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サッカー禁止令のニュースは、瞬く間に日本中に知れ渡った。もちろん雷門サッカー部にも。
「ひどいことをしたらしいな、奴らは」
京介のその言葉。私が悪いわけじゃないと、総理は十分なほど言ってくださったけど、それでも・・・。
「楓?どうしたんだ?」
「え・・・」
ハッとして顔を上げれば、みんなが私を見てる。京介が覗き込んできて、その後ろには天馬とフェイが不安げな表情を浮かべていて。
「・・・ううん、何でもないの。だって、しょうがないよね、あんなことしたんだし・・・」
昨日、古坂さんから聞いた話を思い出す。―――日本代表が暴力なんて、振るうはずがない。そう、正しい日本代表なら。
でも、よく思い出してみれば、私はそのことを知らなかった。うっすらと私の記憶に残っていたのは、素晴らしい日米親善試合だったはず。忙しくてニュースで聞き流した程度だったけど。大好きなサッカーのことで聞き流すくらいだから、よっぽどだった。
私の記憶が素晴らしいものなら、きっと天馬たちの記憶も・・・。
「待って、楓、どういうこと?」
「・・・天馬、神童先輩、信助、ちょっと来て」
軽く手招きして、3人を呼び寄せる。
みんなが怪訝な顔をしているのに気づいていたが、それでも今話すしかない。
小さく円になって、小声で話しかける。
「楓、どういうことだ?」
「昨日、運転手さんに聞いたんですが、サッカー日本代表は、アメリカ代表に暴力行為などを行ったそうです」
「そんな!そんなわけないよ!」
「えぇ、私もそう思う。それってつまり・・・」
「奴らがやった、ということか」
神童先輩のその言葉は、確かに核心をついていて。小さく、けれどはっきりとうなずく。
「楓、どうしたんだ?」
ポン、と京介に肩を叩かれて、くるりと振り返る。いきなり振り返って驚いている京介に頭を振る。
「こっちの話。なんでもないの。それより、これは・・・」
私が本題に入ろうとした、まさにその瞬間。みんなの目の前に参上した怪しげな水色のくまのぬいぐるみ。一応、皆これが初対面ではないはず。
円堂さんは、歴史上では少年時代に一度会っていることになっているが、果たして覚えているのか。春奈さんだけは初対面だからか、顔が引きついっている気がしないでもない。
くまのぬいぐるみ―――ワンダバは、自信たっぷりに胸を張る。
「これは!エルドラドの仕業に違いない!」
やっぱり・・・。ワンダバの考えとも一致した。
ここで、ワンダバは春奈さんに自分とフェイの紹介をする。
「怪しいものではないぞ!」
そんな単語が聞こえてきて、思わず苦笑する。怪しいものではないと言われると、余計怪しく見えてしまうものなのだけど。
ちなみに話の内容についていけているのは、茜さんただ1人。さすがSF3級。
ここで円堂さんも、かつてワンダバとあっていたことを思い出したらしい。そりゃあ、こんな目立つくまのぬいぐるみ、忘れるわけがないだろう。少なくとも私なら。
しかし、このままではらちがあかない。記憶が違っていることや、そういうことは確かめてみる他ない。
「とりあえず、その試合を見てみませんか?」
「そうだな、見てみよう」
神童先輩のそのセリフに、ほかのメンバーが一瞬顔をしかめる。それほどまでにひどい試合だったのだろうか。
「・・・そうだな、見てみよう」
円堂さんが、しばしの間の後、渋々といった様子でテレビにその試合を流す。
―――私や天馬たちの記憶では、3-2で日本代表の勝利という、素晴らしい試合だった。果たして、こちらの現実では、どうなっているのだろう。
テレビに映し出されるメンバーを見て、思わず言葉を失う。
私たちが見ていた日本代表ではない。子供のようだ。そう、子供だ。
「これって、奴らじゃないか!」
天馬がたまらず叫ぶ。私も大きく首を振る。
「そうね。・・・にしてもひどい・・・」
暴力、暴力、暴力・・・。まるでサッカーの試合じゃない。これでは、禁止令が出されても仕方がないかも知れない。この結果は、日本のサッカーを侮辱したもも同然だ。ふつふつと怒りが沸いてくる。
ほかのメンバーは顔をしかめている。生放送で見ていてもイライラしていただろうに、また見させられているんだ。怒りがわかないわけがない。
「・・・にしても変ね」
怒りをどうにか抑え、別の疑問をぶつける。
「楓、どういうことだ?」
「神童先輩も思ってるんじゃないんですか?なんで、私たちとほかの人たちの記憶が違うのか、と」
「そうだな。俺も思っていた。根本的に、そこがまずわからない」
考え込もうとする私たちに、ワンダバが声をかけ、気づけば目の前に―――変なおじさんがいた。
クロスワード・アルノ博士。ワンダバと同じくらい怪しげな老人だが、実はタイムマシンを開発したというすごい博士らしい。・・・怪しいが。
アルノ博士の話は、分かりやすいようでとても難しいものだったが、つまり、こういうことだ。
「つまり・・・時の流れとは本来は一本だけど、人為的に別の世界―――パラレルワールドを作り出すことが可能で、今回の事象はそれにあたる、ってことですね。例えば、優一さんと一緒に戦ったこととか。パラレルワールドには、増加した平行世界が爪弾いたギターの弦のように、再び一つに戻ろうとする特性がって、そして一つに収斂した世界以外は、歴史から消えてしまう・・・そして今回の場合、タイムジャンプして別の世界に存在していた私たちは、本来の世界に起こったインタラプトの影響を受けることなく、つまり記憶の上書きもされることなく現在に至った・・・ということですね」
「そういうことじゃ」
私の他に理解したのは茜さんくらいで、茜さんは興奮気味にキャッキャいっている。その聡明さをアルノ博士は褒めている。
そうなると、かくなる上は・・・
「みなさん、取るべき行動はもうわかってますよね?」
私のその言葉に、天馬たちが頷く。話は理解できなくても、取るべき行動はわかるらしかった。
「私はサッカーのない世界なんて嫌です。だったら、タイムジャンプをして、サッカーを取り戻しましょう!」
「それしかないな!」
「だね!」
神童先輩と信助も頷く。アルノ博士も、大きく頷いている。
天馬も頷いて、ほかのメンバーも気持ちは同じらしく、サッカーを取り戻すことに反対はしていない。
心が1つなら、もう迷うことはない。私たちの手で、サッカーを取り戻すまでだ。