ソードアート・オンライン-君と共に在るために- 作:ちぇりぶろ(休載中)
これからまたシリアスな展開が広がりますが、合間に和むような話を盛り込んでいきたいと思っています。
今回はシリアス少なめです。
では、どうぞ!
2025年12月17日08時05分 SAO帰還者学校 高等部2年クラス
詩乃の歓迎会から一夜明けた今日。
自身の教室に入ってきた明日奈はいつもと変わらずにクラスメイトに挨拶を交わす。席につくと、斜め前に陣取っていた里香からもおはようと声をかけられた。
里香「いやぁ、昨日は楽しかったわねー!」
明日奈「それは里香が拓哉君をサンドバッグにしてたから?」
里香「そ、そんな事してないわよっ!?たった2発しか叩いてないし…ってそれはいいのよっ!!」
冗談を交えた談笑をしている中、前の席から小林が入ってきた。
小林「今日はいつもより盛り上がってるね。どうしたの?」
里香「あー…昨日、明日奈とみんなで集まって遊んでたのよ」
小林に拓哉に会っていたと言えば、眉間にシワをよせ、怪訝そうな表情になる事は明白で、明日奈も里香に合わせて小林に説明した。
あの歓迎会の中、拓哉はもうここには戻ってこない事を明日奈達に告げた。
内心ショックを隠せなかったが、それは後悔と悲壮感による選択ではなく、前を向いて未来を歩もうとする選択であった。
恋人である木綿季もそれに納得し、話はそれで終わるハズだった。
青柳「みなさんおはようございます」
「「おはようございます」」
明日奈「…」
教室の前から青柳と施恩が入って来て、それを見るや否や生徒達が各々席へと戻っていった。
青柳「じゃあ、HRを始めます。日直、号令を」
2ヶ月間で青柳もすっかり順応し、クラスの空気にも馴染んでいたが、明日奈と里香、施恩はそれを不審に感じていた。
正確に言えば、今にして思えばと前につくが、別段青柳に不審な動きはない。
ただ、菊岡の話を聞いて先入観を抱いてしまったのか青柳の喋る言葉、挙動、身に纏う空気がどれも信用してはいけないとブレーキをかけているのだ。
青柳「諸連絡は特にありません。今日も一日頑張ってください」
気づけばHRは締められ、青柳と施恩は教室を後にした。
途端に生徒達は1限目までの間、いつもと変わらない談笑に更けていく。
里香「…どう思う?」
その言葉が青柳についてだという事は言うまでもない。
明日奈もまだ何の確証すら得られていないこの状況で憶測だけで言葉を発する事は出来ない。
里香もまた同じだ。
確証がないからこそ、かえって疑ってしまう気持ちが生まれている。
出来る事なら、菊岡の虚言で済めばどれだけ楽になれるだろうか。
明日奈「施恩さんもそれとなくカマをかけてみるみたいだからまずはそれを待ちましょ?」
里香「でも、そう簡単に尻尾を出してくれるかしら?まだクリスハイトの妄言だって可能性もある訳でしょ?
あの性格を見せられちゃ100%疑うって出来ないのよね」
明日奈「そうだね…。拓哉君の事にも親身になって相談に乗ってくれるし、私も疑いたくはないけど…」
これ以上の詮索は意味を成さないが、どうしても考えてしまう自分がいる。
そんな中またしても小林が明日奈と里香に近づいてきた。
小林「結城さん、篠崎さん、今日の放課後クラスのみんなとカラオケに行くんだけど一緒にどうかな?」
明日奈「…ごめんなさい。今日は人と約束してるの」
里香「私も家の用事があるからパス」
小林「…そっか。じゃあまた声をかけるよ。
でも、もう
途端に明日奈と里香の表情が険しくなった。
小林の言うあんな奴とは間違いなく茅場拓哉を示しているからだ。
拓哉がここを去る前に負わされた小林の頬の傷はまだ癒えていないのか仰々しいガーゼが貼られている。
それすらも見るのが億劫になると言うのに、小林は完全に拓哉を嫌悪していた。
無理もない事なのだが、それを友人である明日奈や里香に向かって放つ言葉ではなかった。
明日奈「どういう意味?」
怒りを抑えて明日奈が小林に問う。
すると、口角を上げて小林は意気揚々と語り始めた。
小林「知ってるんだよ?君達があの人殺しの為に動いているのは。
大方、奴に弱みを握られて無理矢理やらされてるんだろうけど、屈服する必要はないんだ。
やっと平和な世界に帰ってきたって言うのにあんな人殺しに邪魔されちゃたまらないよね?
結城さんと篠崎さんが困っているのなら、僕達が助けるよ」
里香「よくもぬけぬけと…!!」
明日奈「心配してくれなくても大丈夫です。その事はもう解決したから」
小林「え?」
そう言って明日奈は筆記用具を持ち、教室を後にしようとする。
小林とすれ違いざまに明日奈は一言残した。
明日奈「その傷…いい加減治ってるんじゃない?」
小林「!!?」
教室から出ていった明日奈に遅れながら気づき、里香もその後を走って追った。
2025年12月17日12時30分 SAO帰還者学校 中庭
明日奈「…」
和人「…あの」
明日奈「何…?」
和人「い、いや…別に…」
明日奈「…」
昼休みに入り、いつものように明日奈が待つ中庭に向かっていた和人だったが、中庭でただならぬ雰囲気を周囲に撒き散らしていた明日奈の姿を見て、SAOでの"攻略の鬼”とダブってしまった。
和人(「オレ…何かしたっけ?」)
明らかに怒りをあらわにしているのは見て取れるが、和人の中にその原因はない。
不安で押しつぶされそうになっていると、明日奈がこちらに気づき、手招きで誘う。
それすらも恐怖してしまったが、行かない訳にはいかず、覚悟を決めて明日奈が座るベンチに腰をかけた。
それから10分間、和人はまるで生きた心地がしなかった。
何か言われる訳でもなく、何か行動する訳でもなく、ただ険しい表情のまま静寂を保ち続けていた。
和人(「この場合は謝った方がいいのか…?
でも、明日奈が怒るような事をした覚えはないんだけどな…」)
明日奈「…ごめんね和人君」
和人「え?」
謝罪しようかと考えていた時に先に明日奈から謝罪を受けた和人も話の筋が全く見えてこない。
明日奈は深呼吸をして、昂った気持ちを落ち着かせ口を開いた。
明日奈「別に和人君に怒ってる訳じゃないの」
和人「…何かあったのか?」
明日奈「前に話したよね?拓哉君に殴られた生徒の事…」
和人「あぁ…そんな事もあったな。拓哉を追い詰めて退学に追い込んだ…って」
明日奈「結果的にはそうだっただけだよ。
でも…あの人から拓哉君に対しての憎しみが強すぎて私と里香にももう関わらない方が君達の為だって言われたの」
先日、拓哉が言った通りの展開になってきた。
彼を慕うのは昔から彼の人柄に触れ、共に戦ってきたからというのが大前提にある。
だが、彼ら以外の者達から見れば、拓哉は人殺しを平然とやってのける殺人者としての印象しか持ち合わせていない。
和人「…拓哉も言ってたけど、それは仕方のない事だ。
彼らは拓哉の本質を知る前に殺人者というイメージがこびりついてしまっている。
それを拭い去るのは簡単な事じゃない」
明日奈「分かってるんだけど…それでも、友達の悪口を聞くのは良い気分じゃないわ」
和人「オレも同感だよ明日奈…。なんとかしたいとは思ってるんだけど…」
2025年12月17日15時40分 SAO帰還者学校 中等部3年クラス
珪子「あれ?木綿季ちゃんは帰らないの?」
HRも終わり、クラスにいた生徒達は自宅へ帰る為その準備に追われていた。
その中、鞄も取り出さず窓から見える景色をただ眺めている木綿季に珪子は不思議に思い話しかけた。
木綿季「うん。今日は迎えにくるから」
珪子「あっ!もしかして拓哉さん?」
的を得た珪子の答えを木綿季は笑顔で肯定する。
久しく拓哉と2人でどこか遊びに行く事などなかった分、余計に楽しみで仕方ないという様子の木綿季に珪子も思わず笑ってしまった。
木綿季「放課後、拓哉と遊びに行く約束してるからねー。あーどこ連れて行ってくれるんだろー?」
珪子「いいなー…」
そんな中、木綿季の珪子の元に数人の男子生徒がやってきた。
彼らは前に1度、木綿季を屋上へ連れ出し、拓哉に暴言を吐いたものだった。
あれ以降、なりを潜めていた彼らが今更何の用なのかと木綿季と珪子も疑問を隠しきれない。
木綿季「…何?」
「紺野さん、またアイツに会うの?」
木綿季「別に…そんなのボクの勝手じゃん」
「あんな奴のどこがいいの?人を殺したくせに平気な顔してる奴のどこがっ!!」
木綿季「平気な訳ないっ!!!!」
木綿季の荒らげた声がクラス全体に響き渡り、残っていた生徒達が一斉に木綿季に視線を向ける。
珪子「木綿季ちゃん…」
木綿季「拓哉がどれだけ悩んで…苦しんで…辛い思いしたか知らないくせに…!!知ったような口を聞かないでっ!!!」
「そ、そんなの綺麗事だ!!アイツが人を殺した事には変わらないだろっ!!そんな最低な奴の肩を持って意味なんかあるのかよっ!!」
珪子「ふ、2人共落ち着いて!!」
木綿季「肩なんか持ってない!!本当の事を言ってるだけじゃん!!
それに…拓哉がいなかったら、ここにいるみんなだって死んでたかもしれないんだよ!!?
拓哉が何の為に危険な事をしたのか考えた事あるの!!?」
こんな事を言っても意味が分からないかもしれない。
この学校にいる殆どの生徒は中層や下層で生活していた一般プレイヤーで攻略組であった木綿季達の実績は何も知らないのだ。
二つ名だけが噂となってアインクラッド中に広がっていく中、彼らからしてみればフィクションの世界の話と同意義だろう。
だから、彼らは信じようとはしない。
拓哉がやってきた功績を…拓哉が手に入れようと踠き苦しんだ選択を…。
「死んでたって…SAOをクリアしたのは攻略組だろ!?人殺しが攻略組にいるハズないだろ!!」
木綿季「だから、攻略組でもトッププレイヤーだった拓哉がヒースクリフを倒したんだ!!ボクはちゃんと見ていたんだ!!」
そう…見る事しか出来なかった。
体の自由を奪われ、最後の戦いに向かう拓哉を引き止める事が出来なかった。
ヒースクリフ/茅場晶彦の出した提案はアインクラッドにいる全てのプレイヤーが羨望したもので、それを手に入れる為に消耗した体に鞭打って戦いに臨んだ。
木綿季「75層のボスを倒して疲れ果てた体を奮い立たせてみんなの為に戦ってくれたんだ!!」
本当は行って欲しくなかった。
相手はSAOの創始者であり、全プレイヤー最強と呼び声も高かった血盟騎士団団長ヒースクリフであったから、正直な所勝てる訳がないと思った。
現に1度、拓哉はヒースクリフに負けているし、ソードスキルなどの既存の技を全て封じられた拓哉に勝ち目など1割にも満たなかっただろう。
また地道に100層を攻略組全員で目指せばいいじゃないか。
またレベルを上げて、強くなって挑めばいいじゃないか。
それでも、そんな絶望的な状況でも拓哉は戦う事を決めた。
75層にたどり着くまでに2年もかかって、残りは25層もある。
それに、現実世界で延命処置を施している肉体の限界もいつやってくるか分からない。
その変わらない現実を突きつけられた上で、今ここで終わらせる事が最善の選択だと判断した。
木綿季「ここにいられるのは拓哉のおかげなのに…何でみんな…拓哉を責めるの?…拓哉が1度だって君達に何かしたの…?」
「そんなの関係ない…。誰だってそう思うだろ?
人殺しと一緒にいたくないって…なぁみんな!!」
男子生徒がクラスにいる生徒達に賛同を求める。
困惑しながらも男子生徒の言い分に納得する者、肯定する者が次々募ってきた。
珪子「そんな…」
木綿季「…なんで」
こんな現実はあんまりだ。これでは拓哉が彼らを助けた意味などあったのだろうか。
そう思わされるこの状況に木綿季は悔しい気持ちで歯噛みしてしまう。
青柳「何の騒ぎですかっ!!」
そこへこの騒動を聞きつけてきた青柳がやってきて、クラスにいた生徒も次々外へと逃げるように出ていった。
残された木綿季と珪子の元に青柳が事情を聞く為に近づいてくる。
青柳「…何があったんですか?」
珪子「えっと…ちょっと口喧嘩になっちゃって…」
青柳「さっき茅場君の名前を聞いたんですが、君達は茅場君の友達?」
木綿季「…拓哉は何も悪い事してないんだよ。…みんなを守ろうと頑張っただけなんだ」
青柳「…分かっています。茅場君なら大丈夫ですよ!
なんて言っても彼は…
英雄なんですから」
2025年12月17日16時00分 SAO帰還者学校最寄り駅
拓哉からの連絡を受け、珪子と青柳に別れを告げた後、木綿季は急いで学校の最寄り駅に向かった。
先程の事もあって早く拓哉に会いたいという気持ちが足を急がせる。
走って僅か数分で駅に着いた木綿季は周囲を見渡し、拓哉を探す。
木綿季(「どこ…?どこ…?」)
どうしようもない不安が木綿季の中に押し寄せ、息を荒くしながら拓哉の姿を探す。
しかし、どこを探しても見当たらず木綿季は思わず涙が滲んできた。
木綿季「あれ…?」
本人でさえ理解出来ない涙の原因を必死に考える。
拓哉を悪く言われたから?
拓哉に会いたいから?
この不安を消してもらいたいから?
そのどれもが納得のいく答えではないと木綿季は他の原因を模索する。
本当は分からないのではなく、もう答えを知っていてそれを否定しているから。
拓哉の全てが善行ではない事ぐらい分かっているつもりだ。
木綿季達の為とは言え、人を殺した罪がなくなる訳ではない。
それはどんな理由を並べても許される事のないもので、拓哉自身も罪を償わなければならない。
だが、その一面だけを知って拓哉の全てを否定するのは間違っている。
人を殺した事実と拓哉の人柄は全く別の話だ。
優しく、仲間思いで、誰からも頼られる一面もちゃんと見てほしい。
それが木綿季の中に押し寄せている不安の原因であり、答えだ。
木綿季「拓哉…拓哉…」
彼がいないと生きていけない。
彼がいないと自分の世界は色を失ってしまう。
彼がいないと笑えない。
他者から見れば根が強く、執着心の塊に見えてしまうがそれでもかまわない。
それだけ拓哉を愛しているのだから。
愛した者と一緒にいたいと思って何が悪い?
愛した者と離れたくないと思って何が悪い?
それは人間として当然の感情ではないか。
木綿季「…早く会いたいよ…」
拓哉「よっ」
突然頭の上に手を置かれ、声をかけられた。
咄嗟に振り向くと、今まさに会いたいと願った彼がそこにいた。
木綿季「…拓哉ぁ…」
拓哉「遅くなってゴメンな…って、何泣いてんだよ?」
気づけば涙は頬を流れ、袖で拭っても中々止まらない。
拓哉「何かあったのか?」
心配する声にまた涙が溢れる。そこに確かに存在し、触れ合える事に幸せを感じた。
木綿季「…何でもない…もう!遅いよ!!」
拓哉「悪かったって…実は渋滞に巻き込まれちまってさ」
木綿季「言い訳なんて聞きたくないよ!…でも、ちゃんと会えた…」
またいなくなるんじゃないかと片隅で考えていた自分が馬鹿らしくなる。もうそんな事はないと彼と約束したと言うのに、まだ木綿季は拓哉の事を全て把握してはいないようだ。
でも、これから先だって拓哉を知るチャンスは何度だって来る。
時間をかけてゆっくり、同じ時間を共有していけばいい。
拓哉「?約束してたし会えたのは当たり前だろ?」
木綿季「鈍感だなぁ…それより早く遊びに行こうよ!!」
君と共にいたいから…ボクはこの手を離さないんだ…
2017年12月18日13時00分 ALOイグシティ キリトのホーム
ユウキ「フンフンフーン♪」
鼻歌まじりにテーブルに置かれたクッキーに手を伸ばす。
今日は土曜日という事もあって、ユウキはALOのキリトのホームへと遊びに来ていた。
アスナ「ユウキ、今日は凄く機嫌がいいね?」
ユウキ「え?そうかなー?」
キリト「鼻歌まで歌って、何かいい事あったのか?」
口の中に入った物を飲み込み、何かを思い出す度に頬が緩くなってしまう。
ユウキ「実は昨日ね、拓哉とデートしに行ったんだー!」
アスナ「そうだったの?じゃあ、拓哉君と一緒にいられて嬉しかったんだね」
ユウキ「そうそう!2人で横浜の水族館に行ってねイルカのショーを見たりして、帰りにご飯を一緒に食べたんだー!」
ごく普通のデートプランだが、今まで離れていた分のツケが一気に戻ってきたのだろう。
拓哉といるだけで幸せの絶頂とでも言うべきものがユウキに押し寄せていたのだ。
キリト「今日タクヤは一緒じゃないのか?」
ユウキ「それがね、みんなに会わせたい人がいるから14時にイグシティにあるリズベットの店に来てくれって…」
アスナ「リズの店に?どんな人だろう?」
キリト「とりあえず、時間になったら行ってみよう」
3人で談笑に耽っていると約束の時間が近づき、イグシティにあるリズベット武具店へと飛んでいった。
中央通りに店を構えているリズベット武具店の扉を開き、中に入る。
そこにいたのはピンク色の髪にそばかすを散らした店主であるリズベットがいた。
リズベット「いらっしゃい。よく来たわね」
アスナ「こんにちはリズ」
ユウキ「タクヤはまだ来てないの?」
リズベット「もうすぐ来るみたいよ?さっき、連絡貰ったから」
そんな話をしていると、扉の鈴が音色を響かせた。
キィィ…と擦れるような音を出しながら久しく見ていなかったALOのタクヤがやってきた。
タクヤ「よっ!揃ってるな」
ユウキ「タクヤー!!」
思わず抱きつこうとタクヤ目掛けて走ると、タクヤの後に可愛らしい水色の猫耳が覗いている。
ユウキ「…あれ?」
咄嗟に急ブレーキをかけたユウキを引かせ、タクヤとその背後にピッタリくっついている猫耳のプレイヤーが店へと入った。
アスナ「タクヤ君、その…後ろにいる人は?」
種族は確実に
タクヤ「おい。今更何恥ずかしがってんだよ?」
「だって…私がこんなファンシーな物好きでつけてるなんて思われたくないんだもの…」
タクヤ「仕方ねぇだろ?…てか、性能だけで選んだお前が悪いんだろ?」
「仕方ないじゃない!私はALOみたいなファンタジーゲームは初めてなんだから!!」
陰で何やら言い争っているが、こちらもいい加減誰なのか知りたい。
そんな気持ちが爆発した木綿季はタクヤを無理矢理引っ張って背後にいるプレイヤーの姿を晒してみせた。
「あっ」
アスナ「あれ?」
リズベット「…もしかして…」
キリト「シノン…か?」
水色のショートカットから生えている猫耳に気を取られていたが、凛とした瞳に長い睫毛、大人しく落ち着いた佇まいからキリトはGGOで共に戦ったシノンの姿を連想させる。
シノン「…こ、こんにちは」
アスナ「やっぱりシノのんだったんだね!」
ユウキ「もしかして会わせたい人ってシノンの事だったの?」
タクヤ「あぁ。GGOもしばらくイベントはないみたいだから誘ってみたんだ。キャラはコンバートだからステータスも申し分ないし、戦闘面もオレが見た限りじゃ問題ないと思う」
死銃事件の後、拓哉は詩乃をALOに誘ってみた。
最初は戸惑いながらも了承し、2日前に一緒にプレイしてみたが、GGOでの経験を生かして弓矢を装備に持ったシノンの強さは熟練のプレイヤーに引けを取らない程だった。
シノン「改めてよろしくね」
ユウキ「こちらこそよろしくねー!」
タクヤ「ここにいない奴にはまた紹介するから、今日はリズにシノンの武器を作ってもらいたいんだけど…大丈夫か?」
リズベット「えぇ大丈夫よ。武器は弓でいいの?」
シノン「えぇ、お願いするわ」
それからリズベットは工房の方へと篭もり、武器が出来るまでの間、5人は楽しく談笑していた。
ユウキ「そう言えばずっと気になってたんだけど、タクヤとシノンはどうやって知り合ったの?」
シノン「えっと…」
タクヤ「たまたまオレが借りたアパートの隣に住んでたんだ。
よく顔を合わせるようになって今に至る。
GGOにもシノンが誘ってくれて、あの時はいろんな意味でシノンには助けられたな」
シノン「ちょっと!いきなり何よ…」
アスナ「ふーん…。でも、タクヤ君ってキリト君並に女の子と知り合うよね?」
男子2人が顔を引き攣らせながら苦笑する中、ユウキはジト目でタクヤを睨んでいる。
ユウキ「シリカやルクスもそうだし…浮気性なのかな?」
溢れんばかりの殺気を放ちながらタクヤに攻め寄るユウキ。
必死に否定するも、ユウキの殺気は消える事はなかった。
キリト「災難だなタクヤ…」
アスナ「キリト君も人の事言えないよね?」
キリト「…」
黙ってやり過ごす以外にこの場を荒立たせない方法はない。
タクヤとキリトは肩を竦めながら、ただジッと黙秘を貫いた。
シノン「…でも、私はタクヤとキリトにも感謝してるし、アスナやリズにも感謝してるわ。
私の過去の事を知っても変わらず接してくれるんだもの。
今までそんな事なかったから余計にね…」
タクヤ「…」
アスナ「…なんか湿っぽくなっちゃったね?とりあえず、今日はシノのんのクエストに付き合うよ。サポートはまかせて!」
ユウキ「うん!シノンなら何だって出来そうだし、きっと強くなれるよ!」
シノン「…ありがとう」
そんな話をしている、工房から戻ってきたリズベットがシノンに新しい弓を贈った。
リズベット「はいこれ!そこらの店売りよりは強く出来上がってるわ。銘は"トリスタン·ボウ”。命中率を重視して作ってるけど威力もそこそこあるからね」
シノン「ありがとうリズ。大切に使わせてもらうわ」
ホワイトカラーのフレームが輝く弓を装備し、いよいよ6人はクエストに向かうのだった。
2025年12月18日17時30分 ALO央都アルン正門前
リズベット「お疲れー!」
クエストを終え、一同は央都アルンへと戻り、カフェテラスで勝利の余韻に浸っていた。
アスナ「シノのんもさすがGGOのトッププレイヤーだけあるねー!今日1回も外してなかったでしょ?」
シノン「まぐれよ。それにトッププレイヤーなんて事はないわよ」
ユウキ「でも、攻撃モーション盗んで即死させるなんて凄いよ!!」
クエストの最中、アスナと後衛に陣取っていたシノンはタクヤ達の背後に忍び寄るモンスター達を悉く瞬殺していき、いつもよりもスムーズに攻略が進められた。
キリト「ALO初心者とは思えない堂々とした動きだったよ」
タクヤ「流石は"冥界の女神”だな」
シノン「そんなに褒めても何も出ないわよ」
とは言ったものの、内心褒められて嬉しいと感じているのか笑顔が絶えないシノンにタクヤ達もそれを見て安心した。
上手く輪に馴染めないんじゃないかと危惧もしていたが、そんな心配は必要なかったようだ。
キリト「はははっ。あ、そうだ…ちょっと試したい事があるんだけどまだ時間大丈夫か?」
アスナ「私はまだ大丈夫だよ。試したい事って?」
キリト「まぁ、成功するかどうか分からないけどな。とにかく、圏外に移動しよう」
キリトに連れられるままタクヤ達はアルンを出てすぐのフィールドにやって来ていた。
すると、キリトはタクヤ達と距離を取り、剣を抜いて構え始めた。
キリト「アスナ、何でもいいから魔法を撃ってくれないか?」
アスナ「え?いいの?」
キリト「あぁ、種類や属性は気にしなくていいからよろしく!」
アスナも渋々了承し、魔法の詠唱を唱え始めた。
詠唱が終わる頃には聖属性の光の矢が現れ、それをキリト相手に放った。
何でもいいと言われたが、もし直撃しようものならタダでは済まされない事態になってしまう為、比較的初級のものを選んだ。
放たれた光の矢はぐんぐん加速し、50mしか離れていなかったキリトに僅か1秒で到達してしまった。
ユウキ「キリト!!」
名前を呼んだ頃には既に光の矢は爆散し、辺り一帯に土煙がたった。
全員不安を隠せない状況の中、ただ1人シノンだけが不安とは別の驚愕した表情で土煙を眺めていた。
シノン「まさか…」
リズベット「キリト!!」
瞬間、土煙が2つに斬り裂かれ、その中からキリトが余裕の表情で立っていた。
アスナ「そんな…命中したと思ったのに…!!」
タクヤ「…」
キリト「うーん…まだまだって感じだな」
シノン「アンタ…今のって…」
シノンにはこの状況と酷似した状況を知っている。
おそらく、タクヤも思い当たる事があるのだろう。そんな表情をしている。
リズベット「い、今のはどうなってんのよ!?」
キリト「あぁ…GGOでさ、銃弾を剣で斬って戦ってたんだけど、正確には銃弾の核に剣閃を入れてたんだ」
ユウキ「えっと…つまり?」
キリト「どんな物にもウィークポイントとなる核は存在する。
それは魔法でも例外じゃない」
キリトの説明を受け、だんだんと理解し始めたのかユウキ達の表情がみるみる変わっていった。
タクヤ「結果だけ言えば、キリトは魔法を斬ったって事。
まぁ、魔法を普通の剣で斬れる訳ないから、ソードスキルを発動させたって所か…」
キリト「あぁ。ALOのソードスキルには物理判定に加えて魔法判定もあるからいけると思ったんだ…と言っても、まだ成功率は3回に1回成功するかどうかって段階だけど」
アスナ「それでも凄いよキリト君!!改めてそう感じたよ!!」
ユウキ「…」
アスナ「どうしたのユウキ?」
ユウキは何故か頬を膨らませ、ジッとタクヤを見つめている。
それに気づいたのかタクヤも慌ててそうなっている理由を聞いた。
ユウキ「…タクヤは出来ないの?」
タクヤ「え?あ…いやぁ…オレには無理なんじゃないか?」
シノン「でも、アンタも離れ業してたでしょ?銃弾を銃弾で撃ち落とすってやつ」
それを聞いた瞬間、ユウキはさらにタクヤに詰め寄り、早くやって見せてと熱い眼差しでサインを送ってくる。
タクヤ「あれは自分もサブマシンガンだったからであって、キリトより剣の才能のないオレには出来ないよ」
ユウキ「やってみなきゃ分からないでしょ!?やってやってやってやって!!!!」
リズベット「やるだけやってみなさいよ。アンタの奥さんがこれ以上駄々コネないようにさ」
タクヤ「…分かったよ」
そう言って渋々ユウキ達から距離を取り、キリトのいた場所につくと拳を構え、準備を整えた。
アスナ「じゃあ行くよー」
先程と同じ詠唱を唱え、光の矢が再度出現してタクヤに襲いかかった。
タクヤ「!!」
瞬間、タクヤは魔法目掛けて走り始め、超高速で距離を詰め、右拳が青白いライトエフェクトを帯びた。
瞬間、光の矢は粉々に砕け散り、破片が衝撃に耐えられなくなったのか、そのまま爆散した。
「「「「は?」」」」
一方その頃、とある部屋の一角でPCのキーボードをタイピングしている音が響き渡る。
「…」
慣れたタイピングで文章を作成し、時折見せる険しい表情は誰が見ても恐怖するだろう。
負の感情が混ざり合い、言葉では言い表せないその表情はある種の崇高な動機からくるものだった。
「これで…ダメ押しだ…」
タァンとキーボードがクリックされ、その文書を各種サイトに送信した。
これが復讐の最終章だ。
もうすぐだからもう少し待ってて…兄さん…
如何だったでしょうか?
今回は急ぎ目に書いていますので誤字脱字や、意味が分からない箇所があるかもしれませんが、その時は気楽にお知らせてくれると有難いです。
評価、感想などありましたらお待ちしております。
では、また次回!