必要最低限のみだ。事象選択を完璧使いこなしていれば空間ごと消し去ることもできるだろうがまだアレは不完全だ。下手に能力を使えばもっと面倒なことになるかもしれない。

 

(チッ! 迂闊に攻撃できねェってのが泣き所だな!)

 

何本も迫ってくる触手を大和は躱し続ける。

聖人の身体能力で攻撃を躱し、原子力実験炉に届きそうな攻撃は事象選択で打ち消す。己の持つ身体と頭をフル動員して食い止めているがそれもいつまで保つかわからない。

 

触手は大和を襲うのを止めると彼の周囲を取り囲む。大和は幻想猛獣の意図を見抜き、そこから脱出しようとしたがそれよりも早く逃げ場のない空間に閉じ込められ内側から一斉に棘が襲いかかってきた。

大和は鉄塊で身体を硬化させ攻撃に耐えるが凄まじい威力の連続攻撃は徐々にダメージが蓄積されていく。

 

「グッ…! 舐めんじゃねェぞコラァァァああああ!!!」

 

大和の周囲に突風が発生し触手の檻をズタズタに引き裂いていく。檻から飛び出た大和の口からは地が出ていた。

 

(ハン…必要悪の教会の連中が今のオレを見たら狂喜乱舞だろォな)

 

これ以上力加減はできない。そう判断した大和は魔力解放をさらに強める。先程まで若干程度だったネックレスの色がさらに赤みを帯びる。それと同時に、ようやく御坂が帰還した。

 

「遅くなってごめん! アレの正体と対処法わかったわよ!」

 

御坂は超能力者相手でも傷一つ負わなかった大和が疲弊していたのに少し驚いたが手短に木山から聞いたことを大和に伝える。

 

「なるほどな、どォりでいくら攻撃しても再生する訳だ」

 

「今初春さんが治療プログラムを起動しているわ。それが完了し次第一気に叩くわよ」

 

御坂は大和の隣に立ち、そう言った。どうやら御坂も一緒に戦うつもりらしい。

 

「タネはわかったんだ。こっからはオレ1人で十分だ。引っ込んでろ」

 

「何言ってんのよ、2人でヤった方が早いでしょうが。それに、アンタの能力がわかるかもしれないしね」

 

どこまでも抜け目のないヤツだと大和は思った。このまま何を言っても無駄と判断した大和は仕方なく御坂に隣を預けた。

 

「足引っ張んじゃねェぞ超能力者」

 

「それは私の台詞よ」

 

御坂の返事と同時に、初春から御坂の携帯に連絡が入った。どうやら治療プログラムの起動に成功したらしい。

 

「んじゃいくぜ、今すぐその悪夢から覚まさせてやるぜッ!」

 

その言葉と同時に大和はネックレスを外す。その瞬間、抑え込まれていた膨大なテレズマが解放され大和の身体から力が溢れ出す。

大和が戦闘体勢に入ったのを見て御坂が号砲と言わんばかりに幻想猛獣に向かって電撃を放つ。電撃は触手の命中したが木山の言った通り、触手は再生しなかった。

 

「再生能力のねェテメェなんざただの動く的だ! ズタズタにしてやるよ!」

 

大和は遥か上空に飛び上がると、高速かつ連続で足を振り抜く。

 

嵐脚(らんきゃく)(らん)

無数の斬撃を放つ嵐脚の派生技。降り注ぐ無数の斬撃は幻想猛獣の触手と身体をズタズタに切り裂いていく。

幻想猛獣は悲鳴のような叫び声を上げながら新たに発生させて触手を大和に伸ばす。

 

「私もいるの忘れてないかしら?」

 

地上で応戦していた御坂がその触手に電撃を飛ばしそれを防ぐ。さらに御坂は次々と幻想猛獣本体に電撃を浴びせ新たな触手の発生を許さない。

大和は電撃に苦しむ幻想猛獣の中に、三角柱の物体を見付けた。おそらく御坂から聞いた核と呼ばれるものだろう。

 

「久しぶりにいい戦いだった。お礼にオレの本当の力の一端、見せてやるよ。目覚めの一撃(ウェイク・アップ)!」

 

大和は右手の拳をギュッと握り締める。すると手の甲に魔法陣が浮かび上がりそれと同時に身体に凄まじい激痛が走った。

 

(うぐッ! 土御門の言った通り…コレはキツいな……!)

 

目覚めの一撃(ウェイク・アップ)

大和の使う魔術の一つで身体に直接刻まれた魔法陣に魔力を集めることで体術の威力を高める魔術。

能力者である大和が魔術を使えば身体に過負荷がかかり最悪の場合、死んでしまう可能性だってある。それでも大和が魔術を使ったのは学園都市に来て3年、久しぶりに心沸き立つ戦いを提供してくれたせめてもの礼だった。

 

激痛が襲う身体に鞭を打ち、大和は遥か上空へと上昇すると一気に核に目掛けて下降する。すると、核に近付くにつれ大和の頭の中に様々な映像が入ってくる。

 

ある1人の野球選手がいた。その男は毎日毎日必死に練習した。しかし、学園都市ではスポーツに能力の使用が認められている。血の滲むような努力が、たった1つの能力によって打ち砕かれる現実に絶望。だから男は強大な力を求める。

 

ある女子学生がいた。ある日突然、後輩らしき女に話し掛けられた。どうやら彼女と同じ能力だったらしく扱い方を教わりにきたらしい。彼女は後輩に親身になって扱い方を教えた。

しかし数日経って後輩を見かけなくなり、気になって後輩の教室に向かうとすでに身体検査で抜かれてしまっていた。

学園都市は能力を数値化し優劣をハッキリさせる。だから彼女は強大な力を求める。後輩を見返すために。

 

ある男がいた。彼は超能力者になるために努力した。その甲斐あって能力は少しづつだが確実に上がった。しかしある時彼は本物の超能力者を目の当たりにする。その時彼は気付いた、自分の前には決して越えることのできない巨大な壁があることに。

だから彼は落ちこぼれの学生に話し掛ける。下を向いて話せば気が楽になるから。

しかし彼は強大な力を求める。憧れだけは捨てることができなかったからだ。

 

その他にも膨大な量の映像が頭の中で流れていく。これは全て幻想御手を使った者の記憶だ。

これだけの膨大な負の感情や記憶を見せられれば、何かしらの同情の念が生まれるのが普通だろう。

しかし、生まれつきあらゆる才能に愛されたこの男にそんな感情が生まれる筈がなく、

 

「くだらねェなァ」

 

ただ一言だけ、冷たく言い放った。

 

遥か上空から下降した大和は核にストレートパンチを放つ。魔力の篭った強力な一撃は核に大きなヒビを入れた。

 

「ダークネス・ヘルクラッシュ」

 

その一言と共に核は粉々に砕け散る。それに連動して幻想猛獣も消滅していく。その様子を見ながら大和は言う。

 

「オレは生まれつき才能に恵まれていた、だからテメェらの気持ちなんざ理解できねェ。けど、これだけは言える。努力できるのも立派な才能だ。オレにはねェ才能を、テメェらはしっかり持ってんじゃねェか。だから前だけ見て進め、そォすりゃいつか必ず道が拓ける」

 

幻想猛獣は完全に消滅した。

こうして、学園都市中を巻き込んだ『幻想御手事件』は一応の終わりを迎えたのだった。

 

 

 

 

幻想猛獣との戦いが終わり、御坂を完全無視して大和は木山と2人でいた。彼女を統括理事会に突き出す前にどうしても聞きたいことがあったのだ。

 

「アンタに、聞きたいことがある」

 

「…もう隠すこともない。私が答えられることは全て答えよう、何だね?」

 

「今回の事件の目的はあのイカれた実験の被験者を救うためと言ったな。複数の人間の脳を繋げ「一つの巨大な脳」状のネットワークを構成し、 樹形図の設計者に代わる高度な演算が可能な演算装置を作る。「脳波のネットワークの構築」っつゥ突拍子もない理論をアンタ1人で思い付くとは思えねェ。誰か黒幕がいたんじゃねェのか」

 

「なかなか鋭いな、だが残念ながら黒幕などいない。ただ参考にしたものはあるが」

 

木山の言う、参考にしたものを聞き出そうとしたがそれと同時に警備員の増援が到着したようだ。それに気付いた木山が大和に言う。

 

「増援が来たようだな。私も覚悟を決めよう、早く統括理事会に連行した方がいいのでは? 君の実力があれば警備員に気付かれず連れ出すことぐらい簡単だろう」

 

「……悪ィが、気が変わった」

 

そう言って大和は木山に背を向ける。

 

「オレが仕事を受ける条件は3つある。1つ、仕事中にオレが選ぶ選択に文句は言わない。2つ、仕事中の急な内容変更は受け付けない。3つ、報酬は全て前払いでびた一文まけない。ところが今回の報酬がまだ振り込まれていないときた。契約違反にはこっちもストライキするしかねェよなァ」

 

「…わかっているのか? 統括理事会に逆らうということがどういう意味なのか…?」

 

「わかってるってのそれぐらい、けどなァ」

 

大和は木山に丸めた紙を投げ渡す、木山がそれを上手くキャッチしたのを確認して大和は言った。

 

「自分の運命は全てオレが決める。自由奔放誰にも邪魔させねェ。今回も、そしてこれからもな」

 

そう言い残し、大和は遥か上空へ消え去った。

大和が消えた後、木山は渡された紙を拡げる。そこには彼の汚い字でとある医者の名前とその医者のいる病院、そしてこう書かれていた。

 

『テメェの教え子はコイツが救ってくれる。闇に負けるな、運命は自分で変えるものだ』

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