ソードアート・オンライン-君と共に在るために-   作:ちぇりぶろ(休載中)

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という事で82話目に突入です!
最近暑くなりやる気が満ちてきませんが、なんとか更新を続けていきます。
みなさんも熱中症などには十分気をつけてください。


では、どうぞ!


【82】epキャリバー -スリュムヘイム-

 2028年12月28日10時30分 ALOヨツンヘイム スリュムヘイム前

 

 トンキーとデイジーにしばしの別れを告げ、タクヤ達はスリュムヘイムの入口にたどり着いた。

 湖の女王ウルズからリーファに託されたメダリオンにはまだ半分程輝き、これが現在の《丘の巨人族》の眷属の残数である。

 時間が経つにつれて輝きは弱まっていき、それがこのクエストの時間制限となっていた。

 

 リーファ「今のペースでいくと3時間ってところかな?」

 

 ユウキ「このダンジョンの構造は分かる?」

 

 ユイ「スリュムヘイムは全4層に分けられ、最下層はスリュムがいる区画になります」

 

 キリト「つまり、スリュムと対峙するまで残りの3層をなるべく早く踏破しないといけない訳か…」

 

 トンキー、デイジー達が殲滅される前にスリュムを倒し、要の台座からエクスキャリバーを引き抜く事がクエスト達成条件になっている。

 スリュムの実力が如何程か分からない現状では、ある意味で最高難度のクエストである事は間違いない。

 

 リズベット「それよりさ…いくらクエストって言っても本当にアルンを壊せるの?」

 

 シリカ「確かにそうですよね…。運営が告知もなしにこんな大規模なクエストを導入するとは思えません」

 

 リズベットとシリカの言う通り、いくらクエストの1部だとしても首都を破壊するような事を運営が実施する訳がない。

 央都アルンが破壊されれば、そこにいるプレイヤーやNPC達だけでなく、全ALOプレイヤーからの批判が相次ぐのは必至だ。

 そのようなデメリットを抱えてまで導入するクエストではない。

 

 タクヤ「…カーディナルか」

 

 ルクス「え?」

 

 ストレア「タクヤの思ってる通りだと思うよ」

 

 アスナ「どういう事?」

 

 ユイ「このALOは旧SAOのデータを移植、上書きしたものです。

 カーディナルもその例外ではありません。SAO同様クエストを自動で生成し、それらを街のNPCに持たせ、この世界を造っています」

 

 シノン「…ねぇ、もしかして…このクエストの終わりって…」

 

 ストレア「ALOは北欧神話をベースに作られてる。そして、スリュムヘイムが地上に浮き上がれば《霜の巨人族》がニブルヘイムからアルヴヘイムに侵略してきて、最終戦争(ラグナロク)が勃発しちゃうの」

 

 もしそのような事が本当に実現してしまえば、太陽は輝きを失い…大地は海に沈み…空を彩る星々は雲に覆われ…誰も生きられない暗黒の世界に姿を変えてしまうだろう。

 人も…妖精も…神も息絶え、本当の終わりを迎えてしまう。

 

 クライン「じ、じゃあ…ALOはどうなっちまうんだよ!?

 アルンや他の街にいるみんなは…!!?」

 

 ユイ「そこまではまだ分かりません。ただ…カーディナルはクエストを途中で下ろしたりはしません。

 発生してしまった以上、その終わりまで遂行します」

 

 ラン「そんな…!!」

 

 カヤト「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タクヤ「なら、クリアすればいいだろ?」

 

「「「!!?」」」

 

 1人手足を伸ばし柔軟を行っているタクヤに一同は唖然の表情を浮かべた。

 

 タクヤ「アルンは守る。スリュムは倒す。エクスキャリバーはゲットする。

 …簡単な事じゃねぇか」

 

 ユウキ「で、でも…もし失敗したら…」

 

 失敗すればトンキーとデイジーを失うだけでなく、ALO自体がなくなってしまうかもしれない。

 その命運を背負えるだけの覚悟をこの短時間で決めろと言うのは無理な話だ。

 

 タクヤ「いつもと変わらねぇよ。守りたいものの為に戦う。

 トンキーやデイジーはもちろん、アルンのみんなやアルヴヘイムを失いたくないから戦うんだ」

 

 キリト「そうだな…。それに今日は元々このダンジョンをクリアする為に集まったんだ。

 事情が変わってもオレ達のやる事は変わらないだろ?」

 

 ユウキ「タクヤ…キリト…」

 

 リーファ「そーだよ!!私達でトンキー達を助けようよ!!」

 

 アスナ「うん!!ダンジョンに入る前に支援魔法を掛け直(リバフ)するね」

 

 シウネー「私も手伝います」

 

 2人の水妖精族(ウンディーネ)による支援魔法がタクヤ達に付与され、HP、MP共に上限が上がり、状態異常に対する耐性を上げてくれた。

 

 タクヤ「じゃあ…行くかっ!!!」

 

「「「おう!!!!」」」

 

 万全の体制で一同はスリュムヘイムへと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年12月28日11時00分 ALOスリュムヘイム 第1層

 

 タクヤ達は苦戦していた。

 入ってしばらく進むと第2層に繋がる階段の前に2匹のミノタウロスが待ち構えていた。

 見る限り、フィールドボスレベルのミノタウロスだが、こちらは熟練のプレイヤーが14人もおり、ユイとストレアにナビゲートもある。

 これならいくらフィールドボス2匹と言えど、短時間で撃破する事は可能であった。

 しかし、現実はそう簡単には運ばない。

 

 ユウキ「全然効かないんだけどっ!?」

 

 ラン「刀が通りません!!」

 

 カヤト「物理耐性が高すぎる…!!」

 

 ミノタウロスは2匹で向かってきたのだが、片方がイエローゾーンに入るともう片方が前線に出てタクヤ達の行く手を阻んでいた。

 

 リーファ「あっちの金色には物理が通るのに…」

 

 アスナ「術師(メイジ)が私とシウネーさんしかいないから銀色のミノタウロスにダメージを与える暇がないわ…!!」

 

 シウネー「回復に専念して攻撃にMPが割けません!!」

 

 金色のミノタウロスには魔法耐性が、銀色のミノタウロスには物理耐性が極振りされており、術師(メイジ)が少ないタクヤ達には銀色のミノタウロスを突破する糸口が見つからずにいた。

 

 キリト「くっ…!!」

 

 リーファ「お兄ちゃん!!メダリオンの光が7割も消えちゃってるよ!!」

 

 ここで手こずっている間に《丘の巨人族》の眷属は殲滅され続けている。

 タイムリミットが迫っている中、銀色のミノタウロスは巨大な斧を振り回し、衝撃波を放った。

 

 タクヤ「クライン!!カヤト!!オレと3人で壁役(タンク)だ!!!」

 

 クライン&カヤト「「おうっ!!」」

 

 前線に出ていたキリトの前にタクヤ達が飛び出し、身を挺して全員を衝撃波から守る。

 HPがイエローゾーンで止まり、シウネーの回復魔法で全快させる。

 

 リズベット「このままじゃジリ貧よ!?」

 

 ストレア「こんな事なら魔法スキル上げとけばよかった〜!!」

 

 ユウキ「ないものねだっても仕方ないよ!!」

 

 ユイ「5秒後に範囲技来ます!!」

 

 タクヤ「全員退避!!」

 

 ユイとタクヤの指示で後衛まで退がり、銀色のミノタウロスの範囲技を回避する。

 キリトはその間に作戦を考え、全員に叫んだ。

 

 キリト「みんな!!ソードスキルで押し切るぞ!!!」

 

 クライン「その言葉を待ってたぜ!!」

 

 物理耐性が高いが、魔法効果が付与されたソードスキルなら銀色のミノタウロスにダメージが与えられると考えたキリトがソードスキル発動の許可を出した。

 先行するクライン、カヤト、リズベット、シリカが武器にライトエフェクトを纏わせ、銀色のミノタウロスに突撃をかける。

 

 

 刀ソードスキル"緋扇”

 

 

 

 両手長柄ソードスキル"トリプル・スラスト”

 

 

 

 片手棍ソードスキル"アサルト・タイプ”

 

 

 

 短剣ソードスキル"アクセル・レイド”

 

 

 炎、風、雷、水の属性が掛け合わされた各ソードスキルが銀色のミノタウロスに襲いかかった。

 痛みを露わにした奇声が響き渡り、HPが4割程一気に削られていく。

 

 クライン「く…!!」

 

 リズベット「間髪入れずに行きなさい!!」

 

 4人が硬直している間に、時間を与えないと言わんばかりにストレア、ラン、リーファ、ユウキが追撃をかけに走った。

 

 ストレア「おっけ〜!!」

 

 ラン「私も!!」

 

 リーファ「行くよ!!」

 

 ユウキ「やぁぁぁっ!!」

 

 

 両手剣ソードスキル"アバランシュ”

 

 

 

 刀ソードスキル"浮舟”

 

 

 

 片手用直剣ソードスキル"シャープネイル”

 

 

 

 片手用直剣ソードスキル"バーチカル・アーク”

 

 

 追撃は止む事を知らず、銀色のミノタウロスのHPがイエローゾーンにまで落ちた。

 第3陣であるタクヤとキリトに全てを託して道を開けた。

 

 タクヤ「これで!!」

 

 キリト「終わりだ!!」

 

 

 (ナックル)ソードスキル"スマッシュ・ナックル”

 

 

 

 片手用直剣ソードスキル"レイディエント・アーク”

 

 

 重い一撃が銀色のミノタウロスを貫き、間髪入れずにキリトの片手剣が顎を斬りあげた。

 だが、それでもまだ銀色のミノタウロスは倒れない。

 そこでキリトは右手の片手剣が輝きを失った瞬間、電気信号を左手に移動させた。

 左手に握られた片手剣が輝き、さらに重い突きを放つ。

 

 

 《剣技接続(スキルコネクト)

 片手用直剣ソードスキル"ヴォーパル・ストライク”

 

 

 火炎を散らせながら地を思い切り蹴り、弾丸のような貫通力で銀色のミノタウロスの胴に深々と剣を突き刺す。

 それが最後の攻撃となり、銀色のミノタウロスは奇声を上げながら爆散した。

 それと同時に後衛で回復に専念していた金色のミノタウロスが立ち上がり、一同に襲いかかるが、平然とした表情でミノタウロスに立ちはだかった。

 

 クライン「テメェは…そこで正座!!」

 

 硬直から解放されたクライン達が畳み掛けるようにソードスキルを発動し、金色のミノタウロスは呆気なくポリゴンと化した。

 

 アスナ「お疲れ様みんな!!」

 

 クライン「へっへー!!こんなもん俺らにしちゃあ楽勝だぜ!!

 …ってそれよりキリトよぉ!!さっきのなんなんだよ!?見た事ねぇぞあんなスキル!!」

 

 キリト「やっぱり言わなきゃダメか?」

 

 クライン「当ったり前ぇだ!!なんなんだよあれは!!?」

 

 しつこく聞いてくるクラインにキリトもタクヤの方に視線を移したが、タクヤも説明してやれと目で訴えかける。

 キリトは観念したようで一息入れてクラインを含めた全員に説明した。

 

 キリト「システム外スキルだよ…《剣技接続(スキルコネクト)》…」

 

「「「おぉ…!!」」」

 

 シノン「また大層なものを編み出したわね」

 

 キリト「まだ成功率が低いからみんなには黙ってたんだ。良くて4回が限度だし、体力も削るから乱発出来ない」

 

 クライン「でもよ、それがあれば硬直なしで連続攻撃出来るだろ?

 めちゃくちゃ強ぇじゃねぇか!!?」

 

 キリト「まぁ…重宝はするだろうな」

 

 しかし、この技が出来たのは一重にキリトだけの力ではない。

 キリトに仲間の存在を再認識させたタクヤの助力があってこそのものだ。

 すると、タクヤにテクテクと近づいたユウキが小声で話しかけた。

 

 ユウキ「もしかして…タクヤも出来るの?」

 

 タクヤ「ん?あぁ、あれはオレでも出来ねぇよ。

 あんな針の穴に糸を通すような集中力はないし、タイミングだって思ってる以上にシビアなんだぜ?」

 

 ユウキ「…とか言って、ボクの知らない所でやってそうだけど?」

 

 タクヤ「使えたらいいなぁ…って思って練習してみたけど、1回も出来なかった。いや、これはマジで」

 

 誰にも得手不得手があるもので、キリトに出来たからと言ってタクヤに同じ事が出来るとは限らない。

 あれはキリトが強くなる為に掴んだ唯一無二の技であり、キリトの誇りでもある。

 だからこそタクヤはそれに憧れ、尊敬の念を抱いていた。

 

 アスナ「なんか私…デジャブったよ…」

 

 キリト「気のせいだろ?」

 

 シウネー「でもこれで次の層に行けますね」

 

 リーファ「早く進もう!!」

 

 一同は螺旋階段を駆け下り、第2層へと急いだ。

 第2層は入り組んだ迷路になっており、ユイとストレアのナビゲートの元、罠を避けながら進んでいった。

 

 ストレア「"体重の重い女性2人でこの盤に乗れ”…だって。リーファ!!一緒にやるよ!!」

 

 リーファ「えぇっ!!?な、なんで私なんですか!!?」

 

 ストレア「そりゃあ、私とリーファしか持ってないものがあるからだよ〜!!ほら〜早く早く!!」

 

 リーファ「た、た、体重が重い訳じゃないから〜!!!!」

 

 様々な仕掛けを潜り抜け、第2層を無事に突破したタクヤ達は続いての第3層へと目指す。

 このスリュムヘイムはその構造から層を下る毎にフィールドの地形が狭まっている。

 1層、2層と約2時間で駆け下ったタクヤ達はこの層を30分で踏破し、スリュム戦に残り時間全てを使わなければならない。

 猶予が残されていないキリト達は迎え撃つムカデ型のフィールドボスを鬼気迫る攻防の末、見事勝利を掴んだ。

 

 キリト(「あと…40分か…。ギリギリだな…」)

 

 タクヤ「アスナとシウネーのMPもまだ7割近くあるし、ルクスも全快だ。これならなんとかスリュムは倒せそうだな」

 

 ルクス「問題はスリュムがどれだけの強さなのかって事だね」

 

 リズベット「やっぱり王様なんだから今まで以上に強敵でしょ」

 

 ラン「か、勝てますかね」

 

 アスナ「大丈夫だよ。このメンバーならやれるよ」

 

 ユウキ「そうだよ!姉ちゃんはもっと自信を持ちなって!」

 

 3層の螺旋階段の入口に向けて走っていると、その手前に小さな牢屋が作られており、中には容姿端麗な美女が鎖に繋がられていた。

 

 クライン「うおっ!!?び、美女…ぐはっ!!?」

 

 キリト「おい、寄り道してる余裕なんてないぞ?」

 

 シリカ「それにこんなあからさまなのって絶対罠ですよ」

 

 カヤト「僕もそう思います」

 

 クライン「そ、そうだな…。罠だな…罠…だよな?罠…かな?」

 

 すると、こちらの存在に気がついたのか牢屋に閉じ込められていたNPCがタクヤ達に懇願する。

 

『剣士様…どうか私をここから出してはもらえないでしょうか?』

 

 クライン「えっと…キリトぉ…タクヤぁ…!!」

 

 キリト「気持ちは分かるんだけど…」

 

 タクヤ「ここで助けても戻ってる時間なんてねぇしな…」

 

 女子一同「「「絶対罠!!」」」

 

 クライン以外の全員がこの美女を救い出す事を反対し、クラインもここで足止めを食っている時間はない事は重々承知で、仕方なく美女を置いて先へと歩み出す。

 

『誰か…ここから出して…』

 

 最後尾を歩いているクラインがNPCの囁きを耳にしてしまった。

 ピタっと足を止めたクラインは振り向きざまに抜剣した。

 

 タクヤ「クライン?」

 

 クライン「例え…罠だろうとも、助けを乞う奴を放っておけねぇ!!

 それが俺の…武士道だ!!!」

 

 地を蹴り、鉄格子に迷わぬ一閃を入れる。牢屋は粉々に砕け、ポリゴンへと姿を変えた。

 すると、中に囚われていたNPCに繋がれていた鎖を断ち、クラインが優しく手を引いて出てきた。

 

 クライン「お嬢さん、怪我はないかい?」

 

『えぇ、ありがとうございます。妖精の剣士様』

 

「「「…」」」

 

 キリト「まぁ、助けたものは仕方ないか…」

 

 タクヤ「止めろっていう方が無理な話だったな」

 

 結果的にはクラインの暴走でNPCを助けたのだが、誰もそれを本気で怒る者はいなかった。

 仮想世界の住人であろうとも、そこで確かに生きている命を蔑ろにしてはならない。

 あの世界で学んだ理念が彼らをそうさせていた。

 

 クライン「悪ぃが、ここからは1人で帰ってくれ。俺達は先を急ぐんでな」

 

『いいえ、私はこのスリュムヘイムに奪われた一族の宝を取り戻しにやって来たのです。

 お願いします妖精の剣士様。私も一緒に連れて行ってください!』

 

 クライン「連れてけって…タクヤぁ?」

 

 タクヤ「…そのNPC、他の奴らと違ってHPがあるな」

 

 キリト「という事は罠というよりサポートキャラに近いのかもな」

 

 クライン「じゃあ、連れて行ってもいいんだな?そうなんだな?」

 

 食い気味で迫るクラインに押され、タクヤとキリトも渋々了解した。

 すると、クラインはたちまち盛り上がりNPC《フレイヤ》の手を取り、宣言した。

 

 クライン「えぇ、もちろんですとも!!俺が全力で貴方様をお守り致します!!一緒にスリュムの野郎をぶっ倒しましょう!!」

 

 フレイヤ『ありがとうございます!!剣士様!!』

 

 感極まってクラインの腕に抱きつくフレイヤ。

 鼻の下が伸びきったクラインを傍から冷たい視線で睨む女性陣を率いてタクヤとキリトは最下層に繋がる螺旋階段を駆け下った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年12月28日12時15分 ALOスリュムヘイム 最下層

 

 最下層の扉の前で止まり、アスナとシウネー…そして、フレイヤによる支援魔法が全員に施されてた。

 

 タクヤ(「HPの上限がカンストしてやがる…。MP量からして術師(メイジ)型なんだろうけど…」)

 

 リーファ「フレイヤってどっかで聞いた事あるような…」

 

 シノン「私も…。でも、全然思い出せないのよね」

 

 準備が出来た所で扉から顔を覗かせたタクヤはスリュムの姿がない事を確認して慎重に中へと入っていった。

 区画の端には金銀財宝が山のように積まれ、全て売却するとなると総額何ユルドになるか想像もつかない。

 

 リズベット「これだけあれば、リズベット武具店のフランチャイズも夢じゃないわね!!」

 

 キリト「ストレージの中、空っぽにしてくるんだったな」

 

 タクヤ「おいおい…今はスリュムに集中するべきだろうが…」

 

 ユウキ「でも、これだけあったら何でも買えちゃうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『羽虫がブンブンと飛んでおる…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!!?」」」

 

 体の芯を揺さぶるような冷たい声がタクヤ達を警戒態勢に入らせた。

 足音が地響きと共に近づいてくる。

 

 クライン「マジかよ…」

 

 カヤト「いくらなんでも…」

 

 ルクス「大きすぎやしないかい…?」

 

 首をほぼ真上に向けなければ全身が見えない程の巨漢は、顎に生えた髭を撫でながら不敵な笑みでこちらを見下している。

 

 ユウキ「でかい…」

 

 ラン「本当に…勝てるんですか?」

 

 アスナ「た、多分…」

 

 そのあまりにもありえない巨大さに全員が息を呑んだ。

 トンキーとデイジーの背中から見下ろした《霜の巨人族》でさえ、これ程の大きさを誇った者はいなかった。

 だが、流石はニブルヘイムの王。

 配下な巨人を束ねるだけの威圧と殺気を身にまとっている。

 

 シリカ「こわい…」

 

 リーファ「どうやって…」

 

 ストレア「うわ〜…」

 

 笑い声が止まり、スリュムが顔を覗かせた。

 

 スリュム『ひ弱な羽虫風情が…。我が居城に何用かな?』

 

 殺気を放ったスリュムの言霊はタクヤ達の戦意を狩り尽くそうと襲い掛かる。

 

 スリュム『む?そこにいるのは我が愛しきフレイヤではないか。

 暴れるので牢に縛っていたが、とうとう我が妻になる決心がついたのかね?』

 

 リズベット「つ、妻ぁっ!!?」

 

 フレイヤ『戯れ言をっ!!我が一族の宝を盗み出したお前の妻になど誰がなるものか!!

 かくなる上は妖精の剣士様達と共に貴様を滅ぼすのみ!!!』

 

 スリュム『フォッフォッフォ…。些か好奇心旺盛のようだ。

 だが、羽虫に何が出来る?我には傷一つつける事など出来まいて。

 羽虫を退治した後でじっくり…じっくり愛でてあげようぞ。

 体の隅まで我を欲するようになるまでなぁ』

 

 クライン「テメェ!!この俺が命に変えてもフレイヤさんに指一本触れさせはしねぇ!!!」

 

 クラインが抜剣したのを見てスリュムもそれを戦いの合図と取ったのか、思い腰を上げ高らかに笑ってみせた。

 

 スリュム『おもしろい…。ならば、来るがよい羽虫どもよ。

 我はスリュム!!このスリュムヘイムの主にしてニブルヘイムの支配者である!!!!』

 

 最下層にブザーが鳴り、スリュムのHPバーが表れた。

 数にして3本。絶対量で言えば新生アインクラッドのフロアボス2体分に換算される。

 

 キリト「全員!!まずはひたすらに回避してパターンを見極めるんだ!!

 タクヤ!!そっちのパーティーはまかせたぞ!!!」

 

 タクヤ「分かってる!!シウネー!!いつでも回復出来るように後衛で待機!!

 みんな、ストレアの指示に従って致命打だけは絶対に貰うんじゃねぇぞ!!!」

 

「「「了解っ!!!」」」

 

 ユイ「踏みつけ(スタンプ)攻撃、3秒後に来ます!!」

 

 ストレア「こっちには左腕の薙ぎ払い攻撃来るよ!!」

 

 ユイとストレアにより、スリュムの攻撃を未然に躱してみせるが、その衝撃でまともな動きが出来ない。

 態勢を崩している間にもスリュムの攻撃は止まらない。

 

 タクヤ「カヤト!!」

 

 カヤト「壁役(タンク)だろっ!!」

 

 タクヤのパーティーで壁役(タンク)のカヤトがタクヤと2人で躱しきれないスリュムの猛攻を止めに入った。

 

 タクヤ「ぐ…そ…!!」

 

 カヤト「なんて力だ…!!」

 

 シウネー「2人に今、支援魔法をかけます!!」

 

 シウネーの咄嗟の判断で押し戻される2人に支援(バフ)を重ねがけ、なんとか致命傷にならないように処置を施す。

 その隙にキリトのパーティーがアスナを置いて一斉に攻撃を仕掛けた。

 

 リズベット「…ってやっぱり、脚しかないわよね?」

 

 キリト「見れば分かるだろ!!」

 

 

 片手棍ソードスキル"スマッシュ・ボンバー”

 

 

 

 片手用直剣ソードスキル"バーチカル・スクエア”

 

 

 2人のソードスキルがスリュムの脚に直撃するが、如何せんHPが膨大な為、かすり傷1つ負わせられない。

 

 タクヤ「ストレア!!ルクス!!ユウキ!!」

 

 ストレア「分かった!!」

 

 ルクス「まかせてくれ!!」

 

 ユウキ「いくよっ!!」

 

 背後に回り込んだ3人が死角から連続攻撃を浴びせに走った。

 

 

 両手剣ソードスキル"サイクロン”

 

 

 

 片手用直剣ソードスキル"シャープネイル”

 

 

 

 片手用直剣ソードスキル"スラント”

 

 

 スリュムの行動パターンが分からない以上、硬直時間が長い上位ソードスキルは使えない。

 下位に当たるソードスキルがスリュムを捉えた。

 爆音と共にダメージが入るが、それでもHPは1割も削られてはおらず、逆にスリュムの怒りを買う事になってしまった。

 

 スリュム『ブンブンと…小賢しい羽虫がァっ!!!!』

 

 ユイ「5秒後に範囲技来ます!!みなさん離れてください!!」

 

 タクヤ「シウネー!!硬直してる5人に最大級防御魔法を!!」

 

 シウネー「はい!!」

 

 硬直している5人にアスナとシウネーによる防御魔法が展開された。

 これでダメージは食らうが、致命傷になる事はない…と、タクヤは従来の戦い方で目測してしまった。

 しかし、スリュムはフィールドに存在する一定のアルゴリズムを持ったモンスターではなく、言語モジュールという高度なAIを搭載した最上位の《邪神級》フィールドボスである。

 頬を大きく膨らませ、勢いよく体内に貯めた空気を吐き出した。

 それは冷気を纏い、硬直して動けないキリト達を難なく凍てつかせ、身動きが取れないように氷に閉ざした。

 更なる衝撃波を放ち、一気に壁際まで吹き飛ばされる。

 

 キリト「がっ…」

 

 体内の酸素が全て外に逃げ、上手く呼吸が出来ない。

 HPは一気に6割方削られてしまっている。

 

 ユウキ「嘘…」

 

 ストレア「反則だよ〜…」

 

 リズベット「効いたぁ…」

 

 ルクス「体が…重い…!!」

 

 防御力の薄いルクスは既にレッドゾーンにまで押し返されている。

 それを予期していたのかアスナが詠唱を終え、全員に最上位回復魔法を唱えた。

 

「「「!!」」」

 

 アスナ「みんな大丈夫!!?」

 

 ユウキ「な、なんとかね…」

 

 タクヤ「…ラン、カヤトの所に行ってスイッチしながら戦え」

 

 ラン「わ、分かりました!!」

 

 タクヤ「ユウキ、ストレア、ルクス…お前達は距離を取って状況を見て攻撃に移れ。

 キリト、シノン借りるぞ?」

 

 キリト「何か…策があるのか?」

 

 タクヤ「策っていうか…久しぶりにシノンと攻めてみる」

 

 アスナとシウネーの後ろで狙撃に徹していたシノンに合図を送り、タクヤはスリュムに突撃した。

 

 タクヤ(「上手くやれよ…シノン!!」)

 

 シノン(「アンタに言われるまでもないわ…!!」)

 

 スリュム『羽虫は所詮羽虫よ!!叩き潰してくれるわ!!』

 

 タクヤの接近に気づいたスリュムが剛腕を振り下ろす。

 

 タクヤ「…今っ!!」

 

 瞬間、遥か後方から氷の礫を纏った矢が一直線にスリュムの右を射抜いた。

 

 

 弓ソードスキル"スパークル・ショット”

 

 

 剛腕はタクヤを見失い、そのまま地面を深く抉った。

 

 スリュム『ぐおぉぉっ!!?』

 

 どんな巨大なモンスターでも瞳が急所であるのは変わらない。

 シノンの狙撃能力を持ってすれば、瞳を射抜くのはそう難しい事ではない。

 それを狙っていたタクヤの読みは当たり、地面に深々と突き刺さった

 腕を駆け上り、スリュムの眼前へと近づいていく。

 

 タクヤ(「これなら…どうだ!!!」)

 

 

 (ナックル)ソードスキル"サージ・テラフィスト”

 

 闘気を込めた気弾がスリュムの顔面に放たれた。

 爆音が轟く中、タクヤは硬直に入る前にスリュムの体から飛び降りた。

 この一撃でダメージがないのなら討伐は絶望的、起死回生となる一撃であるならば、全員の士気向上に繋がる。

 

 スリュム『…ふ…』

 

 タクヤ「!!…ダメだったか…」

 

 地上へ落ちている間に硬直が始まり、迎撃態勢に入ったスリュムの攻撃を防ぐ手がない。

 しかし、それは()()()()()()()()()()だ。

 ガラ空きとなっていたスリュムの右拳がタクヤを捉えた瞬間、遠方より火炎を纏った矢が次々と放たれた。

 

 

 弓ソードスキル"ワイド・ショット”

 

 

 シノンのソードスキルによって右拳は軌道を逸らされ、タクヤに命中する事はなかった。

 しかし、それよりも深刻なのはスリュムの圧倒的な強さと頑丈さだ。

 下位とは言え、ソードスキルを連発していると言うのにこの10分間の攻防で2割程度しか削られていない。

 残り時間を考えてもスリュムを倒すのはほぼ不可能に近かった。

 

 キリト「くそ…」

 

 タクヤ「この硬さじゃ全員で最上位ソードスキルを浴びせても倒すのは時間がかかるぞ…」

 

 ユウキ「倒し切る前にアスナとシウネーのMPが尽きてボク達がやられちゃうよ」

 

 リーファ「…お兄ちゃん、メダリオンの光も後少しで消えちゃいそうだよ」

 

 メダリオンの輝きを確認しながら残り時間は30分もないだろう。

 何かこの状況を好転させる打開策を思いつかなければ、トンキーとデイジーが殺される他、央都アルンが氷に閉ざし、アルヴヘイムが崩壊してしまう。

 

 タクヤ(「何か…何かないのか…!?」)

 

 拳が微かに震える。

 焦りが注意力を欠き、スリュムの猛攻を防ぐだけで精一杯になる。

 

 スリュム『フォッフォッフォ!!羽虫がいくら足掻いた所で我に勝てる訳ないのだ!!』

 

 クライン「くそぉ…!!」

 

 フレイヤ『…剣士様』

 

 対策を考えていた時、アスナとシウネーと共に後方支援に徹していたフレイヤがタクヤの前まで赴いた。

 

 タクヤ「アンタは絶対に守るから、シウネー達と一緒に後衛に…─」

 

 フレイヤ『いいえ、今のままではスリュムを倒すのは不可能です。

 しかし、我が一族の宝があればそれも可能になります』

 

 キリト「と言うと?」

 

 フレイヤ『この部屋のどこかに我が一族の宝が隠されています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖精の剣士様、どうかその宝を探し出しては貰えないでしょうか?』




いかがだったでしょうか?
スリュムに挑むタクヤ達にフレイヤからある提案が持ち掛けられ…。
次回でキャリバー編は終わり、物語上では年末年始の時期に入ります。
みんなの日常はどんな風に過ごすのか…そんな事を考えながら書いています。
これからもよろしくお願いしますね!


評価、感想などありましたらおまちしております。


では、また次回!

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