ソードアート・オンライン-君と共に在るために- 作:ちぇりぶろ(休載中)
今回からGGO編が本格的にスタートしました!初回は通常の約2倍の20000字となっており、長くなっていますがご容赦ください。
拓哉/ユウヤはこれからどこを目指し、どのように進んでいくのか…。
死銃との死闘が始まるGGO編!
それでは、どうぞ!
【62】紅の殺意
2025年11月28日13時00分 東京都銀座 某カフェ
菊岡「やぁ、拓哉君。元気にしてたかな?」
拓哉「それなりにな」
もうこの男と会う場所は定まってしまい、拓哉はまたしても銀座に来るように菊岡に命じられた。
店員にも顔を覚えられ、何も言わずとも菊岡が待つテーブルへと案内された拓哉は注文を済ませ、店員を下げると菊岡が薄気味悪い笑みを浮かべて拓哉を凝視する。
拓哉「な、なんだよ…?」
菊岡「いや…この前会った時より顔色がいいなと思ってね」
拓哉「大して変わんねぇだろ…。それで、今日は何の仕事だ?」
菊岡「話が早くて助かるねー。まぁ、冗談はこれぐらいにして仕事の話をしようか…」
頬の筋肉を引き締め、真剣な眼差しで拓哉にタブレットを渡す。そこに映っていたのはネットニュースであり、菊岡から説明が入った。
菊岡「今月の9日に東京都中野区のアパートで大家が部屋からの異臭に気づき、中を開けると男性の変死体が見つかった。名前は茂村保…。死因は心停止で、発見された時には死後5日は経っていた。そして、頭には…」
拓哉「…アミュスフィアか」
記事を読み終えて拓哉は疑問に思った廃ゲーマーが現実世界に帰ってこないまま数日間ゲームの中で過し、栄養が足りずに餓死する話は時折聞くが、死因が心停止となると事は変わってくる。
拓哉「その男の持病の有無は?」
菊岡「診断した医師から聞いた話だとそれもないようだね。では、次にこちらを見てくれ」
タブレットを拓哉から受け取り、操作をして特定のページを拓哉に見せる。
菊岡「ネットニュース速報で君がこちらに来る前に確認もした。こちらは埼玉県さいたま市のアパートでやはり異臭に気づき開けると先程の男性と同じように変死体が見つかった。こちらは死後3日だね」
偶然…この言葉で片付ければそれまでだが、死因が一緒でアミュスフィアを被ったままという共通点が拓哉の頭に残る。
拓哉「それで…アミュスフィアを被ってたって事は何かのゲームしてたんだろ?」
菊岡「あぁ。2人のアミュスフィアのランチャーには1つのゲームがインストールされていた。そのゲームの名は…
拓哉「!!?」
菊岡「その顔は何か知ってるみたいだね…」
拓哉「知ってるも何も…今オレがプレイしているゲームがGGOだ」
となると、先日での詩乃の話が途端に頭の中に蘇ってくる。
詩乃の話によれば、11月09日、ネット番組"MMOストリーム”と言う生番組の最中、ゲストとして招かれた第2回
そして同時刻に、グロッケンのとある酒場でもMMOストリームが中継されていたのだが、その公衆の面前で汚らしいボロボロのマントで全身を隠し、顔には骸骨を連想させるマスクを装着したプレイヤーが拳銃で画面に映るゼクシードを撃ったらしい。
周りのプレイヤーは冷やかしにかかったが、その瞬間にゼクシードが苦しみ出すのを見て途端にボロマントから距離を置いた。
そして、店内が静寂に満たされる中、男は高らかに宣言した。
ゼクシード…偽りの勝利者よ。だが、俺には本当の力、本物の強さがある!!者共!!この名を恐怖と共に刻め!!俺とこの銃の名は─」
拓哉「
菊岡「そうか…。君もそこまで知っていたんだね。なら、話は早い。拓哉君、君の率直な意見が聞きたい…。可能だと思うかい?
ゲーム内から現実世界で横たわるプレイヤーを死に至らしめる事が出来るか…」
拓哉「!!」
普通なら考えただけですぐに分かる。ゲーム内からの銃弾で現実世界の人が死ぬ訳がない。あるとすれば、アミュスフィアからの心停止する程の感覚が脳に伝わってしまった時だが、アミュスフィアにはそれを実行する程の出力は出せない。さらに、プレイヤーの精神状態が一定値に達すればその前に強制的にログアウトさせる安全装置もある。
拓哉「その死銃のせいだと仮定してもどうやって殺せるんだよ?仮想世界で
菊岡「それで悩んでるんだよ。それに死銃が標的とするのは
拓哉「…おい、待て。…もしかして、オレにその死銃に撃たれてこいって言うんじゃないだろうな?」
菊岡「もちろんそんな事は言わない。ただ、拓哉君が見て感じたまま報告してくれれば…って、ちょっと待ってよぉ!?」
帰ろうとする拓哉のジャケットの裾を両手でしっかり掴み、拓哉の足元で懇願している。その姿に呆れた拓哉は帰るのを諦めて席へと戻った。
拓哉「死銃がオレを狙ってきてくれる可能性はほとんどないぞ。こちとらまだまだ駆け出しの初心者だからな」
菊岡「ALOのキャラデータをコンバートしなかったのかい?」
拓哉「あぁ…あれは…」
どう説明すればいいのか言い淀んでいると、さして興味もなかったのか菊岡は話を続ける。
菊岡「もちろん、拓哉君の身の安全が第一だからね。僕が用意する病院でモニターさせてもらうよ。常に誰かいるようにもしておく」
拓哉「そうか。…もちろんこの話は和人には─」
菊岡「してないよ。今回はあくまで死銃の真実を見極めるだけの仕事だからね。拓哉君も深入りはしないように」
菊岡は念押して紅茶を口に含みながら帰り支度を済ませる。
菊岡「じゃあ、明日には病院などを用意して君に連絡を入れるよ。
…あっ、それと…これは仕事の話じゃないんだが…」
拓哉「?」
菊岡「君も少しは
眼鏡の縁を上げながらそれだけを言い残してカフェを後にした。
拓哉は菊岡の言葉を反復させながらフッと苦笑させる。
拓哉(「肩の荷を下ろせ…か」)
その言葉にどんな意味が含まれているのか、拓哉はある程度の見当を付ける。木綿季達の行動も菊岡の情報網を駆使すれば何をしているのか把握出来るハズだ。知っているからこそ拓哉にあんな助言を残していく。
だが、拓哉はそれでも後に引かない。みんなを守る為の道を今も歩いていると信じているから。どれだけ非難されようがこれは拓哉が歩くと決めた道であり、踏み入れたなら最後まで成し遂げねばならない。
それが茨の道であろうと…。
2025年11月28日17時00分 GGO 首都グロッケン
シノン「そろそろステータスも固まってきたんじゃない?」
ユウヤ「AGI型だな。ハンドガンもそろそろ卒業かな」
レベリングの休憩中にユウヤとシノンは山岳地帯にある洞窟にいた。夕焼けが洞窟内を朧気に照らしていたが、身を隠すにはうってつけの場所だとシノンが案内してくれたのだ。
シノン「AGI型か…。人のプレイスタイルをとやかくは言わないけど、もう少し他のパラメーターも振っておいた方がいいんじゃない?」
ユウヤ「うん?…まぁ、オレ的にはこれがベストなんだよなぁ。慣れてるって言うか、しっくりくると言うか…」
シノン「まぁ、アンタがそれでいいなら別にいいけどね」
携帯用食料を1口齧り、腹の中へと追いやる。別段美味しい訳でもないスナックバーでもこの世界では何かと重宝される食料で、戦闘中のひと手間に栄養が摂取され、HPとステータスにお情け程度の
シノンも圏外に出る時は最低でも10本持ってきているが、篭城戦などの長期戦になりうる場合はさらに倍の数を用意する。
けれど、あくまでこれらは微々たる効果だ。仮に100本持ってきていたとしても、店売りの回復薬で事足りるし、第一それだけの量を持ち出せないと意味がない。
ある意味があるのかないのか中途半端な食料を見つめながら、シノンはユウヤへと視線を移す。
携帯用食料を1つ分けてあげたが、それには全く口をつけず、ただ呆然と外を眺めている。ここが見つかり難いとは言え、誰かが手榴弾なり何なり放って来るかもしれない。それらの警戒も怠ってはいけないし、シノンは警戒を怠った事は1度もない。
シノン「…」
拓哉が眺めている外の景色をシノンも見てみる。陽が傾き、空には暗闇に光る星々が輝き始め、次第に夜を告げようとしていた。
だが、ずっと魅入られていられるかと言われたらそんな事はない。この程度の星空はいくらでも見れるし、もっと言うならシノンの住んでいた田舎の星空の方が綺麗なぐらいだ。
だと言うのにユウヤはただジッと外を眺め続ける。まるで、何かを探しているように。
ふと、シノンの視界の片隅にアイコンが表示された。
慣れた手つきで操作していると、彼女のフレンドからのメッセージだったらしく、しばらく考え了解とメッセージを打った。
ユウヤ「さて…そろそろ行くか」
シノン「え?えぇ、そうね」
素早く野営キットをストレージへと戻し、薄暗くなった洞窟を後にした。
それから1時間はモンスター相手にステータスの確認とレベリング、街へ戻ってからはガンショップで新しい銃や、防具の新調に時間を割いた。
夜も更け、この辺で解散しようとするとシノンから呼び止められた。
シノン「あのさ、もしよかったら…明日対人戦やってみない?」
ユウヤ「対人戦?」
シノン「えぇ。さっき、私のフレンドから
スコードロンとは…GGOにおけるギルドのようなもので、複数人のプレイヤー同士でチームを組み、相手方のスコードロンと戦う集団PvPだ。
ギルドと言ってもいつも一緒に行動する訳ではなく、手が空いている者や見知ったプレイヤー同士で組めるギルドの簡易版のようなもので、特にシステムが介入している訳ではない。
シノン「そのフレンドもAGI特化型だからアナタの戦略の参考になると思うけど…」
ユウヤ「…」
どう返事をしたものか。確かに、戦略が固まりきれていない今の状況でそのヒントが得られるのはかなり魅力的だ。
だが、シノンのフレンドとともこれから先、パーティーを組み続けると考えたら乗り気にはなれなかった。
出来る事なら誰とも…シノンともあまり関わりたくないと言うのがユウヤの本音だ。シノンがユウヤの過去を知ってしまったら必ず彼女が後悔する。そんな事だけは何がなんでも避けたい。
ユウヤ「…せっかくだけどオレはいいや。戦い方は自分でなんとかするし、シノンももうここからはオレに付き合わなくてもいいぜ?
レベルもそれなりに上がったし、1人でも十分やっていけるから」
シノン「…は?何…それ…」
ユウヤ「お前にもやりたいクエストとかあるだろ?オレの為に時間を割く必要は─」
瞬間、ユウヤの目の前に石ころが飛んでき、紙一重の所でそれを躱してみせる。地面を転がる石ころからシノンに視線を移すと剣幕か表情でユウヤを睨んでいた。
ユウヤ「な…何すんだ─」
シノン「またそうやって逃げる気っ!!?」
ユウヤ「!!?」
シノン「私は…別にアンタの為に戦い方を教えていた訳じゃない…。アンタも…私と同じで強くなりたがってたから一緒にいただけよ!!
でも、
ユウヤ「…」
違う。逃げている訳じゃない。それが最善の手だから…それしか方法がないから…。逃げている訳じゃない。これが答えだから…これしか答えを知らないから…。
シノン「許さないわよ!!私にここまでレクチャーさせておいて勝手に消えるのは!!ちゃんと恩を返してからじゃないと許さない!!」
ユウヤ「…オレは…もう誰とも関わらないって…」
シノン「もう私と関わってるじゃない!!!!」
ユウヤは目を見開いた。そこにはどんな時でも強気な姿勢だったシノンではなく、弱々しくも前を見続けようと懸命に生きようと努力している朝田詩乃だった。
シノン「誰とも関わらないですって?無理に決まってるじゃない…。誰とも関われないのは死んだ人だけ!!
…それでも、その人は一生自分の中で生き続ける。忘れてしまっても必ず底から這い上がってくるんだから…」
ユウヤ「シノン…」
シノン「…強くなりたいんでしょ?なら、1人じゃなれないわ。人って生き物は1人じゃ何も出来ないんだから…。明日の16時にここで待ってるから必ず来なさい!!いいわねっ!!?」
それだけを言い残してシノンは現実世界へとログアウトしていった。
街中で1人取り残されたユウヤはただ、星が輝く夜空を眺める事でしかザワついた心を落ち着かせる術を知らずに立ち竦んでいた。
2025年11月28日18時20分 東京都文京区湯島 某アパート
目を開けるとアミュスフィアのレンズ越しに見られた天井が視界に入る。帰ってきたと数秒実感して上体を起こし、頭のアミュスフィアを乱暴にベッドに放った。
詩乃「…ふざけるんじゃないわよ」
このイライラをどうしたものかと何もない白い壁を睨む。その向こうにいるハズであろう青年に伝わるように。
だが、こうしていても時間を無駄にするだけと悟った詩乃はキッチンへと足を運び、事前に用意していた食材で料理を作り始める。
詩乃が東京に来てもう半年以上の時間が流れた。あの町に居続ければ自分がきっと壊れてしまうだろうと理解してしまったから…。あの家に居続ければまた誰かを傷つけてしまうのではないか不安に思ってしまったから。
だが、世間は自分が思っていたよりもずっと狭いらしい。
学友など出来る訳もなく、学校と自宅を往復する毎日。…それでもいいと思った。あそこにさえいなければ不安などもすぐに消えていくだろうと思ったから。
詩乃「…痛っ」
左の人差し指から深紅の小さい球が現れ、次第に形を失い指先から垂れていく。口に切った指を加え、出血を防ぐ。
詩乃「アイツのせいだわ…」
ここにいない誰かのせいにでもしないと気持ちが晴れてはいかない。そんな事しても意味ないと知りながらもそうせずにはいられなかった。
絆創膏で応急処置を済ませ、再度食材に包丁の刃を入れていく。半年以上も1人で住んでいる為か、手馴れた手つきで一気に仕上げに入っていく。
切った食材を水を沸かした鍋へ一気に入れ、調味料で味付けを済ませてしばらくの間、火にかければ完成だ。
詩乃「ふぅ…。お風呂入ろう…」
2025年11月28日19時00分 横浜市 陽だまり園
木綿季「ただいまー…」
藍子「木綿季、遅かったわね?…今日も?」
木綿季「…うん」
玄関で藍子のお出迎えにあった木綿季は力なく藍子の問いに答える。
あれから毎日拓哉の捜索に明け暮れて、心身共に疲弊していく木綿季の姿を陽だまり園のみんなが心配をしている。
木綿季も心配をかけたくないと思いながらも体が勝手に動いてしまい、どうしようもなくなっていた。
藍子「そろそろ夕飯だから着替えてきたら?」
木綿季「うん…」
重たい足取りで自室へと向かう木綿季の後ろ姿を藍子は心配そうに見送る。そこへ、夕飯が出来た事を伝えに来た森が藍子と鉢合わせた。
森「藍子、木綿季は帰ってきたか?」
藍子「ついさっき…。今は部屋で着替えてますけど」
森「ここの所木綿季は元気がないみたいだな…。その事で夕飯の後に話があるから2人共、私の部屋に来なさい。木綿季にもそう伝えておいてくれ」
そう言い残して森は子供部屋へと向かった。
タイミングよく木綿季が私服に着替えて藍子の所へと戻ってきた。
木綿季「どうしたの姉ちゃん?」
藍子「木綿季、ご飯食べ終わったら森先生の部屋に来なさいって」
木綿季「え?ボク何かしたかなー…?」
藍子「最近の木綿季は元気がないからその事で話があるみたい」
木綿季「…分かった」
2人はいい加減食堂にいかないと智美からの雷が落ちる事に気づき、急いで食堂へと向かった。
それから何事もなく夕飯を食べ終わり、森が手招きで呼んでいるのを見て2人は森の後をついていく。
部屋に入ると難しい本が壁の1面を埋め、部屋の中央にテーブルとソファーが並べられ、仰々しい空気が漂う。
森「さてと…木綿季、今日なんで呼ばれたか分かるか?」
木綿季「…元気がないから…?」
森「まぁ、それが本題なんだが、木綿季に聞きたい事があってなんだ」
木綿季「聞きたい事?」
森「…拓哉君の事だよ」
瞬間、木綿季の緊張感は一気に最高潮まで登りつめた。肌が敏感になり、冷や汗もうっすら滲み出る。
森「木綿季の元気がないのは拓哉君に原因があるんじゃないか?この前から時々、仮病も使って学校を休んだりしたり、拓哉君とも連絡を取ってないみたいだからね。先生にも何があったのか教えてくれないか?」
木綿季はしばらくの間沈黙に入った。その間、森は言及する訳でもなく黙って木綿季の口が開くのを待った。
拓哉の事を話すとなると、SAOでの殺人歴についても話さなければならない。それを聞いた森の反応が怖い。森は優しい性格の持ち主だが、彼氏が人を殺した事があると聞いて普通の精神状態でいられる訳がない。
だから、今まで黙っていた。絶対に別れろと言われるのが想像出来たから。
木綿季「それは…あの…」
森「先生にも言えない事なのか?…拓哉君は木綿季やあのゲームに閉じ込められた人達を救った。それだけでもすごいのに、ことある事に危険を省みず誰かの為に動いた心優しい青年だが…。先生…いや、親として自分の娘を悲しませるような事を放ってはおけないんだ」
藍子「た、拓哉さんはそんな人じゃ…!」
森「先生だってそう思ってる。会ってみて彼の人柄もそれなりに知っているつもりだ。だけど、だからと言って木綿季を悲しませていい訳じゃない」
森の言う事は親として当たり前の事だ。我が子の幸せを願わない親などいない。例え、血が繋がっていなかったとしてもその思いは変わらない。
森「木綿季、どうなんだい?」
藍子「木綿季…」
黙っている事しか出来ない自分が恨めしい。拓哉は何も悪い事はしてないって声を大にして言いたい。拓哉は自分達を守る為に自分を犠牲にしてしまったと伝えたい。でも、どんな反応をされるのか…もしかすると、軽蔑されてしまうんじゃないかという不安が拭えないのも事実だ。
『そんなの本当のユウキじゃない…!!』
木綿季「!!」
以前、明日奈に叱咤激励された言葉が甦る。そうだ。どれだけ拓哉が1人になろうとも絶対に一緒にいると誓ったではないか。
あれは嘘なんかじゃない。世界中の人が敵になろうとも、自分だけは味方で在り続けると決意したばかりじゃないか。
俯いていた顔を上げ、決心がついた表情で木綿季は森に告げた。
木綿季「拓哉は今、学校を退学にさせられそうになって…ボク達の前からいなくなっちゃったんだ…」
森「それは何故…?」
木綿季「拓哉は…SAOにいた頃、あの世界で人を…殺してしまったから…」
森「!!?」
人を殺したと聞かされた森は一気に表情が変わった。当然の反応だと木綿季はさらに続けた。
木綿季「拓哉はボク達を人質に取られて…やりたくもない人殺しをさせられて…、その事が学校中に広まっちゃって…みんなから追いやられて…ボク達に迷惑がかからないようにって…また、1人で…いなく…─」
涙のせいで言葉が紡げない。話ている最中、拓哉との思い出がフラッシュバックしてしまい、寂しさと切なさが一気に木綿季を襲った。
どれだけ強がっていても木綿季はまだ15歳の少女だ。そんな少女が背負うべき荷としてあまりにも重い。
すると、木綿季の体をすっぽり覆うように森が優しく抱きしめていた。暖かいと感じていると森は木綿季に囁いた。
森「すまなかった木綿季…。お前がこんなにも重たいものを背負っているとは思わなかった。もういいんだ。それだけで十分伝わったから…。もう…いいんだよ」
木綿季「う…うぅ…うわぁぁぁぁぁぁぁっ」
決壊してしまった涙を止める術を木綿季は知らない。ただ感情のままに自らの悲しさを涙に変えて流し続けた。森もそんな木綿季を抱きしめてやる事しか出来ない自分に腹が立ち、奥歯を噛み締め、木綿季が落ち着くのを静かに待った。
2025年11月29日09時00分 横浜市 横浜大学附属病院
菊岡に指示された病院は拓哉や木綿季がSAO事件の際に世話になった病院で、久方ぶりにこの地に足を踏み入れた拓哉は懐かしさを感じながら院内に向かった。
看護師から専用の病室に案内され、扉を開くとそこには当時の担当医であった倉橋が待っていた。
倉橋「やぁ、拓哉君。久しぶりですね」
拓哉「倉橋先生…?もしかして、菊岡に頼まれて?」
倉橋「えぇ。総務省の役人から拓哉君のモニターを請け負いました。私の代わりに他の病院から医師が来てるので、その間は拓哉君の傍にいるようにと…」
そこまで根回しをする理由が見つからないが、気を許せた医者がいるなら何かと安全だと悟る。久方ぶりの再会も束の間、拓哉は早速アミュスフィアを装着し、楽な姿勢に入った。
拓哉「多分、5,6時間は潜りっぱなしだと思います」
倉橋「分かりました。…あ、その前に上着を脱いでもらえませんか?
倉橋の言う通りに上着を脱いで数カ所に電極を貼っていく。その途中で木綿季について聞かれた。
拓哉「…元気…だと思います」
倉橋「学校などで一緒じゃないんですか?」
拓哉「ちょっといろいろあって…学校には行けなくなっちゃって…」
倉橋「そうなんですか…」
空気を読んだのかそれ以上聞こうとは菊岡から目線を外し、再びベッドの上に横たわり音声コマンドを入力した。
拓哉「リンクスタート!!」
視界がクリアになり、目を開けるとお馴染みの光景が広がっていた。
まだ、街に漂う火薬の匂いに慣れずにいるが、時刻はまだ9時過ぎ。朝だという事もあり、ログインしているプレイヤーも少ない。
ユウヤ「酒場に行けば何か情報が聞けるかも…」
死銃が最初に現れたという酒場へと向かう為、ユウヤは行動を開始した。すれ違うプレイヤーはユウヤのアバターを見て含み笑いをしたり、野次を投げたりするが、気にしても仕方ない事は承知の為、酒場へと急いだ。
程なくして目的地に到着したユウヤは扉を開け、薄暗い店内へと入る。
カウンターで2人の男性プレイヤーが座っており、その男達から死銃についての情報を聞き出そうとカウンターへ出向いた。
ユウヤ「あの、ちょっといいか?」
「あん?なんだぁ?このガキは…」
「ここは子供の来るとこじゃないぜぇ?」
明らかに馬鹿にしているような態度にユウヤの琴線を揺らすが、冷静さを保ち再度男達に話しかける。
ユウヤ「この酒場に死銃って名乗った奴が来たって聞いたんだけど、アンタら何か知ってるか?」
「デスガン?なんだそりゃ?中2臭い名前だなぁおい!」
「あぁ、俺知ってるよ。なんかモニターに映ってたゼクシードに銃ぶっ放ったって聞いた!なんだボウズ、アイツに会いてぇのか?」
ユウヤ「まぁ、そんな所だな。どこを狩場にしてるとか知らない?」
「さぁな。直接見た訳じゃねぇし、ここに来るのも今日が初めてだからなぁ…。あっ、アイツなら何か知ってんじゃねぇか?」
男が奥のテーブル席に指を指すと、そこには年を重ねた男性プレイヤーが座りながら酒を嗜んでる。
「アイツ、確かその時の音声を録画して掲示板にアップしてたから俺より詳しいハズだぜ?」
ユウヤ「そうか。分かった、ありがとな」
ユウヤは奥へと進み、男性プレイヤーのテーブル席の前まで移動する。
すると、相当酔っているのかユウヤを前にしても眉1つ動かさない。
ユウヤ「なぁ、ちょっと悪いんだけどさ。死銃ってプレイヤーについて何か知ってるか?」
「…誰だぁお前ぇ?ここいらじゃ見ねぇ顔だな…ってガキじゃねぇかよ!?ガキは帰って母ちゃんのおっぱいでも吸ってな!!」
フィクションだけのセリフかと思っていると、リアルに言う奴もいるんだなとユウヤは感心したが、当初の目的を思い出し、男に詰め寄った。
ユウヤ「アンタそん時ここにいたんだろ?何でもいいから知ってる事は教えてくれ!!」
「うるせぇなぁっ!!…誰かにモノ頼む時はそれなりの姿勢ってモンがあんだろぉが。例えば、酒を持ってくるとかよぉ!!」
ユウヤ「酒は奢ってやるから死銃について教えてもらうからな?」
カウンターで酒を男が望む分だけ注文し、テーブルいっぱいにボトルを並べた。その光景に目を輝かせ、先程とは別人のような態度で語り始めた。
「あん時は俺も何してんだって笑っちまったがよぉ、画面のゼクシードが急に苦しみ出して回線が切断しちまったんだよ!一瞬、本当にアイツが撃った銃がゼクシードを殺したんじゃないかって思って、面白そうだから音声だけ録画したんだよ」
ユウヤ「ゼクシードは死に戻りしたんじゃなくて回線が切れたのか?」
「当たり前ぇだろ。MMOストリームの本番中に死ぬ事なんてねぇんだから。アミュスフィアの故障って思ったけどよ、ゼクシードの野郎…それ以来ログインしてねぇみてぇだぜ?」
大した情報は得られずに肩を落とすが、酒を煽りながら男はさらに続けた。
「しっかし、アイツいつの間に店ん中入ってきたんだろうなぁ?そん時俺は入口の近くにいたんだけどよ、誰も入ってきた風には思わなかったんだよなぁ…」
ユウヤ「その時も今みたいに泥酔してたんじゃねぇか?」
「バカっ!!俺もまだ酒を煽る前だったんだよ。酔ってたらわざわざ録音なんかしねぇよ!!なんか、気づけばそこにいた…みたいに錯覚しちまったよ」
ユウヤ「ふーん…」
その他のプレイヤーにも死銃について聞いて回ったが、価値のある情報は何も得られず、一先ず出直そうと酒場を後にした。
元いた転移門前で死銃について知っている者がいないか探してみたが、それらしい者には出会えず、初めから立ち往生するハメになった。
ユウヤ「ダメだ。朝ってのもあるけど、知ってる奴が少なすぎる。夜とかに来ればまた違うんだろうけど大して得られそうねぇなぁ…。
こんな時、アルゴがいてくれたらすぐに見つけられるのに…」
今、この場にいる訳もない人物の力を頼っても意味などない。また時間を改めて聞き込みを始めようと結論を出し、する事もなくなったのでフィールドに出てレベリングをする事に決めたユウヤは所持品を確認してフィールドへと向かった。シノンから教えてもらった狩場に出向き、ひたすらにレベルを上げる作業に入った。今のユウヤのステータスじゃサブマシンガンを1丁持つのがやっとだが、将来的にはサブマシンガンを2丁にして走りながら敵を倒していきたい。その為にはレベルを上げてステータスを強化するしかないのでひたすらにモンスターを蹴散らしていく。
弾薬が尽きれば街へと戻り、補充するという作業を数回繰り返していると時刻は15時を過ぎていた。
ユウヤ「テレポート手段がないのが痛いよなぁ…。往復だけでえらい時間食っちまうよ…」
GGOには死に戻り以外に街へのテレポート手段はない。おそらく、戦闘中に緊急離脱をするのを防ぐ為であるだろうが不便で仕方ない。
そんな事を考えながらモンスターを屠っていくと、もう何度目かも分からない弾切れが発生した。
次の往復で時間的にも最後だなと感じながら、重たい足取りで街へと引き返していった。
街に戻り、ガンショップで弾薬を補充していると、店の隅のショーケースである物を発見した。
ユウヤ「フォトン·ソード…この世界にも剣があるのか!?」
よくドラマやマンガで見るライトセイバーをコンセプトにしているであろうフォトン·ソードは長年剣の世界で戦ってきたユウヤを魅了するには十分だったが、価格がぼったくりかよと思うぐらいで買うかどうか悩んだ末、また今度にしようと諦めた。だが試し斬りは出来るらしく、会計ロボットを呼び、フォトン·ソードの試し斬りをする為、ショーケースから実物を渡してもらった。
ユウヤ「おぉ…。なんか、昔の映画でこれ使ったのがあったな」
数回フォトン·ソードを振るが実際に刃がないのでまったく重量を感じさせない。試しにALOのソードスキルが再現出来るか試すべく、周りに人がいない事を確認して剣を構えた。
ユウヤ「ふっ」
片手用直剣ソードスキル"ホリゾンタル·スクエア”
システムアシストなしでもなんとか形には出来るが、ALOのように威力に関しては期待させるようなものではなかった。
ユウヤ「まぁ、当然と言えば当然か…」
会計ロボットにフォトン·ソードを返し、ガンショップを後にする。
すると、そこでユウヤはある事に気づいた。
ユウヤ「運営に問いただせば何が分かるかも」
そうと決まったらメニューウィンドウを素早く開き、運営に問いただしてみる。数十分後、運営からの返信が来た。
外国にサーバーを置いている為か、英文での返答だったがそれを気にせずユウヤは読みふける。
ユウヤ「…いかにも定型レスって感じだな」
運営に問いただしても無駄という事だけが分かり、そんな事をしていると16時を回っている。今からフィールドに出ても街に帰ってくるのはもう夜になるなと無駄な時間を過ごしたなと感じ肩を落とす。
仕方ないので再び聞き込みを再開させようと振り返ると、目の前にシノンと男性プレイヤーがいた。
ユウヤ「げっ…」
シノン「人の顔見てげっ…って何?そんなに私と会いたくなかった訳?」
ユウヤ「そ、そんな事ねぇよ…。ははは…。じゃあ、オレはこれで…」
シノン「どこに行く気よ。ここにいるからには私達とスコードロン組んでもらうわよ。言っとくけど、アンタに拒否権とかないから」
横暴だと言ってやりたかったが、シノンの目が座っている事を見抜き、下手な行動には出れないと諦めたユウヤは黙ってシノンの誘いを受けた。
すると、シノンの後ろから長髪の後ろで髪を束ねた男性プレイヤーがシノンに尋ねた。
「シノンの知り合い?…もしかして、弟とか?」
シノン「違うわよ!コイツはこんな身なりしてるけど、中身は私達と同じ学生よ。シュピーゲルも騙されないようにね」
シュピーゲル「え?…嘘」
シュピーゲルと呼ばれたプレイヤーは不思議なものを見るかのようにユウヤを眺めた。こんな姿なら仕方ないが、いい加減このやり取りも面倒くさくなる。
ユウヤ「えっと…シノンの彼氏?」
シュピーゲル「い、いや!!?僕は…」
シノン「何言ってんのよ!!
そこまで断言してやらなくてもいいとユウヤは思った。横でシュピーゲルが悲しそうな表情になっている事に気づいていないシノンには何も言わないが…。
ユウヤ「オレはユウヤ。よろしくなシュピーゲル」
シュピーゲル「こ、こちらこそ…」
シノン「シュピーゲル、コイツもアナタと同じAGI型だから何かアドバイスになるような事があったら教えてあげて」
シュピーゲル「あ、AGI型!?今のGGOの環境じゃ、絶対勝てないスタイルなのにどうして…。シノンは教えてあげなかったのかい?」
ユウヤ「勝てないかどうかはステータスじゃなくて単にプレイヤーの技術面だろ?どんなスタイルにだって必勝法ぐらいあるさ」
シノン「と言ってもコイツはまだ初心者だからその必勝法って言うのすら出来上がってないけどね」
今日のシノンは何かと噛み付いてくるなと思ったが、昨日の憂さ晴らしでもしているのだろう。今日の所は何も言い返すまいと決めたユウヤは2人と一緒にフィールドへと向かった。
今回のターゲットはシノンが前に組んでいたスコードロンがキルした集団で、性懲りもなくまた同じ装備で狩りに出ているとの事だ。
どの世界にでも似たような事を考えている輩はいるらしく、カモとして目をつけられていた。
フィールドから5km離れた地点に、複数の男性プレイヤーが隠れており、シノン達はそれらと合流して作戦を頭の中に入れた。
ダイン「見ねぇ顔もあるが、作戦は前回と変わらねぇ。シノンが遠方からの狙撃で俺達はその隙をついて雑魚を狩る」
ダインと名乗った男性プレイヤーが作戦を伝え終わると、さらに離れた鉱山帯へと走り、ユウヤ達とシノンは2手に別れてターゲットが来るのを待ち伏せる。
ユウヤ「GGOでの対人戦は初めてだな…」
シュピーゲル「とりあえず、僕達は走り回って敵を錯乱させる事に集中しよう。足だけは引っ張らないようにしないとね…」
ユウヤ「ずいぶん逃げ腰だな。ドロップアイテムはオレが貰うぐらいの姿勢で臨まなきゃ成功出来るもんも成功しねぇぞ?」
シュピーゲル「キミはGGOの環境を知らないからそう言えるんだよ…。他のゲームと違って、敵は本気で殺しにくるんだから…」
それなら何度も経験した事だとユウヤは開き直る。殺すと言っても実際に現実世界で死ぬ訳じゃない。そんな事起きる訳がない。
そんな事を考えていると頭の隅で何かがよぎった。
ユウヤ(「死銃ってのは本当に…人を殺してるのか?アミュスフィアにそれだけの出力は出せない…。ならどうやって…それ以外の方法なんて…」)
シュピーゲル「来たよ…!!」
ユウヤ「!!」
岩陰からこっそりと覗き見ると中央の大男を囲むような陣形でフィールドを移動している。数は7人。こちらと同じ数のプレイヤーだが、前回はユウヤとシュピーゲルはいなかった事を踏まえると今回もまたキル出来る事を予想する。すると、無線からシノンの声が届いてきた。
シノン『あの男…前回はいなかった。初撃はアイツにさせて』
ダイン「どうせ、弾薬持ちの運び屋だ。手筈通り実弾銃の奴を狙え」
シノン『…分かった。でも、狙えるなら次弾で狙うわ』
ダイン「OK…。俺の合図と同時に行くぞ。…3…2…1…」
0を告げた瞬間、遥か遠方から一直線に放たれた弾丸は実弾銃を持ったプレイヤーの脳天を貫いた。
ダイン「GO!!」
ポリゴンとなって四散したのと同時にダインの指示で一斉に襲いかかった。相手方も運び屋を守るように陣形を組み直して銃口をユウヤ達に向ける。
「はん!光学銃じゃ傷1つつかねぇよ!!」
ユウヤ「光学銃?」
よく見てみるとユウヤ達が持っている銃に比べ、フォルムが滑らかで白いフレームが夕日に反射して鋭く光っている。銃口も存在せず、SFに出てくるようなレーザー銃を連想させた。
ユウヤ(「違いは分からねぇけど、やる事は変わらねぇ」)
シュピーゲルが先陣を切り、その後ろにユウヤもついていく。銃口らしき場所からグリーンのレーザーがユウヤ達に放たれた。だが、レーザーは無残にもシュピーゲルの前で消滅し、HPは1ドットも減らされていない。
ユウヤ「へぇ…じゃあ、オレも!!」
シュピーゲルとさらに2手に別れて左右から揺さぶりをかけた。
予想通りシュピーゲルとユウヤに大半の人員を割いて潰しにかかる。
シュピーゲルはレーザーに怖がる事なく、牽制しつつ敵の注意を引き付けた。当然、同じ役目を担っているユウヤにもレーザーの嵐が襲いかかってきた。
ユウヤ(「それ、通じないんだろ?」)
弾道予測線がユウヤの体のあちこちを貫いているが、シュピーゲル同様に目の前で消滅するという事は分かっているユウヤはさらに距離を詰めた。
だが、それが大きな落とし穴だった。
放たれたレーザーが一直線にユウヤを捉えているのを遠方から確認していたシノンが無線でユウヤに呼びかけた。
シノン『バカ!!アンタ、
ユウヤ「は?」
シノンの助言を聞き終えた頃にはユウヤの体にレーザーが直撃していた。
訳が分からずその場に倒れてしまったユウヤを見てダインが叫んだ。
ダイン「何やってんだガキがっ!!」
シュピーゲル「アイツ…!!防護フィールドも付けてなかったのか!!?」
シノン「…はぁ、誘う前に付けさせておくべきだったわ」
ユウヤ「…は?」
左上に設けられたHPはイエローゾーンまで侵食しており、GGOで初めてのダメージとなった。
無線からシノンが声をかけているが、何が起きたか理解出来ていないユウヤには何も聞こえなかった。
シノン『アンタは防護フィールド付けてないから光学銃でもダメージが入るのよ!!』
ユウヤ「…そういうのは行く前に言えよ」
軽い足取りで立ち上がり、目前まで迫っていた敵プレイヤーが光学銃を乱射させる。体の至る所に弾道予測線が貫いており、息付く暇もなくレーザーが放たれた。
ユウヤ「なら…当たらないようにすればいいだけだろっ!!」
AGI型の長所である敏捷性を駆使し、なんとかレーザーからの攻撃を避けて見せたが、さらにレーザーが放たれ、さらに避けた。
ダイン「なんだ…あのガキ」
シュピーゲル「…」
全てのレーザーを紙一重で避け、尚且つ敵に近づいてきている。焦りが生じたのかレーザーは的はずれな狙撃になり、牽制で銃を放つ必要もなくなった。みるみる距離が近づき、ユウヤは片手でサブマシンガンの銃口を敵のプレイヤーに向けた。
その距離は僅か10m。サブマシンガンの射程圏内には余裕で入っていた。この距離なら弾道予測線が見えていようが発砲と回避の間にタイムラグなんて存在しない必中距離だ。
だが、それはユウヤにも同じ事が言える。いつまでも撃ってこないユウヤに苛立ちと不安が相まって今までにない程の数の弾道予測線がユウヤを貫いた。
瞬間、敵の目の前からユウヤの姿が消えた。左右に消えた訳でもなく、完全に見失ってしまったユウヤの行方を必死に探し出す。
すると、何もないであろう下から声が聞こえてきた。
ユウヤ「こっちだよ」
「!!?」
真下をすり抜けながらユウヤはサブマシンガンの引き金を引いた。
無数に発砲された銃弾は敵プレイヤーの上半身を縦に貫きながらポリゴンへと無残にも散っていった。
もう1人が光学銃を向けた瞬間にサブマシンガンはプレイヤーの脳天を貫いていた。
シノン「何よ…あれ…!!」
遠方から狙撃タイミングを窺っていたシノンはユウヤのありえない行動に息を呑んだ。何も恐る事なく、絶対的な勝利だけを信じて突き進む姿にシノンは目を奪われた。ただでさえ、防護フィールドがなく劣勢だったにも関わらず、ユウヤは迷う事なく突き進んだ。特攻だと言われても仕方ない行動にはある種の魅力がある。本人はやれると確信があったように思えたから…。
ユウヤ「いっちょ上がり!!」
敵プレイヤーもその光景に恐怖しながらも、目の前にいるダイン達に注意を向ける。
だが、ここでダインの作戦には致命的な穴があった事が発覚した。
運び屋だと思っていた大男はローブを脱ぎ捨て、その下に隠していた兵器を表した。
ダイン「あれは…!!?」
シュピーゲル「嘘…だろ」
シノン「…ミニガン!!?」
sideシノン_
初撃は自分でも満足のいく狙撃が出来た。誰に気づかれもせず、気づけば既に相手は地に伏しているのはある種の快感がある。
当然次弾はあの運び屋を狙う予定だった。まだあちらのスコードロンは私の正確な位置を特定出来ていないので、簡単な作業だと思った。
だが、あの運び屋は偶然なのか、もしくは狙撃手の存在に気づいていたのかスコープ越しに奴と目が合った。
運び屋は体を覆ったローブを脱ぎ捨て、隠し持っていたミニガンを露わにする。
すると、事もあろうにあの男はこちらを見て笑みを浮かべたのだ。その瞬間、背筋に突き刺さるような緊張感と恐怖が私を襲ってきた。と同時に内から湧き出る闘争本能というべきものが私を駆り立て、狙撃地点から戦場へと私を走らせた。
シノン(「アイツは…笑った。この圧倒的不利な状況の中でアイツは笑っていた…。知っているの?…私がずっと追い求めていたものを…アイツを倒せば私はそれを手に出来るの…?」)
ここから戦場まで300m程の距離がある。相手に悟られないように慎重に向かっても5分しかかからない。
それまでに戦況がどうなっているか気になるものの大して変わってないと予想を立てる。いや…、あのミニガン使い…ベヒモスがいるとなれば、いくらダイン達でも形勢が逆転される事だって十分にある。
ベヒモスはGGOで対スコードロン戦に関していえば無敵に近い強さを誇る。支援がしっかりしていればベヒモスに勝てる者などGGOにはどこにもいない。だが、もし…奴を倒せればまた私は近づける。興奮を抑え、冷静を保ち続けるとダインや他のメンバーが岩陰に隠れ、ベヒモスのミニガンから身を守っていた。
シノン「ダイン!!何してるのよ!!全員で錯乱すればいけるでしょ!!?支援は光学銃持ちしかいないから被弾の恐れもないし何を躊躇してるのよ!!」
ダイン「無茶言うなよシノン…。あのミニガンの恐ろしさはお前も知ってるだろうが。あれに1発でも当たったら終わりなんだぞ?デスペナが惜しいし、ここは投降するが吉だ…。ゲームぐらいでムキになんじゃねぇよ…」
なんと情けない男だろうか。仮にもスコードロンをまとめる者が弱腰でどうする。怒りがミニガンの銃声と共に高揚していくのを感じ、おもむろにダインの胸ぐらを掴んだ。
シノン「だったら仮想世界でぐらい足掻いて死ねっ!!」
ダイン「!!」
ここは仮想世界。死んでもまたやり直せる世界。1度死んだら永遠に取り戻せないあの世界とは違う。ならば、どんなに無様でも強者を前にして勝利を信じ、足掻いて死ぬべきだと私は思っていた。
その経験が後の戦闘にも活かされ、さらに強くなれると信じているから。
ダインは面食らった顔をして何も言い返してこない。こんな少女に何も言えないとはこの男は性根から負け犬根性だったのだと知り、ダインをおいて近くに隠れていた他の者に指示を出す。
瞬間、ミニガンの銃声が止み、それと同時にシノンを除いた他の者が前に出た。
「うぉりゃぁぁぁぁっ」
「うわぁぁぁぁぁっ」
ミニガンのリロードは他の物に比べて時間がかかる。その隙をつけば勝機はあると睨んだ私は岩陰からベヒモスに照準を定める。
この場にいないユウヤとシュピーゲルの安全が気がかりだが、いない者の事は今は頭の隅に追いやり、集中を高めた。
銃弾を乱射させながら突撃をかけた2人を他の敵プレイヤーが妨害に入る。リロードまでの間はこの敵を屠らない限りベヒモスには届かない。
敵プレイヤーの1人がウエストポーチから手榴弾を投げ入れ、その爆風と共に自滅をかかりに来た。
シノン「…くそっ!!」
手榴弾のせいでベヒモスとその周りに土煙が舞い、姿を視認出来ない。おそらく、視力を奪いその場から移動するハズだろうと考えた私は近くに建っている廃ビルへと向かった。
私の愛銃である"ウルティラマ·ヘカートII”はGGO内でも五時の指に入る程のレアアイテムであり、偶然迷い込んだ地下ダンジョンで6時間の攻防を重ね、手に入れた物だ。レア中のレアと言われるだけの性能と威力があり、私の手にも馴染むこの銃を
そんな信頼を於いているヘカートIIを携え、廃ビルの絶好の位置に陣取り、上からベヒモスを確認する。
瞬間、ミニガンのリロードが終わったのか舞っていた土煙を力任せに薙ぎ払い、銃弾に被弾した2人の味方が頭を跡形もなく吹き飛ばされ、ポリゴンとなって消滅するのを確認した。
シノン(「よし…アイツはまだ私に気づいていない…!!」)
周囲に警戒の目を配るベヒモスはまだ私の位置を見つけられていない。
ならば、ここからヘッドショットが決まればベヒモスと言えど即死は絶対だ。引き金に指をかけ、視界に弾道範囲を展開させて呼吸を整える。
サークルが徐々に狭まっていくが途端に広がる。
シノン(「落ち着け…落ち着け…焦るな…私ならやれる…」)
再度、呼吸を整えサークルを狭めていくと、最悪な事にベヒモスが廃ビルにいる私の存在に気づいた。ベヒモスはミニガンを体全体で支え、私に照準を合わせた。
シノン(「しまった…!!」)
ここから離れても銃弾の雨は確実に私に降りかかるだろう。僅か1秒足らずでそう結論が出てしまい、おもわず引き金を引いた。だが、冷静さを欠いた状態で撃ってしまった為、ベヒモスの頬をかする事しか叶わない。
もう終わったと目を伏せた瞬間、ミニガンの銃声とは違うものが私の耳に入ってきた。
ユウヤ「シノンは狙わせねぇよ!!」
ベヒモス「!!」
シノン「…ユウヤ…?」
サブマシンガンでベヒモスの注意を引き付け、照準を私からユウヤへと切り替えた。ミニガンの銃弾がユウヤに襲いかかるが、岩陰や盾になりそうなもので何とか凌いでいる。だが、ミニガンの威力はヘカートIIに勝るものがあり、岩を貫くなど造作でもない事だ。周囲は忽ち障害物のない荒野と化し、ユウヤも動きは止めないまでも焦りを見せている。
ユウヤ「くっ」
シノン「バカっ!!早く逃げなさいよっ!!アンタじゃ敵わないわ!!」
おそらく私でも敵わないベヒモスに初心者であるユウヤが勝てる訳がない。所々銃弾で体を引き裂かれ、HPもレッドに入っているハズ…なのに、ユウヤは足を止める素振りや、逃げる様子を見せずただベヒモスの周囲を回り続けていた。
ユウヤ「うおっ!?」
足元を撃ち抜かれ、その拍子にバランスを崩した。ベヒモスも好機と感じたらしく、すかさず次弾を放つ構えに入った。
ユウヤ「!!」
ユウヤの目には無数の弾道予測線が体を貫いている光景が映っているだろう。あの態勢じゃ空弾を撃って体をずらす事も出来ないし、防ぐような盾もない。万事休すかと思ったその時、懐から取り出した閃光弾を2m先に投げつけた。閃光弾は打ちつけられた衝撃と共に激しい光を爆発させ、周囲を白く塗りつぶした。
ベヒモスもこれではミニガンを発砲出来ないであろう。
ユウヤ「シノォォォォォン!!!!」
シノン「!!」
閃光と共に私を呼ぶ声が轟いた。閃光弾と距離があった為、荒野にいるユウヤとベヒモスはまだ視界が封じられたままだが、廃ビルの上層に陣取っていた私は彼らよりも視力を取り戻し、ユウヤの声と同時にヘカートIIの銃口をベヒモスに向けた。
しかし、ベヒモスは今から撃たれるという事に直感的に気づき、ミニガンを両腕と腰に固定して、廃ビルの下層から私のいる層に引き金を引き続けた。
ユウヤ(「銃声!?目が見えてるのかっ!?」)
シノン(「いや…私のいる場所まで下から順に撃っていく気なんだわ!!…だとしたら、ここに銃弾がくるまで20秒もない…!!」)
下層からガラスの割れる音、柱が砕かれている音が徐々に私のいる層に近づいてきている。今からヘカートIIを構えてベヒモスに照準を合わせてる内に私の方が蜂の巣になるだろう。その思考にたどり着くのに5秒を費やし、いよいよ逃げ場がなくなってしまった。
シノン「…」
これはチャンスだ。今よりもっと強くなる為のチャンスだ。あの
そう考えたら迷う事などなかった。私には退路も自滅も降伏もしない。私は何があろうと掴んだチャンスは逃さない。腕が撃たれようと、足がちぎられようと、頭を撃ち抜かれようとも、そこに存在する限り抗ってやる。
ついにすぐ下の層を撃ち抜かれ、足場がぐらつき、床には亀裂が生じている。
ユウヤ「シノン!!」
地を蹴った。蹴って蹴って蹴って、蹴り続け、私は…空へと駆けた。
ベヒモス「!!」
視力が完全に戻ったベヒモスは驚愕しているようだった。
無理もない。この廃ビルは高さが400mもあり、私がいた階層は約250m。つまりは、その高さからライフルを持って飛ぼうなど無謀以外の何ものでもないとベヒモスは知っているのだ。本人も何も出来ぬまま体を蜂の巣にされているだろうと思ったハズだ。
だが、そんな考えは私から言わせてもらえば思い上がりも甚だしい。
自分の事を強者だと思うのは勝手だ。まぁ、彼の場合は実績や経験もあり、それらを語っているのだろうが私には関係ない。
他人の枠組みで収められるのは私が一番嫌いな事で、ある意味ではそれを狙って飛び出したとも言える。
重力に逆らう事なく私とヘカートIIはベヒモスの上空から落下する。
ベヒモスにもプライドというものがあるのか、ミニガンを私のいる上空へと持ち上げようとする。
しかし、ミニガンは他の銃とは比べ物にならない程の重量を有しており、持ち歩くだけでもSTRを極振りしなければ叶わない。アバターの初期パラメーターにもよるが、支援さえいれば無敵という殺し文句にも納得する。
ベヒモスでもやはりミニガンを垂直に持ち上げる事は困難な為、私に放たれた銃弾は牽制にすらなり得ていなかった。
流れ弾に運悪く左脚が吹き飛ばされたがHPは全損には至っていない。
真っ直ぐにベヒモスの頭上に落下していく私はヘカートIIの銃口をベヒモスに向ける。引き金に指をかけ、弾道範囲を固定、維持する。
シノン「…チェックメイト…」
ヘカートIIから火花が華麗に舞い上がり、ベヒモスの脳天を射抜いた。
それに伴う爆風をクッションにして、荒野へと受け身を取りながら着地する。
瞬間、ベヒモスのアバターは爆風の最高潮と同時に弾け飛び、ポリゴンの欠片が荒野へと散っていった。
ユウヤ「…やった…のか?」
ようやく視力を取り戻しつつあったユウヤが足取りも覚束無いまま私に近づいてくる。皮肉を交えながらこう言った。
シノン「アンタより先に倒してやったわ」
ユウヤ「…結構切羽詰まってたくせに」
夕陽が半ばまで沈み、街に戻る為立ち上がろうとするが、先程の戦闘で左脚は失くなっている事を思い出した。すると、おもむろに抱き抱えられた私は目を丸くして隣にいる少年に顔を向けた。
ユウヤ「さっ、帰るぞ」
シノン「…エッチ…」
ユウヤ「はぁっ!!?」
シノン「冗談よ…。これでこの前の事はチャラにしてあげるわ」
ユウヤ「へいへい…」
傍から見れば子供が自分より大きい少女を抱えている不思議な図に見えるだろう。だが、ベヒモスとの戦闘が終わって体力が空になった私には正直有難かった。
夕陽に背を向け、私達は重たい足取りで街へと引き返したのだった。
いかがだったでしょうか?
再びGGOを駆ける事になったユウヤとシノン。
強敵ベヒモスを打ち破り、次なるステージへと進んでいきます!
次回GGO編は久しぶりにあの人視点で書きます!お楽しみに!
評価、感想などお待ちしております!
ではまた次回!良いお年を!!