LoveLive Den-shine   作:直田幸村

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はじめましての方は初めまして。知っていただいてる方は、どうもです。
直田幸村と申します。

最近、沼津に行ってまいりまして、海岸に『Aqours』って書いてみたり、果南ちゃんのランニングコースを走ってみたりしていました。その中で、前々から書いてみたいと思っていたものを、今回を機に書いていこうと思いました。

更新間隔は、メインで更新しているものよりもさらに遅くなると思いますので、気が向いたときに読んでいただければ幸いです。

では、どうぞ。



第一話『もう一度、輝きたい!』(Aパート)

 朝。

 太陽の光が窓から部屋の中を照らし始めた頃、布団の中で赤毛の少女が眠っている。

 暖かなまどろみの中、気持ちよさそうに寝ている姿は、どこかの童話のお姫様のよう。

 そんな彼女は、かわいらしい目覚ましの音に目を覚ます。

 もう少し寝ていたい。でも、早く起きなくちゃといくらかの葛藤を経て少女は布団から這い出した。

 カーテンを開き、窓から差し込む光を一身に受けた少女は、ひとつ伸びをすると自らに気合を入れた。

 時刻は6時。学校に登校する時間には少し早い。彼女がしている支度も、学校へ行くためのものではなかった。上はピンクのTシャツ、下はキュロットパンツ。とても動きやすそうで運動をするなら最適、しかも見た目もかわいい服装だ。

 そんな装いで彼女が行おうとしているのは彼女の、いや彼女たちの大切な活動。スクールアイドルなのである。

 

 スクールアイドル。それは、簡単に言ってしまえば、部活動として所属学校を盛り上げたりライブを行ったりなどのアイドル活動を行う高校生のことだ。

 スクールアイドルたちの甲子園といえる大規模合同ライブ、ラブライブは第一回ではA-RISE、第二回ではμ'sという今や伝説と謳われるほどのグループによって多くの注目を集め、メディアにも取り上げられるなど多くの関心を集めている。

 今や出場グループ数は、第一回時の約10倍。

 そんなたくさんのスクールアイドルが存在する中産声を上げたのが、彼女、黒澤ルビィが所属しているグループ、Aquorsだ。

 場所は、静岡県の沼津市、内浦。そこにある浦の星女学院を代表するスクールアイドルが、彼女たちAqoursだ。

 

 つらいことや苦しいことを乗り越えて、ついに9人になった。

 

 9人になってまだ間もないため、実力もチームワークも今までがんばってきたであろう他のスクールアイドルには及ばない。そのため、今日も今日とて朝から練習を使用という訳なのだ。

 

 

 

 スクールバックには、授業の準備の他、練習後すぐに学校へ迎えるように着替えを用意した。

 すでに朝練習は習慣になっているが、まだ早起きにはなれていない。すべての準備を整えたルビィは、あくびをかみ殺しながらリビングへ向かう。

 寝ぼけ眼の目をこすりながら、朝食のトーストを焼く。これから運動をするのだから朝食は欠かせない。

 テレビを見ながらトーストをかじる。

 だんだんと意識が覚醒し始めて、ルビィはある異変に気がついた。

「あれ。おねえちゃん、まだ起きてないのかな?」

 彼女の姉であるダイヤがリビングに姿を現していなかったのだ。

 しっかり者で生徒会長でもあるダイヤは、いつもルビィよりも早く起きているのが普通だった。

 ルビィは、寝坊しそうになって起こされたことも何度かある。

 少し厳しいところもあるけれど、彼女はルビィの自慢の姉なのだ。

 そんなダイヤであるから、もちろん朝練習に寝坊したことは今まで一度もない。

 そもそも、ルビィが一度も遅刻したことがない以上、彼女を起こすダイヤが遅刻したなどということがありえないのだ。

 そんなダイヤが今リビングにいない。それはとても異常な状態だった。

「お姉ちゃん。まだ、起きてないのかな?」

 ルビィは、ダイヤが眠る寝室の方を向く。ルビィが居るリビング以外電気がついておらず、少し奥へ行ったところはまだ真っ暗だった。

「へへっ。今日は、ルビィがお姉ちゃんを起こしちゃお」

 しかし、このときルビィは、その異常事態を重く受け止めてはいなかった。

 むしろ、いつも起こされる立場の自分が姉を起こせると、すこし喜んですらいた。

 朝食を食べ終わると、いよいよルビィは、ダイヤの部屋へ向かった。

 食べ終わるまで様子を窺っていたが、その間もダイヤが起きてくる気配はなかった。

「お姉ちゃん。朝だよ?」

 ルビィは、ダイヤの部屋の扉を音を立てないようにゆっくりと開いた。

 少しだけ開いた隙間からのぞき込むと、部屋内はまだ暗かった。

 カーテンはまだしまっており、ダイヤがいつも使っている布団は膨らんでいた。どうやらまだ寝ているようだ。

 ルビィは、いたずらを企む子供のように笑いながら、ゆっくりと部屋内へ侵入。抜き足差し足でダイヤの寝ている布団まで接近した。

 珍しい姉の寝顔をのぞき込む。これなら寝坊してもしかたないと思うくらい気持ちよさそうな寝顔をしている姉に新鮮さを感じながら、ルビィは

 、優しく彼女を揺すった。

「お姉ちゃん」

「ん、ん・・・・・・」

 ルビィがゆすり起こすと、ダイヤは、少し顔をしかめた。

 あまりに気持ちよさそうに寝ていたため、ルビィは罪悪感に襲われるが、いつも起こされている身として姉を起こしてみたいという欲望のほうが勝った。

 ルビィは、さらにダイヤをゆすってみる。

「お姉ちゃん。早く起きて」

「・・・・・・あら、ルビィ。どうしたのですか?」

 一回目より強く揺すって、ようやくダイヤは目を覚ました。

 まだ寝ぼけているようで、状況を把握しようと目をぱちくりとしていた。

 目を瞬かせる彼女を見て、ルビィは新鮮な気持ちになっていたが、すぐに当初の目的を思い出す。

 早く姉を起こさなければ、練習に遅れてしまう。

「どうしたのじゃないよ、早く起きて。練習に遅れちゃうよ?」

「ん? 練習?」

 ダイヤは、意識がはっきりしていないのか、練習という言葉に疑問符を浮かべた。

「もう、練習っていったい何のことを言っているのですか?」

 よもや練習といって通じないとは、相当寝ぼけているようだ。

 いつもしっかりしすぎるほどしっかりしている姉のいつもと違った一面に笑いをこらえながら説明をする。

「お姉ちゃんこそ何言ってるの? 今日も、スクールアイドルとしてたくさん練習しないとでしょ。ほら、早く起きて」

 そういってルビィは、ダイヤを起きあがらせようとする。

 スクールアイドルの名を出したのだ。

 さすがに、自分が寝坊したことに気づくだろう。

 今に飛び起きて、自分が寝坊をするなんてとか、自分が寝坊するなんて信じられないといって慌て出すに違いない。

 いつも落ち着いているダイヤが慌てふためく姿を想像し、思わず顔がにやけてしまう。

 

「ルビィ、あなたこそ何を言ってますの? スクールアイドルなど今はもう廃れてしまっているではないですか?」

「・・・・・・。え? それってどういう意味?」

 わからなかった。

 思考がフリーズする。一瞬、時が止まったように感じる。

 スクールアイドルがすでに廃れている? 何を言っているのか理解できなかった。

 なぜなら、ルビィは昨日だって放課後になってからずっと練習をして、帰ってからも練習したところの復習をして、ダイヤと明日もがんばろうといいながら就寝したのだ。

 廃れている? ありえない。ならば、昨日までしてきたことはいったいなんだったのか。

 さすがに寝ぼけているでは説明が付かないことと感じ慌て始めた。

「だって、ルビィたちはスクールアイドル『Aqours』で、やっと9人になれて、それで今はラブライブを目指してて。それで――」

「――ちょっと落ち着きなさい」

 ダイヤは、混乱してまくし立てるルビィをやさしくなでた。

「ルビィ。朝早いですしまだ寝ぼけているのね。あなたは、スクールアイドルのことが好きで、よく古い雑誌を読んでいましたものね。登校時間までまだ余裕がありますし、もう少し寝てきてはいかがですか?」

 ルビィを気遣ってそんな提案をする。しかし、ルビィからしてみれば、それはただの追い討ちでしかなかった。

「ちがうもん。ルビィは寝ぼけてなんてないもん!」

「ちょっとルビィ!」

 ルビィは、堪らずダイヤの部屋を飛び出した。

 自分の部屋へ戻ると、自分の荷物を引っつかみ、家を出て駆け出した。

 スクールアイドルが廃れてしまっているなんてただの冗談だ。

 きっと姉は、自分を驚かそうとしていったのだ。そうに違いない。

 ルビィは、自分にそう言い聞かせて走った。

 向かった先は、親友でありAqoursのメンバーでもある国木田花丸との待ち合わせ場所。

 そこに行けば、いつも通りの日常があるはず。ルビィは、そう信じてスピードを早めた。

 

 

 今日は、みんなが寝坊する、そんな日なのか。

 特定の目覚まし時計が一時間ほどずれてしまっているのか。

 そんなばかげたことを考えてしまうほど、ルビィは混乱していた。

 彼女が居るのは、親友である花丸との待ち合わせ場所だ。

 待ち合わせ時間からすでに十五分ほど経っていた。それでもなおルビィがその場にとどまり続けているのは、待ち合わせ相手である花丸がいまだ姿を現していないからだ。

「よし、でんわしてみよう」

 さすがに待ちきれなくなったルビィは、花丸へ電話をかけることにした。

 花丸は機械音痴なようで、あまり携帯を使わない。そのため、ルビィも花丸の携帯へあまり電話をかけない。しかし、いまは緊急事態。

 ダイヤとのこともあり、いたずらと結論づけたものの、不安をぬぐい去るために誰かと話して確かめたかったのだ。

 待機音は十数秒かかった。

 電話にでるのにも悪戦苦闘する花丸にはよくあることだ。

 ルビィが焦る気持ちを抑えて待っていると、ごめんと電話口から聞こえてきた。ルビィは、その声に間髪入れずに今待ち合わせ場所にいない理由を聞いた。。

「もう、花丸ちゃん、どうしたの? とっくに待ち合わせの時間、過ぎてるよ」

「……わわわ。ごめん、ルビィちゃん。すぐに支度するずら」

 どうやら花丸は、ただ単に寝坊していただけのようだ。ルビィが電話を掛けるとすぐに支度を始めた。

 やっぱり、スクールアイドルが廃れたなんてことはうそだったんだ。

 そこで、ようやくルビィは胸を撫で下ろす。

 そしてそれと同時に、自分をこんなに不安にさせた姉に対してふつふつと怒りがわいてきた。

 もし、冗談のつもりで言ったとしても限度がある。ダイヤは、どれだけルビィがスクールアイドルのことを好きか知らないはずがないのだ。

 ずっとスクールアイドルになりたくて。でも、はずかしくて一歩が踏み出せなくて。

 勇気を出してやっとの思いでスクールアイドルになったというのに、そのスクールアイドルがないなどというのは、いたずらにしても悪質すぎる。

 後で姉に一言行ってやろうと心に決めた。

「あ、あれ? ルビィちゃん。まだ、待ち合わせ時間じゃないよ?」

 そんな決意を固めているとき、花丸から聞きたくなかった一言が耳に飛び込んできた。

「え? そ、そんなわけないよ。もしかして、時計がずれてるんじゃないの?」

「・・・・・・ううん。あってるよ」

 スマホとか、他の時計とも見比べたのだろう。

 少し間が空いて、聞きたくない返事が返ってきた。

「もう、びっくりしちゃったよ。登校までまだまだ時間あるし、マルはもう少し寝るずら」

「ちょっと、待って――」

「――おやすみ」

 まだ寝ぼけていたのか、力つきてしまったのか。ルビィの言葉を遮って、花丸は電話を切ってしまった。

 電話が切れてしまった後、ツーツーツーっという音を呆然と聞いていた。

 

「いったいどうなっちゃってるの!?」

 

 ルビィは、一人学校へ向かって走っていた。

 結局朝、練習に出てくるものは一人も居なかった。

 仕方がないので一人で練習しようとするが、そこでさらなる追い打ちを受ける。

 スマホにも、スクールアイドルの音楽を聴くために買った音楽プレイヤーにも、Aqoursの曲はおろか他のスクールアイドルの曲も入っていなかったのだ。

 頭には確かにある。

 曲も歌も、みんなで考えた振り付けも、確かに覚えている。

 にもかかわらず、そのほかにスクールアイドルの痕跡がいっさい残っていない。

 まるで、ルビィ以外の人間、いや、ものや時間でさえも「スクールアイドル」という存在を忘れ去ってしまっているかのようだった。

 それでも認めることのできなかったルビィは、学校に着いてすぐ、自分の教室へ向かうより先に目的の教室へと向かった。

「千歌さん、曜さん、梨子さん!」

「へ、なに?」

 ルビィが力任せに教室のドアを開け放ったために、教室内の生徒全員が彼女に視線を向けた。

 大胆にドアを開け放った結果であるが、突然自身に向けられた視線に後ずさった。

 が、その視線の中に、目的の3人のうち2人を見つけて、教室内に踏み出した。そして、未だ目を丸くしている彼女たちの前に立った。

「千歌さん、曜さん。どうしたんですか?」

「な、なに?」

「千歌さんたちが練習にこないなんて。具合が悪いんですか? 何か事情があったのか知れないけど、午後は練習しますよね?」

 

「ええと、この子一年生? 千歌ちゃんの知り合い?」

「え。どっかであったかな?」

 千歌と曜は、驚いて目をぱちくりさせているし、梨子に至っては姿すら現さない。

「そんな・・・・・・。くっーー」

「ちょっと、ねぇ!」

 たまらずルビィは、彼女たちの前から逃げ出した。

 千歌は、Aqoursの発起人。曜も、千歌ともにAqours結成当初からいたメンバーだ。そんな二人が、自分のことを知らない。

 そのことは、いよいよAqoursがこの世に存在しないと言うことを認めざるを得ない状況に、ルビィを追い込んだのだ。

 

 

 

 ルビィは、一人で帰路に付いていた。

 いつも一緒に帰る花丸は、今日は図書委員の仕事で図書室にいる。が、ルビィが一人で帰っているのはそれだけの理由では無かった。

「うそだよ。Aqoursがもうないなんて・・・・・・」

 ルビィは、すっかり疲れ果てて座り込んでしまう。

 自分は間違っていない。

 朝は、自信を持って言えていたことが、だんだん不安になっていった。

 世界は、変わらず回ってる。

 みんないつも通り登校し、授業を受け、各々部活や自宅へ散らばっていく。そんな、いつもと変わらない風景が流れていた。

 スクールアイドルが存在しないその一点以外なんの変わりもなく、なんの支障もなく世界は回り、太陽はその姿を隠そうとしていた。

「どうしちゃったんだろう。ルビィが、おかしくなっちゃったのかな?」

 自分が間違っているとは思わない。思いたくない。

 しかし、Aqoursのメンバーが、周囲の人々が、スクールアイドルの存在しない世界で、何事もないように生活している。

 スクールアイドルなどなくても何の支障もないと、ルビィに見せつける。

 その姿が、ルビィに今の世界の現状を見せつける。

「もとから、スクールアイドルなんて無かったんだよ」と。

 

「ひぐっ、・・・・・・いやだよ」

 耐えられなくなり、涙があふれてくる。

 世界中が敵になってしまったように感じられた。

「・・・・・・い、・・・・・・まえ」

「スクールアイドルがないなんて、・・・・・・いやだよ」

「おいお前!」

「ピギィ!」

 そんな彼女に呼びかける声が聞こえた。

 声は、男の人のような声だった。

 ショックで頭が回っていなかったが、男が自分に話しかけてくることに疑問を覚えた。

 ルビィは、男性恐怖症であるため、男性で親しい人間は父親以外いない。

 自分が泣いていたため心配して声をかけてきたという線もあったが、声をかけてきたこと以外にもよくはわからなかったが違和感を感じていた。

「だ、誰ですか?」

 ルビィは、飛び上がって振り返った。その場であたりを見まわして、声の主を探す。

「へ? どこから……」

 が、見回せども声の主の姿は見えない。

 ついに幻聴まで聞こえるようになってしまったのか。ルビィはまた頭を抱えて肩を落とした。

「お前の後ろだよ」

「う、うしろ?」

 いや、やっぱり声はする。確かに聞こえている。

 この声は、幻聴ではないと確信したルビィは、恐る恐る振り向いた。

 すると、

「ぴっ」

「やっと聞こえたな――」

「――ピギィィィイイイイイイ!!」

「なんだよ。ったく、うるせぇな」

 彼女の目に飛び込んできたのは、砂でできた人の下半身だった。

 しかも声がしたのはその下。宙に浮かぶ下半身。

「あ、あああ」

「落ち付けって。話にならねぇだろ」

「おお、おばけぇ! 来ないで!」

 ルビィは、腰が抜けてしまいしりもちをついてしまった。

 彼女がお化けというのも無理はなかった。

 何しろ、上半身と下半身が真っ二つになって、上半身が地を這い、下半身が宙を浮いているんだ。それどころか、その姿は人の姿でもなかった。その上下半身反対の化け物は、全身もこもこの毛のようなもので覆われ、顔は馬の様に見えた。額には一本の角が生えており、ルビィにはそれがユニコーンの様に見えた。

 常識では考えられない状況。すぐにでも逃げだそうするが、体に力が入らず動けない。そんなすぐには逃げられない状況で、怪物は距離を詰める。

「そんなこたぁどうでもいい。それよりも、お前の望みを言え」

「・・・・・・望み?」

「そうだ。どんな望みも叶えてやる。」

「どんな願いでも?」

 怪人が目の前に現れ、自分に願いを聞いている。

 逃げることが出来ないルビィは、迫る怪物に威圧され、願いを考えることを余儀なくされる。

 朝から彼女の理解を越えた出来事が多く起きていたことで精神状態が不安定になっていたこともあったが、いつの間にか彼女は怪物の問いに対する答えを考えていた。

 今までの自分の願い。それは、スクールアイドルAqoursとしてラブライブに出場し、優勝すること。

 しかし、今はその夢は叶わない。

 なぜなら今、Aqoursはおろかスクールアイドルというもの自体が存在していないからだ。

 もちろんルビィはそんなことを認めたくは無かった。

 しかし、現に彼女以外の誰もが、スクールアイドルを過去のものとして認識していた。この世界において、ルビィこそが異端であるようだった。

 もともと気が弱いルビィが、一度しかない高校生生活のほとんどを捧げてがんばろうと思えたのは、生まれてこの方このスクールアイドルしかない

 そんなスクールアイドルがないと言うことは、ルビィにとってはもう死んでいるも同じ。

 その一瞬ひとつの願いが頭をよぎった。

「この世界が、全部夢だったら、いいのに……」

 スクールアイドルが存在せず、Aqoursのみんなもばらばらになってしまっているこの世界。そんなものは夢なのではないかと。

 それならば、目の前に怪人が現れて願いを聞いてくるというシチュエーションもどうにか理解ができる。

 そもそも、昨日まで全国的に人気だったスクールアイドルが、一瞬でなくなってしまうなんてことはありえないことだ。

 ダイヤがスクールアイドルが廃れたなんて言うこと自体ありえない。

 花丸が練習の時間に来ないなんてありえない。

 Aqoursのみんながばらばらになっているなんてことはありえないことなのだ。

 そんなありえないことすべてが、この世界が夢だとすればすべてが解決する。納得できる。

 だから、ルビィは願うというより、出されたクイズに答えるような感覚で、スクールアイドルの存在しないこの世界そのものを否定するような願いをつぶやいた。

 その答えに、怪人はうなずく。

「よし、その願い聞き届けた」

 ルビィの願いを聞くと、怪人は快く承諾した。

「え?」

「お前の願い確かに聞いたぜ。これから、この世界を夢にしてやるよ」

「ほ、ほんと?」

「ああ、だから少し待ってろ。最高の夢にしてやる」

 そういって、怪物はくくくと笑った。

 いつの間にか怪人は、さっきよりは人間に近い姿へと変わっていた。

 まず、さっきまでの上半身の上に浮いていた下半身は、本来あるべき上半身の下に収まっていた。さっきまで砂で構成されていた体は、色を得てより現実味を帯びておりていた。、

 その怪物は、『この世界が夢ならば』というルビィの願いに反して現実だと主張するようだった。

 笑い方や姿の変化など不気味な部分は多々あったが、ルビィは夢にするという言葉に安堵した。

 これで夢から覚めることができる。

 起きたらまず、姉のところへ行って確かめよう。

 部屋にまで押しかけたら多少いやな顔をされるかもしれないし、心配されるかもしれないがそれは仕方ない。悪い夢でも見て怖くなったといえば笑い話程度にしかならないだろう。

 そうしたら、いつも通りの生活が始まるのだ。

 ラブライブを目指し、Aqoursの皆とともにスクールアイドルとしてがんばる輝かしい日々が。

 

「見つけたぜ、おらぁぁぁあああ!!」

「な、貴様は。がはっ」

 

 が、夢が覚めるのを今か今かと待っていたルビィの耳に、けたたましい叫び声が響いた。

 せっかく起きようとしているのにそれを邪魔するのはいったい誰か。

 ルビィは、突然の声に驚きながらも文句のひとつでも言ってやろうと目を開いた。

 

「あの、ちょっと邪魔しないで――」

 

「――おい、てめぇ。こいつに願い事なんてしてんじゃねぇぞ」

 

「あ、あああ、あなたは、だれ!?」

 

 ルビィが顔を上げると、視界に赤い足が写った。

 徐々に顔を上げていくが、目の前の人物は、どこまで行っても真っ赤。途中、鎧のような硬そうな部分があったがそこも真っ赤。

 まるで全身タイツでも着ているかのような姿だった。

 そして、視線は顔までたどり着く。

 顔は、鬼のお面のようなもので覆われているように見える。

「赤い、鬼?」

 全身タイツに鬼の顔。

 その姿からは、どこぞの悪役、しかも下っ端が連想された。

 そう。赤い色をすべて黒に塗って三叉槍を持たせれば、すっかりバイキン――

「おいお前。今見てちょっとダサッとか思わなかったか? おい、思っただろ。なぁ、ちょっと――」

「――先輩。何やってるの? とりあえず、イマジン倒す方が先でしょ」

「何しやがる、カメ! こいつ、俺のこと――」

「――はいはい、抑えてね」

 ルビィの心を見透かしたかのように、赤鬼は、ルビィの目と鼻の先まで接近し眼を飛ばしてきた。

 それに驚いてルビィがのけぞってしまう。

 ルビィがおびえていると、赤鬼は誰かに押されて目の前から消えた。

 その代わりに今度は、青い全身タイツが現れた。

 体にはところどころ六角形があり、顔の形と甲羅を思わせる六角形は亀を思わせた。

「青い、亀?」

「ごめんね、お譲ちゃん。この人、この三叉槍持った雑魚キャラみたいな格好気にしてるみたいでさぁ。ところで、落ち着いたらちょっとお茶でも――」

「――おい、亀。雑魚キャラって何だよ雑魚キャラって」

「いや、どう見たってそうでしょ。ねぇ」

「お前さんも、あぶら売っとらんとさっさと行きぃ」

 言い争いを始めた赤鬼と青亀を、黄色と黒を貴重とした体と一本角が特徴の怪人が押し飛ばした。

 腕も足も太くしっかりしており、どうやら相当の力持ちみたいだ。

 その怪力は、どこか熊を連想させた。

「黄色い、熊?」

「おう、譲ちゃん。泣いとるんかい? 涙はこれで拭いときぃ」

 混乱が限界を超えたルビィが、いつのまに涙を流していたことに気づいたのだろう。

 黄い熊は、ルビィの元にしゃがむとティッシュを差し出した。

 差し出すティッシュ紙を、ルビィは恐る恐る受け取った。

「あ、ありがとう、ございます」

「もう、じゃま!」

「のわぁ」

 しゃがんでいたからだろう。

 黄熊がティッシュ渡すや否や、続けてやってきた紫色の怪人に押されて盛大に倒れてしまった。

 もともと体が重そうだったから、一度体勢を崩したらひとたまりもないだろう。ルビィが、そんなことを思っていると、今度は熊を転ばした張本人が姿を現した。

「紫の、竜?」

「へへ。あいつと遊んできたら、次はおまえに遊んでもらうけどいいよね」

「え?」

「答えは聞いてない!」

「ど、どういうこと!?」

 全身紫色で、顔には牙と長いひげ

 いいよねと聞きながら、答えを聞かずに走っていってしまう。

 とっくの昔に理解の限界を迎えているルビィに更なる追い討ちを加えていった。

 

 そうして、ルビィの前に四体の理解不能な存在が並び立った。

 各々武器を担ぎながら立つ姿は、戦隊ヒーローとかに出てくるキャラクターの様に見えなくもない。もちろん、姿が怪人であるため敵キャラではあるが。

 

「まったくテメーらまとまりねーな」

「それは先輩もでしょ」

「桃の字、自分についてくる思ってたんか?」

「みんな行かないの? じゃあ、僕一人でやっちゃうね」

「ちょっと待て小僧。抜け駆けしてんじゃねぇ」

 まるで本当に遊びにいく子供のように、紫の竜は、はしゃぎながら怪人ところに向かった。

 ルビィは、せめて目を瞑っていればよかったと思う。

 声だけは子供のそれだが、竜の手にはライフルが抱えられていた。

 無邪気な笑い声とは裏腹に、豪快にライフルを撃ち放ったのだ。

 その弾丸は、一番最初に現れた怪人に見事に命中し、怪人は大きく吹き飛んだ。

 その光景を見て、走り出すほか3人。

 赤鬼はサーベルのような刀を振り回しながら、青い亀は両端に六角形の刃の付いた薙刀のようなものを肩に担ぎながら、黄色い熊は斧をもってのしのしと、先程紫の竜が撃ち飛ばした怪人の元へと向かう。

 

 目のまえで、四人? がルビィの中から出てきた怪人をすっかり囲んでしまった。

 

「おい。ちょこまか動くな」

 

「ああもう、そんなやたらめったら剣を振り回さないでよ。ぶつかったらどうするの? って、痛い」

 

「すばしっこいやっちゃなぁ」

 

「ははは。もぐら叩きみたい」

 

 ルビィの頭の中で、赤鬼と青亀、黄熊、紫竜が駆け回る。

 赤鬼は暴れん坊で青亀はいけ好かない感じ、黄熊はのしのしとマイペースに、紫竜は勝手気ままに笑い踊る。

 そんな彼らがルビィを取り囲むイメージが頭の中で展開されていた。

 

「先輩、だからそんなふりまわさないで。って、痛っ。当たったんですけど」

「弱いものいじめみたいでだめや」

「おい熊。いまはそんなこといってる場合じゃ――」

「なんかこれ、つまんない。飽きた」

「小僧、飽きたとか言ってんじゃ。って、こんな至近距離で撃つなバカ」

「あ、いまバカっていった。こいつで遊ぶの飽きたし、今度は桃ちゃんで遊ぶけどいいよね」

「だから、それどころじゃ――」

「――答えは聞いてない!」

「ぎゃー!」

 

 怪物を囲んでいた赤鬼、青亀、黄熊、紫龍。

 最初は、一本角の怪物をタコ殴りにしていた。

 しかし、四人の距離が短かったのがいけなかったのだろう。

 赤鬼の剣が青亀の足に当たり、青亀はその足を抱えて飛び跳ねる。

 黄熊は、4人で囲んでいる状況が気に食わなかったのか、攻撃するのをやめてしまう。そして紫龍はといえば、一方的に攻撃している状況に飽きてしまったようで、攻撃がとても雑になっていた。

 適当に放ったライフルが赤鬼の足元で炸裂したのだ。

 

「なんかわからねえが、これはチャンス!」

 

「あ、おい。逃げんじゃねぇ!」

 

 さっきまで優勢だったにも関わらず味方同士で足を引っ張り合っている赤鬼たちの隙を見て、一本角の馬面怪人は彼らの包囲網から抜け出した。

 赤鬼は、ライフルの弾を足に受けてぴょんぴょん跳ねながら、逃げる怪物に向かって叫ぶ。が、さんざんいじめられていただけあって、逃げるなと言われて止まるわけもなく、一本角の怪物は建物から建物へと飛び跳ねながらどこかへ行ってしまった。

 

「くっそ、逃げやがった。どうすんだよ。お前等のせいだからな!」

「俺は、必要ないと思ったからどいとったんや。それで、逃がしたんなら自分らのせいやろ」

「僕、知らないよ。誰かのせいって言うなら桃ちゃんのせい」

「なんだと!? お前等が足を引っ張らなきゃな。おい亀、お前も何か言ってやれ」

「まあ、今更言っても仕方ないでしょ? それはそうと、さっきの子は大丈夫かな」

 青い亀のような怪人は、言い合いする三人を尻目に、他三人がすでに忘れているであろうルビィの方を向いた。

 彼は、女性に対しては基本紳士的であるため、忘れずに居たのだろう。

 振り向くと、その場に倒れている少女の姿を発見した。

「あら、お嬢ちゃん。もしかして気絶しちゃってる?」

「ったく。」

「ははは。モモちゃんが怖い顔してるからだ」

「はぁ? 小僧、俺のせいだっていうのか? ざけんじゃねぇ」

「わぁ、また怒った!」

「おい、こら待て。小僧」

 赤鬼と紫竜がルビィの周りを駆け回る。

 現実でもぐるぐる。夢でもぐるぐる。

「はは、ははは。ふにゃ」

 頭の中でぐるぐるごった混ぜになり、ルビィの理解の許容限界を超えた。

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