ソードアート・オンライン-君と共に在るために-   作:ちぇりぶろ(休載中)

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と言うわけで50話目になります。
節目を感じましたのでいつもの約倍の文字数になってます。(18000くらい?)
エクストラエディションの前半は美女の水着見ながら過去を振り返るって事なのでこちらでもその形を取り入れてみました。
少し長めですのでごゆっくりお読みください。


では、どうぞ!


【50】Extra Edition -Summer vacation-

 青い空、白い雲。

 蝉の鳴き声が耳にタコが出来る程聞き飽きる季節になった。

 気温は35度と天気予報で聞いてため息が出る。

 外はジリジリと肌を焼き、額には大量の汗が姿を現していた。

 だが、夏と言ってもただ暑いだけではない。夏だからこそのものも存在するからだ。

 特に学生は今か今かとその時を待ちわびているに違いない。

 そして、先日とうとうその日がやって来た。

 

 

 

 里香「夏休みだァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年07月25日 10時00分 SAO帰還者学校

 

 拓哉「…暑い」

 

 学校の校門を抜け、駐輪場までバイクを移動させ、エンジンを切る。

 5月の終わりに和人と一緒に免許を取って以来拓哉は毎日と言っていい程バイクを走らせていた。

 だが、それもこの炎天下ではフルフェイスを被るというのは些か勇気がいるものだ。

 中は蒸れるし、暑いし、汗は止まらないし、事夏においては良いところは何もない。

 

 拓哉「早く冬になんねぇかなぁ…」

 

 夏など嫌いだと遠回しに言った拓哉の後ろをバイクから降りた木綿季が言った。

 

 木綿季「まだ夏になったばっかりだよー?夏だって良いところあるじゃん!」

 

 拓哉「例えば?」

 

 木綿季「夏になると冷やし中華とかそうめんも食べられるし、かき氷やスイカもいいよねー。

 それに花火大会に海水浴やプールにだって行けるしさ!」

 

 拓哉「オレは別にいいわ…」

 

 ヘルメットを脱ぎ、バイクから降りながら拓哉が言った。

 

 木綿季「なんでさー?…拓哉はボクの水着姿とか浴衣姿とか見たくないの?」

 

 拓哉「…」

 

 瞳をうるうるさせながらまじまじと拓哉を見つめる。

 心做しか拓哉の頬が赤くなっている事に気づいた木綿季は悪戯っ子のように笑って見せた。

 

 木綿季「…えっち」

 

 拓哉「な、なんでそうなるんだよ!!?そりゃあ、男なら誰だって好きな娘の水着や浴衣はみたいに決まって…!!」

 

 最後まで言い終わる事が出来ず、体温が急激に上がるのを感じながら木綿季から目を逸らして冷静になる。

 木綿季も自分で言ったものの途端に恥ずかしくなり、頬を赤く染めた。

 

 和人「あの〜…出来れば2人っきりの時にしてくれないか?」

 

 直葉「なんだかこっちまで恥ずかしくなってきたよ…」

 

 拓哉&木綿季「「…」」

 

 実は先程から一緒にいた桐ケ谷兄妹の事をすっかり忘れて2人だけの世界に入ってたようで拓哉と木綿季は一言詫びた。

 何はともあれ待ち合わせ場所であるプールの更衣室前まで行き、そこで明日奈と里香、珪子と合流した。

 

 里香「おぉ!来た来た…ってなんでそこの2人は顔が真っ赤なの?」

 

 木綿季「はは…まぁ、いろいろとね…」

 

 明日奈「こんにちはみんな!」

 

 直葉「こんにちは!き、今日はよろしくお願いします!!」

 

 何故、彼らが夏休み期間に学校にいるのかというと、運動神経抜群の直葉に唯一苦手な水泳を教える為であった。

 

 珪子「まさか、直葉さんが泳げないとは思いませんでした」

 

 直葉「実は小さい頃から泳げなくて…。水に顔をつけるのもダメなんだァ…」

 

 明日奈「大丈夫だよ。アルヴヘイムの海と違ってちゃんと足がつくから」

 

 アルヴヘイムの海と比べてもいまいちピンとこないが、ともあれ安全に泳げる事は間違いない。事前に教師には許可も取っている為、何も気にせず水泳の練習に集中出来ると言うものだ。

 

 和人「いいか?スグ。ちゃんとみんなの言う事守って練習するんだぞ?」

 

 直葉「はぁい」

 

 和人「じゃあ、オレ達はカウンセリングがあるから…。行こうぜ拓哉」

 

 拓哉「えぇ〜…やっぱオレも行かなきゃダメか?」

 

 和人「当たり前だろ。オレだけ除け者とか許さないからな」

 

 直葉達は水泳の練習をするのだが、拓哉と和人はこういう日に限ってカウンセリングの時間を設けられていた。

 SAO帰還者学校では一定の期間毎に学生達がカウンセリングを受けるようになっている。

 2年間も殺伐としたデスゲームに身を投じていた為、精神に何らかの障害や思想が生まれていてもおかしくないと政府から義務付けされたものだ。

 そういう点から周りからは犯罪者予備軍を1箇所に集めた収容所とまで呼ばれる始末だ。

 

 拓哉「オレ…1学期は特に問題起こしてないんだけどなぁ…」

 

 里香「アンタの場合、授業中に居眠りばっかして授業をろくに受けてないからじゃない?」

 

 木綿季「もぉ!授業はちゃんと聞かなきゃダメだよ拓哉!!」

 

 拓哉「う…すみません…」

 

 里香「美人のカウンセラーには注意するのよー」

 

 思わず転びそうになるのを2人はなんとか耐え、直葉達と別れてカウンセリングルームへと寂しく向かって行った。

 

 明日奈「じゃあ、私達も更衣室に行きましょうか?」

 

 木綿季「やっぱり夏って言ったらプールだよねー!」

 

 珪子「ここのプールは結構大きいですからねー!」

 

 直葉「お、大きいの?…足はちゃんとつくんですよね?」

 

 里香「当たり前でしょー!水深は普通だから心配しなさんなって」

 

 明日奈達も水泳の練習をする為、女子更衣室へと足を運ばせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拓哉「…はぁ」

 

 和人「ため息つくなよ。オレだって我慢してるんだから」

 

 上履きに履き替え、校舎の中を歩きながら拓哉はため息をつく。

 その気持ちも分からないでもないのだが、日頃の授業態度が悪いからと和人に言い切られた。

 

 和人「拓哉はともかくオレはちゃんと真面目にしてたつもりなんだけどな…」

 

 拓哉「ともかくってなんだよ。…てか、カウンセリングなのになんで2人一緒にやるんだ?」

 

 和人「さぁ…。先生側の都合だろ」

 

 そんな話をしている間にカウンセリングルームへと到着した。

 普段行き慣れているハズなのに、何故か妙な緊張感に襲われながらも拓哉は扉に手をかけた。

 

 拓哉「失礼しまーす」

 

 和人「失礼しまーす…」

 

 いつ来てもこの場所には慣れない。

 まるで事情聴取されているかのような緊迫感があるが、先程の里香の言う通り美人のカウンセラーが相手ならそれも幾分か和らぐ。

 そんな状況を密かに抱いていると、カーテンを挟んだ奥の部屋から女性の声が返事をした。

 

 拓哉(「マジで美人のカウンセラーか…!!」)

 

 和人「コイツが何考えてるかなんとなく分かるぞ…」

 

 期待が高まりつつカーテンを開いた先には予想通り、美人のカウンセラーが2人を待っていた。

 大人の色気を漂わせながら優しく微笑みかけている。

 少し見とれているとリクライニングチェアが1人で動き始めた。

 

 菊岡「やぁ。2人共、久しぶりだね」

 

 拓哉&和人「「…」」

 

 そこに座っていたのは笑顔で誠実そうだが、腹の奥で何を考えているか読めない政府の役人だった。

 

「じゃあ、あとは頼みましたよ」

 

 女性は一言菊岡に告げ、部屋を後にした。

 取り残されたさ3人の男達は無言のまま微動だにしない。

 

 菊岡「まぁ、立ち話もなんだしそこに腰掛けなよ」

 

 和人「はぁ…」

 

 拓哉「何でまたアンタが…」

 

 と、言いつつも椅子に腰をかける。菊岡はテーブルの上に大量のスナック菓子をばら撒き、同時にボイスレコーダーを用意した。

 

 菊岡「いやぁ、2人にはSAO関連についてはもう1度具体的に聞かせてもらおうと思ってね」

 

 和人「それならもう全部話したじゃないですか?

 第一、そんなのログを解析すれば分かる事でしょう?」

 

 菊岡「それはそうだが、それはあくまでプレイヤーがその時、その場所にいたっていう所だけなんだよ。そこで何が行われていたのかは当事者である君達にしか分からない」

 

 だが、これ以上話す事など特にはない。

 SAO、強いてはALOから生還した2人はこれまでにも何度かSAO関連の情報を提供してきている。

 今更、何も話す事は2人にはなかった。

 こんな事ならみんなとプールに行っていた方がマシだ。

 

 菊岡「まぁ、いいじゃないか。SAOの時だって僕もあちらこちらへと足を運んでいつ目覚めてもいいように万全の態勢を作ってあげたんだから」

 

 拓哉「わざわざ学校まで押しかけてやる事じゃないだろ。…すぐ終わんだろうな?」

 

 菊岡「なるべく早く終わらせたいね。でも、それは君達次第だよ?」

 

 これ以上言っても時間の無駄だと理解した2人はスナック菓子の封を開け、中から1つ口に運ぶ。

 菊岡も開始の合図だとばかりにボイスレコーダーの電源を入れて2人に質問を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年07月25日10時15分 SAO帰還者学校 プール更衣室

 

 里香「じゃーん!どう?似合ってる?」

 

 珪子「わぁ!里香さんのカッコイイですねぇ!」

 

 女子の花園では水着へと着替える為、肌が露出され、あられもない姿になる。

 里香は水着を着替え終え、それをみんなに披露した。

 

 里香「前のはさすがにサイズが合わなくなっちゃったからさー思い切って新しいの買ったんだよねー」

 

 珪子「…私はピッタリでしたけど」

 

 2年前の水着がピッタリなのを悲しみつつも、奥のロッカーから赤と白のストライプが入れられたビキニ姿の明日奈が現れた。

 

 里香「あら〜…明日奈さんはビキニですか〜。それでキリトを悩殺しようって訳〜?」

 

 明日奈「そ、そんなんじゃないわよ!?これは木綿季と一緒に買いに行ったの!!」

 

 木綿季「やっぱり明日奈は赤と白が似合うね〜!…胸もあるし」

 

 明日奈「ゆ、木綿季だって可愛いよ!?拓哉君もそう言ってくれるよ!!」

 

 木綿季の水着姿はアスナとは違いフリルの付いた水色のビキニであったが、何分主張しない胸である為、ワンサイズ小さいものを買っていた。

 すると、隅でタオルに身を隠し、顔を赤らめながらもじもじしている直葉がいた。

 

 直葉「あれ…?みんな、学校指定の水着じゃないの?

 …水泳の練習だからてっきり…」

 

 里香「何ブツブツ呟いてんのよ?いいから早くそのタオルを脱ぎなさいって!」

 

 里香の悪戯心が直葉の巻いていたタオルを無理矢理引き剥がした。

 すると、中からは明らかにサイズが合ってないんじゃないかと言わんばかりで、パツパツのスクール水着が姿を現した。

 

 直葉「…恥ずかしいですよ」

 

 全員が目を奪われていたのは直葉が腕で隠していた胸部だ。

 いや、最早腕では隠し切れないほど大きく成長したそれは全員が生唾を飲み込む程、破壊力抜群のものであった。

 

 里香「ま、まぁ…スク水も可愛いわよね?」

 

 珪子「そ、そうですよ!直葉さんによく似合ってます!」

 

 直葉「そ、それはどういう意味ですかぁっ!!」

 

 木綿季「…いいなぁ」

 

 周りには珪子を除いて胸が大きい者しかいない。

 その為、女性の象徴とも言えるものを欠けていると感じている木綿季には致命傷なまでに精神的ダメージが大きすぎる。

 

 珪子「木綿季ちゃん…分かるよ…」

 

 肩にポンと手を置いて慰めてくれるのは同じく欠けている珪子であった。

 その光景を見た明日奈と里香は2人の背中を押してプールサイドへと急いだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年07月25日10時20分 SAO帰還者学校 カウンセリングルーム

 

 菊岡「さてと…じゃあ、まずはデスゲーム開始時の事を聞かせてもらおうかな」

 

 和人「そうか…あれからもう約3年経とうとしてるのか」

 

 拓哉「…そうだな。その時は正直理解が追いつかなかったな…。

 なんせゲームオーバー=死なんて誰も信じようとはしなかった…」

 

 

 

 約3年前、VRMMOゲームで初めてのフルダイブ技術を使ったSAOは若者や熱狂的なゲーマーの中で話題を呼んでいた。

 自分の体、正確には五感全てを現実世界から遮断し、脳の電気信号のみでゲームの世界に行けるという魅力は計り知れない。

 ゲームに詳しくなかった拓哉でさえ、その時の興奮と感動は忘れられないだろう。

 

 

 

 菊岡「開始時から君達は行動を共にしてたのかい?」

 

 拓哉「あぁ。デスゲームが始まる前に和人とクライン、それと木綿季と一緒にソードスキルの練習をしてたからな」

 

 和人「慣れてきた所で1度ログアウトしようと考えてたら、クラインから信じられない一言が耳に入ったんだ」

 

 

 

 それはログアウトボタンの消滅。

 SAOでログアウトするには専用のボタンが必要で、それ以外に自発的なログアウト方法は存在しなかった。

 第三者…つまりは外部の人間からナーヴギアの電源を切ってもらうか、頭から外せれば強制的にログアウト出来ただろうが、それをしてしまえばナーヴギアから高出力のマイクロウェーブが脳を焼き切ってしまう。

 今考えると、SAOに入った瞬間から拓哉達は2度と現実世界には帰れなかったと言う事になる。

 

 

 

 菊岡「なるほどね。デスゲーム開始時前に死亡者が出てるのはそのせいなのか。…じゃあ、君達はGM(ゲームマスター)である茅場晶彦の公表した事を強制的に守らせられていたっていう事だね?」

 

 拓哉「あぁ…。それからオレ達は生き残る為に自分のレベルを上げながら強くなっていったんだ」

 

 

 

 茅場晶彦が姿を消した後、第1層の広場では混乱が生じた。

 拓哉達はその前に街の路地へと移動して和人の助言で次の街までの最短ルートを進んだ。そこで1人の仲間を置き去りにして…。

 

 

 

 拓哉「…」

 

 菊岡「なるほどなるほど…。じゃあ、次の質問。デスゲームが開始されて1ヶ月後に高レベルプレイヤーが1箇所に集中しているのは何故だい?」

 

 和人「その時はやっと見つかった第1層のフロアボス戦の会議をやってたんだ」

 

 

 

 第1層のトールバーナという街で青い髪を下げた爽やかな青年ディアベルがボス攻略会議を開いた。

 初めてのボス戦とあってか、集まったプレイヤーには多少なりとも不安があったに違いない。

 かく言う拓哉達も全くなかったと聞かれれば嘘になる。

 だが、ディアベルはそんな不安も持ち前のリーダーシップでかき消し、皆の士気を上げていた。

 

 

 

 菊岡「この時の死亡者は…1人だけか…」

 

 拓哉「…」

 

 和人「あぁ…。オレ達はそこで最も大きな犠牲を払ってしまった…」

 

 

 

 第1層フロアボスイルファング・ザ・コボルドロードはレイドを半壊させる程の威力を有しており、攻略組も次々と塞ぎ込んでしまう者達が出てきた。拓哉達はその劣勢を覆す為、半ば強引にフロアボスへと挑んだ。

 その結果、他のプレイヤー達も自身を鼓舞し、連携を繋いであと1歩の所まで追い詰めた。

 だが、ここでディアベルは無謀にも前に出てボスにトドメを指しに駆けた。

 拓哉がそれを食い止めるよりも前にディアベルはフロアボスの一撃を食らい、HPを全損させてしまった。

 最後に呟いた一言は今でも憶えている。

 

 

『ボスを…倒してくれ…』

 

 

 ディアベルがあのタイミングで前に出たのはLAB(ラストアタックボーナス)を狙う為であった。

 その情報はβテスターのみ知っており、ディアベルもまた和人やアルゴと同じくβテスターであったのである。

 

 拓哉「オレ達はその犠牲を無駄にしない為に気力を振り絞ってなんとかフロアボスを倒す事に成功した。

 犠牲は出たが、オレ達なら100層も夢じゃない…。攻略組に自信がつき、全員で生きて帰れると確信した時…事件が起こった」

 

 

 

 菊岡「事件?」

 

 和人「…」

 

 

 

 ボスを倒し、仲間達が互いに労いの言葉を掛け合い、信頼関係が紡がれようとした時、無残にもそれはある一言で砕け散る事になった。

 

 

『なんでディアベルさんを見殺しにしたんだ!!』

 

 

 その一言で攻略組全員がその罵声を受けた拓哉と和人に視線が集まる。

 どうやらそう思ったのはフロアボスのソードスキルを神業でキャンセルし続けた事が原因らしい。

 攻略組も次第に拓哉や和人に対して疑惑を持ち始めた時、和人が前に出てこう宣言した。

 

 

『オレはβテストで他の誰も到達出来なかった層まで進んだ!!

 だからいろいろ知ってるぜ?情報屋なんか目にならない程にな!!』

 

 

『そんなのチートやチーターじゃないか!!βテスターのチーター…だから"ビーター”だ!!!』

 

 

『ビーター…か。いいな、それ。そうだ!!オレはビーターだ!!

 今後は元βテスター共と一緒にしないでくれ!!』

 

 

 あの一言で拓哉達と和人は完全に決別してしまった。

 そんな事思ってもいないくせに和人は1人でとても重たいものを背負ってしまった。拓哉達が弱かったから、仲間なのに和人を守れなかったから。

 和人が全ての怒りや憎しみを背負う事で、拓哉達の安全が守られたのだ。

 

 

 

 菊岡「"ビーター”って言う造語はキリト君が発信源になっていたのか。

 それから君達は別行動を取り、ゲームクリアへと貢献してきたんだね?」

 

 和人「そうだな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2015年07月25日10時30分 SAO帰還者学校 プール

 

 木綿季「冷たーいっ!!」

 

 里香「夏はやっぱりプールだよねー!!」

 

 珪子「貸切のプールなんて新鮮ですね!!」

 

 明日奈「こらー!!ちゃんと準備運動しないとダメだよー!!」

 

 日焼け止めも塗り、準備運動をしている明日奈と直葉を置いて木綿季達はプールの中へと飛び込んでいた。

 冷たい水が暑くなっていた体を冷やし、快適なバカンスとでも言うのかそんな余韻に浸っていた。

 明日奈と直葉も準備運動を済ませプールの中へと入る。

 

 明日奈「気持ちいいねぇ!!」

 

 直葉「本当ですね!すごく気持ちいいです!!」

 

 木綿季&明日奈&里香&珪子「「「「…ん?」」」」

 

 プールの中で一際目立っていたものがあった。

 直葉へと視線が集まり、そこには赤と白のおおきな浮き輪が直葉の体を支えている光景だった。

 本人は何の違和感も感じていないが、直葉の背後にこっそり忍び行った里香が浮き輪の栓を開け、中から空気を外に追い出す。

 

 直葉「わっ!?ダメですって!!これがないと沈んじゃう!!」

 

 里香「何言ってんのよ!足はつくんだし、それにこんなご立派な浮き輪が2つも付いてんじゃないのよ!!」

 

 里香はおもむろに直葉の背後から手を伸ばし、大きく実った胸を鷲掴みにした。

 

 直葉「ちょっ!!?里香さん!!!どこ触ってるんですかぁっ!!!!」

 

 里香「けしからんですなーまったく!何をどうしたらこんなに大きく育つのかしらー!」

 

 里香の手に収まらない程の大きな胸を弄りたいだけ弄り、その光景を見ていた木綿季と珪子は再度、自分の胸を見て改めて現実を思い知らされた。

 

 木綿季&珪子「「…いいなぁ…」」

 

 すると、それを見かねた明日奈が里香の首根っこを掴んで直葉から引き剥がした。

 

 明日奈「リーズー…」

 

 里香「…あい。…すみません」

 

 この場に拓哉と和人がいなかっただけでも救いなのか、直葉は木綿季と珪子の元へと逃げるように移動した。

 

 明日奈「じゃあ、まずは顔を水につける所から始めようか?」

 

 直葉「はい!」

 

 木綿季「水泳なんて慣れちゃえば後は何も怖くないよ!!」

 

 木綿季に鼓舞されるも中々その1歩が踏み出せない。

 だが、自分の為にみんなが時間を割いて練習に付き合ってくれていると思った直葉は意を決して体内に大量の空気を含み、勢いよく水の中へと顔を潜らせた。

 

 直葉「〜〜〜」

 

 30秒程経つと息が限界に達し、水飛沫を飛び散らせながら顔を上げた。

 

 直葉「ハァ…ハァ…」

 

 明日奈「うん!その調子だよ直葉ちゃん!まずは、水に慣れないとね」

 

 直葉「は、はい…!そう言えば()()()()()()()()でもやっぱり海の底にあるんでしょうか?」

 

 木綿季「そうだねー。海底神殿って言うぐらいだから水深100mぐらいあるんじゃないかなー?」

 

 直葉「100っ…!?」

 

 水深を聞いて顔が青ざめていく直葉を明日奈がフォローを加える。

 誰もそこまで潜った事がない為、多少の不安があるが、直葉に至ってはまさしく未知の世界だ。

 

 明日奈「大丈夫よ。ちゃんと水中呼吸(ブラッシング)の魔法をかけるから」

 

 木綿季「そうそう!それに…これから好きな人が出来てもしプールや海に行った時困るでしょ?」

 

 直葉「す、好きな人…!!?」

 

 そう言われると頭の中ではすぐ和人が出てくるが、その片隅でどうしてか直人の顔も思い浮かべてしまった。

 

 直葉(「な、何考えてるんだろ…!!お兄ちゃんはともかく…直人君を思い浮かべるなんて…」)

 

 急に意識したからか顔が赤くなっていき、すぐ様煩悩をかき消した。

 

 明日奈「じゃあもう1回やってみようか?」

 

 直葉「はい!」

 

 木綿季「次はボクもやろーっと!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年07月25日10時40分 SAO帰還者学校 カウンセリングルーム

 

 菊岡「ここだよ」

 

 拓哉「どこだよ?」

 

 菊岡「だからここだって」

 

 和人「だからどこですか?」

 

 菊岡「この高レベルプレイヤーが集まってるのはフロアボス戦と言うのは分かるけど、やっぱりソロプレイヤーのキリト君でもボス戦では1人じゃないんだなぁって」

 

 3人が見ていたのはPCに写るSAOの解析ログだ。

 ある層のある場所にプレイヤーが集中しているのが見て分かる。

 

 和人「当たり前でしょ。いくらソロだからって1人でボスに挑む訳ないじゃないですか。

 フロアボスはフィールドやダンジョンにいるモンスターとは別格の強さなんだ。安全マージンをちゃんと取らないと即死なんてのもあるんです」

 

 

 

 フロアボスは和人の言う通りフィールドにポップするモンスターとは別格の強さを誇っている。

 特に25層、50層、75層のフロアボスは"クォーターポイント”と呼ばれ、安全マージンを十分に取っていても死と崖っぷちに立たされている。

 

 

 

 拓哉「まぁでも、74層のボスはほとんど和人1人で倒したんだろ?」

 

 和人「あれは奥の手の"二刀流”があったからな。…って言ってもあれでも本当にギリギリだったんだぞ!!」

 

 菊岡「そしてゲームがクリアされる数ヶ月前に拓哉君は攻略組から外れたんだね?」

 

 拓哉「…」

 

 

 

 それは木綿季と恋仲になってすぐの事だった。その時、攻略組のプレイヤーが次々と失踪する事件が相次いだ。

 拓哉は情報屋であるアルゴに調査を依頼し、その帰り道でフィールド散策をしている時に()()は現れた。

 

 

 

 菊岡「SAOで最大勢力を誇ってた殺人(レッド)ギルド"笑う棺桶(ラフィン・コフィン)”。そのリーダーであるPohに脅迫され、拓哉君は1人笑う棺桶(ラフィン・コフィン)へと加入した…」

 

 拓哉「あぁ…。あの時はそれ以外にみんなをたすける方法がなかったからな」

 

 和人「…」

 

 

 

 笑う棺桶(ラフィン・コフィン)はSAOの中で多くのプレイヤーをその手にかけていた殺人集団だ。

 時にはレアアイテムを盗む為、時には殺人の依頼を受け、そしてまたある時は自身の好奇心やその時に感じられる興奮の為、彼らは罪もないプレイヤーを亡き者にしていった。

 そして、その魔の手は拓哉とその周りの仲間たちにまで及んだ。

 拓哉はそれを防ぐ為、Pohが出した条件をのみ、ギルドを抜け、仲間を捨て、木綿季を裏切って、姿を消した。

 

 

 

『来ないでっ!!』

 

 

 

 和人「拓哉はオレ達の為にやりたくもない事をやらされていたんだ!!

 今更それを蒸し返してアンタはどういうつもりなんだ!!?」

 

 菊岡「僕も本音を言えばこんな事聞きたくないよ。だが、これはあくまでSAO事件の全容を知る為だから目くじらをたてないでくれ。」

 

 拓哉「気にすんな…。アンタも仕事でやってる事だ。和人もこれ以上は何も言わなくていい…」

 

 和人「だが…!!」

 

 拓哉「どんな理由があっても仲間を裏切った罪が消える訳じゃない。

 それは一生オレの中で生き続けるだろうな…。

 だけど、今もこうして普通に学校に行けるのは菊岡のおかげでもある。だから、気にすんな」

 

 和人「…拓哉がそう言うなら」

 

 

 

 そう…オレはあの世界で死んでも償えない程の罪を犯した。

 仲間を…木綿季を守る為と言い聞かせ、赤の他人をこの手にかけてしまった。今でもオレが殺した人達の夢を見る事がある。

 彼等はオレを憎むだろうし、その仲間だった者や家族はオレを許す事はないだろう。

 全てを捨て去って、仲間を守る為に剣を突き刺した。

 本来ならオレはここにいる事なんて出来るハズもないのだ。

 仲間達以外の生徒はオレが笑う棺桶(ラフィン・コフィン)の元メンバーだとは知らされていない。

 一部の教師と仲間達、そして菊岡しか知らない事だ。

 菊岡に言われるがままオレは学校に通い始め、幸せな日常を生きている。

 罪をひた隠しにしながら…。

 

 

 

 菊岡「それで事態を重く見た攻略組は精鋭を集い、笑う棺桶(ラフィン・コフィン)討伐へと乗り込むんだね?」

 

 和人「あぁ。討伐作戦にはオレや明日奈、クライン…そして、木綿季も加わった。

 でも、肝心のヤツらのアジトが分からなかった時、拓哉が寄越したルクスって子の情報を元に綿密に作戦を考えて向ったんだが…」

 

 拓哉「…」

 

 

 

 笑う棺桶(ラフィン・コフィン)のアジトへと向かっていた討伐隊はそこで妙な違和感を感じていた。

 和人もこの違和感の正体に気づくのに時間がかかった。

 討伐隊の作戦が笑う棺桶(ラフィン・コフィン)に漏れ、逆に不意打ちを食らってしまったのだ。

 だが、彼らよりもレベルで勝っていた討伐隊は次々と笑う棺桶(ラフィン・コフィン)のメンバーを拘束していくが、中には狂気に満ち溢れたプレイヤーが自身の死すら顧みず、討伐隊へその牙を向けた。

 討伐隊のメンバーもその姿に足がすくみ、まともに動けずそのまま殺されていく者達も出始めた。

 そんな中、和人と明日奈、木綿季にクラインは幹部である"赤目のザザ”と"ジョニーブラック”と交戦していた。

 そして、激しい土煙がその場を包み込み、中から現れたのは全てを捨てた狂戦士(バーサーカー)だった。

 木綿季はそのプレイヤーを見て拓哉だと言った。

 だが、拓哉の面影はどこにも無く、狂気に満ちた瞳は木綿季達をただの人形の様にその拳を向けた。

 拓哉はユニークスキル"修羅”を習得していたのだが、それは自らの人格を奪い、怒りや憎しみといった負の感情を糧に作動するものであった。

 そのせいでキリトは危うく殺されかけ、木綿季にも傷を追わせてしまった事もある。

 激しい轟音が響き渡り、和人達は拓哉を止める為に剣を向けた。

 圧倒的速さと技の威力に4人がかりでも全く手に負えなかった。

 そして、動けなくなった木綿季に拓哉は剣を振り降ろした…が、それは木綿季に向かわず自身の左肩を突き刺していた。

 

 

 

 拓哉「…」

 

 カウンセリングルームの窓から顔を覗かせるとすぐ下にはプールサイドがあり、そこで楽しそうにしている木綿季達の姿を見て拓哉は気付かれないようにそっと微笑んだ。

 

 拓哉(「あの時…木綿季の言葉でオレはシュラから主導権を奪えた。木綿季がいなかったら今頃きっと後悔しかしてないんだろうな…」)

 

 

 

 修羅(シュラ)から主導権を一時的に奪い返した拓哉は木綿季を一旦引き離すもあまりの力にまた主導権を奪われてしまう。

 そして、木綿季がまたしても修羅に立ち向かい、痛みと恐怖に怯えて、それでも尚、拓哉を救う為、愛する人を救う為に木綿季のユニークスキルが修羅を捉えた。

 

 絶剣スキル"マザーズ・ロザリオ”

 

 魂が乗った木綿季の攻撃は修羅の邪悪な精神(ココロ)を弱体化させるには充分な威力を発揮した。

 そして、木綿季や仲間の元に拓哉は帰ってこられた。

 

 

 

 拓哉(「…本当なら今頃木綿季の手料理食べてるんだけどなぁ…」)

 

 時計を見れば時刻は正午を回り、本来ならば木綿季お手製の弁当に舌鼓を打っている頃だ。

 カウンセリングがここまで長引くとは思わなかった拓哉は木綿季にメッセージを送る。隣では同じ事を考えているであろう和人も明日奈にメッセージを送っている。

 

 菊岡「いやぁすまないねぇ」

 

 和人「そんな事思ってないだろ…」

 

 拓哉「…はぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年07月25日12時15分 SAO帰還者学校 プールサイド

 

 木綿季達は正午を回ったのを確認してから、プールサイドの木陰へと移動して昼食を摂る事にした。

 

 木綿季「いっぱい作ってきたからどんどん食べてねー!!」

 

 明日奈「私も作ってきたからこっちもどうぞ」

 

 直葉「みんなの口に合うかわからないけど食べてください!」

 

 里香&珪子「「うわぁぁ!!」」

 

 5人の前に並べられた料理の豪勢さに里香と珪子も気の利いた言葉が思い浮かばなかった。

 木綿季の持ってきた弁当の中身はハンバーグやミートボールと言った子供ウケのよい品が多く、ポテトサラダと言った野菜類も入っており、バランスの取れたものとなっていた。

 明日奈はお手軽に食べられるサンドイッチで中身の具もタマゴにベーコンレタス、手間がかかっていそうなローストビーフと言うちょっとオシャレなものだった。

 そんないかにも女子力の高い弁当を目の当たりにした直葉がふと自身が作った弁当に目をやる。

 その中身はおにぎりにタコさんウィンナー、揚げ物や煮物が多く、若い女子らしさは感じさせないものであり、言うなれば息子の運動会に張り切って作った母親の弁当であった。

 

 直葉(「やっぱりお兄ちゃんもああいう女の子っぽいの方がいいのかなぁ…」)

 

 木綿季「どうしたの直葉?」

 

 直葉「い、いえ!何でもないです!?」

 

 早速、各々紙皿と麦茶が入った紙コップを回し、3人の弁当に箸をつけていく。

 

 珪子「おいしいですね!このハンバーグ!!」

 

 里香「明日奈のサンドイッチも手が込んでるし、直葉のおにぎりは懐かしいお袋の味がする!!」

 

 木綿季「いや〜…。そう言ってもらえると作ったかいがあったよ!」

 

 明日奈「直葉ちゃん、この煮物美味しいわ!出汁はどれから取ってるの?」

 

 直葉「それは鰹出汁を使ってるんです。明日奈さんこそ、ローストビーフまで作れるなんて凄すぎですよ!!」

 

 どの料理も最早店の看板メニューになれる程の完成度を誇っており、これを食べられない拓哉と和人が残念で仕方ない。

 

 珪子「拓哉さんとキリトさんにも残しておきましょうか?」

 

 明日奈「そうだねー。これだけの量は食べ切れないし」

 

 里香「これいっただきー!!」

 

 別の紙皿に2人の分を割けているとその1つを珪子の横から里香がかっさらっていった。

 

 珪子「何してるんですかー里香さん!」

 

 里香「この世は弱肉強食なのよ。今の内にいっぱい食べておかないと損でしょ?」

 

 珪子「そんなに食べて太っても知らないですよー」

 

 里香「うぐっ…痛いとこつきよるな。でも、珪子はもっと食べないと育つもんが育たないわよ〜?」

 

 珪子「そ、それはこれからですよ!!?」

 

 里香と珪子のやり取りにおかしくなり、みんなが笑っているとふと木綿季のスマホが鳴った。

 

 木綿季「?」

 

 スマホの画面には新着メッセージが届いた報せが表示され、中身を見てみる。

 どうやら拓哉からだが、カウンセリングはまだかかるらしいとの事だった。

 

 明日奈「拓哉君から?」

 

 木綿季「うん。明日奈も?」

 

 ふと見てみるとどうやら和人からも同じ内容のメッセージが届いたようだ。

 返事を打っていると、直葉から他愛のない質問が飛んできた。

 

 直葉「あの〜…皆さんはお兄ちゃんと拓哉さんにはどんな風に知り合ったんですか?」

 

 4人は顔を見合わせてからどこか懐かしいような表情になり、あの頃を思い出していた。

 

 珪子「私は死んだピナを生き返らす為にキリトさんや拓哉さん、木綿季さんと一緒に冒険に行ったんです」

 

 木綿季「懐かしいね〜…」

 

 

 

 珪子ことシリカは周りにちやほやされ自分には実力があると過信し、迷いの森と言うフィールドで当時パーティを組んでいたプレイヤー達と一緒に素材集めをしていた。

 だが、そのパーティと仲違いをしたシリカは1人で迷いの森を出ようと試みたが、マップ情報を持っていなかったシリカは当然出口にたどり着けず、行く先々でモンスターとの戦闘を余儀なくされた。

 次第にアイテムも底を尽き、気力でどうにかなる数でもなかった。

 適正レベルに達していようが、数の暴力にはどうする事も出来ない。

 恐怖と不安で集中力を乱した隙にモンスターからのトドメの一撃が振り下ろされる。

 死を確信したシリカは瞼を閉じ、その瞬間を待っていた。

 だが、その瞬間は待っても襲いかかって来なかった。

 ふと、瞼を開くとそこにはモンスターの一撃を食らってぐったりと倒れている相棒のピナがいた。

 ピナを抱き抱えるとHPは減少していき、やがてそれも消え、ピナの体はポリゴンとなって四散した。

 

 

『いやぁぁぁぁぁっ!!』

 

 

 自分のせいだ。自分がパーティメンバーと仲違いなどしなければ、自分が己の実力を過信しなければとシリカの中には後悔が渦巻き、背後に忍び寄るモンスターの群れに気付かなかった。

 仲間の、友達の死を目の当たりにしたシリカは今度こそ自身の死を確信したが、またしてもそれはあっさり砕かれる事になる。

 モンスターの群れが全てポリゴンとなって天に昇っていく中、1人の少年が悲しそうな顔でシリカを見ていた。

 この場合ありがとうと言うべきなのだろうが、シリカにとって少年に助けられた事よりもピナを失った悲しみの方が大きかった。

 涙は止まる事なく流れ、嗚咽していると少年が近づき、泣かないでと心配する。

 その少年は何かアイテム化してないかと尋ねられたシリカはアイテムストレージを開き、そこには死んでしまった"ピナの心”と表記されたアイテムが加わっている。

 それを見て止まっていた涙がまた溢れそうになるとその少年が慌ててアイテムの説明をし始めた。

 テイムモンスターは死んでもその心がアイテムとしてビーストテイマーにドロップするらしく、それさえあればテイムモンスターを蘇らす事が出来るらしい。

 問題なのはテイムモンスターを蘇らす為に必要な"プネウマの花”が47層の思い出の丘と言うフィールドダンジョンにあるらしい。

 だが、シリカの今のレベルでは47層のモンスターに到底太刀打ち出来ないだろう。

 それを見越していた少年はアイテムストレージからシリカに合う装備を一式無償で提供する事でレベルについては解決した。

 シリカは何故自分の為にそこまでしてくれるのか少年に尋ねた。

 

 

『君が…妹に…似てるから…』

 

 

 それを聞いたシリカは思わず笑ってしまい、少年も恥ずかしくなったのかシリカから顔を背ける。

 こうしてピナを生き返らす為の間、その少年とパーティを組んだシリカは少年の案内で迷いの森から脱出する事が出来た。

 

 

 

 里香「うわ〜…そんなキザな事言ったのアイツ…。

 まぁ、そこがキリトらしいっちゃらしいけどさー」

 

 珪子「その次の日に47層のフローリアに行って、そこで拓哉さんと木綿季さんに会ったんです」

 

 木綿季「ボク達はフローリアをホームにしてたからね。

 珪子達について行ったのは違う目的があったからだけど」

 

 

 

 フローリアに到着したキリトとシリカはキリトの応援依頼を受け、タクヤとユウキを呼び出した。

 そして、何事もなく"プネウマの花”を入手した一行が主街区手前の橋に差し掛かった時に事件が起きた。

 タクヤが索敵スキルで木影で隠蔽(ハイド)していたプレイヤーを看破すると、そのプレイヤーはシリカと仲違いした張本人のロザリアと言う女性プレイヤーだった。

 シリカが何でと前に出ようとするのをタクヤが止めて、橋の中央まで歩み近づく。

 ロザリアは不敵な笑みを零しながら"プネウマの花”を寄越すように要求してきた。

 無論、タクヤはそれを断るとロザリアの合図と共に木影から数人のプレイヤーが現れた。そして、全員のカーソルの色がオレンジである事も確認出来た。

 実は、ロザリアとそのプレイヤー達は"タイタンズ・ハンド”という犯罪者(オレンジ)ギルドに属していた。

 だが、タクヤとユウキ、そしてキリトはその事を知っていて3人はシリカを囮に使ってタイタンズ・ハンドを監獄エリアへ送る依頼を被害に遭ったプレイヤーから頼まれていたのだ。

 初めはシリカを囮に使いたくなどなかったが、シリカがホームとしている主街区に戻ってきた時にロザリアに小言を言われており、その時にタイタンズ・ハンドの情報と一致し、今日の計画を練ったのである。

 

 

『この回廊結晶はお前らが潰したギルドのリーダーが大金を叩いて手に入れたんだ。そいつはお前達を殺してくれと言わず監獄に送ってくれと泣きながら最前線でプレイヤーに頭を下げていたんだ。…お前らにその気持ちが分かるか?』

 

 

 仲間が殺され、たった1人だけ残されたそのプレイヤーの中で怒りや憎しみが渦巻いているハズだ…殺したいほどに…。

 だが、そうは頼まなかった。

 監獄エリアに送って、自分達が今までやってきた悪行を反省してほしいと泣きながらタクヤに頼んできた。

 タクヤはその依頼を引き受け、今ここに立っている。

 それからのタクヤは圧巻だった。

 軽く10は超えているであろうプレイヤーの攻撃をタクヤは敢えて避けず、為されるがままに立っていた。

 シリカもその光景には耐え難いものがあり、目を背けてユウキとキリトにタクヤを助けるように促すが、2人は大丈夫、安心してと言うばかりでタクヤを助けようとしなかった。

 数分間、タクヤは攻撃を受け続けたが、驚く事にタクヤのHPは1ドットすらも削られていなかったのだ。

 キリトの説明によれば"バトルヒーリング”スキルで1分間で回復するHPが800あるらしく、その時間内に回復するHP以下の攻撃は意味を成さないとの事だった。

 それに怖気付いたタイタンズ・ハンドは逃亡を試みたがあえなく失敗に終わり、回廊結晶で開いた監獄エリアに全員を送る事が出来たのだ。

 

 

 

 珪子「あの時の拓哉さんはカッコよかったなぁ…」

 

 里香「私は珪子みたいにロマンチックじゃなかったけどねー。

 第一印象なんか最悪だったわー」

 

 明日奈「ごめんねリズ」

 

 里香「今となっちゃ良い思い出だけどねー」

 

 

 

 里香ことリズベットとキリトの出会いは平凡な日常から突然非平凡な日になる程に強烈だった。

 リズベットは鍛冶師として攻略組からも信頼を買われ、店は売上は好調であった。

 特に歩く広告塔として有名なのはアスナが持つ"ランベント・ライト”と言う細剣だ。

 元はアスナが所持していた"シバルリック・レイピア”と言うクエストの進行中に偶然手に入れた細剣をインゴットにして鍛え直した代物だ。

 アスナがゲームクリアのその日までこれを愛刀にすると言わ占めただけの事はあり、キリトの持つ魔剣"エリュシデータ”と遜色ないステータスに仕上がった。

 そして、アスナの勧めでリズベット武具店を訪ねたキリトは"エリュシデータ”と同等の剣を作ってもらうべく、その店で最高傑作と言われて出された剣を試し斬りと称してあっさりと折られた事は今でも覚えている。

 そして、キリトの剣を作る為、リズベットを連れて鉱石集めに出かけた。

 その鉱石は氷雪地帯にいるドラゴンの体内で生成されるらしく、戦いを挑むも、不意に出てきたリズベットを庇ってキリトとリズベットはドラゴンの住処の大穴へと落ちていった。

 現時点で脱出不可能と結論づけた2人は仕方なくそこで野宿するハメになる。

 リズベットはキリトから借りた寝袋の中へ入ると不思議な感覚に襲われていた。

 今日初めて会った得体の知れない少年と布団を並べて寝る事になろうとは誰が予想出来たであろうか。

 不意に人肌が恋しくなったリズベットは寝袋から片腕を出してキリトに差し出す。手を握るようにキリトに言ってキリトも戸惑いながらもリズベットの手を握った。

 

 

『不思議…。ゲームの中で、私達はデータの集合体なのに…暖かい…』

 

 

 キリトの温もりに包まれながら眠ると心が安らいでいくのを感じたリズベットは今までで1番の熟睡を味わった。

 翌日、朝早くからドラゴンが巣穴へと戻ってきて、それを利用して2人は見事巣穴からの脱出に成功した。

 空へと打ち上げられた2人は朝日が昇るのを見ながらリンダースへと転移した。

 

 

 

 里香(「あーあ…キリトの奴、今頃美人のカウンセラーに鼻の下伸ばしんだろーなー…」)

 

 直葉「明日奈さんはどうだったんですか?」

 

 明日奈「わ、私?私のはそこまで面白くないよー」

 

 木綿季「明日奈はねー最初会った時、凄いツンツンしてたんだよー?今の性格が嘘みたいだもんねー?」

 

 明日奈「そ、それは言わないでー!!」

 

 

 

 それは第1層攻略会議前の事であった。

 迷宮区でレベリングをしていたタクヤとユウキ、キリトはそこで1人コボルドの群れに立ち向かっていた赤いローブを羽織ったプレイヤー…アスナと遭遇した。

 1人でコボルドの群れに立ち向かうなど無謀にも程がある。3人は急遽、レベリングを中断してアスナを助ける事にした。

 

 

『なんで…!!なんで死なせてくれないのよ!!私は戦った…私はこの世界で戦い続けて…そして…!!なのになんでよ!!どうせみんな死ぬのよ!!

 それが遅いか早いかの違いじゃない!!だったら最後ぐらい満足させて死なせてよ!!』

 

 

 開口1番アスナが発した言葉は感謝のものではなかった。

 アスナは現実世界で今まで1度も楽しいと思える時間がなかった。

 母の徹底した教育方針に文句なく従い、有名私立小学校、中学、高校、大学までも母が敷いたレールをただ歩んでいくだけだった。

 それに何の違和感も感じなかったし、明日奈自身それが輝かしい将来に通じていると疑いもしなかった。

 だが、魔が差したのか明日奈は兄のナーヴギアを被り、SAOと言うデスゲームに強制参加させられてしまったのだ。

 ただ少し興味があっただけ…。少し遊んだらまた勉強をしようと考えていたのに…。

 明日奈はデスゲームが宣告されても数日間ははじまりの街の宿に引き篭もっていた。

 時間だけが過ぎていく中で明日奈は一体何をしてるんだろうと考えるようになった。

 ただ、何もしないまま時間だけが流れ、窓の外を見れば防具に身を包んだプレイヤーがフィールドへと出かけていくのが見える。

 死ぬリスクが格段に上がるのに何故フィールドに出るのだろうと明日奈は疑問に思った。

 だが、答えはすぐに見つかった。帰りたいからだ。元いた場所に。

 現実世界に帰る為に剣を取り、竦んだ足を無理に立たせているのだ。

 それに気づいたアスナも行動に出る事にした。

 フィールドに出て、モンスターを狩り、初心者にしては呑み込みも早く、たちまち迷宮区の側にあるトールバーナへとたどり着いた。

 だが、街に寄らず、そのまま迷宮区の中へと入り今に至る。

 

 

 

 木綿季「あの時のアスナは本当に怖かったんだよ。

 ボクなんか泣きそうになったし…。珪子だったら絶対泣いてたよ」

 

 珪子「そ、そんなにですか…?」

 

 明日奈「そんな事ないってばっ!!?木綿季もおかしな事言わないでよー!!!」

 

 

 

 そうして、行動を共にするようになってからアスナの性格は穏やかになっていった。いや、本来の性格に戻っていったと言った方が正しいだろう。

 優しく、人付き合いもよく、面倒見がよいといった性格と美しい容姿に惹かれて度々婚約を申し込まれる事もあったそうだ。

 そんなSAOの女神とまで崇められたアスナのハートを射止めたのが何を隠そう黒の剣士キリトである。

 

 

 

 直葉「明日奈さんはお兄ちゃんのどこに惹かれたんですか?」

 

 珪子「私も聞きたいです!!」

 

 明日奈「えぇっ!!?…えーと、その…優しい所とか小さい事でも気にかけてくれたりとか、どんな時でも私を…守ってくれる…所とか…」

 

 木綿季&里香&珪子&直葉「「「「あまっ」」」」

 

 明日奈「なによぉ!!!ゆ、木綿季だっていっつも拓哉君とイチャイチャしてるくせにぃっ!!!!」

 

 

 

 それはまだSAOがデスゲームになる前の事だった。

 ユウキは1人フィールドに出てモンスターを狩っている時、油断が生じ、植物型モンスターに足を捕まり、身動きが取れない状況に陥った。

 周りには助けに来てくれるプレイヤーは存在せず、必死に逃げ出そうとするも植物型モンスターは数を増やす一方だった。

 そんな中、颯爽と助けに来たのがタクヤだった。

 植物型モンスターの触手を一刀両断してユウキを抱えて安全エリアまで逃げる事に成功した。

 そのお礼を兼ねて街で昼食を摂り、武具屋を物色して、キリトにソードスキルを教えてもらったりと初対面のプレイヤーと一緒に1日を過ごした事に自身もまったく違和感がなかった。

 まるで、姉と一緒に遊んでるような感覚に似ていた為につい行動を共にしてしまったのだ。

 そして、デスゲームが開始されてタクヤとキリト、ユウキは次の街に向かう為、はじまりの街を後にした。

 今にして思えばタクヤと最初から最後まで一緒に行動していた気がする。

 キリトとアスナでも1年以上は互いにパーティを組んだりする事もなく、フロアボス戦の時に顔を合わせるぐらいだったハズだ。

 そして、ユウキがタクヤを異性として意識し始めたきっかけは"マクアフィテル”という片手用直剣を手に入れる為に受けたクエストだ。

 クエストの最中にタクヤが死の危険に晒されてしまい、ユウキはタクヤを助ける為に、ネームドモンスターである"マザーズ・シェキナー”と戦い、"マザーの樹液”を手に入れた。

 その時からだ。一緒にいたいとユウキが思うようになったのは。

 ただ、漠然としていたその感情は時を重ねるにつれて形を成し、その中に魂を入っていったのだ。

 

 

 

 木綿季「…」

 

 懐かしい思い出に浸りながらクロールで泳いでいると横から里香の声が聞こえ、水中から顔を出した。

 

 里香「木綿季〜…アンタまた拓哉の事考えてるんでしょ〜?」

 

 木綿季「えっ!?な、なんで分かったの!!?」

 

 里香「木綿季の頭ん中は8割ぐらい拓哉で埋まっちゃってるからね〜。これぐらい誰にだって分かるって!」

 

 そこに直葉にフォームを教え終わった明日奈も参戦する。

 

 明日奈「本当に木綿季は拓哉君にゾッコンだからねー。

 所構わずイチャイチャしてるしねー」

 

 木綿季「明日奈…さっきの仕返しなのかな?」

 

 里香「私達から言わせてもらえば両方とも所構わずイチャついてるわよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年07月25日17時10分 SAO帰還者学校 カウンセリングルーム

 

 菊岡「2人共、今日はありがとう。おかげでより具体的な事が判明したよ」

 

 拓哉「ってもう夕方じゃねぇかっ!!!」

 

 和人「腹減った…明日奈の弁当…」

 

 窓から傾き始めた夕焼けが差し込み、1日の大半をカウンセリングルームで過ごした拓哉と和人はどっと疲れが表れ、肩を落とした。

 

 菊岡「まぁまぁ…。夏休みも始まったばかりだし、青春を彩るのは明日からでも遅くないよー。

 あっ、念を押しておくけど彼女達には今日の事は内密だよ?」

 

 拓哉「へいへい!!分かってるよ!!」

 

 2人は文句を言いながらカウンセリングルームを後にし、木綿季達の元へと帰っていった。

 そんな2人を最後まで見届け、部屋から出た後、ボイスレコーダーを鞄の中へと仕舞い込んで身支度を済ませる。

 

 

 

 菊岡「…また会おう…拓哉君…キリト君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明日奈「あっ!おーい2人ともー、こっちだよー!!」

 

 正門で待ち合わせしていた明日奈達は校舎から出てきた拓哉と和人に手を振った。

 

 木綿季「拓哉〜!!」

 

 拓哉「悪かったなみんな。カウンセリングが長引いちまって…」

 

 和人「気づいたら夕方だもんな…。はぁ…腹減った…」

 

 拓哉「菓子しか食べてねぇもんなぁ…」

 

 先程から腹の虫が鳴り止まず、和人に至っては今にも倒れそうな程腹を空かしている。すると、2人の前に木綿季と明日奈がバスケットを差し出した。

 中を見てみると今日の弁当の残りであろう料理が入っていた。

 

 木綿季「2人の為にちゃんと残しておいたよ!」

 

 拓哉「木綿季ぃ…みんなぁ…!!」

 

 和人「ありがとぉ…これでオレ達何の為にここに来たのか分からなくなる所だった…!!」

 

 明日奈「そんなにっ!!?」

 

 里香「ったく、大袈裟ねー」

 

 帰る前に近くの公園のベンチに寄り、そこで拓哉と和人は遅めの昼食を心置き無く堪能した。

 

 拓哉「美味い!!どれも絶品だ!!」

 

 和人「あぁ…!!生きててよかった!!」

 

 明日奈「お腹空きすぎてキリト君のキャラが変わってる…」

 

 珪子「そんなに急いで食べると喉に詰まっちゃいますよ?」

 

 珪子が気を利かせて麦茶を紙コップに入れて2人に手渡す。

 

 拓哉「大丈夫だいじ…!!」

 

 木綿季「ほらぁ!だから言ったじゃん!!」

 

 案の定喉に詰まらせた拓哉は紙コップの麦茶を全て飲み干し、喉に詰まったものを胃へと落とす。

 

 拓哉「死ぬかと思った…!」

 

 里香「何やってんのよ…」

 

 直葉「お兄ちゃん、そんなに食べて夜食べられる?」

 

 和人「もちろん食べるに決まってる」

 

 明日奈「あははは…」

 

 こうして、夏休みの思い出にまた新たな1ページが加わった。

 

 




如何だったでしょうか?
エクストラエディションは2話に分けてお送りいたします。
次回は海底神殿でのクエストのお話ですね。
ユイとストレアを上手い具合に書けたらなと考えてます。
次回もお楽しみに!
評価、感想お待ちしております。



では、また次回!
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