ソードアート・オンライン-君と共に在るために-   作:ちぇりぶろ(休載中)

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という訳で68話目更新しました。
今回は少し長めに書いていますが、駄文だったらすみません。
GGO編も佳境に差し掛かりましたのでこれからの戦いも盛り上がるように書いていきますのでよろしくお願いします!


では、またどうぞ!


【68】硝煙舞う憎悪

 2025年12月14日17時45分 ISLラグナロク 廃墟都市フィールド

 

 廃墟都市フィールドの入口でユウヤはサテライトスキャンを確認する。

 現在廃墟都市にいるのはユウヤと銃士Xの2人。

 ユウヤの後を追って廃墟都市に向かってきているのが2人。

 おそらく、キリトとシノンであろう事はユウヤにも分かっている。

 最早、自分からは関わらない。切っても切っても繋ごうとする者達にこれ以上神経をすり減らすのは馬鹿馬鹿しかった。

 そして、西から廃墟都市に向かっているのが1人。

 

 ユウヤ「銃士X…、コイツが死銃のキャラネームか…」

 

 川沿いに廃墟都市に向かってきた時に水面に注意しながらやって来たが近くで波紋は見て取れなかった。

 つまり、川の行き止まりである廃墟都市に潜伏している可能性が高い。

 となれば、今現在廃墟都市にいるプレイヤー…【銃士X】が死銃だと言う事になる。

 わざわざここに来たという事は廃墟都市に西から向かってきている【リリコ】なるプレイヤーが次の死銃の標的だろう。

 事前に標的が分かっていれば、先回りして死銃の裏をかける。

 ユウヤは端末をしまって廃墟都市へと入っていった。

 廃墟都市の中央には巨大な闘技場があり、それを囲むようにビルが連なっている。円形型の都市ではどの地点を狙撃ポイントと定めるのが重要になってくる為、ユウヤは周囲を警戒しながら慎重に進んでいった。

 

 ユウヤ(「次は逃がさねぇ…。絶対に殺らせる訳にはいかないんだよ…」)

 

 闘技場付近まで進んだユウヤは双眼鏡を取り出し、周囲を見渡す。

 すると、闘技場の上からライフルの銃口が微かに見えた。

 あの地点まで走っても5分とかからない。射程距離を考えると死銃がリリコを狙撃するまで少なくても10分はかかるだろう。

 その間に死銃を仕留めれば、この()()()()()も終わる。

 ビルの陰から陰へと移り、ユウヤは闘技場の中へと入っていった。単調な造りが功を奏したのかすぐに中の観客席まで進んでこれた。

 後2分もあれば、死銃の背後を取れる…。そう感じていると、闘技場の上から狙っているプレイヤーを見つけた。

 

 ユウヤ「!!」

 

 途端、ユウヤの足が止まった。

 死銃はその風貌を一目見れば記憶に刻まれる程特徴的なものだ。

 そして、喋り方と過去の記憶から導き出して男性なのは分かっている。

 だが、200m先に寝そべっている死銃であろうプレイヤーはそのどれにも当てはまらないものだった。

 銀色の長髪が風で靡き、赤を基調とした装備は死銃のそれとは違っている。遠くから見ても女性だと言う事も分かる。

 

 ユウヤ(「どういう事だ?あれが本当に死銃なのか…?」)

 

 確かに、ボロマントから微かに見えた体格を正確には把握出来ていない。

 装備だけを変えれば別人のように見える。

 だが、右腕に見た笑う棺桶(ラフィン·コフィン)の刺青が刻まれている事からユウヤは死銃のSAOでのキャラネームを割り出している。

 第一、笑う棺桶(ラフィン·コフィン)にいたのなら、その殆どが男性なのだ。傘下として笑う棺桶(ラフィン·コフィン)の下にいた犯罪(オレンジ)ギルドには女性も混じっていたが、それなら刺青がある訳がない。

 そして、あの強さを見てもキャラデータはコンバートしている可能性が極めて高い。

 結論を言えば、死銃は笑う棺桶(ラフィン·コフィン)の幹部クラスのプレイヤーだと言う事だ。

 だから、今この闘技場にいる銃士Xが死銃と判断し切れずにいる。

 

 ユウヤ(「アイツは…死銃じゃ…ない?」)

 

 瞬間、ユウヤの背筋が凍る感覚が襲いかかってきた。どこかで何か見落とした事があったのか、それともまだユウヤが明かしていない謎があるのか。

 すると、4回目のサテライトスキャンの時間が来た。

 すぐに端末を取り出し、フィールドマップを展開させる。リリコは既に廃墟都市の中に入ってきている。銃士Xも今の地点から動いてはいない。このスキャンでユウヤの位置も知られているだろうが、あちらが攻めてこない限りユウヤも攻める事が出来ない。

 そして、キリトとシノンも真っ直ぐに闘技場に向かってきている。

 キリトが死銃を銃士Xと推理した為か、或いは単にユウヤを追ってきているのかは分からないが、この際どちらでもいい。

 現在廃墟都市にいるプレイヤーはユウヤを含めて5人しかいない。銃士Xが死銃じゃないとしたら一体どこにいるのだろうか。

 廃墟都市にはサテライトスキャンから逃れられる洞窟や川などはない。

 そもそも、このフィールドにはいないのかと疑念を膨らませていると、どこからか銃声が聞こえてきた。

 

 ユウヤ「まさか…!!」

 

 

 誰かが戦闘を始めたのか…?

 

 

 咄嗟にそう考えたがそれをすぐに否定する。

 サテライトスキャンされてまだ5分と時間は経っていない。その短時間で戦闘が行える程、誰も近くに移動していないからだ。

 しかし、死銃が仮想世界から現実世界の人間を殺せる神のような力があるならば、瞬時に移動出来ても不思議には思わない。

 ユウヤの常識と照らし合わせても矛盾しか発生しないが、不確定要素が多い死銃はユウヤにとっても規格外だ。

 あれこれ考えても埒が明かないと無理矢理理解したユウヤは死銃の可能性が高い銃士Xを倒しに行動を開始した。

 

 銃士X「!!…来たわね!!」

 

 ユウヤ「っ!!」

 

 銃士Xはユウヤが迫ってきている事にいち早く気づき、スナイパーライフルで狙撃する。闘技場のステージからではすぐに捕まる事を考慮して、観客席側から迂回しながらサブマシンガンを牽制目的で乱射させた。

 だが、地の利をユウヤより把握している銃士Xは柱の陰を上手く使ってユウヤの攻撃を防いでいく。

 やはり、銃士Xの方が上手だと気づくと、2丁持っていたサブマシンガンを1丁だけにして、空いた左手にフォトン·ソードの柄を握った。

 スイッチを押し、光の刃を出現させながら全速力で走った。

 

 銃士X「くっ!!」

 

 ユウヤ「はぁぁぁっ!!」

 

 徐々に距離を詰めながら銃士Xを追い詰めていくユウヤはフォトン·ソードで弾丸を斬っていく。それでも斬り零した弾丸でダメージを負うが、全損するにはまだ数が必要だ。

 残り10mとなった瞬間、ユウヤは地を思い切り蹴り、水平に真っ直ぐ加速する。

 

 

 片手用直剣ソードスキル"ヴォーパル·ストライク”

 

 

 切っ先を前方に向けてながら槍の如く突き進むユウヤに銃士Xは焦りと恐怖を抱いてしまった。

 ポーチから手榴弾を投げようとする寸前でユウヤのフォトン·ソードが銃士Xの腹部を捉えた。突進力が合わさったフォトン·ソードはそのまま体を貫通させ、銃士XのHPを削り切った。

 その場にアバターは倒れ、deadの文字が出現すると、ユウヤは勝利の余韻に浸る事なくその場を離れ、双眼鏡で闘技場の周りを確認する。

 あの発砲音は銃士Xのものではない。

 だとしたら、死銃によるもので、既に誰かを殺しているかもしれない。

 そう考えた瞬間、脳裏にキリトとシノンが浮かんだ。

 

 ユウヤ「…頼む…」

 

 

 無事にいてくれ_

 

 

 すると、闘技場の入口前にある広場の中央に碧色の髪をした少女が地面に横たわっていた。右腕にペイルライダーと同じ麻痺弾が撃たれ、体が自由に動けないようだ。

 すぐにシノンの元へ向かおうとすると、何もない場所の景色が微かに歪んだ。そこから、見覚えのある汚らしいマントを翻しながら死銃が現れた。

 

 ユウヤ「!!?」

 

 何もない場所から姿を現した死銃に困惑するも、それを許さないと言わん限りホルスターからハンドガンを取り出した。

 

 ユウヤ「このままじゃ…!!」

 

 あのハンドガンはペイルライダーを撃ち殺した時にも使っていた。

 つまり、あのハンドガンが現実世界の人間を殺す能力があるのだと理解して、ユウヤは妨害する策を講じる。

 サブマシンガンでも死銃までの距離は届かない。手榴弾も投げるには距離がありすぎる上、威力を考えればシノンを巻き添えにしてしまう。

 ユウヤの手持ちの物では死銃を止める事は出来ない。近くにキリトがいる様子も見えない。

 手詰まりになっていると、死銃が例のジェスチャーに入った。

 いよいよ時間がなくなっていると、側で倒れている銃士Xの装備が散乱していた。そこにはスナイパーライフルと発煙筒が数本落ちている。

 瞬間、ユウヤはそれらを回収して闘技場から2本の発煙筒を投げた。

 距離は届かないまでも煙は周囲に広がる。視界を奪えばシノンへの発砲も注意するだろう。

 思惑通り、発煙筒から立ち込める煙は死銃とシノンを包み込み、辺り一面を煙で埋めつくした。

 すぐに闘技場から出て残り2本の発煙筒も投げ捨て、微かに見える影にスナイパーライフルを乱射させる。

 何発かは当たったみたいだが、それで倒れてくれる程死銃は甘くない。

 視界を奪っているというのに死銃はこちらに弾丸を撃ってきた。頬を掠めたがそんな事を気にする余裕は今のユウヤにはない。

 シノンのいる場所まで全速力で走り、シノンの体を背負ってその場から逃げようと煙が舞っていない場所に出た。

 

 シノン「ユウ…ヤ…?」

 

 ユウヤ「だから言ったんだ!!…くそっ!?」

 

 煙の中から弾丸が貫いてくるが、視界を遮られている為か牽制にすらなり得ていない。

 だが、完全に逃げ切るにはこのままではいかない。

 そんな事を考えているとビルの間にレンタルバギーとロボットホースが置いてあった。

 

 シノン「ダメよ…。ロボットホースは難しすぎて誰も乗りこなせない…」

 

 キリト「シノン!!…とタクヤ!!」

 

 ユウヤ「キリト!!とにかく今はここから離れるぞ!!」

 

 バギーに乗り込み、後部座席にシノンとキリトを乗せたユウヤはエンジンを吹かせ、廃墟都市を後にしようと走る。

 このまま真っ直ぐ進めば砂漠フィールドに入り、そこになら身を隠せる洞窟もあるハズだ。

 後、数kmで廃墟都市を抜けようという所で後方から弾丸が放たれた。

 

 シノン「嘘…!?」

 

 後方から弾丸と共にロボットホースに乗った死銃が迫ってきた。

 扱いが難しいロボットホースを難なく乗りこなし、徐々に距離を詰めてきている。

 

 キリト「このままじゃ追いつかれるぞ!!」

 

 ユウヤ「っ!!…シノン!!死銃を撃て!!その銃の威力ならロボットホースを壊せるハズだ!!」

 

 シノン「…わかった」

 

 後部座席からへカートⅡを構え、スコープでロボットホースを捉える。

 トリガーを引こうとした瞬間、シノンはある異変に気づいた。

 

 シノン「あれ…?」

 

 いつも通り撃とうとしているのにシノンの体の震えがそれを許さない。

 トリガーに指をかけた瞬間、指先が震えてトリガーを引く事が出来ないのだ。

 

 キリト「シノン?」

 

 ユウヤ「何やってんだ!!?早く撃て!!!」

 

 シノン「あれ…?あれ…?」

 

 いくら力を込めようとトリガーを引く瞬間に全ての力が抜けてしまう。着弾範囲も定まらず呼吸が荒くなっていく。

 今までGGOの世界で発作など起きた事がないシノンにとって、これは由々しき事態だ。

 

 シノン「…撃てない…。私は…もう…」

 

 ユウヤ「牽制でもいい!!撃たなきゃコッチが殺られるぞ!!?」

 

 キリト「そいつを貸してくれ!!オレが代わりに撃つ!!」

 

 シノン「ダメよ…。へカートは私にしか扱えない…」

 

 そう言っている間に死銃はスナイパーライフルを肩にかけ、腰のホルスターからハンドガンを取り出す。

 そして、それをシノンに的を絞って発砲した。

 ロボットホースに乗っている為か照準は定まっていないが、このままではいつ被弾するか時間の問題だ。

 

 ユウヤ「…キリト!!代われ!!」

 

 キリト「え?…あ、あぁ!!」

 

 すぐにキリトと運転席を代わり、後部座席のシノンの隣に移ったユウヤはシノンの手を添え、へカートⅡの銃口を固定させた。

 

 シノン「ユウヤ…?」

 

 ユウヤ「お前がアイツに恐怖してるのは分かった…。だったら、一緒に撃ってやる。死銃をここで止めねぇとどの道全員ここで殺られるんだ。

 出来る出来ないじゃねぇ…やるかやらないかだけだ…!!」

 

 シノン「…ユウヤ…私…」

 

 ユウヤ「大丈夫…お前ならやれる。"冥界の女神”の力を貸してくれ」

 

 キリト「飛ぶぞ!!タイミングを合わせてくれ!!」

 

 瞬間、舗装されていない道による揺れは消え去り、ただただ浮遊感に支配された。

 だが、揺れがなくなった事で一瞬と呼べる時間へカートⅡの銃口は固定される。

 狙うのは死銃が乗っているロボットホース。本人を狙う事が出来ないならその足を奪うまでだ。シノンの腕なら出来るとユウヤは確信している。

 今まで短い時間だったが、シノンのGGOに対する姿勢は尊敬に値するものであった。

 そして、シノンが何の理由か分からないがその意志が砕けかけているならそれを支える柱になればいい。

 仲間だと認めたくないが、死銃を倒す為にはもうこれしか道がなかったのは事実で、シノンにも苦痛を強いているだろうが、2人でなら出来る。

 

 ユウヤ「…いくぞ」

 

 シノン「…うん…」

 

 トリガーに指をかける。

 震えが次第に和らいでいくのが分かる。

 シノンの手に添えられたユウヤの手が暖かく、力強いものが自分の心を支えてくれているのかそれは定かではない。

 

 シノン(「コイツも…ユウヤも…ただ一生懸命に生きてるだけなんだ…。自分よりも他人を優先して全力で助けようとしてくれてるんだ…」)

 

 そんなユウヤだからこそ、キリトやあの少女のように慕ってくれる仲間がいるんだ。

 そんなユウヤだからこそ、私はこんなにも惹かれていったんだ。

 手の暖かさがこんなにも心を落ち着かせてくれるとは思わなかった。

 スコープでロボットホースの足を捉えたシノンはユウヤと一緒にトリガーを引いた。

 放たれた銃弾はロボットホースの足目掛けて真っ直ぐに飛んでいく。

 だが、万全の状態ではない為、銃弾はロボットホースをすり抜けてしまった。

 

 シノン「っ!!」

 

 ユウヤ「…いや…!」

 

 ロボットホースをすり抜けた銃弾は乗り捨てられたトラックのガソリンタンクを貫く。

 その衝撃と熱気によりタンク内のガソリンが引火し、死銃の後方で大きな爆発を引き起こした。爆炎は脅威的な速さで死銃に迫っていく。

 これにはロボットホースと言えども爆炎からは逃れる事が出来ず、そのまま爆炎に飲み込まれていった。

 

 ユウヤ「よしっ!!よくやったシノン!!」

 

 シノン「私は…何も…」

 

 キリト「すぐに砂漠に入るぞ!しっかり捕まっててくれ!」

 

 キリトの運転のまま砂漠フィールドへと移動していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年12月14日18時10分 イグシティ キリトのホーム

 

 BoBは中盤に差し掛かろうとしている頃、ALOのイグシティにホームを構えているユウキ達の前に水色の長髪をまとめた水妖精族(ウンディーネ)の青年が入ってきた。

 

 リズベット「来た来た!!遅いわよクリスハイト!!」

 

 クリスハイト「いやいや…これでもマッハで駆けつけたんだよ?ALOに速度制限があったら間違いなく免停だったね」

 

 クリスハイトと呼ばれた青年は現実世界(リアル)でもユウキ達の知人であり、今日ここを訪ねたのはユウキの呼び掛けによるものであった。

 

 クリスハイト「それで?今日は一体どんな用事だい?」

 

 ユウキ「クリスハイトさん…。今、GGOってゲームの大会にタクヤが出場してるよね?」

 

 クリスハイト「!!…そうだとしたら?」

 

 ユウキ「実はキリトもその大会に出てるんだ。タクヤがGGOにいるって確信して…。そこでラフコフのメンバーだった人が"死銃”って名乗ってるらしい」

 

 アスナ「クリスハイト、タクヤ君に"死銃”について調べるように言ったんじゃないんですか?」

 

 ギクリと思いながらクリスハイトはその場を凌ごうと画策する算段をつけるが、ユウヤやみんなの目を見てそれは無駄な事だと悟った。

 ため息をついて眼鏡を上げながら再度ユウキ達に顔を向けた。

 

 クリスハイト「…その通りだ。タクヤ君には死銃について調査するように依頼した。だが、それは深追いしない約束でだ。僕もまさか、そこまで掴んでいるとは聞いていない」

 

 リズベット「そんなのタクヤの性格知ってたらすぐに分かるじゃない!!アイツは昔の因縁を1人で決着つけようと…!!」

 

 ユウキ「クリスハイトさん、アナタだったらGGOの運営に問い合せたら死銃の現実世界での居場所が分かるんじゃない?」

 

 クリスハイト「それは無理だろうね。GGOを運営しているザスカーはアメリカにサーバーを持っているから問い合わせても時間がかかる。

 それ以前に個人情報を提示してはくれないだろう」

 

 さらに言えば、例え死銃の居場所を突き止めても、それまでにタクヤとキリトが無事にいられる保証もない。

 

 カヤト「なんで…」

 

 ラン「カヤトさん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カヤト「なんでまた兄さんなんですかっ!!!!」

 

 ユウキやアスナを押し退け、クリスハイトの胸ぐらを掴み、壁際まで追いやる。初めて見る激昴したカヤトの姿に全員が息を飲んだ。

 

 カヤト「いい加減にしろよ!!!兄さんはアンタ達の道具じゃない!!!」

 

 ラン「カヤトさん!!落ち着いて!!」

 

 リーファ「今そんな事しても意味ないよ!!」

 

 怒りに身を委ねるカヤトをランとリーファが止めに入る。

 クラインもそれに加わり、クリスハイトとカヤトの間に割って入った。

 

 カヤト「ハァ…ハァ…」

 

 クリスハイト「…すまないと思っている。SAOを終わらせてくれただけでも僕には返しきれない程の恩があると言うのに…僕はタクヤ君の優しさに甘えてしまった…。それで心配する君達の事を忘れて…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウキ「それでも…タクヤは行っちゃうよ」

 

「「「!!」」」

 

 ユウキ「タクヤはどこまでも優しいから…どんなに辛い事でも進んでやろうとする…。今回だって、SAOの時の因縁をつけに行っただけってきっと…タクヤなら言うハズだよ」

 

 もう全員が知っている。タクヤならそうすると…。

 全てを捨てても…仲間との繋がりを断とうとも…仲間の為に自身の全てを背負って拳を振るう。

 今までも…そして、これから先もおそらくそれは変わる事はないだろう。

 

 シリカ「そう…ですね。タクヤさんなら私達に危険が及ぶような事は絶対にさせたりしないです…」

 

 クライン「キリトだってそんなアイツだから命を張って助けに行くんだ。そんなアイツだから俺達もアイツを1人にさせたくねぇんだ」

 

 クリスハイト「…タクヤ君は、本当に愛されているね」

 

 アスナ「それがタクヤ君の魅力なんです。だから、彼が困っていて助けを呼んでなくても私達で絶対に助けるんです」

 

 1人で背負わせる訳にはいかない。1人で背負うにはあまりにも重く、辛いものだと知っているから、それを少しでも軽く出来るように奔走するのだ。

 

 ユウキ「クリスハイトさん、タクヤの居場所を教えてください!!

 ボクはタクヤに会って、ちゃんとボク達の気持ちを伝えたいんだ!!お願いします!!」

 

 深々と頭を下げたユウキを前にクリスハイトはしばらく沈黙を保っていたが、何かを決意したかのようにそれを了承した。

 

 クリスハイト「タクヤ君は横浜市立大学附属病院でモニタリングしている。受付に言えば案内するよう手配しておくよ」

 

 ユウキ「ありがとうございます!!…じゃあボク、行ってくるよ!!」

 

 アスナ「えぇ!!」

 

 すぐにログアウトしたユウキは自室で覚醒し、ジャケットを羽織りながら陽だまり園を出た。

 クリスハイト/菊岡の話によれば拓哉の身の安全を考慮して、彼が入院していた倉橋医師のいる病院を選んだそうだ。

 道順も何度も訪ねた事があるので迷う事はない。

 白い息を大量に吐き出しながら木綿季は走った。

 

 木綿季「ハァ…ハァ…拓哉…!!拓哉…!!」

 

 愛しい人の名を呟き続け、木綿季は真っ直ぐ横浜市立大学附属病院へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年12月14日18時10分 ISLラグナロク 砂漠フィールド

 

 キリト「あそこの洞窟なら大丈夫だろ…」

 

 バギーで砂漠フィールドに入ったユウヤ達は次のサテライトスキャンを避ける為、洞窟内を目指した。

 バギーを洞窟の入口前に止めた所でユウヤはまた1人で移動しようとした。

 だが、弱りきったシノンはユウヤの袖を離そうとせず、キリトに勧められてシノンと共に洞窟内へと入った。

 サテライトスキャンの瞬間に洞窟内にいれば良い訳なので、キリトは1人入口付近で見張りにつく。

 洞窟内は鍾乳洞になっており、外よりも気温が低くなっている。休憩するには少し肌寒いが、ユウヤは野営キットを取り出し、体温を調節した。

 

 ユウヤ「…」

 

 シノン「…ごめん」

 

 ユウヤ「?」

 

 シノン「私…あの時、怖くなって…体が思うように動かなかった…。死銃が()()()を持ってて…また体が動けなくなった…」

 

 シノンの言うあの銃の事は分からないが、いつも見ている強気なシノンの姿はここにはない。体を縮こませ、小刻みに震えている姿は今まで見た事がない弱さを見た。

 だが、それも仕方のない事だとユウヤは思った。

 本当に死ぬかもしれない状況で恐怖を感じない人間などいない。

 恐怖を完全に克服する事など人間には出来ないのかもしれない。

 

 ユウヤ「…大会が終わるまでここで休んでろ。キリトにもそう伝えておくから」

 

 シノン「ユウヤは…どうするの?」

 

 ユウヤ「オレは…死銃を殺す。それがオレの出来る責任の取り方だ」

 

 シノン「責任って…何?」

 

 今にも消え入りそうな声で囁きかけるシノンにユウヤは腰を落ち着かせ、語り始めた。

 

 ユウヤ「オレは…死銃とは別のゲームで会った事がある。一時期は行動を共にした事も…。

 でも、オレは当時…死銃の属する集団の非道な行動を止められなかった。そいつ等はその世界で本当に死ぬと分かった上でプレイヤーを何人も手にかけた。オレはそれをただ見てる事しか出来なかった。助けようと思えば助けられたのに…出来なかった。

 だから、その罪を清算しなきゃいけないんだ。もう2度と…過ちを犯さない為に…!」

 

 シノン「そのゲームって…」

 

 ユウヤ「あぁ…。"ソードアート・オンライン”…オレはいわゆるSAO帰還者(サバイバー)ってやつだ。

 あの世界じゃHPが全損すれば現実世界で本当に死ぬんだ。

 死銃のいた笑う棺桶(ラフィン·コフィン)ってギルドは殺人を何度も繰り返して、当時の攻略組にまで被害が出た」

 

 シノン「その攻略組?…にユウヤとユウヤの仲間もいたんでしょ?」

 

 ユウヤ「…オレはその時、笑う棺桶(ラフィン·コフィン)にいた」

 

 シノン「!!」

 

 殺人ギルドにいたという事はユウヤも人を故意に殺した事があるという事だ。

 

 

 そんな事ある訳ない_

 

 

 そう思っていたが、ユウヤの表情がそれを否定する。

 かける言葉が見つからないでいるシノンを他所にユウヤはさらに話を続けた。

 

 ユウヤ「オレは…あの世界で3人も人を殺した。恨みがあった訳でもない。ただ…殺したんだ」

 

 シノン「…嘘…よ…。ユウヤはそんな事しない…。短い間だけど、アナタはとても暖かった。私を危険から遠ざける為にわざと冷たくしてまで守ろうとしてくれた…。そんな人が人を何の理由もなく殺す訳がない…!」

 

 そうであってほしいとただ願うしかなかった。

 今まで接してきたユウヤが…拓哉が本当の姿だと思っていた。

 時折見せる悲しげな姿は仲間を想ってこそだと信じていた。

 その願いをユウヤは粉砕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウヤ「オレは…ただの人殺しだ…。…それが本当の茅場拓哉だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キリト「違うだろっ!!!!」

 

 入口の方から激しい怒号が飛んでくる。

 視線を移した先に涙を滲ませたキリトが立っていた。

 

 キリト「お前は…オレ達を助ける為にやった事だろ!!」

 

 シノン「キリト…」

 

 ユウヤ「…」

 

 キリト「シノン…、誤解しないでくれ。タクヤはそんな奴じゃない。

 タクヤはあの時、仲間のオレ達と恋人のユウキの為に笑う棺桶(ラフィン·コフィン)に入らざるを得なかったんだ。

 …そうしなければ、オレ達の命がないと脅されて…」

 

 キリトの説明を聞いて目を大きく見開いた。

 ソードアート・オンラインに囚われ、そこで何が起きたのかシノンは知らない。

 だが、やはりユウヤは人を故意に殺すような事はしていないと分かってシノンはそっと胸を下ろす。

 

 キリト「それからずっとアイツらに従って、最後にはタクヤの手でオレ達を殺そうとした…。タクヤだって被害者なんだ。

 それをタクヤは自分だけで背負い込んで、今までそれで苦しんでいたんだ。

 だから、オレ達の前から…ユウキの前から姿を消した」

 

 シノン「…私と一緒ね」

 

 ユウヤ&キリト「「!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シノン「私も人を殺した事があるの…」

 

 

 

 

 それからシノンは幼少期に起きた事件、その後から受けてきたいじめを淡々とユウヤとキリトに聞かせた。

 我ながら自分でも何を言っているんだろうと笑ってしまう。

 今までシノンの口からはこの事を他人に公開した事はない。ただ、話さずにはいられなかった。

 それがユウヤに対しての同情なのか、自身に対する安心感の為か分からない。

 ユウヤと自分はどこか似ていると感じていたのは、同じ境遇を生きてきたからなのだろう。

 だから、ここまでの関係を築けたのかもしれない。

 

 シノン「だから、私は強くなりたい。弱いまま生きていく事に疲れた。…ユウヤが行く必要はないわ。私が死銃を倒す」

 

 ユウヤ「!!?」

 

 その場を立ち上がり、洞窟を出ようとするシノンをユウヤは咄嗟に腕を掴んで止めに入る。

 

 ユウヤ「お前…さっきも見てたろ!?死銃は本当に人を殺す力があるんだ!!キリトとお前には近づかないように言ったハズだ!!」

 

 シノン「そんなの私には関係ない。…離して」

 

 ユウヤ「ふざけるな!!死ぬかもしれないんだぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シノン「それでもいい」

 

 ユウヤ「!!?」

 

 シノン「私がここで死のうとアナタ達には関係ない…。

 ううん、私はあの事件からこうなる運命だったのかも。

 人殺しの私にはお似合いの最期だわ」

 

 運命という曖昧な言葉を口にするような性格でない事はシノン本人が一番よく知っている。

 それを否定したくて、覆したくて、シノンは今まで強者渦巻く銃の世界に身を置いていたのだから。

 ただ強くなりたくて、過去をこの手で握りつぶせるようになりたくて仕方なかった。

 だが、現実はこんなものだ。

 たった1度の敗走でこれまでの経験が水の泡と化した。

 もう既にGGOで拳銃を向けられるだけで発作が起きてしまう程、シノンの心は現実世界の朝田詩乃のように弱くなっているだろう。

 過去を握り潰す事など初めから無理だったのだ。朝田詩乃には不可能と諦めてこの人生を終わらせる事でしか過去から逃れられる術はない。

 幕引きとして死銃に挑んで結集の美を飾りたいと願うのは当然だと思っても不思議はない。

 

 

 

 

 それぐらいの我儘ぐらい許して…。

 

 

 

 

 

 シノン「だから…その手を離して」

 

 キリト「シノ─」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウヤ「ふざけるなっ!!!!」

 

 シノン&キリト「「!!?」」

 

 ユウヤの激昴が洞窟内で反響し、次第に小さくなっていく。

 振り返れば今までよりも怒りに満ち溢れたユウヤがそこにいた。

 

 ユウヤ「命をなんだと思ってやがる!!お前が死ねば残された奴らがどんな気持ちになるかぐらいお前でも分かるだろ!!

 もうシノンはオレ達の心の中で生きてるんだ!!」

 

 シノン「そんなの…そんな事頼んでない。私は誰かに心を預けた事なんてない…。死ぬ時は誰も知らない所で死にたいの」

 

 ユウヤ「…人が1人で死ぬなんてありえない。オレ達の心の中のシノンも同時に死ぬんだ。オレはもう…仲間が傷つく所は見たくない!!」

 

 シノン「だったら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だったら、アナタが私を守ってよ!!私が怖がらないように一生側にいてよ!!!

 私はもう嫌なの!!!怖がって生きていく事に疲れたの!!!

 アナタなんか嫌いよ!!!嫌い…嫌い嫌い嫌い嫌い!!!!」

 

 涙を流しながらシノンは力無き拳でユウヤの胸を何度も叩く。

 叩かれる度にシノンの心がユウヤの中に流れ込んでくるようで、それをただ受け止めた。受け止める事しか今のユウヤには出来ない。

 シノンの過去は本人しか解決出来ない。シノンしかこのトラウマを超える事が出来ないから。

 子供のように泣き喚くシノンを見ているとユウヤも内に秘めた想いが揺さぶられるようで胸が熱くなっていく。

 

 ユウヤ「…」

 

 シノン「何とか言いなさいよ!!!口ばっかりで結局私は1人なのよ!!!私はずっと…1人なのよ!!!!」

 

 

 

 夕焼けに沈む砂漠の洞窟でシノンの泣き声だけが響いていた。

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?
互いに過去を打ち明けたユウヤとシノン。
現実世界で木綿季は拓哉のいる病院に駆けつける。
死銃との死闘もいよいよ大詰めです。


評価、感想などお待ちしてます。


では、また次回!
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