ソードアート・オンライン-君と共に在るために-   作:ちぇりぶろ(休載中)

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という事で69話目になります!
ついに死銃との因縁に終止符を討つ瞬間がやって参りました!
この戦いの先にあるのは幸福か…絶望か…。


では、どうぞ!


【69】死闘

 2025年12月14日18時35分 ISLラグナロク 砂漠フィールド

 

 洞窟から出ていたキリトがサテライトスキャンを開き、今生存しているプレイヤーの数と位置を把握する。

 BoBが始まって1時間半が経過している中、生存しているプレイヤーは指折りしかいなかった。

 だが、それとは別に生存しているプレイヤー、脱落したプレイヤーを合わせても参加人数である30人に満たない事に疑問に思いながら戻り、この事をユウヤとシノンに伝える。

 

 キリト「回線切断したペイルライダーを除いても2人足りない…」

 

 ユウヤ「あの後に2人、死銃(アイツ)の手にかかったと見るべきだな」

 

 廃墟都市で爆炎に呑まれた死銃だったが、ユウヤは振り向きざまにロボットホースから飛び降りる所を確認している。

 まさか、あれぐらいのアクシデントで倒れてくれるとは思わなかったが、ユウヤ達を追う間に2人が犠牲になってしまった。

 あそこで仕留めていられれば無駄な犠牲を払う事もなかったが、今になって後悔しても犠牲になった2人が生き返る訳ではない。

 その事にはユウヤやキリト、シノンも分かっている事だ。今はこれから先について考えなければならない。

 

 ユウヤ「…落ち着いたか?」

 

 シノン「…うん」

 

 ユウヤに強く当たっていたシノンも今ではその疲れが表れ、ユウヤの膝に顔をうずくめている。ユウヤもシノンの心情を理解している為、シノンが落ち着くまでこうしているつもりだ。

 

 キリト「今の内に死銃について考え直した方がよさそうだな」

 

 ユウヤ「…あぁ。なにか見落としてる点があるかもしれねぇし」

 

 死銃について不自然つ点がいくつかある。

 1つはどうやって仮想世界から現実世界の人間を殺しているのか。

 次てどうやってサテライトスキャンに捕まる事なく移動しているのか。

 最後に何故、殺す時にスナイパーライフルではなく、殺傷能力の低いハンドガンを使用しているのかだ。

 これらを全て明かさないかぎり死銃を捕まえようなど夢物語にすぎない。

 

 ユウヤ「あの時…シノンを死銃が狙った時、何もない空間から突然現れたように見えた。あれは一体…」

 

 シノン「多分…"メタマテリアル光歪曲迷彩”。一言で表すなら透明マントね。

 本当に実装してたとは思わなかったけど、十中八九合ってると思うわ」

 

 キリト「それで誰にも気づかれる事なく近づけたのか…」

 

 もし、それが事実なら死銃を仕留める難易度が格段に上がってしまう。姿が見えない相手にどう対処していけばいいか分からない。

 

 ユウヤ「…なぁ?お前は死銃に狙われたか?」

 

 キリト「え?いや…そう言えば狙われてないな」

 

 ユウヤ「シノンを担いで逃げてる時も思ったが、オレやキリトを無視してシノンに集中的に狙撃してた気がする。何か特別な理由が死銃にあるのか?」

 

 シノン「…」

 

 夕陽が洞窟内を幻想的に照らす中、3人はそれぞれ推測を立てていく。

 

 ユウヤ「死銃のあのジェスチャー…BoBの本戦…プロプレイヤー…」

 

 ふと視線の先にサソリが地を這いながら洞窟内を闊歩している。

 それを少し眺めながら思考を張り巡らせていると、獲物を見つけたのかサソリの動きが活発になってきた。

 徐々に獲物に定めたトカゲ型のモンスターはサソリに気づく素振りを見せずに巣へと帰っていく。

 瞬間、サソリが一気に尻尾の毒針をトカゲに突き刺した。それを避けられなかったトカゲは痛みに悶えながらやがて絶命しかけた。

 

 

 その時だった。

 サソリの背後の岩陰から黒い影がサソリに突き刺さり、訳が分からないままユウヤの目の前でサソリは絶命してしまった。

 すると、岩陰からひっそりともう1匹のサソリが現れたのだ。ずっと獲物を仕留め、隙が生じるのを待っていたと言わんばかりに計画的犯行だった。

 

 ユウヤ「…!!」

 

 キリト「どうした?」

 

 ふとした拍子に頭の中で散らばっていたパズルのピースが次々に組み上がっていき、ある推測を立てるに至った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウヤ「死銃は…2人いるんだ…!!」

 

 

 

 キリト&シノン「「!!?」」

 

 ユウヤ「正確には2人以上だけどやっぱり、仮想世界から現実世界の人間を殺す事なんて出来ないんだよ。そう考えると辻褄が合う」

 

 シノン「だとしてもどうやって実行するのよ?」

 

 ユウヤ「あのジェスチャーだ。あれが現実世界側にいる共犯者に指示を出してたんだ」

 

 犠牲になったゼクシードと薄塩たらこについては調べない事には分からないが、このBoBの本戦に参加していたペイルライダーら3人の犠牲者は現実世界でも実況されている為、合図さえ出せば殺害は可能だ。

 

 シノン「でも、仮にそうだとしてもどこに住んでるのかも分からない人をどうやって見つけるの?」

 

 キリト「そうか!BoBに参加する時、端末に現実世界(リアル)の個人情報を入力する時がある。

 もし、死銃のあのマントが圏内でも使えるのだとしたら背後から盗み見る事も出来る…!!」

 

 ユウヤ「…シノン、お前…個人情報は入力したか?」

 

 この仮定を信じるのだとしたら、1つの不安に当たってしまう。

 何故、死銃はユウヤとキリトを無視してまでシノンを狙ったのか。

 それはつまり…()()()()()()()()()()()事を意味している。

 

 

 

 

 シノン「入れた…けど…」

 

 ユウヤ「…シノン、落ち着いて聞いてくれ。さっき、死銃がお前を狙ったっていう事はもうあちら側は準備が出来てるって事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もしかしたら、今、寝ている朝田詩乃(おまえ)のすぐ近くに共犯者がいるかもしれない…」

 

 瞬間、シノンの脳裏にその映像がおぞましく想像されてしまった。

 ベッドで寝ている自分を見下ろす形で銃を構えている黒い影。口角を上げながらゆっくりと引き金を引くその姿はシノンの動揺を誘うには充分だった。

 

 シノン「あ…あぁ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!!!?」

 

 視界の中央に警戒音と共に心拍数が急激に上がっていく。

 このまま上がり続ければアミュスフィアのセーフティーが働き、強制ログアウトしてしまう。

 そうなってしまっては現実世界で目覚めた詩乃に共犯者の魔の手が及ぶ可能性が高かった。

 

 ユウヤ「落ち着けシノン!!今、ログアウトしちまったら共犯者が逆上して取り返しのつかない事になる!!」

 

 ユウヤに抱きしめられる形でシノンは呻き声を上げている。心臓の鼓動が今までにない程早く、激しくなっているのを直に感じながら、シノンは呼吸を整え、鼓動を落ち着かせようとした。

 この時、手を添えられた時と同じユウヤの暖かさを感じ、徐々にだが落ち着かせる事に成功した。

 

 シノン「ハァ…ハァ…」

 

 ユウヤ「よし…よく耐えたな」

 

 キリト「だとしても、危険な状況には変わりない…。もう、死銃を倒す以外に道はない」

 

 ユウヤ「あぁ…。だが、死銃だけならいいが、まだ優勝候補の闇風が残ってる。ソイツを先に倒さねぇとな。

 そこでキリトとシノンには闇風を倒してほしいんだ」

 

 キリト「お前!!また…!!」

 

 ユウヤ「勘違いするな。オレの考えは変わらねぇけど、今は死銃を倒す事が最優先なんだ。

 その為には他の出場者…闇風を倒さない事には始まらない」

 

 ユウヤはゆっくりその場に立ち上がり、出口へと歩いていく。

 キリトとシノンも思う所があるが、ユウヤの言った事は事実であり、バトルロイヤルのBoBでは何が起きるか分からない。

 闇風らを倒し、死銃だけに集中出来る状況を作り出さなければならないのだ。

 

 シノン「…分かったわ。私達は闇風を追う。ユウヤも無茶だけはしないで…。私にはあんな事言ってアンタが情けない態度とるなんて許さないから!」

 

 ユウヤ「…あぁ」

 

 キリト「闇風を倒してすぐに駆けつけるから、それまでは無茶だけはしないでくれよ?

 お前にもしもの事があったらユウキに合わせる顔がないからな…」

 

 ユウヤ「…」

 

 洞窟から出てきたユウヤ達はサテライトスキャンの情報を頼りに2手に別れる事にした。

 死銃はメタマテリアル光歪曲迷彩でサテライトスキャンに映らない事からユウヤは拓けた場所まで移動する。

 空は既に暗くなっており、星がちらほら瞬いている。夜間の戦闘になる為、視界の悪さを予感していたが、予想以上に星が地上を照らしているおかげで戦闘に関しては問題なさそうだ。

 

 ユウヤ「…」

 

 集中しなくてはならないこの状況でユウヤの心はどこか上の空だ。

 理由は簡単な事で、闇風を倒しに向かったキリトとシノンについてだ。

 キリトはこんな異邦の地にまで来てユウヤを連れ帰ろうと剣を振るってくれている。

 シノンは弱りきった自分を奮い立たせてまでユウヤを支えてくれている。

 感謝してもし切れない程の恩を受けたというのに、ユウヤにはそれを返す術を知らない。

 いや、知っているのにそれが出来ないのだ。

 人を殺め、仲間との繋がりを断った自分には恩を受ける事も、恩を返す事も許されない。

 そうやって全てを摘み取って孤独にならなければならない。

 キリト達だって冷静に考えればこのような愚行にも気づいて離れるハズだ。仲間だから…親友だから…その繋がりを断ちたくないと一時の感情で流されているにすぎない。

 

 ユウヤ「…悪いな」

 

 この戦いにキリトとシノンを巻き込むつもりは毛頭ない。

 先程はあのように言ったが、死銃から離すにはあぁ言う他なかったのも否定出来ない。

 ふと、右手が仄かに暖かく感じた。

 不思議に思いながらも、決して嫌ではないその感覚を携えて死銃との死闘に臨もう。どこか懐かしく、心を支えてくれるこの感覚と共に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年12月14日18時45分 横浜市立大学附属病院

 

 ストレア『大丈夫?』

 

 木綿季「うん…。でも、ちょっとドキドキしてる…」

 

 病院へとやって来た木綿季は受付で入館証を受け取り、看護師とストレアの指示のもと、西館の病棟に来ていた。

 様々な医療器具を備えているこの病棟の奥に拓哉がモニタリングされているらしい。入院していた時はこんな所に来た事がなかった木綿季はまるで、初めて来院するかのように緊張と不安を感じていた。

 

 木綿季「ここ…だよね?」

 

 目の前の病室は他とは隔離されており、来るまでに結構な時間を要した。それだけ厳重にしておかなければならない程に今、拓哉は危険な事をしていると嫌でも実感してしまう。

 扉を数回ノックして中からの応対を待っていると、扉を開けて現れたのは慣れ親しんだ倉橋医師だった。

 

 倉橋「やぁ、木綿季君。お久しぶりですね」

 

 木綿季「く、倉橋先生っ!?先生が拓哉のモニタリングをしてるの?」

 

 倉橋「えぇ。今日でモニタリングも終わりらしいですが、とりあえず中にどうぞ」

 

 中に案内されると病室は異様に広く、その中央に物々しい医療器具と共にベッドでアミュスフィアを装着した青年が横たわっている。

 2ヶ月前と何も変わっていない最愛の人は静かにそこにいた。

 

 木綿季「たく…や…」

 

 どこを探しても見つける事が出来なかった拓哉が今目の前にいるのだ。

 次第に涙が滲んでくるが、袖でそれを拭い去り、涙をひっこめる。

 まだ、何も終わっていないのだ。自分だけが気を抜いてはいけない。

 

 ストレア『タクヤ〜!!』

 

 倉橋「GGOというゲームのイベントに参加しているらしいのですが、ネットでも実況しているのでモニターに繋ぎますね」

 

 そう言って病室に備えられているモニターにBoBの中継を繋ぐと、GGOは現実世界と時間が同期しているので星空が映し出されている。

 出場者も既に片手の指ほどの数しか生き残っていない。

 

 倉橋「拓哉君は"ユウヤ”という名前で出場しているみたいです」

 

 木綿季「ユウヤ…」

 

 ストレア『あっ、キリトもいるよ〜?』

 

 モニターの左下端には現在生き残っているプレイヤーの名前が表記されており、キリトとユウヤという名前を使用している拓哉があった。

 さらに右上端にマップが表示されており、キリトとユウヤは別行動をとっていると理解出来る。

 すると、ユウヤに近づく1人のプレイヤーがいた。

 キャラネームは【Sterben】…スティーブン(Steven)のスペルミスかと思った木綿季だったが、倉橋とストレアからそれを否定される。

 

 倉橋「あれは"ステルベン”。医療関係者の間では"死”を意味するドイツ語です」

 

 木綿季「死…」

 

 モニターにステルベンなるプレイヤーが映し出されるとアスナ達と見たボロマントの男がゆっくりと真紅の瞳を輝かせている。

 

 木綿季「あれは…死銃!!?」

 

 ストレア『じゃあ今、拓哉に近づいてるのって…』

 

 画面は切り替わり、夜の砂漠の真ん中に佇む1人の少年が映し出された。容姿は小学生と思わんばかりの体格に黒髪の逆だった頭が特徴の少年は眉間にシワを寄せ、表情が強ばっている。

 木綿季はあれがGGOでの拓哉の姿である事は直感的に気づいた。

 名前が表示されているとかではなく、直感的にあれが拓哉だと知っていたのだ。

 以前に拓哉のアルバムを見た時、少年時代の拓哉に似ていると頭の隅にあったのか、それとも2人の間に見えない糸が繋がっていたのか定かではない。

 涙腺が緩むのを我慢してベッドで横たわっている拓哉の手をそっと自分の両手で包み込む。

 

 木綿季(「頑張って…拓哉!!」)

 

 現実世界ではアミュスフィアを外さない限り五感情報は仮想世界内に送る事は出来ない。

 だが、怒りに満ちた拓哉/ユウヤの表情を少しでも和らぐ事が出来るのならとこれしか手段のない木綿季にとってただ無事を祈る事しか出来ない。

 

 ストレア『…大丈夫だよ木綿季!!拓哉ならどんなのが相手だって絶対負けないんだから!!』

 

 木綿季「うん…!!」

 

 これからの戦闘は熾烈を極める事は必然だ。

 だから、頑張れ…負けないで…と木綿季とストレアは応援する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年12月14日19時00分 ISLラグナロク 砂漠フィールド

 

 ユウヤ「…」

 

 目を閉じ、集中力を極限まで高める。

 周囲の障害物の位置、砂漠の凹凸(おうとつ)、それら全ては電子で作られた仮想のオブジェクト。

 気配を感じられるように、音を聞き逃さないように、ユウヤは五感全てに神経を張り詰めた。

 

 ユウヤ(「今なら…何だって出来る気がする…」)

 

 右手の暖かい感覚は今尚あり続けている。それがユウヤの背中を支えてくれているような錯覚に陥っているが、頼もしい事この上ない。

 耳をすませば砂漠に吹く風の音が徐々に気にならなくなっていく。

 すると、ジャリ…ジャリ…と砂がかき分けられる音が微かに聞こえてきた。

 この足音が死銃だと確信するのに時間はかからなかった。

 シノン曰く、死銃は狙撃手(スナイパー)スタイルである事から狙撃ポイントを見つけ、ユウヤを狙うハズだ。

 音が聞こえてもそれがどの方角からなのかは分からないが、銃弾が迫ってくればその軌道上に死銃がいるに違いない。

 

 ユウヤ「…」

 

 1つ息を吐いて先程よりも楽な姿勢に入る。弾道予測線が見えない初発を躱さなければならないユウヤにはこれが1番有効的だ。

 けれど、集中力は先程の比じゃない。

 かつて、SAOのフロアボスとの戦いの時ぶりに凄まじい集中力を見せている。

 

 

 

 

 

 ユウヤ「…!!」

 

 

 

 

 

 風を切る音が急激に高くなっていく。

 それは背後から忍び寄っていき、ユウヤは振り返りながらその元凶である銃弾を捉えた。

 予想以上に早い銃弾を頬を掠りながらも咄嗟に回避する。

 そして、その軌道上に岩陰を発見したユウヤは腰から2丁のサブマシンガンを抜いて走り始めた。

 

 死銃「っ!?」

 

 それにいち早く気づいた死銃はスコープでユウヤの姿を捉えるが、狙い定めて撃つ前にユウヤのサブマシンガンが火を噴くだろう。

 そう結論づけた死銃は岩陰から飛び出し、スナイパーライフルを抱えてユウヤと相対した。

 瞬間、死銃の姿を捉えたユウヤは躊躇う事なくサブマシンガンの引き金を引いた。無数に放たれた銃弾は死銃の体の至る所に貫く。

 だが、致命傷になり得ない銃弾の雨に怯む事なく突撃をかけた。

 サブマシンガンとスナイパーライフルとでは、そもそもの火力が全く違う。

 サブマシンガンでいくら撃とうともHPを削り切るまでに時間がかかる。

 逆にスナイパーライフルはどこを撃ってもその部位を破壊する程の火力を有しており、1発でも当たると形勢は一気に傾くだろう。

 

 ユウヤ(「まだだ…!!もっと速く…!!」)

 

 AGIを極限まで高めているユウヤは足の回転を上げ、死銃を翻弄させる。スナイパーライフルの欠点と言うべき、速射が出来ない点を上手くついたユウヤはサブマシンガンを放つ。

 だが、死銃は慌てる素振りなど全く見せなかった。むしろ、何かを狙っているといった動きに不気味に思いながらも、さらに回転を上げて死銃の息の根を止めに入る。

 

 ユウヤ「っ!!」

 

 死銃の急所を的確に射抜こうとするが、全てを躱され、逆に距離を詰められるとバックステップで距離を開けたユウヤはサブマシンガンの弾薬をリロードに入った。

 瞬間、死銃の脅威的なダッシュでリロード時の隙をつかれ銃弾を数箇所撃たれてしまった。

 HPの消費はそれ程でもなかったが、流れを完全に変えられてしまったユウヤは態勢を立て直すべく距離を開ける事に全神経を集中させた。

 しかし、死銃は無理にユウヤを追おうとはせず、絶好のチャンスにも関わらずスナイパーライフルを下げた。

 

 ユウヤ「ハァ…ハァ…」

 

 死銃「…やはり…お前は…拳闘士…だな…。その動き…その目…その怒り…俺には…分かるぞ…」

 

 ユウヤ「そういうお前はまだこんなくだらねぇ事してんのかよ…」

 

 死銃「お前には…分かるまい。…あの世界こそが…俺にとって…唯一の…真実…だった。

 この世界は…誰もが…ぬるま湯につかり…傷を舐め合いながら…お互いの…腹の中を…見せようとはしない…。

 だから…俺が…教えてやるのさ…。人間の…本来の姿を…!!」

 

 ユウヤ「…」

 

 あの世界…SAOはそこに囚われていた人達にとってもう1つの世界になり得た。

 生活水準も現実世界と大差なく、人間の姿をありのまま再現したNPC、ギブアンドテイクが固定化されたあの世界で暮らしていく内、そこの人達は疑う事なく、日常を生きていた。

 死銃が言う事も理にかなっているのかもしれない。現実世界では互いの顔色をうかがい、本音を語らない者達が多勢いる。

 中には人によって、場所によって、その場の空気によって人格が変わる人間がいるのも確かだ。

 帰りたいと渇望した世界はそんな薄い膜に覆われた偽物の世界なのかもしれない。

 

 死銃「お前も…そうだ。ぬるま湯に…浸かったせいで…あの時程の力が…まるで…ない…。

 怒りに満ち溢れ…狂犬の如く…全てを…噛み砕かんと…牙を向けていた…お前が…本来の…姿だ…!!」

 

 ユウヤ「…」

 

 あの時、ユウヤは確かに怒りで我を忘れそうになる時があった。修羅スキルを完全に習得していなかったという理由を差し引いても、目の前で人が殺されていく中、怒りを抑える時があったのは認めている。

 笑う棺桶(ラフィン·コフィン)達に対しての怒りでもあり、何も出来なかったタクヤ(じぶん)に対する怒りでもあった。

 だから、もうそのような悲劇だけは起こしてはならないと誓った。

 何を犠牲にしようとも守るものの為にこの身を捧げると誓った。

 

 ユウヤ「確かに…オレはぬるま湯に浸かってたのかもな…」

 

 死銃「もう…遅い。お前は…裏切り者だ…。俺がここで…息の根を…止めてやろう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウヤ「息の根を止めるのはお前の方だ」

 

 

 

 刹那。

 この言葉が今の状況を表すには一番の言葉だろう。

 砂は舞い上がり、ユウヤの姿が一瞬にして死銃の懐に潜り込んでいた。

 だが、さすがは死銃と言った所だろう。

 咄嗟にスナイパーライフルの側面でユウヤの体を引き剥がし、その拍子にバックステップで距離を開けた。

 

 死銃「…貴様…!!」

 

 ユウヤ「オレは確かに、お前の言うぬるま湯に浸かってたのかもしれない…。事実、今のお前をどう殺すか考えるだけで手一杯だ。

 だが、それでもオレはお前を殺す。腕が千切れようとも…脚がもげようとも…首がはねられようとも…必ず…お前を殺してやる!!」

 

 空気が凍てつく。

 立っているだけで悪寒が体中を走り抜けていく。

 マスクの下に嫌な汗が流れ始めた死銃は目の前に立つ少年に恐怖を抱いた。

 こんな事今までなかったのにユウヤの瞳に宿る憎悪が神経を震わせ、体の自由を奪っていった。

 徐々に近づいてくるユウヤに死銃もスナイパーライフルを構える。

 だが、構えるだけでそれ以上先へ踏み出せない。手は痙攣を起こし、照準も定まらない。

 

 死銃「…くそっ…!!?」

 

 ユウヤ「しっかり狙えよ?それがお前にとって最後の攻撃なんだから…」

 

 死銃「…ふ…」

 

 ユウヤ「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死銃「ふはははははははっ!!!!」

 

 突如として死銃の笑い声が砂漠を駆け巡る。

 虚勢なのか…もしくは何か策があるのか…。今1度確認しても優勢なのは流れを引き寄せている死銃だ。

 ユウヤの劣勢は変わらないハズなのに、何故死銃の方が虚勢を張る必要があるのだろうか。

 それは本人のみぞ知る…。

 

 死銃「…お前は…拳闘士…なんかじゃない…。お前は…間違いなく…狂戦士だ…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウヤ「そうだ…。オレは全てを破壊する狂戦士(バーサーカー)だ」

 

 

 手の温もりは既に消え去り、タガが外れたようにユウヤは砂漠を蹂躙する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?
ついに始まったVS死銃。
ユウヤの中の狂戦士が目覚める時…一体何が起きるのか…。
それを踏まえて次回をお楽しみにしていてください。


評価、感想などお待ちしております!


では、どうぞ!

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