とある魔術の事象選択《オールセレクト》   作:ロッソネロ

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お待たせしました! 禁書目録編、完結です


セレクト12

「つまり、報酬がまだだったから木山を警備員に渡したと。そんな言い分で連中が納得すると思ってるのかお前は」

 

3日後、大和は土御門に呼び出され学園都市に唯一ある教会に来ていた。どうやら一応のグループのリーダーである土御門に統括理事会から抗議があったらしい。

 

「連中が納得するとかしねェとか関係ねェんだよ。オレが仕事を受ける条件は最初に伝えた筈だ。それを守らなかったヤツらが悪ィんだよ」

 

「ハァ…少しは連中に言い訳する俺の身にもなってくれよ鬼やん…」

 

「テメェにはそォいった汚れ役がお似合いって訳だ。いいじゃねェか、頭のてっぺんから足の指先まで汚れ切ってんだからよ」

 

悪びれる素振りなど微塵も見せず大和は言う。

大和はこういう人間だというのは必要悪の教会時代からよくわかっている筈なのだが、学園都市に来てさらにその勝手さに磨きがかかったんじゃないのかと土御門はゲンナリする。

 

「んなことよりテメェ、インデックスが今どォなってんのか知ってんのかよ」

 

あれからオレはちょくちょくとインデックスの様子は確認している。リミットが近いのか、既にアイツは既に動かなくなっていた。イヤ、正確には頭痛のあまり動けないのだろう。

 

「勿論だにゃー。禁書目録の状態は逐一把握している、もしあれに不測の事態が起これば土御門さんは大ピンチですたい」

 

「その辺はどォでもいいが…しかし必要悪の教会ったァ思った以上に外道軍団なんだな。あんなヤツにあそこまで過酷なことさせるなんざ流石のオレもできねェよ」

 

「仕方ないことぜよ、連中にとってそれが最も効率良い手段なんだからにゃー。効率の良い手段を選ぶのは組織として当然のことぜよ」

 

効率の良い、確かに効率が良い手段だな。1年毎に記憶を消さないと死ぬ、巨大な首輪を付けることであの2人の反逆を防ぐ。組織にとってはこれ以上なく効率が良い、オレにとってはこれ以上なく不愉快な手段だった。

 

「にしても鬼やん、禁書目録のことになると随分と熱くなるのは何故かにゃー? 鬼やんはこの手のことは関わらない性格の筈じゃなかったか?」

 

「……別に、熱くなってなんかねェよ。ただ一度乗りかかった舟だからな、結末が気になるだけだ」

 

そうは言ったが何故気になるのかはオレもわからない。

別にインデックスがどうなろうとオレには何の影響もない、何の関係もない。だから気にする必要もない筈だ。

にも関わらず、オレはアイツのことを気にしている。心の中でアイツが救われることを、上条がインデックスを救うことを願っている。

 

「まぁ鬼やんの気持ちはわからなくもねーぜよ。けど上やんがあの違和感に気付かない以上また同じことが繰り返されるだけぜよ。どうせ鬼やん自ら救いの手を差し伸べる、ってことはしないんだろ?」

 

当たり前だ。確かにインデックスは救われて欲しいがそれとこれとは話は別。頼まれてもいないのに助けてやるほどオレは優しくない。これだけは譲れない。

では何故最初、頼まれてもいないのにインデックスをステイルから救った? マスターのヤツに諭されたからか? 本当に、それが理由なのか? 一体いつからだ? 何もかも理由がないと動けない人間に成り下がったのは…。

 

「さて、上やんは禁書目録の幻想を殺せるのかにゃー」

 

土御門の言葉だけが、オレの心に虚しく響いた。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

午前0時5分、苦しむインデックスの側で上条は己の無力さを噛み締めていた。

インデックスの記憶を消すべく参上したステイルと神裂の2人は今は外にいる。儀式を行うまで後10分あるということで別れの挨拶をする時間を与えてくれたのだ。

 

インデックスが命を削って作った後10分の時間にも関わらず、上条は別れの挨拶もすることなく力のない目で苦しむインデックスを眺めることしかできなかった。

 

「はは…ほんと、笑うしかねぇよな。これだけの右手を持っていて、神様の奇跡(システム)すら殺せるくせに…。立った1人の…苦しんでいる女の子すら救えねぇんだからさ…」

 

誰に言うのでもなく、上条はそう呟いた。

インデックスを救うとか言ったくせに、結局何もできない自分が悔しかった。インデックスの脳の85%を占める103000冊の知識をどうにかする事も。残る15%の「思い出」も守り抜く事だって。

 

「………あれ? 15%…?」

 

15と85という数字に上条は違和感を覚える。

あの2人は85%と15%という数字を誰から聞いた? 科学的に出された数値なのか? それ以前に人間の記憶をそんな数字できっちりと表すことなんて可能なのか?

 

違和感が疑問に変わった瞬間、上条は部屋の隅にある黒電話に飛び付くとある電話番号に掛ける。

小萌先生ではなく、唯一無二の親友である神鬼大和に。

 

 

 

 

同じ頃、オレは自室のベットで横になっていた。

力なく天井を眺めるだけのその目は、どことなく残念そうな目をしていた。勿論オレ自身はそんなこと気付いていないし認めもしない。

 

(そろそろ記憶消去の時間だな、あの野郎に期待したオレがバカだっただけか…)

 

そう思い目を閉じようとしたその時だった、オレの携帯が部屋中に鳴り響く。画面には知らない番号が映っていたがオレは通話ボタンを押す。

 

『神鬼!!!』

 

「誰かと思えばお前か」

 

『神鬼、インデックスの完全記記憶能力で聞きたいことがある』

 

どうやらやっと気付いたようだな。やっぱりコイツに期待したのは間違いじゃなかったようだ。

 

「やっとお前も気付いたか。遅すぎんだよコラ」

 

『お前も…? ってことは神鬼はもう気付いてたのか!?』

 

「最初からな、きっちり85%って数値が出るのはおかしいと思った。仮に、その数値が事実だとしても科学の知識皆無な連中にそんな数値が出せる訳がねェ。何より記憶が人を殺すなんざ世界中さがしても有り得ねェよ」

 

『なんでそんな大事なことあの時話さなかったんだよ!!』

 

その質問にオレは少し沈黙するが答えた。

 

「インデックスを救う、それはお前の選んだ運命だからだ」

 

『えっ……?』

 

「運命ってのは、自分の力で切り拓き選択するからこそ運命なんだよ。確かにあの時記憶のことを話せば丸く治まってただろォな。けどそれじゃあお前はオレの敷いたレールをただ進むだけ。お前が選んだ運命だ、最後まで自分の足で進んでみせろ」

 

そうだ、これでいいんだ。インデックスを救うの上条の選んだ運命、ならオレはそれを見守ってやればいい。

 

『………あぁ、インデックスは俺が救ってみせる』

 

安心したぜ、やっぱりコイツは…オレの思った通りの馬鹿(ヒーロー)だった。

 

「とりあえず、記憶のことをざっくり説明してやるよ。記憶っつゥのは『知識』と『経験』から成るもんだ。知識には知識の、経験には経験の役割が決められていて互いに圧迫するなんてことは絶対に有り得ねェんだよ。そもそも人間は140年分ぐらいは記憶を蓄えておけるんだよ」

 

『じゃ、じゃああいつらは……』

 

「大方、上の連中に言われたことを鵜呑みにしてたんだろォよ。ったく、こんなことすら知らねェとは同僚として呆れちまうよ」

 

そう言ってオレは上司であるあの女の面を思い出す。元々腹黒いヤツとは知っていたがまさかここまで腐ったヤツとはな、寒気がするよ全く。

 

「あの2人が言ったことは間違いだったが、今インデックスが死にかけてんのは事実だ。これが何を意味するのか、頭の悪ィお前でもわかるよなァ?」

 

『人為的に、インデックスは殺されかけている……!』

 

「そォいうことだ。インデックスの脳は確実に魔術で圧迫されている。身体のどこか、それも現役魔術師の2人はおろか当人すら気付かねェ場所に魔術の発信源がある筈だ。お前の右手でソレを潰せ」

 

『あぁ、わかった。神鬼、本当に助かったよ』

 

「早ェよバカ。礼ならインデックスを救ってからにしろや」

 

そう言ってオレは電話を切り、小萌先生のアパートへと向かう。

 

(見物させてもらうぜ? お前の幻想殺し(うんめい)がアイツの幻想(うんめい)を変えることができんのかをよォ)

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

大和の言った通り、インデックスは何らかの魔術で脳を圧迫されていた。そして、その魔術の発信源は普段人目に触れない場所、インデックス本人でも気付く筈のない場所、彼女の口の中にあった。

 

上条がそれに触れた瞬間、インデックスの両目に真紅の魔法陣が浮かび、上条を侵入者と断定し攻撃をしてきた。今上条は必死にインデックスの放った攻撃、竜王の殺息(ドラゴンブレス)をその右手一つで防いでいる。

しかしその絶大過ぎる威力は、幻想殺しの処理が間に合わないほどで、上条は徐々に後ろへと押し戻されていく。

 

「お前ら! いつまで固まってんだ!!!」

 

傍らで、変わり果てたインデックスを呆然と見るステイルと神裂に上条は叫んだ。

 

「待ってたんだろ!? ずっと……インデックスが、俺達が笑って迎えられる結末を!! 今! 手を伸ばせば届くんだ!!」

 

そうだ、上条だけじゃない。この2人も、そしてインデックス本人もずっと待っていた。

誰もが笑って終われるハッピーエンド、それをずっと望んでいた筈だ。

 

「いい加減始めようぜ!! 魔術師!!!」

 

上条がそう叫んだ瞬間、ついに幻想殺しの処理が竜王の殺息に押し切られ、上条の身体はバランスを崩す。

 

(ッ!? やばーーーー)

 

上条が竜王の殺息の直撃を覚悟した、その時だった。

 

「無幻・乱れ蜘蛛」

 

ステイルでも神裂のでもない、別の声が聞こえたかと思うと何十本ものワイヤーがインデックスの足場を崩した。

足場を崩されたことで竜王の殺息はアパートの屋根を突き破り、遥か上空へと飛んでいく。

 

「神鬼!!!」

 

上条、ステイル、神裂が後ろを振り返ると愛刀である六奏無幻を携えた神鬼大和が立っていた。

 

「神鬼! お前なんでここに……」

 

大和は上条にお前がインデックスを救えと言った。だかた上条はここには大和は来ないものだと思っていたので驚いていた。

 

「お前が本当にインデックスの運命(げんそう)を殺せるのか見にきたんだよ。が、どォやら見物だけって訳にもいかねェらしい」

 

大和はゴキゴキと首を鳴らす。

 

「聖ジョージの聖域に竜王の殺息、どォやらこっちも手を抜いてる余裕はないらしい。つゥ訳で、こっちも全開でヤらせてもらう」

 

ふぅうと大きく息を吐き、大和は魔力を全開にする。

その瞬間、魔術師であるステイルと神裂は勿論、上条ですら大和の何かが明らかに変わったのを感じる。

 

『新たな敵兵を確認。戦闘思考の変更・戦場の検索を開始ーーー』

 

大和の変化をインデックスも感じたのか、赤い瞳が睨むように大和を見る。

 

『現状、「上条当麻」及び「聖人 神鬼大和」の破壊を並行します』

 

「ハンッ! ヤれるもんならヤッてみな!」

 

す言って大和は六奏無幻に膨大な魔力を流し込む。魔力錬成した瞬間、大和の身体に強烈な痛みが走り、それに耐え切れず吐血する。

それでも大和は倒れることはない。いや、倒れる訳にはいかないのだ。誰のためでもなく、自分のために。

 

「…変われ、六奏無幻。却刀・邦津罪(くにつつみ)

 

大和の手には何時の間にか六奏無幻とは別の、全てが漆黒に染まった長刀が握られていた。その刀を見た瞬間、ステイルと神裂の表情が変わった。

 

「大和!? そ、それはーーー」

 

神裂が何か言い終える前に竜王の殺息が大和に襲いかかる。

大和は刀を構えると、一気に抜刀する。

 

「断罪・一ノ型」

 

振り抜かれた漆黒の刀身は光の柱を意図も簡単に叩き斬った。

 

「邦津罪は使い手の罪性を吸って力と化す。数え切れねェほど罪を背負うオレにはピッタリな刀って訳だ」

 

六奏無幻は大和の魔力を吸収すると、その名の通り6種の刀へと変わる性質を持つ。

現在大和が使っているのは邦津罪と呼ばれるもので、大和の言葉通り使い手の罪を吸って力を化す能力を持つ。

 

(さて、どォくるインデックス。オレの予想が正けりゃ次は……)

 

『警告、竜王の殺息による破壊……失敗。これより術式を変え新たな砲撃魔術を組み立てます』

 

(やっぱりそォくるか!)

 

103000冊もの魔道書を司るインデックスだ。竜王の殺息が叩き斬られたのなら恐らく別の攻撃を仕掛けてくると大和を読んでいた。

そして、大和が狙っていたのは正にこの時、インデックスが新たな術式を組み立てるまでの僅かな時間だった。

 

「上条、オレがカバーするから今のうちにインデックスに接近してアレを殺せ。流石のオレもそォ長くは保たねェ…」

 

大和の口からは血が流れ腹部からも出血しており、立っているのもやっとという状態だ。早く決着を着けないとマズいのは誰が見ても明らかだった。

 

「……わかった。頼んだぜ! 神鬼!!」

 

そう言って上条は一気に駆け出す。とても狭い部屋の筈なのに、インデックスまでは途轍もなく長い距離に感じた。

 

大和は竜王の殺息によって発生した何枚もの光の羽を邦津罪で弾き飛ばす。この光の羽は竜王の殺息で破壊された物質で、当たれば人体に酷い損傷を与えてしまう。

今にも気を失いかねない激痛が身体を襲う中、大和は必死にそれを弾き飛ばす。

 

「ハァ…ハァ…! ゲホッ! ゲホッ!」

 

大量に吐血した大和に上条は思わず振り返りそうになる。が、大和の叫びがそれを止める。

 

「行け! 上条!! お前のその手で…運命を切り拓け!!」

 

大和の言葉を聞いて上条はインデックスに接近する。

 

(この世界が神様の作った奇跡(システム)の通りに動いてるってんならーーー)

 

上条は手を伸ばす。

みんなが望んだ瞬間、誰もが笑って迎えられるハッピーエンドを掴むために。

 

(まずは! その幻想をぶち殺すッ!!)

 

上条の右手がインデックスに触れる。

その瞬間、インデックスを蝕んでいた首輪(げんそう)は破壊された。

 

『「首輪」、地名的なハカイ……警、こくーーー再生、不可……最終…消………』

 

インデックスは力なく崩れ落ちた。上条はインデックスの無事を確認するとホッとした表情に変わり、それを見たステイルと神裂も同じような表情をする。限界を迎えた大和はドサッとその場に倒れ込んだ。

 

すると、インデックスと上条の頭上に1枚の光の羽がヒラヒラと舞い落ちる。音もなく落ちてくるため上条は気付いていない。

大和は上条に知らせようとしたが声が出ない。ようやく気づいたステイルが上条に知らせるが反応の遅れた上条の右手をすり抜け、羽はインデックスに向かう。

 

上条は、咄嗟に自分の頭を突き出した。羽が上条の頭に舞い降りた瞬間、金槌で頭を殴られたかのように全身の、指先一本に及ぶまで力を失った。

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

朝になり、オレは土御門とそしてステイルと共に教会にいた。今後のことを話し合うためにだ。

 

「で、インデックスはどォなる。やっぱりイギリスに連れて帰るのかよ」

 

「上は『大至急連れ戻せ』って言ってるけど、実際は様子見という所だ。なぜそんな寛大な処置に落ち着いたのはわからないけど…しばらくはあの子のしたいようにさせておくよ」

 

「ふーん、まァオレ個人としては本国に連れ帰って欲しかったけどなァ。どォせアイツは上条んとこで保護すんだろ? おなかへったってオレんちに乱入してくるのが目に見えてる…」

 

「にゃー鬼やん。そのことなんだけど……」

 

やけにニヤニヤしながら土御門がコッチを見ている。コイツがこーいう面する時は碌なこと言わないのがオチだ。

 

「禁書目録の保護は鬼やんにもやってもらうぜよ?」

 

「ハァ…? ハァァァァァあああああッ!?」

 

やっぱり、コイツと関わると碌なことがない。

 

「幻想殺しがあるとはいえ上やん自体の実力(スペック)は喧嘩慣れした高校生程度ぜよ。上やん1人では常に禁書目録を保護するのはかなり不安なんだにゃー。それに加えカミやんは記憶喪失ときた」

 

「そこで上条当麻ともあの子とも知り合いで、尚且つ実力も高く学園都市に詳しい人物として大和が挙がったんだ。君の実力があれば神裂クラスの魔術師でも引っ張ってこないと話にならないからね」

 

冗談じゃない! やっと終わった筈なのに、これ以上面倒なことに巻き込まれてたまるか!

当然オレは断ろうとしたが、それよりも早く土御門が口を開いた。

 

「先に言っとくと、鬼やんに拒否権はなしぜよ。実は禁書目録の攻撃で樹形図の設計者が破壊されたんだにゃー。ステイルから聞いた話じゃどうやら鬼やんが原因ってことだが?」

 

「なっ!? この不良神父!!」

 

オレはステイルを思いっ切り睨むが当の本人は僕は起こったことを説明しただけだと言って素知らぬ顔をしてやがる。

 

「さーどうする鬼やん? 断ってもいいがそん時は樹形図の設計者の件は全部統括理事会にバラすことになるぜよ?」

 

確かに竜王の殺息の軌道を逸らしたのはオレだ。けどアレは上条を守るためで樹形図の設計者に直撃するなんざ夢にも思わなかった。

しかもそのことで土御門に揺すられるなんざ最悪だ…。

 

「幸い連中はまだ樹形図の設計者が破壊されたってことしか知らねぇぜよ。けどもし連中に知られたら鬼やんは一生統括理事会にこき使われるのは明白だにゃー」

 

選択の余地はない…。運命は自分で切り拓くのがオレの信条だが世の中には必ず例外はある。

そうでも思わないとやってられないんだよコラ。

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