Pipe dream ~とりあえず逃げ出してもいいですか~ 作:無農薬“Loser”無謀
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来週から中間テストなので時間が・・・
睡眠削るしかないか。
前話の長い回想は、しかし主人公の脳裏で展開された重々しさとは裏腹に、実際は刹那にも満たない時間での事だった。
つまりは、
「真姫っ!?」
と思わず叫んだ段階で、主人公の頭上50センチほどの地点に位置していたバットは、回想を経ても頭上30センチほどまでしか進行してきてはいなかった。
うん。
つまりは、結局絶体絶命である。
その具合が何%か上昇しただけで、主人公が大怪我を免れない結果になるだろう事に揺るぎが出るはずがなかった。
当然だった。
こんな事態に陥って尚、主人公は(やべぇ、思わず真姫って言っちまった。ば、ばれてねぇよな?)などと思考している有り様であり、何かしらの防御行動も取ろうとしていないのだ。
一方真姫の方も、頭に血が登り目の前が真っ赤な状態である。
主人公の叫びなど鼓膜にすら届いていない。
なので、それを止めたのは、勿論、凛だった。
「駄目にゃー!」
主人公より早く真姫の凶行に気づいた凛は、持ち前の運動神経を総動員して、真姫に飛び付いた。
「ヴェェ!」
カウンター気味の凛のダイビング抱擁(加減なしversion)をくらい、二人仲良く壁に激突した。
「ちょっと!何してるのよ、凛!」
早く体勢を整えなければ、あのヤクザからの反撃を許してしまうと、真姫は焦る。
「違うよ、真姫ちゃん」
「うるさい!いいからそこをどきなさい!」
「違うんだって!」
「違うって、何が違うのよ」
必死な様子の凛に、少し冷静さを取り戻す真姫。
ただ、その顔に貼られた傷を隠すガーゼやらを見ると、やはり再び感情が沸騰しそうになる。
(凛をこんな目に遭わせるなんて、ぜったい許せない!)
いや、待て。すんでの所で真姫はあることに気づいた。
凛は傷だらけじゃなく、それを適切に処置されているのだ。
それはおかしい。
なんで暴行を受けた後に加害者から治療されるのだ。
って、ことはつまり。
「お兄ちゃんは悪い人じゃないよ。お兄ちゃんは、凛を助けてくれたんだにゃ!」
真姫が到達した解答が正解だと、すぐに凛が告げてくれた。
真姫はそこで、ハッとしたように主人公を見た。
なぜか夜の室内でサングラスをかけ、布で顔を覆う銀行強盗さながらにハンカチを巻いて顔を隠そうとするもののの、ハンカチが小さいので落ちないように手でおさえている主人公を。
じっくりと見た。
やっと、存在を把握した。
そこからの展開は、兄妹の感動の再開的な事にはならなかった。
主人公もそれを望んでいる。
このまま、顔を見られなければ何とかやり過ごせる。
あとは読んでおいたタクシーで、この二人をとっとと帰らせればいい。
万が一、凛が自分の名前を覚えていても、それは真姫にとっては赤の他人以外の何者でもない名前である。
そうしたら後は、このアパートを引き払い姿を消してしまおう。
凛と真姫との接点はそこで途切れるはずだ。
そんな見当違いの事を主人公は考える。
彼は知らないのだ。
自分がどれだけ真姫からの好意を受けていたか。
2年前どれだけ真姫が自分の消失に心をなじられてしまったのか。
今現在どれだけ真姫が猛烈な既視感に襲われているか。
例えば。
真姫は、主人公の指を見た。
繊細そうな女爪の中で半分ほどの面積をほこる、くっきりとした大きく白い爪半月が、照明に照らされ輝いている。
あの人とそっくりだった。
あの人以外に見たことがなかった。
真姫は、主人公の服装を見た。
チェック柄の赤いジャケットを羽織り、息苦しそうに第一ボタンは止めるくせに、なぜか第二ボタンはあけるという稀有な着こなしを。
頑ななまでにチェック柄にこだわっていたあの人以外に、そんなボタンの止めかたをする人はいなかった。
他にも様々な箇所を見て、それ全てがあの人と全く同じであることを確認する。
というか、ここまで一致するのにあの人じゃない別人なんてことがあるのだろうか。
世界にはそっくりな人間が3人居ると言うけれど、それは外見だけ当てはまる事だろう。
流石に癖まで一緒ということは無い。
でも、だとしても、あり得ない。
だって、あの人は、2年前。
死んだ。
理不尽なほど呆気なく。
理不尽なほど唐突に。
理不尽なほど無惨に。
真姫の前から永遠に姿を消した。
駄目だ。何がなんだか分からない。
毛頭微塵もミジンコ程も理解できない。
死んだのに生きている。
生きているのに死んだはずだ。
わけがわからない。
「ウゥゥゥ!!」
「真姫ちゃん!?」
遂には頭を抱えてうめき始めてしまった真姫に、凛が慌てて声をかけるが、真姫は凛に意識をさく余裕なんて無かった。
悩み続けてどれほどたったか。
体感的には今日の一日より長く感じた。
やがて。
あ、そうか。
こんがらがった真姫の心は、あることに気づく。
私はまだ、顔を確認してないのだ。
この男があの人なのか、どうかはまだ分からないじゃないか。
顔以外の特徴が全て一致した、全くの他人かもしれないではないか。
そんなことは有り得ないことだろうけれど、でも、そんなこともあるかもしれないじゃないか。
(って、なんで私はそっちのほうを望んでいるの? )
もし、本当に。
この男があの人なら、“陸兄ぃ”だったのなら、それは決して+にはなれ-にはならない奇跡のはずだ。
むしろ、それを望まなければ。
真姫は目をつむり、呼吸を整え、心を落ち着ける。
奇跡を受け入れられるだけの強靭な心を作り出して準備を整えた。
そして、いざ、男のサングラスとハンカチを取り上げるために一歩を踏み出し、既に男が姿をくらませていることにようやく気づくのだった。
ーーーー
凛曰く、
「お兄ちゃんは、仕事が出来たとかいって急に出ていったよ 」
らしかった。
床には、無造作に投げ捨てられた諭吉が五枚。
二人がそれを拾うと、家の前に車が止まる音がした。
なんのことはないただのタクシーだった。
主人公が凛が寝ている間に呼んでいたもので、それらの説明は運転手から聞いた。
「早く女の子を帰らせないといけないからすぐに来てくれ。少し怪我をしているけど、妙な詮索はしないようにしてくれ。変に思い出させるような真似はさせたくない。とか何とか、変に注文の多いお客さんだったけど、今どこにいるの?お金払ってもらわないとこまるんだけど」
と、守秘義務も何も考慮しない運転手の不安は真姫が解消する。
真姫は主人公が残していったお金はそのままに、例の200万円の札束を運転手に見せたのだ。
まさしくセレブの所作だった。
急に腰を低くする運転手に呆れつつも、二人はタクシーに乗り込んだ。
その際に、「あの、ちなみにタクシーを呼んだ人ってなんて名前でしたか? 」と聞いてみたが、「大木 健人さんでしたね」と答えられた。
「そうそう!健人お兄ちゃんだよ!」
凛も笑顔で同意。
やっぱりそこは、稲光陸じゃあなかった。
大木健人。
真姫はありふれた名前のように感じるそれを、陸兄ぃが名乗りたそうな名前ねと、根拠もなく思った。
タクシーの行き先には西木野家を設定した。
「凛!あなた確か、親が海外旅行に行っててしばらく居ないって言ってたわよね? 」
「言ってたにゃ」
「じゃあ、今日は私の家に泊まりなさいよ。もう遅いし。私のパパもママも仕事でいないから 」
「えっ、真姫ちゃんの家に行けるの?やったー!ワクワクするにゃー」
ってな会話を経て。
移動中の車内で二人は互いの情報を照合した。
真姫が怒り狂って、バットを片手に主人公宅に乗り込んできたのは、別に簡単な話だった。
山南からの指定後、すぐに真姫は、家の金庫から金を用意してタクシーに乗り込んだ。
山南は言っていた。
早く来ないと、凛に危害をくわえると。
そのため、全速力で目的地へといそいだのだが。
山南から指示された場所には凛の姿が見えなかった。
「まさか?時間切れってこと」
真姫は凛の携帯のgpsを頼りに、居場所を特定して、街の奥の奥の一角に凛を見つけた。
こんな人気の無い所に凛を連れ込んで、今まさに暴行を?
最悪の光景が容易に想像できる。
真姫は激怒した。必ずかの外道を打ちのめし凛を救出せねばならぬと決意した。
奇襲をかければ私でも相手を昏倒させることはできるはずだ。
何としてでも凛を一刻も早く助け出す!
そこで真姫の目の前は真っ赤になり、都合よく落ちていたバットを片手にかの襲撃をかけてきたというわけだ。
まぁ、仮に、もし山南が本当にそのような情事に及んでいたとしたら、恐らく真姫も助からなかった。
山南の事を知らない真姫も、自分の行動の危険さが今は分かる。
後先考えずに突っ込むなんて自分のキャラじゃないのに。
それほどに、凛が自分の中で大切な存在になっていたのだ。
それは、真姫にとってはいつしか呼吸をするように当たり前の事で、故に意外な事のように感じた。
「真姫ちゃん。凛のために、そこまでして・・・」
「と、当然でしょ!友達なんだから 」
「真姫ちゃん、ありがとう!大好きだにゃー!」
「ちょっと!痛いって凛!抱きつかないでよ! 」
そう言いつつも、凛の無事を確かめるように抱きしめ返してくれる真姫。
そんな彼女の優しさに。
胸が熱くなって、暖かいぬくもりが心に染み入ってくるように感じて、今日の惨劇の記憶を解きほぐすように、凛の全身を幸せな何かが駆け巡り、すみずみまで満たしていった。
それが、さっき主人公に慰めてもらった時のそれと似ていたので。
嬉し涙を流すのと同時に、凛には説明できない不思議さが、ぬくもりと一緒に彼女の心に溶けこんだのだった。
真姫の家についた。
「やっぱり真姫ちゃんの家は豪邸だにゃー!」とはしゃぐ凛はとりあえずお風呂を借りて。
その間に真姫は凛の寝巻きを準備する。
そろそろ遅い時間だ。
二人とも眠かったので、凛が風呂を上がると、真姫もささっと入浴を済ませて二人して寝室へ向かう。
真姫の自室である。
部屋に入る前に真姫から一言。
「凛。そこに座りなさい 」
廊下を指して座れと命令する。
「座るってなんで? 」
「いいから早く座りなさい! 」
「はっ、はい!」
真姫の原因不明の憤慨に、凛はあわてて従う。
「凛。寝る前に一つ聞いておくわ 」
「な、なんですか? 」
「秋葉原ならともかく、あの街は特に治安が悪いのを、凛は知らなかったの? 」
「知ってたけど、ラーメンが食べたくて」
「ふざけないで! 」
凛の背筋がビクッとのびる。
「あの街は夜に女子一人で、気軽に出歩けるようなところじゃないのよ!現に今日だってこんなことになったし 」
「ごめんなさい 」
「だから約束して。絶対に一人であそこにはもういかないって 」
「はい 」
シュンとする凛。
真姫は怒りをおさめて語りかけた。
「それでもあなたはラーメンが大好きだものね。美味しいラーメン屋さんがオープンでもしたら、もしかしたらまた、誘惑に負けてあの街に行っちゃうかもしれない 」
「否定できないのが辛いにゃ。です 」
「だから、その時は私を誘いなさい! 」
「それって? 」
「私なら、行きも帰りも安全に手配できるから。それに、たまにはあなたとラーメン食べにいくのも、良いかなって思わないでもないし 」
「真姫ちゃん!」
「さぁ、話はここでおしまい。今日はもう寝ましょう 」
「はい! 」
にゃーっと元気よく立ち上がる凛を連れて部屋に入り、そのままベッドに彼女を寝かせる。
電気を消して。
そして、当然のようにモソモソと凛の隣に入る真姫は、ギューっと彼女を抱擁する。
「真姫ちゃん!?どうしたの 」
夏なので、そこまで密着されると暑くてとても寝苦しいのだが、真姫はそんなことお構いなしに、凛の体を全身で固定する。
「今日は絶対に凛から離れない。そうしないと、凛がどこかに行っちゃいそうで不安なの 」
そう宣言するものの、五分もしないうちに真姫は寝息を立て始め、力をゆるめてしまった。
すぐに凛も、真姫の熱い体温を肌で感じながら、心地良く眠りにつくのだった。
やっぱりプロットとか作らないと駄目なのか。
そう思わないでもないです。