俺―――天馬は、沖縄でのサッカー教育プロジェクトを終えて、稲妻町へと帰ってきた。
そして、今日から新学期。子供たちとのサッカーも楽しかったけど、皆とのサッカーがとても楽しみで仕方がない。
サッカー部のみんなに会えると思うと、わくわくする。・・・ところが
「あれ?第2グラウンドが・・・」
サッカーコートのあった第2グラウンドが、野球部の練習場へと変わっていた。
「・・・まぁ、サッカー塔があるし」
そんなに深く考えず、俺はサッカー塔へと向かった。
―――音楽室から、どこかで聞いたことのあるようなクラシック音楽が、流れていた。誰がひいているのかは分からないけど。
しかし、サッカー塔はもっと変だった。
「皆ー、ただいまー!なーんてねっ!」
サッカー塔の中には、サッカーグラウンドなんてなかった。あるのは、バスケやバレー、柔道の練習場。どうしたんだろう?
不思議に思い、近くのバスケ部部員に聞く。
「あの、すいません。サッカー部の部室、知りませんか?」
「はぁ?サッカー部?」
「はい。だってここ、サッカー塔ですよね?サッカー部専用の」
この何気ない問いかけに、まさかあんな答えが返ってくるとは。俺は、予想していなかった。
「何言ってんだよ、サッカー部はここにはねぇよ」
「え・・・ないって・・・部室の場所が、移動したんですか?」
「してねぇよ」
「じゃあ、サッカー部はどこですか?」
「だからよぉ!」
俺は、ちょっと腹が立った。なんで、皆教えてくれないのだろう?神童先輩や、剣城、楓も見つかっていない。
「ちょっと、教えてくれてもいいじゃないですか?」
「お前なぁ!」
なんでかわからないが、俺が怒られる羽目になっている。一体全体、どうしてしまったのだろう?
バスケ部部員と別れて、俺はとりあえずサッカー塔?を出る。
渡り廊下に出て、ため息をつく。
「皆ひどいよなぁ・・・サッカー部の場所が移動したんなら、教えてくれたっていいのに」
また下を見ると、思わず笑顔になる。―――はじめて、サッカー部の部員である、神童先輩を見つけたからだ。
「神童キャプテン!」
後ろから、大きな声で叫ぶ。すると、神童先輩は反応してくれたが、不思議そうな顔をするばかりだった。
「キャプテン!よかったぁ!誰もいなんで焦りましたよ~」
「キャプテン?俺がか?」
あ、そうだった。
「キャプテンは俺ですよね~。すいません。でもみんな、どうしたのかと思って」
苦笑してみるが、神童先輩はやっぱりよそよそしい。それどころか、さらに困惑を深めたようだった。
「サッカー部の場所とかかわったのかと思って。一体何があったんですか?」
そう聞いてみると、先輩はこっちに向き直った。
「サッカー部?何のことを言ってるんだ?」
不思議そうな顔で、俺の顔を見る先輩。
「サッカー部の場所もそもそも、この学校にはサッカー部はないじゃないか」
「・・・エェー!?」
・・・と、リアクションを取ってみる。でも、そんなのウソだ。サッカーの名門校なのだから。
「・・・って、そう来るんですか?これ何のドッキリですか?もう冗談はやめてくだs――」
「勘違いしているようだが、」
神童先輩は、いたって冷静に俺に告げる。
「俺は音楽部の神童拓人だ」
「え・・・冗談、ですよね・・・?」
尋ねると、迷惑そうな顔をして、立ち去ろうとした。
「転校せいなのか?残念だが、サッカー部に入りたいんなら、他の学校に行くしかないな。じゃ」
背中を向けた時、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。
「神童先輩っ!」
神童先輩が振り返り、立ち止まる。
「あぁ、楓か。どうしたんだ?」
「いえ、如月先輩から頼まれたんです」
「会長から?」
俺は、その場に立ち尽くす。楓も、俺に見向きもしない。本当にどうしてしまったのだろう。不安になった時だった。
「てn―――松風君は、なんでここにいるの?神童先輩に用?」
「か、楓・・・俺のこと、覚えているの?」
楓は、不思議そうな顔をする。
「覚えてるも何も、松風君はクラスメイトじゃない。クラスメイトはもちろんよ」
「あ・・・そうだよね」
俺の悲しそうな顔を見て、楓も悲しそうな顔になった―――気がした。
2人と別れた後、他の先輩や1年生にもあった(剣城にはあわなかった)けど、皆俺を覚えていなかった。
信助も例外じゃなかったが、葵は覚えてくれていた。幼馴染だからだろうか?
しかし・・・
「私たちは、書道部でしょ!」
・・・本当に、どうなってしまったのだろうか。
ため息をついて、河川敷から川を眺める。
「一体どうなってるんだ?皆サッカー部だけじゃない、サッカーも忘れてしまっている」
本当にどうしてしまったのだろう。そんな時だった。
「あ、松風君」
「・・・楓」
鞄を持った楓が、近くになっていた。ホーリーロードの時期は、前髪をポンパドールにしていたが、今はおろしている。きれいな長い黄髪はそのままだ。
「どうしたの?さっきから、変だと思ってたんだけど」
「うん・・・楓も、俺とのサッカーの思い出、忘れちゃった・・・んだよね?」
苦笑してみると、楓は俺の横に座った。そして、黙りこくった。
「えーっと、楓・・・?」
「・・・じゃない」
「え?なんて言った?」
「忘れるわけ、ないじゃない!」
座ったと思ったら、涙目でいきなり立ち上がった。俺は、相変わらず混乱するばかりだ。
「楓・・・覚えてるの?」
「・・・当り前よ。忘れるわけないわ。でも、皆が忘れているのは本当。理由はね―――」
そこまで言いかけた時、俺たちの目の前に紫の髪の男が現れた。楓はそいつのことを見て、一気に険しい顔になる。
「アルファ・・・」
「山吹楓、忘れていなかったのだな」
「当り前じゃない。忘れるわけないわよ。今日は何をしに来たの?天馬と私から、サッカーを消去しに来たの?まだ不完全なのね」
俺は、話についていけない。
「楓、こいつは・・・」
「こいつはアルファ。皆からサッカーを消したのも、こいつよ」
その瞬間、俺の中で怒りが広がった。・・・皆、サッカーが大好きだったのに・・・こいつが、サッカーを消去したのか・・・。
俺の中で、少しの疑問が生まれる。
「・・・楓は?」
「私?・・・私の精神力、なめない方がいいわよ」
かっこよく笑う楓に、少し安心する。
でも、怒りは収まらない。
「サッカーの完全消去・・・そんなのさせない!」
俺が叫んだ瞬間、アルファは何かを取り出して、冷淡な声で言う。
「No、拒否権はない」
そういった瞬間、ボールが出てくる。そして、俺と楓は階段から足を踏み外す。しかし、アルファとともにまばゆい光に吸い込まれて―――
―――その場には、俺と楓の鞄だけが残った。