後悔はしない、後悔はしない、後悔はしない……でも、これから
全速力であの場から逃げた僕。それにしても、この刀は何処から出てきたんだろ?木場祐斗の剣を綺麗に斬れたことから模造刀じゃないことはわかる。問題はこの剣が何処から出てきたかだ。それにこの刀、どこかで見たことがある形何だけど。ダイヤの形の鍔の刀……
僕が考え込んでると後ろからトントンと肩を叩かれる。まさか彼女らが追ってきたのかと身構えるが――――――――――
「ちょっとごめんね、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
――――――――――警察官だった。
れれれ、冷静になれ!僕!
警察官が聞きたいこと?なんだ?僕は何も可笑しい事はしていないはず!聞かれて困るようなことは何もないはずだ!
「はい、何ですか?」
僕はできる限りポーカーフェイスを装い、警察官に返答を返す。
さあ、何でも聞いてくるがいい!僕に聞かれて困るようなことは――――――――――
「その手に持ってるものは何かな?」
―――――――――ありました
「む」
「む?」
「無実だぁぁぁ――――――!?」
僕は再び逃走を始めた。
「はぁー、はぁー……そんなに体調良くないのに、何でこんなに走らないといけないんだ?」
僕は警察官を撒き、息絶え絶えになりながらバイト先に向かっていた。
「本当、あの警察官滅茶苦茶しつこかった。逃げるのに苦労したよ」
『逃げずに斬り殺せばいいだろう』
「いやいや、そんな事したら駄目だから。普通に殺人罪に問われるから」
『今の世は人一人斬ることも許されないのか』
「いや、今の世っていつの時代の人?」
………ちょっと待て
僕は今一体誰と話をしている?今僕の周りには誰もいないはずだ。にもかかわらず僕は一体誰と会話をしている?
僕はギギギッと錆びついたロボットのような音が出そうな程ぎこちない動きで後ろを見る。
『俺の時代では人一人殺したところで特に問題はなかったんだが』
そこにいたのはマガジン、我間乱に登場する伊藤乱丸だった。
僕はゴシゴシと目を擦る。きっと目が疲れているんだ。もう一度目を開けた時、いつも通りの光景が見えるはずだ。
よし、ばっちこい!
『おい、刀はもう少し丁寧に扱え』
……目の疲れのせいじゃなかった。
「いらっしゃいませー」
あれから僕はとりあえずバイト先に向かった。乱丸に聞きたいことが幾つもあったが、生憎と出勤時間が迫っていて時間が無かった。今は仕事に取り組みながら小声で乱丸と会話をしている状態だ。
「つまり乱丸はマガジンによって呼び出されたってことか?」
『ああ、どのような絡繰りはわからないが、俺はその書物から呼び出された』
此処までわかっていることはいくつかある。
一つ、乱丸の姿は僕にしか見えない。
二つ、あの刀は乱丸の刀らしく、乱丸がいる間は自由に出し入れできるらしい。
三つ、呼び出した乱丸は現世に関与できない
四つ、マガジンによって乱丸は呼び出されたらしい
以上が今僕が理解していることだ。
「僕がさっきの戦いであそこまで自然に動けたのは」
『気は進まなかったが、少し操らせてもらった。お前に解りやすく説明すると幽霊が乗り移ったと考えろ』
何それ怖い
まあ、おかげで生きていられるんだから感謝しないと。
『それにしても残念だ。陣介さんがあれほど武を世に示したと言うのに、先程の剣士のような奴がいるとは。あの程度の腕で剣を握るなど片腹が痛い』
あー、やっぱり乱丸って陣介至上主義者何だな。読んでて解ってたけど、乱丸って本当に陣介に忠誠を誓ってたんだな。
「ひとつ聞きたいことがあるんだけどいい?」
『何だ?』
「今の僕の眼って
これが今一番聞きたいことだった。僕の考えが正しければ僕の眼は乱丸と同一のモノになっているはずだ。そうでなければ、武術の心得も何もない一般人の僕が、紙一重とはいえあの剣戟を躱すことができるはずがない。むしろ紙一重で躱すことができたからこそ、この可能性に辿り着いた。
『正直かなり不服なことだが、お前の眼は俺の影響で同一のモノとなっている』
やはりそうか、あの眼があるなら昨日から調子が悪かったことが納得できる。僕のような一般人にあれほど高性能な眼が突然備わって、身体がついて行くはずがない。始末屋春人が突然異能を得た時と同じだ。膨大な力に身体が追いついていなかったんだ。だからこうも調子が悪かったのか(違います)
そんな僕に乱丸は更に爆弾発言をする。
『癪なことだが、俺を呼んだことによって俺の力がお前にも使う事ができるようになっている』
それって、あれですか。僕の眼は今後元の眼に戻ることはなく、我間乱トップレベルの身体能力を無条件で手に入れてしまったってことなのか?
「じゃあ、僕の今の身体動作能力は」
『俺とほぼ同等と言ってもいい』
ま、マジかよ!とんでもないモン手にしてしまったぞ!僕はマガジンを読めればいいだけなんだ!こんなとんでも能力は欲してない!って待て。
「ほぼ同等って、どういうこと?」
『簡単なことだ。お前は今まで槍を握ったことが無いのに槍術を扱う事が出来るか?』
「そう言う事ね。要は剣術も何も知らない素人に名刀を持たすようなものか」
『その通りだ。お前が俺の力を使えるようになったとしてもそれはお前が培ってきたものでは無い。お前が俺の力を十全に扱う事は現状不可能だ』
そう言う事か、まあ納得っちゃ納得だな。と言うか当然の事だな。
『刻限が迫りつつある。俺から助言を一つしておいてやろう。不用意に俺のような存在を何度も呼ぶことは控えておけ。お前の人格が歪められていくぞ』
「はっ?ちょっとその話を詳しく!」
僕は乱丸を問い正そうとするが、そこに乱丸の姿は居なかった。