ソードアート・オンライン-君と共に在るために-   作:ちぇりぶろ(休載中)

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という事で52話目に突入です。
ここしばらくは気温も下がって寒くなってきましたが、作中では夏真っ盛りとなり、書いてて少しだけ暖まった気がします。


では、どうぞ!


【52】夜空に咲く花達

 2025年07月30日 18時00分 陽だまり園

 

 陽だまり園の門の前までやって来た拓哉は道行く人々を見ながら愛しき人を待っていた。

 お揃いの浴衣を来ているカップル、我が子と一緒に歩く家族、同性の友達とはしゃぎながら走る者達と、老若男女問わずに全員ある場所に吸い込まれていくかのように大変な賑わいを出している。

 いつもよりも人の往来が激しいのは今日この街で開催される花火大会当日だからだろう。

 かく言う拓哉もその為にここにやって来ている。

 

 拓哉(「懐かしいなぁ…。昔もよく連れて行って貰ったっけ…」)

 

 遠い昔、まだ幼い拓哉と直人はよく両親に花火大会に連れて行って貰った記憶がある。長兄もたまに一緒についてくる事もあった。

 射的にくじ引き、金魚すくいや輪投げなどもよくやったものだ。

 夜空に満開に咲く花火はいつ見ても感動した。

 最後に行ったのはいつだろうと思い出していると、陽だまり園の玄関が開く音がした。

 後ろを振り返ると、淡い紫色で染められた浴衣を羽織る木綿季の姿があった。

 

 木綿季「おまたせー拓哉」

 

 拓哉「おう」

 

 タッタッと階段から降りてきて拓哉の前までやって来る。

 よく見れば顔に少しばかり化粧をして普段とは違った木綿季がそこにいた。

 

 木綿季「智美さんにお化粧してもらったんだけど…どうかな?」

 

 拓哉「え?あ、いや…その…いいんじゃねぇか?…綺麗だよ。浴衣も木綿季に似合ってる…」

 

 木綿季「へへ…ありがと!」

 

 

 

 

 

 智美「見せつけてくれるわね〜」

 

 拓哉&木綿季「「!!?」」

 

 いつの間にか木綿季の後ろへと迫っていた智美の声に驚きながらその表情を見てたちまち顔が紅潮してくる。

 

 森「やぁ、拓哉君こんばんは。今日は木綿季の事よろしく頼むよ」

 

 玄関から現れた森に言われ、拓哉も慌てて返事をした。

 

 拓哉「は、はい。なるべく遅くならない内に帰ってきますので…」

 

 智美「時間なんて気にしなくていいのよ〜。なんなら、今日は帰って来なくても…」

 

 木綿季「な、な、何言ってんのさ!!?帰るに決まってるじゃん!!!」

 

 智美「拓哉君の家に泊まっても何も文句はないのよ?」

 

 木綿季「!!?」

 

 木綿季から湯気が立ち込めるのを見て拓哉と森が2人を引き剥がしに出る。

 これ以上事が進めば木綿季の許容量が限界を迎えてしまうだろう。

 

 森「智美、悪ふざけもほどほどにな」

 

 拓哉「木綿季もあんまり真に受けんなって。じゃあ、行ってきます」

 

 木綿季「行ってきましゅ…」

 

 そう言い残して拓哉と木綿季は人混みに紛れながら花火大会の会場へと向かった。

 

 拓哉「大丈夫か木綿季?」

 

 木綿季「う、うん。まだドキドキしてるけど大丈夫だよ」

 

 拓哉「智美さんは何考えてんのか分かんねぇな。いろいろ危ない人だ…」

 

 ゆっくりと歩きながら会場へ向かっている途中でそんな話をしていると、遠くから祭囃子の音が聴こえ始めた。

 

 木綿季「花火大会なんて久しぶりだからわくわくしちゃうね!」

 

 拓哉「あぁ…。オレも子供の頃に行ったきりだな」

 

 木綿季「ここの花火大会は凄いんだよ!!わざわざ他の街からも祭り目当てで来るんだから!!」

 

 会場に近づくにつれて、人の数も増え始めてきた。

 この人混みの中ではぐれたりしたらいろいろと危ないだろう。

 

 拓哉「木綿季、ほれ…」

 

 木綿季「…うん!」

 

 拓哉は右腕を少しだけ上げて木綿季が組めるようにする。

 木綿季もそれが嬉しかったのか自分の腕を拓哉の腕に絡めた。

 

 拓哉「それにしてもやっぱり浴衣で来てる人が多いな。オレもやっぱり来てくればよかったかな」

 

 木綿季「本当だよー。何で着て来なかったの?」

 

 拓哉「いや、理由はないんだけどな」

 

 木綿季「拓哉の浴衣姿見たかったなー…。絶対にカッコイイもん…」

 

 拓哉「悪かったよ。今度みんなで行く時まで浴衣は我慢な」

 

 会場である河川敷へとやって来た2人だが、先程よりもさらに見物客が多い。夏という事もあり拓哉の額にはじんわりと滲み出る汗が目立ってきた。

 

 木綿季「これだけいるとやっぱり暑いねー。これ持ってきて正解だったよ」

 

 拓哉「団扇(うちわ)か!助かるぜ!」

 

 木綿季から受け取った団扇を仰ぎながら先へと進んでいく。

 出店から香ばしい匂いが立ち込め、それを嗅いだ木綿季のお腹が鳴り始めた。

 

 拓哉「打上げ時間までまだ時間あったよな?何か食うか?」

 

 待ってましたと言わんばかりに木綿季の瞳が輝き、どの出店に行こうか迷い始める。

 

 木綿季「じゃあ、あれ!焼きそば食べたい!」

 

 拓哉「あいよ」

 

 焼きそばの出店に寄って焼きそばを2つ買う。

 

「おっ!兄ちゃん達はカップルかい?」

 

 木綿季「そうだよ!」

 

「じゃあ、おいちゃんからのサービスだ!」

 

 そう言って普通に売られている物よりも多く盛られた焼きそばを拓哉と木綿季に渡した。

 

 拓哉「いいんすか?」

 

「いいんだよいいんだよ!こういう初々しいカップル見たさにやってるトコあっからな。祭りを楽しんでこいよ!」

 

 木綿季「ありがとうおじさん!!」

 

 気前の良い店主に礼を告げ、店を後にした。

 それからイカ焼きや綿アメを購入して2人は落ち着いて食べられる所へと移動した。

 探していると、運営が用意したであろう一般用の休憩所を発見し、そこで食べようという事になった。

 

 木綿季「うーん…!!焼きそば美味しー!!」

 

 拓哉「そんなに急がなくても誰も取らねぇよ。ほら、ほっぺについてるぞ?」

 

 木綿季「拓哉ー取って取ってー」

 

 仕方なく木綿季の頬についた焼きそばの食べかすを摘み、拓哉はそれを口へと運んで食べた。

 

 木綿季「…もう」

 

 拓哉「ん?どうかしたか?」

 

 木綿季「なんでもないよ!」

 

 その後、拓哉達は購入した物を全て食べ終え、次に射的や金魚すくいなどの出店へと足を運んだ。

 

 拓哉「射的でもしてみるか?」

 

 木綿季「やりたいやりたい!」

 

 拓哉は店主に料金を払い、いかにも子供っぽいコルク銃を木綿季に渡し、上体を寝かせながら景品に的を絞る。

 

 拓哉「落ち着いて狙えよー」

 

 木綿季が狙うのは景品の中で1番大きいぬいぐるみだ。

 それが何の動物なのかは分からないが木綿季の御眼鏡にかかったようでいつにも増して真剣な表情を作る。

 

 木綿季「…てりゃっ!!」

 

 放たれたコルク銃は一直線にぬいぐるみへと飛んでいき、見事ぬいぐるみの腹へと突き刺さった。

 

 木綿季「やった!…ってあれ?」

 

 ぬいぐるみの腹に刺さったコルクが力なく落ちていき、ぬいぐるみは微動だにせず景品を獲る事は出来なかった。

 

「惜しかったねー」

 

 木綿季「あー…ダメだった」

 

 拓哉「ちょっと貸してみな」

 

 拓哉は木綿季からコルク銃を受け取り、銃口にコルクを詰めた。

 両手でしっかりと固定して軽く息を吸って吐く。これを数回繰り返して標的のぬいぐるみに視線を合わせる。

 木綿季も横から見ていたがこの時の拓哉の瞳は印象的だった。

 睨みつけるでもなく、ふざけている訳でもない。

 店主や他の客も拓哉の姿を見て息を呑んでいる。

 

 拓哉(「どーせ、景品に何らかの細工でもしてあんだろ…」)

 

 そのような事をしていないと信じたい所だが、こういう祭りの出店では悪質な商売をしている事などよくある話だ。

 もちろん全ての出店でそれが行われている訳ではないのだが、コルク銃の威力もそれなりにあり、あの程度の大きさで倒れないのも不自然である。

 と、拓哉が思うだけで木綿季の狙いが悪かったのも否定出来ない。

 木綿季はぬいぐるみの真ん中…腹の部分に当てて倒れなかったのだが、威力があるコルク銃でも物量のある物を倒せはしないのだ。

 この場合は真ん中を狙うよりもバランスを崩せる適切な箇所にターゲットを絞ればいい。

 

 拓哉「…」

 

 木綿季「頑張って拓哉!!」

 

 横で木綿季が応援してくれている。このぬいぐるみは少し不安定で端を狙って撃てばすぐにでも倒れるだろう。

 神経を研ぎ澄まし、狙いをぬいぐるみの左斜め上に照準を合わせる。

 出店一帯を静寂に包ませながら、トリガーを引いた。

 勢いよく放たれたコルクが照準通りに真っ直ぐ飛ぶ。

 ポンとなんとも柔らかそうな音が鳴り、コルクだけが地面へと落ちていく。

 

 木綿季「やっぱり…」

 

 木綿季が諦めかけたその時、ぬいぐるみが徐々に揺れ始め、ゆっくりと傾き始めた。

 

「うおっ…」

 

「「!!」」

 

 拓哉「…ふぅ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぬいぐるみが一直線に陳列棚から落ち、店主がそれを慌ててキャッチした。

 

「おめでとう!これが景品だよ!」

 

「すげぇ!!」

 

「落ちないかと思ったわ!!」

 

 景品を受け取りながら周りの見物客も拓哉と木綿季を囲んで喝采を上げた。

 店主も参ったと言うように笑いながら拓哉の肩を数回叩き、気持ちよく見送ってくれた。

 

(あん)ちゃんすげぇな!今日まで射的屋やってきたが、目玉の景品取られた事ないんだわ!彼女が羨ましいねぇ」

 

 木綿季「えっへん!拓哉にかかれば御茶の子さいさいだよ!」

 

 拓哉「妙なハードル上げんなって。…たまたま、偶然っスよ」

 

 景品のぬいぐるみを木綿季に渡して出店を後にすると、他にも輪投げや金魚すくいなどもやってみた。

 輪投げは下位の景品を数個取ったくらいで金魚すくいに至っては拓哉は完敗し、代わりに木綿季が10匹以上も掬い上げるという凄技を見せた。

 だが、10匹も掬っても飼えない為、3匹程度だけ貰ってから他の出店を見て回った。

 

 木綿季「拓哉にも苦手な事があったんだねー」

 

 拓哉「いや、あの金魚共が悪いんだ。オレが掬い上げる時だけ暴れ回りやがって…」

 

 木綿季「んー?それはただの言い訳だよー?」

 

 拓哉「うっせ…」

 

 花火が打ち上がるまで後30分といった所だろうか。

 そろそろ花火が見える場所に移動してもいい頃合だ。

 

 木綿季「それなら穴場があるよ!ついてきて!」

 

 木綿季が拓哉の手を引っ張りその穴場へ向かおうとしたその時、後方から女性の悲鳴が聴こえてきた。

 

 拓哉「な、なんだ?」

 

 悲鳴を上げる人の声が徐々にこちらに近づいてくる。

 

「ひったくりよ!!誰かその人を捕まえて!!」

 

 木綿季「ひったくり!?」

 

「おらぁ!!どけどけどけぇ!!」

 

「きゃぁぁぁぁぁっ」

 

「うわぁっ」

 

 ひったくり犯が近づいてくるのが、見物客が道を開けていく事ですぐに気づいた。無理もない話だ。

 そのひったくり犯は右手に握られたサバイバルナイフを所構わず振り回し、見物客を無理矢理に撒いているのだから。

 

 拓哉「碌でもない事しやがって…!!木綿季、ちょっとここで待ってろ!!」

 

 木綿季「た、拓哉!?」

 

 拓哉は道が開けた場所まで移動し、ひったくり犯を待ち伏せる。

 黒の目指し帽と顔を認識させないようマスクを付け、真夏だというのに無地の黒のジャージに身を包んだテレビやマンガなどでよく見られる犯人の風貌だった。

 

「どけぇっ!!」

 

 拓哉「お前がどきやがれ!!」

 

 興奮しているのかサバイバルナイフを躊躇なく拓哉に振り翳す。

 あれに直撃すればいくらサバイバルナイフと言えど即死なんて事も十分に考えられる。普通なら前に出ても恐怖し、足が震えている事だろう。

 だが、拓哉は違った。

 

 拓哉(「リーチも短い…。ただ振り回すだけで当てる気がないのは丸わかり…。そんなのにビビる訳ねぇだろ…!!」)

 

 拓哉は知っている。本物の殺意を…、本物の恐怖を…。

 あの世界で2年間も殺し合いをしてきた拓哉にはひったくり犯がまるで駄々をこねているだけの幼稚な子供にしか見えない。

 ひったくり犯も拓哉の圧に押されたのか急にナイフを振り回す事を辞めて正面突破に全神経を研ぎ澄ませていた。

 

 拓哉「っ…!!」

 

「!!?」

 

 ひったくり犯が突き出した拳を左腕で防ぎ、盗んだバックを抱えている腕に蹴りを加えた。

 

「がっ…!!」

 

 不意に衝撃が加わり、ひったくり犯が態勢を崩した瞬間に足を引っ掛けて完全に地面に平伏せた。

 

「ぐっ!!?」

 

 拓哉「暴れんじゃねぇよ。ナイフも没収な。…誰でもいいけど警察呼んでくれねぇかな?」

 

「わ、分かった」

 

 犯人を取り押さえている為、携帯を取る事が出来なかった拓哉は周りの見物客に頼み、警察へと連絡を入れさせた。

 警察を待っている間に犯人を運営委員のいるテントまで連れて行き、手首と足首に縄をきつく縛って見張った。

 後に警官が数名駆けつけ、ひったくり犯の身柄を預けた。

 

「ご協力感謝します」

 

 拓哉「いやいやとんでもないっすよ」

 

 敬礼をしてきたので拓哉もそれを真似て敬礼で返し、警官は祭り会場を後にして行った。

 すると、背後からひったくりにあった女性とその連れの男性から感謝され、お礼をしたいと言われたが丁重に断った。

 

 拓哉「もうすぐ花火も始まるしいいっスよ」

 

「本当にありがとうございました!!」

 

 2人は軽く礼をしてまた祭りを楽しみに人混みの中へと消えていった。

 

 拓哉「…はぁ、ひったくりなんてほんとうにあんだな。フィクションの世界だけかと思ったわ」

 

 木綿季「拓哉!!」

 

 拓哉「木綿季?悪かったな、待ったか?」

 

 木綿季「やっぱり拓哉はすごいね!!カッコよかったよ!!」

 

 拓哉「まぁ、あれぐらい大した事ないって─」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木綿季「…と言うと思ったら大間違いだよっ!!!」

 

 拓哉「ひっ!!?」

 

 いきなりの怒声に声が裏返ってしまった拓哉は木綿季から出る黒いオーラにビクビクと体を震わせる。

 

 木綿季「もうちょっと考えてから動かないといつか取り返しのつかない事になるんだよ!!」

 

 拓哉「はい…仰る通りです…」

 

 木綿季「でも…」

 

 拓哉「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木綿季「…カッコよかったのは…本当だよ?」

 

 拓哉「!!」

 

 不意にそんな顔をされるとこちらもドキドキしてしまうではないか。

 と、思いつつも心配をかけたのは拓哉の落ち度だ。

 素直に謝り、気を取り直して花火が良く見える穴場へと2人仲良く手を繋ぎながら向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年07月30日 20時00分 祭り会場 穴場スポット

 

 拓哉「なぁ?ここって本当に入ってよかったのか?」

 

 木綿季「大丈夫大丈夫!子供の頃、姉ちゃんと2人で見つけた場所だから!!」

 

 完全に整備された道から外れ、祭り会場からも離れた小さな展望台へと移動した。

 その場には人っ子1人もおらず、簡素なベンチがポツンと置かれた質素な場所だった。

 

 拓哉「裏にこんな所があったのか…」

 

 木綿季「へへっ。驚いた?今は潰れちゃった展望台だから誰も来ないし、2人っきりになるには持ってこいの場所でしょ?」

 

 柵から見下ろすと河川敷では今か今かと花火が打ち上がるのを楽しみにしている見物客で賑わっている。

 だがこの場所まで声は届かず、時折吹く風の音だけが拓哉と木綿季を包み込んでいた。

 

 拓哉「確かに穴場だな」

 

 2人はベンチに腰をかけて花火が打ち上がる瞬間を待った。

 すると、拓哉の肩に木綿季の頭がゆっくりと乗る。

 

 木綿季「…拓哉はさ、将来何がしたいとか決まってるの?」

 

 拓哉「いきなり進路相談か?」

 

 木綿季「ボクと姉ちゃんは高校を卒業したらあの園から独り立ちしなくちゃだし、それまでに将来の事とか決めなくちゃいけないからさ。

 拓哉はどうするのかなーって…」

 

 拓哉「そっか…」

 

 正直、再来年にはあの学校から巣立ち、将来に向けて生きていかなければならない。

 大学へ進学するにしても、どこかの企業に就職するにしても今の内に明確な進路を決めなくてはならない。

 

 拓哉「…まだ具体的な事は全然決まってないんだけど」

 

 それでも、拓哉にはやりたい事があった。

 別に憧れていた訳ではない。()()()()を知るまで拓哉はあまりにも先を見ようとはしなかった。

 将来の事なんて全然考えず、今を生きるだけで手一杯だったというのもあるが、本当はその先を考えてしまうのが怖かっただけかもしれない。

 考えてしまえば()()()から逃げる事になるんじゃないかと、あの事から目を逸らす事になるんじゃないかと心の中で思っていた。

 だけど、あの世界に足を踏み入れて、体験して、積み重ねた思い出はこの満点の星空のようにキラキラと輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 単純に凄いと感じたのだ。仮想世界(あのせかい)を…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拓哉「オレ…ゲームデザイナーになってみたいんだ」

 

 憧れたから、凄いと思ったから、茅場晶彦が創り上げた世界に魅了されてしまったから、今度は自分がそんな世界を創ってみたいという欲求が出てきてしまった。

 

 木綿季「ゲームデザイナー…?それって、拓哉のお兄さんみたいな?」

 

 拓哉「いや、兄貴(アイツ)以上のものを創りたい!今まで負けっぱなしだったからな。今度こそ兄貴(アイツ)を超えてやるんだ!!」

 

 木綿季「…具体的じゃん」

 

 拓哉「なりたい事は決まったけど、それを成す為の過程が何も決まってないって意味だよ。大学も探さなきゃだし、下手したら日本(こっち)よりVR技術が進んでるアメリカに留学する事になるかもしれないし…」

 

 アメリカの大学に行ってまずはVR技術について学び、その後にゲームのデザインに入りたい。茅場晶彦が進んだ道を歩いてみたい。

 あの男が何を見て、何を聞いて、何を感じて、何を願ってあの世界を創り上げたのかを知りたい。拓哉が最初に思った事と言えばそれぐらいだ。

 それが形を成すまで2年もの時間がかかった。

 

 木綿季「留学…」

 

 拓哉「別に兄貴(アイツ)を許す訳じゃない。母さんと父さんを見放した事は何があっても許す事は出来ない。

 ただそれは兄貴(アイツ)がこれまで積み重ねてきたものを否定する事とは違うってようやく気がついた。技術はそれを行使する者とは関係のないものだ。それ自体が悪いって事じゃない」

 

 木綿季「…うん」

 

 拓哉「オレはただ知りたいんだ。あの世界がどうやって創られていくのか…。そして、自分の手でいつかプレイするみんなが笑顔になってくれるものを創りたい…!!」

 

 木綿季「そっか…。でも、もし留学するって事になったら…しばらくは会えないんだね…」

 

 拓哉「…木綿季にもやりたい事、目指してるものがあると思う。

 それを奪ってまでオレは一緒にいたくない」

 

 それは木綿季を縛る事になるから。木綿季には自由に自分の目指したい事に向かって歩いてほしいと、拓哉は思っている。

 それは誰かが決める事じゃなく、木綿季自身が決める事だからだ。

 

 木綿季「…ボクはまだ中学生だし、卒業するまでまだ時間はあるけど…拓哉が留学するって決めたんならボクも応援するよ」

 

 拓哉「…まぁ、留学はもしもって考えだから、まだ明確には決まってないけどな」

 

 まだ時間はある。今はこの時間を大切にしていきたい。でも…。

 

 木綿季「拓哉はすごいなー…。ボクなんてまだなーんにも考えてないよ!…あっ、でも1つだけ決めてるものがあった」

 

 拓哉「それって?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木綿季「…拓哉のお嫁さんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、空が急に明るくなったが、木綿季の一言で一瞬花火の音が遮断された。それは木綿季も一緒で花火が打ち上がってもジッと拓哉を見つめ続けている。

 

 拓哉「木綿季…」

 

 木綿季「拓哉のお嫁さんになる事が今のボクの将来の夢かな。拓哉とこれからずーっと一緒にいたいし、愛し合いたいな…。拓哉はどうかな?」

 

 拓哉「…そんなのとっくに分かりきってるだろーが…」

 

 花火が瞬き、空が光に包まれていく中、木綿季の唇にそっと自分の唇を重ね合わせた。

 数秒重ね合った唇が離れると、頬を赤くした木綿季が言った。

 

 拓哉「オレも木綿季とずっと一緒にいたい。もう離したくない。

 誰にも木綿季をあげたくない。…大切にしていきたい」

 

 木綿季「ボクもだよ…。ずっと一緒にいてくれる?」

 

 拓哉「当たり前だろ?だからさ、もし留学する事になったら…オレについて来てくれるか?」

 

 縛りたくないけど…、これが我儘だって事は分かってるけど…、それでもこの気持ちを隠す事など出来ない。

 もう、互いに欠けたら生きていけないという程に依存しているのだから。

 

 木綿季「…うん!!拓哉がどこに行ったって拓哉の隣にはボクがいるから!!ずっと離したりなんかしないから!!だから、その時は…ボクも連れていって…!!」

 

 拓哉「…あぁ。…愛してる木綿季」

 

 木綿季「…うん。ボクも愛してるよ…拓哉」

 

 再び重ねられた唇はとても甘く、それでいて爽やかで清々しい気持ちにさせる誓いの印となった。

 空には幾千もの花が華麗に咲き誇り、まるでそれは2人のこれからの旅を祝福してくれているような錯覚に陥るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年07月30日 21時30分 陽だまり園

 

 木綿季「じゃあ…またね拓哉!!」

 

 拓哉「またな木綿季!!」

 

 陽だまり園へと木綿季を送り、拓哉は我が家への帰路についた。

 すると、携帯が着信音を鳴らし、画面を見ると菊岡誠二郎という名が映し出されている。

 

 拓哉「…もしもし」

 

 この時、拓哉達に降りかかる絶望へのカウントダウンが始まった事を誰も知らなかった。

 

 

 

 

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という訳でいかがだったでしょうか?
新たな章を思わせる雰囲気…。
そして、新章を過ぎればいよいよGGO編に突入です。
その後のキャリバーとマザロザ、アリシゼーションはどうしようかはまだお悩み中です。
まぁ、まだ時間はありますのでそこの所はゆっくり考えていこうかな。

評価、感想などありましたらお送りください!



では、また次回!
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