伝承・無限軌道   作:さがっさ

5 / 14
一週間遅れて申し訳ありません。
切りどころが分からず、長くなってしまった上に、まだセシリア戦は始まりません。
あと一話位して、セシリア戦となります。

では、ご覧ください。


第二話 決闘、誇り高き青龍 その二

 「で、どういう関係な訳?」

 

 昼休みの学食、女子二人、男子一人という組み合わせで座っているテーブルがあった。男子の向かい側に女子二が座っているという配置である。女子二人は互いに警戒しつつも、向かい合っている男子に詰め寄っている。その女子達のこれが気迫というのだろうか、あまりの近寄りがたい雰囲気に通常であればIS学園唯一の男子に声を掛けにいきあわよくば自分の顔を覚えてもらおうという女子は皆無であり、皆近寄らずに遠目から横目で見ていた。

 男子の方は、もちろん織斑一夏であった。

 そして、問題となるのは一夏の幼馴染の女子二人、篠ノ之箒と凰鈴音であった。

 なぜ、二人の幼馴染に一夏は詰め寄られているのか、それは簡潔に答えるならば箒と鈴は面識が無かったからであった。

 箒が小4の終業式後直ぐに転校し、鈴が小5の始業式に転入してきたため、箒と鈴は入れ替わる形で実際に会ったことは無かった。

 箒はともかく、鈴の方は少なからず一夏から聞いているのだが、生憎一夏は友人との仲が良かった事をことさら話題に会上げることは無かったため、箒が単なる転校したクラスメイトでは無く、自分と同じくらい仲が良く一緒に行動していたなどど考えてはいなかった。

 そうした事から、一夏は自分がなぜ二人ともに攻め立てるように関係を聞かれているのか分からないままなんとか昼食を受け取り、席に二人を着かせようとした所どちらが一夏の隣に座るのかということで睨み合いを始めたため、仕方なく一夏が一人で座ることでとりなした。

 そして、ようやくまだ機嫌がいいとは言えないものの二人が一夏の話を聞いてくれる姿勢に入ったところで話を切り出し始めた。

 

「えっと、こちら篠ノ之箒さん。小4までいっしょに剣道やってた幼馴染です」

「………一夏の幼馴染の篠ノ之箒だ」

「う、あっと……こちらが凰鈴音さん。箒が転校した後に転校してきて中二で転校するまで一緒に遊んでた幼馴染です」

「………一夏の、い、ち、か、の幼馴染の凰鈴音よ」

 

 自己紹介した上でなお睨み合いをやめてない二人に、一夏は身を縮ませる気持ちで心がいっぱいであった。さっきまで、昨日決闘を申し込み、昨夜化け物と戦い、ついさっきまで教室でISの操縦について悩ませていたのが嘘のようであった。これ以上、この短期間で悩み事が増えることがあるのだろうかと思うくらいであった。

 

「ま、いつまでも睨み合いを続けていても仕方ないし今日の所は、幼馴染ってだけでも判明したから良しとするわ」

「だけもなにもそれだけ何だがな……」

「それだけとは何だ。幼馴染に対して薄情ではないのか、一夏」

「う、悪かったって」

「それはそうと聞いたわよ一夏、クラス代表を賭けて決闘するらしいじゃない。しかも相手は代表候補生らしいし。よくもまあ、そんな大それたことができたものね。少なくとも私がいた時はISのことなんてあまり知らなかったじゃない」

「成り行きだよ。俺が一番に他薦されたのが気に食わなかったあちらさんが挑発してきたんだ仕方ないだろう?」

「ふーん、ま、あんた怒るとホントに人が変わる時あるからそれが出たんでしょどうせ。それで引くに引けなくなったと。で?勝機はあるの?」

「う…それが、そのう……」

「無いのね?」

「やってみなくちゃ分からないだろ?」

「で、具体的には?」

「………………」

 

 鈴には、一夏の悩み所はお見通しだった。そんな一夏と鈴のやり取りは、箒には新鮮に映ったらしく、うらやましげに見ていた。

 

「それで、どうするのよ?さすがに何もしないってわけじゃないんでしょ?」

「ああ、とりあえず放課後にでも箒にISのことを教えてもらおうと思ってた」

「そ、そうだったのか。早く言ってもらえれば直ぐにでも教えたんだが。そうかそうか」

 

 一夏に頼りにされ、嬉しそうに頷く箒。

 それを見て面白くなさそうに目を細める鈴は唐突に何かを思いついたのかテーブルから身を乗り出し一夏に退散した。

 

「それなら私が教えるわよ。そこの、えっと篠ノ之さん…だっけ、相手は一応、代表候補生なのよ一般生徒に教えられた程度でどうにかなる訳じゃないでしょ?」

「……それはまたずいぶんと大口を叩いたものだな。凰、お前とて一般生徒ではないのか?」

「そうだぞ、鈴お前だって一年ぐらい前はISになんの興味も持って無かったじゃないか」

「?あ、そうか二人とも知らないのか」

 

 無理もないかーと、つぶやきながら鈴は手首から赤紫の色合いをした金属質のブレスレットを一夏と箒の二人に見せるように取り出した。

 

「あたし、一応中国の代表候補生なのよね、それも専用機持ちの」

「「ええっ!?」」

 

 あまりの衝撃に、二人は思わず席を立ちあがってしまい、さらに周囲の注目を浴びることになった。二人は周囲の目に気づいたところで席に座ったが、それでも驚きは隠せないでいた。

 

「ほ、箒、代表候補生って一年やそこらでなれるものなのか?」

「いや、中国では分からないが少なくとも一年でなれるものではないと私は聞いていたのだが……しかし、実際にそのブレスレッドはどうやらISの待機状態らしい。一夏、凰が言っていることは本当のようだぞ」

「……箒、ISの待機状態って?」

「ISは個人の専用機となると個人で持ち運ぶことが義務となる。よって持ち運びやすい媒体で常に身に付けておくために大半は一見アクセサリーのような物を待機状態として身に付ける。凰のこのブレスレッドがまさにそうなのだろう」

「へえ、これがそうなのか」

 

 箒が鈴のISの待機状態であるブレスレッドを指し示しながら解説しているのを関心したように聞いている一夏。そんな一夏の様子をみながら鈴は軽くため息をついた。

 

「まずそこからなのね……ほんと、IS学園に良く入れたわね一夏。入試での倍率本当に高いのよ?」

「いや、俺はIS動かせた時点で強制入学だったからな……あったのはとりあえずの実技試験だけだったし、それも今思い返すと、実質形だけだったしな」

「形だけって?」

「ああ、俺が受けたのは試験管と戦えってやつだったけど」

「それなら、私も受けたぞ、生憎凰の言うとおりに私はそれほどISの操縦は上手くないので、距離を取られて倒されてしまったが」

「だよなぁ、やっぱり形だけだったんだろうな」

「ふーん、私は国の推薦枠で入ったから知らないけど、そんな試験だったんだ。それで?一夏はどうだったのよ実際に≪IS≫を動かしてみて」

「それが、あんまり覚えてないんだよな……試験官の指示に装着したと思ったらいつの間にか始まってて、気づいたら試験官のISが壁に衝突してた」

「……いや、どういうことよ?何アンタ、緊張のあまり覚えてなかったの?」

「というか、一夏。お前の言い方では気づいたら試験官が壁にぶつかって勝ったと取れるのだが…」

「取るもなにも本当だぞ?……生憎、どうやったかは何にも覚えてないけど」

「………まあいいわ。とりあえずそれは置いときましょ。それで一夏の≪IS≫の操縦時間はその時が最後?」

「ああ、最初に誤って起動した時と、試験の時の二回だけだ。それもまともに動かした記憶もないんじゃ正直不安で………鈴は代表候補生なんだろ?頼む!俺に教えてくれ!」

「しょうがないわね。いいわ幼馴染のよしみで教えてあげる」

 

 一夏が必死に頼みこむと、鈴は快く承諾し何とか試合までに無様を晒すことはなさそうだと少し安心した一夏だった。

 一方、おもしろくない顔をしている箒であったが、自分よりも鈴の方がISに関して優れているのは明白であったため渋々納得していた。とはいえ、夜にでも一夏には昨夜のことについて説明するのを思い至り、直ぐに得意げな顔に戻ったが。

 

「何よその顔、あまり悔しそうじゃないじゃない」

「何がだ?一夏に≪IS≫の事について教えるのは詳しい方がいいというのは私も賛成だ。一夏が最初、私を頼る予定だったようだが、より詳しくかつ同じ幼馴染というなら譲ることもやぶさかではない」

「……何か怪しいわね……まあ、いいわ、それでアンタはどうするの?」

「そうだな、せっかく代表候補生が直々に一夏に教えるというのだから見学したいのだが構わないか?私も学べる事があるかも知れないのでな」

「いいわよそのくらい。じゃあ放課後から早速……ってそういえば、あたしクラス代表になったから今日の放課後に呼び出しがあったんだ」

「鈴はクラス代表になったのか……やっぱり実力か?」

「まあね。けどどうしようかしら、あと一週間も無いんでしょ?一応実践込みで教えようと思ってたんだけど」

「いや、それは難しいんじゃないか。練習用のアリーナは予約しなければいけなかったはずだ」

 

 鈴が一夏に実際にISに乗らせて実践で教え込もうと考えていたところに箒が練習場所について言及しだした。ISは機動性が高いパワードスーツであり、そのための練習場ともなればそれ相応の広さが求められる。そのためIS学園にはIS操縦訓練用のアリーナがありそこで放課後も訓練することができる。最も箒が言うように、いくらIS学園でもアリーナの大きさには限界があり、あらかじめ予約を取っておく必要があった。

 

「アリーナの予約は簡単に済むだろうが、何より一夏には専用機が無い。必然、練習機を借りる事になるがそれも申請がいるだろう。数に限りがあるからスタジアムの利用より時間がかかる恐れがあると思うのだが」

「あちゃー、すっかり失念してたわ。そうなると今日は無理そうね。一夏、悪いけど明日の放課後からになるけど良い?」

「ああ、練習場もISも借りれないんだろ?仕方無いさ。それに鈴も忙しそうだしな。今日のところは箒にでも教えともらうことにする」

「そのほうがいいかもね、じゃあ篠ノ之さん一日だけだけど一夏に色々教えといてね。あんた色々知ってそうだし」

「それほどでもない。とはいえ了承した。一夏には私が教えられる範囲のことは教えよう」

「何か、俺が話しに割り込めないまま終わったけど……とにかくよろしく頼む二人とも」

 

 そういって、またもや頭を下げる一夏に気をよくしている箒と鈴。両者とも、一夏に頼られていることにご満悦のようで、顔を揃って得意げにしていた。

 

「それじゃ、予約とかは一夏に頼むわ。それぐらいはしてくれるでしょ?」

「ああ、もちろんだ。教えてもらうのにそれまで任せるのはさすがにどうかと思うからな。任せてくれ」

「ええ、お願いね。それじゃ二人ともまた明日の放課後にね」

 

 そういって空の食器を乗せたトレーを持って席を立ち、去っていく鈴を見送りつつ、自分達も早速予約をするために、一夏と箒は自分たちのトレーを戻すべく席を立った。

 

 

 

 

 学食を出てすぐさま、スタジアムと練習機の予約を取ったら昼休みが終了した。無事に予約がとれ、明日から本格的にISの特訓が出来るようになり、とりあえずは一安心する一夏。昼休みごの授業もしっかりと受け放課後となった。早速、一夏は、箒の席まで行くと話を切り出した。

 

「箒、早速だけど教えてくれ」

「まあそう焦るな一夏、とりあえずついてこい」

「おい、ちょっと待てよ箒」

 

 そういって、箒は自分の荷物を纏めると教室からでてどこかへ歩き出した。慌てて一夏もついて行った。

 十分程歩いただろうか、さすがにここまでくれば一夏でも目的地が分かった。そこはどこか懐かしいく、昔を思い出させるヒノキの香が心なしかしていた。そう、箒の目的地はIS学園内の剣道場であった。

 

「剣道場か、懐かしいな……あれから5年ぐらいだからそれ位振りに来たけど……うん、やっぱりいいもんだな。」

「ふふ、そうだろう。さて、早速手合わせといこう」

「手合わせって、ISは?」

「ちゃんと教える。まずはお前の生身での実力を確かめないと、な」

「?」

 

 そうして、防具一式と竹刀を借り、きちんと準備運動をしてから防具を付けた。一夏は自分の手がもたつくことなく防具を身に付けることが出来たことに内心驚いていた。案外覚えているものだと過去の自分がどれだけ剣道に打ち込んでいたのか思い出し、どこか照れくさくなる一夏であったが、同じく防具を付けた箒を前にし、気を引き締める。

 二人は向かい合い、礼をして三歩進む。その場でそんきょを取り、竹刀を抜き剣先を合わせ、立ち上がる。

 

「合図はどうする?」

「いや、今回は必要ないかかってこい一夏。いっておくが毎日素振りしていただけでは

私には勝てんぞ」

「言ったな!――――」

 

 一夏は言い終わるかしない内に真っすぐに箒めがけて突っ込む。昨夜同様の突進。思い切り左足で床を蹴るように飛び出すことで、相手が対応する前に距離を縮める。

 箒と一夏の間には、実践経験の差がある。剣道そのものをしばらくやっておらず一人でもくもくと素振りのみを行ってきた一夏に対して、箒は公式戦にろくに出ていないとはいえ、部活動などでの練習試合等をやってきた箒では、その差は明らかである。

 ましてや、箒には昨夜のような化け物と対峙してきた経験があるとなれば、もはやその差を埋めることは困難である。

 だが、最初からあきらめていてはどうにもなりはしない。おそらく時間が立てばたつだけ、経験不足の一夏には不利となるだろう。

 よって、最短の時間で最速で決めに行く。

 よもや、箒に限って油断なおは無いだろうが。それでも、最初の方はまだ、警戒が薄いのではないか、そこ前考えたところで、一夏の体は自然と突進することに決まっていた。

 対する箒は、一夏の突進に合わせて昨夜の化け物に対して行われたように素早い足さばきで避ける。

 

「ハアッ!」

 

 一夏をそれを織り込み済みだった。左足で蹴りだした勢いを無理やり右足で床を踏むことで押さえつけ、右足にかかる床からの反動を生かして方向転換して、箒に向かって再度突っ込む。ここで竹刀を上段に構え、そのまま箒の面を取ろうとする一夏。

 しかし、箒はそれを完全に見切っており、すでに一夏が方向転換しようとした時には竹刀を振るっていた。

 一夏は直前で気付くものの、すでに竹刀を上段に構えており、竹刀での防御は間に合わない――――

 

「甘い!」

 

 言い切ると同時に、箒は一夏の左胴に完全に打ち込んでいた。

 

「一本だ。私との実力差を考えての突進といったところだが、その程度では虚を突くには入らないぞ一夏」

「くそう、まだだ!もう一本!」

「当然だ、お前の実力を確かめるためにこうしてやっているがそれだけで終わる男ではないだろう!」

 

 そうして、両者は再び距離を取り、今度は打ち合いが始まった。

 

 

 

 

 三十分後、どこからか、一夏がいることを聞きつけてきたのか女子が集まってきて、剣道場にギャラリーができていた。

 九程取っただろうか、すでに一夏は息が上がっていて肩で息をしている状態であったが、箒の方は多少息が乱れているもののまだ打ち合える様子だった。

 

「ハア、ハァ、くそう」

「どうした?これで終わりか、一夏」

「いや、まだだ!」

 

 とはいうものの、これまでの打ち合いで、一夏は有効な一撃すら打ち込めておらず。全て箒に動きを読まれ、躱されていた。このままでは、打ちのめされて終わるだけである。

 

(そうはいくか!せめて、一泡吹かせてやる!)

 

 一夏にも箒の実戦経験の差は歴然としていることは理解できている。この差を埋めるにはどうすればいいのか。

 

(思いつきの奇襲は全部対処された。対して俺は箒の攻撃を直前まで読めない!どうしても駆け引きと対処の差が出てきてしまう!)

 

 ならば、どうする。一夏は考える。少なくとも思いつきでは到底敵う相手ではない。ならば今までやってきた事、日々の素振りから何か打開策はないか。

 そう考え、ある事に思い至り。一夏はそれに賭けることにした。

 竹刀を正眼から納刀するように構え、深く腰を落とす。このままでは、ろくに動くことはできないが、箒に足捌きで劣っている以上、大して差は無いと判断したためである。

 箒はその構えを見て、一夏が何をするつもりなのかを察した。そして箒もまた、正眼の構えを解き一夏同様に構えた。

 

 鏡合わせに二人が構えたのは居合の構えだった。

 

 同門のである二人であるからこそ、互いの考えが伝わる。じりじりと距離を詰めていく二人。

 自身の間合いに入った瞬間に切る。

 一夏の勝機はそれだけであった。箒が一夏の誘いに乗ってくるかは賭けであったが、箒の性格からして十中八九乗ってくるであろうことは分かっていた。

 後はこの居合に賭けるのみ、ただただひたすら続けて来た素振りを持って

 

(箒に一撃喰らわせる!)

 

 そうして、両者の距離は縮まり、間合いに入ろうとした瞬間。

 箒がさらに、踏み込んできた。

 実は、箒は一夏の虚を突き、距離を縮める必要がどうしてもあった。一夏は気づいていなかったが、箒には一夏に劣っているものがある。

 それは、身長の違いからくる間合いの差だ。どうしてもその差は個人差で生まれてしまう。そのためにどうしても踏み込む必要があった。

 そうとも知らずに、踏み込んできた箒に対し、反応が遅れたものの反射により竹刀を抜く。

 

 交差は一瞬、竹刀を打ち込んだ音は二つ。

 

「お前の勝ちだ、箒」

「そのようだな」 

 

 箒の竹刀が一夏よりも一瞬早く打ち込んでいた。

 

 二人は礼を交わし、借りた防具を返したのち剣道場を後にした。

 

「ちくしょう、一本も取れなかった………」

「そうだな、もしこれまで剣道を続けていたならこうはいかなかった。少なくともここまで一方的な結果にはならなかったさ。それほど、お前は剣道から離れていたということだ」

「………」

「返す言葉もないといったところだな、だが素振りを毎日やっていたというだけはあって、振りは見るものがあったがそれだけだ。足運びは雑だったし、駆け引き等ほとんどできていなかったぞ」

「くそう、その通りだよ………こんなことなら中学でも少しはやっておけば良かったぜ」

「そう腐るな、大体お前の実力は分かった。何、そこまでお前の剣がダメになっているわけでは無い。成長なく、ただ自分の実力を維持していただけだったのだ。これから足運びも駆け引きも学んでいけばいいだろう。現に最後の方は私の動きについてきたではないか」

「だとしてもだ。悔しいもんは悔しいさ。けど箒本当に強くなったな、やって無かった俺が言うのもなんだけど公式戦に本格的に出てたら全国優勝もまんざら嘘じゃなかったかもな」

「さあ、どうだろうな、何せやった事が無いからな……よころで、十本とった私としては先にシャワーを浴びたいのだが?」

「ああ、いいよ。その代わり昨日みたいに脳天チョップはやめてくれよ」

「あ、あれはお前が最初から名乗っていれば良かっただろう!」

 

 箒は顔を赤くしながら、訴えるものの一夏は軽く流して、自室に入った。

 

 シャワーを浴びた二人は早速、ISについて講義に移った。

 

「で、箒、結局何で剣道やったんだ?ISと関係あるのか?」

「当然だ、ISはこれまでの現行兵器と違いパワードスーツだ。つまりいくらISのハイパーセンサーや動作補助が優れているといってもISを操縦している人間の反射神経や身のこなしが関わってくる。例を挙げるならば千冬さんだな、あの人は剣道で培ったというかその……とにかく優れた運動神経を生かしたブレードのみで世界一になった。今ほど、遠距離攻撃の手段が限られていたり、第二世代どまりだった環境とはいえこうそうやすやすとはいかない

はずだはあるのだがな……」

「やっぱ、千冬姉ってすごいんだな……そうなると生身で動ける必要があるというのも納得がいくぜ」

「ああ、お前はどうしてもISの搭乗時間に劣る。これから毎日乗ったところでそれはたやすく鬱が得るものではない。ならば、何とか人並み以上とは言える剣道を使うのは効果的だと私は考えたからな。そこでお前の今の実力を見せておらうために手合わせをしたというわけだ」

「なるほどな、でもISって遠距離武器もあるんだろ?やっぱり剣道だけじゃダメなんじゃないか?」

「それは当然だ。だが今からそれ以外のことを教えたところで付け焼刃以上のことはできまい。最低でも遠距離武器に対する近距離武器による対応程度でだろうな。少なくとも遠距離武器で攻撃などISの補正があるとしても代表候補生相手に当てられるはずもない」

「それなら、剣道に専念したほうがいいってことか……あっでも渡される専用機が遠距離型とかだったらどうするんだ?」

「……一応、一夏が剣道をやっていたこと位は向こうも把握しているだろう。それども万一、遠距離武器が主体のISなら………極限まで近づいて接射するしかあるまい」

「……因みに箒、遠距離武器の心得とかは……?」

「弓を少々と、昨夜見せた術式による攻撃だけだな。銃などは扱ったことは無い」

「そんなもんか…近接武器……例えば刀とかで遠距離からの攻撃ってどうやって防げばいいんだ?」

「そうだな……単純に言えば向かってくる弾などすべて切り落とせばいいということに集約するのだが………そうでなければ、相手に照準を合わさせないことだろうな。当たらなければ意味は無いというが正にその通りだ。加えて、ISにはエネルギー・バリアがある。多少の被弾は問題にはならない。逆に恐れて慎重になり足を止める程危険なものはない。常に動き続けることが大切だな」

「なるほど、それなら――――」

「それはだな――――」

 

 箒による付け焼刃ではあるものの心構えとして色々教えてもらった一夏、気づいたら時刻は夕飯時になっていた。

 

「ふむ、今日はここら辺にしておくか。夕食に行くぞ一夏」

「ああ、そうだな」

「夕食のあとは、昨夜のことを教えよう。待たせて済まないがな。色々気になっていたのではないか?」

「え………?あ、ああそうだったな。色々ありすぎてもう少しで頭から抜け出そうだったぜ」

「そんな調子で大丈夫か?言っておくが生半可な態度で聞くようなら命に関わる。たとえお前に対する謝罪を込めたものであってもそのようでは教えるわけにはいかなくなるのだが?」

「大丈夫だ、こう見えて切り替えるのは上手いんだぜ、俺」

「いいだろう、とりあえずはその言葉を信じるとしよう」

 

そう言いながらも、箒は不敵な笑みを浮かべており、内心一夏のことを信頼しているであろうことが分かる。元も一夏本人はそれにも気づかず、幼馴染にあまり信じてもらえない事に内心落ち込んでいた。

 

 夕食を食べ終わり、ISのことを教えてもらっていた先ほどのように自室のそれぞれの席に座る一夏と箒だが、箒の方は、何やら机の上に札のようなものを並べていた。

 一夏はそれらを見ると、どれも何やら漢字を崩したような字が書かれたいた。中には一夏にも見覚えのある物があり、それは昨日、今日と自分の額に貼ってあった湿布のようなものだと分かった。

 

「さて、と準備は出来たのでこれから説明に入るが……一夏、何から聞きたい?」

「じゃ、じゃああの蜘蛛を大きくしたみたいな化け物についてだ。ありゃ一体何なんだ?」

「ではそこから説明することとしよう。簡単に言えば、伝説や伝承に伝えられ、その力や性質は通常の生物をはるかに逸脱している存在――――≪幽体(ゆうたい)≫と呼ばれている」

「≪幽体≫………なんだか化け物に付けるにはどこかくくりが大きいな。もっと妖怪みたいな奴らだと思ったんだけど」

「それは、あの場で出てきたのが妖怪染みていただけだ。最も妖怪というのも的外れではないのだが……。あの化け物、土蜘蛛という名称なのだが聞いたことは無いか一夏?」

「土蜘蛛か……どっかで聞いたことがあるな。何かの妖怪じゃなかったか?」

「ああ、その通りだ。土蜘蛛というのは平安時代に現れたとされる蜘蛛の妖怪と伝えられている。あの土蜘蛛はそれが元となって生まれた≪幽体≫なのだ」

「元って、アイツは土蜘蛛じゃないのか?それとも形だけの偽物なのか?」

「その通りと言えば、その通りだ。あれは、元の古くから伝えられてきた土蜘蛛の伝承を核として生まれたものなのだ。≪幽体≫とはつまり元々伝承のあるものを核とし、それを≪龍脈(りゅうみゃく)≫に発生する淀みにより溜まった≪龍素(りゅうそ)≫で覆ったことで形成されるものを指す」

「何だが難しいなつまりどういうことなんだ?」

「つまりだな……」

 

 そう言って、箒はおもむろにルーズリーフとシャーペンを取り出し、ルーズリーフに龍脈の淀みと書かれた楕円の穴を書き、その中に核と書かれた小さな円を描いた。

 

「昨夜の土蜘蛛を例としよう、まず伝承や言い伝え等が、人知れずに核として現れる。その核に≪龍脈≫の淀みに溜まった≪龍素≫が纏わりつき…」

 

 核と書かれた小さな円を中心として蜘蛛の絵を描いた。蜘蛛の部分には、≪龍脈≫を流れる≪龍素≫と書かれている。

 

「このように、核を元とした化け物が生まれた、それが昨夜の土蜘蛛だ。形として現れるのは核となるもの次第であるのだが多くの≪幽体≫はこのように出現する。どうだ?分かったか?」

「え、ええとつまり普通の生物じゃないってことは理解した」

「今のところはそれだけ分かっていればいい、直ぐに理解するなんて私にも出来なかったからな」

「でも、箒はその…幽体を倒す専門家なんだろ?」

「ああ、まだ見習いといったところだがな。実は実家の家業なのだ、私も知ったのはお前と離れてからだったが」

「そうなのか……でもよくよく考えてみたら真剣の居合も教えてくれるのにあんまり規模が大きい道場じゃ無かったりとかしたのはそこらへんの事情もあったんじゃ……」

「私も初めてこの事を教えられた時に次いでに教えてもらったのだ。子供心にこれが普通なんだと思っていたのだが……まさか、化け物退治用の剣術だったとはな。とはいえ、道場で教えていたのはほとんど対人用の普通の剣道ではあったが」

「そうなのか……家業ってことは他にもいるのか?その幽体を退治するのが仕事の人とか?」

「もちろんだ。とはいっても私はあまりあったことがないのだが……日本全国で≪龍脈≫の淀んでいる場所に陣取り、日々≪幽体≫を退治していると聞く。実はこのIS学園にもいて、この学園を共に守ることになったのだ」

「IS学園に箒以外にもそんな人がいるのか……でも昨日はいなかったみたいだけど?」

「なんでも大事な野暮用があったのと、実力を確めるために私に土蜘蛛退治を任せたと言っていたな。だから、一夏が出てきた時に対応が遅れたとも言っていたな。そのことで、謝罪したいから後日会いに来ると言っていたぞ」

「……正直思うところがないわけじゃないけど会ってから話す事にする」

「それがいい。さて、他に聞きたいことはあるか?」

「ああ、あの時俺と箒以外の人が、どうやら見てた人はいたらしいけど、少なくとも寮には誰もいなかったけどあれはどういうことなんだ?」

「それは本当にあの場所、≪幽鏡界(ゆうきょうかい)≫には本来は誰もいなかったのだ」

「ゆうきょうかい?」

「≪幽鏡界≫とは、この世界の鏡に写したような世界だが、そこには生物が存在しない。まるで世界を写真に写してそれを立体化させたようなモノなのだ。あそこにあるのは太陽の様に輝く月だけだ。そして、肝心なのは≪幽鏡界≫は普通の人間には認識することも、接触することもできない。なので」

「幽体とはそこで戦うのか、でもよく≪幽体≫とそこで戦うことになるんだ?」

「それは、≪幽体≫が持つ性質が原因だ。先ほど≪幽体≫が出現すると言ったが、実はすぐさまこの世界に現れる訳ではない。≪幽体≫はなぜか、形ができて直ぐにこの世界に現れることはできないのだ。必ず、≪幽鏡界≫に先ず現れそこで更に存在を高めるという段階を経てようやくこの世界に現れる。なので私達は、≪幽鏡界≫に≪幽体≫が出現した時点で、≪幽体≫がこの世界に現れる程に存在を高める前に迎撃するということだ、分かったか?」

「お前、さっきは龍脈?ってところの淀みの上で現れると言ってなかったっけ?」

「言ったぞ、何も間違ってはいない。そもそも、≪龍脈≫の淀みなど通常の空間に自然と出来るものではないのだ。大抵は≪幽鏡界≫で出来るものなのだ。最も、通常の空間で≪龍脈≫の淀みがあったとしても例外なく≪幽体≫は≪幽鏡界≫に行くようだがな」

「そうなのか、なんていうか便利な世界なんだな」

「そうだな、人目にも触れずさらに≪幽体≫が暴れたとしても被害が無いなど私たち人間にとってあまりにも都合がいい」

 

 箒は≪幽鏡界≫に対し疑問をもっているらしく、一瞬どこか険しい顔を見せたが直ぐに顔を戻した。最も、いつも眉間にしわを寄せたままとはいかないまでも鋭い目つきは崩さないので一夏には一瞬では気づかれなかったのだが……

 

「ふーん、それなら何で俺はその世界に入れたんだよ?俺今までそんな事なかったと思うんだけど」

「それは私にも分からないんだ。一夏、本当に心当りはないのか?」

「うーん、心当りか………」

 

 一夏は、昨夜の出来事と今までの人生を振り返ってみるが、あの太陽のように輝く月など一度見れば忘れるはずがない程鮮烈だったし、あのような化け物が出現するような出来事も忘れるなんてできるのだろうか。そう考えてはいたが、同時に土蜘蛛を攻撃しようとした時の胸に熱いものを抱えたようなあの時の感覚には覚えがあった。

 しかし、思い出せない。確かにあの感覚はどこかで覚えがあるのだが。かみ合わない。手に持ったパズルのピースがちょうど当てはまる空白が目の前にあるにも関わらず何故か気が付くことができない。そんな気分だった。

 

「………やっぱり分からねえ。悪いな」

「そうか……あと、考えられるとしたら、以前にも≪幽鏡界≫を訪れたことがあり、その際記憶消去を受けたのでは無いだろうか?」

「記憶消去か……それならありそうだけど……」

「とはいえ、可能性は低い。何しろ一回は記憶を失っているにも関わらず、再度≪幽鏡界≫を訪れることができるということは何かしら力を付けたことで、≪幽鏡界≫を認識できるようになったということだからな。前提が違くなってくる」

「つまり、力を手に入れた記憶が無いのに記憶消去の耐性があるっておかしな話だよな」

「耐性を破って記憶を消去するほどの術を使われたと考えることも出来るが……それほどの処置を施す必要があるならむしろ私のように話すか、そうでなくば……いや、よそう」

「そうでなくばって……そういうのもあるのか?」

「無いとは言い切れないのが現状だな。私は先ほども言った通り、あったことは無いがそれを主義としている人物もいると聞く。何分、記憶消去も決して万全ではない」

「それは、唐突に思い出すことがあるかもしれないってことか?」

「ああ、そうだ。一夏覚えておけ、この世界では何が起きても不思議ではないのだ。それこそ何でも起きてしまう。それだけは忘れないようにしておくことだ」

「……分かった」

 

 それだけ言うと、ちょうど話に区切りが付いたのか、箒は時計を見ると時刻は11時半を回っていた。

 

「もうこんな時間か、今日はここまでとしよう。明日から日課も再開するのだろう?今日はもう寝るとしよう」

「でもまだ聞きたいことが……」

「まだ時間は明日もあるだろう?決闘まで忙しいとなれば、その日以降に話すのも問題はあるまい?」

「そうだけど、もし明日にでも幽体が現れたらどうするんだよ?」

「だとしても一夏、お前に出来ることは無い」

「箒!?」

 

 一夏は箒に食ってかかろうとしたが、箒のただでさえ険しい目つきがさらに険しくなり、あまりの剣幕に思わず黙った。黙ってしまった。しかし、それでも不満を隠せないで何とか箒に抗議しようとする一夏であったがそれを遮るように箒が口を開けた。

 

「いいか一夏、はっきり言ってお前は足手まといだ。無いとは思うが、これがお前が男だから引っ込んでいろなどという冗談のような寝言をのたまう女子のたわごとに聞こえたなら、もう一度言う。お前は、≪幽体≫と戦うには弱い」

「けど、お前だけに任せるのは!」

「先ほども言ったが、このIS学園には私だけでは無くもう一人戦えるものがいる。私は実際に見たことは無いのだが、実力は確かであるに違いない。なにせ、去年一年の間は彼女一人でこの学園を守ってきたのだからな。よって、私だけ戦うことになるというわけでは無い」

「それでも、一人でもいた方がいいだろう!?」

「不要だ。お前の実力では何もできずに足を引っ張るだけだ。昨夜と同じことを繰り返すつもりか?結果的には何とかなったが、それはお前が幸運だったからだ。運よく、お前が力を使えただけにすぎない、また同じように力が使えるとは限らない。実戦でそんなものに頼るつもりか、そんな考えなら甘すぎるとしか言いようがないな」

「じゃあ、俺を鍛えた欲しい!それなら」

「一夏、なぜそこまで関わろうとする。たしかに幼馴染を助けようとするその心は立派で、私としても決して嬉しくないというわけでは無い。だが、必要も無いのに命のやり取りに首を突っ込むのは即断できるものではない。なぜだ?」

「それは……守りたいからだ……」

 

 一夏は、強くそう思う。いつまでも守られるだけではないと、守れるようになりたい、それは幼いころからずっと思ってきたことだ。

 

「変わらないな。以前よりも思いは強くなったが、その心は曲がらずそのままなのだな」

 

 一夏は、箒がこちらをにらみつける目が優しくなったように見えたが、それは本当に一瞬のことでありすぐさま、元の険しい目つきに戻った。

 

「だとしてもだ。ただでさえ、世界で唯一の男性操縦者というものを背負うことになってしまったお前にこれ以上何かを幼馴染という関わりであったとしても、いや幼馴染だからこそ、背負わせる訳にはいかない。お前は自分の事情に専念しろ。ISも一筋縄でいくものではあるまい。それをさらに抱え込むなど、両方とも素人のいうことではないことぐらい分かるだろう?」

「…………」

 

 一夏は何も言えなかった。事実、自分はISも、幽体についてもほとんど知らない。そんな奴が守るなどとガキのたわごとにしか聞こえないだろう。

 けれども、自分はあきらめきれない。今まで姉に守ってもらっていたのだから今度は自分が守りたいというのは不思議な事ではないはずだ。

 一夏は、そう思いながらも自身の力不足から何も言えなかった。

 足手まといは必要ないと言われた。事実、昨夜はほとんど、いや全くといって何もできなかった。そんな奴が戦うと言いだしたら自分も止めるだろうから。

 

「お前が鍛えるならば確かに強くなるだろう。もしかすると私よりも強くなるかもしれない。だが、今その強さがないのならば意味はない」

「分かったよ箒。今日のところは引くけど諦めたわけじゃないからな」

「……あきらめはしないと言った顔だな。私もこれくらいでお前があきらめるとは思ってはいない。お前が何度でも頼み込んできたのならば、その度に断わり続けるまでだ」

 

 そうあきれたように言い残し、箒はシャワールームに着替えをもって消えた。

 後に残された一夏は、誓いを新たにし自分も寝る準備を始めた。

 

 決闘まで、残り一週間を切り、ISと≪幽体≫その両方の困難に対して思いを巡らす二日目が終わった。

 

 

 

 




最近忙しくなり、投稿ペースが落ちてきていますが何とか書き続けていこうと思います。
最悪、書き溜めて連続投稿も考えましていますがとりあえずは週一で続けて行きたいです。

ご意見、ご感想よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。