Pipe dream ~とりあえず逃げ出してもいいですか~   作:無農薬“Loser”無謀

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展開が遅くてごめんなさい。
初心者なので許してください


遅れすぎた救世主

山田家を後にした俺はコンビニで飯とタバコの補給を済ませ、ようやっと家に帰ろうとしていた。

 華やかなネオン街から逃げるようにいりくんだ路地を曲がり続け、順調に帰宅経路を消化していった。

 

 いわくつき物件の多い地区までやってくると、煩わしい喧騒から一転、少々不気味な雰囲気が俺を歓迎する。

 淀んだ空気が肌にまとわりつくこの瞬間、俺はようやく、帰ってきたなと気を休める事ができた。

 

 今日は一週間に一度あるかないかの嫌な仕事内容だった。弱者を脅し痛め付けて餌にする。他の闇金業者よりウチのやり方はマシかもしれない。

 かもしれないが、心の底から自分を軽蔑できる、クズの所業だった。

 

 だが、俺はこの後目を疑うことになった。

 まさか、今日、この街で、自分以上の糞野郎と謁見することになろうとは。

 

 帰宅路も終盤に差し掛かり、俺は堂々と歩きタバコをしながら鼻歌を奏でていた。

 

 気づけばあのロリツインテールの大好きなアイドルの曲を歌っていた。

 俺はあいつの歌声を連想的に思い出す。

 少し嫌な気分になったが、構わず続けることにした。

 ここでの俺の選曲が、俺を含めてだれに影響するというわけではない。

 

 が。

 

 やがて最後の路地を曲がり『ゔぇぇ』と変な声をあげてしまったのは、多分そのせいだった。

 

 寂れた袋小路を効率的に利用したレイプ現場に出くわしてしまったのだ。

 

 俺は一瞬考える。考えるフリをした。

 加害者は、多分カタギ者じゃあない。100%ヤクザである。

 被害者は、ショートカットがよく似合うスレンダーな女の子だった。

 俺にとっては久々に見る美少女ってやつだった。

 あの、あざといツインテールと良い勝負だ。

 いや、だから、何で思い出してやがる。

 下手に知的ぶって思案するのはやめたほうが良いって事かい。

 てか、よく考えたら、こんな場面に遭遇して知的ぶることの意味が全く分からなかった。

 

 いや、意味は分かりきっているか。

 少女の制服が音乃木坂学園のそれであったので、ちょっと動揺しちまったのだ。

 誰もいないのに、それを取り繕おうとした、いつもの俺の無意味な行為だった。

 それだけのことだ。

 

 と、呑気にしているとレイプが未遂ではすまなくなってきそうだった。

 

 虚ろな表情で、それを受け入れようとする少女の沈痛な顔(よく見たら、生々しい暴行の跡が確認できる)は、健全な年頃の少女とは不釣り合いな、ひどく虫酸に障るものだった。

 

 沸点低いねぇ、よく言われますよ。

 

 俺は鞄からスタンガンを取り出した。自前のものじゃない。さっきコンビニで拝借したのだ。

 

 電源をいれると、青白い電光が確かに走っている。

 とはいえ、なんだか弱々しい、豆電球のほうがまだマシかと思えるくらいの微弱なそれだった。

 もっとも俺はスタンガンを初めて使う素人だったので、こんなもんなのかもなと素人目の直感を切り捨てた。

 

 はや歩きで距離をつめ、俺より15cmは高いであろうヤクザ男のすぐそばまで接近する。

 そこで、ヤクザ男は俺の存在に気づいたのだがもう遅い。

 俺はすでに攻撃モーションに入っているのだ。

 「おやすみさん」

 ゼロ距離で男の腰の辺りにあてたスタンガンのスイッチを入れる。

 

 パチパチ。

 

 ん?

 

 線香花火のようなささやかな火花がスーツに阻まれ、あっけなく消えちまった。

 

 まぁ、そうだわな。

 

 コンビニの駐車場に、まともに使えるスタンガンなんて捨てないわな。

 そりゃあ、壊れたから捨てたんだよな。

 俺が自分の可愛らしい見識の甘さに嘆いていると、

 

「おい、ガキ、今何した? 」

 

男が俺に振りかえった。

 

「ええー、じゃあ、とりあえずはじめましてのご挨拶って事にしといてくれ!不発だったけれどね」

 

目の前で挑発するように、普段の営業スマイルを見せる俺は、簡単にヤクザの低い沸点まで血潮を沸騰させることとなった。

 まぁ、ウハウハなあれやこれを堪能しようと思ってた矢先に、スタンガンを当てられ邪魔されるってのは、誰でもキレそうだけどね。

 

 俺は悪くないけど。

 悪いのはコイツだ。

 それは一目瞭然の自明の理ってやつだ。

 

 か弱い少女を、絶対に逆らえない力と地位を振りかざして凌辱したコイツの理不尽な行いは、決して許される物ではない。

 ブーメランを投げた気がするが知ったことか。

 せめて、仕事以外では自分の感情に赴くまま行動しないと、いつか俺は俺でなくなる。

 一人称も僕とかになりそうだ。

今のは蛇足。

 蛇足ばかりの俺の中でも特に蛇足だった。

 さて、さて。

 

 

 凄むヤクザ男は丸太のような腕を力任せに凪ぎ払った。

 俺はそれを下に屈むことでよけて、ヤクザ男の腰に抱きついた。

 気色悪いのはお互い様だ。

 

 「こらぁ!放せやガキがぁ!」

 

 俺だってそうしたいのは山々だ。

 

 俺はそのまま男を持ち上げ、ブリッジの要領でアスファルトに脳天から叩き付けた。

 イチモツ丸出しでズボンをおろしていたヤクザ男は、ろくな抵抗もできなかった。

 決まった!ジャーマンスープレックス!

 

俺はすぐに少女の元へと駆け寄る。

 すっかり憔悴しきった顔は涙で濡れていた。

 至るところに暴行を受けたことを証左する痣がくっきりと残っている。

 しばらくは動けないだろう。

 痛みもそうだが、精神的な傷が大きい。

 少女の事を全く知らない俺でも、それくらいは分かった。

 

 これはまずったな。

 流石にびびる。

 逃げ出そうにも逃げ出せなくなったみたいだ。

 

 堀内組舎弟頭補佐兼山南組組長山南佳祐。

 加減を知らない、超過激派の堀内組の中でも特に危ない男。

 190cmを超す屈強で打たれ強い肉体を武器に、数々の修羅場を潜り抜けてきた生ける伝説。

 40を超えた今でもその暴君ぶりは健在。

 

 一応、俺も裏社会の住人であるので、これくらいの知識は備えている。

 ジャーマンスープレックスをかけた後にその事を思い出した。

 とんだ大物にとんでもないことをしてしまったようだ。

 

 その事を察した俺は、少女を連れて山南が倒れている内に逃げ出そうとしたが、それは無理っぽい。

 

「今のは効いたでぇ!」

 

 案の定、山南はすぐ立ち上がった。

 マジかよー。あれを食らってすぐに立ち上がれるとは。

 ここ数年でトップクラスに絶望的だ。

 

 「くだらねぇ」

 

 困った時のくだらねぇが発動。効果は何もないが。

 

むしろ逆効果はあったようで、山南は自分に言われたと捉えたらしい。

 そばにあった電柱に前蹴りを叩き込む。

 グワングワンと地震でも起きたかのように電柱が揺れる。

 

「もう謝っても遅いでぇ!徹底的にぶち殺したるわ」

 

 えー。やめてー。

 本心はそんな感じだ。

 

 だが、俺は微動だにせずに奴を見据える。

 

 一人なら何としてでも逃げ出す。

 一目散に恥も外聞も棄てて逃げ出す。

 

 

 だが今は。己の矜持を通すとき。

 虚勢で塗り固めた脆い矜持を通すときだ。

 

 俺は少し屈んで、少女にささやく。

 

「こんな展開だが安心しろ。俺が何とかする」

 

 それはさながら自分の闘志を奮い立たせるための宣言だったのかもしれなかったが、それは俺にも分からなかった。

 それより重要なのは。

 

「助けてくれるの? 」

 

絶望にまみれた少女の表情に、すがるような一筋の希望が差し込んだことだ。

 

  

 だから俺は答える。

 願望を現実にするために。

 不可能を可能にするために。

 

「問題ない。問題は今から問題じゃなくなる」

 

 問題大アリの現実逃避。

 そうとられてもおかしくない台詞だった。

 

 だが、少女は二秒ほど俺を見つめると、コクりと小さく首を曲げた。

 

 

 十分すぎる、一時的とはいえ信頼の証。

 そう受けとることにした。

 自意識過剰かもしれないが、一時的だから許してほしい。 

 

 

 俺はそこでコミュニケーションを打ちきり山南に全神経を向ける。

 

俺は不思議と無敵な気分だった。

 

「兄ちゃんよぉー、正義の味方気取りってやつかいな! 」

 

 俺はそれに答える形で。

 

 ただ独り言にも聞こえる言葉を山南に少しだけ声を低めて言った。

 あるいは逆かもしれなかったが。

 

「いいや、お前の敵だよ 」

 

 

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