「じゃあまあ、この件は僕たちに任せといてよ」
「俺たちがすくーるあいどるっちゅうもんを取り戻したるからな」
「だから、少しだけ待っててよ」
「……お願いします」
赤鬼が先に出ていってしまったため、ルビィは一度電車からおろされることとなった。
他の3人は、頼もしい言葉をかけてくれたが、ルビィは、俯きかげんで答えた。虹色の穴の中へ走り去っていく電車を見送るルビィは、赤鬼に言われたことについて考えていた。
「本当に、これでよかったのかな」
自分にはどうすることもできない。そう自分にいい聞かせながらバス停へ向かって歩いていた。
直接家へ送ってもらうこともできたが、それでは不自然だということで、家からは少し離れた場所で降ろしてもらった。
それに、少し歩きたい気分でもあったのでちょうど良かった。
バス停でバスを待つ間も、ルビィは、ぼーっと前を眺めながら考えていた。
考えていたのは、赤い鬼の怪人に言われたことだった。
スクールアイドルが消えた。
ルビィにとって高校生活の大部分を捧げてきたものが消えてしまったのだ。
悲しくなかったのか?
悲しかったに決まってる?
悔しくなかったのか?
悔しかったに決まってる。
どうにかしたいと思わないのか?
どうにかしたいに決まっている。
でも、自分にいったい何ができる。
スクールアイドル。
そんな小さい頃からの夢だったものになると言うだけでも、姉とのことなど様々な葛藤があり、友達の支えがあってやっと一歩踏み出せたのだ。
それなのに赤鬼は、時間を正すために怪人と戦えと言う。戦って倒せという。
殴り合いの喧嘩だってしたことのないルビィに、戦えと言う。
冗談にもほどがある。
いったいどうやって戦えと言うのだろう。
武器があればと言うことではない。
どうやって決断をしろというのだろう。一歩踏み出せと言うのだろう。
自分一人では、やりたいことをやりたいとも言えない自分に、いったい何ができるのだろう。
やがて、バスが到着すると、ルビィはバスに乗り込んだ。
空いている席に座り、窓越しに景色を眺める。
バスの発進とともに、景色がゆっくりと動き始めた。
そこで気づいた。
「どうしよう。反対方向のバスに乗っちゃった」
ルビィの乗ったバスは、ルビィの家とは反対方向へ走るものだったのだ。
「なんで、間違っちゃったの。ぼーっとしてたから?」
考え事をしていて、ぼーっとしていて。
それで道路を挟んで反対側にあるバス停で間違ってバスを待っていたのか。
いや、違う。分かっていた。
本当はどうにかしたいのだ。
スクールアイドルのことも、イマジンのことも。
自分にはスクールアイドルを取り戻す方法も、イマジンを止める方法も分からない。でも、どうにかしたいという自分は、確かにルビィの中に存在したのだ。
だからこそ、赤鬼の言葉が胸に刺さったのだ。
できるかどうかではなく、やりたいかどうかだと言う言葉。
Aqoursが9人になる前。自分に自信がなくてあきらめようとしていた花丸がかけられた言葉。自分も輝けるなら輝きたい。でも、そんなこと自分にはできるはずがないとあきらめようとしていた花丸が加入するきっかけとなった言葉だ
それは花丸への言葉で、自分に向けられた言葉ではなかった。しかし、ルビィもその言葉に勇気づけられていた。
こんな自分でも、やりたいって気持ちがあればやっていいんだって。
できるかどうかで悩んであきらめないで、とりあえずやってみてもいいんだって。
スクールアイドルとなってからも、その言葉に何度も助けられた。
そして、今も自分に問い続ける。
本当にやりたいことは、何かと。
今、自分がやりたいことは……。
「――っ! な、なに?」
突如、爆発音が響いた。
その音ともに、バスは急停車した。
前の座席に危うく顔をぶつけそうになったルビィは、すんでのところで手を突きだして衝突を避ける。突き出した腕を前の椅子の背もたれにぶつけてしまい、じんと痛みが走る。
が、そんなことを言っている暇はなかった。
いったい何が起きたのか。
音のする方へ向くと、商店街の一つとなりのビルから、揺らめく赤と黒が見えた。
ビルから立ち上るそれは、炎と黒煙。
先ほどの爆発音から、何らかの原因で起きた爆発によって炎上していることは明らかだった。
爆発の瞬間、誰も音ひとつ立てずにその炎を見ていた。しかし、一人が叫び声をあげるとともに、バス内の人々は一斉に動き出した。
ガス爆発などの事故か、テロかはわからなかったが、そんなことは関係ない。早くその場から逃げなければと騒ぎ立てる。
二次災害を恐れた運転手は制止しようとするが、パニックを起こした人々を抑えることはできない。やむなく出入り口のドアは開けられ、そこから乗客があふれ出した。
その光景を黙ってみていたルビィだったが、彼女も意を決してバスを出た。
火を噴く建物を見上げる彼女の横を逃げ惑う人々が通り過ぎていく。
そんな中、彼女は目を閉じた。
できるかどうかじゃない。やりたいかどうかだよ!
ルビィの胸に、ある人の言葉が響く。
あの赤鬼も言っていたこと。
怖い。
ルビィは、手を握りしめる。
足が震える。自分に何ができるのか、全然わからない。
それでも、
「行かなきゃ」
いま、彼女が一番やりたいこと。それは、
「また、あの楽しかった日々を。スクールアイドルを取り戻したい」
自分の勝手な願いのせいで、この事態が起きてしまっているのなら、それは自分で止めなくちゃならない。
ルビィは、高く上がる炎へ向かって走り出した。
ちゃんと伝えなくてはならない。自分の願いを変に解釈した結果にこのようなことが起きているなら、そんなことは望んでいないとちゃんと伝えなくちゃ。
その思いが、ルビィを走らせた。
「いったい、なにが・・・・・・」
耳をつんざく音に襲われた花丸は、頭を手でかばうようにして体を小さく丸めていた。直後に、土かコンクリートか分からない粉塵に包まれ、視界を奪われていた。
周りが確認できないときに、目が聞かない状態で動き回るのは危険だと考えた花丸は、その場で動かず事態が落ち着くのを待った。
程なくして顔を上げると、土煙は徐々に風に流され、視界は晴れていった。そこで花丸は、曇った視界に目を凝らし、状況を確認しようとする。
「そんな、火事・・・・・・。爆発が起きて」
少し離れたところにあったビルが、突然爆発したのだ。
花丸は、離れた場所に居たため直接の被害を受けることはなかったが、いつ二次災害が起きてもおかしくない。
彼女は、立ち上がりその場から離れようとした。
「ひゃはは。やっぱ、こっちの方が楽しくていいぜ」
その時、近くから状況とは正反対の楽し気な声が聞こえてきた。
花丸は、それを聞いて固まってしまう。
一切固まっている時間はなかったが、彼女が固まってしまったのは、聞こえてきた楽し気な声が彼女の方へ近づいてきたからだ。
突如起きた爆発でビルが炎上し、その破片が降り注ぐような状況だ。そんな状況で、なぜそんな笑い声が聞こえてくるのか。
そう考えた時、花丸の頭に浮かんだのは、この事件の犯人であるということ。もしかしたら、テロリストなのではないかと考えたのだ。
それが自分へ向かって近づいている。それを感じた花丸は、むしろ動いた方が見つかってしまうのではと考えてしまい、動けなくなってしまったのだ。
しかし、無情にも足音は、彼女へ近づいてくる。
逃げだそうと思ってももう遅い。
今、姿を現そうとしている人物が犯罪者なのではないかと思うと、足がすくんで一歩が踏み出せない。
そうこうしている内に、謎の陰が姿を現し始めた。
まず最初に表れたのは、一本の長い角。その角は、続いて表れた頭部の額から生えており、顔が馬のようなことと合わせるとユニコーンのようだ。
体は、まるでもこもこの綿にでも覆われているかのような柔らかそうな見た目だった。
「なに? マスコットずら?」
それは、さながらどこかの遊園地か何かのマスコットキャラクタのように見えた。しかし、マスコットにしては疑問の残る見た目でもあった。
色は、ピンクや黄色、水色のパステルカラーが使われおり、見た目にもましてふわふわした雰囲気お演出していた。しかし、目は鋭くつり上がり、指先には爪が光っていたのだ。なにより、先ほど彼女が聞いた笑い声の主だとすれば、性格は最悪なように思われた。
「に、逃げなきゃ」
やり過ごせなかった以上、その場でじっとしている必要はない。
人型の一角獣が、マスコットであろうがテロリストであろうが関係ない。
まだ相手と距離がある内に。これ以上トラブルに巻き込まれる前にこの場を離れなければ。
花丸は、きびすを返した。
「ーーきゃ」
「ん?」
しかし、慌てていたせいか足下にあった瓦礫に足を取られてしまい、倒れ込んでしまった。しかも、そのときの悲鳴が一角獣の気を引いてしまった。
「お、お前、知ってるぞ。お前は確か・・・・・・」
一角獣の怪人が次に何をするか。
花丸が恐怖にひきつった顔で振り向く。すると、怪人の顔は彼女の顔のすぐ近く。彼女の顔をのぞき込んで何かを考えているようだった。
花丸は自分のことを知っていると言う怪人の言葉に真っ青になりながら、何とか距離を取ろうと後ずさる。が、それと同時に怪人は距離を詰める。
「そうだ。あいつの親友か。こいつは使えるぜ」
あいつの親友。その言葉を聞いて、花丸ははっとした。
花丸の親友。そう考えたときに真っ先に思い浮かんだのは、小動物のように臆病だけど優しい赤毛のツインテールの女の子。
目の前の怪人がどういう経緯で彼女のことを知ったのかは花丸には分からない。
しかし、大惨事をまるで喜んでいるような発言を聞いてしまった後だ。
花丸の脳裏に、考えたくない最悪の想像が思い浮かんだ。
すると花丸は、さっきまでとは一転、怪人を睨みつけた。
「もしかして・・・・・・。ルビィちゃんに、なにしたずら! ルビィちゃんに何かしたなら、絶対に許さないずら!」
「なにいってんだ? まあ、こいつを使えば俺の契約は完了する」
さっきまで恐怖に震えていた少女が、今度はこちらを睨んで敵意をむき出しにしている。
突然怒声を放たれ、怪人は首を傾げた。
が、すぐに興味が失せたというように、自らの目的を果たすため、目の前の少女へ手を伸ばす。
「く、来るなずら」
花丸は、迫る魔の手を前に、堅く目を閉じた。
今まさに危機に直面している花丸は、しかし、他人の無事を祈っていた。
それは、彼女の大親友の無事を願う祈る。
花丸は、自分のことはもう駄目だとあきらめていた。
だから、せめてと祈る
ーールビィちゃん。無事でいて。
「待って!!」
彼女のよく知った声が、怪物を制止した。
★付箋文★
「花丸ちゃん!」
最初は幻聴かと思った。
最後に彼女のことを想っていたから、そのせいで聞こえた自分が勝手に作った声だと。
しかし、彼女へ伸ばされていた腕が未だ自分に触れていないことに気づき、恐る恐る目を開く。
見ると、怪人は花丸から目を離し、花丸とは反対方向を向いていた。
さっきまで自分を襲おうとしていた怪人が、いったい何を見ているのか。花丸が怪人の向いていた方向を見る。
「ル、ルビィちゃん!」
居た。
幻聴ではなく、怪人を止めたのはルビィだった。
走って駆けつけてきたのか、苦しそうに胸を押さえ、髪は乱れてはいたが、ルビィはそこにいたのだ。
「花丸ちゃん!」
爆風の影響か土埃にまみれてはいたが無事のようだ。しかし、彼女の近くには、ルビィの探していたイマジンが迫っていた。
ルビィは、花丸の無事を確かめるとすぐにイマジンをみた。
「お願いやめて。花丸ちゃんは、ルビィの大切な友達なの。親友なの。だから、花丸ちゃんにひどいことしないで」
伝えなくちゃ。そんなこと望んでないって。
勝手な願い事をしてごめんなさいって。
もう、誰かを傷付けるようなことはやめてって。
その一心で、ルビィは言葉を紡ぐ。
一度、願いを叶えると言ってくれたのだ。きっと、しっかり説明すればやめてくれる。
ルビィは、そう信じていた。
怪人は、ルビィの言葉を聞いて立ち上がった。そして、ルビィを見てから再び花丸へ視線を戻した。
「そうだよな、こいつはお前の親友なんだよな」
「そうなの。だから――」
「――だったら、こいつが死ぬところなんか、お前にとっての最高の悪夢だよなぁ?」
「え?」
予想外の言葉に、ルビィは固まってしまう。
何を言っている?
死ぬ?
悪夢?
本当に悪夢にしようとして?
自分のせいで、自分が願ったせいで、親友が死ぬ?
「・・・・・・や」
「さあ、その目に刻みつけろ」
「いや・・・・・・」
「最高の悪夢をな」
「やめてぇぇぇええええええ!!」
怪人は、ふるえているルビィに見えるように、花丸を前へ突き出す。
そして、右手に持った剣を振り上げーー
「待てぇ、てめぇ!!」
――しかし、突如振り下ろされた剣を受け止めた。
一角の怪人の剣と鍔迫り合う剣は、炎のごとく紅い。
その剣の持ち主は、
「やっと見つけたぜこの野郎!」
「くそ、あのときのやつか」
「赤鬼さん!」
先に飛び出して単独行動をしていた、赤い鬼の怪人だった。
「へっ。あのときは逃がしちまったけどな、今度はぜってぇぶっ倒してやっからな。逃げようとなんて、考えんじゃねぇぞ」
「ふん。俺を倒す? そりゃ、無理なこったな」
赤鬼は、ユニコーンが構える剣へ続けざまに剣をたたきつける。
力任せな戦い方ではあるが、ユニコーンは片手で剣を構えているのに対し
赤鬼は両手でもって剣をたたきつける。純粋な力比べでは赤鬼が押していた。しかし、
「ほらっ」
「な、くそっ」
ユニコーンもそのまま押し切らせはしなかった。
先ほどまで殺そうと捕まえていた花丸を、赤鬼が振り下ろそうとする剣の前に盾のように向けたのだ。
そのせいで、赤鬼の剣に迷いが生じる。赤鬼の剣は、花丸の眼前で止まった。
すると、用は済んだとばかりに花丸を投げ捨てるように放すと横薙に剣を揺り抜いた。
その隙をついて放たれたユニコーンの剣が赤鬼の胸に当たると、赤鬼はがれきの山へと突っ込んだ。
「ぐはっ」
「赤鬼さん!」
ルビィは、ふっ飛ばされた赤鬼へ駆け寄った。
たった一発とはいえ、成人男性くらいの大きさの赤鬼を少し離れた瓦礫の山へ飛ばすほどの一撃だ。その威力は一目瞭然。
そんなものを受けて平気なはずがない。
ルビィが駆け寄ると、瓦礫の山から腕だけがでている。
「そんな、赤鬼さん」
赤鬼は、瓦礫に埋もれたまま動かない。
「ごめんなさい。ルビィのせいで、ごめんなさい」
自分のせいでまた一人被害者が出てしまった。
動かない彼の手を見て、彼女は、その手を握った。そして、ただ繰り返し謝るしかなかった。
「――くっそぅ。油断したぜチィクショウ!」
「い、生きてた!」
が、赤鬼は、ルビィが手を握ったのとほぼ同時に起きあがった。
さすが人とは体のつくりが違うのか。赤鬼は、ノーダメージまでとはいかないものの、ほとんど無傷のようだった。
赤鬼は、自分で立ち上がると、そこでようやく自分の手を握っている存在。ルビィの存在に気が付く。
「お、お前、何でこんなところにいやがる」
突然現れた自分を心配そうに見つめる少女に、赤鬼は動揺した様子で彼女の手を振り払った。
「そ、それは・・・・・・」
「って、それは後回しだ。てめぇ、そいつから離れやがれ」
ユニコーンイマジンは、赤鬼が動きだそうとしていると見るや、花丸の側へと戻ると彼女の髪を掴んで引っ張り上げた。無理矢理立ち上がらせると、彼女を左腕で逃げられないよう捕まえるとともに、右手に持った剣を彼女の首もとへ突き立てた。
「痛い!」
「おっと、近づくんじゃねえ。それ以上近づいて来たら、こいつがどうなっても知らねえぜ」
「てめえ、人質たぁずいぶん卑怯なまねしてくれるじゃねえか」
「卑怯? 俺が楽しむためだったら卑怯上等だぜ」
花丸を人質に取られているため、赤鬼は動けない。
倒すべき相手がすぐ目の前にいるのに手が出せない状況に歯ぎしりする赤鬼を見て、ユニコーンは機嫌良さそうに笑う。
「何でこんなことするんですか。ルビィ、こんなこと望んでないって、いってるのに」
「あぁ?」
怪人は、何を言っているのかわからないと言うように首を傾げていった。
「まだ気づいてねぇみたいだから教えてやるけどよ。俺は、願い事がどうとかどうでもいいんだよ。現代でも過去でも、いろんなものぶっ壊せりゃそれでいいんだ」
「そんな・・・・・・」
「それにしても、こんな可愛い子の首をポキッと折ったときの感触は、どんななんだろうな? この柔らかな肌に切り裂く感触は、どんなに気持ちいいんだろうな? 気になるよな?」
「いや! そんなこと絶対にさせない」
怪人の発言を聞いて、ルビィは理解した。
怪人は、ルビィの願いを叶えようとして暴れていたわけではなかった。彼女の願いを勘違いして暴れていたわけではなかった。
彼女の願いなど関係なかった。
彼女の願いを叶えようとしていたのはついで。ただ暴れる口実と場所がほしかっただけなのだ。
それを理解した彼女が怪人に向けたのは、怒りだった。
「おいお前。さっさと逃げろ」
「いやだ!!」
このままでは足手まといになるどころか、最悪の場合本当に悪夢を見せてしまうことになると考えたのだろう。赤鬼は、ルビィに再度逃げるよう言う。
しかし彼女は、今までとは違い、明確な意志を持ってそれをはねのけた。
「ルビィは、痛いのとかいやだし、戦うのも怖くてたまらない。いますぐここから逃げ出したいよ」
「だから、逃げろって言ってんだろ。お前がここにいても足手まといなん――」
「――でも」
赤鬼に足手まといだといわれ、しかしルビィは引かない。
それどころか、ルビィの目にはさらに強く意志が灯る。
「ルビィ。μ'sが好きで、Aqoursが好きで、スクールアイドルが大好きで。スクールアイドルがないなんてイヤだもん。Aqoursがないなんてイヤだもん。みんなとの大切な思い出がないなんて、いやだもんいやだもんいやだもん! ルビィは、自分が傷つくより、大好きなものがなくなっちゃうほうが、大切な親友が傷つくほうがもっといやだ。だから……、戦うための力があるって言うならルビィ、戦うよ!!」
「お前……」
赤鬼は、ルビィの頭に手を置いた。
ルビィは、びっくりして彼の顔を見上げた。すると、お面のように表情の変わらない顔が、少し笑っているように見えた。
「お前、なかなか頑固で根性あるじゃねえか」
「赤鬼さん?」
「でも、お前一人じゃ無理だ」
「それでもルビィは」
「だーかーら」
赤鬼は、ルビィの肩に手をまわした。そして上体を下げて、彼女の耳元で言った。
「俺たちが一緒に戦ってやる」
「俺たち?」
思わず、赤鬼の言葉に聞き返した。
が、それと問う時間はなかった。
ユニコーンは、自分を放ったまま話を進める二人に苛立ちを募らせていたのだ。
花丸に突き立てた剣をさらに彼女の首筋へ突き立てた。
「なにをごちゃごちゃと。あんまりなめてると、こいつの首、スパッとやっちまうぞ」
「い、いや――」
刃先が首に触れ、触れた部分からプクリと血が膨らんだ。
ユニコーンの目的は、花丸をルビィの目の前で殺して悪夢を見せ、契約を完了すること。
現在は、赤鬼の攻撃から自分を守るための盾としているため殺されていなかった。しかし、苛立ちを募らせているユニコーンは、次にどのような行動を取るかわからない状態だった。
「駄目!」
花丸が痛みにうめくのを見て、ルビィは叫んだ。
それでも、花丸が人質に取られているために助けることも近くに駆け寄ることもできない。下手に刺激してたら、いつ強硬手段にでるかわからないからだ。
花丸の命とともに、ルビィと赤鬼は行動をも握られてしまっていた。
花丸が人質にされている間は、二人は動くことすらできない状況だった。
ところが、そんな中赤鬼は、にやりと笑った。
ユニコーンの注意は、完全にルビィと赤鬼に向いていた。同時に、ほかのものに対しては注意が散漫になっていたのだ。
「いまだ、小僧!」
赤鬼が合図を出した。すると、紫の影が飛び出した。
「すきやり。ばーん!」
「な、なんだ」
突如響いた銃声。それは、ユニコーンイマジンが理解するより早く彼の剣を弾き飛ばした。
現れたのは、ライフルを構えた紫の竜。
彼が、ライフルでユニコーンが持つ剣を弾き飛ばしたのだ。
手から剣が落とされたため、花丸の命を直接的に脅かしていたものが取り去られた。
その機会を逃す手はない。
「ようやったで、リュウ太。ふん」
「いったいどこから、ぐわっ」
ユニコーンイマジン剣をはじかれて動揺している隙に、黄色い巨体が飛び出した。
黄色い陰は、黄熊だ。彼は、ユニコーンに突進すると、花丸を捕まえていた方の腕を掴んだ。
ユニコーンの意識は、完全に弾かれた剣の方へいっていたため、花丸を捕まえていた腕は若干緩んでいた。その隙を狙って黄熊は、花丸を拘束する腕を引き剥がすと、張り手で突き飛ばした。
打ち落とされた剣に注意が向いていたユニコーンは対処できず、張り手をもろに受けて大きくはね飛ばされた。その一撃でユニコーンを花丸から引きはがすことに成功した。しかし、
「おい、嬢ちゃん。大丈夫か? って、どこ行ったんや」
黄熊は、自分の腕の中にいると思っていた花丸の姿がないことに気が付いた。
「ずらー!」
剣に注意が引きつけられていたせいで、ユニコーンの腕は黄熊の予想以上に緩んでいたのだ。必要以上の力で腕を引き剥がしたせいで、花丸を引き剥がすどころか投げ出してしまっていたのだ。
彼女の体は、宙を舞い、そして黄熊の視界の外で地面にたたきつけられようとしていた。
「花丸ちゃん!」
ルビィは、思わず叫ぶが花丸が地面に着くまでに追いつくことはできない。
誰もが、彼女の体が地面に叩きつけれてしまうと思った。
そのとき、
「よっと。危ない」
彼女の体が地面にたたきつけられる直前、青い陰が地面と彼女との間に滑り込んだ。
「ちょっとキンちゃん。女の子はもっと優しく扱わないと」
「すまん。少し加減を間違えてもうた」
青亀だ。
間一髪、青亀が花丸と地面の間に滑り込んだのだ。そのおかげで彼女は、地面にたたきつけられずに済んだのだ。
ルビィは、花丸が解放されるや否や、すぐさま花丸の元へと駆け寄った。
「花丸ちゃん!!」
ルビィが駆け付けると、青亀は、自身の上で体を丸くしたままの花丸を起き上がらせる。
花丸は、何とか起き上がったものの、解放されて腰が抜けたのかへなへなと座り込んだ。
「大丈夫? どこか怪我はない?」
「よくわからないけど、大丈夫ずら」
花丸は、いまだに状況をはっきりと理解できていない様子だった。
ルビィは、そんな彼女をただただ抱きしめた。
もう心配いらないと。もう安心だと、彼女に伝えるように。
そして、彼女の無事を自分自身で確かめるように、全身で彼女の体温を感じていた。
「おい、ルビィ」
「赤鬼さん。――わっ」
花丸と抱き合っていたルビィが赤鬼に呼ばれて顔を上げると、突然頭を撫でられた飛び上がる。
振り向くと、赤鬼の顔がすぐ横にあった。
赤鬼は、鼻の下をかきながら言う。
「へっ。言っただろ、俺たちがいっしょに戦うってな」
「は、はい」
赤鬼の後ろには、彼の仲間たちが並び立つ。
花丸を救った3人の勇者たちだ。
「じゃあ、先輩。後は任せたよ」
青亀は、少し気取った様子でルビィに向かって手を振る。
「バシッと決めや」
黄熊は、顎を親指で押すようにして首を鳴らす。
「今回は譲ってあげるけど、次は僕だからね」
紫竜は、両手でそれぞれ作った拳銃でルビィと赤鬼を打つ振りをする。
「ああ。言われなくてもきっちり決めてやる。なんたって今の俺は、最高にクライマックスだからな」
そんな彼らの言葉を受け、ルビィと赤鬼は振り返った。
振り返った先には、黄熊の突っ張りを受けて飛ばされて、立ち上がろうとするユニコーンの姿があった。
それは、彼女の大切な町をめちゃくちゃにした相手。悪夢のような惨状に変えようとした相手。そして何より、彼女の大切な親友である花丸を傷つけた相手だ。
イマジンの行った行為は、ルビィの願いとはかけ離れたものだ。でも、ルビィが安易に夢になればいいなどと願ったために起きたことと言うことは、覆せないものだ。
だから、彼女はまっすぐユニコーンを見据えた。
これ以上被害を出させないため。自分の安易な願いを正すため。
もう彼女には、迷いはない。
「ルビィ」
「はい」
「これを腰に巻け」
ルビィの覚悟を感じ取った赤鬼は、彼女へ向かって腕を突き出した。
彼の手には、何か帯状の物が握られている。
帯の片側には四角い塊が付いている。その四角い部分の中央には、円形のクリアパーツが付いており、その横には赤、青、黄、紫の4つのボタンが付いていた。
ルビィは、その四角い部分を両手で持って受け取った。
しかし、それが何なのか、巻いたところで何が起こるのかわからず、
「腰に?」
「いいから巻け。あいつが来んだろ」
「巻けって、どうやって……」
「ああもう、貸せ!」
「ピギィィィイイイ!」
ルビィは、受け取ったもののその帯状のものをどう巻こうか首を傾げていた
そんな彼女を見かねた赤鬼は、彼女に渡したそれを奪い取った。そして、帯の両端をつかむと、後ろに回って背後から腕を回した。
ルビィは、まるで自分に抱きつくように密着してきた赤鬼に驚いて叫び声をあげるが、赤鬼は気にしない。
帯の片端に付いた四角い部分のくぼみにもう片端へ押し込む。すると、ルビィの腰に巻きつくには大分余裕のあった帯が縮み、ベルトのようにしっかりと巻き付いた。
「赤いボタンを押して、このパスをバックルの中央にかざせ」
赤鬼は、ベルトの次にパスと呼ばれる四角くて黒い板のようなものを手渡した。その板は二つ折りになっており、何かカードのような薄いものが入りそうなポケットが付いていた。
赤鬼は、バックルの左側にある四つボタンのうち赤を指差し、その後パスをバックルンの中央へかざす様に促す。
「こ、こうかな?」
ルビィは、パスを受け取ると恐る恐る赤いボタンを押す。すると、軽快な音が鳴り響く。突然鳴り出したに驚いてビクついてしまうが、赤鬼に急かされてパスをバックルの中央にかざした。
『sward form!!』
「へっ、なに?」
「よっしゃあ! 行くぜぇ!!」
「ピ、ピギィ!」
パスをバックルにかざした瞬間、モモタロスは赤い光の塊となり、ルビィに飛びついた。
ルビィは、反射的に手で自分をかばう。
怪人が自分に飛びかかってくるように見えたのだ。それは当然の反応だ。
しかし、ルビィはモモタロスにぶつかることはなかった。
モモタロスは、ルビィの中へと消えてしまったのだ。
モモタロスがルビィの中へ消えた瞬間、ルビィは上半身から力が抜けたように首を垂れる。が、次の瞬間には勢いよく顔をあげた。
すると、彼女の服装が変化し始めた。
それは、人間が自分より何倍も強いイマジンと戦える姿への変身。
赤鬼がルビィに渡したものこそ、彼らが言っていた電王に成るためのベルトだったのだ。
彼女がもともと着ていた制服は消え、黒いタンクトップとスパッツに変化する。それと同時に、彼女の周りには赤い光の球が複数出現し、彼女の制服が変化し終わるとともに彼女の体に集まっていった。
上半身に集まった光は赤いジャケットへ。手に集まったものは指先の部分が露出したグローブが、下半身には赤いスカートが現れた。最後に、電車のレールのようなものが彼女の髪をツインテールに結い上げ、桃がひとつずつそのレールの上を走り、二つに割れて髪を飾った。
ルビィは、そうして変身を遂げた。
変身を遂げた彼女を、三人のイマジンは見ていた。
彼らは、電王について知っている。
なぜなら、特異点である人間に憑依してその体を借り、電王として戦っていたからだ。
そのため、彼女の変身した姿に首を傾げていた。
「ありゃ、どういうこっちゃ」
「なんか違う。電王じゃなーい」
「いままで良太郎とか男が変身したところしか見たことなけど、もしかしてあれが女の子版電王、みたいな?」
確かにルビィは、電王のベルトを使って変身した。しかしその姿は、イマジンたちが知る電王の姿ではなかった。
そんなイマジンたちの知らない姿に変わったルビィは、不安を感じているイマジンたちとは対照的に不適な笑みを見せる。
ルビィの目は、赤鬼が憑依していることを表しているかのように赤く輝いており、髪を束ねていたただのゴムは、赤く細いリボンに変化していた。
そして彼女は鼻を親指でこすると、右手を後ろへ、そして左手を前につきだし、歌舞伎の見栄に似たポーズを取った。
そして、赤鬼の憑依前では絶対しないような豪快なポーズとともに宣言した。
「ルビィ、参上!!」
正義のヒロインの登場を。
その姿を、三人のイマジンはぽかんと口を開けてみていた。
「ルビィ、参上!?」
「なにこの格好? へへっ、よく分からないけど今のルビィは、最初から最後までクライマックスって感じ!」
彼女は、鼻をこすりあげると、力が有り余っているのか飛び跳ねていた。
その様子からは赤鬼の豪快で少しお調子者な性格の鱗片が見えていた。が、その割には、動きがキャピキャピしているように見えた。
それを三人のイマジンはぽかんとした顔で見つめる。
赤鬼が入っていることを知っている三人には、その行動を赤鬼が取っていると見え、それぞれ頭や口元を抑え始めた。
「モモの字、どないしたんや?」
「ねぇねぇ先輩。ちょっと気持ち悪いんだけど、なにやってるの?」
「モモちゃん、気持ち悪! オウェェ!」
『お、俺じゃねぇよ』
「あれ、先輩?」
三人が話していると、ルビィの中にいるはずの赤鬼の声が聞こえてきた。
『どうなってんだこれ。俺の格好いい登場シーンが台無しじゃねえか』
「先輩じゃないって・・・・・・。じゃあ、あれルビィちゃん? でも、なんかキャラ違くない」
『俺だって良くわかんねえよ。確かに入れてはいるだが、表に出られないって言うか』
赤鬼はルビィに憑依したため、本当であればルビィの体は抵抗されない限りほぼ赤鬼の思い通りに動かすことが出来るはずだった。
見ているだけでは、特に抵抗している素振りは見えないし、赤鬼自身原因が分かっていない様子だ。
しかし、赤鬼の発言を聞くと、どうやら赤鬼の意志では動かせてはいないようだった。
青亀は、興味深そうに顎を撫でた。
「もしかして、中途半端に先輩が入ってるから、性格だけに影響してるとか? それにしても、僕たちイマジンが憑依しても表に出られないなんて、もしかして良太郎より特異点としての力が強い?」
「おい、てめぇら。俺のこと、無視してくっちゃべってんじゃねえぞ」
イマジン四人組が予想外の事態に首をかしげていると、黄熊に突き飛ばされていたユニコーンが立ち上がって吠えた。人質を奪われ、もう少しで契約を完了させられると言うところで阻止されたのだ。ユニコーンは怒りを露わにしていた。
ルビィは、そんな怪人と対峙していた。
怪人の前では、ただ震えていることしかできなかった彼女が、今は赤く輝く目で睨みつけていた。
「心配しなくても大丈夫だよ」
ルビィは、ユニコーンを睨みながら、腰の横に装着されていた四つの電車の車両のようなアイテムを組み合わせ始めた。
彼女が組み立て始めたのは、デンガッシャーと呼ばれる電王の武器だ。
これは、組み合わせ方によって四種類の武器を作り出すことができる。
三本のデンガッシャーを一列に連結し、最後に残った一本を三本に並列に取り付ける。彼女が組み上がったデンガッシャーの柄の部分を持つと、持った方とは反対側から赤い刃が現れた。
今回組み上げたのは、赤鬼も使っていた剣。彼女は、その刃をユニコーンへ向けた
「ルビィの大切なものをめちゃくちゃにするあなたは、絶対に許さないから。いくよいくよいくよいくよ!!」
「なんだか知らねぇが、ガキに負ける俺じゃ」
彼女たちは同時に走り出した。
ルビィは、行くよと何度も連呼して、デンガッシャー ソードモードを振り回しながら。対するユニコーンは、剣は弾かれてしまったため、素手のまま彼女に突進していった。
イマジンは、素手であっても人の何倍もの力を持つ。
ルビィの剣の扱いから、ただの素人なら素手でも問題ないと思ったのだろう。
先に剣を奪ってしまおうと、ユニコーンは腕を伸ばした。
しかし、
「セヤァァァ!!」
「ギャァァァ!!」
ルビィは、その手をその手を剣を持った方の腕で殴り払い、続けてユニコーンを切りつけたのだ。
デンガッシャーの切っ先がユニコーンの胸に当たる。ルビィがそれをさらに下へ振り切ると、剣の刃とユニコーンの体が火花を散らし、ユニコーンを後ろへよろけた。しかし、それではまだルビィは止まらない。むしろ今がチャンスとばかりにでたらめに剣を振り回し、ユニコーンに追撃した。
よろけた隙に何回もその身に剣を受けてしまったユニコーンは、さすがにふらついて経っているのもやっとという状態になっていた。
「ソリャァァァアアア!」
「ギャァァァアアア!」
そこへ
「この俺が、こんなガキに・・・・・・」
「へへ、見せてあげるよ。ルビィの必殺技を」
相手はよろけてすぐには動けない。このチャンスを逃す手はない。
ルビィは、変身の時にも使用したパスをベルトの中央にかざした。
「Full charse!!」
それをトリガーに、ベルトが輝き、デンガッシャーへフリーエネルギーが供給される。
彼女は、用は済んだとばかりにパスを投げ捨てると、デンガッシャーを両手持ちに持ち替えた。
「必殺、ルビィの必殺技!」
チャージ完了とともに、ユニコーンイマジンの元へ走り出す。相手も、ルビィに対応しようとする。が、遅い。ふらふらな状態のイマジンの動きは、ルビィの攻撃を防ぐのには間に合わない。
「セヤァァァ!!」
「くそぉぉぉおおお!」
ルビィの一閃が、ユニコーンイマジンの体を切り裂いた。
「決まっ、た! ピ、ピギィ・・・・・・」
イマジンとの戦闘による披露、そして精神的ストレスから限界がきたのだろう。ユニコーンが爆散すると、ルビィは電池が切れたように倒れてしまった。
「ちょっと、ルビィちゃん!」
突然倒れてしまったルビィの周りに花丸とイマジン3人が駆け寄る。
花丸は、ひっくり返ったルビィを抱き起こすと、彼女に呼びかける。
怪物と戦闘しているところを目の当たりにしていたせいで、考えたくもない想像が思い浮かんでしまう。
花丸は、そんな想像を振り払うように彼女の名前を呼ぶ。
が、ふと花丸の顔から笑顔がこぼれた。
ルビィの体の熱を感じ、規則正しく上下する彼女の胸をみて、安心したからだ。
「はは、大丈夫。気を失ってるだけみたい」
「急に倒れるからびっくりしたで」
青亀たちがルビィの無事にほっとっしていると、花丸はルビィを守るように抱き寄せてイマジンたちを見た。
「はい。・・・・・・って、あなたたちは何者ずら。そんなおかしな格好をして」
彼女から見れば、青亀たちも所詮は怪人だ。
今しがた彼女自身が怪人に捕まって危うく殺されかかっていたことを思い出すと、身構えてしまうのは仕方のないことと言えた。
「まあ納得いかないところもあると思うけど、それは後でいいかな? それより、ルビィちゃんは怪我とかしてない?」
「ん。・・・・・・それもそうですね。大丈夫? 怪我とかない?」
釈然としない表情であった花丸だったが、自分を助けたことは事実であるためひとまずは目をつむることにした。
それより優先なのは、ルビィの無事だ。
無事とは言え、怪人と戦っていたのだ。怪我をしていたら大変だと、花丸はルビィのつま先から順に怪我がないか確認する。
一通り見た分では目立った外傷は見あたらないな。
そう思いながら、花丸の視線がルビィの顔に到達した。
彼女の表情は、戦いの後にしては穏やかに見える。
決してルビィは、争いを楽しめるような性格ではない。そんな彼女が、穏やかな表情で眠っている。
その理由を思って、花丸は、目頭が熱くなる。
きっとルビィのことだ。友達を守ることができて良かったと、自分が怪我をすることなど気にせずに戦っていたのだろう。
そんな想像をして、花丸は目を潤ませた。
そんなとき、ルビィの瞼がぴくりと動いた。
「ルビィちゃん。気が付いたの?」
花丸は、ルビィの反応を見て、前屈みにのぞき込んだ。
すると、突然彼女の瞳が見開かれた。
その彼女の瞳は、イマジンと戦っているときのように真っ赤に染まっていた。
「シャァァァアアアアアア!」
「わわわ。な、なんずら!?」
ルビィは、突然奇声とともに起きあがった。
間一髪花丸が避けたおかげでぶつからずに済んだが、思わずひっくり返ってしまった。
しりもちを着いてしまった花丸は、座り込んだままルビィを見上げていた。
ルビィは、さっきまで気絶していたのが嘘のように、すでに立ち上がって肩を回し始めた。
「はぁ、やっと出られたぜ」
「ああ。さすがに気を失ってたら出てこれるんだね」
明らかにルビィの様子はふつうではない。
ふつうではなかったが、イマジンたちは落ち着いた様子で彼女に話しかけていた。
それを見て花丸は、意を決してルビィに話しかける。
「ルビィちゃん、大丈夫? いったいさっきのはいったい・・・・・・」
「あ? ああ、お前か。お前こそ大丈夫か? 悪かったなぁ、俺たちの戦いに巻き込んじまって」
「お、おまえ?」
「にしても、なんなんだよこりゃよ。せっかく俺が最近編み出した新しい
必殺技が試せると思ったのによ」
「ルビィちゃんが、・・・・・・おれ? ずらぁぁ」
見た目は、いつものルビィそのままだ。
しかし、目の前にいるルビィは完全にルビィではなかった。
ただでさえ怪物に襲われ、親友が戦っているところを目の当たりにし、やっとすべてが終わったと思った矢先にルビィが別人のようになってしまったのだ。
花丸は、ついに目を回して引っくり返ってしまった
「ん、どうした?」
「あらら、この子も気絶しちゃった」
「まったく。こいつといいそいつといい、軟弱すぎるぜ」
「いや、先輩のせいだと思うよ」
花丸が引っくり返る原因を作ったルビィの中にいる赤鬼が首を傾げていると、青亀はあきれたように額に手を置いた。
「じゃあ先輩。僕たちはこの子を送ってくるから、先輩は、ルビィちゃんのことをよろしくね」
「おい亀。何で俺がそんなことしなきゃなんねんだよ」
ルビィも花丸も気絶してしまい、すぐに起きる気配がなかった。
そのため、手分けして彼女たちを家まで送ろうと、青亀が提案した。
が、赤鬼はその提案に難色を示していた。
それは、赤鬼にルビィを任せて他3人で花丸を連れていくというからだ。
どう考えても労力が違うことに腹を立てていたのだ。
青亀は、そんな彼をなだめるように言う。
「だって、先輩。気絶してるルビィちゃんを僕たちがこの格好で家まで送るわけにはいかないでしょ? それに、現状ルビィちゃんに憑依できてるの先輩だけだし」
もし、彼らイマジンが彼女を抱えて彼女の家まで送り届けたとしよう。もし姿をルビィの家の人に見られたなら、怪人が家族を襲っているなどと思われても仕方がない。
その点今の赤鬼は、ルビィに憑依している状態だ。
言動などは仕方ないまでも、傍からみれば彼女がふつうに家に帰るだけで、決して何かが憑依しているなどと疑うものはいないだろう。
そのことには、赤鬼も納得した。
「たしかに・・・・・・」
「ということで、僕たちはこの子を送り届けるから後はよろしくね、先輩」
「ちょっとおい。待て――」
赤鬼が頷くや否や青亀たちは、急いで花丸を担ぎ上げた。
時をかけ、どんな場所にでも姿を現すことのできるデンライナーは、虹色の穴から姿を現した。
青亀たちは、ちょうど現れたデンライナーに急いで乗り込んでいった。
赤鬼が遅れて抗議しようとしたが、虹色の穴をくぐるデンライナーの最後の車両が消えるところが見えただけだった。
「ったく、仕方ねぇな」
突然一人だけ押し付けられ、ほかのイマジン勝ちが逃げるように言ってしまったことに若干の不満はあった。
が、近くの建物のガラスに映ったルビィの姿を見て、ため息を付きながらも腹をくくった。
「まあ、こいつもがんばったしな。今日だけ特別だ」
赤鬼も、今まで一度も戦ったことのない、しかも女の子が怪人に立ち向かったということを少なからず称賛していた。
だから赤鬼は、めんどくさそうに頭を掻きながらも、ルビィの体で彼女の家を目指して歩き出した。
最初は、ルビィへのご褒美のような意味合いで、彼女を家に送り届けようとしていた。しかし、時間が経ってよくよく考えてみると、釈然としない気持ちがぶり返してきていた。
「ってか、よく考えてみりゃ。デンライナーならどこのドアからでも出られるんだから、俺がわざわざ憑依して連れて帰る必要ねぇじゃねぇか。ちっ、あの亀、なに考えてやがる」
ルビィの記憶から、彼女の家の在りかはわかっていた。
愚痴をこぼしながら歩いていた彼は、まるで自分の家に帰るように、意識しないうちにルビィの家にたどり着いていた。
赤鬼は、ぶつぶつグチりながら家の戸を開いた。
「ちょっと、ルビィ」
「あ?」
「あなた、いま何時だと思っていますの?」
願望を叶えるため、イマジンは、とりついた人間のことをだいたい把握することができる。そのため、彼女が誰であるかは分かっていた。
彼女は、ルビィの姉だ。
彼女はどうやら大変ご立腹なようで、ルビィの帰りをわざわざ腕を組んで
ルビィの帰りを待っていたようだ。
「まったく、こんな暗くなるまでなにをしていたのです? 門限は、とっくのとうに過ぎています。どうしても遅くなってしまう場合は、門限を過ぎる前に一度連絡を入れるのがルールだったはずです。それなのにあなたは、門限を守れないどころか連絡一つよこさないだなんて・・・・・・。全く、黒澤家の人間ともあろうものが、ルール一つ守れないとは。嘆かわしい、嘆かわしいですわ。そもそも門限とは、何のためのルールだと思っているのですか? それはあなたを――」
が、今の赤鬼には関係のないことだった。
青亀たちへの文句しか頭になかったからだ。
そのため、いきなり現れてがみがみと説教を垂れる彼女は、苛立ちを増やす存在にすぎなかった。
だから、
「――ごちゃごちゃうっせえ」
「る、ルビィ?」
「俺は、これからやることがあるんだよ。すっこんでろ!!」
赤鬼は、目の前で仁王立ちする少女にそう言い放った。
ルビィの体で。
「・・・・・・」
「ったく。戻ったら絶対文句言ってやるぞチクショウ」
ルビィに憑依している赤鬼の怒号にダイヤは、目を丸くした。
が、そんなことはお構いなしに、赤鬼が憑依したルビィは床をどしどしならしながら横を通り過ぎる。
青亀たちへの愚痴をこぼしながら。
「な、ななな・・・・・・」
ルビィの発言に、ダイヤは目を丸くしていた。
目の前にいるルビィが何を言ったのか、理解するのに少々時間がかかった。
「ルビィが、私に、すっこんでろ?」
俯くと肩を振るわせていた。その振るえは徐々に大きくなっていく。
「ルビィ、ルビィ・・・・・・」
次の瞬間には怒鳴り散らし始めるかと思われたダイヤだったが、ガクリと膝を付いた。
そして、頭を抱えてつぶやいた。
「・・・・・・ルビィが、グレてしまいましたわ」
「ん、ここは・・・・・・」
「気が付いたか」
「ピギィィィイイイ!」
「ああ、もううるせえぞ」
「ごめんなさい。つい・・・・・・」
いくらイマジンを見たどころか戦ったことすらあると言っても、突然赤塗りの鬼面のような顔が目の前に出てくれば驚くものである。
「赤鬼さんが運んでくれたんですか?」
「ま、まあな」
「ありがとうございます」
「お、おう。まあ、いいってことよ」
赤鬼は、少し照れたように頬を掻いた。
少し落ち着くと、ルビィは、自分が助けた友達のことを思い出した。
「そうだ。花丸ちゃんは?」
「ああ。そいつなら心配ねえ。ほかの奴らが家に帰しに行ったぜ」
「そっか、良かったぁ」
「それもこれも赤鬼さんのお陰です。赤鬼さん、本当に――」
「――モモタロスだ」
「え?」
「それが俺の名前だ。まあ、ネーミングセンス最悪な奴がつけたから、格好いい俺には少し合わねえが」
ルビィは、初めて赤鬼の名前を聞いた。
モモということは、桃太郎がモチーフなのだろうと想像できた。
外見が鬼だというのに、その鬼を倒す存在である桃太郎が名前の由来とは、これいかにといった感じだった。
初めて名前を聞いたルビィは、くすりと笑った。
何も、彼の名前が面白かったからとかではない。
「そんなことないです。モモタロスさん。いい名前ですね」
「そ、そうか。まあ、悪い気はしねぇな」
初めて、名前を教えてもらって、認めてもらった気がしてうれしかったからだ。
「あのイマジンさんを倒したってことは、元に戻ったりとかしてないですかね」
「お前の願いの件についてはな。だがまだ、問題がすべて片づいたわけじゃねぇ」
すべての発端は、スクールアイドルがなくなるという事態だった。
ルビィは、スクールアイドルを取り戻すために戦う決意をし、実際にイマジンと戦ったのだ。
モモタロスたちの話ではイマジンを倒すことでその影響が取り除かれるはずだった。
しかし、解決したのはルビィの件だけであった。
「変えられた過去にいるイマジンを倒さない限り、ここの時間も元には戻らない。だからまだ、らぶ・・・・・・、なんだ」
「ラブライブです」
「そうだ。そのラブライブについては、まだなにも解決してねえ」
「そんな・・・・・・」
ルビィも薄々気づいてはいたが、直接聞いて少し落ち込んでしまう。
が、落ち込んだままではなかった。なぜなら、今の彼女には頼れる鬼がそばにいる。
「まあ、安心しろよ。もともと、時間の運行を守るのが俺たちの役目だしな。この時間の異変が直るまで、俺たちが手伝ってやるよ」
モモタロスは、そういって立ち上がった。
「今日は、ゆっくり休んどけ。・・・・・・俺は帰るぜ。あいつらに言いたいこともあるしな」
「うん。・・・・・・モモタロスさん」
モモタロスはそう言って立ち上がると部屋を出ようとした。彼が扉に手を掛けた時、ルビィは彼の名を呼んだ。
モモタロスは、ルビィに呼ばれて振り返った。
「なんだ?」
「これから、・・・・・・よろしくお願いします」
ルビィは、ためらいがちに言った。
それを聞いたモモタロスは、再び扉の方を向いてしまった。
どうしたのだろうと彼の背中を見つめるルビィに、彼は振り返らないまま頭を掻いた。
「お、おう。俺の方も、その、よろしくな」
「はい」
ルビィは、そんな彼を見てくすりと笑った。
恥ずかしそうに頭を掻くモモタロスは彼女には、いつもにもまして赤くなっているように見えた。
翌日の朝。
ルビィは、登校時間より早く目を覚ますと、外へ出かける準備を始めた。
服装は、桃色のTシャツとキュロットスカート。
動きやすい服装に着替えると、ほかの人を起こさないようにそろりと家を出て、ランニングを始めた。
水平線から顔を出したての太陽に照らされながら走るルビィは、気まぐれで浜辺に来ていた。
「よっし、やろう」
ルビィは、気合を入れるとその場でステップを踏みだした。
腕を振り、足を蹴り、体全身を使ってダンスを踊る。
そこに音楽はない。
ただ、波の音だけが繰り返し流れているだけだった。
が、ルビィは集中した面持ちでステップを踏み続けていた。
そんな彼女を見る影があった。
それを影は、彼女に近づいていった。
「朝から熱心だね、ルビィちゃん」
「ピギッ」
集中していて自分の世界に入り込んでしまっていたルビィは、突然かけられた声に飛び上がってしまった。
「ごめんごめん。驚かせちゃったね」
「亀さん」
「俺たちもいるぜ」
「モモタロスさん。熊さんも竜さんも」
現れたのは、青い亀のようなイマジンだった。
その後ろには、赤い鬼、黄色い熊、紫の竜もともにいた。
一番最初に声をかけた青亀は、モモタロスだけが名前で呼ばれていることに気が付いた。
青亀は、モモタロスの肩に手を置いてもたれかかった。
「あれ、先輩だけ名前で呼ばれてるなんて。先を越されるなんてなぁ」
「お前と一緒にするんじゃねぇ」
青亀が一人だけ名前呼びされているモモタロスをからかうと、モモタロスは肩にかけられた手を払った。
青亀は、肩をすくめると、今度はルビィに近づいていった。
「僕としたことが、自己紹介が遅れちゃったね。僕は、ウラタロス。よろしくね、ルビィちゃん」
「俺は、キンタロスや。よろしゅうしたってや」
「僕は、リュウタロス。みんなはよく、リュウタって呼んでるよ」
「ウラタロスさんに、キンタロスさん、リュウタロスさんですね」
ルビィは、自分に覚えこませるように確認する。
そうしていると、ウラタロスは、彼女の服装を見て聞いた。
「ところで何してたの? もしかしてダンス、踊ってたの?」
彼女の服装は、かわいさを演出しながら動きやすさも兼ね備えたものだった。そして、彼女の額や頬を伝う汗が今さっきまで体を動かしていたことを示していた。
ウラタロスの問いに、ルビィはこくりとうなずく。
「はい。忘れないようにおさらいをと思って・・・・・・」
「本当に好きなんだね」
「はい。大好きです」
はっきりと答えるルビィを見て、ウラタロスは意を決して話を切り出した。
「じゃあ、これからどうするの?」
「これからですか……」
「僕たちは、とりあえずは出てきたイマジンを倒しながら、この世界を変えた原因を探ってくつもりだけど。できたらルビィちゃんにも手伝ってほしいんだよね」
「手伝うですか?」
「別に、戦えって強要するわけじゃないよ」
「まあな。危ないことにそうそう付き合ってもらうわけには行かんからなぁ」
イマジンと戦うなら、電王に変身した方が有利に戦える。
そして、電王に変身するなら、特異点であるルビィが変身した方が電王の真の力を使うことが出来る。イマジンと有利に戦おうと思えば、ルビィに協力してもらいたいところだった。
でも、ルビィを無理やり戦わせるわけにはいかないし、同意もなしに戦わせることはできない。
そのため、ルビィがこれからどうするのか聞く必要があった。
ルビィは、その問いにイマジンたちの問いにはっきりと答えた。
「イマジン退治は手伝います。ルビィが取り返したいものを取り返す戦いでもありますから」
「そう? そういってもらえると正直助かるよ」
「……でも、もう一つやりたいことがあるんです」
「もう一つ? もう一つって?」
「ルビィ、スクールアイドルをやるよ」
「でも、ルビィちゃん。今ってスクールアイドルがなくなっちゃってるんだよね?」
ルビィがまっすぐ言ったことに、ウラタロスは思わず聞き返してしまった。
なぜなら、彼らイマジンは、失われたスクールアイドルをもとに戻すために戦おうとしていたのだ。
今現在、この世界にスクールアイドルはない。
そんな中で、そのなくなってしまったスクールアイドルをやると言い出すものだから驚いてしまったのだ
しかし、ルビィはいたって真面目な様子でつづけた。
「うん。でも、いまスクールアイドルがこの世界になくたって、やっちゃ行けない理由にはならないと思うんだ」
「でも、大変だよ? なにもないところから、0から作り出すことと同じなんだからさ」
「ううん。0じゃないよ」
この世にスクールアイドルは存在していない。
皆の記憶から零れ落ち、スクールアイドルはすっかり過去のものとなっている。
人々にとって、スクールアイドルに関する記憶、興味はゼロだった。
しかし、ルビィははっきりと否定する。
「ルビィの中には、今でもあのころの思い出が残ってる。Aqoursの皆で一生懸命練習して、観客の前で歌って踊って。楽しかったことも辛かったことも全部、ここにある」
ルビィは、自分の胸に手を当てて目を閉じる。
すると、Aqoursとして練習していた日々が、ライブのときの高揚感が、きのうのことのように思い出される。
確かに、自分の中にはスクールアイドルとしての記憶がある。0ではないと再確認すると、再び彼らをまっすぐ見た。
「ほかのみんなからしたら0かも知れない。その0をいきなり10や100は無理かも知れない。でもまずは、0から1にすることはできる。そう思うの。それに何より・・・・・・」
そして彼女は、ありったけの笑顔で言った。彼女の今の一番の願いを。
「もう一度、輝きたい!!」
ルビィの願いに、イマジンたちは一瞬顔を見合わせていたが、その後くすりと笑った。
「ふふ、悪くないね」
「ふん。その心意気、泣けるでっ!」
「なんよく分かんないけど、おもしろそう」
「ルビィ、気に入ったぜ」
モモタロスは、ルビィの肩に腕を回した。
「よっしゃ。そういうことなら、俺たちでラブライブってやつを取り返してやろうぜ」
ルビィには、戦うことがどういうことかなどわからない。
でも、このイマジンたちと一緒なら、なんとかなるんじゃないか。そう思った。だから、
「はい!」
ルビィは、イマジンたちへ笑顔を向けた。そして思う。
極度の人見知りで、何をやるにも自信が持てない。そんな自分が、皆の関心がほぼ0なスクールアイドルをやると言えたのは、Aqoursとしての日々があったからだ。
それは、彼女を少しだけ積極的にし、自分にとってかけがえのないAqoursを取り戻そうと思わせたと。
確かに、自分の中にAqoursとしての日々が生きていることを感じて、強く誓う。
スクールアイドルが、Aqoursが自分を変えてくれたように、今度は自分がAqoursを取りもどし、誰かの助けになるのだと。