では、ご覧ください。
IS学園一学期二日目の朝――午前六時半頃――IS学園の学生寮にて………
その学生寮、さらに言えばこの学園唯一の男子生徒である少年、織斑一夏は目覚めた。体を起こし、窓の方に顔を向けると空は青く、雲は白い。本日はというか本日も快晴のようだった。
そうして、ふと気づくと額に違和感があった。額に手をやるとやはり湿布のようなものが貼ってあった。前回と同じ種類のものである事が描かれている感じを崩したような文字から一夏は察することが出来た。そう、箒のシャワー上がりのバスタオル姿を見てしまったために起きた額クリティカルヒット事件で自分が気絶した後、起きた際に貼ってあったものと同じであった。というかその時と同じ現象がいま起きていた。
「って、あれっ朝か!えっもしかして夢でも…いや、だったらこの湿布は……それに……」
そう、それにしては、蜘蛛のような化け物から受けた攻撃は痛かった。あれを夢や幻で片づけられるほど、一夏は間抜けでも楽観的でもなかった。確かにあれは現実だった。しかし、自身の記憶はぶつ切りである。あの時、最後に覚えていたものは、小型の化け物に蚕の繭のようにされたところだった。自身の体を見てみると、どうやら生きているらしいことは確かであった。シャツをめくって自身の腹部を見てみると青い痣が出来ており、それは、化け物の一撃でできたものだと簡単に特定することができた。少しなぞると未だに鈍い痛みがあった。
「痛つぅぅ。やっぱりあれは夢なんかじゃなかったんだな………そうだ、箒は!」
「呼んだか?一夏」
一夏が声のした方向に顔を向けると、箒が立っていた。恰好は化け物と戦っていた時の道着姿では無く、IS学園の制服に身を包んでいた。
どうやら、箒は一夏が起きるのを待っていたらしい。
「体の調子はどうだ?痛むところとか体がだるいとかは?」
「あ、ああ、ちょっとあの化け物にやられたところがまだ痛むだけだ。ちょっと疲れはあるかもしれないけどそれ以外は……ってそれどころじゃないだろ!あのちっさい子蜘蛛の群れ見たいな化け物達はどうなったんだ!?」
「それなら大丈夫だ一夏。全て消しとんだからな」
「消しとんだって……あの後どうなったんだ……?俺、繭にされた所から記憶がないんだけど」
「………お前が繭に包まれた後、お前が突然光出して爆発したと思ったら蜘蛛の群れは消し飛んでいたんだが……もしかしてとは思ったが何も知らずにやっていたのか」
「えっ爆発?」
何かとんでもないことを聞いた気がした。冗談ではないかと、一夏は箒の顔を見るが、その顔は真剣そのもので嘘や冗談を言ってるわけでは無いようだった。
「俺そんなことになったのか………」
「ああ、そのあとお前はものの見事に気絶してな。何とか手当をしてこの部屋まで運んで、ベッドに寝かせた」
「そりゃ、悪かったな。ありがとう箒」
「い、いや、私に礼は等いらない。むしろ私が謝らねばならない、本当にすまなかった!」
「いやいや、いきなりどうしたんだよ箒。何に対して誤ってるんだ?」
「それは……私があの時とどめを怠ったせいで、お前にいらぬケガを負わせてしまったではないか……」
箒は顔をうつむかせ、本当に申し訳なさそうにしていた。肩を震わせながら手を血がにじみ出るのではないかと思う程に握りしめていた。
「いや気にすんなよ、箒。こうして二人とも無事だったんだし」
「それで済む問題ではない!そもそも、最初の一撃で死んでしまうかもしれなかったんだぞ……!」
「でも、もう大丈夫だって、痛みも引いてるし。触ると痛いけど、死ぬって程じゃなかったぜ?」
「それは、結果論だ!お前には分からなかったかもしれないが、本当に危なかったんだぞ!それをお前は……」
「うーん」
箒は一夏の予想以上に自分のことを責めていた。どうしたものかと一夏は考える。もはや過ぎたことにいつまでもこだわり続けるのは良くないが、さすがにことがことであった。確かに、箒の言い分も分かる、自分が逆の立場であったら、起きたと同時に相手に土下座するだろう。そう思う一方で自分も軽率であったことは事実だ。もしあの時、化け物に突撃せずにいたら痣を作ることも無かっただろうし、そもそも小型の群れに襲われずに済んだかもしれないのだ。
「だめだな。やっぱ俺が謝るべきだ」
「な、なぜだ?」
「事情はまだ聞かされてないから分かんないけど、あれは考え無しに突っ込んでいいもんじゃなかったのは確かだし、でも俺にはあそこで箒を見捨てて見てるだけなんて出来なかった。俺的にはあそこで何もできずに足を引っ張っただけの俺の方が悪いと思う。首を突っ込むなら、それ相応の力が必要だったんだ。それをわきまえもせず、むやみやたらに突っ込んだ俺が何もお咎めなしってわけにはいかない」
「し、しかしだな……」
どこか煮え切らない様子である箒に一夏はどうしたものかと考える。これ以上言いあってもどちらも譲らないであろう、もちろん一夏は自分にも少なからず責任がある事は譲るつもりはなく、箒の方もそのようだった。このままでは埒が明きそうになかった。一夏としては、ここまで運んでもらった上に、どうやら手当もしてくれたらしい幼馴染を謝罪までしたのに責める気は欠片もなかった。
このままでは埒が明かないと、一夏が思った時、ふと思いついた物があった。これならばそれ相応の礼として十分なのだはないだろうか。
「それじゃあ、箒。どうしても謝りたいって言うならその代わりに一つ教えてくれよそれならいいだろ?」
「本当にそんなことでいいのか?いや、もちろん私が教えられることなら教えるのは一向にかまわないのだが……」
箒は、一夏の出した条件にきょとんとした顔を浮かべつつも何を聞かれるのだろうかと疑問を浮かべていた。
「ああ、昨夜のこととか詳しく教えてくれよ。もしかしたら、教えちゃいけない事だったりするんだろ?ああいうのって」
「いや、一夏には時間が出来た時にでも、説明するつもりだったのだが………」
「え、だって漫画とか小説だとこういうのは絶対秘密で知ったら関わるな~とか、知られたからには記憶を消してもらう~だとかそういう展開だと思ってたんだけど……」
それなりに勇気を出して聞いたつもりの一夏は、肩透かしを食らっていた。箒が頑として答えなかったり、挙句の果てに話を蒸し返してきたとして、記憶を消される展開も無くはないだろうと予想していたにも関わらず、箒はもともとそのつもりだったらしい。
「ああ、ここだけの話だが万一知られた場合は記憶を失ってもらうのが通常だ」
「じゃあ何で俺はいいんだよ?」
「それは、お前に記憶消去を行うための術が効かないだろうからというのが理由だな」
「術が効かないって、どういうことだよ?というか、やっぱり術とかそういうのもあったんだな」
「それこそ、漫画や小説みたいにな……とはいえその辺りの説明はまとめて今日の放課後にでもしようかと思ったのだが……今からでは朝食を食べ損ねてしまうぞ」
「………そういや、今何時だ?」
「朝の七時だが………それがどうかしたか?」
「いっけね、日課の時間が!それに朝食の準備とか」
「………一夏ここは、寮だぞ。やはり、頭を打っていたのではないか?」
箒があきれながらも心配そうな顔をうかがわせた。一夏はどちらかというとこれまでの習慣が抜けていないためであったのだが。
「あー大丈夫だ。頭打って変になったわけじゃない。あ、でも日課をするにしても………」
「もしかして、日課とはこれだったか?」
そういって箒は、壁に立てかけてあったものを一夏へと差し出した。それは、何か頑丈なものにぶつけて破壊したために、切っ先から先が無い竹刀であった。断面は、割れたようになっており、竹刀として使うのはもう不可能であった。
「それ、俺の竹刀じゃないか。持ってきてくれたんだな」
「ああ、初めは私の物を勝手に持ってきていたのかと思ったのだが、部屋に帰ってみるとお前のだと分かってな」
「いくら何でも人の竹刀持っていくなんて……まああの状況じゃあり得るかもしれないけでよ。とにかくありがとな、箒」
「それこそ、礼には及ばない。それより……」
「それより?」
「剣道はやめたのではなかったか?一夏」
「やめたのは本当だ。けど、中二ぐらいからまたやりだしてな。バイトやりながらだからそれこそ部活には入って無かったけど、素振りは毎日欠かさずってだけだ」
「そうか……でも、それだけでも私は嬉しい」
口元を綻ばせ、一夏が素振りだけでも剣道と関わっていてくれたことに喜んでいる箒から一夏は壊れていて日課の素振りにはとても使えない竹刀を受け取った。壊れた竹刀を眺めながら、化け物に無我夢中で振り下ろした結果を改めて見て、化け物の脅威と自身の力のなさを実感する一夏だったが、この竹刀で到底、日課の素振りを続けられないだろう。
「これじゃ、素振りは無理だな……。しょうがないから新しく竹刀を買うか。当分、日課をこなせないのは残念だ」
「……それなら、新しい竹刀が手に入るまで私の竹刀を使うといい」
「いいのかよ、人に竹刀なんか貸して。刀は侍の魂だ、とか昔は言ってて俺が借りた時はすごく怒ったじゃないか」
「あの時は一夏、お前が無断で借りたからだ!今回は特別に私の了承があるから問題はない。お前も少しは成長したことを信用してお前に貸すんだからな」
「分かったよ、箒。俺も成長してるからな、お前の信用に答えるよ」
「ならばいい、とはいってもこんな時間だ、今から素振りしては朝食に間に合わんぞ」
「確かに、素振りしてるほどの余裕はないか……けど、このまま部屋で待っているのもな」
「ならば、一夏。ジャワ―でも浴びてきたらどうだ?昨日はろくに汗を流せなかっただろう?」
「そうだな、じゃあそうさせてもらうぜ」
箒の提案を聞き入れると、一夏は部屋の隅に置かれている自身の名が無造作に書かれた段ボールを開け、肌着だけ取り出すと、シャワールームに向かった。
そうしてシャワーを浴び終えた後、一夏と箒が学生寮の食堂に向かうと、ちょうど朝食の時間帯であるためか生徒たちでにぎわっていた。見渡す限り当然のように女子しかおらず、職員でさえ女性しかいなかった。
「食堂のメニューもなんだかんだしっかりしてんだな。さすがIS学園ってところか。箒、お前は何にするんだ?」
「そうだな……私は和食セットにするが一夏は?」
「じゃあ俺も同じで」
そうして、食地を受け取り、生徒たちで一杯の所を何とか空いている席を見つけて朝食と相成った。
二人が頼んだ和食セットは、白米に納豆、鮭の切り身に味噌汁そして浅漬けと、日本人が好みそうなメニューとなっていた。
二人が食事をしているとだんだん騒がしくなり、二人をというよりも一夏の方をちらちらと見てくる視線が増え始めていた。
「ねえねえ、彼が噂の男子だって!」
「なんでも千冬お姉様の弟らしいわよ」
「えー、姉弟そろってIS操縦者かー。やっぱり彼も強いのかな」
「なんでも、代表候補生とクラス代表を賭けて決闘するらしいわよ」
「ええ!?それ本当!?」
「だとしたらよっぽど自信があるみたいね」
などといった会話が聞こえてくる。一夏は好き勝手に言われていると感じつつも、昨夜この寮の中庭で起きたことが嘘のように、昨日の昼間の続きが行われていた。箒には後から説明してもろうだろうがやはり、夜のことは皆知らないようであった。
(やっぱりあの時誰の人影無かったのは何か絡繰りがあるんだろうな。そこらへんも説明してくれるといいんだけど)
と一夏は、となりでもくもくと朝食を食べている箒に目を向ける。後で知ることが出来るとはいえ、気になる事は山積みであるのだ。こちらは化け物の名前すら知らない。久しぶりに会った幼馴染はどうやらあの化け物を退治する事は初めてではないようであった。5年も会わないも間に一体何があったのだろうか。
「お、織斑君、となりいいかな?」
一夏がぼんやりと考えつつ、朝食をとっていると。トレーを持った女子が三名声を掛けてきた。箒の食べる速さが変わったことにも気づかず、一夏は断ることも無いだろうと考え。
「ああ、いいぜ」
「やったぁ」
一夏の快い返事を聞いた三人は安堵のため息を漏らしたり、小さくガッツポーズをとるなりして喜びをあらわにしていた。
三人組は座る席を予め決めておいたのかスムーズに俺と箒の向かい側の席に座った。
「うわっ、織斑君って朝からすっごい食べるんだね!」
「お、男の子だねっ」
「ああ、朝からしっかり食べないとってのが習慣になってるからな。というか、女子って朝それだけで足りるものなのか?」
三人組のトレーの上には少々の違いはあれでおおよそ飲み物にパン一枚そして少な目のおかずが一皿といった所であった。朝をあまり食べない女子としては一般的なのではとも思える量ではあるものの一夏としては、少ないのではないかとも思うのであった。
「わ、私たちは大丈夫かなー」
「う、うん平気だよ?」
「お菓子よく食べるしー」
「いや、間食を取るのは本末転倒で良くないんじゃないのか、なあ箒…って」
「うるさい」
一夏が箒に話を振ると、箒はテーブルの下で足を踏むとともに恨みがましい目で一夏を見ていた。箒のトレーの上には一夏と同じ量のものがあるところ触れてほしくない箒としては、この話題で話しを振られて欲しくはなかったのだが、一夏にはそこらへんを察する能力は無かったらしく、箒がなぜ機嫌を悪そうにしているのか分からず首をかしげていた。
「篠ノ之さん、だっけ?織斑君と仲いいんだ?」
「同じ部屋だって聞いたけど」
「え、そっそれはだな……」
「うん?箒と俺は幼馴染だけど」
「えっ幼馴染なんだ!」
そんなある種気安いとも見て取れる一夏と箒の短い掛け合いをみて、三人組の言取りが箒に声を掛ける。箒は話しかけられると思っていなかったのか言葉に詰まった顔をしていると、横から一夏がその質問に答えた。
パァァン!
と、そこで三人組がさらに聞き出そうとしたところで、突然、甲高く手を叩いた音が食堂に鳴り響いた。生徒たちが一堂に音のした方向へ顔を向けると、そこには、千冬が立っていた。
「いつまで食べている!食事は迅速に効率よくとれ!万一遅刻したらグラウンド十週させるぞ!」
そういって千冬は辺りに目を光らせながら、食堂に声を響かせた。内容を把握した生徒たちは、急いで朝食を食べ終えるべく食事に戻った。IS学園のグラウンドは、一周が五キロもある非常に大きなものであり、生徒たちが慌てるのも無理は無かった。
「こうしちゃいられない。早く食べようぜ」
「そ、そうだね」
「う、うん」
そうして、すっかり朝食を食べ終えた一夏達は、授業を受けるべく、荷物を纏めて教室へ向かった。
◆
「というわけで、ISは宇宙での作業を想定して作られているので、操縦者の全身を特殊なエネルギーバリアで包んでいます。また、生体機能も補助する役割があり、ISは常に操縦者を安定した状態へと保ちます。これには心拍数、脈拍、呼吸音、発汗量。脳内エンドルフィンなどがあげられ――――――」
(うーん、だめだ。理論聞いてるだけじゃちょっと勝てる気がしねえ)
現在、三時限目の授業中、一年一組の教室で、どうにか授業についてはいってるものの、結局はそれだけでしかないという現状に一夏は頭を悩ませていた。
一夏は一週間後に英国の代表候補生、セシリア・オルコットとISによる決闘を行うのだが、今現在やっている授業等はいくらIS学園といっても四月の始めの授業であるので基礎理論のみであった。もちろん、それを知らずしてISを操縦するわけにもいかないが、やはり、授業だけでは実践的な力を身に着けられるとは到底思えなかった。
一夏は、説明されるよりも体を動かした方が理解がしやすいタイプであった。それも相まってますます、焦りが積もるばかりであった。
実際、代表候補生の強さはまだ分からないがおおよそ素人では到底勝てない実力差なのだろうと、周囲の会話から判断した。しかし、男に二言はないと啖呵を切ってしまった手前、もはや引くことは出来なかった。なにはともあれ、一夏は真面目に授業を受けるところから始めたのだが、これではISの操縦を身に付けるのはいつになる事か分からなかった。
「それと、ISにも意識に似たようなものがあり、お互いの対話、つ、つまり一緒に過ごした時間で分かり合うというか、ええと、操縦時間に比例して、IS側も操縦者の特性を理解しようとします。それによって相互的に理解し、より性能を引き出すことになるわけです。この特性からISは道具というよりもパートナーとして認識することが大事になりますね」
キーンコーンカーンコーン
「では、次の時間では空中におけるISの基本制動をやりますね」
そうして、授業終了のチャイムがきりのいいところでなったことで、副担任の真耶の三限目の授業は終了となった。
一夏は、何とか来週までに何とか動かす事に必要な部分をメモに取っていたものの、これだけで実際に動かせるかどうかなど怪しかった。一夏はこれまで二回ほどISに触れたことがあった。一回は、試験会場で奇跡的に触れてしまいそれが原因でIS学園に入学することとなった。二回目は日を開けて一応受けることになった実技試験で、試験教官相手にいきなり戦うことになったのだが、生憎そん時は何故か意識がそこまではっきりしておらず。二つともとてもISを動かしたことに換算するには、とてもじゃないが時間も内容も薄いものであった。
(このままじゃ、戦っても負けるだけだ。こうなれば誰かに教えてもらうのが一番だけど……)
姉であり担任の千冬や副担任の真耶に頼みこむのも手ではあるのだが、両者とも授業終了後に相談するには放課後を待たねばならず。付きっ切りで教えともらう訳にはいかないだろう。
となれば、上級生に教えてもらうのが次善であるがここにも問題があった。というのも、IS学園に入学するまでの間の身辺護衛に千冬の知り合いの人物が付いていたのだが、その人からしばらくは信用が置ける人物、または信頼がおけると判断できる人物以外とは、行動を共にすることをなるべく避けるようにと忠告されたからである。その人曰く、脅迫やハニートラップを仕掛けてくる者が生徒の中にいないとも限らないらしく、なるべく身辺調査などを行い、対処はするものの、一夏にも気を付けてほしいということだった。さすがに無いとは思いたいが、ただでさえ周りの生徒に知り合いをろくに作れていない状況で、上級生に教えを乞う程、一夏は馬鹿ではなかった。
そうして、一夏が悩んでいると、女子達が一夏の周りに集まり始めた。
「ねえねえ、織斑君さあ!」
「はいはーい、質問しつもーん!」
「今日のお昼ヒマ?放課後は?夜とかどうかな?」
「昨日、織斑君早く寝ちゃったみたいだから、今日こそは何か話そう!」
矢継ぎ早に、女子達が一夏に話しかけてくる。一夏は聖徳太子でもないのにこの人数の会話をすべて聞き分けることなどできず、ほとんど曖昧な相槌を返すしかできず、昨日のセシリアに向けて啖呵を切った人物とは思えないような雰囲気であった。
それを見ていたセシリアは昨日の一夏の態度と比べ、どうにも女子にデレデレとしているように見えており不快な表情を浮かべていた。
一方、箒の方も一夏がデレデレしている態度に面白くない顔をしているものの同時に、あの人数に囲まれているという事実に自分では無くて良かったと考えていた。
「千冬お姉様って、自宅ではどんな感じなの!?」
「え、案外あの見た目でだらしな――――ッッ痛ったぁ!!」
パァン!
「休み時間は終わりだ。散れ」
一夏が頭を押さえつつ後ろを振り向くと千冬が立っていた。わざわざ一夏を叩いたタイミングから、自身の個人情報の流出を阻止したようであった。
「ところで、織斑、お前のISだが準備まで時間がかかる」
「へ?」
「予備機が無いのでな。少し待て、学園側で専用機を用意する」
「せ、専用機だって!?」
千冬に専用機の用意があるといわれ驚く一夏。周りの生徒たちもざわめき始めた。
「せ、専用機!?一年の、しかもこの時期に!?」
「つまりそれって政府からの支援が出ているってことじゃ……」
「ああ~。いいなぁ……。私も早く専用機ほしいなぁ」
周りの女子達は口々に言いながら、一夏の待遇に羨望や期待の視線を向けていた。
一夏は、専用機の意味を何となく予想しつつも具体的には分かっておらずただただ困惑していた。
千冬は、その様子を見てため息をつきながら一夏の机の上の教科書を一夏に差し出した。
「織斑、この教科書の六ページを見てみろ」
「え、えーと……これか………って要するに、ISコアは467機しか篠ノ之博士が作ってない上、本人が所在不明でかつISコアの量産が博士本人しかできないから、必然的に世界には467機しかISは存在しないってことだろ?」
「そうだ、そのためアラスカ条約で数が限られたISコアをそれぞれの国に割り振っている。よって、IS専用機となれば相応の実力を持ちかつ国家やそれなりの企業に所属している人間にしか与えられないのだが……織斑、お前は唯一の男性操縦者ということもあり、データ収集等を目的として、特別に専用機が用意されることになった。理解できたな?」
「ま、まあ一応は……」
「よろしい、専用機は来週の代表決定を賭けた試合までには届くことになっている。それまでに相応の訓練をしておけ。さ、授業を始めるぞ、さっさと席につけ。私に二度いわすなよ」
千冬の言葉に、女子達はそれぞれ自身の席に戻り、全員が速やかに着席したところで四限目の授業が始まった。
◆
四限目が終わり昼休みに入った。一夏は相変わらず授業の内容についてはいってるものの具体的な打開策が浮かばないでいた。
IS専用機が手に入るらしいもだが、それがどれほど有利なのかも分からない。というか、下手をすれば、相手のセシリアも専用機を持っている事も十分に考えられる。そう考えていると、一夏が問題としているセシリアがやってきた。
「ふふ、どうやら専用機を持たせてもらえるようですわね。まあ、これならそこまで一方的な試合展開にはならないでしょう。少なくとも、量産型で専用機持ちであるわたくしに挑むよりかはいくらか上等というものですわ。良かったですわね」
「………わざわざ、それを言いに来たのか?なら帰ってくれ、お前がいると対策を考える意味がないだろう」
セシリアが自信満々に言い放つのを冷静に言い返す一夏。セシリアは、昨日の啖呵を切った時の気迫はみられないものの、一日経ち冷静になっても戦意は無くなっていない様子の一夏を見て満足そうに微笑んだ。
「ふふ、どうやらその様子だと試合までに泣きつくといった無様をさらすことはありませんわね、安心しましたわそのような事をされては興ざめですもの」
「言ってろ」
「ええ、ではせいぜい一週間頑張ってくださいまし、それでは」
そういって、セシリアは自分の席に戻って行った。どうやら、一夏が一夜経っても決闘の意志が尽きていないか確認しに来たようであった。
一夏は、セシリアの後ろ姿を見ながら、戦意を新たにするのであった。
「よし、じゃあ箒、学食にいこうぜ」
「……あ、ああ」
箒もセシリアのことが気になるようで後ろ姿をめで追っていたが、一夏の誘いを受けて席を立った。
そして、二人して食堂に到着した。寮の食堂とは別にあるから驚きである。昼時であるためここも、混んでいて、仕方なく並ぼうとする二人の前に、一夏は見覚えがある背中がいた。
「あれ、鈴じゃん」
「?、ああ一夏じゃない。ちょうどいいわね一緒に食べる?」
「いいぜ、箒もいいよなって、箒?」
「………一夏、その女子は知り合いか?入学早々ずいぶん親しげだが?」
「え、ああまあな」
「ちょっと、一夏そいつだれよ、いくらあんたでも一日そこらでそんなに親しげなのはおかしいんじゃない」
「え、えっとそれはだな……」
「「一夏、どういう関係?」」
IS学園二日目昼、一夏の受難は終わりそうになかった。
その二に続きます。
鈴が一応初日からいるのでこのタイミングで修羅場です。
鈴が前倒しできた理由もちゃんとありますのでご安心ください。
ご意見、ご感想よろしくお願いします。