平安武闘伝~安珍の拳~   作:ゼルガー

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今日のクロト



奴が都を去って大分経つ。奴がいない所為で術の開発が捗らん。

オノレェエエエエエ安倍晴明ェェェエエエエエ!!私が開発した術を無断に使用しただけでなく、自分が開発したようにしたのは断じて許せん!!!

やはり、陰陽術だけでは限界があるのか。私が神に至るには、私の才能をもっと輝かせる必要がある

そういえば、異国の地には魔術という陰陽術とは違う系統があると聞いた。

ふむ。ならばもうこの都に用はなぁい!例え異国の地であろうと、私を止める事など出来ないのだぁ!ヴェハハハハハハハ!!!

そうと決まれば長居は無用。彼に合ってから異国の地に向かうとしようか。


肆ノ拳

命連の寺から旅に出て数日。

 

俺は一人の僧として各地を旅していた。

 

死んだ育ての親の和尚とか、命連や白蓮たちに薬の調合を各地の病人を救ったりしている。

 

僧になったとはいえ、俺は元来の武闘家。肉も食うし魚も食べる破戒僧だ。それでも、一人でも多くの人間を救いたい。そんな風に願っていた。

 

 

旅の道中、俺はある化け物に出会った。そう、俺が倒すべき宿敵と。

 

 

 

 

 

 

―――わかってたんだ。アレが人の手じゃないってことは。

 

 

村が焼かれている。人が人を殺している

 

 

―――不可解過ぎた。何故、何もない寺を野盗が襲ったのか。何故、野党は何も盗まなかったのか

 

 

そう、ただ殺しているだけ。本来、盗むべき食料も女も取らずに殺戮を楽しんでいる。

 

 

 

「くひっ、くひひ。くひゃひゃ!」

 

 

嘘だって言いたかった

 

感情が同様している

 

心が泣き叫んでいる

 

俺の拳が、震えている

 

頭がどうにかなりそうだった

 

なんで?どうして?

 

もう、何が何だかわからない

 

だが、一つだけ。そう、たった一つだけ

 

 

「お前が・・・・・」

 

 

―――今なら分かる

 

 

そう、今なら分かる

 

 

 

 

「お前が殺したのかよ!!!」

 

 

 

 

コイツが全ての元凶だってな!

 

 

 

 

 

 

 

 

俺にとって、新しい家族は何物にも代えがたい宝物だった。

 

前世では、最後まで守るべきものを見つけられなかった。

 

だけど、新しい人生の俺には守るべき家族が出来た

 

 

 

 

―――ったく、お前って全然ガキらしくねーよなぁ。ま、それでも俺の可愛い弟分なんだけどさ。ほら、しっかり俺に付いてきな

 

 

 

キスケ兄は頼り甲斐のある兄貴だった。年下の俺達を守る為に体を鍛え、和尚の弟子として僧になった。

なのに・・・・

 

 

―――ガハッ・・・・・情けねぇ。鍛えたってのにこの程度かよ・・・・・・悪い、皆。弱い兄ちゃんを・・・・・ゆるし・・・・・・

 

 

最後に見たキスケ兄は、首を斬首されていた。

 

 

 

 

―――まったく、兄さんも君も無茶しすぎ!はぁ、私がお嫁に行ったら誰がこの二人を止めるのかしら?

 

 

カナエ姉は姉でもあり、母でもあった。13と言う若さでの結婚だったがこの時代では珍しくなかった。

旦那となる人も良い人で、俺から見ても好印象だった。

 

 

―――いや、いやああああああ!助けて!逃げてみんな!殺さないでぇぇえええええ!!

 

 

最後に見たカナエ姉は、酷かった。とてもじゃないが、口に出せない。女としての尊厳を奪われていた。

後で知ったが、結婚相手の旦那も無残に殺されていた。

 

 

 

 

―――へっ。今は弱いけど、何時か追いついてやるから覚悟しとけよ兄貴!

 

 

カズは同い年の弟。しょっちゅう喧嘩を仕掛けてきては、俺に負けていた。喧嘩の後は姉に叱られて飯抜きにされた。馬鹿だけど、一番気が許せるヤツだった。

 

 

 

―――畜生・・・・・ヘマしちまった・・・・・ナナ、フウ・・・・・・兄ちゃんが助けてやれなくてゴメンな・・・・・・

 

 

 

カズは強かった。死ぬ前までに何人もの野盗を倒していた。だけど、ナナを人質に取られてしまい、抵抗できない様に殺された。

 

 

 

 

―――えへへ~お兄ちゃんだーーーいすき!大きくなったら、ナナがお嫁さんになってあげるね!

 

 

俺に一番ベッタリで甘えん坊だった妹のナナ。いつもカナエ姉から料理を学んでいた。

 

泣き虫の癖に、一番末っ子のフウの前だけでは絶対に泣かなかった。

 

 

―――お兄ちゃん・・・・・どこ?・・・・・眠いよ・・・・・・寒いよ・・・・・・痛いよ・・・・・お兄ちゃん

 

 

ナナは人質に取られた後、背中におぶっていたフウ共々殺された。

 

 

 

 

―――あう?にーた?

 

 

フウは一番末っ子の弟。まだ3歳の子供だった。

 

せめてもの救いは、眠ってる時に殺されて苦しまなくて済んだって事だ。

 

 

 

 

 

そして最後。和尚。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンタだったんだな。元凶は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前にいたのは、野党に惨殺されたはずの親代わりだった和尚なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、ふひっ。クヒャハハハハハハハハハハハハ!今更気が付いたのか?あー、今は安珍って名前だっけ?いい具合に成長したなぁ!まあ、一番見込みのあった餓鬼だったし当然かぁ」

 

 

 

ソイツは、俺の知ってる和尚の顔じゃなかった。額から角が生え、口は三日月のように裂け、両手の爪が鋭く伸びていた。

 

 

 

「ああそうだ。野盗どもを操って糞餓鬼どもを始末し、近くの村を滅ぼしたのはこの私だ。とても見ごたえのあるお遊戯で楽しかったなぁ?お前が激情して、野盗どもを皆殺しにするまで全てな」

 

 

その言葉に、俺はプッツンした。

 

そこからの記憶がない。

 

気が付けば俺は、何処かの洞窟の中でミイラ状態で寝ていた。

 

そして思い出した。ああ、俺はアイツに負けたんだ。

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、異国の地に向かう前に君を助けるとは思わなかったぞ我が友よ」

 

 

 

 

次回に続く


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