無貌の王と禁忌教典   作:矢野優斗

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感想での【ノーフェイス・メイキング】についてのご指摘ですが、七巻にざっと目を通した結果、このまま固有魔術(オリジナル)として扱うことにしました。
というのも、眷属秘呪(シークレット)は血族が先祖代々伝えるものだからです。そうなると拾われた子であるロクスレイは無貌の王(ロビンフッド)の継承ができません。むしろ読んで気づいたのですが、何方かと言うと無貌の王はザイードと似たようなタイプを予定しておりました。
これ以上はネタバレになってしまいますので控えますが、そのような方針でいきます。

最後に一言──ザイードって、え? 他愛なしのあの人?(笑) そう思ったのは自分だけじゃないはず。



第三部&第四部
珍しく無貌の王が頭を抱えたワケ


 その日、ロクスレイは柄にもなく目の前の現実を否定したい気持ちになった。

 

 事の始まりは早朝、学院正門前で起きた。

 

 ルミア=ティンジェルの護衛任務を請け負ったロクスレイは、常日頃からルミア+αの身辺警護に勤めている。学院内は勿論の事、学院外でも悟られないよう注意を払いながら家までの帰り道を護衛。フィーベル邸の近くに取った家で休みつつ、ルミアが出かければついていく。これがロクスレイの一日である。

 

 言葉にすると凄まじく犯罪臭が漂ってくるが、ロクスレイなりに護衛任務に取り組んでいるのだ。

 

 結果としてここ最近、システィーナがグレンと早朝個人レッスンを始めたという特に必要性のない情報を得たり、ルミアが朝にかなり弱いという一面を知ったりしている。役に立つ情報かと言えば、否であるが。

 

 ともあれ、今日も今日とてグレンとのレッスンを終えたシスティーナが家に戻り、しばらくして身支度を整えたルミアとシスティーナが屋敷を出た。無論、ロクスレイも気づかれないよう気配を薄め人混みに紛れながら登校する。途中、毎度偶然を装ってルミアの護衛をするグレンを加え、一行は学院への道を往く。

 

 ルミアが本格的に天の智慧研究会に狙われていると判明して以降、グレンはルミアの登下校に自主的に同行するようになった。偏に、ルミアを護衛するためである。

 

 おかげで一部のグレンを嫌う生徒や講師からの誹謗中傷の凄い事。特に男子からのやっかみ、妬み嫉みは留まるところを知らない。本人は全くもって気にも留めていないが。

 

 グレンにとってルミアは守るべき己の生徒。何を言われようと構わず護衛を続けている。その一度決めたら貫き通す在り方、心ない罵詈雑言を浴びせられても平然としている様は、ロクスレイをして敬意を払わざるを得ない。

 

 有事の際には戦力としてカウントできるのでこのまま頑張って頂きたいのがロクスレイの本音であるが。

 

 他愛ない会話を交わしながら登校する、いつもの風景。ここまでは何ら異常もなかったのだ。

 

 だが学院正門前に差し掛かった所で、奴は現れた。

 

 世間一般的に珍しい青い髪と瑠璃色の瞳。小柄な体躯に童顔で年齢以上に幼く見られがちな風体。全く感情を見せない無表情がデフォルトである癖に、やる事なす事考えなしの脳筋戦車。

 

 リィエル=レイフォードが待ち構えていたのだ。それも、グレンを視界に捉えれば大剣片手に猪の如く突撃、躊躇いなく襲撃する始末。ロクスレイもすわ敵襲かと危うく飛び出すところだった。

 

 これだけならまだいい。グレンがまだ帝国軍の魔導師時代にも似たような光景は度々あったし、またいつものじゃれ合いかと流せた。

 

 だが、よりにもよって問題児筆頭リィエル=レイフォードが、編入生として二組に送り込まれてきたのは、ロクスレイをして理解に苦しむ案件である。正直言って、ワケが分からないよ、であった。

 

 いや、おおよその裏事情は読めている。恐らく、リィエルは帝国宮廷魔導師団から派遣された王女の護衛だ。自爆テロから始まり先日の魔術競技祭の一件を踏まえ、ルミアの側に護衛が必要だと判断したのだろう。帝国宮廷魔導師団の魔導師は精鋭揃いなので護衛としての実力は申し分ないが。

 

「特務分室は適材適所って言葉を知らないのか……?」

 

 ロクスレイも自身が護衛というデリケートな仕事に向いていないタイプだと自覚しているが、リィエルは輪をかけて護衛に適していない人種である。

 

 作戦立案など知ったことかと暴れ回って敵味方関係なく度肝を抜くバーサーカーぶり。外様だからという理由でしょっちゅうリィエルを押し付け、もとい成り行きで組まされた経験の多いロクスレイは、如何にリィエルが護衛任務に向いていないか、原稿用紙にして百枚は書き上げられる自信があった。

 

「いよいよもって帝国軍は頭が沸いちまったのか? つか、あれに学生生活とかまともにできんのかね……」

 

 幾度となく組まされたからこそ分かる。理由は知れないがリィエルはとかくグレンに依存している。それもかなり深度が深い。それこそ有事の際はルミアを放ってグレンを守りかねないほどにだ。そんな娘を護衛役に抜擢する帝国軍部、延いては帝国宮廷魔導師団の正気を本気で疑った。

 

 だが文句を並べ立てても現実は変わらない。早速とばかりに自己紹介でリィエルが「グレンはわたしのすべて。わたしはグレンのために生きると決めた」と爆弾発言、グレンが盛大な被害を被って生徒達が騒ぎ、授業妨害だと一組の担当講師ハーレイが乗り込んでくる。

 

 相も変わらず混沌とした空気となりつつある中、ロクスレイは密かに頭を抱えて机に突っ伏した。

 

「頼むから、面倒事は起こしてくれるなよ……」

 

 因みにその祈りは一日どころか一時間と経たずして粉々に砕け散った。

 

 

 ▼

 

 

 所変わって魔術競技場。二組はグレンの指示で魔術の実践授業真っ只中である。

 

 リィエルの自己紹介爆撃事件によって大幅に授業予定に狂いが生じ、仕方なくグレンは予定を変更した。外に出て皆で身体を動かすことで、リィエルが早くクラスに馴染めるようにと配慮した結果でもある。

 

 実践授業の内容は端的に言えば的当て。二百メトラ離れた位置に置かれた的付きゴレームを魔術で狙い撃ち、その結果を記録しつつグレンが的確に助言をする。内容的に言えば至ってまともだ。

 

「六発中四発的中か……お前ならもう少しいけそうだと思ったんだけどな、ロクスレイ」

 

「期待してくれるのは嬉しいですけどね、生憎とオレは魔術での狙撃は得意じゃないんですよ。頑張ってこんなもんですわ」

 

 システィーナやギイブルといった成績優秀者が全弾的中、ウェンディあたりが一発ミス、その他は三発的中の平均を彷徨っている。そんな中で平均よりは上だが上位の面々に食い込むほどではない結果をロクスレイは残した。

 

 しかし競技を終えたロクスレイを見るグレンの目は怪訝に細められている。本当はもっといけるんじゃないのか、と視線が物語っていた。

 

 だがロクスレイは疑いの眼差しも何のその、飄々と肩を竦めて受け流す。

 

「この前の競技祭での活躍で勘違いしてるのかもしれませんがね、基本的にオレはそこまで優秀な生徒じゃないんですよ。この前のはたまたま得意分野が嵌っただけの偶然だ。それは先生が一番理解してるでしょ?」

 

「まあ、確かにそうかもな。なら、次はもう少し的を見て魔術を撃て。でないと、当たるものも当たらないぞ」

 

「はいよ」

 

 グレンからのアドバイスを軽く聞き流してロクスレイは狙撃の定位置から離れる。入れ替わりに別の生徒が入り、魔術の実践を行っていく。

 

 実を言えば、ロクスレイの魔術狙撃の技量はもっと高い。帝国宮廷魔導師団特務分室所属のエース魔導師たるアルベルトほどの超絶技巧はないが、純粋な狙撃術においては負けていない。ただし学院内では上の下という成績を維持するロクスレイが六発六中なんて結果を残せば、要らぬ疑いや期待が掛かる。そんなものは仕事の邪魔でしかないと断ずるロクスレイは、あからさまにならない程度に敢えて加減したのだ。

 

 付け加えるならば、ロクスレイは魔術よりも弓による狙撃の方が得意だ。無論、飛距離や貫通力などで弓矢は魔術に劣るが、それを補って余りあるだけの技量を持ち合わせていると自負している。

 

 生徒達の集団から離れ過ぎず、かつ近過ぎない立ち位置で授業風景を眺める。順調に生徒達は実践を終えていき、やがて今世紀最大の問題児の出番がきた。

 

 眠たげな顔で定位置に立ってリィエルは左手を構える。新たな仲間の実力を見る機会とあって、生徒達は固唾を飲んでその腕前を見守る。グレンとロクスレイも、何かやらかさないか冷や冷やしながらリィエルの一挙一動に注目した。

 

 注目の一瞬、リィエルはぼそぼそと呪文を唱えて【ショック・ボルト】の魔術を放つ。一条の紫電が指先から迸り、的付きゴーレム目掛けて真っ直ぐ──ではなく見当外れな方向へと飛んでいった。

 

「え……?」

 

 間の抜けた声があちこちから洩れ聞こえた。予想外の結果にクラスの面々が唖然と硬直している。微妙な空気を気にも留めず、リィエルは続けて二発三発と魔術を打ち込む。そのどれもが大幅に的から外れた虚空を駆け抜けた。

 

 酷い、これは酷い。下手くそだとかいう次元の話ではない。これはもう、手の施しようがないタイプだ。

 

 そう言えばと、ロクスレイはふと思い出す。兎に角バーサーカーぶりばかりが前面に押し出されていて気にも留めたことがなかったが、リィエルが任務の際にまともな黒魔術系の攻性呪文(アサルト・スペル)を使用したところを一度も見たことがない。その理由が今、漸く理解できた。

 

 余りにも酷い魔術狙撃の技量にグレンが冷や汗を流し、生徒達が一転して頑張る子供を見守るような眼差しで声援を送る。しかしゴーレムに付けられた的は未だ無傷なまま、一向に当たる気配はない。

 

「むう……」

 

 とうとう最後の一射を残すところで、リィエルが不満げに唸る。何やら物言いたげだ。

 

「どうした? リィエル」

 

「ん、ねぇ、グレン。使う魔術は【ショック・ボルト】じゃないと駄目なの?」

 

「いや、別に駄目とは言わねーが……この距離で届く他の攻性呪文(アサルト・スペル)なんて使えるか? あ、軍用魔術は禁止だからな?」

 

「分かってる。問題ない」

 

 無表情に頷いてリィエルが地面に手を伸ばす。その挙動で何をするか悟ったロクスレイは「あ、終わったわ……」と内心で溜め息を吐いた。

 

 果たしてリィエルが使用した魔術は錬金術──により生み出した大剣を強化した身体能力でぶん投げて的であるゴーレムを木っ端微塵にするという、ある意味では凄まじくマジカルなものだった。

 

 学生レベルを超えた高速錬成、二百メトラもの距離を物ともせずゴーレムを破壊する膂力。そんなものをまざまざと見せつけられて生徒達が落ち着いていられるわけもなく、予定調和的にリィエルはクラスで浮いた存在となってしまった。盛大な学生デビュー失敗である。

 

 頭を抱えるグレンと今ひとつ状況を理解していないリィエル、新しいクラスメイトの恐ろしい一面に固まる生徒達を眺めて、ロクスレイは今後の波乱に満ちた学生生活に嘆息を禁じ得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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