あれから数週間の時間が経った。
あの後の白銀はある意味真剣に悩み、考えたことがあった。
――――――――――転校しようかな
転生してはや一ヶ月ちょっと、その間、無事に生きてはいるもののどれもこれも日常からかけ離れた出来事が多くあった。突然襲われることになるは、意識が時々なくなるは、人?を殺しかけるはで、正直、『自分に善からぬモノでも憑りついているのでは?』と考えるほどにだ。そこで白銀が考えたことはこの駒王町から離れ、別の場所で生活をすることだった。だが、それには大きな問題が幾つもある。
一つ目に金が無いのだ。引越しをするにしろ、住む場所の家賃にしろ、転校手続きにしろ、余りにもお金が不足していた。これらの総額は払えないことはないのだが、それでは今後の白銀の生活に大きな支障をきたすこととなる。それは白銀の許容範囲外だった。
二つ目に転校するにも他の学校に転校を受け入れてもらえなかった。それについては白銀も散々抗議したのだが、相手側からはNOの一点張りだった。白銀の成績自体は悪くなく、むしろ上位に位置する程の成績を持っている。転生前は大学生だったので当たり前と言ってはあれだが、それでも白銀の成績自体は悪くなかった。にもかかわらず、どこの学校にも転校を受け入れてもらう事が出来なかった。まるで外部から何かしらの力が働いているかのように。
以上の事から白銀は駒王町から離れることができなかった。
白銀は学生と言うのをやめ、一足早く社会人として生きていくことも検討したが、高校中退した人間が、まともな職に就けるわけがないと考え、仕方なしに駒王学園に通い続けることにした。
そのうえで、将来の事も考え、白銀は金銭面的な問題が多いことを考慮し、バイトのシフトの量を増やし、地道に貯金することにした。全ては自身が平穏に暮らすことができるようにと。
もう一つ、白銀はマガジンについていくつか考察を立ててみることにした。白銀が呼び出したキャラクターで、現在把握できているのは乱丸と捜し者だけだ。まずはこの二人の共通点を探してみることにした。そこでいくつかの共通点を発見した。どちらも主人公との戦いに敗れ、その上で死亡している。更にどちらも主人公の敵キャラとして登場している。そして、どちらのキャラクターも剣術に心得がある。これだけでは、何も見当がつかなかった白銀だが、一つだけ、仮説を立てた。『自分が呼び出せるキャラクターは敵側だけなのではないか』っと。今のところ、どちらも敵役として、作品に登場している。白銀自身、まだ二人しか呼び出していないと言うのもあり、確証は全くもてないが、それなら乱丸と捜し者の言っていた言葉に説明がつく。様々な敵キャラを呼ぶことによって、白銀自身の考え方、人格が変化していき、『善』から『悪』に変わっていくのではないかと。それなら人格の歪み、人格の崩壊と言う言葉にも納得がいく。だが、これは確証のあることではなく、あくまで一つの仮説だ。
それはさておき、彼は今バイトをしている最中であった。
「カフェラテとケーキのセットお一つ、ホットケーキとアイスコーヒーのセットをお一つでよろしいですね?」
最近になって随分と様になってきた。注文の取り方も随分とスムーズになったものだ。最初の頃は厨房で商品を黙々と作っているだけの方が多かったが、店長からフロアの仕事を頼まれ、渋々フロアでの仕事もするようになったのだ。白銀は知らないことだが、店長曰く、白銀がフロアで仕事をしていると、客の入りが上がるそうだ。
暫く働き、一段落ついたなと言うところで、白銀は最も関わりたくないと思っている人物の一人と出会った。いや、正確には来店されたと言うべきだが。
「……どうも」
「………いらっしゃいませー」
来たのはこの店の常連である塔城小猫だった。白銀は一瞬、警戒した表情になるが、すぐに切り替え、できる限り笑顔を浮かべて挨拶をする。
今まで2人が鉢会わなかったのは一重に塔城が時間帯の調整していたからだ。でなければお互い、数週間もの間、出会わないはずがなかった。
白銀は一先ず冷静になり、マニュアル通りの対応をこなす。これが普段ならもう少し親しく、話し方もやわらかかっただろうが、今はそうはいかない。今の白銀にとって彼女は警戒対象でしかない。誰でもいつ爆発するかわからない爆弾が近くにあるなら、警戒しないわけはないだろう。
「では、メニューが決まり次第お声がけください」
白銀はマニュアル通りにこなし、その場からすぐに離れ厨房に逃げ込む。その行動は塔城を避けるためだという事は明白だった。
その事実に、塔城は少し表情を曇らせる。あの事件は明らかに塔城たちが悪く、白銀に非はない。確かに白銀は木場に手を出したが、それは正当防衛にすぎない。むしろ、傷を付けずに加減をされたことに感謝すべきはずだ。何しろ彼女たちは仕掛けた側なのだから。
それからしばらくして、塔城は注文を行う。それと一緒に店員に一つ頼みごとをした。
「失礼します。私に何か御用でしょうか?」
私、塔城小猫は後悔しています。あの時、この人を少しでも弁護していたらっと。
普段とは違い、距離の感じる事務的な話し方。その事に私は悲しく感じ、デザートはおいしく感じませんでした。当然と言えば当然です。私達は急に彼に襲い掛かったんですから。警戒したりするのは当たり前です。だから、私は彼に謝りたかった。だけど、部長から彼と接触することは禁じられていたので中々謝りに行くこともできませんでした。ですが、今日は部長も冥界に戻っているので監視の目もありません。謝るなら今だと思い来たわけですが、ああも他人行儀に話されると謝りづらいです……
「あの……」
「………」
無言でこちらを見る視線は凄く警戒していることが分かります。正直、それだけの事をしたのでそう思われても仕方ないですが、なぜかすごくつらい気持ちになります。まるで危険な物を見るような視線。それがたまらなく、辛いです。
「……すいませんでした」
私は意を決して彼に謝罪しました。謝っても許されることじゃないかもしれません。でも、謝らずにはいられませんでした。もしかしたら二度とこの店に来るなと言われるかもしれません。それは凄く、すごく嫌なことですが、仕方ありません。
「それは何に対してですか?」
彼の視線は冷たく、訝し気にこちらを見ていた。今まで謝りもしなかったのに、今更何を言っているんだと言うような視線です。
「その……数週間前に、襲い掛かってしまったので」
「ああ、その事ですか。気にしていないので結構ですよ」
嘘です。話し方も事務的ですし、何より警戒している視線は変わっていません。
「あの時、私が止められることができればよかったんですが、本当にすいませんでした」
白銀さんは大きく息を吐く。
「あ~……もういいよ。今後は気を付けてくれればいいから」
白銀さんは困った表情で頬をかきながら笑う。いや、苦笑いかも知れない。
「塔城さんが襲ったわけでもないんだからさ、もう気にしなくてもいいよ。気を使われもこっちも困るし」
謝るつもりだったんですが、逆に私の方が気を使われちゃいました。ほんと、この人は優し過ぎると言うか、どこか抜けていると言うか。
白銀さんはその後、仕事に戻られましたが、暫くしてから私の席にケーキを持ってきてくれた。
「僕の奢りだから。気にせず食べてね」
私は断ろうとしましたが、すぐに行ってしまいました。
その後、白銀さんが持ってきてくれたケーキは今まででこの店で食べた物の中で一番おいしかった。