Pipe dream ~とりあえず逃げ出してもいいですか~ 作:無農薬“Loser”無謀
気絶した少女の対処に困ったものの、とりあえず目処をつけて俺は行動を起こした。
打撲に擦り傷等、幼く可憐な少女を改めて見ると、その暴行の跡は酷いものだった。
起こして、「さあ帰れよ」って放り出せるような状態じゃなかった。
俺は少女をおんぶする。
軽くて柔らかい。
熱い体温を背中に感じる。
しばらくぶりに担ぐ女の子の存在は、矮小な俺から見てもひどく華奢でいつ壊れてもおかしくない。
そんな風に思ったので、俺は少し強めに体を固定して彼女の安全を確保するようにした。
気絶した山南は捨て置き(通り際にあばらを一本折った)、俺は距離的にはすぐそばにある、自宅を目指した。
彼女の傷の処置をしなければならないからだ。
この時間だと病院はほとんど開いてないし、こんな傷だらけの少女を、見ず知らずの他人である俺が連れていったら色々と詮索されそうで面倒だ。
俺が病院嫌いってのもあるが、まぁ、傷の処置くらいはできるから安心してほしい。
さて。
実はここの袋小路を越えればすぐにつくのだが、今はそんなことはできない。
塀が高くて、人一人背負って越えられる高さではない。
仕方なく俺は、一旦路地裏を出て正規ルートを通ることにした。
正規と言っても事故物件に囲まれた道ではあるが。
少女はしばらくしたら寝息をたて始めた。それについては安心だったが、俺の耳に当たるような位置で羽毛のような寝言まで呟き始めたので、非常にくすぐったかった。
「むにゃむにゃ、お腹すいたにゃー」
寝言はこれの繰り返しだった。
にゃーって何だにゃー?(気色悪い)
実際、彼女の腹の虫もきゅるるると、可愛らしく鳴っている。
合法ドラッグでも服用しているかのような、何ともいたたまれない気持ちになったので、俺は心を無にして家路を急いだ。
ーーーーーーー
俺は自宅に入ると、敷きっぱなしになっている煎餅布団の上に彼女を寝かせた。
寝心地は最悪かもしれないがこらえてくれ。
奥から救急箱を取り出し、ガーゼを貼るなど適切な処置を施す。
幸いにも見た目ほど傷はひどくなかったようで、俺はとりまひと安心する。
時刻は八時半だった。
そろそろ彼女の親も心配しているかもしれない。
気持ち良さそうに眠っているところ悪いが、そろそろ起こさなければ。
俺は台所でお湯を沸かして、コンビニで買ってきていたペヤングを調理した。ペヤングはカップ焼きそばのチャンピオンである。異論は認めない。
夜食用だったけどまぁいいさ。
完璧な湯切りと、ソースとスパイスを適切に麺に絡ませることによって、食指を動かさずにはいられない見事な焼きそばが完成していた。
我ながら完璧だ。
俺はそれを片手に少女の元へゆく。
「お嬢ちゃん、起きてくれるか 」
肩を叩いて少女を起こした。
「ハッ! 凛寝てないです! 」
少女の起き抜け第一声はまるで、授業中にうつらうつらしていたところを咎められた時のような文言だった。
「あれれ?ここどこぉ?かよちんの部屋かにゃー? 」
寝ぼけ眼を手の甲で擦りながら、まだ状況がつかめていないご様子。
やがて、辺りを見回しはじめ、俺を視界にいれた。
もしかしたらまた怖がられるかもしれなかったので、俺は弁解するようにまくし立てる。
「大丈夫だ。俺はあんたの敵じゃない。だから、なんだ、安心してくれ。あんたを怖がらせちまったことについては言い訳しねぇし信用できねぇかもしれねぇが、とにかくここは安全だ。ってことだけは理解してほしい」
俺は諸手をあげて敵意が無いことを示す。必死である。
「えっと・・・? 」
凛と言うらしい少女は、支離滅裂な俺の剣幕に少したじろいだが、俺が害意を持ち合わせていないことだけは理解してくれたっぽかった。
ただ、まだ記憶が曖昧なようで、凛は一つ一つ思い出すように状況を整理していく。
「凛は練習で疲れてラーメン食べに行って怖いオジサンを怒らせちゃって、それでそれで・・・」
克明に甦る確かな記憶を思いだし、やがて凛は震えた口調になっていった。
「叩かれて、殴られて、痛くて、怖くて。真姫ちゃんが助けに来てくれるのに、凛に。服を脱いで、凛に」
感情が決壊し、涙をながす凛。
まずいな。
俺はとてもみていられなくなって、咄嗟に凛の体を抱えるようにした。
「えっ!?」
凛の背中を、さするようにぽんぽんと叩きながら語りかける。
「怖かったな、よく頑張った。もう大丈夫だ。あんたを害する存在は、もうこの場にはいないんだ 」
「だいじょうぶ? 」
「ああ。大丈夫。大丈夫だからな」
俺は凛の頭を両腕で包み込み、絹のような髪をすくように、優しく凛の頭を撫でた。
すると、凛の方から、俺を力一杯抱き締めてきた。
「ヴェェ!」
驚く俺。
あのう、これはいったい?
泣きじゃくる顔を俺の胸にうずめた凛は、嘘みたいな力強さで俺をガッチリホールドする。
柔らかくて熱い感触が俺の至るところに押し付けられる。
でも、ちょっと痛い。
色んな面でまずい絵面なので、俺は凛をやんわりと放そうとするが、凛は更に力を強めてそれを頑なに拒否する。
「ありっ、がとう。お兄ちゃん。ヒグッ、助けて、くれて、ありがとう。エグッ、本当に、ありがとうにゃ」
にゃーって、破壊力すごいな。すごいにゃー。
完全にメタパニった俺は、そんな事を考え平静を保とうとしていた。
やがて凛の力が収まり落ち着いたので俺は凛から離れる。
だが、凛は、なぜか表情に影を落としてうつ向いてしまった。
こんなおっさんに抱きついてしまった事を後悔したのだろうか。
だとしたら、申し訳ない。
「お兄ちゃんが、凛を助けてくれたのに。凛、怖がったりして・・・」
「ああー!気にしてない気にしてない。あれは当然の反応だ 」
凛の心はビックリするほどエンジェルだった。
そんなことを気に病まれても困る。あれは、俺の配慮不足なのに。
「とりあえず、腹減っただろ!飯食うか? 」
俺は強引に話の流れを変えた。
「ペヤングしか無いんだが、それで良ければ 」
そう言って調理済みのペヤングを凛に手渡す。
渡されたカップをまじまじと見て、ごくりと唾を飲み込む凛。
最初は遠慮するようにこちらをうかがっていたが、空腹も限界だったらしい。
「お兄ちゃん、いただきますにゃ」
そう言うと、驚くべき速さでペヤングを平らげてしまった。
傷の痛みとか無いんだろうか?
「おいしかったにゃー!」
「だろ?」
「ごちそうさまにゃー、お兄ちゃん」
語尾のにゃーは良いが、凛の俺に対するお兄ちゃん呼びはくすぐったくて仕方なかった。
「なぁ、俺には一応、大木 健人って名前があるんだ。お兄ちゃんってのはやめてくれないか? 」
「分かったにゃ!じゃあ健人お兄ちゃんだね 」
「いやいや」
「ん?どうかしたかにゃ?健人お兄ちゃん」
すごいな。何がすごいって、多分この人懐っこさが素なのがすごい。
どこかのあざとロリに見せてやりたいね。
ああー、本当に、今何してんだろ、あいつは。
って、また、思い出してやがる。
どうした?今日の俺よ。
俺は取り繕うように、タバコを取り出し、紫煙を肺に取り込み雑念と共に吐き出す。
すると凛が、その様子を凝視してきた。
あ、嫌煙家だったか。まぁ、未成年はほとんど嫌煙家みたいなもんだろうけど。
「健人お兄ちゃん。タバコ大丈夫?未成年だよね 」
あれれ、俺ってまだ未成年に見えますか?
髭とか生えてるけど。
ってか、凛って法律にきびしい系か。怒られるのかな、俺。
「未成年の内にタバコを吸っちゃうと、体の成長を妨げるって友達が言ってたにゃ。だから、大丈夫かなと思って・・・」
凛な俺の事を心配してくれているらしい。こんな天使のような美少女に心配されるとは。
嬉しくないはずがなかった。
俺は無言を決め込み、喫煙を再開した。どんなリアクションをとればいいか分からなかったのだ。
「友達。真姫ちゃん。あああー!」
突然凛が絶叫した。
「どうした? 」
「大変だにゃ!忘れてたにゃ! 」
忘れたって何を?
そう言おうとした時、突然家の玄関が開いた。
「はぁぁー!」
振り返って状況を確認しようとした俺の目に、血潮のような赤髪を揺らしたつり目の少女が、殺意を剥き出しにして俺にバットを降り下ろそうとする光景が写った。
鈍重な動きだったので、かわそうと思えばかわせるのだが、生憎俺はそれどころじゃあなかった。
「真姫っ? 」
決して出会うわけにはいかない人物がそこにいた。
本当に書けば書くほど才能の無さを露呈しているようで、自己嫌悪で潰されそうです。
まだ投稿してから一日もたってないですけど。
ですが、お気に入りにしてくださっている方の期待にこたえるために無才ながらも頑張ろうと思います。