ソードアート・オンライン-君と共に在るために- 作:ちぇりぶろ(休載中)
今回でSAO編は終了です。
ここまで読んでくださいましてありがとうございました。
次回からはALO編に移りたいと思います。
では、どうぞ!
2024年11月07日 13時15分 第75層 ボス部屋
あれからどれくらい時間が経ったか知る者はいない。
時間すら気にしてられない程に攻略組の面々は余裕など持ち合わせていないからだ。
7本あるHPバーの内3本は消えていたが、まだ後4本ものHPバーが残されている。
傍から見たらこんな途方もない持久戦にため息が出てしまう。
斬っても斬っても斬っても…スカルリーパーのHPは数ドットずつしか削られないからだ。
相変わらずスカルリーパーの動きはヒースクリフとオレ、ユウキ…、キリトとアスナで対処している。
残り全員は側面からソードスキルでスカルリーパーに攻撃を続けている。
ユウキ「ハァ…ハァ…」
シュラ「クソチビ!!一旦退きやがれ!!」
ユウキ「…大丈夫!まだやれる!!」
ユウキは鎌をパリィした後、懐へと入り込みソードスキルを叩き込む。
そして、攻撃が来たらシュラと一緒に防御する。
先程からこれの繰り返しでユウキの集中力も切れ始めている。
ユウキだけではない。攻略全体が疲労感を漂わせていた。
タクヤ『まずい…!!シュラ!!一旦オレに代わって休め!!』
シュラ「ふざけんな…て言いてぇ所だが、流石に頑丈だな…」
オレとシュラは人格を入れ替え、シュラを休ませる事にした。
タクヤ「ユウキ!!」
ユウキ「タクヤ…?どうし…」
オレは間髪入れずにユウキを抱き上げ、前線から離脱する。
このままやってもジリ貧だ。何か作戦を考えなくては…。
タクヤ「とりあえずこれ飲んどけ!」
オレはポーチの中からポーションを取り出し、ユウキに差し出す。
流石にこのままじゃやばいと思ったのかユウキは素直にそれを受け取った。
キリト「タクヤ!!ユウキ!!」
タクヤ「こっちは大丈夫だ!!…にしてもどうしたもんか」
アスナ「このままじゃいつか均衡が崩れる…!!」
ユウキ「何か…良い手は…」
あんなでかい図体ではありえないようなスピードでオレ達を襲ってくる為、攻撃に転じようにも迂闊に手が出せないでいた。
タクヤ「…キリト、アイツの足を全部斬り倒す事って可能か?」
キリト「…出来なくはないが、どうする気だ?」
タクヤ「じゃあちょっと見本でも見せてやるよ…!!」
オレは勢いよく地を蹴り、スカルリーパーに突撃する。
スカルリーパーがオレを認識する前に闘拳スキル"双竜拳”を発動させた。
両鎌がオレ目掛けて振り下ろされるが最高速の今のオレにとっては躱す事はなど造作でもない。
オレはその加速力を利用して何本もある脚の4本を力任せに砕いた。
荒々しい悲鳴をあげながらスカルリーパーは防御の体勢に入る。
タクヤ「みんな!!可能な限り脚を重点的に狙え!!
コイツの動きを止めるんだ!!」
オレは指示を終えると再度脚を破壊しに走り回った。
他のみんなも脚を重点的に狙い始め、スカルリーパーは苦痛な表情を浮かべながら必死に抵抗する。
だが、四方から脚を破壊されている為、上手く立ち回れないらしくいつしかスカルリーパーの動きは鈍くなり、HPバーも1本削れていた。
キリト「相変わらず無茶苦茶だな…」
アスナ「キリト君が言えた事じゃないでしょ」
ユウキ「ボク達も行こう!!」
さらに、ユウキ達が加勢しさらに脚の破壊が進んでいく。
ヒースクリフも両鎌を防ぎながら脚へと剣を突き立てている。
タクヤ(「アイツ…!!防御だけに専念すりゃあいいものを…!!」)
オレが予期した通り、ヒースクリフにヘイトが集中的に溜まり、スカルリーパーの攻撃を受ける。
盾越しでもダメージが存在し、決して少なくないHPが削られる。
タクヤ「あのバカがっ!!」
オレは見ていられずヒースクリフの元へと駆けた。
ヒースクリフ「!!」
タクヤ「1人で何でもやりすぎんな!!死んじまったらどうする!!」
ヒースクリフ「ふ…君が私の心配をしてくれるとは思わなかったよ…」
タクヤ「減らず口がっ!!」
オレは闘拳スキル"波動拳”を両鎌に撃ち、スカルリーパーの攻撃を抑える。
ダメージが蓄積している今なら1人でもなんとかいなせる。
キリト「2人が攻撃を防いでる内に全員でアタックだ!!!!」
「「「うぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」
一斉にソードスキルが発動し、エフェクトがスカルリーパーを包み込む。
ユウキ「やぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
ユウキの絶剣スキル"マザーズ・ロザリオ”がスカルリーパーの眉間へと貫く。
キリト「うぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
キリトの二刀流スキル"スターバースト・ストリーム”がスカルリーパーの胴をはげしく斬り刻んでいく。
アスナ「はぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
アスナの細剣最上位ソードスキル"フラッシング・ペネトレーター”が残り数本の脚を完璧に砕く。
残りのHPはあと僅か…オレは最後の攻撃にシュラの人格を加えて繰り出す。
シュラ『行くぞぉぉぉっ!!!!』
タクヤ「うおぉぉりゃぁぁぁぁぁっ!!!!」
修羅スキル×闘拳スキル"双竜拳×孤軍奮闘”
オレが使える中で最強の組み合わせによる最強の攻撃はスカルリーパーの額に命中し、そこからエフェクトが波のようにスカルリーパーを巻き込む。
HPを削り続けながらオレは右拳に全てを託し、貫く。
そして、スカルリーパーの頭蓋骨を粉砕した。
と同時にスカルリーパーの体が粉々に砕け散り、やがて、ポリゴンへと姿を変えて天に昇っていった。
Congratulations
タクヤ「…よっ…しゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
「「「うぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」
ついに死闘を乗り越え75層のボスであるスカルリーパーを撃破したのだった。
だが、やはりみんな、相当の体力を消耗しているようでその場に座り込んだり倒れたりしていた。
かく言うオレも孤軍奮闘の
エギル「…何人殺られた?」
タクヤ「!!」
キリト「…13人だ」
その現実は歓喜に包まれようとも決して消える事はない。
この勝利だけの為に多くのプレイヤーが犠牲になったのだ。
タクヤ「…くそっ!!」
ユウキ「タクヤ…」
エギル「本当にオレ達は生きてゲームクリアなんて出来るのかよ…?」
確かに、これから先も1度のボス戦でこれだけの犠牲者を出していけば100層に辿り着く頃にはたった1人という事になってもありえない話じゃない。
そして、その1人にはおそらく今なお余裕とは言えずとも1人だけHPがグリーンで止まっているヒースクリフだけだろう。
タクヤ(「助けに行くまでもないってか…」)
後々考えてみればヒースクリフには絶対無敵の"神聖剣”がある。
キリトの二刀流やオレの修羅スキルでもまったく歯が立たなかった。
なら、例えクォーターポイントであろうとこの男には関係ないのだろうか。
クライン「すげぇな…HPがグリーンで止まってやがる。
みんなイエローやレッドになるまで削られてるって言うのに…」
タクヤ「…みんな?」
オレは頭の片隅で何かが引っかかったような感覚に襲われた。
よく考えてみればおかしい。
何故、ヒースクリフのHPはグリーンで止まっているのだろうか。
あれだけ集中的にボスの攻撃を受けていて何故その程度のダメージしかないのだろうか。
ふとヒースクリフに目を移すと攻略組全員に労いを掛けているように周りに気を遣っている。
いや、あれはどちらかと言えば労いと言うよりもどこか違う場所を見ている目だ。
オレの思考はフルに働き、1つの仮説を導き出した。
オレはヒースクリフには気付かれないように懐のピックを手を持つ。
ユウキ「タクヤ?」
オレの仮説が正しければアイツは…。
そんな事を考えている間にオレの手は既にピックをかまえ、投擲スキル"ストライクシュート”を放った。
ピックは真っ直ぐにヒースクリフ目掛けて飛び立つ。
ヒースクリフ「!!」
ユウキ「タクヤ!!」
カァァァン…と鈍い音がボス部屋に響き渡った。
それは盾に当たったのではなくヒースクリフの鎧に突き刺さるハズだった。
アスナ「え?」
キリト「どういう事だ?」
タクヤ「…説明…してもらおうか…。
ヒースクリフ「…」
最初、驚きを見せていたヒースクリフであったが、オレを見るや否やどこか納得している顔になった。
アスナ「どういう事ですか…?団長…」
アスナの問にヒースクリフは黙秘で答える。
タクヤ「…答えられないならオレが当ててやろうか?
ずっと思ってたんだ…。
あの男はどこでオレ達を監視してるんだろうって…。
でも、オレ達は大事な事を忘れていた。
ユウキ「ゲーム…」
タクヤ「ゲームっていうのはプレイするから面白いんだ…。
端から見てるだけじゃ全然面白くない。
ゲームを見ている程楽しくないものはない…!!
だろ?
「「「!!!?」」」
暫くの間が空き、ヒースクリフはやがて笑みを浮かべながらオレに言った。
ヒースクリフ「…そうだ。私は茅場晶彦。付け加えるなら100層のラスボスとも言える…。
だが、どうして分かったのかな?
参考までに聞かせてもらおうか…」
タクヤ「最初に違和感を感じたのは初めて
あと数cm、数秒で勝負がつくと思った。
だが、それは裏切られいつの間にかシュラは倒れていた。
何が起きたのか全くわからずだ。
ヒースクリフ「そうか…。やはりな。
あの時はシステムのオーバーアシストを使ってしまってね…」
タクヤ「キリトと
ヒースクリフ「お見事だよ…。
どうやら、キリト君も薄々気付いていたみたいだね…」
タクヤ「…」
ヒースクリフ「…バレてしまっては仕方ない。
私は一足先に100層の紅玉宮にて君達を待つ事にするよ…。
ここまで育ててきた血盟騎士団を捨て去るには些か忍びないが…何、君達なら私無しでも辿り着けるさ」
すると、ヒースクリフの近くにいた血盟騎士団団員が顔を強ばらせながら鬼の形相になってヒースクリフに詰め寄った。
「私達の…忠誠を…許さァァん!!!!」
男は両手剣を振り上げ、ヒースクリフに斬り掛かる。
だが、ヒースクリフは慌てる素振りを見せずウィンドウひ開き、ボタンをクリックする。
「がっ」
瞬間、襲いかかった男は急に体を痙攣させ、地面へとひれ伏した。
それは男だけに限らず、オレを除いた攻略組全員が同じ症状にかかっている。
タクヤ「ユウキ!!みんな!!」
ヒースクリフ「一時的に動けなくしただけだ。
数十分で動けるようになるさ…」
タクヤ「てめぇ…!!」
ヒースクリフ「タクヤ君…君には私の正体を見破った褒美をあげなくてはね。
私とここで戦い、勝ったらこのゲームから出してあげよう…」
タクヤ「!!」
ここでオレが奴に勝てたら…現実に帰れる…?
ユウキ「ダメだよタクヤ!!」
キリト「ここは一旦退くんだ!!」
アスナ「タクヤ君!!」
エギル「タクヤ!!」
クライン「やめろォっ!!」
奴に勝てたらここにいるみんなも現実に…?
シウネー「ダメですタクヤさん!!」
ジュン「今はダメだよ!!」
テッチ「退いて…タクヤ!!」
タルケン「タクヤさん!!」
ノリ「バカッ!!行くな!!」
ここにいるみんなだけじゃなく、この世界に囚われてるみんなも現実に帰れる…?
ヒースクリフ「…どうかな?」
そんなの…答えなんて決まっている。
オレは1歩…2歩とヒースクリフに歩み寄る。
ユウキ「タクヤ!!」
ふと、足が止まる。
オレは向き直り、ユウキに近づいた。
タクヤ「大丈夫だ…。終わらせてくる…」
ユウキ「タクヤ…ダメだよ…嫌だよ…」
タクヤ「バカ野郎…死にに行くんじゃねぇ…。
勝ってお前の所に戻ってくる。約束だ…」
オレはユウキの小指を自分の小指とを結び、誓いを立てた。
ユウキ「タクヤ…」
タクヤ「…行ってくる!!」
再度、ヒースクリフへと歩み寄っていくが近づく度にみんなから行くなと声を掛けられる。
タクヤ「心配すんなって!!絶対に勝ってくるからよ!!」
オレはみんなに笑顔を見せて、ヒースクリフの正面へと立った。
ヒースクリフ「…随分と君の笑顔を見ていなかった気がするよ」
タクヤ「その喋り方…いい加減やめてくれよな。
オレはアンタを殺しに来たんだぜ?
どうしようもねぇ奴の尻拭いはオレがこの手でやり遂げる!!」
ヒースクリフ「…もう昔みたいに呼んでくれないんだな」
タクヤ「…お前が一体…オレ達に何をしてくれたって言うんだよ!!あれから、オレ達はたった2人で同情の目を向けられながら必死に生きてきたんだ!!お前に…お前みたいな奴に何が分かるんだよ!!
クソ兄貴っ!!!!」
「「「!!!?」」」
ヒースクリフ「…あの日、お前からの連絡を取らなかったのは謝ろう。
だが、私は悔いはしていない」
全身の血が頭に登るようなここではありえない感覚がオレを襲う。
タクヤ「悔いはない…だと!!
両親より…ゲームを取ったって事かよ!!
ふざけるな…ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
ユウキ「!!」
全身から赤黒いエフェクトを撒き散らしながら感情のまま声を荒らげた。
許さない…許せない…。
タクヤ「お前を…殺すっ!!!!」
シュラ『落ち着けっ!!感情に流されるな!!』
あのシュラがそんな事を言うとは思えなかったが、今のオレにそんな言葉はさして意味を持たない。
シュラ『アイツはこの世界を作った言わば神だ…。
あらゆるソードスキルは一切通用しない。
だが、1つだけ手がある…』
タクヤ「…」
シュラ『
オレはカーディナルが作り出したスキルだ。
修羅スキルならやつを倒せる…!!!!
これはお前の戦いだ…オレの力を全部くれてやるよ!!
だから…負けたら承知しねぇからな!!!!』
タクヤ「当たり前だっ!!」
オレは修羅スキルに重ねがけて闘拳スキル"双竜拳”を発動させ、一気にヒースクリフとの距離を詰める。
これはルールがある
ただの殺し合いだ。オレはこの男を…茅場晶彦を殺す。
それだけを考えながら前に出た。
ヒースクリフ「っ!!」
ヒースクリフは盾でオレの拳を防ぎ、右手の長剣をオレに振り下ろす。
オレはそれを左手で刃を掴み取った。
ヒースクリフ「!!」
タクヤ「うぉぉぉぉぉっ!!!!」
修羅スキルと闘拳スキルを掛け合わされたオレの左手は何倍もの強度と力を有しており、力任せに長剣をへし折った。
タクヤ「これで終わりだぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
オレは左拳を握り、ヒースクリフの顔面を捉えた。
ヒースクリフ「ぐっ…!!?」
ヒースクリフのHPは2割程度削られ、後退を余儀なくされた。
タクヤ「まだだ…。こんなもんじゃねぇぞっ!!!!」
ヒースクリフ「…流石に強いな。
カーディナルは修羅スキルなんてものを作った理由は分からないが…タクヤは…強い」
ヒースクリフはストレージを開き、新たな長剣を装備する。
先程よりもやや大きく、鮮やかな宝石が無数に散らばられており明らかに魔剣クラスの武器であろうという事を予想する。
タクヤ「そんなの…いくらでもへし折ってやるぁぁぁっ!!!!」
ヒースクリフ「"宝剣エウリュアレ”…。
いくらお前の力が強かろうとこの剣の前では全てが色あせてしまう…」
オレは再びヒースクリフに突撃をかけた。
ヒースクリフも盾の背に隠れながらオレに突撃をかける。
その攻撃は前に1度シュラが経験した死角からの攻撃だった。
だが、怯む事はオレの頭の中に存在しない。
迷わず右拳を握り、奴の盾を突く。
盾は頑丈さだけで言えばオレの全力を持ってしても砕ける事はない。
タクヤ(「ここだっ!!」)
ヒースクリフは盾で防御する際に、重心を低くして踏ん張りの効く体勢になる。その後、左からの攻撃が襲ってくる。
なら、オレは右側にシフトウェイトしてガラ空きの背中に闘拳スキル"疾風突き”をヒースクリフに放つ。
ヒースクリフ「っ!!?」
これにはヒースクリフも驚嘆の表情を浮かべる。
HPがさらにイエローまで落ちた所で一旦間合いを取る。
キリト「なんて奴だ…!!」
アスナ「すごい…」
ユウキ「タクヤ…」
タクヤ「ハァ…ハァ…」
流石に修羅スキルを持続させるには体力を使う。
修羅スキルは時間制限など存在しないが、オレの精神力を糧に発動を維持していると前にシュラから聞いていた。
だが、これ程長く修羅スキルを使った事がなかった為、予想以上に疲労感が襲いかかってくる。
タクヤ(「あと…少しだ。それまで…やり続ける…!!」)
ヒースクリフ「…」
ヒースクリフの顔から余裕の表情が消えている。
ここからが正念場だ。
オレは昔から兄貴に勝負事で勝った試しがない。
ゲームでも、スポーツでも、もちろん勉学なんかであってもオレは兄貴を超える事が出来なかった。
タクヤ(「でも、今コイツを殺さねぇと…みんなは帰れない…!!
だから、今ここで…
瞬間、ヒースクリフはオレの目の前まで全身していた。
有に10mはあった距離を一瞬で詰めて来ていたのだ。
タクヤ「なっ!!?」
ヒースクリフ「お前は昔から詰めが甘いんだ…」
オレは一瞬の隙をつかれ、左腕を斬り落とされてしまった。
タクヤ「がぁぁぁっ!!?」
ユウキ「タクヤっ!!!!」
何故だ?この世界では痛みなど感じないハズなのに、意識を一気に持っていかれそうになる。
ヒースクリフ「これは真剣勝負だ…。
ペインアブソーバー機能は
タクヤ「ぐ…がぁ…!!」
正直、ヒースクリフの話している内容は頭に入っていなかった。
それ以上に左腕の痛みがオレの体を硬直させ、性能を著しく低下させている。
ユウキ「あなた!!タクヤのお兄さんなんでしょ!!
何でそんな事、弟に出来るのさ!!?」
ヒースクリフ「…言っただろう?これは真剣勝負だ。
例え、弟であろうが私は容赦しない…。
それに…昔から手加減されるのは嫌いなんでね。
私も…コイツも…」
タクヤ「昔の…話なんざ…持ってくるんじゃ…ねぇよ…!!」
オレは左腕の痛みを堪え、なんとかその場に立つ事が出来た。
だが、今は立っているだけでやっとの状態だ。
ユウキ「タクヤ!!もういいよ!!もう…帰ってきてよ!!!!」
タクヤ「…悪いな…それは出来ねぇ…。
オレは…コイツから…逃げたくねぇんだ!!」
ヒースクリフ「…」
今まで負けっぱなしだったオレがコイツに勝てるとすればもう1つしかない。
シュラ『まだ動けるか?』
タクヤ「当たり…前だ…!!」
シュラ『…やるぞ!!』
タクヤ「あぁ…!!」
オレは右拳を握り、構える。
すると、赤黒いエフェクトはオレの右拳に集中し始める。
ヒースクリフ「!!」
キリト「あれは…!!」
アスナ「72層で見た…!!」
タクヤ「…孤軍…奮闘!!!!」
この一撃で確実にヒースクリフのHPは削りきれる。
盾で防ごうが盾を貫いて終わりだ。
シュラ『チャンスは1度っきりだ…』
タクヤ「絶対に…当ててみせる…!!」
この際、腕の痛みなど考えている場合じゃない。
これで全てが終わる。
ヒースクリフ「…」
ヒースクリフは盾を前に出して、防御出来る姿勢でオレを待ち構えている。
ヒースクリフ「来い…!!」
タクヤ「行くぞぉっ!!!!」
オレは全速力でヒースクリフに真っ向から挑む。
痛みが全身を巡り、視界も霞んでいる状態でも、HPがレッドに差し掛かっても、オレはこの足を止めないし止める気も毛頭ない。
オレの拳にみんなの未来がかかっている。
タクヤ「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」
"双竜拳”と"孤軍奮闘”のエフェクトは混ざり合い、オレの右拳は鬼へと姿を変えた。
そのままヒースクリフに拳を当てるのみだ。
ユウキ「タクヤぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
タクヤ「…え」
オレの右拳はヒースクリフではなく、空を切っていた。
ヒースクリフ「…」
ヒースクリフは盾で受け止めるのではなく、オレの拳を滑らかに受け流していた。
同時にエフェクトは消え、オレの胸に宝剣が突き刺さる。
タクヤ「…がはっ」
ヒースクリフ「…終わりだ」
オレの一撃が躱された。オレの全力が通じなかった。
オレは
ユウキ「タクヤぁぁぁぁぁっ!!!!」
オレのHPは完全に消滅し、目の前には You are dead の表示が出ていた。
オレの体が自分のものではないように動かなくなり、ポリゴンへと姿を変えていく。
意識もはっきりしない中、声だけが微かに聞こえてくる。
キリト「タクヤぁぁっ!!!」
アスナ「いやぁぁぁっ!!!」
クライン「嘘だと言ってくれぇぇぇっ!!!」
エギル「うぉぉぉぉぉっ!!!タクヤぁぁぁぁぁぁっ!!!」
そうか。オレは死ぬのか…。
声だけしか聞こえないが、みんなには期待させるだけさせて悪い事したな…。
ユウキ「タクヤ…うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
瞬間、オレの脳裏にはこれまでの出来事が映画のフィルムのように鮮明に映し出された。
初めてユウキと会った時の事…。
初めてキリトにソードスキルを教えてもらった時の事…。
クラインを置き去りにしてしまった時の事…。
初めてボス戦での事…。
ギルドを作った時の事…。
みんなで笑いあいながら日々を過ごした事…。
初めて仲間を捨ててしまった時の事…。
シュラと向き合って修羅スキルの本当の意味を理解した時の事…。
キリトとアスナの仲を取り繕った時の事…。
初めて女の子を好きになった時の事…。
楽しいばかりではなかった。
辛い事も悲しい事も時には怒った事もあるけれど、オレのここにいた時間は全部ひっくるめてオレの宝物だ。
そんな宝物をくれたみんなにオレは…恩返しが出来ていない。
みんなを…この世界から解き放って…みんなと…ユウキと一緒に笑い合う時間を取り戻す…。
今やらなければいつやる?この時、この瞬間にオレには何が出来る?もう…オレの命は消えちまうけど…みんなだけは…この世界から解放してみせる。
タクヤ「う…う、うぉぉぉぉぉっ!!!!」
ヒースクリフ「なっ!!?」
オレは消えていくその時まで抗い続ける。
システムなんかに負けたりしない。負ける訳にはいかない。
痛みなどただの電気信号だ。
オレがやらなくて…誰がやると言うのだ。
オレは残りの力を右拳に集中させ、最後の闘拳スキル"虚空”をヒースクリフの心臓に放った。
ヒースクリフは対処できぬままその攻撃を受け、HPを全損させる。
最後、笑ったように見えたヒースクリフの顔はポリゴンとなって天に昇っていく。
オレの体も時間が来たらしく、ヒースクリフの後を追って昇っていった。
─14時55分ゲームはクリアされました。ゲームはクリアされました。─
ふと、光が顔に差し込み、オレは閉じていた瞼を開いた。
タクヤ「…」
辺りには夕焼け以外には何も無い。
むしろ、オレが今立っているのは空中だ。
一瞬、焦るがどうやら見えない板の上にいるらしく取り敢えずは安堵する。
タクヤ「…どこだ…ここ…」
オレの装備もSAOにいた時のままで、斬られた左腕は元に戻っている。
そもそもここがSAOなのかすらも分からない。
オレは、死んだはずなのだ。
なら、ここはあの世という事になるのか…。
風が吹き、雲が自由に流れている。雲の切れ間から何か見える。
それはつい先程までオレがいたアインクラッドだった。
なら、ここはアインクラッドの外であの世ではないらしい。
タクヤ「でも…なんで…」
「私が呼んだんだ」
タクヤ「!!?」
横に顔を向けると、そこにはヒースクリフではなくオレが1番見知った茅場晶彦がそこにいた。
タクヤ「なんで…!!」
茅場晶彦「…言っただろう?私が呼んだのだと…。
それと、特別に彼女も呼んでいる…」
「タクヤ」
その声はオレが1番聞きたい…でも、2度と聞けないと思った声だった。
恐る恐る振り向くとそこにはオレがこの世界で愛した女の子が涙を浮かべながら立っていた。
タクヤ「…ユウキ」
ユウキ「タクヤ…タクヤぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
ユウキは涙を流しながらオレへと抱きついてくる。
だが、オレがユウキを抱きしめる事が出来る訳がない。
また、オレは約束を守る事が出来なかった。
ユウキ「バカッ!!バカッ!!バカッ!!…なんでいつも…うぅ…」
タクヤ「…ごめん」
ユウキ「ボクは…ボクは…」
何もかける言葉がみつからない。
オレはみんなを解放してやりたくてヒースクリフと戦った。
結果、オレが死んでみんなは解放されるハズだ。
悔いはない。
茅場晶彦「…タクヤ。ゲームクリアおめでとう…」
タクヤ「…」
茅場晶彦「そう怖い顔をしないでくれ。現在、アインクラッドの全てのプレイヤーを一斉にログアウトしていっている。
もうまもなく、全てのフェイズが終了し、この世界は消滅するだろう…」
タクヤ「…お前は、なんでこの世界を作った?」
純粋にそう思った。
どんな事にも目もくれずただこの世界を作る為だけに人生をかけているのだと昔、聞いた事があった。
茅場晶彦「何故…か…。小さい頃の事を憶えているか?
私は小さい頃からどこか…この世界じゃないどこか違う場所に現実世界とは別の違う世界があるんじゃないだろうかと考えるようになった。
空に浮かぶ鋼鉄の城がある…と、そんな事を考えていた…」
茅場晶彦は昔からオレ達とは違う場所を見ていた。
小さい頃どこを見ているのかと尋ねた記憶がある。
その時はうやむやにされてしまい、答えが聞けなかった。
それが今になって聞けるとは思わなかった。
茅場晶彦の言っているのはただの幻想だ。
それはコイツにだって分かっているハズだ。
でも、それでも、彼は信じてこの世界を作り上げた。
幻想を現実にしたのだ。
茅場晶彦「タクヤ…。最後にこれをお前に渡しておく…」
タクヤ「これは…」
茅場晶彦から渡されたのは何の変哲もない卵形のプログラムだ。
茅場晶彦「いつか役に立つ時が来るだろう。
それまでお前が持っていなさい…」
タクヤ「なんでオレがっ…!!」
茅場晶彦「無論、処分するならそれでも構わない。
だが、この世界にお前が憎しみ以外の感情を持っているなら必要になるだろう…」
半ば無理やり渡されたプログラムはオレの手に移ると砂と化し消えた。
どうやら、オレのナーヴギアに保存されたようだ。
茅場晶彦「では、私はそろそろいくよ…」
そう言い残して茅場晶彦は歩き出す。
瞬間、霧に紛れて姿を消した。
タクヤ「…ユウキ。ちょっと…話すか?」
ユウキは無言で頷き、崩壊するアインクラッドを眺めながらオレ達は適当な所に座った。
タクヤ「ユウキ…」
ユウキ「…やだよ。タクヤ…死んじゃいやだよ…」
タクヤ「…」
オレはあの戦いで茅場晶彦と共に死んだのだ。
正確には、ナーヴギアに脳を焼かれるまで死ぬ訳ではないが。
だが、オレの死は確定されている。
タクヤ「…名前」
ユウキ「え?」
タクヤ「ユウキの本当の名前を教えてくれないか?」
自己満足でも自分が好きになった女の子の名前を知って逝きたい。
ユウキ「…ボクの名前は…紺野木綿季。今年で14歳になった…」
タクヤ「あー…やっぱ年下だったか。オレは…茅場拓哉…。
先月で多分17になったかな…」
ユウキ「3つも年上だったかぁ…。茅場…拓哉…たくや…」
ユウキは涙を流しながらオレの名前を呟く。
ユウキ「もっと…一緒にいたかった…。
2人でいろんな所に行って、一緒に遊んで…もっと…一緒に…」
タクヤ「ユウキ…。オレはいつもお前と一緒にいる…。
お前の心の中でいつまでも一緒にいるから」
オレは優しくユウキを抱きしめた。
ユウキも泣きながらオレに抱き返してくれた。
タクヤ「いつまでも愛してる…ユウキ」
ユウキ「ボクも…ずっと愛してるよ…タクヤ」
オレとユウキは最後にキスを交わす。
瞬間、世界は光に包まれオレ達は光の中へと入り、いつまでも、最後の瞬間まで互いの温度を感じながら世界の終焉を待った。
どうだったでしょうか?
残されたユウキはこれからどうなるんでしょうか?
これからの物語に期待していてください。
では、また次回!