伝承・無限軌道   作:さがっさ

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 一週間で投稿するつもりが、キリのいいところまで行くのに少しかかってしまいました。

 だんだんと原作から離れていきます。違いは直ぐに分かると思いますがそこまで無理のない改変はしていないつもりです。

 では楽しんで下さい。


第一話 入学式と再会と土蜘蛛 その二

IS学園では、ISの知識を3年間で詰め込まなければいけないため、一年の入学式から授業があるという過密スケジュールを組んでいる。

 そのため、IS学園の合格通知とともに送られてくる電話帳ほどの厚さを誇る参考書の内容を予習として、必ず目を通しておく必要があった。

 しかし一年一組の教室では、ただでさえIS学園に強制的に入学が決まったためISに対する事前の知識がほとんどなく、入学前のわずかな期間で一応参考書に目を通してはいたので授業に何とかついていけてるだけの生徒がいた。

 

(まずい…一応千冬姉からやれって言われてたから一通り目を通しておくかって気楽に構えていたのがいけなかった)

(初日の授業からちゃんとした授業をしてて、正直なめてたぜIS学園…!)

 

 そりゃ、IS学園は名の通りISの専門学校だからそこらへんはきっちり教えるだろうけど、などと一夏が参考書と、副担任の山田真耶が操作している、教室の前の巨大モニターを交互に目に移しながらうんうん唸っていると、その様子に気づいたのか、真耶が一夏に近づき

 

「織斑君、大丈夫ですか?何か分かないことがあったら何でも言ってくださいね?」

「やっ山田先生………」

「はい、何ですか?」

「参考書のこことここがまだわかんないんですけど」

「あっそれはですね…」

 

「織斑君、大変そうだね」

「まあ、仕方ないかも。男子がISに関わるなんてほとんどない事だし私たちみたいに事前に勉強をしてたわけじゃなさそうだもん」

「でも、織斑君って織斑先生の弟さんなんでしょ?もしかしたらIS動かすのはすごいんじゃない?」

 

 女生徒たちは口々に一夏について話し合っている。やはり一夏が注目の的になることは避けられないようだが、その女生徒たちの中に一夏をじっと睨みつけるようにしている視線があった。

 

 こうして、時折一夏による質問が挟まれつつも授業が進んでいき、IS学園最初の授業が終了した。

 一夏は真耶の解説を参考書にメモを書き込み続けて疲れたのか箒の机に突っ伏していた。

 

「おい、一夏ここは私の席だぞ。自分の席でやれ」

「薄情だぞ、箒。ここにきて数少ない知り合いを見放すとはひどいじゃないか」

「確かにそうだが、いつまでこうしてるのだ男なら背筋を伸ばしてシャンとしていろ」

「勘弁してくれ、ただでさえ聞いたことのない知識を詰め込まなきゃいけないってのに未だに女子の視線で針のむしろなんだから少しぐらいはいいだろ?ところで箒はどうなんだ授業の方はついていってんのか?」

「一応、事前に勉強はしていたからな。とはいえそこまで力を入れていたというわけではないから私も分からないところが多い」

「?俺と違って箒はIS学園を志望してたんじゃなかったのか?」

「いや……それがな、いろいろと事情があるのだ」

 

 箒は、暗い顔をして少しうつむいていた。どうやら言いにくい事情があるらしい。一夏は少し首をひねり自分の心当りを思い浮かべた。

 箒には、ISの生みの親にして、おそらく人類最高の頭脳の持ち主、そして天災を引き起こすほどのトラブルメーカーである姉がいた。

 名前は、篠ノ之 束(しののの たばね)。千冬の学友でもあるので年の程は同じく八つほど離れていて、自分も何回か会ったことがある。最も、幼馴染の姉で自身の姉の千冬の知り合いという共通点があるにも関わらず、数回しかあったことがなく、一夏本人はそれほど束について知っているわけでは無かった。

 覚えているのは、破天荒な性格をしていて常になにかトラブルを自ら作っていたことと人見知りで他人には極端に興味が無かったことだ。ISを束が開発したと聞いて自分は驚いたが別にそこまで不思議では無かったし、一人で開発したともなれば彼女以外にできないのではないかとも思っていた。

 その束は現在行方不明であった。世界のどこかにいるらしいのだが、毎年住所不在の年賀状が届くのでとりあえず元気にやっているらしい。そして、束が行方不明であることから、箒の一家は安全のために全国を転々としなければならなくなったらしい。実際、このIS学園に来たのも自分と同じ安全保障上の理由であろう。箒としても複雑な思いがるのだろう。それではいい辛いのも無理はないと、一夏は勝手に納得していた。

 

 そんな風に、一夏が箒について考えてると自分に近づいてくる人影がある事に気づく。

 一夏がそちらを見るとその人影は、腰まで届く長い金髪を漫画のお嬢様のように縦カールをさせており、こちらをまっすぐ見ている目はやや透き通ったブルーのきれいな碧眼をしている女生徒だった。一夏は嫌な予感を感じつつも、一応何か聞かれるのだろうと思い身構えてその女生徒は自信に満ちた足取りで一夏の近くまで来ると

 

「少し、よろしくて?」

「ああ、いいぞ、えっと」

 

 そういえば、千冬姉が来たから彼女まで自己紹介が回ってきて無かったな、と思い一夏はそれとなく自己紹介を促すもののどうやら少女の方は一夏が自分のことを知っていることが前提で話しかけたらしく、一夏の反応が悪いことに怪訝な顔をしていた。

 

「…まさか、英国の代表候補生であるわたくし、セシリア・オルコットをご存知ありませんの?」

「…悪いけど俺はキミのことは知らない。けど代表候補生っていう単語から凄そうだというのは伝わった」

「どうやら、本当にわたくしのことを知らないようですわね。その上どうやら代表候補生についても詳しくはないようで、世界で唯一の男性操縦者と聞いたのですがもしかしたら期待外れかもしれませんわね」

「ああ悪いな、そこらへんのことはあんまり興味なくてな、まさか俺もISに乗れるなんて思っても無かったからな」

「あらそう、では今後はぜひ興味を持っていただきたいものですわね」

「善処するさ」

 

 少女は少し目を吊り上げたものの、まだ強気を隠さないものの落ち着いた態度であった。

 一方の一夏の方はISに乗っているだけで女子が男子に劣っているという風潮があるせいか、目の前の少女に対して弱気な態度を見せないようにしていた。

 そして、自身の席の周りでいきなり話しかけてきた少女に対して、どうしたらいいか分からず。箒は内心おろおろしているのを隠して窓の外に目をやっていた。

 

「では、改めて自己紹介させていただきますわ。わたくしの名前はセシリア・オルコット。英国の代表候補生にして今年のIS学園の入試で主席で入学したエリート中のエリートですわ!」

「そうか、俺は織斑一夏。世界で唯一の男性操縦者らしい。せいぜいお手柔らかに頼むぜ、エリートさま」

「ええ、せいぜい頑張って下さいな。後、何か分からない所があれば、相応の態度で頼み込んでくるなら教えて差し上げても構わなくてよ」

「ああ…その時はよろしく頼むぜ」

 

 二人が険悪な雰囲気になった所で、授業開始のチャイムが鳴った。

 

「まあ、挨拶はここら辺にいたしましょう。では、これからよろしくお願いいたしますわ」

「ああ、こちらこそよろしく」

 

 そういいながら、セシリアは自分の席に戻って行った。

 一夏も、自身の席に付くべく箒の席から離れて行った。

 箒は、嵐が過ぎ去ったことを確認しほっと息を付きつつ、授業に備えることにした。

 

 

 

 

 

 休み時間が終わり、授業が始まるのを教室で生徒たちは待っていたが、開始時刻になっても教壇には先生が現れなかった。

 どうやら、この授業の担当は、担任である千冬の担当であるらいのだが、未だに現れずにいた。

 副担任の真耶が、自習を切り出そうとしたときに教室の扉が開き、千冬が現れた。

 

「遅くなってすまない。また、緊急の会議が入ってな」

 

 そう言って、千冬は教壇に付き授業を開始しようとしていた。

 

「では、授業を始める。と、行きたいところなのだが、決めなければいけないことがあってな。再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めねばならん」

「クラス代表者とはそのままの意味でな。対抗戦だけでなく生徒会の開く会議や委員会への出席などのクラスの代表も兼ねてもらうことになる。いってしまえばクラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点でたいした差はないが、競争は向上心を生む。ああ、それとクラス代表者は一度決まると基本的には一年間は変更しないのでそのつもりでな」

 

 教室がざわざわと騒ぎ始めた。クラス代表者ともなれば必然的に模擬戦闘や、公式戦の回数が増える。そうなれば試合経験が詰める上に、注目が集まることにより国家の代表候補として目が留まることも十分にあり得る。

 もちろん、クラス長という立場が付随してくるのでクラスの雑用が回ってくるが払う対価としては決して悪いものではないだろう。

 一夏は千冬の話を聞いてはいたものの事情を上手く理解しきってはおらず。クラス長で、面倒ごとを押し付けられるのは嫌だなーとのんきに構えていた。

 セシリアはといえば、自分がクラス代表者に選ばれるのは当然とばかりに自分が推薦なりで選ばれた際の挨拶などを考えていた。

 

 そんなクラス全体で最も嫌な顔をしていた人物は、篠ノ之箒であった。

 

 箒は自身が人前に立つ事をあまり得意としているわけでは無い上に、IS学園に来た理由から目立ってしまうのはどうしても避けたかった。もちろん、自分から立候補しなければ良いのだが、箒には他薦される可能性があった。

 彼女の姉、篠ノ之束である。

 箒にもIS開発者の天才、篠ノ之束の妹に期待する心理は十分理解できるものであり、自分でもそんな人物がいたならば他薦するであろうことは明白であった。

 しかし、自分は姉程天才でもなければ、ISに詳しいわけでもない。にもかかわらずクラス代表者になってしまえば、厄介事になる決まっていた。幸い、未だに箒と束の関係に気づくものはいないようであるが、珍しい苗字から考えると時間の問題でもあった。

 箒が他薦された場合の対処方について考え始めた時、教室のなかで、手を挙げる女生徒が現れた。

 一夏は一番前の席であったのでそれに気づかず。

 セシリアは、自分の名前が呼ばれると本気で思って返事をする用意をし。

 箒は、ついに挙げられた手に祈るばかりであった。

 

「はいっ。私は織斑君がいいと思います!」

 

 一夏は、何故か自分の名前が呼ばれたことについ振り向き。

 セシリアは自分の名前でないことに首を傾げ。

 箒は、呼ばれた名前が自分の名前では無いことに気づいた。

 

「私もそれがいいと思います!」

 

 一夏は自分が呼ばれた理由を察しはじめ顔色を変え始めていた。

 セシリアは、茫然として一夏の方を向いた。

 一方、箒はガッツポーズをばれないように取っていた。

 

「では、候補者は織斑一夏……他にはいないか?自薦他薦は問わないぞ」

「うえっ!?俺!?」

 

 と一夏が今更のように、立ち上がり抗議するように周りを見回すが、教室の女子達は好奇心と期待の眼差しで見ていた。窓際のポニーテールにしている女子は特にそうだった。

 

「まっ待てみんな。良く考えるんだ。そりゃ、期待してくれるのはありがたくないわけでもないんだが、俺は本当にIS初心者で――――」

「そうですわ!なぜ彼のような、ど素人がクラス代表者として推薦されてるんですの!?」

 

 一夏が周りに推薦を取りさえるように呼びかけようとするとそれをさえいるように、セシリアが声を上げた。

 

「クラス代表者と言えば、そのクラス内で最もISの操縦に秀でているものが務めるのが通りではなくって!?それを、遊び半分のように決められては困りますわ」

「そっそうだ、いくら何でもその場のノリで決めるのは良くないと思う」

 

 セシリアの主張に乗っかる形で何とか推薦から外れようとする一夏。一方、箒はこれでどちらが代表になろうとも自分に回ってくることは無いと安堵しきっていた。セシリアはそんな、さっきまで自分に食ってかかっていたのに手の平を返したように自分に賛同始める一夏に失望の目を向けつつ。

 

「だいたい、今の世の男に何か期待するというのが間違いなのですわ。そんなのISに乗れようが乗れまいが同じこと。どうせ、威勢がいいのも形だけの結局は弱く情けない―――」

 

バァンッ!

 

 机を手のひらで思い切りたたきつける音がした。

 

「おい、今なんつった」

 

 セシリア当人はもちろん、クラスの女子はあまりに突然のことで一瞬何が起きたか分からなかった。事の推移を把握していたのは、千冬と副担任の真耶と半ば部外者感覚で見ていた箒だけであった。

 セシリアは、はっと気づいたら、一夏が自分の机まで近づいて、思い切り叩いていたのに気が付いた。

 

「もう一度、聞くぞ。今、なんつった?」

 

 その目は、さっきまでクラス代表を逃れようとしていた目でも、その前のこちらを一見馬鹿にしているような目でも無かった。少なくとも、今日彼と初めて会ったものには既にそこにはさっきまでの一夏はいなかった。

 千冬は、またかとため息をつきながらいざとなれば止めるようにするかとぼんやり考えはじめ。

 真耶は、ある事を思い出したのか、一夏の顔を見つめ、息をのみ。

 箒は、一夏が怒っている事に気づいたが、やはり沸点が低いように感じた。一夏は優しく、たいていのことでは怒らないが、やるときはやる男だった。それにしたって、昔はあの程度ならもう少しは耐えて失言をもらして喧嘩に至るくらいだった。

 セシリアは突然様子が変わった一夏に圧されながらも、ここで黙るわけにはいかず、口を開いた。

 

「ええ、いいですわ。今の世の男の方々は弱く腰抜けで、それだけですわ。そんな方々に後塵を拝されたとあれば私のプライドが許しませんわ」

 

 セシリアは、今まであった男の中でも類を見ないほどの威圧を放ってきている一夏に負けじと言い切った。

 

「……そうか、確かに今の世はそういう男が弱くて女が強いっていう風潮だからな。その風潮に流されて言ってるだけの人にここまで怒ることは無いなってちょっと反省しようと思ったんだけど…どうやら違うみたいだな」

「ええ…このセシリア・オルコット前言をそう簡単には撤回いたしませんわ」

 

 もはや、二人は睨み合って周りが全く見えていない状況だった。

 教室はさっきのざわめきも無くなっており、事の推移を見守るばかりであった。

 

「……俺もこのまま言われっぱなしで終わるわけにはいかない、なんせお前は弱くて、腰抜けなんだから私たちの後ろをおびえながら歩けって言われてんだからな」

「あら、実際そうじゃありませんの。少なくとも私はそういう方々しか見たことも会ったこともありませんわ」

「じゃあ、俺がそうじゃないって証明できれば前言は撤回するのか」

「ええ、万一あなたがそこまでの口を叩くほどのお方であったら、考えてもいいですわ」

「じゃあ」

「ええ」

 

「決闘だ!」

「決闘ですわ!」

 

 

 

 

 

 

 その後、千冬により決闘の内容を互いにISを用いての模擬戦に決められた。ISでの模擬戦闘が決まった際に、一夏がハンデを断ったことについて我に返ったクラスメイト達は一夏にハンデをつけてもらうように言ったが、一夏は頑として譲らず結局ハンデは互いに無しとなった。

 クラス代表の決定は、決闘が終わった際にまた決め直すことになり、授業が再開されたが、クラスのほとんどが授業に完全に集中することは無かった。

 

 そして、授業が終了し、放課後になった。

 どうやら箒には大切な用事があるらしく、また明日と別れ、一夏は帰路に就こうとしていた。

 

「………やっちまった」

 

 ここ数年というか、中学に上がってからだろうか、どうも自身が弱いと評されると頭に直ぐに血が上ってしまい誰にでも喧嘩腰になってしまう悪癖が付いてしまった。

 

(そりゃ、言われっぱなしというのは情けないから、黙ったまんまはいけないけどさ)

 

 それにしても、売り言葉に買い言葉であった。なまじ、セシリアの方も全く引かずに対応してきたためどちらも引っ込みが付かずに決闘という形になってしまった。

 

(クラスの女子も怖がらせちまったかもな。あんなことっていうには俺にもプライドがあるけど)

 

 しかし、入学式を終えて今日から一緒にやっていくという初っ端にこれはまずいのだは無いのだろうか。こちらは別に常時あんな怒っているわけじゃないのだから。

 

(しかし、結局ろくに話せずに終わっちゃったな)

 

 もしや、当分知り合いが箒だけの学園生活なのではないだろうかと一夏は気を落としていた。一夏自身としては女子であるからと避けることなく普通に交友を深めたかったのだが。

 

(最初の一歩で躓いちゃったかもな。けど、あそこで言われっぱなしで情けない印象を第一印象にされるよりましだと思うことにしよう)

 

 そんなことよりも、決闘である。

 決闘の相手であるセシリアはどうやら学年でも有数の実力者であるらしく、IS自体を起動させて間もないど素人である一夏には到底敵わない相手である事は明白であった。

 

(やるからには勝ちに行く。けど実際のところ相当厳しいだろうな、まず俺がISについてあまり理解できてないのがまずいな)

 

 明日になったら、早速千冬姉に相談しに行こう。そう思いながら歩いていると前方に小柄な体に不釣り合いのボストンバックを肩から下げた少女がいることに気づいた。

 その少女は、艶やかな黒髪を金色の留め金でツインテールにしており、制服は冬服であるにも関わらう肩を出しているデザインに改造されていた。

 一夏は、その後ろ姿に見覚えがあった。

 

「もしかして……おーいそこの人」

「えっ?反応が近い?後ろ?…ってあんたは!?」

 

 少女がぶつぶつ言いながらこちらを振り返るとどうやら一夏に気づいたようだ。一夏の方もその少女が予想していた人物であったのを確認して間違えなくて良かったと思うと共に何でここにいるのだろうかと疑問を浮かべていた。

 一方、少女の方は声をかけてきた人物は以外であったものの一夏がIS学園にいることについては疑問に思ってはいなかったらしい、しかしそれでも自分に話しかけてきた人物が予想外であったのかいぶかしげに一夏の方を見ていた。

 

「えっと…あんた一夏よね、織斑一夏」

「そうだぞ。ってなんだよもしかして丸一年振りで顔忘れちまったのか?」

「そんなわけないでしょ!ってああゴメンまさかあんたにIS学園に到着して直ぐに会えるとおもってなくて驚いちゃった」

「そうなのか、にしても久しぶりだな凰鈴音」

 

 この一夏の知り合いらしき少女の名前は、凰 鈴音(フォウ リンイン)。一夏のもう一人の幼馴染である。とはいっても、彼女と知り合ったのは、箒が転校した小四の終わりから春休みを挟んだ小五の新学期に中国から転校してきてからであるので、幼馴染の区分から言えばぎりぎりであった。それでも、互いに鈴が中二の最後に転校するまで遊んでいた仲ではあった。

 

「ってぇ、なんであんたフルネームで呼んでるのよ!よそよそしいじゃない!?」

「鈴だって、俺のこと呼んでただろ、フルネームで。これであいこってことで」

「まあいいけど。でも本当に久しぶりね元気にしてた?」

「ああ、そっちも元気そうだなって、どうしてここにいるんだ鈴?お前別にそこまでISに興味があったわけじゃなかったよな?」

「ま、そうなんだけどね。実はあっち、中国に戻ってから色々あってね」

「色々?」

「ええそう、色々…ホントに色々あったのよ」

 

 そう言って鈴は、目をそらしながら遠くの方を見つめていた。どうやら中々に大変な目にあったらしい。

 

「まっまあ、私のことはいいいのよ、取り合えずは何とかなってるし。それよりアンタよアンタ!テレビ見てたらいきなり初の男性操縦者とかいってて良く見たら、知り合いのアンタが映ってたのよ。びっくりするなんの、一体何をやらかしたらそうなるのよ!」

「いやー俺も気付いたらこんなことになっててさーまいったぜ」

 

 そんな風にたわいもない会話で再会を喜んでいると、一夏は鈴がぶら下げているボストンバックに気が付いた。

 

「鈴、そういやどうしたんだその荷物、授業受けるにしては多くないか?」

「あっそっか一夏とはクラス違うから知らないのか」

「?何がだ」

「えっとね、私今日まだ授業受けてないのよ」

「はあ?」

「それどころか、自分のクラスに顔すら出してないのよね」

「いやまてもしかしてお前…」

「うん、入学式早々完全遅刻ね」

 

 今日一日で相当やらかしたことに自覚はあった一夏であったがまさか自分を超えるものがいるとは思ってもいなかったようでさらにそれが自身の知り合いだったのだからなおさらであった。

 鈴は言いにくそうにしているものの何故かそこまで、少なくとも一夏ほどには、深刻な問題と捉えている様子では無く。理由を語り始めた。

 

「いや、別に私だって遅刻って言うかほぼ欠席だけど。やりたくてやったわけじゃないのよ」

「そりゃ、鈴が理由無くそんなことしないのは分かってる」

「私も、もうちょっと早くしとけばよかったんだけどね、已むに已まれぬ事情があってね」

「ふんふん」

「飛行機で来ようとしたんだけどね」

「ふん」

 

 雲行きが怪しくなってきていた

 

「その飛行機が事故っちゃって私が駆り出されて今までかかっちゃったのよねー」

「そんな大事故ここ最近あったか?」

「あったのよ、つい8時間前に」

「あーだから知らないのかーって」

 

 まて、もしかしてこの幼馴染

 

「お前、入学式当日に飛行機で中国から来ようとしたのか?」

「しょうがないじゃない、私にも事情があったのよ」

 

 一夏はあきれていた、いくら何でもそりゃないだろうと。飛行機事故に遭ったのは不運だが、いくら何でも登校初日に日本来日とは弁護の余地が微妙にない。セーフかアウトで言えばアウトなのではないだろうか。

 IS学園にはその性質上多くの留学生がいるがいくら何でも当日に日本に来る輩はこの幼馴染だけではないだろうか。

 

「お前それ何に間に合うと思ったんだよ」

「入学式に決まってるでしょ、一応時間の計算はしてたのよ。それでもぎりぎり滑り込みセーフの予定だったけど」

「俺が言うのもなんだけどもっと人生に計画性をもとうぜ」

「だから、本当にしょうがなかったのよ!誰だってあの状況ならああするしか無かったって!」

 

「ほう、ではどんな事情だったのか私に教えてもらおうか凰」

 

 そこには、武将顔負けの気迫を放つ傑物がいた。よく見たら織斑先生だった。

 

「あ、ああ、ちっ千冬さ―――アイタッ」

「久しいな、だがここでは織斑先生だ。以後気を付けるように」

 

 千冬がどこからともなく取り出した出席簿で鈴をはたき。そうかと思えば鈴の首根っこを掴んでいた、まるで猫のように。

 

「さて、私も飛行機が事故を起こしお前が真っ先に対処に回ったおかげで大きな事故にならなかったのは聞いている。さすが代表候補生といったところだが、遅刻した理由にしては日にちが悪かったな。一応、人命救助をしたのは間違いないから私でも強く言えないのが痛いところだが…遅刻したのは事実だぞ?」

「ハイ…すいませんでした」

「分かっているならいい。だが、お前には事故のことも当日に来日するような事情についても聞かねばならん。職員室に行くぞ、お前の担任も待っている」

「ハイ…分かりました…」

「良し、あと織斑」

「え?はっハイ」

「お前なに家に帰ろうとしてるんだ」

「えっ」

 

 猫のように、連れていかれる鈴を気の毒そうに見送ろうとした所、矛先がこちらに向かってきた。

 そこへ、副担任の真耶が息を切らしながら走ってきた。

 

「おっ織斑君~。よっ良かった。まだ帰ってませんでした」

「だっ大丈夫ですか?山田先生。とりあえず深呼吸して下さい」

「はっはい!スゥー、ハァー。はいっ大丈夫です。」

「で、山田先生はなんの用何ですか?」

「はいっ。織斑君は今日から寮に入ってもらうので、その部屋番号と鍵を渡しに来ました」

「えっ」

 

 まて、まってくれ。もしや女子校に入れられるばかりでなく女子寮にも入れられるのか?そんなオアシスを目前で奪われた砂漠を旅する人のような顔をし、すがるように千冬を見る一夏だったが。千冬は相変わらず鈴を拘束したまま、当然だといわんばかりの表情で言い放った。

 

「当たり前だ。お前は世界で唯一の男性操縦者だぞ。防犯のためにも寮に入ってもらう。何、安心しろ私も寮長として寮で寝泊まりをする」

「それ何を安心すればいいって―――痛ってぇ!」

「何か言ったか?織斑」

「いいえ、何も言ってません。ちふ、織斑先生」

「よろしい」

 

 振り上げた出席簿が目に入り、すんでのところで織斑先生と呼ぶことが出来たが、未だに慣れていないようだった。この調子では、当分慣れないであろう。

「あっ俺なにも荷造りとかしてないぞ!そこらへんどうすれば」

「心配いらん、私がお前の部屋に最低限の物は放り込んできた。何、当分の下着と形態の充電器があればいいだろう」

「やっぱ、それだけかよ!男子高校生なんだと思ってんだ」

「知るか、ろくな趣味も持たずバイト漬けの中学生だったお前にはこれくらいしかなかっただろう」

 

 そういってまたもやどこからか取り出したものを一夏に差し出した。鈴が何とか拘束されている状態から見てみればそれは、剣道の竹刀だった。

 

「アンタ、まだ続けてたのね、懲りずに」

「いや、別に剣道を正式にやってる訳じゃないしな」

「フン、毎朝懲りずに素振りしている奴のセリフとは思えんな。とりあえず持ってきてやったぞ」

「ああ、ありがとう。ちふ、いや織斑先生」

「いまのは別に許したんだがな」

 

 そうして、少し微笑んだかと思うとすぐに顔を引き締め千冬は今度こそ鈴を引きずって校舎の方へ足を向けた。

 

「ではな、織斑。明日は寮の朝食からだ。この馬鹿のように遅刻などせんようにな」

「では、織斑君また明日ですね。さようなら」

「じゃじゃあね、一夏また明日とかって痛いですって織斑せんせーーー」

 そうして、千冬と真耶、そして引きずられている鈴が校舎へと去っていった。

 

 

 

 

 授業がすべて終わり、生徒たちが下校したり部活動に励んでいる放課後。IS学園にも他の学校と同じような光景が広がっていた。そんな生徒はほとんど校舎にはいない時間、教官室と書かれた部屋では生徒と先生が机を挟んで向かい合っていた。生徒はどうやら先生から説教を受けており、うなだれつつも何とか聞いている様子である。

 

「フン、今日のところはこのくらいで勘弁してやろう。以後気を付けるように、凰」

「うう、分かりました、織斑先生」

 

 生徒の方は鈴音、先生の方は千冬であった。

 鈴が千冬に捕まえれた上に教官室の机に座らせられ、そこから2時間ほど説教を受けていた。事故の後処理の後、直接IS学園に来てそこから間も空けずに千冬の説教が待っていた鈴は、さすがに疲れたのか話が終わると同時に机に突っ伏してしまっていた。

 

「ハア、凰そんなところで寝るな。取り合えずこれでも飲んでシャキッとしろ」

 

千冬も鈴の疲労は分かっているのか、いつもであれば先生の前で机に突っ伏している生徒なぞ即座に叩き起こすのだが、気を利かせたのか鈴の前にコーヒーを差し出した。

 

「え、あ、ありがとうございます」

「何気にするな。お前には悪いがあと少し聞きたいことがあるからな」

「うう、まだ何かあるんですか?って、苦っ!?」

「何だブラックはダメだったか。まだまだお子様だな」

「それにしたって、苦いですってこのコーヒー!。もう少し何とかならなかったんですか?」

「生憎、ここにはそれぐらいしかない。職員室ならそこそこあったとは思うがな。それより、お前に聞きたい事なんだが………」

「うう、何ですか?」

「事故の瞬間にある未確認のISが現れたらしいな、それも全体が黒ずくめの≪全身装甲≫だったとか」

「!?ちょっと待ってください何で知ってるんですか?私まだ誰にも言ってないのに!?」

「誰にも、とは中国の方にも報告してないのか?お前にも中々事情が山積みのようだな?」

「そっそれは、その」

「言いにくいならいい、それよりも例の≪全身装甲(フルスキン)≫だがな、世界各地で突如出没する所属不明の機体だ。様々な事情で各国ではトップシークレット扱いになっている代物だ」

「代表候補生の私が知らされてない所属不明機体……アイツがそんな奴だったなんて」

「ああ、その≪全身装甲≫の便宜上のコードネームはな」

 

「どうやら≪黒騎士≫というらしい」

 

 

 

 

 一夏はある部屋の前で突っ立っていた。

 

「1025号室……ここか、俺の部屋っていうのは」

 

 三人と分かれた後、千冬の指示通りにIS学園の寮にたどり着き、寮の女子達の鋭い目線を受けながらも何とか自分に割り当てられた部屋の前まで来ていた一夏であったが、なかなかそのドアを開けようとはしなかった。

 実は、IS学園の寮は相部屋であるらしく二人で一つの部屋に住む共同生活となっているのだ。つまり、この部屋には、自分とこれから一緒に生活していく人物がいるはずである。

 すなわち、一夏はこれから女子と同居生活を送っていかねばならない事をそれは指し示していた。

 本来は、一夏の一人部屋を用意できるまで自宅から通うということになっていたのだが、防犯上の理由ということで急遽一夏は寮に入ることになった。

 

「山田先生の話だと一ヶ月は我慢してほしいと言うことだったけど」

 

 およそ15歳の男女の同居など問題しかない。大体どのような顔で過ごせばいいのだろうか。

 しかし、いつまでも部屋の前で立っているわけにはいかなかった。この部屋の前に来るだけで相当な数の女子とすれ違ったのだ、部屋のまえにいつまでも突っ立っている様子を見られでもすれば怪しまれ、一夏の評価は下がるであろうことが容易に想像できる。

 

「ええい、迷ってもしかたねえ!失礼します!ってありゃ?」

 

 意を決して、ドアに鍵を差し込むもののどうやら鍵はかかってなかったらしく、ドアノブを回すと簡単に中に入ることが出来た。

 部屋に入ると、まず目に入ったのは大きめのベッドであり、それが二つ並んでいた。そこいらのビジネスホテルよりもはるかにいい代物であるらしく、軽くベッドを押すだけでふかふかで良質のベッドであることが直ぐに分かった。

 一夏はひとまずベッドに腰を掛け、周りを見ると、ベッドの向かい側にはモニタ付きのデスクがベッドと組みになるようにあった。どうやら日々の勉強はこのデスクで行うことになりそうだ。

 すると一夏は、窓際の方のデスクの足元にカバンが置いてあった。

 

「あれ、やっぱり誰か先に来てたのか?どこいるんだ、もしや鍵かけずに部屋の外に出たんじゃ」

 

 不用心だな、と思いつつもどうしようかと一夏が悩んでいると水が上がれる音がしてきた。よく聞いてみるとそれはシャワーの音であった。

 

「シャワーか、そういえば各部屋にシャワーがあるって……えっ」

 

 一夏は重大な事に気が付いた。そうこの部屋のシャワールームを誰かが使用しているのである。おそらく一夏の同居人となるであろう少女が使っていると思われた。

 すなわち、同居人は阿木を掛けずに出かけたのではなく、鍵をかけずにシャワーをしていたのであった。

 

「どっちにしても不用心だけど、まずいことになったぞ。このままじゃ不法侵入者扱いされかねない!」

 

 そう、シャワーをしている推定同居人の少女は全く一夏に気づいている様子を見せてはいなかった。このまま行けば、一夏が不法侵入者扱いされひと悶着起こることは間違いなかった。

 どうにかしなければならない。そう思った一夏は、同居忍んの少女に自分の存在をに気づかせることにした。

 確かにこちらに気づいてい悲鳴を上げられる可能性は十分にあり得るがこのままじっとしている方が不義理なのではないか、悲鳴を上げられ大事になったとしても故意の出来事ではないので、寮長と言っていた千冬に何とか説明できれば何とかなるであろう。と考え、これから一ヶ月だけでも仲良くやっていくために穏便にことを済ませるべく一夏は、シャワー中の少女に声を掛けた。

 

「あ、あのー、シャワー中すいませーん」

「うえっ!?だっ誰かいるのか?」

「ああ、この度同居人になったものなんだが」

「あ、そっそうかもう来てしまったのか。すまない、少し待っててくれ、今でる」

「あっいや待ってくれちょっとそのままで構わないから話を聞いてほしい」

「そっそうか、分かった」

 

 危ないところであった。まさかシャワールームから出てこようとするとは思わなかった。と一夏は緊張で額に汗が垂れてきているのを感じながらも本題に入ることにした。

 

「ああ、まさかシャワーを浴びているなんて知らなくてな、不可抗力だったんだ。勝手に部屋に入ってすまない」

「いや、気にすることは無い。私もあなたが入ってくるのに気が付かなかったんだからなお互い様だ」

「ああ、分かってくれて何よりだ」

「話はそれだけか?なら顔を見せてじっ自己紹介でもしようじゃないか、出ても構わないな?」

「えっ!?」

 

――――まて、今なんて言った。

 今度はセシリアに言った意味とはまるで違っていた。そして、一夏はある可能性に思い至っていた。

 

 (もしかして、俺が男だって気づいてないのか?)

 

 まずい状況である、何とかしてこちらが男であるということを知らせなければ大変なことになるだろう。

 

「ちょっと待った!開けるな!」

「なっ何だ、もしかしてあなたも顔を合わせるのは恥ずかしいのか!?」

 

 少女は何か盛大に勘違いしていた。どうやら一夏の声で男であると判断が出来ないくらいには混乱しているらしい。

 

「えっいや、違うって!」

「何、実は私もそうだ。もともと初対面の人と話すのは得意では無くてな。だがこれから寝食をともにするというのにそれではいけないと思う。だから大丈夫だ!」

 

 全く話にならなかった。何とか一夏は落ち着かせて自分が男であると知らせようにも、少女の方が自分の自己紹介のために空回りして、話を聞いていない。

 

「ええい、開けるぞ!私は姉さんと違って見知らぬ他人ならまだしも、同居人にはしっかり仲良くできるんだからな!」

 

 どうやら、少女の姉に対するコンプレックスが彼女を空回りさせているようなのだが、もはや後の祭りであった。

 一夏にできたことといえば、シャワールームの扉が開く前にとっさに後ろを振り向き、少女のを見ないようにするだけであった。

 そして、扉が開き中から、少女が出てきて。

 

「こんな格好ですまないな!私の名前は篠ノ之箒――――男?」

「って、篠ノ之?、箒?」

 

 聞き覚えがある声と名前に思わず一夏は振り向いてしまった。

 そこには、シャワー上がりのためか、髪は濡れていてポニーテールでは無くなっており、体にはバスタオルを巻きつけただけの幼馴染がいた。

 あまりにその人物が意外だったのか互いに目をそらすことが出来ずにいたが、箒が顔をまっかにし始めた。

 

「あ、いっいちか?」

「えっと、そのわっ悪い箒」

 

 一夏は目を逸らしたものの、男の性であるのかどうしても気になってしまい、箒の方をちらちらと見てしまっていた。

 箒は、ますます顔を真っ赤にしてうつむき始めたかと思った次の瞬間顔を上げて

 

「き、きおくをうしなえーーーーーーーーー!」

「まっまって、不可抗力だっ」

 

 箒は一気に高速のすり足で一夏に近づいたかと思うと、左手でバスタオルを抑えつつ右手ですさまじい手刀を繰り出した。

 一夏も何とか手刀を防ごうと真剣白羽取りを試みるものの左手にはカバン、右手には竹刀と、両手がふさがっており見事に一夏の額に直撃し、その勢いのまま一かは気絶した。

 我に返った箒は、慌てて一夏を介抱し始めた。

 

 

 

 

 一夏が目を覚まして体を起こすと、そこは薄暗い部屋で部屋の照明は明かりとは言えなかった。

 直前の記憶では、シャワー上がりの箒を不可抗力とはいえ見てしまい、見事に手刀をもらったところで途切れていた。いままで、ベッドで寝ていたことを考えると箒があの後介抱してくれたのだろう。

 

「なんだかんだで幼馴染って感じで許してくれたのかな」

 

 ふと、一夏は自分の額に違和感を覚えると、自分の額に湿布のようなものが貼ってあった。はがしてみると、その湿布のようなものには、漢字を崩したような文字が書かれており、少なくとも一夏のはこのような湿布には見覚えが無かった。

 

「何かの新商品か?それともIS学園特注品とかなのかな」

 

 いずれにせよこの湿布の効き目は良かったらしく、腫れていたであろう額もすっかり腫れが引いているばかりでなく、ぐっすり眠った後起きたかのような爽快感があった。

 箒を探すべく隣のベッドを見るとそこには箒の姿は無かった。そとを見る限り日は暮れているので少なくともよるではあると思われるのでてっきり一緒に寝ているものだとばかり思っていたがどうやら違うようだ。

 時刻を確認するために、携帯を開くと現在は午後7時であった。

 

「あれ、まだあれから二時間位しかたってないのか。ってあれ、圏外になってる」

 

 IS学園ではその性質上敷地内で圏外になる事は無い。一夏はIS学園の事情に詳しいとは言えないが、少なくとも学生寮であるここで圏外になっていることはおかしいと感じた。

 

「おかしいな、この携帯買い替えたばかりだから故障したとは考えたくないんだけど…そういえば、あまりにも静かじゃないか?」

 

 一夏が耳を澄ましてみても、部屋の外の音は何も聞こえてこず、深夜であるのならまだわかるのだが、この時間帯でこの静けさは奇妙であった。本当に部屋の外からの音が一切拾えなかった。

 一夏にはまるで、この部屋が分厚いコンクリートで囲まれているかのような気がしてきた。

 さすがに奇妙に思った一夏は、外に出るべく、ベッドから起き上がった。

 そして無意識の内に()()()()()()()()()()()()()湿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 一夏はドアに近づくと、やはり外の様子は全く分からなかった。ドアは理由は分からないがとても分厚く感じた

。まるで、鋼鉄の壁の前に立っているようだった。

 一夏がドアノブに触れ、ドアを開けようと力を入れた。

 

バリンッ バリリリリンッ

 

 一夏が予想していたほどの手ごたえは無く、普通のドアと同様に開いた。しかし、ドアを開けた瞬間、突然何かが砕けた音がしたと思ったら連続して破れたような音が続いた。

 

「一体、何だってんだ。寝て起きたらこんな状況だなんて、もしやまだ夢の中なのか?」

 

 一夏は自分のほほを引っ張るものの痛みは確かにあった。

 どうやら、現実であるらしいことを確認したところで辺りを見回してみると、廊下は自室と同じように薄暗かった。

 隣の部屋をノックするものの、返事どころか反応も無かった。そのとなりの部屋もその隣も、同じように反応は全く帰ってこず、このフロアは完全に無人であった。

 

「ヤバい、ヤバいぞこれ。いくら何でもおかしすぎる。ドッキリを仕掛けられたにしては唐突すぎて、あり得ない。でもさっきの痛みは現実だった。何なんだこれは」

 

 どうするべきか迷い、一旦自室に戻るのも一つの手だと考え、自室へ足を向けた瞬間。

 

ドォォオン

 

―――外から、何か巨大なものが落ちた音がした。

 慌てて、音がした方向に目を向けるものの角度により、あまり詳しくは見えなかった。

 

「くっそ、一体どうなってるんだよ!?」

 

 今何が起きてるのか確認するためにも音が出た場所に一夏は向かった。

 寮の玄関を抜け、音のした方向へまっすぐに駆ける一夏、そうして寮の中庭らしい場所に出た。目を凝らすと、そこには二つの影があった。

 

 

――――一つは、身の丈3メートル程の大きさをした、鬼の顔をした蜘蛛としか言いようがない化け物だった

 

――――もう一つは道着姿で、大太刀を眼前の化け物に向けた、黒髪のポニーテールをした少女がいた

 

――――その日の月は満月で夜は明るかった。

 




 いかがだったでしょうか。最後のシーンでどうしても切りたかったので前話よりも辞すが増えてしまいました。
 次は何とか一週間以内に投稿できると思います。

 ご意見、感想などよろしくお願いします。
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