ソードアート・オンライン-君と共に在るために-   作:ちぇりぶろ(休載中)

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という訳で58話目に突入です。今回から新章に入り、人間関係やそれぞれの思いや陰謀が交錯する物語です。かなりダークな内容になってると思いますがよろしくお願いします!


では、どうぞ!


【58】崩れ去る日常

 2025年10月23日 07時30分 神奈川県横浜市 陽だまり園

 

 秋の風が吹く朝、拓哉は陽だまり園の前で準備を済ませて来る少女を静かに待っていた。すると、玄関から勢いよく小走りで拓哉の元に向かってくる木綿季が現れた。

 

 木綿季「おはよー!拓哉!」

 

 拓哉「おっす木綿季。じゃあ、行くか」

 

 木綿季「うん!」

 

 元気よく返事をした木綿季の手を握り、2人は学校へと向かった。

 学校へ通うようになって2人は毎日のように一緒に登校している。それは少しでも2人の時間を作る為。SAOでは事あるごとに一緒の時間を作れなかったという思いから、現実世界へ帰ってきた時に2人でそう話したのだ。周りからも羨ましいとの声を頂いている2人は恥ずかしながらもその時間を大切にしている。

 駅へと向かい、電車に揺られる事数十分。しばらく歩けば2人が通う学校へと到着した。すると、2人の背後から挨拶を交わすカップルが現れた。

 

 明日奈「おはよう木綿季!拓哉君!」

 

 和人「おはよう2人共」

 

 木綿季「おはよー!」

 

 拓哉「よぉ」

 

 和人と明日奈も2人に連なって一緒に登校する。

 かく言う2人も毎日一緒に登校しており、和人はクラスの男子生徒から嫉妬の嵐を受けているようだ。

 正門を潜り、お互いのクラスへと足を運ばせる。

 

 木綿季「じゃあ、拓哉。今日も昼休みに中庭で待ってるね」

 

 拓哉「あぁ。授業終わったらすぐに行く」

 

 木綿季は中等部に在籍している為、拓哉達とは館が別なのだ。それなりに距離がある為、中々遊びに行く事も出来ないし、周りが知らない人ばかりなので足が進まないのも無理はない。

 

 和人「じゃあオレもこっちだから。明日奈、また昼休みにな」

 

 明日奈「うん。今日は和人君が好きな物作ってきたからたのしみにしててね!」

 

 和人「それは楽しみだな」

 

 和人ととも別れ、拓哉と明日奈は自分達のクラスへと向かった。

 

「おはよー結城さん、茅場君」

 

「おはよう2人共」

 

 明日奈「おはよう!」

 

 拓哉「おっす」

 

 クラスに入れば何人かが拓哉と明日奈の登校に気づき、挨拶を交わしてくれる。返事をして自分の席に着くと、拓哉の前の席から茶髪でそばかすが良く似合う少女が挨拶を交わしてきた。

 

 里香「おはよう明日奈、拓哉」

 

 明日奈「おはよう里香」

 

 拓哉「よぉ。朝から元気だな里香」

 

 里香「元気出さないと最後までもたないわよ。アンタはもうちょっと元気出しなさい」

 

 朝から元気な里香にそう言われると拓哉は空返事をしながら席に座る。

 ホームルームの時間まで多少余裕があるので、その間3人で談笑にふけるのが日課になっていた。そんな所に数人の男子生徒が3人の元へとやって来た。

 

「結城さん、篠崎さん、ちょっとアッチで僕達と話さないかい?」

 

 明日奈「えっと…もうホームルームも始まるし、私達はいいよー」

 

 里香「そうねー、また今度ね」

 

「…あぁ分かった。また今度…」

 

 そう言い残して数人の男子生徒は自分の席へと戻って行くが、横目でこちらを見て眉を歪ませていた。

 

 拓哉「…」

 

 見間違えかと思っていると教壇に担任の安施恩と副担任で教育実習生の青柳新が立った。

 

 施恩「みなさんおはようございます。じゃあ、ホームルームを始めますね。新君お願い」

 

 青柳「分かりました。それではまず出欠を取りますね」

 

 青柳進行の元、ホームルームは滞りなく進み、諸連絡を済ませてホームルームは終了した。

 

 青柳「じゃあ、今日も1日頑張りましょう!」

 

「「「「はい」」」」

 

 2人が教室を後にすると、生徒達は授業の準備や友人との談笑に移る。

 

 里香「明日奈ー…数学の宿題やったー?」

 

 明日奈「何よ里香。もしかしてやってきてないの?」

 

 里香「いやーやろうとは思ってたんだけど、色々ありまして…」

 

 拓哉「どーせ、ALOで遊んでたら時間がなくなったって所だろ?」

 

 里香「そうそう!スキル上げしてたら0時回ってて…ってそんなんじゃないわよっ!!」

 

 頬を赤くしながら図星だと言わんばかりに拓哉に食い下がる里香を横目に明日奈も呆れながら言った。

 

 明日奈「ALOもいいけどちゃんと宿題終わらせてからじゃないとダメだよ?」

 

 里香「全くもってその通りです…。ってな訳でちょーっと見してくれない?今日の数学指されてんのよー。お願いしますー明日奈様ー」

 

 明日奈「ダーメ!この前もそう言って見せてあげたでしょ?今日は自分でやりなさい!」

 

 里香「そんな殺生なぁ!?」

 

 肩を落としている里香の横に先程の男子生徒が里香に数学の宿題を手渡した。

 

「これ、よかったらいいよ」

 

 里香「マジで!!?やったー!!!」

 

 拓哉「自分の為になんないぞー?」

 

 里香「うっさいわね!こちとらアンタ達と違って頭の出来が悪いんだからいいでしょ!」

 

 明日奈「そ、そんな事ないわよ?ねぇ拓哉君?」

 

 拓哉「いや、オレは自分で頭良いって思ってるから否定はしない」

 

 里香「そういう所を堂々と言わなくていいわよ!!」

 

 うるさく言いながら数学の宿題をトレースして、即座に男子生徒に返した。

 

「僕もそういう事はあまり言わない方がいいと思うな。みんな、それを聞いて嫌な気持ちになるだろうし…」

 

 まさかの反論に目を丸くした拓哉も男子生徒を見つめた。

 クラスではあまり話した事のない人から言われたもので拓哉も流れでその男子生徒に謝った。

 予鈴のチャイムがなると、その男子生徒は席へと戻っていった。

 

 明日奈「…拓哉君。あの人に何かしたの?」

 

 拓哉「いや…そんな事ないとは思うけど…確か、小林だっけ?」

 

 里香「なんで半年も経ってるのにうろ覚えなのよ…。まぁ、けど…アンタが茅場晶彦の弟だって聞いた時からあまり他の生徒がアンタに近寄ってくるのを見た事ないわね…」

 

 明日奈「最初の頃は女子が一気に来てその度に木綿季の雷が落ちてたのにね」

 

 拓哉「言わなくていいんだよそんな事は…。マジで木綿季が怒ったら洒落になんないんだからな…?」

 

 とは言ったものの、拓哉の周りには昔からの友人や共通の知り合い以外拓哉に近づく生徒がいなかったのも確かだ。

 本人は別にそれ程気にしてはいないが、先程の様に言われると周りとも接していった方がいいのも事実である。

 

 拓哉(「オレ…変な所で人見知りするからなぁ…」)

 

 里香「まぁ難しい話はいいじゃない。それにアンタには木綿季って言う嫁がいるんだから」

 

 拓哉「別に今の話で木綿季は関係ないだろ…」

 

 普段から仲が悪い訳でもないが、良くもない。班行動などでも必要なやりとり以外して来なかったツケがこんな所で表れたのかもしれない。

 そんな事を思っていると数学の担任が教室に入ってきて授業が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年10月23日 12時00分 SAO帰還者学校 高校2年クラス

 

 とうとう待ちに待った昼休み。3人は席を離れ、それぞれ待っている者の元に行こうとすると、またしても朝に明日奈と里香を誘おうとした小林が行く手を阻んできた。

 

 小林「2人共、今日は僕達と一緒に食べないかい?前々から血盟騎士団の話とか聞きたかったんだ」

 

 小林だけでは誘うのが難しいと感じたのか、今度は数人の男女子生徒も一緒に連れている。

 だが、明日奈には和人が、里香には珪子がそれぞれ待っている為、その誘いを断る。だが、今度は中々引かなかった小林に拓哉が前を出てそれを制した。

 

 拓哉「2人共、先客がいるんだよ。また今度誘えばいいじゃないか」

 

 小林「…別に君を誘ってる訳じゃないんだ。君には関係ないだろ?」

 

 拓哉「あ?」

 

 明日奈「拓哉君、もういいよ。私達からちゃんと断るから」

 

 里香「大体さっきからちょくちょくしつこいわよ。半年も経って生活リズムは出来ちゃってるんだからまた今度誘ってよ。その時は一緒させてもらうわ」

 

 小林「…分かったよ。じゃあ、明日とか大丈夫かな?今の内に約束してたら問題ないよね?」

 

 そう言われると、里香も言った手前断る事が出来ない。明日奈もそれを察して誘いを受ける事を承諾した。

 

 小林「じゃあ、また明日」

 

 そう言い残して男子生徒達は教室を後にして行ったが、拓哉はまだ納得した顔をしていない。

 

 里香「アンタも落ち着きなさい。あーいうのは後からネチネチ言ってくるわよ?」

 

 拓哉「あぁ…分かった」

 

 明日奈「それにしても今になってどうして誘ってきたのかしら?」

 

 里香「アンタ知らないの?噂じゃ明日奈の事好きって言う男子や憧れてる女子って結構いるのよ?」

 

 明日奈「え?好きって…私には和人君がいるし…」

 

 里香「アンタの事はSAOでも有名だったからね。お近づきになりたいっていう思いがあるのよ。しかも、そんな有名人が一個下の男子といるなんて方がアイツらにとっては不思議なのよ」

 

 明日奈はSAOでもトップギルドである血盟騎士団の副団長を務めていた程の有名人だ。この学校には攻略組であったプレイヤーはほとんどいない為、そういう輩からは崇拝されても不思議ではない。

 珪子に至っても中層のアイドルと持て囃され、一時期はエライ目に遭ったそうだ。

 

 明日奈「そんな事ないと思うけど…」

 

 里香「そんな事あるってーの!アンタ、少しは自分のルックスに自覚持ちなさいよ」

 

 拓哉「もういいだろ2人共。和人や珪子が待ってるぞ」

 

 気づけば昼休みに入って15分が経過しようとしている。3人はそれぞれの待ち合わせ場所へと小走りで向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年10月23日 16時00分 SAO帰還者学校 高校2年クラス

 

 ホームルームも終わり、生徒達は帰り支度を済ませ家路へと着く。

 拓哉も例外に漏れず、正門で待っているであろう木綿季の元へと向かった。

 

 拓哉「じゃあな2人共」

 

 明日奈「また明日ね」

 

 里香「明日も寝坊しなさんなよー」

 

 最後の一言は余計だと悪態をつきながらも、拓哉は真っ直ぐ正門へと足を運ばせる。上履きを履き替え、昇降口を出ると正門前で木綿季と数人の男子生徒が(たむろ)していた。

 

 木綿季「だからーボクは拓哉を待ってるから一緒に帰れないんだよ!」

 

「今日ぐらいいいじゃん?その拓哉って人も許してくれるって」

 

「最近駅中に出来たクレープ屋があるんだけどそこに寄っていこうよ」

 

 木綿季「クレープ…ってダメダメ!ボクは拓哉と帰るの!!」

 

 何度断っても男子生徒達は引く事を知らないようで、木綿季の腕を掴んで無理矢理連れていこうとした。

 

 木綿季「わっ!ちょ、ちょっと…!!」

 

「いいからいいから」

 

 拓哉「よくねぇよ」

 

「!!」

 

 木綿季の腕を掴んでいた男子生徒の腕を、そこに現れた拓哉が掴み木綿季から引き剥がす。

 

 木綿季「拓哉!」

 

 拓哉「悪ぃな。木綿季には先客がいるんだよ。分かったなら諦めろ」

 

「ちっ…」

 

「おい、行こうぜ…」

 

 諦めた男子生徒達はそそくさと拓哉と木綿季を後にして帰っていった。

 

 拓哉「大丈夫か木綿季?」

 

 木綿季「ありがとう拓哉!さっきの人達、同じクラスなんだけどいきなり一緒に帰ろうってしつこかったんだ。ボクには拓哉がいるからゴメンねって言っても諦めてくれなかったし…」

 

 拓哉「そっか…。今度からはオレが木綿季の教室までダッシュで迎えに行くよ。そっちの方がアイツらもそうそう手出しは出来ないだろ」

 

 木綿季「ホント!!えへへ…なんだか嬉しいなぁ…!!」

 

 それにしても、明日奈や里香に加えて木綿季までこんな事になっていようとは思わなかった拓哉は疑問に感じた。今日に限ってみんなが他の生徒から言い寄られる偶然があるのだろうか。

 いくら考えてもその答えは導かれる事なく、拓哉も考えるのをやめて頭の隅へと置いておく事にした。

 

 拓哉「…さっ、帰ろうぜ?」

 

 木綿季「うん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 計画は順調。ネットにも拡散させ、あとはその時が来るのを待つばかりだ。早くても明日には何かしらのアクションが起きるハズだ。

 焦るな焦るな。まだ始まったばかりだ。それに事を急かして証拠を残すようなヘマをする訳にはいかない。

 計画は完璧に遂行しなければならない。これは正義だ。正義の名の元に悪を断罪する。

 そうでなければいけない。そうでなければ意味がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうでなければ報われない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年10月24日 08時40分 SAO帰還者学校

 

 拓哉「ま、間に合った…」

 

 息を切らしながら下駄箱で上履きに履き替え、真っ直ぐ自分の教室へと向かう拓哉の前を担任である安施恩が歩いていた。

 

 拓哉「あ、シウネー!」

 

 施恩「拓哉さん!…もしかしてまた遅刻ですか?」

 

 拓哉「今日はギリギリセーフだろ?」

 

 施恩「ふふ…拓哉さんらしいですね。今日は木綿季と一緒に登校しなかったんですか?」

 

 拓哉「あぁ。オレが寝坊しちまってストレアが気を利かせて木綿季に伝えてくれたんだよ」

 

 今では拓哉と木綿季のスマホにはストレアが行き来出来るだけでなく、スマホの写真のレンズを通して外の景色が見れるように組んだアプリをインストールしている。これは拓哉と和人の共同作業によるもので同様に和人と明日奈のスマホにもインストールされている。

 それをストレアとユイに報せると満面の笑みで礼を言われた。アプリには2人のデータの一部を使用しており、拓哉と和人のナーヴギアが起動していなくても拓哉達と一緒にいられるようになった。

 まぁ、学校では他の生徒の目がある為、アプリを起動出来ないが、友人達の前でなら2人は声を出す事や、景色を楽しめる。

 

 施恩「拓哉さんは生活リズムが乱れてますからね。ちゃんと直さないとダメですよ?」

 

 拓哉「分かってまーす。そう言えば青柳先生は一緒じゃねぇの?」

 

 普段なら2人で教室へと来るハズが、何故か今日は施恩1人だけだ。

 聞けば、青柳は風邪を引いてしまい、安静にする為今日は休暇を貰っているらしい。

 

 拓哉「青柳先生ってシウネーと結構仲がいいよな?名前呼びしてたし」

 

 施恩「あぁそれは新君は私の同級生の弟で子供の頃はよく一緒に遊んでたりしてたからその名残りが今でも残ってるんですよ。

 新君がこの学校を教育実習に選んだのは私が彼に勧めたからです」

 

 拓哉「へぇ、そうだったんだ」

 

 施恩「新君は昔から真面目だったから無理が祟って風邪を引いちゃって。今日の放課後にでもお見舞いに行ってきます」

 

 拓哉「…シウネーはSAOの頃とちっとも変わってないな」

 

 SAOにいた頃もスリーピング・ナイツのメンバー1人1人に気を配り、何かと気遣ってくれていた。拓哉もそれに何度助けられたか…。

 そんな話をしながら歩いていると目的地である教室が見えてきた。

 だが、どうした事だろうか。教室内が妙に騒がしい。

 

 施恩「どうしたんでしょう?」

 

 拓哉「とりあえず行ってみようぜ」

 

 2人は急いで教室へと向かうと、中では明日奈と里香が数人の生徒と口論していた。

 

 里香「アンタ達がやったんでしょ!!何でこんな事するのよ!!」

 

「むしろ俺らが聞きたいね!何であんな奴と一緒にいれるんだよ!!」

 

 明日奈「里香!どうしよう…全然取れないよ!!」

 

 里香「除光液あるからそれ使って!!」

 

 剣幕な2人を久しぶりに見たが、今はそれどころの話ではない。拓哉と施恩は教室へと入り、里香と男子生徒の前に割って入った。

 

 拓哉「お前ら!!朝から何喧嘩してんだよ!!」

 

 里香「拓哉…!!」

 

 施恩「みなさん落ち着いてください!!」

 

「先生…」

 

 教室内に不穏が空気が漂う中、明日奈だけ拓哉の机の上で必死に何かしている。

 

 拓哉「明日奈?何やってんだよ?」

 

 明日奈「た、拓哉君!?ダメ…!!」

 

 明日奈を机から剥がすと、水や除光液で滲んでいたが、そこには拓哉に対する暴言や侮辱の言葉が書かれていた。

 

 拓哉「…!!?」

 

 その中に一際拓哉の目に止まった言葉があった。

 "犯罪者!!”、"人殺し!!”、"殺人鬼!!”の文字が所かしこに書かれている。それを見た拓哉の背中に冷や汗が滲み出る。怒りからではない。

 単純に何故この事を知っているのかという疑問や不安からだ。

 拓哉の殺人歴は菊岡誠二郎…総務省が隠蔽している為、直人やあの作戦に関わった者しか知らない事のハズだ。

 

 施恩「こんな…!!」

 

「…茅場」

 

 拓哉「!!」

 

 里香と口論していた男子生徒が拓哉の名を呼ぶ。拓哉は一瞬心臓を弾ませながらもゆっくり呼んだ男子生徒に向き直る。

 

「それは…本当なんだろ?」

 

 拓哉「それは…」

 

「答えろよっ!!!!」

 

 声を荒らげ、拓哉に問いただすが拓哉は口を閉じたまま顔を俯かせている。その姿を見て、他の生徒達もそれが肯定を表しているのはすぐに分かった。

 

「…人殺し…」

 

 拓哉「っ!!」

 

「ずっと俺達を騙してきたのかよ…!!」

 

「なんで犯罪者がこんな所に…!!」

 

「もしかして…私達を殺そうとして…」

 

 明日奈「そんな事、拓哉君は絶対に─」

 

「なんでkobの副団長がアイツを庇ってるんだ…?」

 

「まさか…結城さんや篠崎さんもグルになって…」

 

 教室がざわつき始め、次第に涙を流す女子生徒まで現れ、事態はより深刻なものへと変わっていった。

 

「僕…ネットで見たぞ…。アイツは…茅場は…あの"笑う棺桶(ラフィン・コフィン)”の幹部だったって…!!」

 

 里香「そんな訳ないでしょ!!あんな殺人集団と一緒にしないで!!ほら、拓哉も!!何か言い返しなさい…よ…」

 

 里香の瞳に映ったのはいつものような自信に溢れている姿ではなく、恐怖に駆られ、何もかも絶望した姿であった。それを見て里香も言葉を失ってしまう。

 

「なんで…そんな奴がこの学校にいるんだよ…!!何しに来たんだよ…!!…この殺人鬼がっ!!!」

 

 拓哉「っ!!!?」

 

 亀裂が入った音がした。次第に亀裂は広がり、所々砕け散っていく。

 もうダメだ。もう隠し通せない。もう無理だ。もうここにはいられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう…みんなとは一緒にいられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拓哉「…」

 

 小林「茅場…何か言えよ。黙ってないで言えよ。何でお前みたいな犯罪者がここにいるんだよ!!何でここにいようと思ったんだよ!!

 人殺しの罪を隠してまでここにいたかったのかよ!!罪を償わないでなんでここにいられるんだよ!!俺達がやっと手に入れた幸せが…お前みたいな奴のせいで壊れるってまだ分からないのかよ!!もう解放してくれよ!!もう不安に怯えながら生きたくねぇんだよ!!

 

 

 

 

 …もう自由にしてくれよ!!!!」

 

 小林が激昴し、周りの生徒もそれに仰われて拓哉に暴言を浴びせ続けた。

 明日奈と里香、施恩がそれを止めようと試みるが、勢いは増すばかりだ。

 だが、小林の言った事は何一つ間違ってはいない。

 犯罪者はその罪を償うべきだ。自ら犯した過ちを一生かけて償い、懺悔し、生涯を終えなくてはならない。

 SAOで殺人を行っていても現実世界の法では裁く事は出来ない。いくら、狂気に満ち溢れ、罪のない人々を殺してもだ。

 ゲームの中でプレイヤーを殺しても現実世界で死んでいるかどうかの確証もなく、殺らなければ殺られるデスゲームはそれを霞ませるに充分な世界であった。命の重さが消え、人の肉体はただのデータで、人の魂は虚ろになってしまった。

 

「帰ってよこの人殺し!!」

 

「お前なんかここにいる資格はないんだよ!!」

 

「平気な顔してよく居られたもんだよな!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拓哉「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」

 

 

 

 教室で騒ぐ生徒をたった一言で黙らせる。生徒達には今の拓哉は人殺しにしか見えていないだろう。だが、それでいい。それで合っている。

 拓哉が人を殺した事に変わりはない。

 

 拓哉「…小林、これ書いたの…お前だな?」

 

 小林「だったら…だったら何だって言うんだ!!僕がみんなの気持ちを代弁してあげたんだ!!人殺しなんてこのクラス…この学校には要らないんだよ!!」

 

 明日奈「アナタっ!!」

 

 明日奈が小林の前に出るのを拓哉が止める。そして、ゆっくりと小林に歩み寄った。小林は後ずさりするが、足が恐怖のせいで思うように動かない。

 

 拓哉「…お前の…お前達の言いたい事は分かった。確かにオレはSAOで"笑う棺桶(ラフィン・コフィン)”にいた」

 

 里香「!!」

 

 拓哉「そこでプレイヤーを…人を3人…殺した。お前達の知ってる通りだ。オレはここにいるべきじゃないな…」

 

 小林「そ、そうだっ!!人殺しはいらな─」

 

 全てを言い終わる前に小林の顔面が歪み、頬に激痛が走った。

 机と椅子を巻き込み、小林は地に伏した。拓哉の右拳には小林の血がついており、周りの生徒も遅れながら拓哉が小林を殴った事を理解する。

 それを知るや否や女子生徒が叫び、何人かが小林に駆け寄る。

 

 拓哉「…」

 

 施恩「拓哉さん!!何でそんな…!!」

 

 拓哉「…先生。暴力事件って事でオレは退学だよな?」

 

 明日奈&里香「「!!?」」

 

 この学校は社会復帰を兼ねている学校で、生徒の自主退学は承認される事はない。しかし、例外があり、問題の生徒が学校の運営を著しく脅かさす場合に限り、退学を許可できる。その為、拓哉は小林を殴り、怪我を負わせたのだ。

 

 拓哉「後は頼んだ…シウネー…」

 

 施恩「っ!!?ま、待って…!!?」

 

 施恩が拓哉を止める前に扉の前で拓哉の行く手を阻む明日奈と里香がいた。

 

 明日奈「ダメだよ拓哉君…!!また…またそうやって1人で背負っちゃ…」

 

 里香「アンタが人殺しだとしても、ここにいるみんなはアンタのお陰で現実世界に帰ってこれたのよ!!アンタは…アンタはみんなを守る為に…!!」

 

 拓哉「…いいんだよ。土台無理な話だったんだ。明日奈、これはオレが背負うべきものだ。お前らには関係ない…オレの責任だ。

 里香、オレは何も守ってなんかないし、救えてない…。オレの勝手な判断で人を殺した…。だから、オレにはお前らの幸せを奪う権利なんかないんだ…」

 

 そう言い残し、拓哉は明日奈と里香を退き、1人廊下を歩いた。

 すると、胸ポケットに入っているスマホから聞きなれた声が拓哉に囁きかける。

 

 ストレア『これで…本当にいいの?』

 

 拓哉「あぁ…。もう限界だからな。それに…オレもこれ以上隠し通す事は出来なさそうだ…」

 

 隠したくない。友達と呼べる者達に心配や不安をかけたくない。これだけ大きく騒ぎになれば今日中にでも学校全体に噂は広がるだろう。だとしたら、拓哉が何をしなくてももう止められなかったのだ。

 

 拓哉「…ストレア、ちょっと頼まれてくれないか?」

 

 ストレア『分かった…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年10月24日09時00分 SAO帰還者学校 中庭

 

 後10分もすれば、1限の授業が始まるという時に木綿季は息を切らしながら中庭へとやって来ていた。

 そこには1人佇む拓哉の姿があった。

 

 木綿季「拓哉ー!どうしたの?急に呼び出して…。あっ!さては今日寝坊した事謝る為に呼んだんでしょー?ちゃんと起きなきゃダメだよ?」

 

 拓哉「…悪ぃ」

 

 木綿季「どうしたの?なんか元気ないね?寝不足?それにしてもこんな時間に呼び出すなんて珍しいね」

 

 授業が始まるまで時間はあまりない。だけど、()()()()()()()()()()()()

 

 拓哉「木綿季…オレ…学校辞める事になった…」

 

 木綿季「…え?」

 

 拓哉「だから、もう…」

 

 木綿季「え?ちょ、ちょっと待って?な、何で?何で学校辞めちゃうの?」

 

 拓哉が何を言っているか理解出来ない。あまりにも唐突で思考がうまくまとまらない。だが、拓哉は淡々と辞める理由を話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拓哉「人殺しはいらないって…オレの殺人歴がみんなに知られちまってな…。だから、もうここにはいられないし、オレに関わってたらみんなにも…木綿季にも迷惑かけると思うから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 別れよう…木綿季…」

 

 

 木綿季「え?」

 

 全てを言い終えたとばかりに拓哉は木綿季の隣を通り過ぎた。去り際に一言…"ありがとう”だけを残して。

 

 木綿季「ま、待って!!」

 

 振り向くとそこには拓哉の姿はなく、秋の冷たい風が木綿季の頬を撫でるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年10月24日17時00分 東京都御徒町 ダイシー・カフェ

 

 和人「明日奈、里香…もう1度聞くけど…本当に拓哉は…」

 

 明日奈「…」

 

 里香「…」

 

 和人の問に2人は黙って頷く。瞬間、和人はテーブルに拳を叩きつけた。

 その音が店内に響き渡ったが、そこにいた者は誰も微動だにしなかった。

 

 和人「なんで…なんでだよ!!!!なんで…また…拓哉だけが…!!!!」

 

 エギル「落ち着け和人」

 

 和人「これが落ち着いていられるかよ!!!拓哉はまた…オレ達を庇って…」

 

 エギル「お前さんだけが悲しい訳じゃないんだ!!」

 

 それを聞いてハッとした様に隣に座る木綿季に視線を移す。ここに来てまだ1度も声を発さず、俯いたままだ。和人もそれを察して一言だけ詫びを入れて席に戻る。

 すると、扉からカランカランという音と共にネクタイを緩ませ、悪趣味なバンダナを巻いたクラインが現れた。

 

 クライン「悪ィ悪ィ!!遅れちまったぜ!!…ってなんだァ?通夜みてェに静かになりやがって…」

 

 この場で一番冷静なエギルが遅れてきたクラインにこの集まりの理由と拓哉の事について説明した。

 クラインはエギルからの説明を聞き終わると、拳を握り、眉間に皺を寄せて吠えた。

 

 クライン「拓哉が何したって言うんだっ!!!そいつらだって拓哉に救ってもらったんだろォがっ!!!!今から行ってそいつらを締めに…」

 

 エギル「よせ!!そんな事したら警察のお縄になっちまうだろぉが!!頭を冷やせ!!」

 

 クライン「これが頭を冷やせる状況かよっ!!!アイツは…アイツは…!!!」

 

 途端に涙を滲ませ、その場にうずくまり、大人げないと言われんばかりに泣いた。それに貰い泣きした全員が涙を滲ませる。

 

 里香「…直人君には伝えたの?」

 

 和人「まだだ…。さっきから電話してるんだけど出ない。多分、バイト中なんだろう…」

 

 明日奈「…木綿季、大丈夫?」

 

 木綿季「…うん。大…丈夫」

 

 明らかに大丈夫とは言い難いその状態にスマホに映るストレアも心配そうに木綿季を見つめる。

 あれから、拓哉との連絡を図ったが、一向に繋がる気配はない。

 もう誰の声も聞かないようにしているのか。

 イライラだけが募っていき、ダイシー・カフェは過去最低の空気が漂い続けた。

 

 クライン「こうなったら直接会いに行くしかねェ!!俺が車出すから行くぞっ!!!」

 

 珪子「そうですね…!!行きましょう!!」

 

 明日奈「行こっ?木綿季…」

 

 木綿季「…」

 

 クラインが車をダイシー・カフェにつけ、一行は全速力で拓哉の自宅へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 感極まる程に全身が幸せに満たされていく。まさか、これ程までの効果を発揮するとは正直思わなかったが、嬉しい誤算だ。

 計画は一気に進み、奴も絶望へと追いやった。

 ()()()からの情報によれば奴は仲間に相談しないし、自力で這い上がろうとする傾向にあるようだが、今回に関しては這い上がる気力すら湧かないだろう。

 …懸念材料があるとすれば奴の仲間だろう。あのまま黙ってこの事実を受け入れるとは考え難い。ならば、念には念を入れておいた方がよさそうだ。

 だが、この計画は十中八九達成された。欲を言えばこの手で引導を渡したかったが、危険な賭けに出る訳にもいかない。いつも通りに振る舞わなければ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後の仕上げといこうか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?
拓哉の秘密が学校中に広まり、拓哉は学校を去らざる負えない状況に追いやられました。木綿季にだけ別れを告げ、彼は一体どこへ向かっていくのかは誰にも分かりません。(←作者は知ってて当然)
先に伝えておきますが、この章は結構長めに書く予定ですのでGGO編を挟んだ前後編で書いていきます。
つまり、GGO編で拓哉は仲間と別れている状態ですね。
拓哉を待つのは果たして…!!


評価、感想などお待ちしております!


では、また次回!
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