インデックスが上条に噛み付いている間、オレは隠れて土御門に電話する。勿論探し物〈インデックス〉を見付けたと伝えるためだ。
「土御門か? 朗報だぜ? インデックスを見付けたぞ」
『本当かそれは!? 場所は!?』
「オレんちだァ。不幸なのか幸運なのかわからねェが上条んちのベランダに引っかかってたんだとよ」
それを聞いて土御門は一瞬だけ黙ったが、すぐにインデックスを確保するようにオレに言った。
「……なァ、土御門。インデックスはこの後どォなる」
なんでこんなわかりきったことを聞いたのかオレにもわからない。それは土御門も同じだったようでなんでそんなことを聞く?、と聞き返してきた。
「なんとなく気になっただけだ」
『そうか…。本国に帰還した後は間違いなく監禁だろうな。流石にロンドン塔にぶち込まれるってことはないだろうが似たような扱いは受けることになるだろうな』
「やっぱりか…。ほんと連中も変わらねェな、相変わらず反吐が出る」
『そう言うな鬼やん。お前が禁書目録のような境遇の人間に情が湧くのは知っている。だからこそ言っておくぞ、これが禁書目録の運命だ。間違っても必要悪の教会に刃向かうような真似はするなよ?』
運命か、運命に逆らうのがオレの信条だが必要悪の教会には育ててもらった恩義もある。オレはインデックスに湧いた情を押し殺した。
「…わかってる。じゃあさっさと回収しに来いよ。オレの気が変わらねェうちに」
そう言ってオレは電話を切る。なんとも言えないモヤモヤが残ったが…。
オレが戻るとインデックスは玄関にいた。
上条に破壊された歩く教会は安全ピンで無理矢理修理されていた。どうやら出ていくつもりらしい。
「ちょっと待てよ、だったらなおさら放っとけねーだろ。魔術オカルトは信じらんねー、けど「誰か」が追って来てるって分かってんのにお前を外になんか放り出せるかよ」
そう言って上条がインデックスを引き止めている。
相変わらず反吐が出るぐらいお人好しなヤツだ、さっき会ったばかりのヤツなんか放っておけばいいのに。勿論オレはそういう訳にもいかないのでインデックスを止めようとした。
「じゃあ、私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?」
喉元まで出ていた言葉が、インデックスの言葉に消された。
インデックスはオレと上条にこう言っているのだ。優しい言葉で、『これ以上関わるな』と。
オレは何も言い返さなかった。イヤ、言い返せなかった。
「じゃあね、ご飯ありがとう」
凍り付いたオレ達にインデックスは最後まで笑顔で礼を言って出て行った。オレの部屋に帽子を忘れて。
「オイ上条、この帽子はテメェが持ってろ。テメェが招き寄せた不幸なんだからよ」
上条は左手で帽子を受け取ると自分の部屋に戻って行った。オレは土御門に『インデックスが逃げた」とだけメールを打ってココアとカフェオレを買いに出かけた。
☆ ☆ ☆
「どうしたんでい、あんちゃん。随分浮かねー面してるが?」
夕方、オレは行きつけの喫茶店のカウンター席にいた。ここのココアはオレのお気に入りで暇さえあればよく飲みに来ている。
「テメェに関係ねェだろ……」
だがそれ以上にオレがここによく来るのはマスターがオレと同じ、必要悪の教会の非正規の元エージェントだからだ。なんで学園都市に来たのかは教えてくれないが。
現在は喫茶店のマスターをしながら情報屋的なことをしている。
「もしかして失恋か!? いやぁ聖人様も恋愛とかすんだね〜」
「違ェよバーカ。ちょっと仕事のこと考えてただけだ」
「あんちゃん、土御門のヤツには通じても俺にはその嘘通じねーでっさぁ。当ててやろーか? 禁書目録のことだろ」
コイツの人の心を読んだかのような発言にはいつも驚かされる。 読心系の能力者かと時々思う。
「図星みてーだな。まー無理ねーでっさぁ。まだ子供なのにあんな境遇の子見たらあんちゃんなら同情するよ。俺も初めて禁書目録を見た時は似た感情を抱いたもんでっさぁ」
「なんだテメェ、非正規のクセにインデックスのこと知ってんのか?」
「俺はほぼ正規みてーな感じだったからな。すげーよなあの子、あの歳で自分の置かれた状況を理解している。俺だったら絶望するね確実に」
それはオレも同じだ。オレは昔、聖人の力に絶望した。103000冊の魔道書なんかに比べれば何でもない程度の運命にすら絶望した。インデックスを見たらそんな自分がつくづく情けなく思える。
「あんちゃん、人生の先輩としてアドバイスするが迷っている時こそ行動だぜ? 日本には『後悔先に立たず』ってありがたいお言葉があるんだぜ?」
マスターの話を聞いて、オレはあの時インデックスに言われた言葉を思い出す。
じゃあ地獄の底までついてきてくれる?
(面白ェ……オレは地獄も天国も信じねェが、テメェのいう地獄…見せてもらおうじゃねェか…!)
と、その時だった、近くで魔力を感じた。それもただの魔力じゃない、強力で膨大な魔力だ。おまけに懐かしい感じの。
「行ってこいあんちゃん。ココア代はツケといてやるよ」
マスターの言葉を聞いてオレは店を飛び出した。地獄に付付き合うのではなく地獄から救い出すために。
☆ ☆ ☆
大和は強い魔力を感じた場所、自宅である寮までの道を人間離れしたスピードで駆け抜ける。
聖人の魔力を押さえ込んでいる青い石のネックレスの色が若干赤みがかっている。このネックレスは大和の意思で抑え込む魔力を最大値の半分まで調節できる優れもので赤に近付くほど放出されている魔力の量が多いことを示している。
あっという間に寮の前に到着した大和は上を見ながら立ちすくむ上条を見付けた。それだけなら何でもないが周りの自転車が何台も倒れており、上条の服も所々焦げているのを見ると普通の状況ではないのはすぐに理解できる。
「オイ上条! 大丈夫か!?」
「!? ………なんだ、神鬼か…」
大和が声をかけると一瞬驚いた顔をしてこっちを見るが声の主が大和だと分かると途端に上条は安心した顔をする。大和が先程までの上条と同じように見上げると、そこには炎でできて人の様な形をした者が二階の手すりを持ちながらこちらを見ていた。
「魔女狩りの王〈イノケンティウス〉か…。あのクソ神父…面倒なもん出してきやがって…!」
「ど、どうして神鬼はあれの名前を知っているんだ!?」
「説明は後だ。それよりどォいう状況か教えろ」
上条の説明によると、あれはステイルと言う男が魔術によって作られた物だと説明して、インデックスを追って来ていた奴らはあいつらの事という事をそしてインデックスが重傷である事を大和に説明する。
「上条、オレが野郎の注意を引き付ける。テメェはその間にインデックスを確保して逃げろ。あと治療もな」
大和の言葉を聞いて上条はキョトンとした表情をした。
「なんだその面は。何か文句でもあんのかコラ」
「いや…お前が頼んでもないのに協力してくれるなんて珍しいと思って……」
その言葉を聞いて大和は少しだけ笑ってこう言った。
「オレのマイホームが焼かれてんだ。野郎一発殴るついでだっての」
そう言って大和はエレベーターに乗り込む。
どうやって注意を引き付けるんだ?、という上条の質問に大和はこう答える。
「安心しろ、バケモンに勝てんのは同じバケモンだけだ」
魔術師であるステイルは煙草を吸いながら学生寮から飛び出した上条が戻ってこない事について考えていた。
魔女狩りの王に怯えて逃げ出したのか?、と考えそれなら早くインデックスを回収して立ち去ろうとした時、後ろの方からキンコーンと音が聞こえた。ステイルは上条が戻ってきたのか?、と思ったがそれはあり得ないと考える。
魔女狩りの王は戦闘機に積んだ最新鋭のミサイルと同じような物で一度でもロックしたら絶対に逃げ切る事は不可能で例え隠れたとしても3000度という炎の塊は障害物や壁、鋼鉄さえも溶かして一直線に進んでくる。
もしエレベーターのような密室に逃げれば確実に魔女狩りの王に殺されてしまう。
なら誰が?、と思い小刻みに揺れながらステイルは振り向くとそこには上条ではなく鮮やかな茶髪に赤と青のオッドアイの少年、かつて同じ釜の飯を食った元同僚が立っていた。
「……久しぶりだね大和。いや今は、あのアレイスター・クロウリー以来の希代の裏切り者かな?」
「裏切り者か…。オレは裏切ったつもりはねェけど?」
「よくもそんなふざけたことを平然と言えるね。僕が最大主教なら今すぐにでも君を破門にしてるよ」
戻ってきた魔女狩りの王を傍にステイルは大和を睨む。
「一応、同僚だからチャンスを上げよう。今すぐにここから消えるんだ。流石に僕も同僚を焼き殺すのは心が痛む」
「おうおう言ってくれんじゃねェか。けど残念ながらいろいろ間違ってるぜ? まず1つ、チャンスは与えられるもんじゃなくて自分で掴むもんだ。そして2つ目は……」
大和はフゥと息を吐く。その瞬間、ステイルは大和が纏う雰囲気が変化したのを確かに感じた。息をするのも苦しいほどの凄まじい敵意を。
「テメェじゃオレには勝てない」
それが開戦の合図といわんばかりに炎の巨人が大和に突進する。魔女狩りの王はあっという間に大和を包み込んだ。
「何がオレには勝てないだ。昔から君を本当によく虚勢を張る」
流石の聖人も3000度の炎に包み込まれれば灰になるだろう。勝利を確信したステイルだがその確信は一瞬にして崩れ落ちた。
「虚勢を張る癖はテメェもだろ? ステイル」
なんと魔女狩りの王の中から大和がゆっくりとステイルに向かって歩いていた。服の所々は若干焦げているようにも見えるがその程度なんともない。
先ほどの上条は右手だけで 魔女狩りの王を打ち消していた。それだけでみても非常に驚く所だがあくまで上条の幻想殺しは右手だけなので、さっきの様に魔女狩りの王に包まれれば確実に灰にされていただろう。にも関わらず麻生は火傷一つなくステイルに向かって少し笑みを浮かべながら歩いてた。
「まさか…魔術を!? だが貴様にもう魔術は……」
「ん? あーその通り、この街で能力開発を受けたオレにもォ魔術は使えない。まァ使おうと思えば使えるがな。かつて魔術界最強と称された力を失った代わりに、オレはスゲェ能力を得た」
大和は一呼吸置くと、言った。
「事象選択〈オールセレクト〉、これが今のオレの力だ」
事象選択〈オールセレクト〉
物理法則に虚数を介入させる能力。
実数世界上の実軸ベクトルに直交する虚軸ベクトルを干渉させることにより実数世界の物理法則では有り得ない現象を引き起こす。空間を数学的に把握する才能と複素数に対する深い理解がなければ自分ですらどのように作用するか予測できない。今の大和は空間を完璧に把握していないので全ての現象に対して自ら望む結果を引き出すことはできない。
発生した現象、事象を自らの意思で捻じ曲げる…ゆえに大和はこの能力を事象選択と命名した。
「この魔女狩りの王、随分成長したなステイル。最初は話になんねェレベルだったが…これならそこら辺の雑魚相手なら十分だろ。けど、いろいろと改善点が多いな」
そう言って大和はステイルがこの学生寮に張り付けたルーンが書かれている紙を取り出す。
「コピー用紙にインクで書いたルーンじゃ水に濡れたらアウトだ。それに紙の配置が一箇所に集中し過ぎている。だから簡単に……」
大和がパチンと指を鳴らす。するとその瞬間に魔女狩りの王が霧散した。
「操ることも消すこともできる。魔法陣の作り方から変えた方がいいぜ?」
魔法陣を書くことだけなら能力者にもできる。が本来は能力者にそのような知識はないため実質不可能に近い。だが大和はかつて魔術界最強と称された魔術師、魔術に関する知識はステイルを遥かに凌駕する。一箇所に集中し過ぎていたルーンの配置を変えることなど何の造作もない。
魔術師としての圧倒的な力量の差を見せ付けられたステイルは思わずこう呟いた。
「Electrix777……運命すらも変える者……」
「人の魔法名、勝手に言うんじゃねェよ」
大和は一気にステイルとの距離を詰めると右手で拳を作る。その拳はステイルの顔面に突き刺さり向こうの壁に激突するとステイルはそのまま意識を失った。
☆ ☆ ☆
翌日の朝、オレの携帯が鳴る。画面には上条当麻の名前が記されていた。
『無事か!? 神鬼!』
「当たり前だろォが。ピンピンしてるよ。で、そっちこそ上手くいったのかよ?」
声の主は間違いなく上条でどうやらオレの無事を確認する為に電話をしてきたようだ。
『お陰様でな。今は小萌先生の家に居候している。そっちはまた敵が待ち伏せしているかも知れないからな、あとインデックスの治療も上手くいった』
「そォかい、そりゃよかったなァ。んじゃオレはこれで………」
『あっ! ちょっと待ってくれ!』
電話を切ろうとするオレを上条が止めた。
「なんだ?」
『なぁ神鬼、お前はなんで魔術のことを知ってるんだ? インデックスが言った時は否定したのに…』
「…それに関してはノーコメントだ。いずれわかる。その時まで待ってくれ」
『そうか……けど、昨日は本当に助かった。また助けてくれるか?』
「……気が向いたらな。つーかオレを頼らねェようお前も努力しろ。じゃあな」
そう言ってオレは電話を切った。オレは本来の仕事である幻想御手の情報収集するべく外に出た。このままいつもの日常に戻ることを祈りながら。
学生寮から出てきた大和を、数百メートル程離れた場所からステイルが双眼鏡で彼を観察していた。
「禁書目録に同伴していた少年の身元を探りました。………禁書目録〈かのじょ〉は?」
「生きているよ。もしかしたらヤツが治療を……いや、それはないか。ヤツは壊すことしかできないからね」
ステイルは振り返ることなく後ろの女性にそう言った。
長い髪をポニーテールに括り、Tシャツに片方の裾を根元までぶった切ったジーンズ、
腰のウエスタンベルトには巨大な日本刀いうステイル同様に明らかに普通ではない奇抜な格好の女性の名前は神裂火織。彼女も大和の同僚である。
「で、あの奇妙な右手のヤツはなんだ?」
「それですか、少年の情報は特に集まってはいません。少なくとも魔術師や異能者といった類ではない、という事になるでしょうか」
「何だ、もしかしたらアレがただの高校生とでも言うのかい?やめてくれよ。僕はこれでも現存するルーン二四字を完全に解析し、新たに力のある六文字を開発した魔術師だ。何の力持たない素人に手こずったとでも言うのかい? 冗談にもならないよ」
「それもそうですが、我々にとって一番の問題は彼ではありません。問題なのは……」
神裂は相変わらず敵意剥き出しで歩く大和を眺めながら言った。
「大和です。彼がこの街にいるのは知っていましたがまさか対立してしまうとは……」
「それは僕も同感だよ。ヤツの性格を考えれば介入することはまずないと踏んでいたが、よりによって対立してしまうとはね。神裂、彼には勝てそうかい? もし次対立することになれば」
「……正直かなり勝機は薄いです。同じ聖人でも私と大和では格が違います。魔術が使えない分、こちらに分があると思ってましたがステイルの報告にあった彼の新たな力…非常に脅威です」
神裂も大和の必要悪の教会時代はよく彼の隣で共闘した。あの頃は誰よりも頼りに感じたこそわかる。敵に回ればどれほど強くて恐ろしいかを。
「ステイル、どうでしょう。彼も同僚です、我々の事情を話して協力を………」
「そんなことしてみろ、裏切り者に協力を仰いだって最大主教から何か言われるかわかったものじゃない。それにヤツの性格は君が、公私のパートナーだった君が一番よく知っている筈だ。一度ヤツと対立してしまった以上もう協力はない。例え君の願いでもね」
それ以上にステイルは大和に協力を仰ぐことがしたくなかった。
ステイルにとって大和は雲の上の存在であり最も尊敬できる存在でもあった。向こうはどう思っていたかは知らないがステイルに魔術のノウハウを指導してくれた兄のような存在だった。
しかし大和はある日突然、自分の前から姿を消した。何も言わずに、それも科学の街へと去ったのだ。あの日以来、ステイルにとって大和は目標にすべき存在から越えなければならない存在へと変わった。
「神裂、次は君の番だ。くれぐれもヤツに泣きつくなんて真似はしないように」
「……わかっています」
神裂は、これから起こるかもしれない同僚との戦いに気を引き締めるのであった。