Pipe dream ~とりあえず逃げ出してもいいですか~   作:無農薬“Loser”無謀

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慌てん坊

ファミレスを出た俺は、右手に新しい煙草を装備しちびちびと口元に近づけては吹かすという行為を繰り返しながら、テキトーに練り歩いてた。

 

エンコ詰めした左の小指は流石に目立つので、左手はポケットに突っ込んでいる。

 

昨日山南と戦ったときと同様に、痛覚を遮断しているので痛みは全くないのだが、出血がそこそこあるせいで、ポケットの中は正しく血の池状態になっている。

 

 

「にしても、我ながら啖呵切ったね・・・」

 

堀内組相手によくもまぁ、あんな真似をしたものだ。

壊滅やら何やらほざいていたが、本気だしてもあの場にいた10人程度に勝てるかどうか。

あのヤクザ達は指切りのパフォーマンスの雰囲気に呑まれてくれたので助かったよ。

 

まぁ、ヤクザだからこそか。

ヤクザにとって誰もがそれなりに忌避したいはずのエンコ詰めを、あんな軽薄に、ヤクザでもない奴が実行したのだから、言葉を失い唖然とするのも分からないでもない。

普通の神経ならできない芸当だ。

俺は痛覚遮断できるから何て事ないが ・・・。

 

第一400人以上いる堀内組を一人で壊滅させるなんて事ができるのはウチの社長くらいのものだ。

 

「日本のヤクザほど間抜けな組織はそうそうない。あんなあからさまに組やら何やらのアジトを大っぴらにして。街中の目立つ場所に力の象徴として君臨したい気持ちは分からないでもないが、そんな虚勢を張るために、奴等は自ら急所を丸出しにしているようなものだ。能ある鷹は爪を隠すってのはまさに奴等に対する皮肉としては最適だね。その気になれば、たった一人でも半刻あれば皆殺しにできる 」

 

とか何とか言ってた気がする。

いや、アンタだけだよ!とは言わなかったがな。

 

さて、とりあえず会社に戻ろうかな。

そこら辺までいくと、近所に闇医者の営む地下病院があるので、そこで左の小指の処置をしてもらおう。

 

『プルルルル♪』

 

俺が行動指針を定めた直後、携帯から着信音がした。

すかさず出ると会社の先輩の声。

「おーおー!元気かぁ!!早速だけどお使い頼んでいい?ってか頼んだけどさぁ、『穂むら』って和菓子屋の饅頭が食べたくなってきてさぁ、ついでに社長も食べたいとかいってるからさぁ、ちょっと買ってきてくれない?頼んだよぉ! 」

 

俺がもしもしと言う前に、一方的に喋りだしたと思うと、俺の都合も聞かずに電話を切りやがった。

お使いと言うかパシりだな、こりゃ。

 

しょうがない、買いにいくとするか。

あの先輩短気で粗暴で鬼強だし。

社長も絡んでるなら尚更だ。

素直に従っておこうか。

 

 

痛覚遮断していたからか、あるいは血を流しすぎて頭が朦朧としていたからか、俺は今最優先にやるべき指の治療の事を、他人事のようにすっかり忘却してしまっていた。

 

 

 

ーーーーーー

 

和菓子屋の場所が分からなかったのでタクシー移動した。

そこそこ有名な店らしく、運ちゃんはカーナビ無しで店に直行してくれた。

 

 

和風建築の店の穂むらと書かれた暖簾をくぐると、「うわぁぁ!」と慌てたような声が俺を歓迎した。

つい身構えるが叫びの張本人は、高校生くらいの女子で、レジに座りながら、ランチパック的なのをくわえている。

どうやら、業務の合間に間食をしていたところ、運悪く客がやってきて慌てているらしい。

 

 

活発そうな瞳がおずおずと気まずそうに俺を見ると、「い、いらっしゃいませ、アハハハ」

 

「何なら出直そうか?パンを食べ終えるまで 」

 

「い、いえいえ!大丈夫です」

 

真っ赤になりながら手を振る少女は、手元にランチパックを置くと、 「えへへへ」と後頭部をさすりつつスマイルをペーストした。

「穂乃果! 」

 

すると、店の横から違う少女がもう一人、すごい剣幕で現れた。長髪の純日本人のような容貌。大和撫子とかって言えばいいのかもしれない。

オレンジのサイドポニーの、穂乃果というらしい少女の姉とかだろうかと予想してみる。

 

「う、海未ちゃん」

 

「何で業務中にパンを食べているのですか! 」

 

「だって、和菓子飽きたんだもん 」

 

いや、和菓子屋で働いてるのに和菓子飽きたって、中々だな。

それにそう言う問題でもないぞ。

 

「和菓子を食べていても一緒です!!」

 

ほら、2割増しで怒ってるじゃねぇか彼女。

 

「大体、あなたは昔から責任感というものが足りないのです。母殿が同窓会だと言うから、せっかく手伝いに来たのに、当の一人娘が仕事をほったらかして食事しているなど言語道断です! 」

 

姉妹じゃなかったか。

それはそうと、さっきから客完全にほったらかしですけど・・・。

 

「だって暇だったんだもん!それに海未ちゃんだって接客が恥ずかしいって言って店の奥にこもってるだけじゃん!何の役にもたってないよ!! 」

 

「なっ!? 」

 

背景に稲妻が落ちたような格好でショックを受ける海未という少女。

 

「それとこれとは話がちがうでしょう! 」

 

「違わないよ!何の仕事もしないのにただガミガミと穂乃果を叱るだけじゃん! 」

 

「そ、それは、あなたが」

 

「こんなことならことりちゃんに来てもらえば良かったよ!きっと海未ちゃんと仕事するより何倍も楽しかったは

ずだもん!!」

 

「わ、私は穂乃果の役にたちたいと思って・・・」

 

「いつもいつも穂乃果ばっかり叱りつけて、正直心苦しいよ!そんなに穂乃果の事が嫌ならそれでいいよ。穂乃果だって海未ちゃんの事なんか大嫌いだよっ!!」

 

少女、穂乃果の口をついたその言葉は、当の本人でさえも意外だったらしく、

 

「え!?穂乃果何でこんなことを・・・」

 

思わず口を抑えるがもう遅い。

 

 

少女、海未は雷が二回ほぼ同時に直撃したかのように硬直すると、瞳から一筋の涙を流し、何とも悲壮感ただよう表情になってしまった。

 

「私は穂乃果に嫌われていたのですね。それなのに、いつも強く叱ったりして・・・。何とも滑稽な話ですね 」

 

「ち、違う、違うんだよ!今のは言葉のあやで、本当はそんな事 」

 

「良いのです。穂乃果は優しいですからこんな私とずっと一緒に居てくれたのに、私は穂乃果の優しさに甘えて、ずっとずっと穂乃果を苦しめてきたのですね 」

 

咄嗟に否定する少女、穂乃果だったが、少女海未は嘲笑を浮かべると懺悔のように言葉を紡ぎ始める。

 

えっ?修羅場っすかね。

それともそう言うサービスですかね。

ほら、ツンデレメイド喫茶みたいな感じの。

修羅場和菓子屋?

いや、ないない、ジャンルがニッチすぎる。

 

それに、このままだと俺、ずっとないがしろにされそうだな。

 

 

とはいえ、ここで割り込めるほど俺はメンタル強くないし。

それに何だかとてつもない眠気が襲ってきやがった。

おかしいな、あれ?

 

「今荷物をまとめますので、もう二分だけ私がこの場に滞在するのをお許しください。その代わり、以降私はあなたの目の前に現れないことを誓いますので」

 

 

空へと昇っていく天女のような微笑をのぞかせながら少女、海未は少女、穂乃果の静止も聞かずに店の奥に消えてしまう。

 

少女、穂乃果まで踵を返そうとしたので、

 

「待ってくれ!どうせ二分後にはまたこの場に姿を現すんだから、その後に、犬も食わないような口論を咲かせてもよし、逃走中を繰り広げるもよし、仲直りに至るもよしだが、その前に客の処理を完遂しておいてくれないか。別に急いでいるわけではないんだが、何だか体調が悪くてな。

早いところ土産を買って休みたいんだ」

 

少女、穂乃果は早口でまくし立てる俺の言に三秒ほどかかってから反応した。

 

「あ、ごめんなさい!お客さん。私、接客もせずに・・・」

 

「ああ、良いんだ、別に。俺にも責任の一端はあるわけだしな。ええと、何だったっけ?あ、思い出した。えっと饅頭をお土産用に一つ頂いてもいいか 」

 

何だろう。何でこんなに早口で喋りだしてんだろう?

のわりには言葉が不明瞭だ。

何つーか、喋ってないと意識が保てない感覚に陥ってきた。

寒気はすごいし、意識は朦朧としてるし。

風邪かな?

 

「ええと、ほむまんで良いでしょうか? 」

 

「それで、ええと、八個入りのでいいか 」

 

「はい、分かりました!少しお待ちください 」

 

少女、穂乃果が梱包作業を終えて、商品を渡してくれる。

 

「800円になります! 」

 

俺は右ポケットに入っていた小銭を指先で数え、800円ぴったしを出すと、左手で商品を受け取ろうとして・・・

 

「キャアーー!!!」

 

けたたましく鳴り響く悲鳴が不意打ち気味にゼロ距離で直撃した。

悲鳴の主である少女、穂乃果の目は驚愕と無理解に塗りたくられ、その視線の先には・・・。

目を向けるまでもない。

少女、穂乃果の上等な宝石のような瞳には、小指を欠損し留まることなく血を吹き出し続ける俺の左腕が映っていた。

 

ああ、痛覚遮断してたせいでつい忘れてたぜ。

年頃の少女にグロテスクな物を見せつけてしまったな。

昨日も同じ轍を踏んだ気がする。

 

そこで、俺も左腕を見やる。

脱色した脱け殻のような小指の付け根から、真っ赤な液体がドロドロと溢れでていやがった。

これは重症だなぁ。

他人事の用にそんな感慨を沸かせていると、

 

「何事ですか!!? 」

 

ドタドタと階段をかけ降りてくる足音が徐々に近づいてくる。

 

ああ、とりあえず面倒なことになる前に退散しねぇと。

 

俺は店を出るために振り向いて。

それだけで体力の限界を迎え左半身から床に倒れこんでしまう。

 

その拍子に、容積ギリギリまで溜まっていた左ポケットから血が溢れだし、清潔な床を汚した。

 

すぐにぶちまけられた血塊の上に俺が飾られる。

 

殺人現場みたいだなぁと思いながら、俺は意識を手放した。




てなわけでそろそろμ’sを絡ませていこうかなと。
文化祭に盛り上がる学校で、立ち入り禁止のスポットに引きこもりながら、執筆しました。
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