第一七七支部を出たオレはすぐにマスターに電話する。
『おう、あんちゃんどうした? 悪いが幻想御手の情報は……』
「違ェよバカ。実はある人物のことを調べて欲しい。幻想御手事件で風紀委員は専門家と協力して調べているらしくてな、名前から過去まで調べれるだけ調べてくれ」
オレはこう言った情報収集は苦手だ。この件はコイツに任せてオレは幻想御手の仕組みを調べることにした。能力者であり魔術師でもあるオレだからこそわかる何かがあるかも知れない。
『うーん、わかった。とりあえず今から調べるから今夜、店に来てくれ。逐一報告して欲しいんだろ?』
「わかってんじゃねェか。んじゃ今夜店に行くから上手いココア用意しとけ」
それから数時間後、オレは喫茶店でマスターからの報告を聞いていた。
風紀委員と協力している専門家とやらの名前は木山春生というヤツで幻想御手使用者が次々と昏睡状態になっているので派遣されてきた脳科学者らしい。
「悪いなあんちゃん。時間がなかったからこれぐらいしかまだわかってねーんでっさぁ。あんちゃんの方は何かわかったのか?」
「あァ。よォやく幻想御手の仕組みがわかったぜ。多分幻想御手は共感覚性を応用したもんだ」
共感覚性。
共感覚性とは一つの感覚を刺激することで二つ以上の感覚を得る事。分かりやすい例を述べると暑い時に風鈴の音を聞くと涼しく感じる時があるだろう。
このように目や耳など一つの情報で五感に働きかける事を指す。
オレの仮説が正しければ幻想御手は特殊な音波で五感すべてに作用させている。その結果、使うだけ能力のレベルが上がっているのだろう。
「なるほどね〜。確かに共感覚性ってのは可能性高いな。けどそのあんちゃんの仮説、どうやって証明するんだ?」
「そんなもんは風紀委員に任せりゃいい。多分そのうち連中も気付くだろ。つーかオレにとっちゃ仕組みなんざどォでもいいんだよ。オレの目的は幻想御手の開発者を見付けることだからな」
「じゃあなんで必死になって仕組みを調べた?」
「テメェが言った通り、使うだけでレベルが上がるなんて代物そこら辺のド素人に作れる筈がねェ。となれば、その分野の専門家が作ったと見るのが普通だ。だがレベルが上がる仕組みがわからねェと一体どの分野の専門家なのか絞り切れねェだろ。だから仕組みを調べたんだ」
「なるほどね。ならこの木山ってヤツは? もしかしてあんちゃんはコイツが黒幕だと?」
「ソレに関してはまだわかんねェ。一応コイツも関係者だから気になるだけだ」
オレはそう言ってココアを飲み干すとマスターが撮ってきた木山春生の写真を手に取る。オレは経験上、自分と同じように小さくない闇を抱えているヤツは面を見れば大体わかる。あくまで木山の面は写真なのでハッキリとは言い切れないがコイツも小さくない闇を抱えている、そんな気がした。
まぁオレには関係ないがな。
「で、どうする? このまま木山の調査を続ければいいのか? あんちゃん」
「あァ、そのまま続けてくれ。あと報告は逐一じゃなくていい。何かこの街の闇に関わる感じの情報だけ教えろ」
そう言ってオレは喫茶店を出る。情報量とココア代は今回のヤマが終わってから払うつもりだ。いわゆる出世払い的な感じで。
☆ ☆ ☆
それから3日間は幻想御手に関してもインデックスに関しても何も進展はなかった。
マスターからの報告もなければ電気ネズミに絡まれることもない。花瓶やパンダからも連絡がなければ上条からは近況報告以外の連絡もないし魔術師の襲撃もない。
オレ自身も木山春生を一応は観察しているがこれといった怪しい動きもない。久しぶりに平和(?)な日々をエンジョイしていたが、それをブチ壊すかのように携帯が鳴った。
マスターからの報告か?、と思ったが画面にはマスターの名前ではなく花瓶の名前が映っていた。
「神鬼さん……」
いつものようにうるさいぐらいの元気な声が響くと思ってたが予想に反して花瓶の声は沈んでいた。
「オイどォした? 随分元気ねェようだが…」
「佐天さんが倒れました」
花瓶が言うには最近全く連絡が取れなかった佐天から先程電話があったらしい。そこで友人と共に幻想御手を使ったことを告白し、友人の1人が昏睡した。急いで佐天の部屋に向かうと彼女も他の使用者同様に昏睡状態になったらしい。
「……ふーん。で、なんでオレに連絡してきた。オレは医者じゃねェぞ?」
「神鬼さん、佐天さんは欠陥品なんかじゃないですよね…?」
多分同じ質問も、佐天にもされたんだろう。コイツのことだ、きっと佐天さんは欠陥品なんかじゃありません!!!、とか言ったのはいいが他人の答えも聞きたいのだろう。
「…さァな。欠陥品かもしれねェしそォじゃねェかもしれない。それは佐天次第だな」
「ど、どういう意味ですか?」
「佐天自身が自分を欠陥品と思えばアイツは欠陥品だ。けど、そう思わなければ欠陥品じゃねェ。他人の価値なんて誰にもわからない、わかるのは自分だけだ。無能力者が欠陥品なんてオレは思わねェぜ? たまたまこの街の尺度が能力の有無だっただけだろ。
大切なのは自分を信じること。周りからどんなにボロカスに言われても自分を信じ続けろ。オレにはそれしか言えねェよ」
似合わないな、心底そう思った。こんな言葉吐けるほどオレは立派じゃないし吐く資格もないのに。
だが花瓶にはオレの言葉が響いたらしく、元気な声で礼を言ってきた。
「ありがとうございます!!! 私、頑張ります!! あと神鬼さん」
「なんだよ? まだなんかあんのか」
「神鬼さんも手伝ってくれませんか? 神鬼さん、すごく強いんで」
「………あまり期待はすんじゃねェぞ?」
そう言ってオレは電話を切った。それと同時に今度はマスターから電話が掛かってくる。
「何かわかったのか?」
『あぁ、面白い情報を掴んだぜ? あんちゃん、AIM拡散力場制御実験とかいうの知ってるか?』
確か
「まァ一応はな。で、それがどォかしたのかよ?」
『実はあの実験の本当の内容は、AIM拡散力場を刺激して暴走の条件は探るものだったらしい。科学のことはよくわからねーが、被験者の現状を見た限りじゃかなりイカれた実験なんだろうな』
「……聞くだけで吐気がする内容だ。それが木山とどォ関係ある?」
『木山春生はその実験の参加者だ。彼女自身は本当の内容は知らなかったようだが被験者を意識不明にしたのは事実だ。彼女はその後、
超高性能な並列コンピューターであり、正しいデータさえ入力してやれば、完全な未来予測(シミュレーション)が可能らし。
ただ誰でも使える訳ではなく今回のように暗部に踏み込みかねない事柄に関しては使うことは許されない。
「まさかテメェ、それだけで木山が今回の黒幕だと言いてェのか? いくらなんでもそりゃ無理があるぜ。大体それじゃ幻想御手を作った理由になんねェだろ」
幻想御手制作の理由なんてどうでもいいと言った筈なのに、オレはいつの間にか制作理由に興味を持っていた。自分でも気付かないうちに。
『これは知り合いの医者から聞いたんだが、人間の脳波ってのは活動によって揺らぐらしいんだが、それを無理矢理正せば人体の活動に大きな影響が出るらしいんだ。で、今回の幻想御手の被害者の脳波は、木山春生と全く同じだったらしい』
それを聞いた瞬間、オレの頭の中である仮説が立てられた。仮説とは言ったが十中八九、これが正解だろう。それを証明、そして花瓶の願いを叶えるためにも一刻も早く木山を確保する必要がある。
『あんちゃん、速報だぜ。警備員が高速道路を封鎖したらしい。多分木山春生を捕まえる気だな』
それはマズい。留置場にブチ込まれたら流石に面倒だ。警備員に捕まる前に木山を確保しなければ統括理事会に何を言われるやら…。
オレは聖人の力を少し解放し、高速道路に向かった。