ソードアート・オンライン-君と共に在るために-   作:ちぇりぶろ(休載中)

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という事で80話目に突入です!
今回はカヤトに視点を当てた回になりますのでお楽しみに!
挿絵の方もなるべく早く上げるようにします!


では、どうぞ!


【80】兄弟

 2025年12月26日11時00分 ALO新生アインクラッド 第21層

 

 先日のアップデートで30層まで解放されたアインクラッドには多くのプレイヤーが押し寄せ、連日攻略に熱を入れていた。

 そんな中、21層の主街区の転移門前にタクヤとユウキ、カヤトとランが揃っている。

 

 ユウキ「じゃあ、攻略しに行こっか?」

 

 ラン「そうね」

 

 タクヤ「…おう」

 

 カヤト「…分かりました」

 

 ユウキ&ラン「「…」」

 

 多少の不安を抱えつつ、4人はフィールドへと赴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 未踏のフィールドだとしても、タクヤとユウキに関しては既に経験した土地の攻略になる為、カヤトとランのナビゲートを請け負い、襲いかかるモンスター達を丁寧に捌いていく。

 

 ユウキ「強さは昔よりも高めだね」

 

 タクヤ「あぁ、21層でも手は抜けねぇな」

 

 ラン「そういう割には2人共涼しそうな顔してますけど…」

 

 ユウキ「そりゃあ経験の差だよ。姉ちゃんとカヤトも慣れれば楽になるよ」

 

 カヤト「…」

 

 モンスター達を蹴散らしていきながらある程度進んでいっていると、ユウキの肩をランがタクヤとカヤトに悟られないように叩いた。

 

 ユウキ「?」

 

 ラン「ねぇ?あの2人…何かあったの?」

 

 ランがそう思うのも無理はない。

 明らかにギクシャクした空気を放ち、連携も上手くいっていない。

 それどころか視線を合わせようともしないのだ。

 

 ユウキ「姉ちゃんも気づいてたんだ?タクヤはいつも通りだったんだけど、カヤトに会ってからおかしくなっちゃって…」

 

 ラン「カヤトさんは会った時から暗かったんだけど…ユウキも知らないのね」

 

 何故、このようになっているのか理由が見つけられずにいると、背後から迫るモンスターに一瞬だが遅れを取ってしまった。

 

 タクヤ&カヤト「「っ!!?」」

 

 咄嗟に武器を構え、モンスターの息の根を止めに地を蹴った。

 ソードスキルを使えばあの程度のモンスターを屠るのは簡単だったのだが、タクヤの右拳とカヤトの両手長柄が火花を散らしながら衝突してしまう。

 

 タクヤ「がっ」

 

 カヤト「くっ」

 

 ラン「ふ、2人共!!?」

 

 ソードスキルが発動する寸前で衝突したので、強制的にキャンセルしたのが功を奏した。

 でなければ、互いに大ダメージを受けていた所だ。

 モンスターも思わず怯み、その隙にユウキがソードスキルを発動させる。

 

 ユウキ「はぁぁぁっ」

 

 

 片手用直剣ソードスキル"レイジスパイク”

 

 

 モンスターがポリゴン片に砕け散るのを確認した後にタクヤとカヤトの元へ走った。

 ダメージなどなく胸を下ろすユウキだったが、それとは別に不穏な空気が流れ始める。

 

 タクヤ「今のはお前が無理して出るとこじゃねぇだろ」

 

 カヤト「…兄さんこそ、僕の方が近くてリーチが長いんだから出しゃばらないでくれよ」

 

 タクヤ「何?」

 

 カヤト「いつもいつも前に出る事しか頭にないの?

 もっと周りをよく見ろって言ってんだよ!!」

 

 タクヤ「っ!?さっきのモンスターの特徴は把握してたし、お前の槍じゃ相性最悪だったろーがっ!!」

 

 険悪な空気を撒き散らし、互いに批判を繰り返していく。

 いつもなら笑って過ぎていくハズなのに、今日は何故か何もかも噛み合っていなかった。

 その原因が何なのか突き止めなければいけないが、今はこの無駄な争いを止める方が先だ。

 

 ユウキ「2人共落ち着いてよ!!」

 

 ラン「今は喧嘩してる時じゃないですよ!!」

 

 ユウキとランが2人の間には入り、口喧嘩の仲裁に入る。

 それでも互いの表情は僅かばかりに怒りを含んでいた。

 

 ユウキ「タクヤも!!頭を冷やしてよ!!」

 

 タクヤ「っ!?」

 

 ラン「カヤトさんもですよ!?冷静になってください!!」

 

 カヤト「…!!」

 

 次第に落ち着きを取り戻し、目的地である遺跡へと目指す。

 互いに顔を合わせようとはしないままユウキとランは2人の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何かが心の中で引っかかる。

 ここまで心が乱れるのは初めてに近い経験だ。

 でも、原因は漠然とだが理解している。

 これは怒りでも、不安でもない。

 ただ、自分には何かを成す力がないから…支えなきゃと思ってもそれを実行出来なかった為に生まれた悔しさ…後悔からくるものだ。

 全てを1人で背負うなど初めから無理な話で、それでもやり遂げなきゃいけないという強迫観念が邪魔をしている。

 もう辛い事は起きないでほしい…関わらないでほしい。

 そう願うのは悪い事なのか?お節介な事なのか?

 これ以上誰かがいなくなるのは嫌だ。

 そう思うのは罪なのか?自己中心的な考えなのか?

 例え、そうだとしても…この願いを捨てるつもりは毛頭ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たった1人の家族だから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年12月26日11時30分 ALO新生アインクラッド 第21層

 

 21層の主街区から距離にして5km程離れた場所にある遺跡には、先日タクヤとキリトが倒したフィールドボスとは別にキークエストが設定されている。

 遺跡の中に入り、そこにいるであろうクエストNPCから最奥部にある"ある物”を持ち帰って欲しいと依頼される。

 旧アインクラッドの21層でもこのように進行していた為、新生アインクラッドでも十中八九同じものであるだろうと予測出来た。

 

 ラン「遺跡の奥には何があるの?」

 

 ユウキ「確かね…NPCのメモ帳だったハズだよ。

 学者って設定で迷宮区にいるモンスター達の特徴や弱点を記してるんだ。

 その中にフロアボスの情報もあるから攻略の手間が省けるんだよ」

 

 ラン「へぇ…。でも、ユウキとタクヤさんはそのボスの事知ってるから別にこのクエストを受ける必要ないんじゃ…」

 

 タクヤ「いや、新生アインクラッドのフロアボスは全部変わってるから旧アインクラッドでの情報は通じねぇんだ。

 あくまで一緒なのはフィールドや主街区、クエストの発生場所やフィールドボスまでだな」

 

 ALOを運営しているユーミルもそこまで馬鹿ではない。

 旧アインクラッドと全く同じものを用意すれば、世間からの批判が集中し、最悪の場合運営中止という事にもなり兼ねない。

 それ程、世間にとって旧アインクラッドを舞台としたSAOは畏怖すべきものだという事だ。

 今でも、VRMMO自体よく思っていない人達もいるようで、それらを抑制しているのが《ザ・シード》連結(ネクサス)で繋がった仮想世界でプレイするプレイヤーと菊岡が籍を置く総務省の仮想課によるものが大きい。

 そういった理由でユーミルもアインクラッドを実装するにあたって最善の注意をしているハズだ。

 

 ユウキ「まぁ、モンスターが強くなってるって言ってもボク達なら余裕だよ!」

 

 ラン「う、うん。…カヤトさんはいつも冷静ですよね?ボス戦でも判断力が鈍ってませんし」

 

 カヤト「…どうでしょう。そう見えるのは僕がそういう風に見せてるからかも知れませんよ?」

 

 ラン「え?」

 

 タクヤ「無駄話はその辺で切り上げろよ。そろそろ遺跡の中に入るぞ?」

 

 遺跡の階段を下っていき、タクヤ達は薄暗いダンジョンに足を踏み入れた。

 階段を降りてすぐの区画に案の定クエストNPCが立っており、タクヤがフラグを回収するべくNPCに話しかけた。

 

『実は、遺跡の奥で調査していた時に怪物に遭遇して…脇目も振らずに引き返してきたんだ。

 多分その時だと思うんだが、私の大事なメモ帳を落としてしまってね。

 取りに行こうにも怪物が徘徊して身動き取れないんだ。

 もしよければだが、私のメモ帳を探してはくれないだろうか?

 もちろん報酬は出すよ』

 

 話を一通り聞いてタクヤは迷いなく了承する。

 メモ帳は話を聞く次第最奥部にあり、そこを守護しているフィールドボスが待ち構えているハズだ。

 旧アインクラッドの時と状況は変わらず、タクヤとユウキが先頭を任せられる。

 

 タクヤ「前と一緒なら毒ガス攻撃を使ってるから解毒結晶を準備しててくれ。ラン、解毒結晶が切れた時は解毒魔法でサポートを頼む」

 

 ラン「分かりました」

 

 ユウキ「それと、尻尾による遠距離攻撃(ロングレンジ)もあるから間合いを見誤らないようにしてね」

 

 カヤト「了解です」

 

 注意喚起を促して4人は遺跡の中へと進み始めた。

 地下ダンジョンだけあってアンデット系やアストラル系のモンスターが多く、この場にその系統が苦手なアスナがいない事に安堵する。

 悲鳴を上げて連携を崩されては適わない。

 

 ラン「私も別に平気って訳じゃないけど…」

 

 カヤト「大丈夫ですよ。何かあったら僕が援護しますから」

 

 タクヤ「援護に徹せられても困るけどな」

 

 ユウキ「タクヤっ!!!」

 

 また余計な事を、とユウキはタクヤに叱るが、それをいちいち構う程カヤトも馬鹿ではない。

 雰囲気は水平線のまま時間だけが過ぎていった。

 特に会話もなく、襲いかかるモンスターを蹴散らしていくだけの流れ作業。

 4人の連携もぎこちないままタクヤ達は最奥部前の安全エリアまでやってきた。

 

 ラン「この先にフィールドボスがいるんですよね?」

 

 タクヤ「あぁ。…今更だけど、オレとユウキの情報をそのまま鵜呑みにするのは危険だ」

 

 カヤト「?」

 

 ユウキ「どうして?」

 

 タクヤ「昨日もオレとキリトはこことは別の遺跡の前でフィールドボスと戦ったんだけど、その時もボスの動きが前回と変わってたからな。

 20層までは順調にいけたのに21層からそれが通じない。

 多分、この前のアップデートでユーミルが仕様を弄ったんだろうけど…」

 

 先日倒したストレンジャーアーム・エイプもタクヤとキリトが知らない動きをして苦戦したのを思い出す。

 咄嗟にキリトが編み出した《剣技接続(スキルコネクト)》で難を逃れたが、あのまま戦っていたらどうなっていたか分からない。

 今回も前回同様にボスの動きが変わっている可能性がある。

 それをタクヤは事前に3人に話し、より注意を怠らないよう促した。

 

 タクヤ「作戦として…まず、オレがボスのタゲを取る。

 ボスの攻撃がオレに集中している所を背後からユウキとランでソードスキルを叩き込む。硬直(ディレイ)している間はオレとカヤトが援護に回る。

 HPバーが残り1本でモーションが変わるから、1度距離を取って臨機応変に立ち回ってくれ」

 

 カヤト「…援護に入るって言ったけど、間に合うの?」

 

 タクヤ「…オレのAGIなら問題ねぇ。カヤトはユウキとランが飛び出した後で出てこい。そうしないとフォローが追いつかねぇからな」

 

 カヤト「…あぁ…」

 

 ユウキ「大丈夫だよ!カヤトなら出来るって!」

 

 ラン「えぇ。カヤトさんになら命を預けられます!」

 

 カヤト「…」

 

 いくら仕様が変わり、難易度が上がっていると言っても、このメンバーなら乗り越えられる自信はある。

 それだけの経験と技術を磨いてきた自負はあるし、判断さえ間違えなければそれ程危険視する事ではない…と、タクヤやユウキなら思うだろう。

 

 

 買い被りすぎだ。いくら技術を磨いても2人に対して自分は圧倒的に経験値が足りていない。

 冷静な判断も戦闘中に予想外な行動を取られれば簡単に崩れ去ってしまう。

 幾多の戦いを乗り越えてきた彼らにはもう分からない事だ。

 自分にどれだけの実力があるかなんて本人には分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は"英雄”ではないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タクヤ「じゃあ…行くぞっ!!」

 

 掛け声と同時にタクヤは安全エリアから最奥部の区画へと侵入した。

 タクヤの姿を視認したフィールドボスが雄叫びを上げる。

 "キメラメティックイビル”と名付けられたモンスターがタクヤ目掛けて強靭な鱗で武装した尻尾を叩きつける。

 まずは回避優先を頭に入れていたタクヤは予備動作を確認した時点で高く跳躍する。

 尻尾は地面スレスレで轟音と共に薙ぎ払われるが、空中に避難していた為に空振りに終わる。

 ダンジョン内では翅が使えないが、それを物ともせずにタクヤはキメラティックに向かって急降下した。

 

 タクヤ「はぁぁぁっ!!!」

 

 AGI特化型(ナックル)武器"無限迅(インフィニティ)”はキメラティックの頭蓋を叩く。

 激しい衝撃音がダンジョン内に響き渡り、キメラティックが呻き声を上げながらよろめいた。

 地上に着地したタクヤは間髪入れずに次の攻撃に入る。

 しかし、キメラティックは怒りを燃やし、タクヤにブレス攻撃を放った。

 

 タクヤ「っ!!」

 

 濃い紫色のブレスがタクヤに襲いかかるが、事前の情報通りだと難なく回避し、懐に5発の拳を叩き込んだ。

 色を見ても猛毒のガスである事は明白で、一定時間毒ガスは漂うがその場には誰もいない。

 キメラティックの攻撃が不発し、タクヤに集中している事を確認した瞬間、入口からユウキとランのソードスキルがキメラティックの背後から放たれた。

 

 

 片手用直剣ソードスキル"ヴォーパル・ストライク”

 

 

 

 刀ソードスキル"浮舟”

 

 

 ライトエフェクトを散らせながらキメラティックの脇腹を抉る。

 今まで以上の呻き声を上げ、倒れはしないまでも確実にダメージが残っている。

 だが、ユウキもランもソードスキル後の硬直(ディレイ)が体を支配し、身動きが取れない。

 そこを捉えたキメラティックが恨みと怒りと共に鋭利な爪を立て、2人に襲いかかった。

 

 タクヤ「今だ!!」

 

 我を忘れているキメラティックはユウキとラン以外視界に入れていない。

 入口から最後に飛び出してきたカヤトとユウキとランの前に移動したタクヤがさらなるソードスキルを放つ。

 

 

 (ナックル)ソードスキル"ビート・アッパー”

 

 

 

 両手長柄ソードスキル"スパイナル・ゲート”

 

 

 2人のカウンターがキメラティックの巨体を浮かび上がらせ、ダメージと共に地面に倒した。

 この間にユウキとランの硬直(ディレイ)が解け、4人は1度キメラティックから後退する。

 

 ユウキ「大成功だね!!」

 

 ラン「はぁ…ドキドキした…」

 

 カヤト「…これからどうするの?」

 

 タクヤ「このままアイツのHPが残り1本になるまで攻める。

 今の所、特に変わった様子はねぇからそれまでこれを繰り返すぞ!!」

 

 キメラティックがゆっくりと立ち上がるのを確認したタクヤが先行し、その後を3人が追う。

 キメラとはよく言ったもので、体の部位毎に様々な魔獣が掛け合わされた歪な姿と悪魔を連想させる強靭な角と尻尾は怒りを力に変えてタクヤ達に襲いかかる。

 4人が全員アタッカーだという事もあり、短期決戦が1番望ましい。

 回復役(ヒーラー)であるアスナやシウネーがいればもう少し無茶も出来るのだろうが、無いものを強請っても仕方ない。

 キメラティックは襲いかかった瞬間、全方位の毒ガス攻撃に入った。

 これは回避不可能と判断した4人はそのまま阻害(デバフ)に毒が追加された。

 

 タクヤ「全員解毒結晶を使え!!」

 

 アイテムポーチから解毒結晶を取り出し、キメラティックの動きを見ながら砕いた。

 青白いエフェクトが体を包み込み、阻害(デバフ)の毒が姿を消す。

 

 ユウキ「よーし!今度はボクが行くよ!!」

 

 ユウキは解毒した直後にキメラティックの前足を伝って背中まで登り切った。

 それに気づいたキメラティックも周りを気にせず、壁などに突進してユウキを振り払う。

 だが、ユウキはキメラティックから離れようとはせず、タイミングを見計らってソードスキルを発動させた。

 

 

 片手用直剣ソードスキル"ライトニング・フォール”

 

 

 魔法属性である雷が付与されたこのソードスキルは本来地面に突き立て、雷を這わせるものだが、ユウキはキメラティックの背中に剣を突き立て、体の自由を奪うのと同時に大ダメージを与えた。

 

 カヤト「麻痺してるなら…!!」

 

 ラン「ソードスキルでダメージを…!!」

 

 

 両手長柄ソードスキル"スピン・スラッシュ”

 

 

 

 刀ソードスキル"残月”

 

 

 2人のソードスキルが麻痺しているキメラティックに追撃を加える。

 ここまで完璧と言わせる程順調にダメージを与えてきた。

 キメラティックのHPバーも数撃加えるだけで残り1本になる。

 しかし、順調に来ていたばかりに4人に僅かばかりの隙が生まれてしまった。

 ユウキの一撃でキメラティックのHPバーが残り1本になると、大地を震わせる程の咆哮が響いた。

 

「「「!!?」」」

 

 耳を塞いでも体の芯を揺さぶる。

 同時にキメラティックの体がみるみる真紅に染まり、先程とは異質の殺気を放った。

 

 タクヤ「っ!!?全員、ヤツから離れろっ!!!!」

 

 タクヤが3人に叫んだ瞬間、キメラティックがタクヤの眼前に高速移動する。

 それを察知したタクヤもすぐに迎撃態勢に入るが、キメラティックの爪はタクヤを深く刻みつけた。

 

 タクヤ「がっ…」

 

 ユウキ「タクヤ!!!?」

 

 カヤト「来ますよ!!!」

 

 タクヤを壁へ吹き飛ばした後すぐにキメラティックが高速移動でユウキに襲いかかってきた。

 タクヤの安否が気遣われるが、今は迎撃にのみ集中しなければならない。

 振るい降ろされた爪を剣で受け止める。

 力を徐々に加えられ、ユウキはその場から動く事が出来ない。

 

 ラン「私がタクヤさんの所に行きますから、カヤトさんはユウキの方へお願いします!!」

 

 ランはキメラティックの動きに注意しながらタクヤの元へと駆ける。

 カヤトもタクヤの事はランにまかせてユウキの支援に向かった。

 キメラティックの連続攻撃を耐え忍び、一瞬の隙を突いてその場から離脱する。

 

 カヤト「大丈夫ですかユウキさん!!」

 

 ユウキ「うん…なんとかね…。でも、HPを結構削られちゃった」

 

 カヤト「…ユウキさんは回復に専念してください。その間、僕がコイツを引き止めておきます。

 兄さんの無事が分かったら態勢を整えましょう」

 

 キメラティックはユウキを標的に捉え、巨体を駆けらせる。

 ユウキが後退してカヤトとスイッチする。

 両手長柄でキメラティックを撹乱し、深追いせず一定の距離を保ち続けた。

 1人ではこのモンスターには勝てない…と、カヤトの直感が囁く。

 一瞬も気が抜けない状況でたった数秒の時間が途方もなく長く感じてしまう。

 どれくらい経っただろうと思考を巡らせる余裕などなく、キメラティックの爪と牙、尻尾に全神経を集中させた。

 

 カヤト(「まだか…まだか…!!?」)

 

 すると、キメラティックの背後から1つの影が迫っていた。

 

 タクヤ「さっきはよくもやってくれたなぁっ!!!」

 

 

 (ナックル)ソードスキル"レオパルド・ブリッツ”

 

 

 軽やかに跳躍したタクヤがその勢いを力に変えて飛び蹴りを放った。

 鈍い音を響かせ、地上に着地すると、間髪入れずにランが斬撃を加えた。

 

 カヤト「はぁぁぁっ!!」

 

 ここで退けばこの勢いを殺してしまう。

 偶然とは言え、タクヤのソードスキルにランの追撃と、流れるような連携を崩す訳にはいかない。

 カヤトもユウキの支援など頭から追いやり、息の根を止めようと追撃する。

 

 ユウキ「ありがとカヤト!!ボクも加わるよ!!」

 

 カヤト「いえ!!ここは僕が決めます!!」

 

 ユウキ「でも、カヤトもダメージが…!!」

 

 カヤト「大丈夫です!!HPが尽きる前に倒し切ります!!!」

 

 ユウキの指示を無視してキメラティックにダメージを与え続けるカヤトにキメラティックも為すがままやられている訳ではない。

 鋭い眼光がカヤトの背筋に冷たく突き刺さった。

 顔を上げてキメラティックの瞳に視線を移した瞬間、キメラティックのブレスがカヤトに襲いかかってきた。

 

 ラン「カヤトさん!!?」

 

 タクヤ「っ!!?離れろっ!!!」

 

 名を叫んでも、カヤトは既にブレスに包まれてしまっている。

 ブレスはキメラティックの周囲を覆うかのように広がっていく。

 毒ガスとは明らかに違う黒煙がキメラティックの恐怖を物語っていた。

 

 ユウキ「あんな攻撃…見た事ないよ」

 

 タクヤ「やっぱりこうなるのか…」

 

 ラン「カヤトさん!!カヤトさん!!」

 

 タクヤ「行くなっ!!お前まで巻き込まれたらどうする!!!」

 

 ラン「でも、カヤトさんがっ!!?」

 

 黒煙で完全に姿を消したカヤトの身が心配なのは誰だって同じだ。

 だが、未知の攻撃に無策で突撃する訳にもいかない。

 警戒を解いて黒煙に向かえば必ずと言っていい程に不利になるのは明白で、全滅だけは避けなければならないタクヤ達に打つ手はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カヤト(「くそ…!!全く見えない…!!」)

 

 黒煙内に閉じ込められたカヤトは何とか脱出口を探す為に体を動かそうとするが、体の自由を奪われていた。

 

 カヤト「麻痺に…毒…呪い…!!?」

 

 HPバーの下にはバットステータスが並べられ、毒だけでも消そうとするが、麻痺している体はそれを阻んでいる。

 呪いの阻害(デバフ)はアイテムでの解呪が不可能で、水妖精族(ウンディーネ)による高等解呪魔法が必須とされている。

 つまり、今回のメンバーに解呪出来る者がいない以上、カヤトの死は決定づけされていた。

 

 カヤト(「これは…無理したツケ…だな」)

 

 ユウキの指示を無視した結果、カヤトは身動きが取れずに死を待つばかり。

 あの時、ユウキの指示に従っていれば…。

 あの時、キメラティックを追い詰めずにもっと冷静になっていれば…。

 後悔ばかりがカヤトの中で溢れ、その場に静かに蹲った。

 

 カヤト(「僕は…兄さんのように…なれないのか…」)

 

 

 1つの世界を己の拳で打ち砕き、卑劣な輩の陰謀をその肉体で粉砕し、罪なき者を手にかける悪鬼をその怒りで引導を渡し、1人の少女の未来をその魂で明るく照らして見せた。

 それを成し遂げた兄に憧れた事だってあった。

 同時に、何故兄がそれ程の痛みを背負わなければならないと悔しく思った。

 そして、弟である自分も何かを成さなければならないという強迫観念が襲いかかった。

 2人の兄はそれぞれの、誰にも成し得ない道を見つけ、突き進んでいく。

 その背中をただ見ているだけにはいかない。

 何かを証明しなければならない。

 誰にも成し得ない偉業を自分も作り上げなければならない。

 その一心で今回のクエストに参加したというのに、結果は実に呆気なかった。

 結局、自分には何も成し得ないという現実を知るだけで何も残せなかった。

 

 

 ただ、死を待つだけがこれ程までに辛く、痛い事なのかと、カヤトは黒煙が晴れ始めるのを眺めながら静かに瞼を閉じた。

 

 ユウキ「煙が晴れるよっ!!」

 

 ラン「カヤトさんは…!!」

 

 タクヤ「!!」

 

 何故かは分からない。黒煙が薄れ始め、キメラティックが地面に向かって爪を振り下ろそうとしているのが微かに見えた。

 理由はこれだろうと自身でも信じて疑わなかった。

 だが、振り下ろす軌道に人影を見つけた瞬間にタクヤは地を蹴っていた。

 

 ユウキ&ラン「「!!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 微かに音がする空気を掻き分け、巨大な何かが自分の頭上にある事を理解した。

 きっと、この一撃で終わる…。

 もうどうする事も出来ない。このまま死を待つしか自分には選択肢がない。

 覚悟ならとっくに固まっている。やるなら早くしろ…と、キメラティックに心で訴えかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タクヤ「やらせねぇぇぇっ!!!!」

 

 

 (ナックル)ソードスキル"ダービュランス・ラッシュ”

 

 

 電光石火の如く速さでキメラティックの懐に潜り込んだタクヤは両拳をオレンジに明るく輝かせ、強烈な7連撃ソードスキルを撃った。

 キメラティックは上空に浮かび上がらせ、最後の一撃で地面に叩きつけられた。

 

 タクヤ「離れるぞ!!」

 

 カヤト「兄…さん…」

 

 カヤトを担いでユウキとランの所まで戻ってきたタクヤはすぐに解毒結晶と消痺結晶をカヤトの目の前で砕いた。

 ライトエフェクトに包まれたカヤトのHPの侵食スピードが緩やかになる。

 

 タクヤ「とりあえず、これで死に戻りまで時間が長引いたハズだ…」

 

 ユウキ「呪いなんて…こんな時アスナがいれば…!」

 

 ラン「カヤトさん!!大丈夫ですか?」

 

 カヤト「…なんで…─」

 

 タクヤ「?」

 

 カヤト「なんで…僕を放っておかなかったんだ…」

 

 掠れた声でカヤトがタクヤに言った。

 

 カヤト「僕の方に集中させていれば…アイツを倒せたハズ…だろ?

 なんで…わざわざ僕を…」

 

 ラン「カヤトさん…」

 

 タクヤ「…確かにな」

 

 ユウキ「!!」

 

 あのままカヤトを助けず、3人でキメラティックを攻撃すればHPを削り取る事ができ、クエストもクリアしていただろう。

 その選択肢はあったハズなのに、何故そうしなかったのかカヤトは理解出来なかった。

 

 タクヤ「お前を見捨ていればアイツは倒せた。ここで死んでも本当に死ぬ訳じゃないしな。

 でも、オレはそんな事は出来ない。

 目の前で死にそうな奴を見捨てる訳にはいかない。

 例え、本当に死ぬ訳じゃなくても…オレの目の前で仲間は死なせねぇ。

 もう2度と…誰かが死ぬのを見たくねぇんだ…」

 

 この手で消してしまった命がある。

 簡単に…無機質に…命の重さを感じさせずに消してしまった。

 だから、もう2度とそんな悲劇を起こす訳にはいかない。

 誓いを違える訳にはいかない。

 

 カヤト「…」

 

 ユウキ「何言っても無駄だと思うよカヤト。タクヤは頑固だから何言っても聞かないよ。

 それはカヤトもよく知ってるでしょ?」

 

 タクヤ「頑固とかじゃねぇだろ…」

 

 ユウキ「いーや!タクヤは頑固だよっ!!ボクが言ってもよく聞かないじゃん!!」

 

 タクヤ「今それ言うかっ!?」

 

 ラン「あはは…そういう所もユウキとそっくりですね」

 

 ユウキ「姉ちゃんは余計な事言わなくていいの!」

 

 戦闘中だと言うのに、こんなにも賑わうのはどうかと思ったが、カヤトはそれを静かに眺めていた。

 荒んだ心が清らかになっていく感覚に襲われながら、それを否定しない自分に驚く。

 

 カヤト「ふふ…」

 

「「「!!」」」

 

 

 思わず笑ってしまった。

 笑わずにはいられなかった。

 偉業とか、責任とか、憧れがなんとも馬鹿らしくなった。

 自分が抱えていたものがどれだけ浅く、ちっぽけなものだったのかを、タクヤ達を見ていて気づいた。

 彼らはいつも自然体で生きているのだ。

 たった1つ立てた誓いを守る為に生きている彼らに不純物はない。

 それが彼らの強さなのだと、理解して、学んだ。

 

 

 カヤト「…ごめん。僕、焦ってたみたいだ。でも、もう大丈夫。僕は…まだ戦える!!」

 

 タクヤ「…そうか」

 

 ユウキ「やっとらしくなったね!」

 

 ラン「…やりましょう!!」

 

 キメラティックが立ち上がるのを確認し、残りのHPが半分を切っているのを見て、4人は同時に地を蹴った。

 

 ラン「まずは、私とカヤトさんが出ます!!」

 

 カヤト「兄さん達は僕達に続いて!!」

 

 タクヤ&ユウキ「「了解!!」」

 

 キメラティックが4人を確認して、咆哮を上げて威嚇する。

 だが、止まらない。

 もう恐れも…後悔も…迷いもない。

 今はこの踏み出した1歩を噛み締めて、ゆっくり確実に進んでいこう。

 カヤトとランが鮮やかなライトエフェクトに包まれながらキメラティックの懐に潜り込んだ。

 

 カヤト&ラン「「はぁぁぁぁぁっ!!!!」」

 

 

 両手長柄ソードスキル"フェイタル・スラスト”

 

 

 

 刀ソードスキル"羅生門”

 

 

 互いの最高位ソードスキルがキメラティックの体を斬り刻む。

 呻き声を上げながらもまだ倒れないが、2人は勝利を確信した。

 

 カヤト「兄さん!!!」

 

 ラン「ユウキ!!!」

 

 ユウキ「全力でいくよっ!!!!」

 

 

 片手用直剣OSS"マザーズ・ロザリオ”

 

 

 ユウキが編み出したSAOの"絶剣”の最強のソードスキルがキメラティックを襲う。

 HPがレッドまで落ちたのを確認してタクヤは両拳に"無限迅(インフィニティ)”と"狂瀾怒濤(ザ・ビースト)”を装備して赤黒いライトエフェクトを発生させた。

 

 タクヤ「これがオレの…全力だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (ナックル)OSS"ワン・フォー・オール”

 

 

 

 

 空中に跳躍し、拳を無数に放つ。

 放たれた拳は空気を歪め、無数の気弾を留まらせた。

 それを渾身の一撃が引き金となり、流星群のようにキメラティックに降り注いだ。

 嗚咽すら許さない程の無数の剛拳がキメラティックのHPを根こそぎ狩り尽くした。

 キメラティックは力尽き、ポリゴンとなって最奥部中に爆散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タクヤ「よっしゃぁぁぁぁっ!!!!」

 

 ユウキ「やったぁぁっ!!!!タクヤぁぁぁぁっ!!!!」

 

 クエストクリアに感極まったユウキがタクヤに飛びつき、その勢いを止められずにその場に倒れしまった。

 

 ラン「やりましたよカヤトさんっ!!!!」

 

 カヤト「はい…」

 

 妙によそよそしいカヤトに疑問を抱いたランであったが、自分がカヤトにしている言動に思わず頬を赤くした。

 

 ラン「す、すみませんっ!!つい嬉しくなって…」

 

 カヤト「まぁ、分からないでもないです。あはは…」

 

 ユウキ「いい加減付き合っちゃいなよ〜」

 

 ラン「ユウキっ!!!?」

 

 その場で姉妹喧嘩に発展した2人を他所にタクヤとカヤトは苦笑いをするしかなかった。

 

 タクヤ「カヤトはとりあえず、遺跡出たら転移結晶で街にいけよ?

 圏内に入れば呪いは消えるからな」

 

 カヤト「分かってるよ。時間もないし、僕は先に出るよ」

 

 その場を後にしようとするカヤトは出口を目指して歩いていたが、不意に立ち止まり、振り返る。

 

 カヤト「たまには帰ってこいよ…バカ兄貴」

 

 タクヤ「…あぁ、年末には帰るよ。バカ弟」

 

 最後に今日1番の笑顔を残してカヤトは去った。

 タクヤもユウキとランの喧嘩を止めて、遺跡の出入口を目指す。

 もうすぐ今年も終わる。

 年末は何かと忙しいが、楽しい事もいっぱいある。

 来年になればきっと今より楽しい事がある予感がしながらタクヤ達は遺跡を後にした。




いかがだったでしょうか?
茅場兄弟と紺野姉妹のパーティーでしたが、いつかやりたいなと思っていた構想でもありました。
もうすぐ君共も1周年ですので何かやりたいなぁ…とか思ってみたり。


評価、感想などありましたらお待ちしております!


では、また次回!
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