伝承・無限軌道   作:さがっさ

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遅れてしまい申し訳ありません。
1ヶ月と半以上空いてしまいましたが、何とか完成しましたので投稿します




第三話 衝突する思いと暗躍の土塊 その二

「クソッ!まるで当たらないッ!」

「それはこちらのセリフですわ!《ブルーティアーズ》の攻撃をことごとく弾いて、それだけ口の利ける余裕がおありのですから!」

 

 IS学園の第一アリーナで二機のISが間合いを測りながら飛び回っている。

 白い機体、一夏が駆る《白式》は機動力を持って唯一の武器である片刃の近接ブレード、《雪片弐型》が届く距離を詰めようとして、迫りくるレーザーを避け、あるいは切り払い対処しながら、推進機をひたすら稼働し続ける。機を見つければすかさず攻撃に移り、《雪片弐型》を振るうが、直撃せずに、シールドエネルギーを少々削らせる事に終わる。

 一方の青い機体、セシリアが操る《ブルーティアーズ》は距離を保つと共に、ひたすら飛び回る一夏を狙い続ける。照準を合わせても、直ぐには打とうとせず。一夏が避けられない時を狙い撃つ。狙いは甘くなく、ライフルの引き金を引けば吸い込まれるように、一夏の元までレーザーが放たれるが、体をひねる、《雪片弐型》に阻まれる等によって狙い済ませた攻撃は直撃しない。

 有効なダメージを互いに与えることが出来ずに、両者ともに歯噛みする。相手の得意な距離に持ち込ませないように立ち回っているとはいえ、ここまで硬直上体が続くとは互いに思ってもいなかった。

 このままでは、決着が尽きそうにない。

 そう一夏が思った時だった。

 

「ここっ!《インターセプター》!!」

 

 セシリアが叫ぶと、レーザーライフル、《スターライトmkⅢ》を構えている右手とは逆の左手に専用の近接ブレードをコールサインで呼び出し、一夏に突撃を仕掛ける。

 突然のことに驚く一夏だったが、慌てる必要は無いと判断した。

 

(俺の意表を突いた突撃!だがセシリア自身が維持していた距離があだになってて、これじゃ無駄に突撃を仕掛けるようなもんだ。反応は出来ている!)

 

 一夏はこれを好機と見て、《雪片弐型》を変形させ、レーザーブレードとし単一使用能力、《零落白夜》でのカウンターを仕掛ける。

 

「舐めるな!!」

 

 セシリアに合わせるように、一夏も全速力で突撃する。

 彼我の距離が急速に縮まり、一夏はセシリアを切り払おうと構えたその時。

 

「そちらこそ、甘いですわ!」

 

 突撃を仕掛けた《ブルーティアーズ》の推進器が突如爆発を起こしたかのように、再加速する。

 一夏は切り払う動きに入った腕を必死に止めようとするも、間に合わない。

 セシリアはフェンシングの突きの要領で、インターセプターを再加速に合わせて一夏の胸部へと放つ。

 逃れるすべもない一夏はそのままセシリアの流れるように繰り出された一撃を見送るしかなく。

 そのまま、《インターセプター》は《白式》の装甲を破壊しながら、一夏を吹き飛ばす。

 もちろん、一夏も黙ってやられるわけにはいかない。すぐさまPICを最大限に使い。体制を立て直して、そのまま距離を維持しようとする。

 しかし、セシリアはその隙を逃さずに。

 

「終わりですわ!」

 

 《インターセプター》を放って、すかさず《スターライトmkⅢ》で狙い、今度は躊躇いも無く引き金を引き続ける。

 そこまで、連射性能は高くない《スターライトmkⅢ》であるが、態勢を整えてない相手に連続して当てる程度はたやすかった。

 ひたすらに撃ち続けるセシリア、一夏の態勢が整わない内にそのままシールドエネルギーを削りきったところで、試合用にアリーナで設定していたブザーが鳴りセシリアの勝利を告げた。

 

 

 

「あー畜生、やられた!まさか10戦目で近接攻撃を初めて使うって、苦手なんじゃないのかよ」

「あら、わたくしは一度も近距離で戦えないとは言っていませんわ。もちろん、《ブルーティアーズ》の仕様と装備から考えて遠・中距離型と考えるのは妥当ですが、代表候補生ともなれば近距離が出来て当然……いえ、まあ苦手であるということは否定いたしませんが」

 

 コールサインでの呼び出しでなければ未だに《インターセプター》を出せませんし、とぼやくが遠距離どころか近接戦いがいは全く行うことが出来ない一夏からすれば少しでも選択の余地があるようでうらやましいものであった。

 改めて、《白式》を調べてみれば、後から武装を追加できる《拡張領域》はほとんど空いておらず、射撃武器はどれも載せることは出来なかった。

 その代わりとして、《一次移行》の時点で本来《二次移行》でやっと発現可能となる単一使用能力を発動できるのであるのだが……

 

「単純に近づかなきゃ当たらないし、近づけても当てられるとは限らないからなぁ」

「そうですわね。ここまで10戦、先日の試合を含めると11戦を戦ってみての感想ですが、やはり当たらなければ意味が無い。それに尽きますわね」

「やっぱりなぁ。当てられなきゃ意味ないよな。特に近接戦に持ち込ませてもらえないセシリアとだとどうにも相性が悪いんじゃないかと思う」

 

 さて、なぜこの二人、織斑一夏とセシリア・オルコットが共に模擬試合をアリーナで行っていたのかというと、それは昼休みまで遡る。

 襲撃を受けたアリーナの調査が終わり、一般生徒も利用できるようになったので一夏は早速、昼食を終えてアリーナの予約をしようとした所、同じくアリーナを利用しようとしていたセシリアと会った。

 

「あら、織斑さん……その、奇遇ですわね。あなたもアリーナを利用しに来ましたの?」

「ああ、クラス対抗戦もある事だし、俺もまだ素人だしな。練習あるのみと思ってさ」

「そうでしたか。まあわたくしを差し置いてクラス代表に選ばれたからにはもちろん優勝してもらいたいところですし、その意気込みは素晴らしいと思いますわ」

 

 感心するように頷くセシリア、そこまで知り合って長いわけでは無いのだが、一昨日までの彼女であるならここで高圧的な態度を取るはずであるのだが、どうにもそういうわけでは無いらしく。素直に褒められては一夏も悪い気はしなかった。

 

「話は変わりますけど、織斑さんは他のクラス、確か……二組の代表候補生の方に教えてもらっていらしたようですけど、今後もそのおつもりで?」

「あー最初はそのつもりだったけど、さすがに対抗戦の間は対戦相手だしな……終わるまではさすがに一人でやろうと思ってたんだけど」

「あら、そうでしたの?……でしたら織斑さん、わたくしならばいかがでしょう?」

「うん?そりゃつまり」

「ええ、わたくしが対抗戦の間の訓練相手を申し出るという事ですわ、先ほども言いましたようにわたくしの代わりに選ばれたのですから優勝してもらいたいですし、そのためには協力も惜しみませんわ。代表候補生が訓練相手を務めるのですから光栄に思ってほしいですわね」

「いやまあそりゃありがたいけど……」

 

 どこか棘のある言い方ではあるが、一夏本人としてもその申し出は悪い物では無かった。

 同じくクラス代表であり、さらに先日の一件からとても特訓相手を頼めそうにない鈴や、そもそもISの経験値で言えば一夏と同程度か決闘のための特訓で既に抜いてしまったかもしれない箒を空いてにするよりかはよっぽど良い練習相手となるだろう。

 いずれ再び戦う相手となるセシリアに手の内を晒すようで進まない気持ちがないわけではないのだが、先日の決闘から何か進歩が明確にあったわけでも無いのに忌避するよりもセシリアから何らかの技術なりなんなりを盗んだ方が身のためである。

 

「わたくしとしましてはそれだけという訳ではありませんわ。先日のアリーナへの襲撃の影響でアリーナの使用が制限されていますの。なので、クラス代表戦が近い各クラスの代表以外では予約を取ることが難しくなっていますのよ」

「ついでに自分の特訓にもなるってことか。いいぜ、どのみち相手が居なくて困っていたところだし。助かる」

「では、また放課後に、第一アリーナのBピットで」

 

 いい終わるとセシリアは踵を返してその場を去っていった。

 

 

 

 

 そうして昼休みを終え、午後の授業が終了したのちに予約していたアリーナで、特訓とは名ばかりの模擬戦が始まった。

 そもそも、一夏もセシリアも互いに教え合うという中でも当然無く、セシリアが持ちかけた模擬戦を行う流れとなった。

 そうして、両者ともにもう一回と続けて行く内に勝ち負けをどちらからともなく言いだしたために十番勝負と相成った。

 そして、十戦が終わった所で模擬戦の内容を振り返るべく、ピットに戻っていた。

 

「全部で十戦やって……勝率は一勝八敗一引き分け……全体を通して見れば俺の負けだな」

「既に手の内は見切っていましたから。それでも二敗し、そして相打ち覚悟の《零落白夜》で引き分けともなればもはや素人とはあまり言えませんわ。むしろわたくしの実力不足をさらに実感しましたし」

「いやいや、それでも終始圧倒されてたしな。勝てた試合だって、一発逆転を徹頭徹尾狙ってようやくだったしな。そもそも、あれだろ。俺の《白式》ってそこそこ《ブルーティアーズ》と相性いいんだろ?」

「ええ、まあこれだけやれば気づくとは思いましたが……おっしゃる通り、《ブルーティアーズ》はBTレーザー兵器を主体とした中距離型のISですわ。事実、実弾装備は《ブルーティアーズ》のミサイルピッドのみ、後は先ほど使用した近接戦装備《インターセプター》のみ。これではBTレーザー兵器を主武装として用いるしかありませんわ』

 

 そう言って《インターセプター》とコールサインで再び実体剣を呼び出し、まあ、こうやって呼ばなければいけませんしと苦笑ぎみに言う。

 以前までのというかつい先日までの彼女であったらこうも自身の弱点をペラペラ話す事など一夏には想像もできなかったし、あの場では納得したがやはり特訓に付き合ってくれるというのも何とも不思議である。本当に何があったのだろうか。

 心当りがないという訳ではないのだが……自分と契約しているスサノオを思い浮かべるものの、先日の決闘の時はアドバイスをくれていたにも関わらず今回は自分に頼るなとのことでさっきから黙ったままである。契約で手を貸してやるというような事を言っていたような気がしたのだが、正直まるで役にたっていない気がする。もしかして早まってしまったのでは……?

 

「あの、聞いてますの?もしや何か気になる事でも?」

「えっ?あ、いや、何でもない。ちょっとした後悔の念が押し寄せてきただけだから」

 

 一夏が若干の後悔を覚えたところでセシリアがこちらの顔を覗き込もうとしていたのが目に入った。

 

「ならいいですけれど……ともかく、これで織斑さんの実力は大体分かりましたわ。とはいえ、本当に武装が近接ブレードのみというのはわたくしとしましても予想していませんでしたけれど……使いこなせていないと踏んではいたのですがあまりにも……その」

「ひどいって?まあ、俺も思ってることだし……やっぱり装備がこれだけってまずいよな?」

「ええ、白兵戦を重視した装備というならその構成的にあまり射撃装備を搭載しないということはありますが、全くないというのはありませんわね。訓練機ならまだしも専用機でこれとは……何とも極端としか言いようがありませんわね」

「ま、まあその代わりに《単一使用能力》が使えるしいいんじゃないか?」

「それがなければもはやスペックだけで専用機というには型落ちもいいところですけれど……肝心の《単一使用能力》もとても初心者に持たせるものではない特殊なもの……まあそれを使ってわたくしに一勝しているのですからたいしたものですわ」

 

 やれやれと肩をすくめるセシリア、どうやら一夏への称賛は込めてはいるのだが同時に《白式》の設計者への疑問はまるで隠していない。

 とはいえ、一夏の方もそこらへんは同意していて、何故このような仕様の機体を送りつけられたのかまるで分からなかった。

 確かに自分の体に馴染むというのか一週間必死に動かしていた《打鉄》よりもはるかに動かしやすいと起動するたびに感じており、セシリアとの十戦が終わった時には既に昔から使っているかのようであった。

 これが専用機というものなのだろう。まさに自分のためだけに作られた鎧だった。

 

「でも、これだけやって勝てないんじゃもう《白式》の仕様じゃなくて俺の実力不足って所がますます実感出来ちまうのがなあ。やっぱまだまだってところか」

「それも当然ですわ。仮にも代表候補生、そう簡単に手の内が分かっている相手に負ける訳には参りませんもの。まあ、織斑さんはそれ以前というべきか、何ともちぐはぐですわね」

「ちぐはぐって、そんなにおかしかったのか?」

「ええ、基本戦法はもちろん空中の回避機動の初歩も無く、ただ反射神経と学習能力、そして妙な所で働く直感でここまでやられるともはや脱帽ともいうべきセンスがありますわ」

「しかしそうかと思えば攻撃の瞬間の鋭さは確かな積み重ねが伺えるといいますか。正直、恐ろしいものがありますわ。しかしそれだけで勝てたのならば誰も苦労しませんもの現に接近戦を挑むに当たって初歩たる《瞬時加速》すら知らない様子でしたし」

「《瞬時加速》ってあれか、最後にやったやつ。いきなり再加速されてビビったぜ、あれもやっぱり必要なのか?」

「ええ、わたくしも得意という訳ではないのですが、それでも《瞬時加速》程度は使えますわ。それ位のISにおける空中機動としては基本でありますわ、実力でクラス代表に選ばれているならば使ってきてもなんらおかしくはないと思いますわ」

 

 つまり、当然クラス代表である上に代表候補生である鈴は言わずもがなということなのだろう。一週間の特訓の間には全く使っていなかったが、基本的なISの動作を身に着けさせる特訓相手としては必要なかったのかもしれない。

 

「あー、じゃあ何とか対抗戦までに身につけないとな。しかし、誰に教えてもらおう……さすがに鈴に教えてもらう訳にもいかないしな、箒……は一緒に覚える形にはなるけど、できれば出来る人に教えてもらった方がいいだろうしな。こうなったら山田先生とかに聞いてみるのが……」

「えーコホン、何やらお困りの様子ですが、まあどうしてもというならば……っとこれでは先日の二の舞ですわね」

「え、何もしかして教えてくれるのかオルコット?随分気前がいいんだな。模擬戦の相手をしてくれた上に特訓の相手もだなんてやっぱ何かあるのか?」

「さっきから何やらわたくしに対して当たりが強くありませんか!?ま、まあ確かに先日までのことを考えれば致し方ないとも思いますけど……勘ぐりがすぎるのでは?」

「俺からすると何があったんだって思うくらい印象が違う。少なくとも気軽に話しかけられる関係では無かっただろ?だから何があったのかなって思って」

 

 正直なところ一夏としても最初は警戒心があった。最初の出会いからしてあまり良いものであったとも言い難い上に一昨日に決闘したばかりである。その決闘でも決着はうやむやとなっており、セシリアとの仲は正直にいって微妙な関係性というのが正しかった。一夏としてはそこまで嫌っているという訳ではないのだが、てっきりセシリアの方が一夏をことさら目の敵にしており、その辺りの機微に乏しい一夏もセシリアからは良く思われてるとは思っていなかった。

 

 そんな微妙な関係ではあるのだが模擬戦をしている内に気にしなくなってきたというべきか、一夏には少なくとも悪い奴ではないのではと思うようになっていた。高圧的な態度を取ることがあっても見下すようなものは感じられなくなっていたし、彼女のISの操縦技術には素人目線と言うのは失礼だが驚かされてばかりで、正直教えてもらえるなら教えてもらいたい事ばかりである。

 加えて、彼女はあの試合中に《幽体》に憑かれていたにも関わらず、その≪幽体≫と契約したらしい。

 詳しい事は聞いていないが、もしかしたらそこに原因があるのかもしれない。箒が確認したと言っていたのでもう取り憑かれていないことは確かではあるのだろうが、その上でなぜ契約をしたのか。気にならないと言えば嘘になる。

 特に鈴からスサノオとの契約を切って手を引くように言われた一夏にとっては、今まで知りもしなかったはずの脅威に関わっていくと決めたであろう何かについてとても気になる事ではあった。

 

「いや、勿論言いたくないなら別にいいさ。誰にだってそういうのはあるし。これもちょっとした興味みたいなものだしな」

「いえ、構いませんわ。確かにわたくしも同じ立場であるのなら疑うのも無理はありませんもの。ですから、あなたには教えて差し上げてもよろしいかな、なんて思ってもいますの。とはいえ、織斑さんが良ければ、ですけど。こういうのも何ですがあまり面白いものでもありませんし」

「いいさ、聞かせてくれよ。他にも聞きたい事とかあるしな」

「それでは、そうですねどこから話したほうがいいのでしょうか……やはり、両親のお話からでしょうか」

「両親?」

「ええ、わたくしの両親、母と……父は三年前に事故で亡くなられたのです。わたくしの家は英国のとある名家ですの。自分でいうのもおこがましいのですがそれにふさわしい地位というものも持っていますわ。ですけど、両親が早くに亡くなり兄弟もいない一人娘のわたくしが跡目を継ぐことになるのですが……当然、周りの大人たちはそうやすやすと餌を見過ごすことはありませんでしたわ、あの手この手でわたくしに受け継がれる財産を少しでもかすめ取ろうとしてきました」

「餌って!?それも女子相手に大人たちがそんな真似をするのかよ!?」

 

 一夏はそれを黙って聞いていられるほど無関心では無かった。

 セシリアがどこかのお嬢様であることは勘付いてはいたが、そんなことがあったことなどまるで思いもしなかった。

 と、一夏は思わず立ち上がって声を上げてしまった所で、セシリアの話を遮ってしまったことに気が付いた。

 セシリアの目線に気が付いた一夏、きまり悪くすごすごとその場に座ること

 

「悪い、話を遮ったな。続けてくれ」

「いえ、構いませんわ。こうして憤ってくれるような知り合いもいなかったので少し驚いただけですわ。……できれば感想は全て聞き終わってからということでよろしいかしら」

「ああ、うん。本当に悪かった」

 

 一夏の返事を聞いてから、セシリアは話を続けた。

 

 母はとても気高くそして優秀な人で憧れであったこと、父はそんな母の後ろに隠れてしまうようなひとだったこと、そんな父でも母と共に亡くなったことは悲しかったこと、尊敬する母が残したものをどうにか守りたかったこと、そのためには適正検査でA判定をだしたISの操縦者となり登り詰めることが有力であったこと、代表候補生となるために血のにじむような訓練を続けたこと、そして、BT兵器への適正と磨かれた操縦技術により代表候補生の座を手に入れたこと。

 

 セシリアにとって自分の大事なものを守るために必死になることは当然で、そのためのIS、そのための代表候補生の座、それを維持し続けるためにもそうやすやすと負ける訳にはいかなかった。

 祖国イギリスで訓練を積み続けるのでは無く、わざわざ遠い極東、日本のIS学園に入学したのも、国内に留まるばかりでは現状を維持するばかりでは無く、さらにその先へと進むのに必要だと思ったためであった。

 専用機持ちとはいえ所詮は代表候補生でしかない。国家代表に選ばれるようにならなければ後ろ盾も少ないセシリアが自分の力だけで家を守るのは難しいことだった。だから、昇り詰める実績が必要だった。

 IS学園に来れば他国の優秀な操縦者と競う機会に恵まれるはずである。そこで、優秀な成績を修めることで国家代表への道はより近くなると考えた。少なくとも、現在IS学園にはロシアの国家代表が在籍しており、その人物を倒すことが出来るならば行く価値はイギリスで訓練を続ける事よりも十分にある。

 

 しかし、実際に来てみればおよそ実力者と見られるものは見当たらず、突如として現れた男性の操縦者の後ろを追い回し、あまつさえ自分にとっては貴重なアピールできる場であるクラス代表を物珍しさというだけで決めようとしていた。馬鹿にされていると思った。

 いくらセシリアが代表候補生だからといって同じ学生同士でここまで意識の差があるとは思いもしなかった。だからこそ、自分が推薦もされないときは些か自意識過剰ではあったのかもしれないが頭に来てしまったのだ。

 希少さだけで、目立つというだけで、自分が勝ち取ったものが見向きもされなかった。

 だから、声を上げた。

 自分を無視するとはいい度胸ではないかと、希少さだけで選ばれるのは我慢がならないと、そも、男なんて信用がならないと。

 そのときは父や家の財産を狙うやからのことで未だに男性に対する印象は悪いものであった。もっとも、ISが台頭し始めては、財産を狙う人々に女性が加わり始めて大人に対する嫌悪が増したのだが、男性に対しては良く思う出来事は全くと言っていいほど無かった。

 男というのはその見かけだけで、中身は大したこともないか卑怯者でしかないと、そう考えていた。

そんな男にまさか気圧されることになるとは微塵も思っていなかった。

 世界で唯一の男性IS操縦者、織斑一夏はおよそ今まであったことのない人物であった。

 少なくともセシリアが接してきた男性の中ではいなかった。

 その時、彼が発していた何かにセシリアは恐怖を感じてしまったのだ。

 今思い返してみればあれが《幽体》と関わりを持つことになった切っ掛けなのだろう。今まで感じたこともないただ存在するだけでこちらが今にも踏みつぶされるかもしれないと感じてしまった。

 しかし、セシリアはそれを認める訳にはいかなかった。認めてしまえば今まで積み重ねてきたものが意味のないものになってしまうかもしれない。そう勝手に思い込むことで、何とか気を保つことが出来た。

 そうして意地を張り続けた結果いつの間にか決闘を行うという話になっていた。

 HRが終わりしばらくした後で、入学試験の時に初めてISに乗ったような素人に決闘を挑んだことを後悔した。いくら恐ろしそうだからといって、あそこまで相手に会わせてやる必要などなく、客観的にみればわざわざ決闘を起こすまでもないほど実力差があるのは歴然であった。はたしてやる意味もあるのかどうかも定かでは無かった。

 それでも万が一にも負ける訳にはいかないという名目でアリーナでのIS訓練は欠かさなかったが、実際には織斑一夏を恐れていたのだ。

 この時のセシリアにとって一夏は得体のしれない人物で、認めることはしなかったがその恐怖を紛らわそうと訓練に打ち込んでいた。

 しかし、状況は悪化する一方であった。一夏への恐怖は薄れることはないばかりか、頻繁に頭痛と共に脳裏に爬虫類の類の青い目が浮かぶ様になり、そこからくる気配も一夏のそれと似通ったものを感じていた。

 日に日に追い詰められていたセシリア、それでも逃げる訳にはいかない。逃げてしまえば負けを認めることになってしまう。

 敗北してしまえば守りたい物は守れなくなってしまう。そうなってしまえばすべては水の泡だ。だから負ける訳にはいかなかった。

 

 押しつぶされてしまいそうになるのを耐え続け、一週間。ついに決闘の日となった。

 ついには脳裏から離れなくなってしまった爬虫類のような青い目玉のイメージでとそれと共に起こる頭痛で万全とはいえない体調を虚勢と意地で繕い、セシリアは決闘へと臨んだ。

 幸いと言うべきなのか、向かい合う一夏からは以前に感じていたものは発されておらず。正直拍子抜けしてしまった。これではなぜあそこまで恐怖に包まれなければならなかったのか分からない。そしてそんなものに怯えていた自分に腹が立つ他はなかった。

 一瞬で決めるつもりでいた。事実、《ブルーティアーズ》で包囲し逃げる間もなく打ち続ければ倒せると高をくくっていた。

 しかし、織斑一夏はセシリアが感じていた恐怖通りとはいかないまでも素人としてみれば驚異的なまでの動きを見せた。有効打どころか一撃も攻撃を加えられてはいなかったが、《一次移行》が済んでいないにも関わらず、攻撃をしのがれて、ビットでの包囲攻撃でさえろくにダメージを与えることが出来ないでいた。

 それでも織斑一夏の動きを読み切って、ミサイルビットでのカウンターで勝利を決めたと確信した瞬間、《白式》の《一次移行》の完了と同時にそれまで続いていた頭に響く痛みが極限に達し、その意識を脳裏に焼き付いていた青い瞳をした東洋の龍に飲み込まれた。

 

 

 そうして、気が付くと目の前にはさんざん自分を悩ませていた頭痛の原因だと思われる巨大な龍がいた。

 それはこれまでに脳裏にイメージとして刻まれていた、細長い蛇のような胴体に手足を付け、その手には青い球体が握りしめられており、白い腹以外を覆う青い鱗、顔には長い髭と角、開けば先ほど自分を呑み込んだほどの大きさの口と、いつも脳裏から消えはしなかった青い瞳。爬虫類染みている瞳孔は、その表現の乏しさに合わない程の神々しさが漏れ出していた。

 

『ようやく、目覚めましたか。随分と遅かったですね』

「あ、あなたは、な、何ですの?ど、どうしてわたくしの頭の中にあなたのようなッ!」

『それは、あなたが資格を持っていたからよ。あなたはこの私、偉大なる《四聖》の一角、東方を守護するもの、《四聖:青龍》と契約する資格を持つものなの』

「《四聖》?《青龍》?いきなり何の話ですの?わたくしにこびりついた幻覚が何をいきなりッ!」

 

 嘘だった。ここまで来れば目の前の青い龍がただの夢や幻覚の類であると思うことはできないでいた。それから発せられる神秘とでもいうのだろうか、とても偽物だと思う方が無理のある事だった。

 恐ろしかった。今までこんな存在が自分の頭の中にいたなどと信じられないほどの存在感、あり得ないものがありえるのだと無理矢理脳に理解させられていた。スケールが余りにも違いすぎて今までの人生が、日常とは何だったのか、こんなものは知らない、こんなものがいたならば自分達の世界とは何だったのだ。

 

 想像を絶するとはまさにこのこと、ありえないものということの体現に押しつぶされそうになっていた。

 

『混乱するのも無理はありません。とはいえ聡明なあなたであるならば既に私を夢幻と断じ、想像の産物でしかないとのたまうような愚かなことは思っているわけでは無いでしょうが』

『とはいえ、それを表に出すという事は一切ない。いくら脅威や恐怖を感じようともあなたのその意地が目を逸らさせます。悪いとは言いませんが、それがあだとなるときもあります』

 

 こちらのことを見抜かれていた。自分の心を覗き込まれて吟味された上で取り出されていた。

 

『まあ、お話はここまでにしておきましょう。それでは、肝心の本題と行きたいのですがよろしいですか?』

「う、あ?ほ、本題?な、何ですの。あなたがわたくしに何を……」

『そうですね。まず、一つ目には試合は既に終わっています』

「はい……?」

『ええ、ですからあなたはわたしが憑依した反動で意識を失っていたので代わりに私が戦ったのです』

「そ、そんな……!で、では試合はどうなったのです……!?」

『ええ、こちらも最善を尽くしましたが、相手もさるもの。《神格》が力を貸しているとなれば慣れない体では少々厳しいものがありました』

「では、わたくしは……」

『いえ、大戦相手もろとも乱入者に不意打ちをもらいまとめて倒されてしまいました。私にもあまつさえかの《神格》にも悟られず、その上一撃でともなれば見事というほかありませんが、それに関しては申し訳ありません』

 

 目の前の青い龍は心の底から申し訳なさそうに目を伏せて頭を下げていた。

 つい先ほど会ったばかりのセシリアでさえも、謝罪をするような存在では無いと思っていたものにこうもあっさりと謝られてしまってはどう対応すれば良いのか分からず、ただ茫然としている他に無かった。

 目の前の青い龍はそのその存在ゆえに決して首を垂れること等ないと考えていたのが、さらに目の前の存在が分からなくなっていた。

 

『そして、二つ目としては私と契約をしてほしいという訳です』

「……契約、とはあなたと何の契約を?……先ほどの言葉からでは、あの織斑一夏も何かと契約をしているとおっしゃっていましたが」

『ええ、話が早くて助かります。あなたの言う通り彼は……簡単に口に出すのは屈辱ですが、私よりも格が上の存在と契約をしています。簡単に言えば契約を行なえばその対象の力を借り受けることが出来るという訳です』

「それで?その契約の代償とは何ですの?とても優しものだとは思えませんね」

『ええ、勿論相応の対価があって成立する物です。そうでなければ無償で力を貸すなどめったにありません。例外はいますが……その内容は様々となり、契約者自身の魂と引き換えにということもあります。相応の力を得るのにある程度の代償は必要ですから』

「では、仮に。そう、仮にわたくしがあなたと契約するとしてその代償とは?」

『そうですね。私の力を使う際にある程度の負荷がかかりますがそれは力を借りるという行為に必ず起こるものであるので、それを除けば、私の事情に付き合ってもらいたいということと、そしてあなたに強くなってもらうというこの2点です』

「それは、それだけですの!?」

 

 具体的なことを言われているわけでは無いがそれでも、魂を取られるというような事よりも軽いものだった。

 もしかしたら事情とやらが重い内容であるならば納得がいくことでああるのだが、問題はその次、強くなってほしいことが代価というのはどういうことなのだろうか。初めて会ったというにはぶしつけな内容であるし、何より自分は弱いとはっきり言い渡されたと同じことであった。

 

――――確かに、目の前の存在に比べてしまえば、自分等はるかに小さい存在であるのだろう。それでもはっきりと弱いと言われてしまうのは辛いものであった。もはや自分では母の残したものは守れないのではないのだろうか

 

『ええ、本当は私の事情に付き合ってもらうだけで良かったのですが、気が変わりました。あなたのその気高さを腐らせるのはもったいないと感じたことと、敗北の責任を取るためです』

「責任?試合に際して、わたくしに憑いたことでわたくしが負けたことがあなたのせいだと?それをあなたの責任だなんていうわけには……!」

『あなたならそう言うと思っていました。内心では私に対して文句の一つや二つあるでしょうに、それをプライドから簡単には認めようとしない。責任強いと言えば美徳といえますが……それは私が取るべき責任です。あなたに勝手に背負われては困りますし、私の敗北をあなたに背負えると思いあがらないでもらいたいですね』

 

 青い龍の瞳の奥から威圧を放たれていた。

 それ以上は分不相応であると咎められていたことに気づいて、恐怖で身を縮こまるのと同時に叱られている気分になっていた。こんな気分は何時振りであっただろうか。

 両親が亡くなってからは感じていないものであった。

 

『ハァ、まあ良いでしょう。その辺りも後々教えていけば良いでしょう。ともかく、私はあなたの意識を無理矢理奪い取った上になんら結果を残せずにあまつさえ場外の不意打ちを防げずに倒されました。不幸中の幸いとはいえ、彼の方も同時に倒され、襲撃者にはそれ以上の気概は加えられることはありませんでしたが、これが私にとっての敗北以外になんというのです』

『よって、その償いとしてやや一方的ではありますがあなたを鍛えることにします。私がこのようなことをするなど滅多にないのです。感謝するように。まあ、あなたの返事次第ではありますが』

「……あなたの言い分は分かりました。しかし、鍛えると言われてもわたくしはこれまでも一人で……!」

『確かに鍛え続けてきたのでしょう。そこは称賛しますが、それ以上には至ることは無いでしょう。時として、ただ一人のみで強くなる、強くあれる存在というのも居ました。しかし、それはあなたでは無く、そのことを恥じる必要はありません。頼ることと気高くあることは決して矛盾することでは無い。それをあなたは学ぶべきです』

「で、ですが、母は!」

『その母親についても色々言いたいことが無いわけでは無いのですが……それは契約がなった後といたしましょう。あなたも分かっているはずです、このままではいけないと。ゆえにこの極東まで来たのでしょう?』

「そ、それは……」

『そして、彼、織斑一夏と言いましたか。彼も契約をしています。もちろん私と同様の存在が彼と接触しているでしょう。私の考えでは彼は契約をするでしょうね。どうしようもなく力を求めているようでしたから、さてどうしますか?私の事情を鑑みて契約を竹刀というのも結構ですが、危険が無いとは言いませんし』

「…………分かりましたわ」

 

 少し考えた後にセシリアは決めた。

 このままではいけないと思っていたところに現れた謎の存在。恐ろしいという気持ちに変わりは無いが、ここで踏み込まなければ何も変わりはしないだろう。

 何より、セシリアは負けず嫌いであった。

 

――――織斑一夏が踏み込んだとあって、引き下がるわけにはいかない

 

「あなたと契約致します。わたくしは負ける訳には、負け続ける訳にはいきませんから!」

『良い、返事です。では改めて、《四聖:青龍》、セシリア・オルコットとの契約と相成りました。今後ともどうぞよろしくお願いいたしますね』

 

 そうして、セシリアは青龍と契約を果たしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




という訳でセシリアのお話でした。

忙しくて、時間が無かったこととそれに伴ってモチベーションが低くなってしまったりしたり、話の展開に行き詰ってしまったりして遅れてしまいました。

これからも期間が空いてしまうと予想されますが、何とかエターにはならないように頑張って行きたいと思いますのでよろしければ読んでいただければ幸いです。

ご意見、ご感想などがあればよろしくお願いします。
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