ソードアート・オンライン-君と共に在るために-   作:ちぇりぶろ(休載中)

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というわけで65話目に入りました。
BoB予選が白熱する今回から熱い展開が予想されるように書いてみました。最近ユウキの出番が全然ないからどうにかしなければ…


では、どうぞ!


【65】骸の眼光

 2025年12月13日15時40分 総督府B20F 予選会場

 

 先程までの喧騒は消え失せ、モニターから出る音だけが響く総督府の地下20階。そこに青白いエフェクトと共にアバターが転移された。

 

 ユウヤ「…」

 

 瞼を開き、会場内に視線を泳がせるが観客以外のプレイヤーは1人もいない。自分が初戦突破第1号だという事を理解しながら近くに備えられているテーブル席へと体を預けた。

 

 ユウヤ(「この中のどいつが死銃なんだ…?」)

 

 モニターには今行われている予選の全試合が中継されており、疑心感を抱いたユウヤにはその誰もが怪しく見えてしまう。"死銃”という名前は本来のキャラネームとは考えにくく、この中の誰かがそうなのだと思う。

 仮想世界の銃弾が現実の体に被害をもたらす…。

 その力を持っている…かもしれない死銃の事をユウヤはついに今日まで何も掴む事が出来なかった。

 菊岡から死銃の話を聞いた時は9割方噂話であろうと思っていたユウヤは今でもその考えは変わらない。

 だが、残り1割の可能性がユウヤをこの世界に向かわせた。

 仮想世界で実際に現実の人間を殺す。かのSAOでなら、その話も頷けるがここはあのデスゲームの中ではない。"ザ·シード”により生まれた全く違う仮想世界。そこでまたあのデスゲームを再現するのが死銃の目的なのだろうか。

 考えれば考える程真相が遠ざかっていく気がしたユウヤの元に1人の少女が近づいてきた。

 

 シノン「…随分と早く勝ったみたいね」

 

 ユウヤ「…まぁな」

 

 一言だけシノンに言うと、席から立ち上がったユウヤはシノンから離れようとする。それをシノンがまたしても腕を掴んで阻止した。

 

 シノン「アンタ、さっきからおかしいわよ?…何かあったの?」

 

 ユウヤ「…」

 

 掴んだ腕に力が入る。まるで、どこにもいかないようにする鎖のように頑丈に…。

 だが、いとも容易くそれを振り切ったユウヤは鋭い眼差しでシノンを見つめた。一瞬、ドキッと鼓動が早くなるシノンにユウヤは言った。

 

 ユウヤ「今は大会に集中したいんだ…。だから、無闇に話しかけてくるな。いいな?」

 

 シノン「…え?」

 

 それだけを言い残してユウヤは今度こそシノンから離れていった。

 そんな後ろ姿を見つめていたシノンには怒りと不安が心の中で蔓延る。冷たい態度を取られるのも初めてではない為、そこは大して問題ではない。

 いや、初めの頃に比べユウヤの態度はつい先程まで柔らかくなっていた。それなのに、今のユウヤはまた戻ってしまった。

 誰とも関わらず、誰にも近寄らせない、孤独を貫く生き方に…。

 それは段々とシノンの中の怒りが不安にかき消されていくのと同時に新たな感情が芽生え始めていた。

 

 シノン(「あなたは…私と…」)

 

 どこか似ている。

 あの後ろ姿も…あの冷たい視線や態度も…今の弱いままの私に似ている。

 実力的にはシノンはGGOでも上位20位以内の実力を有しており、ヘカートIIを愛用してからはさらに実力を付けた実感がある。

 おそらく、今回のBoBでも優勝とまではいかないが5本の指に入る事は確実と言っていい。

 だが、シノンが望むものは最強。つまりは優勝以外にない。名誉や栄光などもいらない。シノンが望むのはただ"自分は強い”という事実だけ。

 もしこの世界でシノンが強くなれば、現実世界の朝田詩乃も強くなれると信じて今日まで生きてきた。

 それは過去を断ち切る為…、それは現在(いま)を乗り越える為…、それは未来を輝かしいものにする為…。

 弱いままなど真っ平ごめんだ。もう怯えたりしたくない。そう願うからこそ、シノンは戦い続ける。"冥界の女神”という異名にそれ程愛着もないが、強者たらしめているその称号は汚させはしない。

 

 シノン「…今は大会に集中したい…か」

 

 全くその通りだと感じたシノンも、ユウヤの事は気がかりではあるが大会に集中する為に1人になれる場所を探しに歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は遡り、15時45分_

 

 

 

 キリト「なんとか勝ったな」

 

 予選会場へと戻ってきたキリトは自然にシノンとユウヤの姿を探す。

 遠くにユウヤがいるのを確認してから近づこうとするとその行く手を風穴が無数に空いたマントを羽織ったプレイヤーに遮られた。

 訝しそうにキリトが顔へと視線を移すと、不気味なマスクに赤く光る眼光がキリトに恐怖を憶えさせた。

 

 キリト(「なんだ…コイツ…?」)

 

「本物…か?」

 

 キリト「は?」

 

「あの…剣技…あの…戦い…その…名前…。お前…本物…か?」

 

 途切れ途切れに喋るボロマントの男は異様な殺気をキリトに浴びせながら質問をする。剣技…戦い…名前…それらには何故か共通点があるように感じたキリトは頬を流れる汗を拭いながら、荒い呼吸を落ち着かせる。

 

 キリト(「コイツは…オレを知ってる?…どこで?ALO?…いや、もっと前から…」)

 

 そこである事実にたどり着いた。瞬間、鼓動が一気に早くなり、視界が微かに歪み始める。

 

 キリト(「オレはコイツと…会っている!!…SAOの中で…!!」)

 

「言ってる…意味が…分からない…のか?」

 

 キリト「…あぁ、何の事だか分からない」

 

「…まぁいい…お前が…偽物でも…本物でも…殺す…。必ず…殺す。俺には…本物の…力が…あるの…だから」

 

 開いていた予選トーナメント表を閉じようと右手をおもむろに挙げる。

 些細な動作にも敏感になっていたキリトは右手に視線を釘つけた。腕に巻かれた包帯の下、手首の部分に何かエンブレムのようなものが見えた。

 目を凝らして観察してみると、そこにはもうこの世のどこにも存在するハズのない悪魔が不敵に笑っていた。

 もう何度目かとも分からない恐怖に足腰が限界のキリトを置いて、ボロマントの男はその場を後にした。

 しばらくその場に立ち尽くし、なんとか力を振り絞って一番近い席にへと腰を下ろしたキリトはそのまま上体を俯かせ、震える手を必死に止めようと奮闘する。

 

 キリト(「あれは…あのエンブレムは…」)

 

 先程見た手首のエンブレム…それはSAOに存在した()()()()()()()であった。

 

 

 殺人(レッド)ギルド"笑う棺桶(ラフィン·コフィン)

 

 

 名前の通り、棺桶の中から笑っている骸をイメージしたその紋章はSAOにいた者なら誰もが知っている。

 SAOではHPが全損すれば現実の肉体も機能を停止し、本当の死が訪れる。正確にはナーヴギアから脳に高出力のマイクロウェーブを照射され、電子レンジと同じ容量で脳を焼き切るのだが、プレイヤー間では暗黙のルールとして何があってもHP全損だけは避けようという区分率があった。

 だが、笑う棺桶(ラフィン·コフィン)はそれを許容しようとはせず、己の快楽と欲望の赴くままに殺人を行ってきた。

 それらは当時の攻略組にも魔の手を伸ばし、全体の3割の被害者を出した。

 自体を重く見た攻略組は討伐隊を編成し、笑う棺桶(ラフィン·コフィン)を捕縛する為にアジトに突入したのだが、その情報がどこからか漏れ、逆に奇襲に遭ってしまった。

 そこからは血塗ろの地獄と化した。討伐隊も10人以上の犠牲を出し、投降しなかった笑う棺桶の構成員はその戦いで20人以上死んでいった。

 

 

 

 

 

 

 その内の2人を殺したのが当時の"黒の剣士”だ。

 

 

 

 

 

 

 キリト(「タクヤを助ける為とは言え、オレは奴らをこの手で殺した…。なら、オレはなんで拓哉のように責められない?なんで、拓哉だけが責められなきゃいけないんだ…!!」)

 

 あの戦いは今でもハッキリと憶えている。タクヤが我が身を犠牲にした事で攻略組への魔の手も引いたが、代償として親友であるタクヤが闇へと身を堕とさざるを得なかった。

 自分が従わなければ代わりに仲間の命が危険に晒されてしまう…。そんな条件を出されてしまってはタクヤでなくても打つ手はない。

 そして、どちらかを選ぶという勇気はタクヤだけしか持ち合わせていない。

 全員から蔑まされ、罵られ、憎まれ、殺されようともいいという覚悟を持って天秤にかけたのだ。

 それがどれだけ辛く、苦しい事なのかは本人以外知る由もない。

 すると、視界は一気に暗くなり、気づけば2回戦が行われるステージに転移されていた。

 先程と似た遺跡フィールドに転移されたキリトは吹き抜いていく風と夕陽の輝きに照らされながらその場に立ち尽くす。

 瞬間、頬に熱い感覚が伝わった。

 HPバーに目をやると微かにだがダメージを負っている。ここでようやくキリトは試合が始まった事に気づいた。

 だが、腰に吊るされたフォトン·ソードに手をかける素振りはない。

 その様子を草陰からスコープ越しでキリトを捉えていたプレイヤーが舌打ちを鳴らす。

 

(「ふざけやがって…!!」)

 

 警戒する必要なんてない。…そう言われている気がしたプレイヤーは引き金に指をかけ、弾道範囲(バレットサークル)を展開させた。怒りで正確な狙撃が出来ないかと思われるが、このプレイヤーもGGO歴もそれなりにあり、誇りもある。それが初出場のプレイヤーに舐められると知れば怒りを覚えても不思議ではない。

 引き金を引き、合計6発の銃弾がキリトの体を貫く。弾道範囲が広すぎた為、致命傷にはなっていないまでも、その全てを被弾したキリトのHPは一気に半分以上削られている。

 だが、それでも動かない。キリトはその長髪で表情を隠したままただ立ち尽くしている。

 

(「くそがっ!!!」)

 

 なにか作戦があるのでは?と考えたが、確認してもその様子も見て取れない。業を煮やしたプレイヤーは鬱憤を晴らすが如く、残り全ての銃弾を放った。これを食らえば確実にキリトのHPは全損する。

 

 

 

 

 

 

 

 そういった歓喜と爽快感がこのプレイヤーの最後になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 キリト「!!!」

 

 

 目にも止まらぬ速さでフォトン·ソードが粒子を凝縮させながら銃弾を斬った。次いで迫ってくる銃弾も体を回転させながら効率よく斬っていく。致命傷にならない銃弾は無視してそのまま前へと走った。

 その姿に恐怖したプレイヤーは弾道範囲など関係ない程に乱射した。

 だが、それすらも嘲笑うかのようにフォトン·ソードで真っ二つに斬ってみせた。気づけばキリトは目の前で深く沈み、光の刀身はプレイヤーを横にへと薙ぎ払われていた。

 ファンファーレと共にdeadの表示を見下ろしながらフォトン·ソードを腰に戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年12月13日17時30分 総督府B20F 予選会場

 

 シノン「…」

 

 予選も順調に進んでいき、試合の間隔も縮まり始めた頃、一足先に決勝進出を決めたシノンはまだ行われている予選をモニターで確認する。

 優勝候補の闇風やベテランのダインなども観察する標的だが、シノンの瞳には2人の初心者の試合だった。

 今大会間違いなくダークホースとして躍り出ているであろう2人…ユウヤとキリトの試合だ。

 いや、もうあれは試合などという生易しいものではない。

 明らかにオーバーキルを狙っている2人にシノンが見た回避技術の片鱗はなかった。致命傷だけを避け、それ以外は被弾しようが突撃をかけ敵を倒す。キリトなら倒すと言えようが、ユウヤは違う。

 あれは倒すと言うより殺すと言った方が合っているのかもしれない。

 執拗に相手を痛めつけ、尚且つこれまでヘッドショット以外の勝因を作らなかった。

 

 シノン「…嘘でしょ…?」

 

 シノンの瞳に映っているのはいつも接しているユウヤではない。

 あれ程怒りに満ちているユウヤを見るのは初めてで、もしかするとこれが本当の姿なのかもしれない。

 知り合ってから今日まで拓哉/ユウヤは冷たくなる反面常にそこには優しさという暖かい感情があった。

 だから、今日まで一緒にいられたし、強くもなれた。

 けれど、その姿は幻だと言わんばかりにユウヤは戦場を駆け、敵を殺し尽くしていた。

 

 シノン(「アナタは…一体…」)

 

 彼は間違いなく本戦にも出場してくる。そこで相見えれば私にもその表情で銃口を向けるの?

 

 頬には冷や汗が流れ、右手も小刻みに震えている。必死に止めようと左手で抑えるが震えは止まらない。

 

 恐怖している…それが震えている理由。

 

 シノン「…っ」

 

 モニターに映るユウヤの姿を視界から外し、自分の決勝の相手になるであろうキリトを凝視する。

 だが、キリトの鬼気迫る表情にもシノンは驚かされた。

 それはとても辛くて、悲しくて、怒って、そして…痛いものだった。

 見ているシノンの方がキツくなってしまう程にキリトはフォトン·ソードで敵を薙ぎ払っていく。

 GGOをプレイするようになってシノンは今まで数々の修羅場を超えてきた。ソロでは絶対に倒せないNM(ネームドモンスター)と遭遇し、運良く射程圏外からの狙撃で4時間にも及ぶ戦闘に勝利し、今の相棒であるヘカートIIを手に入れた。

 スコードロンを組んで数々のプレイヤーと戦い、その中で自分の力を高めてきた。実力だってここにいる誰にも負けるつもりはないと、2人を見るまで思っていた。

 彼らは強い。初心者という事を度外視しても本戦に進めるだけの力を最初から持ち合わせていた。

 その戦いには今までの経験、技術、感情が染み付き、観客にも薄々感づいている者がいるだろう。

 かく言うシノンもその中の1人だ。ただステータスが足りないというだけで2人は自分が経験した事のない()()()()()()を何度も潜り抜けてきたに違いない。

 

 シノン(「それでも…私は負ける訳にはいかない…!!」)

 

 決勝へと駒を進めたのはやはりキリトで、彼の準備が整い次第に彼との決戦場に転移される。

 キリトは強いが、負けるつもりも毛頭ない。やるからには全力を持って試合に臨む。

 すると、体が青白いエフェクトに包まれ、待機エリアへと転移される。

 1分後にキリトとの決勝戦が始まる。

 ヘカートIIの弾倉に銃弾を詰め込み、副武装(サブ)であるハンドガンにもリロードを済ませる。

 そして、気を落ち着かせる為に深呼吸を数回行って頬を両手で叩き、集中力を高めていく。

 

 シノン(「誰が相手だろうと負けない…。勝って…勝って勝って…(朝田詩乃)(シノン)になる…!!」)

 

 自分を変える為、彼女は戦場へと赴いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年12月13日17時00分 Bブロック予選決勝

 

 転移されたフィールドは廃都市のようで乗り捨てられた車やガラスが粉々に砕かれたビル群が立ち並び、狙撃手(スナイパー)にとっては最良のフィールドであった。

 ユウヤは周りを警戒しながらも廃都市の中を歩いていく。どこかに対戦相手であるプレイヤーが息を潜めてこちらの様子を伺っているに違いないが、ユウヤにとっても地形を把握しておかなければ出来る対処も変わってくる。

 

 ユウヤ(「ここで勝っても負けても本戦には出られる…。けど、今の相手が死銃だとしたらここで終わらせる…!!」)

 

 予選では1対1のPvPである為、もしこの場で死銃を捕らえる事が出来たなら本戦を待たずしてこの騒動は終結する。

 出来る事ならそのように事を運びたいが、そんなに都合のいい事はなく、ただひたすらに廃都市の奥へと進んでいく。

 すると、妙な緊張感がユウヤを襲い、咄嗟に車の陰へと身を潜めた。

 

 ユウヤ(「…見られてるな」)

 

 姿は見えないが、狙撃手特有の殺意と言うべきものがユウヤをより警戒させる。ホルスターから2丁のサブマシンガンを抜き、いつでも戦えるように臨戦態勢に入った。

 

 ユウヤ「どこから…」

 

 ユウヤの視界に入っているビル群に怪しい影はない。なら、地上のどこかにユウヤと同じように物陰に隠れている可能性が高い。視線をビル群から地上に戻し、辺りをくまなく探る。

 瞬間、銃声と共にユウヤの左脚が貫かれた。弾道は辛うじて確認していた為、銃弾が放たれた方角にサブマシンガンを無数に放った。

 だが、土煙が舞うばかりでプレイヤーの姿はない。これ以上撃っても無意味だと悟ったユウヤは物陰に再び隠れた。

 

 ユウヤ(「くそっ!!どこから撃ってんだ…!?」)

 

 ユウヤから半径50mの範囲に依然として人影はない。

 ならば、相手はさらに遠距離から狙撃した事になる。ユウヤはそう結論付けると物陰から飛び出し、銃弾が飛んできた方角に走った。

 

 ユウヤ(「狙撃手相手なら多少無謀でも距離を詰めねぇと…!!」)

 

 10分程走り続けただろうか、ビル群に囲まれた広場にたどり着いたユウヤは中央に陣取り、ビルの隅から隅へと視線を移動させる。

 

 ユウヤ「…」

 

 いる…。確実にここにいる…。漠然とした直感がユウヤの警戒態勢をさらに高め、どこから撃たれても躱すだけの力を温存させる。

 瞬間、発砲音と同時にユウヤは高く飛んだ。ユウヤは放たれた銃弾が地に深々と突き刺さるのを確認してその弾道を目で追った。

 ライフルを片手に体を寝そべらせ、顔だけをユウヤに向けている。

 目と目が合ったような感覚に陥る事1秒。ほぼ条件反射で右手のサブマシンガンが火を吹いた。

 狙撃手は辛うじて体を転がらせながら回避するが、右肩と左腕に1発ずつ被弾した。HPは2割程度の減少で止まったが、狙撃手は撃ち抜かれた箇所をずっと眺めている。

 ユウヤはその様子を不気味に感じたのだろう。着地した瞬間に両手のサブマシンガンで狙撃手のいる階層に狙い撃ちした。

 硝煙の匂いと空薬莢が地面に落ちていく音が耳に残りながらも、サブマシンガンをひとまず下ろし、瓦礫などで埋もれた階層を凝視する。

 全損まではいかないだろうが、少なくてもイエローゾーンに達しているであろうと目測を立てていると、土煙の中から1つの影が飛び出し、器用にもビル群の間をクッションにしながら広場へと着地した。

 

 ユウヤ「!?」

 

 風に吹かれながら銃弾で撃ち抜かれたマントが漂い、その中からライフルと不気味な髑髏のマスクが露わとなり、ユウヤをジッと見つめている。

 

 ユウヤ「ボロマントに…不気味な髑髏のマスク…」

 

 酒場にいたプレイヤーから聞いた死銃の特徴と一致している目の前の狙撃手はユウヤの思考がまとまる前に近づいてくる。

 咄嗟にサブマシンガンを構えたユウヤはこれ以上近づかせないように足元に銃弾を放った。ユウヤの意図に気づいた狙撃手は足を止める。

 

 ユウヤ「お前が…死銃か?」

 

「…」

 

 ユウヤ「答えろっ!!!」

 

 広場にユウヤの怒声が反響し合い、その様子を静かに、そして不気味な赤眼を光らせながら佇んでいる。

 すると、途切れ途切れではあったが、死銃が初めて喋った。

 

 死銃「その…通りだ…。俺が…死銃…」

 

 ユウヤ「なら話は早ぇ…。大人しく負けてもらおうか。それと、仮想世界(ここ)からどうやって現実世界(あっち)の人間を殺してるのか…洗いざらい吐いてもらうぞ!!」

 

 死銃「…そうか…。俺は…そんなに…恐れ…られて…いるのか…。お前には…無理な…話だ…。

 俺は…誰にも…止められ…ない。…黒の…剣士…だろうと…拳闘…士…だろう…と…」

 

 ユウヤ「!!?」

 

 耳を疑った。確かに、今この男は"黒の剣士”と"拳闘士”の名を口にした。この名前を知っているという事は死銃もSAO帰還者(サバイバー)という事になる。

 途端に他人のように思えなくなってしまったユウヤは生唾を飲み込み、息を落ち着かせる。

 

 死銃「俺も…問おう…。お前は…何者…だ…?」

 

 ユウヤ「…オレは…ただの初心者だ」

 

 死銃「…なるほど…な…。…降参(リザイン)…!!」

 

 ユウヤ「なっ!!?」

 

 死銃が降参を宣言した為、ユウヤの頭上にファンファーレが鳴り響いた。

 だが、まだ死銃は目の前にいる。何か手がかりを掴まないまま終わらせる訳にはいかない。

 ユウヤは転移されていく死銃に向かって走った。そして、死銃は消えるその瞬間に一言残した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 死銃「お前も…必ず…殺す…。この…裏切り…者…が…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ユウヤ「裏切り…者…?」

 

 

 髑髏のマスクから漏れるその赤眼が炎のように瞬いているかのように見え、それは死銃から溢れた怒りと憎悪であった事をユウヤはまだ知らずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年12月13日17時50分 総督府B20F 予選会場

 

 全ての予選が終わり、本戦に出場するプレイヤーと観客以外この会場には誰もいなかった。

 勝利の余韻にふける者、次こそはと本戦への闘志を燃やす者とそれぞれだったが、最後にこの会場に戻ってきた少年はそのどちらでもない感情だった。

 

 ユウヤ「…」

 

 死銃が最後に言い捨てた言葉…あれはユウヤの正体を知る者しか言えない言葉。

 

 裏切り者…。

 

 この言葉はかつて仲間だと信じていた者に言う事の出来る言葉。

 だが、ユウヤの仲間の中に死銃はいない。仲間から離れたユウヤからしてみればそれはどうでもいいのだが、死銃は確実にユウヤの事を知っている。

 いや、ユウヤではなく()()()を知っていると考えた方が正しい。

 タクヤが囚われていたSAOの中で死銃と会っているハズなのだから。

 そして、それが誰なのかユウヤには予想を立てるなど造作もない事で、またあの悪夢がユウヤの背後に迫っている。

 もちろん逃げるつもりはない。一生背負っていくと覚悟していた。

 けれど、どれだけ心を強く持とうとも恐怖や不安は完全にはかき消せないもので、この蟻地獄からは抜け出せないのだと確信する。

 

 ユウヤ(「アイツは…死銃は…」)

 

 それが誰なのかは分かった。菊岡にSAOのキャラデータから死銃だった者を特定すれば、現実世界での居所もすぐに分かる。

 だが、もしそうすれば本当にこの騒動は終結するものなのだろうか。

 仮に死銃のアバターを動かしている者を見つけたとしても、それが心停止で死んでいった2人と何の関係があるかまでは分からない。

 どうやって死に至らしめたのか…。この謎を解かないかぎりこの騒動は依然闇の中だ。

 

 ユウヤ「…アイツらには…絶対に手は出させない…」

 

 頭に思い浮かんだのは漆黒の長髪を棚引かせる少年と、碧色の髪と瞳の少女の姿。彼らにだけは死銃と会わせる訳にはいかない。

 もし、死銃の標的に2人がいるとすれば必ず阻止しなければならない。

 もう、目の前で仲間が傷つく姿は見たくないから。

 

 シノン「…ユウヤ」

 

 ユウヤ「!!」

 

 声をかけられ咄嗟に振り返ってみると、そこにいたのは今まさに思い浮かんでいたシノンとキリトだ。

 彼らも決勝まで勝ち上がり、本戦への出場を決めたのだろう。その表情は実に穏やかだった。

 

 シノン「アナタも本戦に進んだのね…」

 

 キリト「さすがだな」

 

 ユウヤ「…」

 

 シノン「ユウヤ?」

 

 ユウヤ「…お前ら…本戦は棄権しろ」

 

 シノン&キリト「「!!?」」

 

 放った言葉に理解が追いつけない2人をユウヤはその冷えきってしまった瞳で彼女らを見る。

 穏やかだった表情は消え去り、困惑といった表情になっていた。

 

 キリト「どういう…事だ?」

 

 ユウヤ「言った通りだ。本戦は棄権しろ。…お前らが来ていい場所じゃないんだ」

 

 シノン「言ってる意味が分からないわ…!なんで、本戦を危険しなくちゃいけないのよっ!!アナタにそんな事決める権利なんかないわ!!」

 

 たちまち怒りを露にするシノンをキリトが抑えるが、シノンはユウヤにまだ納得していないようだ。

 だが、これが最善の手なのだ。死銃に撃たれれば現実世界の彼らが本当に死んでしまう恐れがある。それを拭うとなれば、2人が本戦を棄権し、この先GGOにログインしなければいいだけの事だ。

 死よりもゲームを取るなんて馬鹿げているのだから。

 

 キリト「落ち着けってシノン!…オレもユウヤが言ってる意味が分からない。何かあったのか?」

 

 ユウヤ「…これはもう…ゲームじゃない…」

 

 キリト「ゲームじゃ…ない…?」

 

 ユウヤ「それでも…オレの忠告が聞けないんだったら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まずはお前らから殺す…」

 

 

 シノン&キリト「「!!?」」

 

 それだけを言い残してユウヤはその場でログアウトしていった。

 残されたシノンとキリトは行き場のない内に秘めた感情を感じながら各々ログアウトしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年12月13日18時00分 東京都文京区湯島 某アパート

 

 ログアウトしてすぐに隣の部屋に住んでいる拓哉の所に向かった詩乃だったが、何度インターフォンを押しても扉が開く事はなかった。

 窓から漏れる光すらない事にようやく気づき、溜息をつきながら自宅へと帰ってきた。

 

 詩乃「…はぁ」

 

 ログアウトする前、ユウヤがシノンとキリトに言った言葉…

 

 

 オレの忠告が聞けないんだったら…まずはお前らから殺す_

 

 

 その言葉を聞いてからというもの、詩乃はもう戻れない所までユウヤ/拓哉は来ているんじゃないかと心配になった。

 あの凍てつくような鋭い瞳を前に何も言えなかった自分が憎らしい。

 あの時、何か言えば…とも考えたが、詩乃には何も浮かばなかった。

 自分すらも上手くコントロール出来ない詩乃が言った所で何かが変わる訳でもない。

 

 詩乃「もっと…強く…ならなきゃ…」

 

 気づけば頬に一筋の涙が流れ、拭っても拭ってもそれは止まる事を知らずにただ何か大切だったものと一緒に流されていた。

 強くなりたい…。そう思ったのはあの事件から少しした後だった。

 

 

 私は父親が他界して母方の田舎に母と祖父母と一緒に暮らしていた。

 裕福ではなかったが、毎日が暖かく、それでいてとても心地よい場所であった。

 そんなある日、母と一緒に郵便局に赴いた時だった。

 母を待っている間、郵便局においてある小説を読んでいると、すぐ隣の自動ドアからめざし帽を被った中年男性が息を荒くし、冬だというのに汗を大量にかきながら局内へと入る。

 視界にしばらく置いたが、小説に視線を移した時にそれは起こった。

 

 パァン…と鼓膜に響く高音におもわず肩を震わせた私はすぐさま音が鳴った方を見る。

 すると、そこには先程の中年男性が拳銃を片手に局員に金を取り出させている場面だった。そのすぐ側には、母が衝撃と恐怖で腰が抜かしている。

 何が起きているのか当時子供であった私に分かる訳はなく、そのまま震えながら事が終わるのをただじっと待っていた。

 瞬間、またしても先程と同じ高音が局内に響き渡り、1人の局員が心臓に撃たれていた。どうやら、男の癇に障る事をしたらしく、客の誰かが悲鳴を上げると男は逆上して側にいた母を腕で拘束し、銃口を頭につけた。

 

 

 この女が殺されたくなかったら早く金を積み込め_

 

 

 母もあまりの恐怖で脚が小刻みに震えており、立つだけで精一杯の状態だった。局員である女性も男の言う通りに金庫やレジからあるだけ金をバックに入れていく。

 この時、私は自分でも想像出来ないような行動に走り、何をしているんだと今になってそう思う。

 

 

 ぎゃあぁぁっ_

 

 

 男の呻き声で局内の雑音がかき消さられる。私は男の死角から拳銃を握っている右腕に思い切り噛み付いた。ありったけの力で噛まれた男は痛みに悶えながら私を離そうと腕を振り回す。

 大人の力で子供を薙ぎ払うなど、赤子の手をひねるより簡単な事ですぐに私はカウンターに叩きつけられた。背中に走る痛みよりも母の安全を優先した私は、叩きつけられた拍子に一緒に飛んできた拳銃を素早く拾った。

 男はさらに剣幕な顔つきとなり、私から拳銃を取り返そうと躍起になる。

 私も渡すまいと抗った。今ここで渡せば確実に死が待っていると子供ながらに悟った私は無意識に拳銃の安全装置を解除し、引き金を引いた。

 3度目の銃声は騒ぎ出した客を黙らせるのには十分で、途端に私は両肩に激痛が走り、声を殺しながらその場にうずくまった。

 だが、拳銃を奪い返そうとする男の力はなくなり、諦めたのかと母の方に目をやった。

 

 この瞬間は今でも憶えている…。

 

 母は私ではなくその前に位置する場所に見てはいけないような表情で固まっていた。私の目の前に何があるのか…。気になった私が母から視線を前方に移した。

 すると、そこには心臓を撃たれ、血を垂れ流しにしながら悶えている男の姿があった。

 そして、私の服には男の返り血が大量についており、それだけで意識を持っていかれそうになる。

 だが、男は心臓を撃たれても詩乃に手を伸ばし、体を引きずりながらこちらに近づいてくる。恐怖のあまり拳銃を男に向け、今度は意図して引き金を引いた。飽きる程聴いた銃声はこれで最後になる。

 男はもう絶対に動けない。脳天を貫かれた男は被弾した衝撃で体を大の字にして倒れた。

 そこから大量の血が流れ、私のいた場所にまで血の海は広がっていった。

 

 これでもう大丈夫だ…。また明日から普段の日常だ…。

 

 安心した私はおもむろに母に近づこうとする。けれど、そこにいたのは暖かく出迎えてくれる母ではなく、鬼を見るかのような恐怖心に支配された母だった。

 

 パリィン…と何か大事なものに亀裂が入った音がした…。

 

 その日以降は私にとって待っていた日常ではなかった。

 小さな街で起こった強盗事件は瞬く間に広がり、学校でもそれは連日噂されていた。友達だったクラスメートは次第に私を遠ざけるようになり、終いにはいじめに発展していった。

 人殺し、鬼、悪魔といろいろ蔑称を並べられたが、まだ私には待っていてくれる場所がある。母と祖父母だけが私にとっての場所だった。

 けれど、母はあの事件以来精神が幼児退行してしまい、祖父母も優しく接してくれるがどこかぎこちない。

 

 私にはもはや暖かく出迎えてくれる場所はなかった。…いや、なくなってしまったのだ。

 

 あの事件さえなければ…と夜、布団の中で考えなかった日はない。

 そして、母だけでなく私にもその火の粉は降り掛かってきた。

 病院での検査の結果、私はPTSD(心的外傷後ストレス障害)と言う診断を下され、銃やその形をした物を見るだけで強いパニック状態に陥ってしまうという精神病だ。

 

 私が一体何をしたのか…。あの男を殺した罰なのか…。

 

 それから私は中学へと進み、地獄の3年間を耐え抜き、高校は東京の進学校に進学する事にした。あの事件を知らない場所や人と関わり、また元の朝田詩乃に戻ろうとした決意の表れだった。

 

 ここからやり直すんだ…。もう1度…最初から…。

 

 唯一気がかりだったのは母の容態だったが、祖父母が安心してと言ってくれた為、私は私の事に全力を使うと決めた。

 また、病気が治ったら一緒に住もう…。そう母と約束したから。

 だが、進学した学校は地方から出てきた私を歓迎してはくれなかった。

 それ所か半年が経った頃に、思い出したくもない記憶を掘り起こされ、高校でも私は敬遠されがちだった。

 そんな時、同級生である新川恭二君から誘われたVRMMOゲーム"ガンゲイル·オンライン”をプレイし、そこでなら銃に触れても発作は起きず、ここで最強になれれば、現実世界の朝田詩乃も強くなれると信じ、私はGGOの世界に入り浸った。

 

 私は強くなる…。どんな敵が相手だろうと…逃げたりしない。

 

 そう心に誓ったのに…私の心はまた揺れ動いている。

 それは恐怖などではなく、ただの怒り…仲間を大事に思うあまりに全てを背負おうとする少年に対しての怒りだ。

 憤りを感じているハズなのに、彼の表情がとても切なく、胸が苦しくなる。あの表情を見ていると何故か自分が小さく見えてしまうのだ。

 何故だかは分からない。これを言葉に表せない自分が不甲斐ない。

 そして、彼の背負っているものの大きさを目の当たりにしてしまう。

 

 詩乃「…拓哉」

 

 彼の名前を呟いても返事は来ない。自分しかいない部屋にはそれが儚く霧散してしまうのみ。

 瞼を閉じても現実世界の拓哉と仮想世界のユウヤを思い浮かべてしまう。

 空腹など気にする事なく、私はそのまま深い眠りについた。

 

 

 

 明日の本戦に出れば、何が分かるかもしれないと淡い期待を抱いて…。




いかがだったでしょうか?
死銃との接触、ユウヤの決意、シノンの過去が明らかになっていき、次回はいよいよ本戦!さらにヒートアップしていきますのでよろしくお願いします!


評価、感想等お待ちしております!


では、また次回!
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