とある魔術の事象選択《オールセレクト》   作:ロッソネロ

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セレクト11

日もすっかりと落ちた自宅への帰路をオレは1人で歩いていた。

幻想猛獣との戦いの後、オレは事後報告も兼ねてマスターの喫茶店で遅めの昼食を摂った。あれこれ話し込んでるうちに夜になってしまったという訳だ。

 

パンダからの電話によれば木山は無事に警備員に捕まったそうだ。統括理事会の犬が乗り込んでくるのではと若干心配したが流石に連中もそこまで荒い真似はしなかったようだな。

電話でパンダの声が荒ぶっていたのは、多分オレが逃走したからだろう。

 

そんなことを考えながら歩いてると、オレはある2つの異変を感知した。

1つ目の異変というのは異常なまでの静けさ。まだ時間は午後8時だというのにオレ以外の人の姿がない。まるでとんでもないド田舎にブチ込まれたかのようにだ。

 

2つ目の異変はオレに劣らない膨大な魔力を感知したこと。聖人のオレに劣らないだけの魔力を持つのは同じ聖人のみ、そしておそらくステイル同様にインデックスを追ってきたヤツ。そう考えると、おのずと魔力の持ち主がわかる。

 

(火織か…。まァアイツが何をしよォとオレには関係ねェけど)

 

オレは無視を決め込むつもりだったが、どうやら最近のオレはとことんツイていないらしい…。突然路地裏から人が現れ、オレにぶつかったかと思うとソイツはインデックスだった。

インデックスはオレの顔を見るなりシャツを掴みながら言った。

 

「お願い! とうまを助けて!!!」

 

は? いきなり現れて何を言ってるんだコイツは。オレをおちょくっているのか?

だがインデックスの真剣な表情と雰囲気を見る限り、かなり切羽詰まった状況らしい。それにオレの顔を見るなり救援を求めたのは多分あの野郎に何か吹き込まれたのだろう。

正直勘弁して欲しいがオレも鬼じゃない。ここまで懇願されれば引き受けるしかないだろう。

 

「テメェ1人で大丈夫なんだろォな?」

 

「えっ?」

 

「だからテメェ1人で逃げ切れんだろォなって聞いてんだよ。流石にオレも2人いっぺんには助けられねェぞ」

 

オレの言葉を聞いてインデックスが笑顔になった。人の苦労も知らず呑気なヤツだ。

 

「私は1人でも大丈夫! だからとうまをお願い!!」

 

インデックスの言葉を聞いて、オレは盛大に溜息を吐きながら来た道を走って行った。

 

 

 

 

大和が到着すると、上条が地面に倒れ込んでいた。そしてその上条に目掛けて、大和と同じ聖人であり同僚の神裂火織が何かを飛ばした。

大和は少しだけ魔力を解放すると、上条の前に立ち神裂が飛ばした何かを素手で掴み取った。

 

「!? ……誰かと思えば貴方でしたか。久しぶりですね、大和」

 

「そォだな。相変わらず際どい格好してるなお前は」

 

神裂が飛ばした何かは7本のワイヤーだった。大和は素手でそれを引き千切るとゆっくりと神裂の方に振り返る。

 

「お前ら、知り合いなのか…?」

 

「知り合いも何も大和は我々必要悪の教会の同僚ですよ。まさか大和、この少年に伝えてなかったのですか?」

 

神裂の言葉を上条は信じられなかった。もし神裂の言ったことが真実ならば大和は敵勢力の一員、それに魔術師だということにもなる。祈るように大和の返事を、上条は待った。

 

「言う必要がなかったからな」

 

上条は愕然とした。信じていた親友がまさか敵勢力の一員だなんて夢にも思わなかったのだから。しかしその心境を否定するかのように大和が言葉を続ける。

 

「安心しろよ上条。オレは確かに必要悪の教会の一員だがお前と対立するつもりはねェ。つまり味方ってこった」

 

「その言葉、信用してもいいのか…?」

 

「それはテメェ次第だが、もしオレが敵ならば助けるよォな真似もしなかったしさっさと止めを刺してる。それに、こんなことしてる暇がありゃインデックスを拉致ってるよ」

 

インデックスの名前を聞いて上条は思い出したかのように大和に言う。

 

「インデックス! インデックスは無事なのか!?」

 

地面に倒れながらも自分ではなく他人を心配する上条を見て大和は大きく溜息を吐く。

 

「心配せずともアイツは無事だ。お前を助けるよォオレに頼んだのは他でもねェインデックスだからな。さて、これでオレが味方だって信じただろ。だったらお前はそこで寝てろ、後はオレがヤる」

 

ゴキゴキと首を鳴らしながら大和は一歩づづ神裂に近付く。神裂も先程までとは比べ物にならないぐらい真剣な表情で一歩づづ大和に近付く。お互いの距離が数mぐらいになったところで、2人の足が止まった。

 

「このような形で貴方と再会するとは、非常に残念です」

 

「そりゃお互い様だな。かつての恋人同士が敵となって再会する、どこの脚本家が書けばこんな悲劇になるんだろォな」

 

「貴方とは戦いたくない。できれば大和の方から彼を説得してくれませんか?」

 

「残念だがそりゃ無理だ。オレにとっての説得は力による服従と同義、あの野郎がそんなんに屈するヤツに見えるか? お前ならわかってると思ったんだが」

 

「そうですね。でしたら貴方を倒し、彼を倒し彼女を保護するまで」

 

2mにも及ぶ巨大な日本刀、七天七刀を構えながら神裂は言った。その様子を見て大和はまた大きな溜息を吐いた。

 

「やめとけって神裂、お前じゃオレには勝てない。同じ聖人でも、お前とオレじゃ格が違う。まだ理解してねェのか?」

 

「そうですね…私と貴方とでは確かに格が違います。ですが私には絶対に負けられない理由があるんです!」

 

先程上条に放ったものと同様、凄まじい速さで7本のワイヤーが大和を襲う。先程大和が引き千切ったものとは別の、おそらく有事の際のために用意していたスペアだろう。

一切の手加減のない斬撃を大和は意図も簡単に躱す。

 

「オイお前舐めてんのか? んなスピードで、当たる訳ねェだろ」

 

振り向きざまに大和は右足を振り抜き嵐脚を放つ。神裂は素早くワイヤーを引き戻すとワイヤーの軌跡で三次元的な魔方陣を描き、防御壁を生成する。

 

「その台詞、そっくりそのままお返ししますよ。その程度のスピード、私から見れば止まっているのも同然です」

 

飛び道具は無駄だと判断した神裂は鞘から刀身を引き抜く。それを見た大和は魔力解放の量をさらに高め、演算を開始する。

 

「事象選択、物質の転移を選択する」

 

言い終えた大和の右手にはいつの間にか神裂の持つ七天七刀と同じぐらいの長さの日本刀が握られていた。どうやら事象選択で別空間にある刀を転移したようだ。

 

「これだけの余裕と、正確な座標情報がありゃ簡単にアポートできる。こっからは小細工なしの肉弾戦、お前に着いてこれるかな?」

 

刀を構える大和に対し、神裂も同じように刀を構える。

大和の持つ刀は六奏無幻(ろくそうむげん)と呼ばれる名刀で聖人である大和のみが扱える令刀の1つ。本来は魔力を刀自体に流し込むことで真価を発揮するのだが能力者となった今ではただのバカデカい刀でしかない。それでもその大きさにより、斬撃武器としては破格の破壊力と斬れ味を誇る。

 

大和は息を吸うと、一気に神裂との距離を詰めて切りかかる。神裂も素早く反応しそれを防ぎ、大和の斬撃を弾き飛ばすと彼の首を狙い斬る。弾かれた大和はすぐに刀を手元に戻しそれを防ぐ。

大和はそのまま刀を持つ神裂の腕を掴むと強烈な蹴りを顔面に見舞う。まともに受ければ首が飛ぶであろう蹴りを間一髪で躱した神裂は大和の手を振り解き一旦距離を空けた。

 

「流石にやるな。昔と比べて攻撃も反応も早くなった。まァ想像の範囲だけど」

 

「お褒めの言葉、ありがとうございます。ですが私の成長は…貴方の想像を超えます。七閃」

 

今度は神裂は炎を纏った7本のワイヤーを大和に放つ。大和は何事もなかったかのように六奏無幻でワイヤーを切り裂くが視線を戻すと、神裂の姿がなかった。

 

(ワイヤーはオレの視界を隠すための囮か!)

 

気付いた時には遅く、七天七刀の刃先がすぐ目の前に迫っていた。大和は咄嗟に刀身を納めていた鞘を蹴り上げ刀の軌道を僅かに逸らし斬撃を躱す。しかし完全には躱し切れず、大和の首に小さな切り傷ができた。

 

「油断したぜ。まさかそんな使い方するとはな」

 

今度は大和が距離を空けながら言った。いつの間にか神裂の手には新しいワイヤーが握られていた。

大和は気付いていなかったが幻想猛獣よりも遥かに強い神裂との戦いを楽しんでいた。目の前のこの強敵をどうやって殺してやろうかと考えるが、その思考を邪魔するかのように上条が叫んだ。

 

「なんでだよ!!!!」

 

大和と神裂は同時に上条を見る。上条は震える足で立ち上がり、必死に前に進みながら言った。

 

「何であんたはそんな力があるのにインデックスを傷つけるんだよ!! そんな力があれば誰だって何だって守れるのに、何だって誰だって救えるのに……!」

 

上条の言葉を聞いて、神裂は戦いの最中だというのに力なく刀を降ろした。そして苦しいものを吐き出すかのように言った。

 

「私だって……私だって好きでこんなことしている訳ではありません。けど…こうしないと彼女は生きていけない、死んでしまうんですよ…。私の所属する組織はあの子と同じ、必要悪の教会。彼女は、私の同僚にして大切な親友なんですよ…」

 

上条は神裂が何を言っているのか理解できなかった。それは大和も同じ、彼の知る神裂は良くも悪くも自分の気持ちを人に晒すような人間ではない。その神裂が、今日初めて会った上条にここまで悲しそうな表情をするのが信じられなかった。

 

曰く、彼女には完全記憶能力が備わっている。

曰く、彼女の頭には103000冊の魔道書が詰め込まれている。

故に、彼女は脳の容量を著しく圧迫され、普段の生活の中で記憶できる量は限られている。 ではその容量を超えればどうなるか? 答えは死ぬ。なんとも簡潔な答えだった。

そして、記憶できる量はおおよそ1年。1年ごとに、記憶を消しながらインデックスは生きてきた。

 

生きて死んで、生きて死んで、その繰り返し。

 

「あの子の脳が限界を迎えるまであと3日、記憶の消去はきっかり1周期で行います。遅すぎても早すぎても話しになりません。ちょうどその時でなければ記憶を消すことはできないんです」

 

神裂の言葉に上条は明らかに顔色が悪くなっている。対する大和は表情一つ変えず、ただ黙って聞いていた。

 

「私達に彼女を傷つける意思はありません、むしろ私達でなければ彼女を救う事は出来ない。引き渡してくれませんか? 私が魔法名を名乗る前に」

 

上条も大和も何も言わない。それを見て神裂はさらに言葉を続ける。

 

「それに記憶を消してしまえば彼女は貴方の事も覚えていませんよ? 今の私達を射抜く目を見れば分かるでしょう?貴方がどれだけ彼女を想った所で、目覚めた彼女にはあなたの事は『103000冊を追う天敵』にしか映らないはずです」

 

神裂のその言葉を聞いた瞬間、上条の中で溜まっていたモヤモヤが一気に爆発した。

 

「ふざけんな!アイツが覚えているか覚えてないかなんて関係あるか!! 俺はインデックスの仲間なんだ、今でもこれからもアイツの味方であり続けるって決めたんだ!! それに何か変だと思ったぜ、アイツが『忘れてる』だけなら、全部説明して誤解を解きゃ良いだけの話だろ? 何で誤解のままにしてんだよ、何で敵として追いましてんだよ! テメェらなに勝手に見限ってんだよ!!アイツの気持ちを何だとーーーー」

 

「うるっせえんだよ!! ど素人が!!!」

 

「「!?」」

 

上条の言葉に神裂は感情を剥き出しにして叫ぶとそのまま上条に突っ込んでいく。今の神裂には上条に対する明確な殺意が醸し出されている。

マズいと思った大和は上条を守るべく駆け出すが、突然神裂の動きが止まり大和の方に振り返る。

 

「七閃ッ!!!」

 

今日一番の威力とスピードで7本のワイヤーが大和に迫ってくる。上条を狙っていると思い込んでいた大和は完全に不意を突かれた。

 

(おっと、こりゃオレがマズいな)

 

大和はなんとか六奏無幻で斬撃を受け止めるがその凄まじい威力を完全に殺し切ることはできず、そのまま後方のビルへと吹き飛んだ。

 

「神鬼!!!!」

 

立ち込める砂埃で大和の姿は見えない。

次の瞬間、神裂は上条の腹部に強烈な蹴りを入れて吹き飛ばす。吹き飛んだ上条に追い打ちをかけるべく神裂は脚力だけで3mほど宙に飛び上がり、七天七刀の鞘で彼の腕を潰す。

 

 

「私達だって頑張ったよ、頑張ったんですよ! 春を過ごし夏を過ごし秋を過ごし冬を過ごし!思い出を作っても忘れないようにたった一つの約束をして日記や写真を胸に抱かせて!!」

 

その叫びながら神裂は鞘を振り下ろし続ける。腕、脚、胸に顔に次々と降り注ぐ鈍器が身体のあちこちを潰していく。

 

「それでもダメだったんですよ。日記を見ても、アルバムの写真を眺めても……あの子はね、ゴメンなさいって言うんですよ。それでも、一から思い出を作り直しても、何度繰り返しても、家族も、親友も、恋人も、全てゼロに還る。私達は……もう耐えられません。これ以上、彼女の笑顔を見続けるなんて、不可能です」

 

何度与えても、何度与えても最後には結局ゼロに戻る。毎年毎年、それの繰り返し。

もう限界だった、もう無理だった。だから神裂達はインデックスの敵となった。最後に消えるとわかっているなら、最初から与えない方がいい。そうすれば記憶を失う時のショックも減る。それが彼女の運命ならば。

毎年繰り返される地獄の末に神裂達が出した『答え』だった。

しかし上条はそれでも言う。

 

「ふざ…けん、な……」

 

それに続くように別の声も聞こえた。ドス黒い、敵意と怒りに染まった声が。

 

「その通りだ、ふざけんじゃねェぞコラ」

 

声のした方を見ると両目を真っ赤にした大和が神裂を睨みながら立っていた。

 

「もう彼女の笑顔は見れない? 同僚にして親友? 笑わせんじゃねェぞ。親友っつゥのは本当に困ってる時にこそ救いを差し伸べるもんじゃねェのかよ。都合のいい時だけ親友面してんじゃねェぞ」

 

大和はゆっくりと、神裂に近付いていく。それに合わせるかのように、神裂は後退していった。

 

「勘違いしてるよォだから言ってやるけど、お前らはインデックスのために敵になったんじゃねェ。自分のために敵になって逃げたんだよ現実からさァ! 自分の無力さをインデックスに押し付けて、逃げたんだよ」

 

「貴方に……私達を見捨てて学園都市に行った貴方に何がわかるんですか!!! 何も知らずのうのうと生きていた貴方に!!」

 

ハァと大きな溜息を吐くと、大和は冷たく言い放つ。

 

「わかる訳ねェだろ、つーかわかりたくもねェよんなクソの気持ちなんざ。インデックスに同情するよ、お前らみたいな偽物みてェな親友しか、いなかったことにな」

 

大和のその一言が、神裂の沸点に触れた。

 

「だまれェェェェえええええええ!!!!!」

 

神裂は一気に七天七刀を抜刀し大和に斬りかかる。

 

唯閃(ゆいせん)

独特の呼吸法で魔力を練り上げることにより、自身を人間の限界を超えた体の組織に組み変え、そこから繰り出される必殺の抜刀術。

 

正しく神裂の奥義だが、大和はそれを避けることなく神裂の右手首を掴むことで防いだ。

 

「ッ!?」

 

「呼吸も剣も全部乱れてる。んなもんで、お前にこの技を伝授したオレに当たると思ったか?」

 

大和はギリギリと手首を掴む力を強めていく。このまま続ければいづれ神裂の骨が砕けるだろうがそんなこと、大和は気にせず力を強める。

 

「お前には失望した。お前の成長はオレの想像以下だった。それと、まさかお前がここまで愚かな人間だったとはな」

 

大和は神裂を投げ飛ばす。が、追い打ちをかけようとはせず神裂もすぐに立ち上がり構えることはなかった。

唯閃を封じるられたということは、今の神裂に大和に勝つ方法はないに等しい。つまり大和が神裂の攻撃を防いだ時点で勝負は決まったのだ。

 

投げ飛ばした神裂を一瞥することすらなく、大和は上条に近付き彼を担ぐ。どうやら先程までの神裂の攻撃で既に意識を失っているようだ。

 

「大和…私達は……どうすればよかったのですか……」

 

神裂の問に、大和は振り返ることなく答える。

 

「答えは誰かに与えられるもんじゃねェ、自分で見つけるもんだ。答えは自分にしかわからない、わからないこそ人間ってのは足掻くんだよ」

 

そう言い残し、大和は上条を小萌先生のアパートに運ぶべく歩き出したのであった。

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