奴が都を去って大分経つ。奴がいない所為で術の開発が捗らん。
オノレェエエエエエ安倍晴明ェェェエエエエエ!!私が開発した術を無断に使用しただけでなく、自分が開発したようにしたのは断じて許せん!!!
やはり、陰陽術だけでは限界があるのか。私が神に至るには、私の才能をもっと輝かせる必要がある
そういえば、異国の地には魔術という陰陽術とは違う系統があると聞いた。
ふむ。ならばもうこの都に用はなぁい!例え異国の地であろうと、私を止める事など出来ないのだぁ!ヴェハハハハハハハ!!!
そうと決まれば長居は無用。彼に合ってから異国の地に向かうとしようか。
命連の寺から旅に出て数日。
俺は一人の僧として各地を旅していた。
死んだ育ての親の和尚とか、命連や白蓮たちに薬の調合を各地の病人を救ったりしている。
僧になったとはいえ、俺は元来の武闘家。肉も食うし魚も食べる破戒僧だ。それでも、一人でも多くの人間を救いたい。そんな風に願っていた。
旅の道中、俺はある化け物に出会った。そう、俺が倒すべき宿敵と。
◇
―――わかってたんだ。アレが人の手じゃないってことは。
村が焼かれている。人が人を殺している
―――不可解過ぎた。何故、何もない寺を野盗が襲ったのか。何故、野党は何も盗まなかったのか
そう、ただ殺しているだけ。本来、盗むべき食料も女も取らずに殺戮を楽しんでいる。
「くひっ、くひひ。くひゃひゃ!」
嘘だって言いたかった
感情が同様している
心が泣き叫んでいる
俺の拳が、震えている
頭がどうにかなりそうだった
なんで?どうして?
もう、何が何だかわからない
だが、一つだけ。そう、たった一つだけ
「お前が・・・・・」
―――今なら分かる
そう、今なら分かる
「お前が殺したのかよ!!!」
コイツが全ての元凶だってな!
◇
俺にとって、新しい家族は何物にも代えがたい宝物だった。
前世では、最後まで守るべきものを見つけられなかった。
だけど、新しい人生の俺には守るべき家族が出来た
―――ったく、お前って全然ガキらしくねーよなぁ。ま、それでも俺の可愛い弟分なんだけどさ。ほら、しっかり俺に付いてきな
キスケ兄は頼り甲斐のある兄貴だった。年下の俺達を守る為に体を鍛え、和尚の弟子として僧になった。
なのに・・・・
―――ガハッ・・・・・情けねぇ。鍛えたってのにこの程度かよ・・・・・・悪い、皆。弱い兄ちゃんを・・・・・ゆるし・・・・・・
最後に見たキスケ兄は、首を斬首されていた。
―――まったく、兄さんも君も無茶しすぎ!はぁ、私がお嫁に行ったら誰がこの二人を止めるのかしら?
カナエ姉は姉でもあり、母でもあった。13と言う若さでの結婚だったがこの時代では珍しくなかった。
旦那となる人も良い人で、俺から見ても好印象だった。
―――いや、いやああああああ!助けて!逃げてみんな!殺さないでぇぇえええええ!!
最後に見たカナエ姉は、酷かった。とてもじゃないが、口に出せない。女としての尊厳を奪われていた。
後で知ったが、結婚相手の旦那も無残に殺されていた。
―――へっ。今は弱いけど、何時か追いついてやるから覚悟しとけよ兄貴!
カズは同い年の弟。しょっちゅう喧嘩を仕掛けてきては、俺に負けていた。喧嘩の後は姉に叱られて飯抜きにされた。馬鹿だけど、一番気が許せるヤツだった。
―――畜生・・・・・ヘマしちまった・・・・・ナナ、フウ・・・・・・兄ちゃんが助けてやれなくてゴメンな・・・・・・
カズは強かった。死ぬ前までに何人もの野盗を倒していた。だけど、ナナを人質に取られてしまい、抵抗できない様に殺された。
―――えへへ~お兄ちゃんだーーーいすき!大きくなったら、ナナがお嫁さんになってあげるね!
俺に一番ベッタリで甘えん坊だった妹のナナ。いつもカナエ姉から料理を学んでいた。
泣き虫の癖に、一番末っ子のフウの前だけでは絶対に泣かなかった。
―――お兄ちゃん・・・・・どこ?・・・・・眠いよ・・・・・・寒いよ・・・・・・痛いよ・・・・・お兄ちゃん
ナナは人質に取られた後、背中におぶっていたフウ共々殺された。
―――あう?にーた?
フウは一番末っ子の弟。まだ3歳の子供だった。
せめてもの救いは、眠ってる時に殺されて苦しまなくて済んだって事だ。
そして最後。和尚。
アンタだったんだな。元凶は。
目の前にいたのは、野党に惨殺されたはずの親代わりだった和尚なのだから。
「ふふふ、ふひっ。クヒャハハハハハハハハハハハハ!今更気が付いたのか?あー、今は安珍って名前だっけ?いい具合に成長したなぁ!まあ、一番見込みのあった餓鬼だったし当然かぁ」
ソイツは、俺の知ってる和尚の顔じゃなかった。額から角が生え、口は三日月のように裂け、両手の爪が鋭く伸びていた。
「ああそうだ。野盗どもを操って糞餓鬼どもを始末し、近くの村を滅ぼしたのはこの私だ。とても見ごたえのあるお遊戯で楽しかったなぁ?お前が激情して、野盗どもを皆殺しにするまで全てな」
その言葉に、俺はプッツンした。
そこからの記憶がない。
気が付けば俺は、何処かの洞窟の中でミイラ状態で寝ていた。
そして思い出した。ああ、俺はアイツに負けたんだ。
「やれやれ、異国の地に向かう前に君を助けるとは思わなかったぞ我が友よ」
次回に続く