ソードアート・オンライン-君と共に在るために- 作:ちぇりぶろ(休載中)
今回は戦闘描写はありませんが、次回の準備段階という形で書かせていただきました。
それぞれが導く答えが交錯する先に何があるのか…
では、どうぞ!
2025年12月14日15時30分 ALOイグシティ キリトのホーム
ユウキ「来たよーアスナー」
アスナ「いらっしゃいユウキ、ランちゃん」
ラン「お邪魔します」
キリトとアスナのマイホームに訪れたユウキとランは奥のリビングで集合していた仲間に挨拶を交わし、所定の位置に陣取る。
今日ALOで集合しようと言い出したアスナが全員分の紅茶をテーブルに並べた。いの一番に取ったストレアが紅茶をすすり始めると、他の者も一斉に取り、喉を潤す。
リズベット「それで、今日は何の用で呼び出したのアスナ?」
アスナ「うん。今日はみんなで他のゲームの大会に出てるキリト君を応援しようと思って呼んだの」
シリカ「そう言えばコンバートするって言ってましたよね?」
クライン「あんにゃろう!こんな忙しい時に何やってんだ!」
カヤト「まぁまぁ…抑えてくださいよ」
リビングに備えられたソファーの後ろからカウンターで酒を煽っているクラインが怒鳴る。それを隣に座ってたカヤトが制していると、ホーム内の空気が一気に冷めた。
リーファ「あーあ…クラインさんのせいですよ」
クライン「俺は本当の事を言ったまでだろぉっ!!?」
リズベット「だからアンタはモテないのよ」
クライン「うぐっ!!?」
アスナが苦笑している側でユウキだけが顔をうずくめてしまっている。そんな様子をカヤトに諭されたクラインが素直に謝罪した。
ユウキ「…」
アスナ「ユウキ…、キリト君には黙ってるように言われたんだけど…
もしかしたら、タクヤ君が見つかるかもしれないの」
ユウキ「…え?」
タクヤの名前を聞いた途端、顔を上げてアスナを見つめる。その表情には嘘などはなく、真実を口にしていた。
その事実には他の者も目を見開き、唖然とした表情で固まっている。
ストレア「それは本当なの!?アスナ!!」
アスナ「まだそうと決まった訳じゃないけど、キリト君が言うにはGGOに絶対いるって…」
ユウキ「GGO?」
カヤト「"ガンゲイル·オンライン”…確か、ゲームコイン還元システムを採用しているガンゲーですよね?」
アスナ「うん。キリト君がGGOにコンバートしたのはそこにタクヤ君がいるかもしれないから。今日はGGOで開かれる大会の本戦があってキリト君が出場するみたいなの」
昨日今日と学校ですら見かけなかったキリトは今はGGOの世界にいる。
アスナ以外の者には漠然とした理由しか述べていなかった為、驚くのも無理はない。
かく言うアスナもそれを聞かされた時は驚いたものだ。
ユウキ「本当に…タクヤがそのGGOって世界にいるの…?」
リズベット「だとしても、わざわざ大会に出る意味はないんじゃない?タクヤを探すなら他にもやり方があったでしょ?」
アスナ「…それが」
シリカ「どうかしたんですか?」
何と説明すればよいかアスナは口を閉ざす。それに業を煮やしたユイがアスナの肩から羽ばたき、モニターの前まで移動した。
ユイ「皆さん、落ち着いて聞いてください。…あの世界にタクヤさんが向かった理由はこの記事が原因だと思われます」
ユイが全員の前にある記事を展開させる。そこに書かれていたのはVRMMOゲームで死んでしまった2人についてだった。
それを読んだリーファ、ラン、カヤト以外の面々は何度目とも分からない驚愕を味わされた。
ユウキ「仮想世界で…死んだ…?」
クライン「こりゃあ…」
シリカ「そんな…!!」
リズベット「ちょ、ちょっと待ってよ!?この記事とタクヤが一体どう結びつくのよ!!?」
ストレア「まさか、タクヤは…!!」
ストレアがユイに問いかけると無言のまま首を縦に振ってストレアの意見を肯定した。
タクヤはその原因を探る為に1人、GGOの世界へと向かったに違いないとキリトは結論付けたと言う。
アスナ「キリト君には黙っていてほしいって言われたけど…みんなにもちゃんと知って欲しくて…」
ユウキ「タクヤは…また…!!」
危険を顧みずに_
その言葉を飲み込みながらも、その事実に色々な不安が立ち込めてくる。タクヤはまたしても1つの仮想世界を救おうと立ち上がっていたのだから。
SAOを終結に導き、ALOを須郷らの魔の手から解き放ち、今度はGGOを何者かの陰謀から救おうとしている。
それは決して誰にも出来る事ではなくて、SAOやALOでの事件に携わった者達にはその厳しさが分かってしまう。
だからこそ、タクヤは1人になったのかもしれない。仲間を危険から遠ざける為に。
ユイ「この事件の重要人物である"死銃”がBoBでも参加しているプレイヤーを殺す気でいるとパパは言ってました。
…そして、それを食い止める為にタクヤさんは見知らぬ世界に1人で行ったのだと…」
ユウキ「タクヤ…タクヤ…!!」
クライン「またアイツは1人で…!!くそっ!!」
リーファ「それでお兄ちゃんはタクヤさんを助ける為に…」
カヤト「…」
それがタクヤという少年だと誰もが知っている。
それでも、胸に宿る不安は消える事はなく、目の前で元気な姿で戻ってくるまで安心など出来ない。
タクヤだって万能の神などではない。
ここにいる全員と同じただの人間なのだ。出来ない事だって当然のようにあるし、解決出来ない事だってある。
だが、タクヤはそうであっても止まる事はないだろう事も知っている。
助けを呼べばどこへでも馳せ参じ、困っているなら一緒に考えてくれる。そんなタクヤだからここまでの強固な絆が紡げた。
ユウキは瞳から滲み出る涙を堪え、息を落ち着かせる。その様子を姉であるランと娘であるストレア、そして…親友であるアスナがそっと抱きしめる。
アスナ「大丈夫だよユウキ…。タクヤ君はきっと帰ってくる。元気な姿で帰ってきてくれるよ」
ストレア「だから待ってよ?私達がこんな顔してたらタクヤも困っちゃうよ」
ラン「ユウキが選んだ
ユウキ「うん…うん…!!」
涙を堪え、影が消えたユウキは大会が始まるまでの間、笑顔でモニターを眺めていた。
クライン「それでよ、その"死銃”ってのがどこのどいつか見当はついてんのか?」
ユイ「それはまだらしいのですが…前に1度会った事がある…と」
ユウキ「会った事がある…」
それが一体どこでなのかは分からない。
だが、すぐそこにまでタクヤに近づいているのだ。後1步の所まで来ているのに最後はキリトにまかせるしかない事実にユウキは歯噛みをしながら悔しがる。
ユウキ(「ボクもGGOに行ってたら…!!」)
銃の世界であったとしても、タクヤを探し出す為なら何だってやる。そう意気込むユウキだが、キリトは近頃のユウキの心身の状態を考慮して1人でGGOへとダイブしたのだ。
その事に気づいていないユウキが今更動いても何も進展はしないだろう。
まだ大会が始まるまで時間があるが、妙にソワソワしているユウキをアスナが落ち着かせるが、アスナ自身も不安は拭えない。
愛する者が親友を助け出す為に危険な世界に足を踏み入れて、心配しない者などこの世にはいない。
キリトもタクヤと同様に危険な世界に足を踏み込んできた。
旧アインクラッド第1層のボス戦に於いてもボスのソードスキルをキャンセルし続けるといった神業を駆使し、勝利へと貢献した。
数々のボスにも果敢に攻め、トッププレイヤーと呼べる程に剣を振るってきた。
74層のボス"ザ·グリームアイズ”との予期せぬ戦闘にも"軍”のプレイヤーを助けながら奥の手であった"二刀流”スキルで死を過ぎらせながらも勝利を掴んだ。
数えればキリがないが、それによって助けられた命があり、繋がった絆があるのは確かだ。
だから、今回もやってくれる。いつだってそうしてきたのだから。
2015年12月14日15時30分 東京都文京区湯島 某公園
詩乃「ムカつく…ムカつく…!!」
恭二「…」
どこにでもある公園のブランコに乗りながら、詩乃はブツブツと恨みつらみじみた独り言を吐露する。その様子を友人である新川恭二は黙って見ていた。
普段の朝田詩乃からはありえない言動を目の当たりにしている恭二にとって心は穏やかではない。詩乃が怒っている理由はBoBで共に出場しているキリトと言う美少女と見間違う程の美少年アバターに対してだった。
予選決勝戦は待合室で傍観していた恭二/シュピーゲルにとっても圧巻の一言に尽きる。
2人が戦ったフィールドは横にどこまでも伸びるハイウェイで、至る箇所に乗り捨てられた乗用車があり、
ハイウェイの性質上、幅は10mと逃げ道は殆どない。
そして、シノンの愛銃であるへカートⅡの威力なら初撃で敵を屠る事など造作でもないだろう。
だが、対戦相手であったキリトはどこに隠れる訳でもなく、ましてや撹乱して攻める気配など見せなかった。ただ、ハイウェイの中央をシノンの所まで歩いているだけ。
それによって集中力を乱されたシノンは1発2発と照準が定まってはいなかった。本戦への出場は決まっているのでここで負けても支障などはない。銃弾を買う資金が惜しい者も中にはいるだろう。
けれど、シノンはそれを許さなかった。彼女はどんなに意味のない試合だろうといつだって真剣に臨んでいた。それは彼女の過去からくるもので望んだものは全力を出し続けなければ手に入らないもの。
シノンはバスの2階から飛び降り、キリトの前まで向かった。モニターからは音声は拾えない為、その時の会話の内容は分からないが、その時のシノンの表情は苦痛のものだった。
それを汲んだのかキリトはシノンに対して決闘スタイルでの勝負を申し込み、それを了承したシノンは互いに距離を開けた。
シュピーゲルは…いや、この試合を傍観していた観客は誰もがシノンの勝利を疑わなかった。
銃相手に剣は勝てない_
それは物理的にも不可能だ。開けた距離はたったの10m。その距離では
トリガーを引いた瞬間、キリトの体は銃弾に貫かれているだろう事も誰もが予想した。光剣などでこのGGOを勝ち抜く事など出来はしない。今までの勝利も光剣での戦闘経験がないプレイヤーの油断が招いた結果だ。
キリトが合図として宙に高く飛ばした銃弾は次第に速度を上げて落下する。
結果は見るより明らかだ。シノンの銃弾が貫いて終わり…誰もがそう思った。
キリトの佇まいを見るまでは…。
銃弾が落ちた瞬間、シノンは躊躇う事なくトリガーを引いた。銃弾は火花を散らしてキリトに向かってくる。
だが、光剣を構えていたキリトはそれより前に動いていた。1秒にも満たないその刹那にキリトの神がかった剣さばきが中央に光の軌道を描いた。
へカートⅡから放たれた銃弾は光の軌道の中央を捉えており、触れた瞬間に銃弾は縦に斬られ、中の火薬がキリトの体を通過しながら破裂した。
誰もが驚愕した_
キリトはこれまで銃弾を斬るという神業で勝ち上がって来た訳だが、それは弾道予測線が予め視認出来る為、そこに光剣の刃を添えればよい。
理屈でそうだと理解してもシノンから放たれる弾道予測線など無いものと考えた方がいい。
それをあの男は斬ったのだ。
どんなチート技を使ったんだと頭を悩ませても答えが出てくる訳ではない。当のシノンでさえ、理解が追いついていなかったハズだ。
キリトはその隙をついてシノンに急接近する。次弾を装填する暇などないシノンに抵抗の手段はなかった。
そして、誰もが予想していた結果を裏切り、Fブロックの予選決勝戦はキリトの勝利で幕を閉じた。
それから今まで仏頂面をしている詩乃についに我慢が切れた恭二が口を開いた。
恭二「朝田さん…その、大丈夫?」
詩乃「え?え、えぇ!大丈夫だよ…」
恭二から声をかけられ正気に戻った詩乃はふと公園に設置されている時計に目をやる。時刻は16時…BoBの本戦が行われる17時まであと1時間を切っていた。
詩乃「次はその脳天に風穴を開けてやる…!」
時計に向かって人差し指を突きつけた詩乃の姿を隣で驚いた表情で見つめる恭二に気づいた。
詩乃「どうしたの?」
恭二「だって…その…大丈夫…なの?」
大丈夫と聞かれた詩乃は時計に向けていた手を確認する。
それは普段の詩乃なら決してやってはいけないものだった。人差し指を突き出した手はまるで拳銃の形だったからだ。
咄嗟に手を元に戻した詩乃だが、本来襲ってくるハズの発作はない。
詩乃「…なんか、イライラしてたから大丈夫だったみたい」
恭二「…朝田さん!!」
名前を呼ばれた瞬間、詩乃は恭二に強く抱きしめられた。
懐かしいと感じる人肌の温もりを体全体で感じるも、いきなりの行動で驚いた詩乃は恭二から身を脱する。
心臓の鼓動を抑えながら、2人の間にしばしの沈黙が訪れた。
恭二も自分の行動に気がついたのか慌てながら詩乃に弁明する。
恭二「ご、ごめん!!」
詩乃「う、ううん…。ちょっと驚いただけだから…」
恭二「…僕、怖いんだ。朝田さんが変わっていくのが…。朝田さんは…シノンは強くてカッコよくて、他の人とは違うものを持ってるのに、それをアイツらに変えられていくのが…」
詩乃「…私は私だよ?…新川君。それに私は強くない」
だってまだシノンになれていないから_
恭二「そんな事ないよ!僕みたいに誰かに頼ったりしないじゃないか!誰にも頼らず、1人で何でも出来るシノンは凄いよ!!
僕はそんなシノン…朝田さんだから…!!」
詰め寄ってくる恭二を詩乃は掌を前に出す事で静止させた。
詩乃「ごめんなさい新川君。まだ、大会が終わってないから…それまでは集中したいの」
恭二「…ごめん」
詩乃「でも、大会が終わったらちゃんと…答えは出すから。…それまで待ってほしい」
果たして答えなどあるのだろうか。
詩乃にとって新川恭二は親友と言っても過言ではない。詩乃の過去を知って尚、気さくに接してくれて、トラウマ克服の為にGGOに招待してくれた。
その恩人が詩乃に対して抱いている感情も本人は薄々気づいている。
だが、今はBoBの本戦がある。そこで倒すと誓った2人とその他の出場者達に勝たなければならない。
勝って、強くならなければならない。だから、今はそれ以外に割く時間などはない。
恭二もそれを理解して、今ではないと踏み止まった。
恭二「僕、待ってるから…。朝田さんが答えを出すまで…ずっと…!!」
詩乃「…ありがとう。じゃあ、私はそろそろ帰るね」
そう言い残して詩乃は恭二と別れ、自宅のアパートへと帰る事にした。
帰り道、何もない住宅地を歩いている中、恭二について考えていた。
彼に対して恋愛感情など持ち合わせていなかった詩乃は答えを出すと言った手前、これからの事を考えなくてはいけない。
恭二は内気で小心者であるが、気さくで優しく、性格も穏やかな好青年だ。そんな彼だから詩乃は今の今まで接していられてきた。
だから、もし恭二と恋仲になっても不幸になる事はないだろう。
けれど、いざ恭二を異性として見た時、心の中で一瞬だがモヤがかかるのだ。裏表がない人などいるハズもなく、いつも見ている恭二が本当の恭二なのかと感じた事は何度かある。
それが詩乃を踏み留ませている原因なのかは分からない。
詩乃の方に原因があるのかもしれないが、BoBで優勝すればその答えもきっと見つかるハズだと詩乃は確信していた。
過去を乗り越え、これから先の未来に笑顔で歩いていける事を…。
そう考えると幾分か足取りが軽くなり、自宅を目指していると、道の脇から3人の女子高生が現れた。
「よぉ…朝田ァ…」
詩乃「…遠藤さん」
遠藤「この前はよくも逃げてくれたなぁ…。」
それはほんの数日前、詩乃が近くの商店街で夕食の買い出しをしていた時だった。不意に背後から声をかけられ、振り向くとそこに遠藤らがいて、路地裏へと連れていかれた。
その際にも遠藤は詩乃に金銭をせびり、要求を飲まなかった詩乃に拳銃の形にした右手を向け、強制的に発作を起こさせたのだ。
その時は恭二の機転でその場を凌いだのだが、遠藤は執着心が強かったのかまたこうして詩乃の前に現れたのだ。
遠藤「今日もお金使い込んじゃって帰りの電車賃がなくてさぁ…。朝田、貸してくんない?」
詩乃「この前も…言ったでしょ?アナタに貸すお金なんて…ない」
遠回りにはなるが来た道を引き返そうと振り向くと、そこには見覚えのない男性が群れを成して詩乃の行く手を塞いでいた。
遠藤「この前みたいに逃げられちゃめんどくさいからさぁ。私達の連れも連れてきたんだよ。この通りは人も少ないし、逃げらんないぜぇ?」
背後から聞こえる遠藤の声が不快に感じ始め、詩乃の正面にいる男達も不敵な笑みを浮かべている。逃げ場を失った詩乃は徐々に追い詰められていった。
「よぉ、この女好きにしてもいいんだよな?」
遠藤「うん。好きなだけ遊んでいってよ」
「マジかよ!結構可愛いじゃんか!」
男達の吐く言葉に詩乃は目眩と吐き気を催す。
その視線は下劣なもので、足元から徐々に舐め回すかのように上へと移動していた。
詩乃(「…私は…また…!!」)
心臓の鼓動は加速し、精神が限界に来ていた詩乃は歯噛みをしながら自分の弱さを恨んだ。
同性に逆らう勇気もなく、なす術なく男達の慰み者にされる未来に近づきつつある現状で、誰かが助けに来る訳でもないのは理解している。
だが、そう望まずにいられない。
詩乃(「誰か…私を…助けてよ…!!」)
「おい」
聞き慣れた声がした。と思いきや、男の1人が鈍い音を鳴らせながら地面に平伏した。
その他の男達は何が起きたか理解出来ずに一瞬行動が遅れたが、怒りが立ち込め、1人の青年に殴り掛かる。
「何してんだゴラァァっ!!」
「こっちのセリフだ」
襲いかかった拳は空を貫き、代わりに殴り掛かった男の顎が勢いよく上がった。続け様に近くにいた2人の男を殴り飛ばし、最初の男同様に地に跪かせる。
倒れている男達を無視して詩乃に近づいてくる青年を詩乃は知っている。
憎らしくて、それでいて暖かくて…どこか自分に似た青年…。
拓哉「悪いけどここから消えてくれねぇか?」
拓哉は詩乃の前に立ち、遠藤らを威嚇した。遠藤らは拓哉の表情に恐怖してその場を逃げるかのように去っていった。
次第に男達も立ち上がっては逃げていく。その後ろ姿を見送りながら、拓哉は詩乃の腕を肩にかけて立ち上がらせた。
拓哉「大丈夫か?」
詩乃「…あ、ありがとう…」
見た限りどこにも怪我はないようだが、顔色が悪く、今にも倒れそうだ。
拓哉は詩乃の自宅まで送り届けようと歩を進める。
その姿を詩乃は拓哉に気づかれないように見つめた。
詩乃(「…また…助けられた」)
自分が助けを望んだ瞬間に現れてくれた。
助けなんて来ないと確信していたにも関わらず、彼は来てくれた。
それだけでも嬉しいハズなのに、同時に悔しさが詩乃の心の中に淀む。
詩乃(「拓哉は私より…もっとつらい経験をしてるのに…どうして?」)
これまでの拓哉を見ていて感じたのは自分と似たような過去を持っているであろう事だった。
それが一体どんなものかは分からない。
だが、時折見せる苦渋を飲んだような表情がそれらを物語っていた。
だから、きっと彼も苦しんでいるのだろうと詩乃は拓哉を理解していたつもりだった。
けれど、拓哉は詩乃と違って足を止めたりはしない。
道の外れにいる人に手を差し伸べる勇気が彼にはある。
自分の事だけでなく、他人にもその強さを分け与える事が出来る。
詩乃(「そんなの…私には…出来ない…」)
拓哉「着いたぞ」
詩乃「え?」
気づけばそこは2人が借りているアパートの前だった。詩乃の腕を肩から外して、鞄を手渡す。
拓哉「今日はもう部屋で大人しく寝てるんだな」
詩乃「…寝てなんていられないわ。BoBの本戦がある」
拓哉「…忠告したハズだ。本戦には出るなって」
理由は分からないが、おそらくこの言葉も私の身を案じてくれているからこそだと思う。
けれど、詩乃はそれ以上に果たさなければならない使命がある。
詩乃「私は…誰が何と言おうと本戦に出て優勝する。優勝しなきゃならないの…!!」
拓哉「…なら、その時はまずお前から殺す」
またあの感覚だ。いつもの優しさが含まれていない冷徹な言葉。
そこにあるのは暖かさではなく、まぎれもない殺意だけだった。
2025年12月14日16時30分 総督府前
本戦が始まる30分前にログインしたキリトはまだ時間に余裕があるのを確認して外の巨大な橋へとやって来ていた。そこから見えるグロッケンの景色は遊郭の風貌を連想させ、言葉では言い表せないものだった。
キリト「…拓哉」
親友の名前を口ずさみながらその景色を眺めるキリトの所に1人の少年が通りがかった。
キリト「おっす、ユウヤ」
ユウヤ「何でここにいる?」
キリト「そりゃあ、本戦に出る為に決まってるだろ?」
ユウヤ「…」
そのまま通り過ぎようとするユウヤの腕を掴んでキリトは少し話をしようと呼び止めた。
ユウヤ「…お前と話す事なんてオレにはない」
早く離れたかった。キリトの一緒にいたくなかった。
その思いがユウヤの足を動かすが、キリトに止められている為、前に進まない。
キリト「ちょっとぐらいいいだろ?」
ユウヤ「…」
その表情を見てユウヤは仕方なくその場に留まる。逃げる様子がない事を確認したキリトは再びグロッケンの景色に視線を戻す。
キリト「…ユウヤは何でBoBに参加したんだ?」
ユウヤ「…お前には関係ない」
キリト「ケチな奴だな。…オレはさ、ここにいるかもしれない友達を探しに来たんだ」
ユウヤ「…」
キリト「そいつは無茶ばっかりしてみんなを心配させてどこかに行っちゃってな。GGOにいるかもしれないって憶測でオレはここに来たんだ」
頼んでもないのにキリトは次々と言葉を吐き出させる。それを聞いてユウヤは微かに心がザワついた。
キリト「オレが助けに来て欲しいって思った時に現れて手を差し伸べてくれる。アイツがいなかったら、オレはここにこうして立ってられなかった」
やめろ…やめてくれ…_
キリト「いつも面倒事を引き受けてくれて、オレ達の事を第一に考えてくれる良い奴なんだ。
…でも、自分の悩みはオレ達には何も言わなくて、1人で辛い事…苦しい事…悲しい事を背負って耐え続けている。
だから、アイツが困った時は側で助けてやりたい。苦しい時は側で励ましてあげたい。悲しい時は側で慰めてあげたい。
オレはアイツに救われたから、今度はオレが…オレ達が支えてあげたいんだ」
ユウヤ「…」
偽善などではない。キリトは本心で親友を支えたいと言っている。
目の前に支えたいと思っている
キリト「アイツが今抱えてる事もオレが何とかしてあげたいって…それなのに─」
ユウヤ「いい加減にしろっ!!!!」
キリト「!!?」
これ以上は聞きたくない。
そう願って声を荒らげた。心配されてももう戻る事は出来ない。
けれど、素直に嬉しいと感じる気持ちはある。そこまで想ってくれている事も感謝している。
今までの繋がりが完全に途切れる事は決してない。それでも、その糸を極力薄くしようと頑張ってきたユウヤにとってキリトの言葉は銃弾で体を射抜かれた時よりも痛く、苦しいものだった。
ユウヤ「…オレには関係のない事だ。ベラベラ喋りやがって…!!
だからなんだよ!!オレにどうしろって言うんだよっ!!本戦で会っても手加減しろって言うのか!!?」
キリト「いや…!!オレはそんなつもりで言ったんじゃ…」
ユウヤ「お前はソイツの事を本当に考えてやったのかよ!!ソイツが黙って消えたのはお前達を想ってだろぉがっ!!
ソイツの気持ちを分かった気になってんじゃねぇよっ!!同情なんかするな!!!目障りなだけだ!!!
もう…
そんな事は思っていない。でも、これ以上関わるのは良くないと確信して言える。
血塗られた手を引き戻そうとすれば、その手は真っ赤に染められてしまうから。
大切な仲間の手を染めさせたくないから…。
ユウヤはありもしない気持ちを無理矢理吐き出させた。
息を切らしながら、心を落ち着かせている。
まだ、何も終わっていない。
タクヤが
それが、あの世界を終わらせたタクヤの義務であり、責任だ。
キリト「…ユウヤ、お前…」
ユウヤ「…本戦に出るなら、真っ先にお前を殺しに行く…!!」
そう言い残してユウヤは総督府の中へと入っていった。それを追う事なく、キリトはその場にただ立ち竦むしかなかった。
いかがだったでしょうか?
ユウヤとキリト、シノンのあいだに生まれる物語がここから最大局面に入っていきます。
死銃の野望を3人がどう打ち破るのか…
評価、感想などお待ちしております!
では、次回!