「ぅああ……あぅ……くぅあッ!?」
研究室の中央、謎の五芒星法陣の中心に吊り上げられた体勢でルミアは、全身を駆け巡る苦痛に喘いでいた。
今、ルミアは肌に描き込まれたルーンの術式によって強制的に異能を行使させられている。『Project:Revive Life』という実現不可能とされた儀式を執り行う核として、その身を利用されているのだ。
死者を復活させる魔術儀式。かつて帝国が大々的に立ち上げた一大魔術プロジェクトであるが、死の絶対不可逆性という壁の前に頓挫した代物だ。
『感応増幅者』とされているルミアの力があろうと成せる道理はないはずの儀式。しかしどういうわけか儀式は既に大詰めに近く、あとは各種細かな調整を残すだけとなっていた。
「ふは、ふははははッ! 成る、成るぞぉッ! ついに私の手で『Project:Revive Life』が成し遂げられる! これで私の実力を組織も認めることだろう!」
抑え切れぬ興奮と高揚にバークスが哄笑する。苦痛に苛まれるルミアにはバークスの様子を気にしている余裕はない。たとえ全身を駆け巡る痛みがなかったとしても、気丈に振る舞えたかは分からないが。
一本通った強い芯を持つルミアであるが、ここに攫われてから青髪の青年に告げられたグレンの死と顔無しとリィエルが共倒れたという残酷な現実に、心が折れかけていた。
実際にその目で確認したわけではなく、あくまで青年からの伝聞だ。嘘だと断じることは簡単だろう。今でも三人の生存を祈る心はある。
けれど、もしも本当にグレンが死んでしまっていたら? 顔無しとリィエルが殺し合い、果てには共倒れてしまっていたら? 最悪の想像は気丈な心を内側から侵食し、ルミアを心身ともに苦しめた。
「くぅっ……はぁ、はぁ……先生……」
何だかんだ言いつつも生徒のことを思い、心を砕いてくれるグレン。普段はだらしなかったりしてもいざという時は頼れる彼なら、きっと生き延びているはず。
「はぁ、はぁ……リィエル……」
急に態度を豹変させて仲違いしてしまったリィエル。生き別れた兄のためにと敵対してしまった彼女の本心をまだ知らない。何を思い、どんな気持ちでいるのか、何一つとして分かり合えないままお別れなんて絶対に嫌だった。
そして、何より……。
「──顔無しさん……」
いつも自分の危機に駆け付けて助けてくれるヒーローみたいな人。きっと顔無しはヒーローだとか言われても否定するだろうけど、ルミアの中で彼の存在はとても大きなものになっていた。顔無しが倒れたと聞かされた時、ショックのあまり涙を零し嗚咽を洩らしかけるほどには、顔無しがルミアの心を占める割合は大きい。
嫌だった。このまま永遠のお別れなんて、絶対に嫌。まだ伝えたいことが沢山あるのだ。だから──
「助けて……顔無しさん」
名を呼んだからといって都合よく救世主が現れるはずもない。そんなことは子供ではないのだから分かっていた。でも口にせずにはいられなかったのだ。
「ふん。何を期待しているかは知れんが、無駄なことだ。貴様に希望など残っておりはせん。大人しく私の栄華の礎となるがいい」
バークスがルミアの希望を一笑に付そうとした、その時だった。
バンッ! と物音を立てて研究室の扉が乱暴に蹴り開けられる。同時に転がり込んだ人影から放たれる複数の矢弾が、周囲に点在するモノリスを正確無比に撃ち砕く。
「なっ、貴様──」
「ば、馬鹿な。どうしてここに……っ!?」
「おやおや、これは……」
侵入者に対する三者三様の反応。室内にいた全員の視線が部屋に飛び込んだ人影に集中する。鎖に縛られたルミアも、その見慣れた深緑の外套に顔を輝かせた。
「顔無しさん……」
「ほいほい、顔無しさんですよっと。呼ばれたみたいなんで九園の果てから馳せ参じましたぜ?」
いつもの飄々とした調子で答える顔無しにルミアは途方もない安堵を覚えた。
「き、貴様ぁ! 何てことをしてくれたのだ!? あと一歩というところで邪魔をしおってからに……!?」
無粋にもルミアと顔無しのやり取りに水を差そうとしたバークスが、猛烈な殺意に晒されて口を噤む。弓に矢を番えた顔無しが音もなく構えていた。
「黙ってろよ、外道が。お嬢さんをこんな目に遭わせやがって、楽に死ねると思うなよ……!」
「うっ……この、痴れ者がぁ……!」
狂気すらも捻じ伏せる怒気を差し向けられ、さしものバークスもたじろぐ。代わりに口を挟んだのは青髪の青年だ。
「どういうことだ! 君は確かにリィエルの剣で貫かれたはずだ!? あれほどの傷を負って何故動ける!?」
「さぁて何のことやら。オタクの見間違い、勘違いなんじゃないですかね? オレはこの通り、ピンピンしてますぜ」
紙巻を咥える口元を皮肉げに歪める顔無し。如何にも余裕そうな態度に青年は狼狽える。リィエルをも下した相手がほぼ万全な状態で敵に回るなど、最悪に等しかった。
「お久しぶりですわね、顔無し様。いえ、ここは
瀟洒な立ち居振る舞いでエレノア=シャーレットが歩み出た。正体を看破された顔無しは僅かに動揺の気配を洩らすものの、すぐに冷静さを取り繕って応じる。
「ははあ、こっちの正体はバレてるワケか。やるなぁ、ゾンビ女。ま、オタクらが本腰入れて調べりゃすぐ分かるわな」
「あらあら、女性に対してそのような呼び方は褒められませんわ。紳士として、言葉遣いには気をつけるべきですわよ」
「おっと、こいつは失礼。生憎と卑賤の身なもんで、礼儀を払う必要もない外道に向ける言葉は心得てねえのさ」
「ふふふっ」
「はっはっはっ」
エレノアが薄気味悪く微笑を湛え、顔無しが空々しい笑いを零した。
一方、蚊帳の外に追いやられた面々はと言えば、一様に驚きの相を浮かべていた。
「ロビンフッドだと? 馬鹿な、あれは市井で流れるただの都市伝説のはず。それが奴だというのか……」
「どうしてそんな奴がここにいるんだよ。これじゃあ僕の計画が……」
「ロビンフッド……顔無しさんが、あのロビンフッド……」
バークスも青年も突然現れた都市伝説に呑まれて動けない。何処となく顔無しが有利に立っているように見える戦況。しかし殆ど素人同然の研究者達と違ってエレノアは冷静に状況を把握できている。
「ロビンフッド様の乱入には驚きましたが、いったい一人で何ができるのでしょうか? 我々は三、そちらは一。まさか戦って勝てるとお思いではないでしょう。それに……」
すん、とエレノアは鼻を利かせて微かに漂う、けれど誤魔化しようのない血臭に笑みを深める。
「隠しているおつもりでしょうが、その身体、既に限界が近いのではありませんか? ここまで血の臭いが漂っていますわよ」
「えっ……?」
驚きの声を上げたのは舞い降りた希望に胸を高鳴らせていたルミアだった。エレノアの不穏な発言に猛烈な不安を覚え、恐る恐る顔無しに目を向ける。
当の本人は変わらず剽軽な態度で紙巻の煙をゆらりと燻らせる。
「……まぁ、ちょいと傷は痛みますがね。それだけだ。オタクら全員、狩り尽くすくらいは余裕でできる。あんま森の狩人舐めてっと、痛い目見るぜ?」
圧倒的に不利な立場であっても不敵な笑みを崩さない。そんな顔無しの態度を訝しんだエレノアであったが、不意に背後で文字通り湧いた気配に目を見開く。
「《出でよ赤き獣の王》──ッ!」
「させるかよ──ッ」
即座に後方に向けて魔術を放とうとしたエレノアのこめかみを矢が貫く。しかし呪文は既に完成されており、放たれた火球が鎖で吊り上げられるルミアに迫り──
「やっ──!」
──虚空から出現したリィエルの気合一閃で霧散した。
パチパチと舞い散る火の粉を纏いながら登場したリィエルに、ルミアはもはや驚いて言葉も出ない。兄を自称する青年に至っては開いた口が塞がらない状態である。
大剣を振り抜いたリィエルはルミアに向き直ると再び剣を振るう。硬質な金属音を響かせてルミアを吊るし上げていた鎖がバラバラに砕け散った。縛から解放されたルミアは堪らずその場に膝をつく。
「リィエル……」
見上げてくるルミアの眼差しから少し目を逸らしつつ、リィエルは己が着ていた魔導師の礼服をルミアに着せる。
「ごめん、ルミア。あとで沢山謝るから、今は大人しくしてて」
「……うん、分かった。信じるよ」
何の根拠もないけれど、今のリィエルは味方だ。直感的に判断してルミアは少し憔悴の色が交じる微笑みを浮かべた。
「……なるほど、まさか伏兵がいたとは思いませんでしたわ。しかもこちらの駒を寝返らせるとは、手癖が悪いですわね」
こめかみに突き刺さった矢を平然と抜き取り、ゆらりと立ち上がるエレノア。先代からその常軌を逸した不死性については聞き及んでいたものの、実際に目の当たりにすると嫌悪感が尽きない。
「生憎と怪物狩りはオレの領分じゃないんですけどねぇ……」
「あら、酷いですわ。女性を捕まえて怪物呼ばわりなんて」
「だったらもうちょい人間らしく振舞ってくれ」
睨み合いながら顔無しは弓を引き、エレノアは左手を構える。やっと空気に慣れてきたバークスも加勢し、二対一という不利な状況での戦いが始まろうとしていた。
▼
ルミアを縛鎖から解放したリィエルは自身の兄と対峙していた。
本来の作戦であればリィエルはルミアを連れてこの部屋を脱出、顔無しが足止めに残り、遅れてくるだろうグレンとアルベルトに接触する手筈だった。だがルミアを吊るす鎖を断ち切ろうとしたリィエルの気配にエレノアが気づき、姿を晒してしまったことで作戦は失敗である。
けれどリィエルにとってはむしろ好都合だった。これで兄と今一度話すことができる。ルミアの救出は勿論のことであったが、リィエルにはリィエルでどうしてもやりたいことがあったのだ。
「兄さん……」
一歩、リィエルが踏み出す。未だ驚愕から抜け出ていなかった青年が、はっと我に返って取り繕ったような微笑みを浮かべた。
「よかった、リィエル。無事だったんだね。なら早くこっちへ戻っておいで。僕と一緒に生きよう」
「兄さん、わたし……」
「どうしたんだい? 君の居場所はこっちだろう。迷うことなんてないんだよ」
微笑みとともに青年がおいでとばかりに手を広げる。仕草だけなら愛しい妹を待つ兄に見えなくもないが、待ち構えている世界が世界だ。第三者、ルミアからすれば地獄へ誘う悪魔にも見えた。
兄の誘いにリィエルはしばし瞑目する。激しい葛藤に苛まれているのか無表情は辛そうに歪み、口をぎゅっと引き結んでいた。
やがて瞼を開いたリィエルの瞳には強い決意が宿っていた。
「兄さん、わたしはそっちに行けない。そこには何もないから」
「リィエル……」
来る日も来る日も地獄の日々だった。殺し屋として組織に命じられるがまま大勢の人々を殺し、命を削って戦う。偏に兄の身を守るため、明日を生き抜くため。一心不乱に戦い続けた。そこには生きる意味も価値もない。
けれど短い時間とはいえ陽だまりの世界に入ったことで、リィエルはこの世界にも希望があることを知れた。もう自分には戻る資格はないけれど、陽だまりの優しさと温かさを知ったリィエルは兄以外に何もない空っぽではなくなったのだ。
「だから、兄さん……一緒に行こう? 組織から抜け出して、何処か遠くへ。今度は絶対守る……わたし、強くなった。これからももっと強くなって、兄さんを守るから」
それはリィエルなりに考えて辿り着いた結論。ルミアは助けたい、けれど兄と敵対したくない。だからこその終着点。
このまま一緒に組織の手も届かない遠くへと逃げてしまえばいい。追手がきても斬り伏せる。その程度、今のリィエルの実力なら難しくもない。上手くいけば、人並み程度の幸福を掴むことだって夢ではないはずだ。
「お願い、兄さん。こっちに来て」
今まで依存し続けて自己を保っていたリィエルが、兄に手を伸ばす。グレンに兄の代わりを求めて依存し、生きていた兄の言葉に従って裏切りを働く少女ではない。そこにいるのは自らの意思で道を決め、覚悟を抱く一人の人間だ。その方向性が若干悲壮的なのを除けば、間違いなく一歩踏み出したと言えよう。
依存から一人で立ち上がり、兄の手を引こうとする妹。手を広げていた兄はしばしショックを受けたように硬直していたが、落胆したように手を下ろした。
「はぁ……どうして、こうも思い通りにいかないもんかな」
「兄さん……?」
唐突に雰囲気がガラリと変わった兄にリィエルが戸惑いの声を上げる。今までの取り繕ったような穏やな態度は鳴りを潜め、妹を見る目に明らかな失望の色が浮かんだ。
「苦労して色々と仕込んだのに、使えないガラクタだな。まあいいさ。『俺』の役に立たないガラクタは用済みだ。何だかあれこれと囀ってたみたいだけど、余計な御世話だよ」
「え……あ……に、いさん?」
朧げな記憶の中で優しく微笑みかけてくれた兄とは掛け離れた言葉の数々。目の前の兄の豹変にリィエルは理解が追いつかない。
そんなリィエルの心境になど構わず、青髪の青年は饒舌に少女の心を折りにかかる。
「分からないのかい? それも仕方ないか。他ならない俺が記憶に封印を掛けたんだからな。じゃあ折角だから教えてあげるよ。俺はお前の兄ではない。そもそもお前に家族なんてもの、存在しないんだ」
「あ……え?」
分からない。兄が何を言っているのかさっぱり理解できない。ただ、続く言葉が自身の根幹を揺らがすものだということは察せた。
青年は怯えるリィエルに物を見るような無感動の視線を向ける。
「お前の正体は二年前に執り行われた『Project:Revive Life』、通称『
「で、でも……じゃあ、この記憶は……」
「そんなもの、元となったイルシアのものでしかない。お前自身は何一つとして持っていない、ただの人形なんだよ」
「あ、ああ……そんな……わたしは……」
記憶の中で優しく微笑みかけてくれる兄は自分の兄ではなく、そもそもこの身は誰に望まれたわけでもない人形だった。死者蘇生という生命を冒涜する魔術儀式によって産み出された世界最初の成功例。それがリィエルという少女の正体だ。
兄以外に生きる意味も目的も資格もないと思い込んでいた。しかし現実はその兄すらもまやかしだったという残酷な真実に、一人で立ち上がった少女は再び膝を折る。今度こそ、正真正銘の絶望。
虚ろな目でリィエルはへたり込む。希望なんて何処にもなかった。
がくりと項垂れ絶望に打ちひしがれるだけのリィエル。そんな彼女の小さな体を後ろから優しく抱きしめる両腕があった。
「違うよ。リィエルは道具なんかじゃない……」
「ル、ミア……?」
僅かに顔を上げればすぐそばにルミアがいた。拠り所を失ったリィエルを支えるようにそっと寄り添う。
「だってリィエルは私の、私達の大切な友達だもん。作り物なんかじゃない、人形でもない。リィエルは立派な人間だよ……」
「ぅあ……でも、わたし……ルミアに酷いことした……システィーナにも……きっと嫌われてる……友達なんて……」
「でも助けにきてくれた。システィはちゃんと事情を話せば分かってくれるよ。あの子も、リィエルのことが好きだから。話して、謝って、仲直りすればいいんだよ」
「あ、あ……でも……でも……」
「リィエル……」
震える体を慈しむように抱きしめる。路頭に迷った幼子をあやし、そして導くようにルミアは言葉を紡いだ。
「貴女の居場所はちゃんとあるんだよ」
その言葉がバラバラになりかけたリィエルの心を繋ぎ止めた。
ボロボロと人目も憚らず泣き始めるリィエルと優しく宥めるルミア。上手く纏まった少女達に青年は目論見が外れて舌打つ。あれで心が折れてくれれば敵戦力が減ってくれたというのに、とんだ邪魔が入ったとばかりの態度だ。
「まあいい。今からでも調整さえすれば一、二体は人形を完成させられるはずだ。それさえできれば俺の勝ち──」
青年は醜悪な笑みを浮かべて制御用モノリスに向かおうとして、短剣片手に飛びかかってくるロビンフッドの姿に悲鳴を上げた。
「ひっ!? うわあぁああ!?」
情けない悲鳴を上げて地面を転がり、間一髪で死を免れる青年。獲物を取り逃がした狩人は硬い床を転がりつつ靴で制動をかけ、丁度少女達を庇う立ち位置で止まった。
ゆらりと立ち上がった顔無しはフードに隠された双眸に明確な怒りを燃やして青年を睨み据える。
「どうせロクでもない外道だとは思ってたがな。ハッ、ここまで頭にきたのも久しぶりだ。もうテメェはここで死んどけ。その腐った性根ごと狩り取ってやるからよ……!」
「ひぃ!? お、お前達! 早くこいつを何とかしろよ!?」
「はぁ、まったく世話が焼けますわね」
「言われずとも、私の栄華を邪魔してくれた痴れ者を生かしておいてなどやるものか……!」
顔無しの前に立ちはだかるエレノアとバークス。所々傷を負っているようにも見えるがどれも掠り傷に過ぎない。殆ど万全の状態といっても過言ではない。
対して相対する顔無しは無事とは言い難い。深緑の外套はあちこちが傷だらけのボロボロ、脇腹の傷口が開いたのか足元には赤い水滴が滴り落ちている。誰が見ても劣勢なのが見て取れた。
「顔無しさん……!」
「顔無し……」
痛々しい立ち姿に少女達が心配の声を上げた。背を向ける顔無しが問題ないとばかりに片手を挙げる。
「心配しなさんな、お嬢さん方。まだまだよゆーですから」
常と変わらぬ飄々とした口振りだが、どこか無理を押している感が拭えていない。当然だろう。傷口を締めて薬を飲んでいるとはいえ脇腹に穴が開いているのだ。このまま戦い続ければ遠からず倒れるのは目に見えている。
「ふふふっ。その強がり、どこまで続きますでしょうか。見ものですわ」
「ふん。貴様のような魔術師の風上にも置けぬ愚昧には勿体ないが、折角の機会だ。私の研究成果の実験台にしてやろう」
エレノアが踊るように左手を振るう。バークスが自らの首筋に何やら注射器を刺す。
術者の命に応じて死した女性の軍勢が湧き上がる。研究者の肉体が薬物の投与によって一回りも二回りも肥大化し、見るに耐えない悍ましい怪物が立ちはだかった。
「だから、怪物狩りはオレの領分じゃねぇっつの。やりようがないワケじゃねえですけど……」
やれやれとばかりに顔無しが弓を構えると隣に並び立つ気配。横目に見やれば涙を拭いながらも剣を握るリィエルの姿があった。
「わたしも守る……」
「……いけるのか?」
力強い頷きを返すリィエル。顔無しがフードの下で不敵に笑みを零す。
「上等。オタクがいりゃあ百人力だ。前衛は任せたぜ?」
「うん、任せて。必ず守る……」
剣気を昂らせてリィエルが前に出て、矢を番えた顔無しが後方支援に回る。およそ現状考え得る最高の布陣がここに整った。
「さてと。そんじゃまあ、いっちょ派手に決めますか──無貌の王、参る」
気負いない覚悟の宣告を皮切りに、戦いの幕が切って落とされた。