ソードアート・オンライン-君と共に在るために-   作:ちぇりぶろ(休載中)

70 / 88
という事で70話目に突入です!
今回でいよいゆBoBは終了致します。
果たして、最後に笑うのは誰なのか…お楽しみに!


では、どうぞ!


【70】金色の瞳

 

 2025年12月14日19時00分 ISLラグナロク 砂漠フィールド

 

 暗い砂漠の中央にチカチカと火花が散る。

 互いに1歩も引かない接戦は集中力と忍耐力を徐々に削っていく。それは戦いが終結に向かっていく事と繋がっている。

 ユウヤもまさかここまで長引くとは思ってもいなかった。

 早々に決着をつけるつもりだったが、事はそんな簡単に進む訳でもなく、これ以上長引けばキリトとシノンがここに駆けつけてしまう。

 闇風を倒せると確信している訳ではないが、それでも彼らは必ず来る。

 

 死銃「お前の…力は…こんなものか…?」

 

 ユウヤ「はぁぁぁぁっ!!!!」

 

 サブマシンガンを片方をリロードしている間にもう片方でカバーしながら死銃への猛攻を止めない。

 だが、死銃もさすがトッププレイヤー達を死へ追いやっただけの事はある。一手一手に高い技術と強い殺意がユウヤにピリピリ伝わってきていた。

 距離は常に一定に保っていたが、死銃がさらに距離を開けてスナイパーライフルを投げ捨てた。

 その仕草にユウヤも警戒心を強める。

 主要武装(メイン)であるスナイパーライフルを捨てて副武装(サブ)であるハンドガンで対抗するつもりなのかと考えもしたが、スナイパーライフルより火力の低いハンドガンに変えるという愚行に走る訳がない。

 すると、死銃はボロマントの内側に手を忍ばせ、銀色に光る筒状の金属を取り出した。

 瞬間、腕を振りざまに銀筒はキィンと甲高い音を響かせながら先端を細く、鋭利に伸びた。

 

 ユウヤ「!!」

 

 あの形状に見覚えがあったユウヤは悪寒を退け、咄嗟にサブマシンガンを死銃に構えた。

 しかし、サブマシンガンを構えた瞬間に死銃から伸びた銀筒がフレームを一気に貫いた。

 

 ユウヤ「なっ!!?」

 

 死銃「あと…1丁…」

 

 左手に握られていたサブマシンガンがポリゴンに四散するのを確認して、再度距離を取る。

 ユウヤはまるで()()()の死銃を重ねて見てしまった。

 

 

 

 

 ユウヤ「…聞いてないぞ。GGOに()()()があるなんて…」

 

 

 

 

 あれはSAOで死銃が愛用していた細剣(エストック)に酷似していた。

 長さは本来の物よりも短いが、それ以前にGGOに金属で精製された剣があるとは知らなかった。

 ユウヤの腰に吊るされているフォトン·ソードとは違い、金属特有の重みと斬れ味があるのを実感しながら右手に握ったサブマシンガンの銃口を向ける。

 

 死銃「お前とも…あろう者が…失念していたな…。

 "銃剣作成”スキルで…作れるのは…この長さが限界だが…宇宙船の…甲板を素材に作ったエストック(これ)は…GGO内で…最強の金属剣だ…」

 

 ユウヤ「まるで、あの時を忘れられないようにも見えるぞ?」

 

 死銃「それは…お前の…方だろう?」

 

 ユウヤ「何…?」

 

 死銃「過去を引きずり…後悔しながら…今を生きるお前が…1番…醜いじゃないか…。昔のお前は…未来を信じ…力を誇示し…全てを薙ぎ倒す…強い意志があった…。

 だが…お前の…本性は…自分を優先し…仲間を裏切り…自分の欲を抑え…虚勢を振り撒く…醜い偽善者だ…。

 今も…そうだろう?人を…殺した過去は…消えない…。

 その罪悪感が…お前を…ここに誘った…。因縁を…断ち切る為に…俺の前に…立っている。

 それが…偽善だと…気づいてるんだろ?黒の剣士も…あの女も…それに…気づいてないだけだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今尚…偽善で…本性を隠す…お前は…俺より…醜い…」

 

 淡々と語った死銃にユウヤは何も言い返さなかった。

 仲間の為に殺すしかなかった…本当はそうする事が1番楽な道だと思っていたのも否定出来ない。

 過去を断ち切る…本当はすぐにでも楽になりたいと思ったのも否定出来ない。

 結局はユウヤ自身、自分可愛さに道を選んできたにすぎないのだ。

 こうするしかなかった…そうする以外なかった…。

 それは全て自分の為…。仲間の…ユウキの為にと自分に言い聞かせ、ただ逃げていたのだ。

 死銃の言う事は真実なのだと…自分の本性を暴かれたユウヤの精神は既に折れてしまったのだ。

 過去を断ち切る事も…仲間を守る事も…叶わなくなった。

 いや、この考えが偽善だと今更になって気づいた。

 

 ユウヤ「オレは…」

 

 死銃「生きる…気力を…なくしたか…。だが…お前には…それが…お似合いだ…。

 お前は…そうやって…無様に…醜態をさらしながら…死ななければ…ならないのだ…。それが…裏切り者の…最後なのだから…」

 

 徐々に近づいてくる死銃に警戒心が消え失せたユウヤを仕留めるのは容易い。細剣(エストック)で左腕を貫かれても何の動きも見せない。

 HPがイエローにまで下がったユウヤに引導を渡すべく、細剣(エストック)を構え、SAO時代のソードスキルを放った。

 

 

 細剣ソードスキル"フラッシング·ペネトレイター”

 

 

 渾身の剣撃がユウヤに迫ってくる。それをただ傍観するユウヤは最後の時を待っていた。

 

 ユウヤ(「オレに…生きる意味は…ない。いや、元々なかったんだ…。仲間…ユウキと一緒にいる資格なんて…なかったんだ。

 独りになって…それを嫌という程痛感した…。ここで死んでも…現実世界ではまだ生きてる…。

 だから、自分の手で…この命を絶つしかない…。それが…オレの…人殺しの最期だ」)

 

 戦う事に疲れた。立ち上がる事に疲れた。繋がる事に疲れた。生きる事に疲れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てに…疲れた。

 

 死銃「しっ!!」

 

 瞬間、ユウヤの意志とは裏腹に体が死銃の攻撃を躱す為に行動に出た。

 完璧には躱せなかったが、HPは全損には至っていない。

 心は完全に折れているのにも関わらず、ユウヤの中の本能がそうさせたのか。

 仮想世界でシステムより強い力があるのか。

 だが、死銃は至って冷静だ。仕留め切れなかったとは言え、戦意のない者を倒すなど赤子の手をひねるより簡単な作業だからだ。

 

 死銃「まだ…醜態を…晒すつもりか…?」

 

 ユウヤ「…」

 

 ユウヤ自身、何故死銃の攻撃を躱したのか分からない。気づけば体が勝手に動いていたのだ。脳にそのような命令を送った記憶はない。

 もう死のうとした人間はそのような手間をかける訳がない。

 何か他に別の理由があるのか。

 

 

 いや、もう考えるのはよそう…。

 

 

 考えた所で答えが見つかる訳でもなく、見つかったとしてもそれもどうでもいい。

 次は…次こそは終わろう…。終わって楽になろう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年12月14日19時05分 横浜市立大学附属病院

 

 倉橋「こ、これは…!!?」

 

 ストレア『拓哉の心拍数がすごい勢いで上昇してるよ!!?』

 

 ベッドで横たわっている拓哉は荒い呼吸を繰り返す。

 突如として、拓哉の心拍数が急激に上昇し、心電図も大きく揺れていた。

 

 木綿季「拓哉!!拓哉!!」

 

 体中に汗をかき、苦しそうな表情を見せる拓哉を隣で木綿季が懸命に呼び続ける。アミュスフィアにより、外部とのコンタクトを断たれた状態では倉橋医師でもどうする事も出来ない。

 それ以前にアミュスフィアによって危険域に達すれば強制的に仮想世界からログアウトするというセーフティーが備わっている。

 拓哉の命の危険は限りなく0に近いのだが、これ程の苦しみ方は尋常ではないと誰もが言うだろう。

 

 倉橋「仕方ありません!!拓哉君からアミュスフィアを取って現実世界(こちら)に引き戻しましょう!!」

 

 木綿季「待ってください!!」

 

 倉橋「しかし!!これ以上は医者として黙って見ている訳には…!!」

 

 木綿季「拓哉は…今も必死に戦ってるんです!みんなを守ろうとして…あの世界で戦い続けてるんです!!拓哉なら絶対に大丈夫です!!

 だって…拓哉はSAOの英雄"タクヤ”だから!!」

 

 倉橋は木綿季の瞳に宿る意志を垣間見た。それだけで木綿季がどれだけ拓哉を信頼し、愛しているのか痛い程分かる。

 倉橋は引き続き拓哉のモニタリングに戻ると、モニターから激しい金属音が鳴り響いた。

 

 木綿季「あれって…細剣(エストック)!?」

 

 ストレア『確かに…長さは違うけど、形状はエストックに似てるよ』

 

 木綿季(「笑う棺桶(ラフィン·コフィン)には細剣(エストック)使いがいたハズ…。その人とボクは剣を交えた事もある…」)

 

 モニターに映る死銃は細剣(エストック)を自在に操り、ユウヤを追い詰めていく。ユウヤは先程から動きが鈍く、瞳に影が宿っているように見える。

 実況は映像までしか配信されてない為、そこでどんな会話があっているのか分からない。

 拓哉の状態を見ても、死銃から精神状態を追い詰められるような言葉を浴びせられたのか。

 

 木綿季(「拓哉…拓哉…!!お願い…!!戦いに負けてもいい…。守れなくてもいいから…無事に帰ってきて…!!

 もうヤダよ…拓哉を失うなんて…絶対に…!!」)

 

 SAOの終焉…ユウキは1度完全にタクヤを失った。

 ヒースクリフに殺され、死が確定してもタクヤは消滅するその瞬間までユウキ達を救う事を諦めていなかった。

 その結果、ヒースクリフの心臓を貫き、ヒースクリフと相打ちという形でSAOを終結に導いた。

 でも、SAOがなくなって現実世界に帰ってきてもそこにタクヤはいない。その事実は当時のユウキには何よりも耐え難い生き地獄だった。

 だから、病院で寝ていた拓哉の姿を見て大粒の涙が零れたのだ。

 あれ程涙を流した事がないぐらい泣いた。

 

 木綿季(「もうあんな思いしたくない…!!だから…無事に帰ってきて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拓哉…!!!!」)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死銃「終わりだ…!!!!」

 

 

 死銃の細剣が真っ直ぐユウヤの心臓に伸びてくる。これを食らえば確実にHPは全損するだろう。

 

 だから、避けない。

 

 これで全てから解放されるから。憎しみから…怒りから…悲しみから…何もかも捨てて無になりたい。

 そう願うからこそこの一撃に身を委ねる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キリト「タクヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

 

 

 瞬間、ユウヤの世界は反転した。

 死んでいない所を見ると、まだこの世界に生きているようだ。

 

 キリト「ハァ…ハァ…間に合った…!!」

 

 ユウヤ「キリト…?」

 

 死銃「黒の…剣士…!!」

 

 頭の中を整理すると、死銃の攻撃が当たる直前にキリトがユウヤを救い出したようだ。

 普通ならここで感謝の意を送るのだろうが、ユウヤの心中にはそれとは真逆の感情が湧き上がってくる。

 

 ユウヤ「なんで…」

 

 キリト「仲間なんだから助けて当然だろ?」

 

 ユウヤ「違う!!…オレは…死を受け入れたんだ。なんで…死なせてくれないんだよ…。もう…楽にさせてくれよ…」

 

 キリト「タクヤ…」

 

 死ぬ事でしかこの人生を終わらせる事は出来ない。

 血に塗られてしまったこの人生はもう崩壊しているのだから。

 仲間を助ける義務から…因縁を断つ責任から…解放されたい。

 それが、ユウヤの…茅場拓哉の最期になるハズだった。

 

 ユウヤ「疲れたんだよ…。生きる事に…苦しむ事に…憎む事に…愛する事に…疲れた。

 オレが死んでも悲しむ奴なんていない。死んだら父さんや母さんにだって会えるんだ…。だから…」

 

 キリト「…それでも…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレはタクヤを助けるよ」

 

 ユウヤ「…どうして…そこまで…」

 

 仲間と言っても所詮は赤の他人だ。どこまでいってもそれは変わらない。

 記憶に残るのはほんの一時で、今生の別れが早まるだけに過ぎない。

 ましてや、死を望んでいる者に手を差し伸べる意味が分からなかった。

 辛い事から逃げて何が悪い。

 誰だって受け入れ難い事から逃げたい時があるではないか。

 ユウヤもその中の1人で、どれだけ仲間が拒んでも自身の死は本人が決める事のハズだ。

 しかし、キリトはそれでも手を差し伸べる。

 

 キリト「死んでも…お前は苦しみ続ける。過去を変える事が出来ないのと同じように、死んだとしても過去が消える訳じゃない。

 オレだってそう思った事があるよ。死んで全てを投げ出したらどんなに楽になるか…。

 でも、誓ったんだ。

 オレの命はアスナの為に使うって…。最後の瞬間まで一緒にいようって…。

 だからオレは、過去を断ち切るんじゃなくて過去を抱えて今出来る事を全力でやろうって…誓った。

 お前だってそうだったじゃないか?」

 

 ユウキやキリト達の為にヒースクリフと相対し…アスナや他のSAO帰還者(サバイバー)の為に須郷らを倒して…ストレアの為にキングの野望を打ち砕いた。

 それは誰でもないタクヤだから出来た。そんなタクヤだからみんなは信頼出来た。

 今回の件もシノンの為に死銃に立ち向かっている。

 タクヤの仲間はタクヤの過去なんか関係なく一緒にいようとする。

 仲間だから…友達だから…家族だから…恋人だから…お前にはお前にしかない力がある。

 そう語ったキリトの瞳には薄らと涙が滲んでいる。

 彼だってSAOで辛い思いをした事がある。いや、キリトだけではない。

 誰もが辛い事を味わって、それでもそれを抱えて前に進んでいく。

 

 キリト「何度も言ってるだろ?お前は1人じゃない…。

 オレや…ユウキが側にいるじゃないか。タクヤを1人になんてさせない。

 これからも…死んだ後でもオレ達はかけがえのない仲間だ!!!」

 

 ユウヤ「!!!!」

 

 キリト「苦しい時はオレ達が支える。…タクヤはここで待っていてくれ」

 

 ユウヤに背を向け、死銃にゆっくりと近づく。

 その後ろ姿を追う事が出来ず、止める事が出来ずに見送った。

 キリトに伸ばした右手には先程感じた暖かい感覚が蘇っている。

 どこか懐かしくて心を支えてくれるような感覚…ユウキと手を繋いだ時と同じ感覚だ。

 

 

 

 

 頑張って…拓哉…_

 

 

 

 

 ユウヤ「!!!!」

 

 

 

 

 無事に帰ってきて…拓哉…_

 

 

 

 

 ユウヤ「…」

 

 現実世界から仮想世界に五感による情報は送られてこない。

 だが、この手に確かに宿る感覚は本物であり…真実だ。

 暖かい感覚と一緒に木綿季の想いが流れてくるのは、きっと現実世界で拓哉の手を握っているからだ。

 

 

 背中を支えてくれるのなら…

 

 

 助けを呼んでもいいのなら…

 

 

 繋がっていてもいいのなら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレは仲間の為に立ち上がろう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キリト「しっ!!」

 

 死銃「ふっ!!」

 

 キリトのフォトン·ソードが空を斬り、その隙を突いて死銃の細剣(エストック)が襲いかかる。

 AGIで劣っているキリトにはそれを寸前で躱す事しか出来なかった。

 死銃はさらに加速して次第に躱し切れなくなっていくと、キリトは堪らず後退を余儀なくされた。

 

 死銃「そんな…光剣(おもちゃ)では…不甲斐ない…だろう?」

 

 キリト「これはこれで使いやすいさ…」

 

 しかし、死銃の言う通りフォトン·ソードでは心細くないと言えば嘘になる。

 今までキリトはSTR要求値の高い重い金属剣を好んで使用してきた。

 SAOでは"エリュシデータ”と"ダークリパルサー”、ALOでは"ユナイティウォークス”と"ディバイネーション”…とどれもSTR要求値が高く、大抵のプレイヤーでは振り回す事は出来ない。

 それに比べてフォトン·ソードは軽量で、刀身が粒子の為か、斬った感触が薄い。

 重い剣に慣れているせいで、初期は上手く扱えないでいたが、それも今となっては修正済みだ。

 そして、腰には"FNファイブセブン”が携えられている。

 ある意味で二刀流スタイルを確立させたキリトに他のプレイヤーは太刀打ち出来ないだろう。

 だが、今相手にしてるのはSAOから慣れ親しんでいる愛剣(エストック)にGGOでの経験を経て選出されたスナイパーライフルと万全の状態だ。

 装備だけで大きなアドバンテージがあるのは仕方ないし、気にしてもその差が埋まる事はない。

 ユウヤはまだ戦える状態ではなく、キリトから言わせればもうユウヤには戦って欲しくない。

 今まで1人で抱え込んできたユウヤにも休息が必要なのだから。

 これ以上ユウヤだけに背負わせる訳にはいかない。

 

 キリト「はぁぁっ!!」

 

 地を蹴り、死銃に立ち向かったキリトに死銃も応えるかのように細剣(エストック)を突く。

 互いの剣が火花を撒き散らし、激しい反響音がこだまする。

 

 キリト「はっ!!」

 

 

 片手用直剣ソードスキル"バーチカルアーク”

 

 

 Vの字に斬りかかるキリトの剣を死銃は丁寧にいなし、反撃の隙を突いた。

 

 

 細剣ソードスキル"カドラプル·ペイン”

 

 

 無数に突かれる細剣がキリトの体を斬り刻んでいく。

 GGOに存在しないソードスキルをシステムアシストなしで見事に再現してみせる2人に遠方から狙撃のチャンスを伺っているシノンは驚愕を露わにする。

 

 シノン(「なんてハイレベルな戦いなの…!?」)

 

 闇風を倒した後、キリトと相談してシノンだけが500m離れた岩山に待機していた。

 それはシノンのプレイスタイルを最大限活かす為でもあり、死銃の警戒も分散させるのが狙いだったが、2人の高等技術による戦いは一部の隙すら見せない。

 狙いが定まらず、下手をしたらキリトに被弾してしまう可能性もあったシノンは舌打ちを鳴らし、苛立ちを見せた。

 

 シノン(「ユウヤ…」)

 

 既に戦意喪失したユウヤの事は気にかかっている。

 あれだけの力を有していながらもユウヤは膝をついてしまった。

 それがどれだけ辛くて、悔しいのかシノンも知っている。

 

 シノン(「でも…アナタなら大丈夫よね?

 アナタは私に"生きろ”と言ってくれた…。こんな私でも必要としてくれた…。心が折れても支えてくれた…。

 だから、アナタが苦しい時は私が支える…!もうアナタは1人じゃないわ!!」)

 

 助けられた恩を返さなければならない。

 今にして思えばユウヤ/拓哉と知り合ってからというもの、時間の流れが早く感じていた。

 毎日、1日が途方もなく長く感じていたのが億劫だったシノン/詩乃にとってこの出会いは奇跡に近いものだった。

 

 シノン(「私も諦めない…!!だから、アナタももう1度立ち上がって…!!」)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、銃声が砂漠に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 キリト&シノン「「!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 死銃「がっ…!!」

 

 体を大きく仰け反り、死銃のカドラプル·ペインが中断される。

 HPは1割も減っていなかったが、流れは完全に途絶えた。

 

 死銃「貴様…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウヤ「…またせたな」

 

 

 

 キリト「ユウヤ!?」

 

 ハンドガンを構え、銃口から硝煙を登らせている所を見ると、ユウヤが死銃の右腕を射抜いた事が分かる。

 しかし、それは問題じゃない。

 

 死銃「貴様は…完全に…折れた…ハズだ…!!」

 

 ユウヤ「あぁ。そりゃもうバッキバキにへし折られたよ。

 でも、バラバラになった心をキリトが…仲間が繋いでくれたんだ」

 

 キリト「ユウヤ…」

 

 死銃「…だが…今のお前に…何が…出来る?満身創痍で…手が…震えて…いるぞ?」

 

 ユウヤ「確かに、今でもお前や過去の事に怯えてる。

 でも、それでいいんだ。忘れる事なんて出来ない…。オレはこの痛みを背負って前に進むんだから…。

 さぁ…そろそろ幕引きと行こうぜ!!」

 

 左手にサブマシンガンを携え、右手にはフォトン·ソードを強く握りしめる。

 GGOでの"ユウヤ”も…ALOでの"タクヤ”も…SAOでの"シュラ”も…全ては"茅場拓哉”という1人の人間だ。

 そこで培ってきた経験を総動員させて、この戦いを終わらせる。

 

 

 

 仲間の想いが…オレの力の源だ…。

 

 

 

 ユウヤ「オレは仲間の為に戦う。どんなに辛い事があっても仲間と一緒に乗り越えていく…!!

 お前はここで終わりだ!!死銃…いや…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 "赤眼のザザ”!!!!」

 

 

 

 死銃「!!?」

 

 SAOでのキャラネームで呼ばれた死銃が激しい動揺と共に動きが鈍くなる。

 その瞬間をシノンは待っていた。

 スコープでキリトから離れた死銃を捉え、引き金に指をかけた。

 すると、死銃の心臓部分にシノンの弾道予測線が赤く照らされた。

 

 死銃「!!?」

 

 それに気づき、死銃の注意が剥がれたユウヤとキリトは全速力で死銃に迫った。

 遅れながらそれを察知した死銃はその場を離脱する為に透明になろうと動くが、キリトのFNファイブ·セブンがマントを貫き、それを未然に防いで見せた。

 

 キリト「スイッチ!!」

 

 ユウヤ(「あの予測線は…シノンが闘志のあらん限りの勇気を振り絞って生まれた幻影の1弾…このラストアタック…ファントム・バレットを無駄にはしない!!ありがとう…シノン!!」)

 

 透明になれずに死銃も覚悟を決めたのか、細剣(エストック)による無数の突きを繰り出す。

 だが、動揺を隠し切れていない死銃の突きをサブマシンガンで相殺し、弾薬の尽きたサブマシンガンを放り捨てる。

 手が空いた左手を強く握りしめ、渾身の拳を死銃の腹部に貫いた。

 

 

 体術スキル"正拳突き”

 

 

 もちろん拳にシステム的能力は備わっておらず、ダメージは発生しないが、一瞬だけ仰け反り(ノックバック)が起きる。

 そこを右手に握られたフォトン·ソードを大きく振り払い、死銃の胴体に斬り込ませた。

 

 死銃「ぐぉぉぉぉぉっ!!?」

 

 ユウヤ「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 金色の瞳は確かに未来を視ていた。そこに死銃の姿はない。

 ユウヤの瞳が金色に輝くのを死銃は目を見開いてそれを知る。

 フォトン·ソードは火花を撒き散らしながら死銃に侵食していく。HPがみるみる削られながらその瞬間はやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 片手用直剣ソードスキル"ホリゾンタル·スクエア”

 

 

 

 

 

 

 死銃とユウヤを囲む形で剣閃が四角形(スクエア)に広がり、死銃の胴体はそれが消えるのと同時に2つに斬り裂かれた。

 上半身は砂漠に打ち上げられ、砂漠を転がり落ちていく。

 

 死銃「バカ…な…」

 

 ユウヤ「ハァ…ハァ…これで…終わりだ…」

 

 死銃「…まだだ…。まだ…終わって…いない…。

 憎悪(オレ)はまた…お前の前に…現れる…。これからだ…本当の…地獄…は…─」

 

 全てを語り切る前に死銃にdeadの文字が浮かび上がり、現実世界にログアウトされた。

 

 キリト「…やったな」

 

 ユウヤ「あぁ…」

 

 キリト「…ユウヤ」

 

 ユウヤ「心配すんな。…オレはもう大丈夫だから。

 それより、シノンと合流しようぜ?この大会も終わらせねぇとな」

 

 時刻は既に19時30分。

 BoBも既にユウヤ達以外に生き残っている者はいない。

 キリトが上げた信号弾をシノンが確認してから10分、2人と合流したシノンはユウヤとキリトを交え、これからについて話し合った。

 

 キリト「とりあえず死銃の悪事もこれまでだろうな。現実世界での居場所が分かれば後は警察やらがなんとかするだろ」

 

 ユウヤ「シノンの所にいる共犯者も逃げてるハズだ。念の為、今日は鍵をかけて家でジッとしてろよ?」

 

 部屋の中にはいないハズだが、まだ辺りに潜伏している可能性だって捨てきれない。今日1日様子を見て朝に確認すれば問題ないだろう。

 

 シノン「アンタはどうするのよ。最近家からログインしてなかったみたいだけど…」

 

 ユウヤ「今回の事件で病院からダイブするように言われてたからな。

 そっちに戻るのは1時間ぐらいかかる」

 

 キリト「え?ちょっと待て。…シノンはタクヤが住んでる場所を知ってるのか?」

 

 シノン「知ってるも何も…私の住んでる部屋の隣だもの」

 

 キリト「そ…そうだったのか」

 

 ユウヤ「キリトは大丈夫だろうけど、シノンの所にはオレが行くよ。万が一に備えるに越した事ないからな」

 

 BoB後の計画は決まったものの、この場をどう終わらせるかはまだ考えていない。

 今から3人で戦うには体力も気力も残っておらずどうしたものかと考えているとシノンからある提案が持ちかけられた。

 

 シノン「第1回BoBには優勝者が2人いたの。理由は()()()()()()()()に引っかかったから」

 

 ユウヤ&キリト「「お土産グレネード?」」

 

 聞き慣れない単語に首を傾げている2人にシノンはポーチから栓を抜いた手榴弾を投げやった。

 掌に放られた手榴弾に一瞬思考が停止した2人だが、既に栓が抜かれている為、後数秒で爆発する事に冷や汗を流しながら悟った。

 

 

 お土産グレネードとはいわゆる心中だと…。

 

 

 キリト「わっわっ!!?」

 

 ユウヤ「ば、爆発す─」

 

 シノン「ん〜!!」

 

 シノンは満面の笑みを浮かべながら慌てる2人に抱きつく。

 瞬間、激しい閃光に包まれていく3人は砂漠で大爆発を起こし、HPが一気に消え去った。

 誰もいないISLラグナロクと中継を流していた場所にはファンファーレが鳴り響き、第3回BoBは優勝者3人と異例の結果に幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年12月14日19時40分 横浜市立大学附属病院

 

 拓哉「…ん…」

 

 目をゆっくり開いていくとアミュスフィア越しに見える病院の天井が広がっていた。

 まさか、シノンから自爆をされるとは思ってもいなかった為、あの時の感触がまだ残っている。

 

 倉橋「目覚めましたね。体には異常ないですか?」

 

 拓哉「先生…、何とか大丈夫みたいです…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木綿季「拓哉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 拓哉「!!」

 

 咄嗟に倉橋と逆方向に振り向くと、目尻を赤く腫らして拓哉の手を握り続けている木綿季がそこにいた。

 

 拓哉「木綿季…!?どうして…ここに…」

 

 木綿季「…たくやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 涙を流しながら拓哉を強く抱き締めた木綿季は人目をはばからず泣き喚いた。ここに木綿季がいるのにも驚いたが、それよりもっと違う感情が溢れた。

 

 拓哉「…ゴメンな…心配…かけて」

 

 木綿季「ぼんどうだよっ!!いづもいづもじんばいかけてぇ!!ボグ…ボグぅ…!!」

 

 泣きながら喋っているせいか、木綿季の呂律が上手く回っていない。

 だが、拓哉の為にこれだけ泣いてくれる事に胸を熱くさせながら木綿季を宥める。

 こんな事で許してもらえないだろうが、これからは2度と木綿季を悲しませるような事はしない。

 それだけは絶対に果たして見せる…。

 

 拓哉「木綿季…ありがとう。こんなオレを…好きでいてくれて…」

 

 木綿季「…当たり前だよぉ…。拓哉が…世界で一番…大好きなんだからぁ…」

 

 拓哉「…先生、オレ…ちょっと出掛けなきゃいけないから木綿季の事任せてもいいですか?」

 

 倉橋「えぇ、かまいませんよ。木綿季君も疲れてるハズですから私が自宅まで送りましょう」

 

 拓哉「ありがとうございます。…木綿季、まだオレやらなきゃいけない事があるんだ。

 だから明日、夜6時に展望台まで来てくれないか?そこで話したい事があるから…」

 

 木綿季「…分かった。待ってる…絶対に来てね?」

 

 木綿季から離れ、上着とジャケットに身を包んだ拓哉は足早に病室を後にした。

 今からバイクを走らせても湯島のアパートまではどう頑張っても1時間はかかってしまう。危険はないだろうが、1人でいる詩乃が心配だ。

 外に出た拓哉は走って駐輪場に向かい、バイクに跨り、エンジン音を轟かせながら湯島へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?
ついに死銃を倒したユウヤは現実世界で木綿季と再会を果たしました。
そして、詩乃の元に急ぐ拓哉。
拓哉の大事な話とは…。
乞うご期待ください!


評価、感想などお待ちしております!


では、また次回!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。