ソードアート・オンライン-君と共に在るために-   作:ちぇりぶろ(休載中)

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お待たせ致しました!
2ヶ月半にも及ぶ休載から戻って参りました!!
休載期間中、リアルでの活動をしながら構造を考え、再開出来るように準備してきたつもりです。
この小説にとって一番いい形とは何か、読者にとって最良の形とは何か。
それを考え、出した答えが不定期連載です。
週一を守ってきましたが、未だにリアルは忙しく、期間を置かなければ執筆できない状態が続いてしまいました。
ならば、いっそ不定期連載にして書いていければこちらとしても読者側からとしても最良なのではないかと結論づけました。
安定して読む事が出来ず、反対する人も中にはいると思います。
ですが、この小説を長く続けていくにはやはりこの形が妥当なのではないかと私は考えています。
急な変更で大変申し訳ありませんが、何卒ご理解頂けるようお願い致します。


そして、今回でキャリバー編は完結致します。
連載再開という事で普段より長めですのでどうかよろしくお願いします!


では、どうぞ!


【83】epキャリバー -エクスキャリバー-

 2025年12月28日12時20分 ALOスリュムヘイム 最下層

 

 部屋は冷気で満たされ、吐く息は白く濁った色を見せている。

 タクヤとキリト、リーファが前線を離れて僅かに5分が経過しているが、彼女達にはそれが途方もなく長く感じていた。

 

 ユウキ「ハァ…ハァ…」

 

 いくら隙を突いて攻撃を仕掛けても与えられるダメージはほんの数ドットだけ。

 スリュムの巨大さがユウキ達に絶え間ないプレッシャーを浴びせ続けていた。

 集中力は落ち、ストレスだけが溜まっていくユウキ達はそれでも、限りなく0に近い希望を待っていた。

 

 ユウキ(「まだなの?…タクヤ!!」)

 

 

 

 

 

 戦場から離脱したタクヤとキリト、リーファはNPC《フレイヤ》の懇願によりこの部屋のどこかに隠された金槌を探していた。

 

 キリト「金槌って言ってもなぁ…。この財宝の中から探すのは骨が折れるぞ…」

 

 タクヤ「それに時間も全然ねぇのにどうすりゃあ…」

 

 フレイヤ曰く、その金槌さえあればスリュムを倒す事が出来るらしいが、如何せん可能性の低い要求であるのは確かだ。

 第一、術師(メイジ)であるフレイヤが装備する武器と言えば(ロット)であるハズなのだがそこも気になる。

 

 リーファ「…そうだ!!フレイヤさん、その金槌って純金ですか?」

 

 フレイヤ『はい。全てを黄金で精製した我が一族の宝です』

 

 リーファ「お兄ちゃん!!雷属性のソードスキルを使って!!

 純金なら雷に反応するハズだから!!」

 

 キリト「なるほど…分かった!!」

 

 リーファに言われた通り、肩から剣を抜刀し刀身にライトエフェクトを帯びたたせ、柄を逆さに持ち替えながら地面に深々と突き刺した。

 

 

 片手用直剣ソードスキル"ライトニング・フォール”

 

 

 突き刺した地面から稲光が走り、財宝に伝っていく。

 すると、財宝の1箇所から雷が帯電した場所があるのを確認し、そこに向かうと財宝の下敷きになっていた黄金の金槌を発見した。

 

 タクヤ「時間がねぇ!!キリト、それを早くフレイヤに!!」

 

 金槌を持ち上げようとすると、STRを極振りしているキリトでさえ、中々持ち上がらなかったが、何とか踏ん張りそのままの勢いでフレイヤに金槌を投げた。

 

 キリト「フレイヤさん!!」

 

 投げた後になってあんな重たい金槌をフレイヤが持てる訳がないと気づき、避ける様に支持したがフレイヤはその場を微動だにする事なく、投げ放たれた金槌を静かに待った。

 

 タクヤ「危ねぇ!!」

 

 リーファ「避けて!!」

 

 しかし、その心配も杞憂に終わった。

 フレイヤは驚く事に黄金の金槌を片手で受け取り、軽やかな身のこなしで自在に金槌を操って見せたのだ。

 その光景に3人が驚いていると、地に膝をつき祈りを込めるように金槌の柄に額をつける。

 

 フレイヤ『みな…ぎる…みなぎる…ぞ…』

 

 タクヤ「っ!!?」

 

 体に雷電が迸り、フレイヤの人相もみるみる変貌していく。

 大気がフレイヤの放つ魔力で震え、肌で感じているタクヤ達の背筋を凍らした。

 

 

 

 

 フレイヤ「うおぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

 

 

 雷電が閃光弾のように弾け、視界がその光で遮られた。

 あのスリュムですら怯み、同時に雷電の中にいるフレイヤを警戒していた。

 光が消え、固く閉ざした瞼をそっと開く。

 

 タクヤ「…は?」

 

 ユウキ「うっそぉ…」

 

 クライン「お…お…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男…?」

 

 誰もがその光景に目を疑った。

 可憐な乙女は姿を消し、突如として現れたスリュムと同格の巨躯を有した大男。

 筋骨隆々のその腕にはキリトがフレイヤに投げ渡した黄金の金槌が握られている。

 つまり、今目の前にいるこの大男があのフレイヤと同一人物だと証明していた。

 

 クライン「あ…あ…あ…」

 

 ユウキ「だ、大丈夫?」

 

 リズベット「あまりのショックに声が出てないわね。でも、クラインじゃなくてもこれは絶句もんよ」

 

 瞬間、今までにない程の殺気が衝撃波となってタクヤ達に襲いかかった。

 すぐに防御態勢に入ったが、スリュムは身体を震わせながら鬼の形相で大男を睨みつけるだけで動く気配を見せない。

 

 スリュム『貴様…!!このワシを誑かしおったなぁっ!!アースガルズの手先めがぁっ!!!』

 

『言ったハズだ。受けた恥辱を晴らす為にこの地に赴いたのだ!!』

 

 咆哮を上げた直後、パーティーメンバーの最後尾に位置づけていたフレイヤのステータスがノイズが発生したかのように歪み始めた。

 フレイヤという名前はある北欧神話の神へと姿を変えていく。

 

 リーファ「思い出した!!お兄ちゃん、タクヤさん!!あのフレイヤさんは北欧神話に出てくる戦神の1人だよ!!

 黄金の金槌を武器にしてるって事は…」

 

 重い腰を上げ、巨躯に雷わ這わせながらスリュムの殺気を相殺するかのように同等の殺気を放つ。

 

 タクヤ「雷神…トール…か!?」

 

 トール『礼を言うぞ妖精の剣士よ。我が宝"雷槌ミョルニル”を奪還し、本来の力を取り戻す事が出来た。霜の王の相手は私がしよう』

 

 キリト「確かに、トールがいれば鬼に金棒だけど…」

 

 スリュムと同等の力を有しているトールが味方になってくれるのはタクヤ達にとっても願ったり叶ったりだが、リーファのメダリオンには既に1つの光が儚く輝いているだけだ。

 いよいよ、時間制限(タイムリミット)がすぐそこまで迫っていた。

 

 タクヤ「嬉しい申し出だけど、オレ達にはもう時間がねぇんだ。

 いくらトールって言ってもスリュムを倒すのに時間がかかる。

 オレ達もアンタの邪魔にならないように援護するぜ!!」

 

 トール『…なんと勇敢な妖精だろうか。ならば、汝に一時の間ではあるが、我が雷の力の片鱗を授けよう』

 

 そう言ってトールは左手をタクヤの頭上にかざした。

 

 タクヤ「っ!!?」

 

 スリュム「小癪なぁ…!!その髭面を落としてアースガルズに叩き戻してやるっ!!」

 

 タクヤの体が黄金の輝きに包まれ、それは雷へと変化して体を這っていた。

 ステータスを確認した所、全ての数値が上限まで底上げされ支援(バフ)も新たに付与された。

 

 アスナ「すごい…!!」

 

 シウネー「最上位支援魔法の効力を遥かに上回った数値です!!」

 

 タクヤ「これならスリュムに対抗出来る…!!」

 

 

 

 スリュム『図に乗るなぁぁぁぁっ!!!!』

 

 

 

 腰から片手斧を抜き、一点突破を狙った攻撃がタクヤに襲いかかる。

 しかし、その攻撃をトールがミョルニルで防ぎ、その隙をついてタクヤはトールの巨躯を伝ってスリュムの顔前に飛び込んだ。

 

 スリュム『むぅっ!!?』

 

 タクヤ「さっきの…お返しだっ!!」

 

 拳に雷が纏わり、轟音と共にスリュムの顔が大きく仰け反る。

 あれだけ苦戦していたスリュムにタクヤの一撃はそれを帳消しにする程の威力を誇っていた。

 

 クライン「すげぇっ!!」

 

 シリカ「これがトールの力…!!」

 

 タクヤ「これならいけるっ!!全員でトールの援護だ!!!」

 

「「「おぉっ!!!!」」」

 

 スリュム『許さん…許さんぞぉぉぉっ!!!!』

 

 激昴を上げたスリュムが怒りの一撃を地面に叩きつけ、衝撃がタクヤ達に襲いかかってきた。

 

 キリト「アスナ!!シウネー!!」

 

 キリトの号令と同時に水妖精族(ウンディーネ)2人による最上位防御魔法が展開され、スリュムの一撃を凌いでみせた。

 隙を見せたスリュムにトールの雷が落ちる。

 爆音が周囲に轟きながらスリュムのHPがみるみる削られていった。

 

 カヤト「兄さん!!」

 

 タクヤ「ここが勝負どころだ!!全員、ソードスキルで押しきれぇっ!!!」

 

 スリュムのHPがついに1本になった時、トールの支援を受けながらタクヤ達は一斉に牙をむいた。

 ソードスキルのライトエフェクトが鮮やかな色彩を散らせながら宙に舞う。

 硬直(ディレイ)している間に手の空いた者がそれをカバーし、連鎖攻撃を生み出していた。

 スリュムのHPが1本になった事でトールやタクヤ以外の攻撃も通るようになっていき、僅かではあるが勝利が見え始めていた。

 

 ラン「ダメージが通るようにはなったけど、トールとタクヤさんには及ばないわね」

 

 ユウキ「でも、この勢いを止められないよ姉ちゃん!!」

 

 カヤト「せめてあと1つ決定打が撃てれば…」

 

 タクヤ「オレにいい考えがあるぜ?成功するかは賭けだけどな」

 

 3人に近寄り、簡単な作戦だけを伝えてその場を散開する。

 カヤトはシノンのいる後方まで下がり両手長柄にライトエフェクトを発生させ、合図を待った。

 

 シノン「何する気なの?」

 

 カヤト「うちの兄貴は考える事が単純なんで…。でも、成功すれば驚くと思いますよ」

 

 タクヤ「よし!!いつでもいいぞカヤト!!」

 

 タクヤからの合図が出た。

 カヤトは後方からスリュムまで100mはあるであろう距離を全速力で疾走した。

 ライトエフェクトの輝きは強さを増し、最高点に到達した瞬間、全ての力を持つ振り絞って両手長柄を放った。

 

 

 両手長柄ソードスキル"ブラスト・スピア”

 

 

 風きり音がこだまする中一直線にスリュムに突き放たれる。

 

 スリュム『そんなものが通用すると思ったか羽虫がぁぁっ!!』

 

 トールのミョルニルを捌き、巨大な掌でカヤトの両手長柄を叩き倒そうと動いた。いくらダメージが通るようになったと言ってもトールの力を纏っていないカヤトの攻撃は確実に防がれると誰しもがそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タクヤ「そいつはどうかな?」

 

 

 瞬間、両手長柄のすぐ側にタクヤの姿があった。

 スリュムは一瞬たじろき、その隙が仇となる事になる。

 両手長柄の石附にタクヤの拳が深くめり込んだ。

 両手長柄に2種類のライトエフェクトが混ざり合い、雷を帯びた巨大な槍へと姿を変えた。

 

 

 

 

 

 《剣技連鎖(スキルチェイン)

 (ナックル)ソードスキル"デッドリー・ブロウ”

 

 

 

 

 

 雷の槍はスリュムの掌で雷鳴を轟かせながら激しくぶつかり合った。

 

 スリュム『ぬぅぅぅぅっ!!?』

 

 足を踏ん張り、全身の力を掌に集中させる。

 だが、雷が最高潮に達した瞬間にタクヤとカヤトの剣技連鎖(スキルチェイン)がスリュムの全力を上回った。

 態勢を崩したスリュムはそのまま地面へと倒れた。

 

 シノン「…!!」

 

 アスナ「いつの間にあんな技…」

 

 ユウキ「すごいよタクヤ!!カヤト!!」

 

 カヤト「僕は何もしてないですよ」

 

 タクヤ「上手くいったな。よし…次はユウキ、いくぞ!!」

 

 ユウキ「うん!!…でも、上手くいくかな?」

 

 先程、タクヤが発案した作戦は2つある。

 1つ目はカヤトとタクヤによる剣技連鎖(スキルチェイン)

 そして、2つ目は日頃から実戦で導入するべく特訓を重ねてきたユウキとタクヤのコンビネーション技だ。

 しかし、この技は特訓中まだ1度も成功してはおらず、失敗すれば互いにダメージを受けてしまう欠点がある。

 タクヤがユウキに提案した時、ユウキはそれをこの局面で採用する事に反対した。

 時間がなく、良い流れを断ち切ってしまうから。失敗してクエストが流れればデイジーとトンキーの命も消滅してしまうから。

 責任がこの作戦に全てかかっていると考えたら途端に力が入らなくなってしまう。

 デイジーとトンキーも大事な仲間だ。失いたくない大切な友達だ。

 だから、リスクを考慮して慎重に戦ってきた。

 

 ユウキ「…やっぱり、別の作戦を考えた方がいいんじゃ…」

 

 タクヤ「確かに…まだ1度も成功してないし、今回成功するとも限らねぇ。

 リスクも大きいし、デイジーとトンキーの命だってかかってる」

 

 ユウキ「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タクヤ「でも、それは今に始まった事じゃないだろ?」

 

 ユウキ「!!」

 

 タクヤ「オレ達がここにいるのはいろんな壁を何度も乗り越えてきたからだ。

 昔も今も変わらねぇよ。

 オレ達はいつも通り壁を乗り越えていけばいいんだ。

 心配するな。オレはユウキとならどんな壁だって乗り越えられると信じてる」

 

 ユウキ「タクヤ…」

 

 壁が何枚も立ちはだかった。

 その度に2人で乗り越えてきた。

 中には失敗したり、挫けたりした事もあった。

 その度に歯を食いしばって、竦む脚を鼓舞して立ち上がった。

 きっと1人では無理だった。

 けれど、1人じゃないなら…仲間がいるのなら無限大の可能性が生まれる。

 それを今日まで体現してきたのはまぎれもなくタクヤ達だ。

 それがどれだけの力が宿っているのかは身をもって知っている。

 

 タクヤ「オレ達の力をスリュムに見せてやろうぜ!」

 

 ユウキ「…まったく、タクヤは無茶が好きだよね」

 

 タクヤ「やらないで後悔するよりやって後悔したいからな」

 

 ユウキ「ボクと一緒だから後悔なんてさせないよ!」

 

 アスナ「覚悟は決まったみたいね」

 

 キリト「よし!全員でタクヤとユウキの援護だ!!」

 

「「「おぉっ!!!!」」」

 

 スリュム『羽虫風情がぁ…調子づきよって…!!

 今に目にものを言わせてやろうぞぉぉぉっ!!!!』

 

 怒号を上げ、スリュムが怒りの形相で起き上がった。

 トールがスリュムの動きを制しているが、徐々に押されてきている。

 

 トール『妖精達よ!!畳み掛けよ!!』

 

 最終局面に突入した実感が全員の肌をピリつかせる。

 握る力は強くなり、目の前の敵を駆逐せんが為鋭い眼光を放った。

 

 キリト「行くぞアスナ!!」

 

 アスナ「うん!!」

 

 後方からアスナが超スピードで疾走するキリトに並んだ。

 スリュムの足踏み(スタンプ)攻撃を躱し、死角に潜り込んだ2人が一気に攻撃に転じた。

 

 

 細剣OSS"スターリィー・ティアー”

 

 

 鋭い閃光が星を描くように美しい6連撃がスリュムを貫いた。

 それに追撃する為、キリトが高く飛翔し2振りの片手剣が鮮やかに輝き始める。

 

 

 片手用直剣ソードスキル"バーチカル・スクエア”

 

 

 《剣技接続(スキルコネクト)

 片手用直剣ソードスキル"ノヴァ・アセンション”

 

 

 剣閃が弾け飛ぶ光景は誰をも魅了し、圧倒的な力を見せつけた。

 だが、これだけではスリュムを完全に倒す事は叶わない。

 2人に鼓舞された全員が各々の最上位ソードスキルを放った。

 スリュムのHPがみるみる減少していき、とうとうレッドゾーンまで追い込んだ。

 

 リズベット「あと少しよ!!」

 

 シノン「御膳立てはしてあげたわよ」

 

 シリカ「最後お願いします!!」

 

 タクヤ&ユウキ「「まかせろ/て!!!!」」

 

 タクヤが先行し、ユウキがその後をつく。

 スリュムまでの道が開けた今、タクヤとユウキは速度を緩めたりはしない。

 

 タクヤ「信じろ!!自分の力を!!」

 

 ユウキ「うん!!」

 

 タクヤ「オレとユウキならどんな敵でも倒せる!!!!」

 

 ユウキ「うん!!!!」

 

 風を切る音が次第に静まっていき、心臓の鼓動だけが耳に響いてくる。

 それだけの集中力が今の2人には宿っていた。

 今なら…今のこの感覚なら…何だって出来る。

 妙に溢れ出る自信をさらけ出し、2人は思わず笑みを浮かべた。

 

 スリュム『うがぁぁぁぁっ!!!!』

 

 キリト「アイツ…!!まだ動けるのか!!?」

 

 クライン「トールも限界だぞっ!!?」

 

 ついに、トールを退け標的をタクヤとユウキに絞った。

 これまでにない程のスリュムが拳が一直線にタクヤを捉え、まるで隕石が襲いかかってくるような恐怖を撒き散らす。

 

 タクヤ「スイッチ!!」

 

 

 (ナックル)ソードスキル"ビート・アッパー”

 

 

 スリュムの拳を真正面から受け止め、雷を帯びた拳がスリュムの拳を跳ね返した。

 

 スリュム『ぬうぅっ!!?』

 

 ユウキ「取った!!!」

 

 タイミングを計っていたユウキがスリュムに迫り、片手剣に紫色のライトエフェクトを帯びさせた。

 

 タクヤ(「まだだ…まだだ…まだ…」)

 

 ユウキ「はぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 片手用直剣OSS"マザーズ・ロザリオ”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タクヤ「今だっ!!!」

 

 硬直(ディレイ)が解けたのと同時に雷の力を最大限引き出し、ユウキの隣まで高く飛翔した。

 

 キリト「あれは…!!」

 

 スイッチは通常、片方が敵の攻撃を防いで動きを封じ、もう片方がその隙をついて攻撃するという2人1組(ツーマンセル)で行うコンビネーション技だ。

 だが、タクヤはふと思ったのだ。

 そのスイッチをもし2()()()()()()()()()()()()()()と。

 ダメージは単純に倍になり、属性や相性によっては強力なものになるんじゃないかと。

 それが出来ればこの先の攻略にも必ず重宝するハズだ。

 それからはユウキと一緒にこの連携技の特訓に取り掛かった。

 しかし、そこには大きな障害があった。通常(デフォルト)攻撃、もしくはソードスキルで攻めている相方と瞬時に攻守を交代するスイッチに対して、この連携技は攻守を交代するのと同時に退いた相方が攻めに出た相方に並び、同時攻撃を繰り出す。

 それには高度な瞬発力、反射神経、空間把握能力が必要とされた。

 特訓中でも上手く噛み合わず、モンスター相手に撤退するなどしばしば。

 

 

 

 ユウキ「うーん…上手くいかないよ…」

 

 タクヤ「スピードはついていけるけど、問題はタイミングと位置取りだな」

 

 ユウキ「そもそも狭い空間に入り込むだけでも難しいのに加えて攻撃もするって無理があるんじゃない?」

 

 タクヤ「…やっぱり無謀だったか?いや、諦めねぇ!!もう1回やるぞユウキ!!」

 

 ユウキ「もうっ!!タクヤはボク以上に頑固だなぁ」

 

 タクヤ「だって悔しいだろ?全く出来ない訳じゃないものを諦めるなんて。

 それに…」

 

 ユウキ「それに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タクヤ「ユウキより相性がいい奴なんてオレにはいねぇからさ」

 

 ユウキ「っ!!…すぐそうやって恥ずかしい事言うんだから」

 

 タクヤ「本当の事なんだから仕方ねぇだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《二重連携(デュアルスイッチ)

 "マザーズ・ロザリオ”×"ワン・フォー・オール”

 

 

 

 

 無数の拳を背負ったユウキの最強の剣技がスリュムに繰り出された。

 その光景に全員が息を呑んだ。机上の空論が形を与えられ、絶大な強さを見せつけた。

 誰もが出来る事でないことは上級者になるにつれてその凄さが嫌でも分かってしまう。

 

 タクヤ(「このまま行くぞユウキ…」)

 

 ユウキ(「うん…。タクヤと一緒なら何だってやれるから…!!」)

 

 スリュム『うごぉぉぉぉぉっ!!!!』

 

 流星群のように無数の拳が降り注ぎ、その中で一際輝く流星がスリュムの巨躯を貫いた。

 

 スリュム『ぐ…ぐ…ぐふふ。妖精共よ…アースガルズを信用…するでないぞ…。

 彼奴等こそが真の…─』

 

 瞬間、ミョルニルが虫の息だったスリュムに完全な止めを刺した。

 スリュムは呻き声を上げる事なく、ポリゴンとなって爆散した。

 

 トール『地の底に還るがよい。霜の王よ…』

 

 タクヤ「…」

 

 トール『妖精の剣士達よ。礼を言うぞ。おかげで恥辱を晴らし、我が一族の宝を取り戻す事が出来た。

 貴殿らには褒美を与えなければな』

 

 クラインの頭上に手をかざし、光と共に黄金の金槌がゆっくりと降りてきた。

 

 トール『"雷槌ミョルニル”…正しき戦の為に使うが良い。では、さらばだ妖精の剣士達よ』

 

 そう言い残してトールは光と共にその場を去った。

 

 キリト「よかったな。伝説級武器(レジェンダリーウェポン)ゲットおめでとう」

 

 クライン「いや、オレ…ハンマースキルびた一文上げてねぇんだけど…」

 

 タクヤ「なら、リズにでもあげたらいいだろ?あ、アイツにあげたらインゴットにされかねないな」

 

 リズベット「ちょっと!いくら私でもそんな事する訳ないでしょ!!」

 

 アスナ「でも、伝説級武器(レジェンダリーウェポン)を溶かしたらオリハルコンインゴットがいっぱい出来るらしいよ」

 

 リズベット「え?マジ?」

 

 クライン「やらねぇからな!!!」

 

 そんな話をしていると突如、城が揺れ始め、壁や天井にヒビが入っていく。

 スリュムがいなくなった事で城が崩壊し始めていっていた。

 

 ユイ「みなさん!部屋の奥の玉座の裏に隠し階段が現れています!」

 

 リーファ「お兄ちゃん!スリュムを倒したけど、メダリオンの光がどんどん小さくなっていくよ!!」

 

 キリト「エクスキャリバーを抜かないとクエストはクリアしないか…。

 よし、行こうみんな!」

 

「「「おう!!」」」

 

 HPが回復する暇なく、タクヤ達は隠し階段を下っていった。

 最下層に辿り着く瞬間、タクヤは全員を止めた。

 

 ユウキ「どうしたのタクヤ?」

 

 タクヤ「…誰か…いる」

 

 キリト「嘘だろ…もう時間がないぞ」

 

 もう5分と時間がないこの状況で新たな敵との遭遇は完全に想定外の事だ。

 だが、全滅を避けるのが最優先でタクヤは慎重に最下層に入った。

 すると、そこにいたのは金髪の髪を三つ編みに結び、鎖で繋いだ鎧を身に纏った女性のNPCだった。

 特に印象的なのは手に握られた大きな旗であった。

 

『来ましたね妖精の剣士達。よくぞスリュムを倒し、ヨツンヘイムに平和をもたらしました』

 

 タクヤ「アンタ…敵か?」

 

『いいえ。私は貴方達の敵ではありません。

 私はただ見届けに来ただけなのです。このヨツンヘイムが平和へと進みゆく様を。さぁ、早くこの台座から剣を抜きなさい』

 

 敵ではない事は理解したが、それ以外は全く読めない女性に注意しながらキリトが台座の前に立った。

 

 キリト(「やっと…この時が…」)

 

 ユウキ「キリト」

 

 アスナ「キリト君」

 

 キリト「あぁ」

 

 タクヤ「…今度はちゃんと手に入れたな」

 

 キリト「今考えれば長かったような気がする」

 

 聖剣を強制的に呼び出したあの時とは違う。自らと仲間の力を合わせてこのエクスキャリバーを握っている。

 これを抜けばヨツンヘイムにイグドラシルの恩寵が戻り、かつての緑豊かな姿を取り戻すハズだ。

 

 リーファ「お兄ちゃん」

 

 キリト「あぁ。トンキーとデイジーの為だもんな」

 

 柄を両手で強く握り締め、引き抜こうと全力で体を踏ん張らせた。

 

 キリト「ぐぐ…!!」

 

 シリカ「頑張ってくださいキリトさん!!」

 

 クライン「男の見せ所だぞ!!キリト!!」

 

 カヤト「頑張ってください!!」

 

 みんなが声援を送り続ける。これまでの出来事が頭の中で鮮明に流れ始めた。

 

 キリト「う…おりぁぁぁぁっ!!!!」

 

 ミキミキと台座が軋み、聖剣が姿を露わにしていく。

 キィンという刃が掠れた音が響き渡り、とうとう聖剣エクスキャリバーが引き抜かれた。

 

 

 

「「「やったぁぁぁっ!!!!」」」

 

 

 

 喜ぶのも束の間、スリュムヘイムの外の世界樹が聳え立つ地面から巨大な幹が生え始め、真下にあった湖に深くめり込ませていく。

 次第にヨツンヘイム全土に幹がひしめき合い、スリュムヘイムにも侵攻していく。

 

 タクヤ「これでクエストはクリアか?」

 

 瞬間、スリュムヘイムが地響きに反応するかのように崩壊していき、出口が瓦礫で完全に塞がられてしまった。

 

 ラン「ど、どうしましょう!!?」

 

 クライン「よ、よっしゃぁっ!!今こそ俺様の垂直跳びを見せる時だぜ!!」

 

 最下層の天井から伸びていた幹まで5mはあるであろう高さをクラインは無謀にも助走なしでその場から高く飛んだ。

 だが、何の支援(バフ)もなく、通常のステータスでは出来るものではなかった。

 出来る訳もなく、その場に落ちた。それと同時に、辛うじて保っていた最下層の柱が砕け、タクヤ達は台座と共に落下していった。

 

「「「クラインのバカぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」」

 

 クライン「すみませぇぇぇんっ!!!?」

 

 急落下していく先にあるのは地下空洞。

 そこは霜の巨人達の故郷であるニブルヘイムに繋がっている。

 

 シノン「ニブルヘイム…寒くないといいなぁ」

 

 キリト「いや、極寒だと思うよ!?」

 

 タクヤ「その前に全損してアルンに戻るんじゃね?」

 

 リズベット「呑気にしてる場合かぁっ!!どうすんのよコレ!!?」

 

 このままではせっかく手に入れたエクスキャリバーも無駄にし、クエストも完了しないまま失敗扱いにされてしまう。

 ふと、タクヤは周りを見渡したが、先程までいた女性NPCがいない事に気づいた。

 

 タクヤ「あれ…?あのNPC、どこに…」

 

 ユウキ「そ、そんな事よりこの状況どうするのさー!!」

 

 ストレア「なんだか楽しいね〜!現実世界であるジェットコースターに似てない?」

 

 アスナ「似てない似てない!!?」

 

 すると、急落下する最下層に2つの影が急速移動してきているのを見つけた。

 次第に目視出来るまでになった影はタクヤ達の見慣れた仲間の姿であった。

 

 リーファ「トンキー!!」

 

 ユウキ「デイジーだ!!おーい!!」

 

 落下する台座に並んだ2匹が長い鼻を使って1人ずつ自分の背中へ乗せていく。

 最後にキリトに鼻を巻くが、ビクともせず、トンキーも諦めざるを得なかった。

 

 アスナ「キリト君!!」

 

 キリト「…」

 

 キリトがその場から動けない理由は聖剣エクスキャリバーにあった。

 エクスキャリバーの異常なまでの重量でキリトは足踏みすら出来ない状態で、ここで助かるにはエクスキャリバーを手放してトンキーに乗り移るしかない。

 

 キリト(「オレにはまだ早かったって事か…」)

 

 エクスキャリバーを見て、仲間達に顔を向ける。

 聖剣を入手するまでのこの時間はキリトにとって思い出になるものだった。

 エクスキャリバーを手放すのは非常に惜しいがいつかまた手に入れにニブルヘイムに行けばいい。

 

 キリト「…ったく。カーディナルってやつはっ!!!」

 

 腕を思い切り振りかぶり、エクスキャリバーを投げ捨てトンキーの背中へと乗り移る。

 地下空洞に落ちていく聖剣を名残惜しそうに見ていたキリトを隣のデイジーの背中に乗っていたタクヤは何かを思いついたようにシノンを呼んだ。

 

 シノン「何よ?」

 

 タクヤ「冥界の女神様ならこれくらいの距離余裕だろ?」

 

 シノン「…なるほどね」

 

 すると、シノンはおもむろに背に携えた弓と矢を構え、詠唱を唱え始めた。

 

 キリト「シノン?」

 

 シノン「距離は…200って所かしらね」

 

 詠唱を唱え終わったシノンが光の矢がエクスキャリバー目掛けて放たれた。

 

 リズベット「いくらなんでもそれは…」

 

 パシュッ…とエクスキャリバーに光の矢が接着し、シノンがそれを引っ張り上げた。

 

 リズベット「嘘っ!!?」

 

 両手でエクスキャリバーをキャッチし、涼しい顔でみんなを見やった。

 

「「「し…し…し…シノンさんかっけぇぇぇっ!!!!」」」

 

 弓のアシスト距離を有に超えた距離を難なく射抜いたシノンに賞賛を送った。

 呆然とした表情で視線を送るキリトに気づいたシノンが両手のエクスキャリバーを差し出す。

 

 シノン「そんな物欲しそうな顔しなくても上げるわよ」

 

 キリト「い、いいのか?」

 

 シノン「ただし、条件があるわ」

 

 キリト「条件?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シノン「この剣を抜く度に心の中でいつも私の事を思い出してね」

 

 

 

 

 

 キリト「!!?」

 

 気づけば女性陣の冷たい視線がキリトの背中に深々と突き刺さっていく。

 シノンにしてやられたと心の中で歯噛みをしながらも、喉から手が出る程欲しいエクスキャリバーには勝てなかった。

 

 キリト「わ、分かった。剣を抜く度にシノンに礼を言うよ」

 

 シノン「よろしい」

 

 タクヤ「これでようやくクエストクリアだな」

 

 ユウキ「あの城…ボク達が挑んだだけでまだ見てない部屋とかあったんだよね?」

 

 スリュムヘイムが原型を失っていく様を見ながら1度きりの高難度ダンジョンだった事を思い出すと、まだ未踏破のエリアやレアアイテムが眠っていた事を思うだけで少し勿体無いという気持ちが出てくる。

 それもカーディナルは折り込み済みなのだろうかと疑問に思ってしまうが、今更考えても詮無き事であり、今はエクスキャリバーとミョルニルゲットを喜んだ。

 すると、地上の大地に生命力に満ち溢れ、氷で閉ざされた大地に草花が生い茂り、緑豊かなものへと姿を変えていっていた。

 アルンでクエストを受けていたプレイヤー達もこの光景に目を奪われ、霜の巨人族は王を亡くした事で地下空洞を辿ってニブルヘイムへと帰還していく。

 これでこのヨツンヘイムに過去の平和な大地が蘇ったのだ。

 

 リーファ「よかったね…トンキー」

 

 ユウキ「あっ!デイジーの仲間達が鼻を振ってるよ!」

 

 イグドラシルの恩寵を取り戻した事でトンキーとデイジーの仲間達が息を吹き返した。まるで感謝しているかのようにこちらに長い鼻を振っている。

 その光景に涙ぐむリーファを宥めていると背後から眩い光が輝き始めた。

 そこにはこのクエストの依頼人である湖の女王ウルズであった。

 

 ウルズ『妖精の剣士達よ。よくぞスリュムの野望を打ち砕きこのヨツンヘイムに緑の大地を取り戻してくれました。

 私の2人の妹達からも貴方達に礼を言いに来ました』

 

 小さな光の劉氏がウルズの両隣で瞬き、人の形へと収縮していく。

 光の中から現れたのはウルズによく似た2人の美少女だった。

 

 ヴェルダンディ『私の名はヴェルダンディ。ありがとう妖精の剣士達。この美しいヨツンヘイムを取り戻してくれて』

 

 スクルド『我が名はスクルド!礼を言うぞ妖精の剣士達!!』

 

 クライン「おぉ…おぉっ!!?」

 

 ウルズ『私からはその聖剣を報酬として授けましょう。ゆめゆめ、ウルズの湖に投げ捨てないように。では、私達は行きます』

 

 全員のクエストログが書き換えられ、頭上で高々なファンファーレが鳴り響く。

 報酬に多額のユルドと武器の強化素材にキリトの項目に聖剣エクスキャリバーの名が刻まれていた。

 

 キリト「よし…!!」

 

 クライン「スクルドさぁん!!連絡先をぉっ!!!」

 

「「「えっ」」」

 

 空へ去っていくスクルドに手を差し伸べたクラインにスクルドが微笑みながら手を振った。

 光の結晶が宙を舞い、クラインの手の元で輝きを放つ。

 クラインはそれをゆっくりと胸に抱き抱え、満足気な表情を浮かべていた。

 

 リズベット「ホント…今回はアンタの事心の底から尊敬したわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年12月28日14時30分 ALO央都アルン リズベット武具店

 

 トンキーとデイジーに見送られ、タクヤ達はアルンのリズベット武具店へと帰ってきた。

 消耗した武器をリズベットに預け、その間先程までのクエストについて盛り上がっていた。

 

 カヤト「よかったですねキリトさん。今回のノルマは達成しましたよ」

 

 キリト「あぁ。これもみんなのおかげだ」

 

 シノン「…てか、アンタのさっきの技は何よ?」

 

 タクヤ「え?オレ?」

 

 シノン「アンタ以外いないでしょ。他のソードスキルにソードスキルをぶつけて威力をアップ出来るなんて聞いた事ないわよ?」

 

 シノンが言っているのはスリュム戦終盤で見せたタクヤのシステム外スキルに数えられる《剣技連鎖(スキルチェイン)》と《二重連携(デュアルスイッチ)》の事だ。

 キリトのシステム外スキル《剣技接続(スキルコネクト)》に並ぶ高等技術であるのは言うまでもない事だが、タクヤの2つのシステム外スキルは少し異色を放っていた。

 キリトの《剣技接続(スキルコネクト)》がキリト個人で繰り出すものである事に対し、タクヤの《剣技連鎖(スキルチェイン)》と《二重連携(デュアルスイッチ)》は自分と他のプレイヤーで合わせる合体技のようなものだ。

 それには高等技術もさる事ながら仲間の呼吸、タイミング、力量を完全に知っていなければいけない。

 シノン以外の全員もそれには興味を示しているみたいで、タクヤもこの状況で説明しない訳にはいかなかった。

 

 タクヤ「あー…あれは結構マグレなんだよなぁ。

 《二重連携(デュアルスイッチ)》は前からユウキと練習してたから成功してもあんまり不思議じゃないんだが、《剣技連鎖(スキルチェイン)》はがむしゃらにやって出来た技なんだ。

 それにトールの力で最上級の支援(バフ)がかかってたし、あの時は妙に頭が冴えてたんだよ。

 今やっても出来る保証はねぇな」

 

 聞いただけでも自分では出来ないとシノンは思った。

 同時に今目の前ですんなりと凄い事を平然と言って退けるタクヤに呆然と尊敬を抱いたのも事実だ。

 

 クライン「あんなスゴ技咄嗟に出来んのかよ?」

 

 タクヤ「こればっかりは感覚の問題だからなぁ…説明のしようがねぇよ」

 

 ラン「カヤトさんはどう思います?」

 

 カヤト「僕は言われたままやっただけですから分かりませんよ」

 

 カヤトはあくまで指示通りに動いただけであり、タクヤの補助を行っていた訳ではない。

 

 アスナ「あのスイッチはユウキとしか出来ないの?」

 

 タクヤ「もっと練習して簡略出来れば可能だけど、今はユウキとしか出来ないな」

 

 ユウキ「ボクとタクヤの相性が1番だもんねー?」

 

 ストレア「いいないいな〜!私もタクヤとやりた〜い〜!!」

 

 駄々をこねられても出来ないものはどうしようもない事でストレアを宥めながら落ち着かせる。

 ジッ…と生暖かい視線でタクヤを見るシノン、シリカ、ルクスの存在にタクヤは気づいていないのだが。

 

 ルクス「や、やっぱり2人はとてもお似合いだね」

 

 シノン「そうね…。中々変人地味てるけどね」

 

 ユウキ「変人じゃないもーん!」

 

 そんな中、全ての武器の調整を終えたリズベットが全員分の紅茶を持って工房から出てきた。

 

 リズベット「ちょっとタクヤ!!アンタの武器、めちゃくちゃ耐久値が削られてたわよ!!もっと大事に扱いなさいよね!!」

 

 タクヤ「マジか…。あれはやっぱ実戦で乱用出来ねぇな」

 

 ズズ…っと紅茶をすすりながら今後の課題を見定めているとリズベットが笑顔に切り替えて全員に提案を持ちかけた。

 

 リズベット「そうだ!エクスキャリバーゲット記念にみんなで打ち上げ兼忘年会しない?」

 

 シリカ「いいですね!やりましょう!」

 

 キリト「じゃあ、エギルの店を使えるか連絡するか」

 

 アスナ「エギルさんに迷惑じゃないかな?」

 

 クライン「いいっていいって!アイツなら喜んで貸切にしてくれるよっ!!」

 

 シノン「クラインが決める事じゃないんじゃない?」

 

 ルクス「ははは…」

 

 これからの打ち合わせに花を咲かせていると、ユウキが何かを思い出したように困った顔でタクヤを見つめた。

 

 ユウキ「でも、タクヤはまだ入院中だったよね…」

 

 リーファ「あっ…」

 

 キリト「そう…だったな」

 

 何やら気まずい空気を漂わせ始めたのを察知したタクヤは慌てて言った。

 

 タクヤ「いいってオレの事は!みんなで打ち上げやってきてくれよ。

 どうせ動けねぇから外出許可なんか取れねぇし。

 シノンやアスナだって明日から実家に帰るんだろ?今日しか出来ねぇんだからオレの事は気にしないでみんなで楽しんでこいよ」

 

 今年中に退院出来るかどうかも分からないタクヤを気遣い、みんなの時間を制限する訳にもいかない。

 ましてや、アスナとシノンが年内で共に過ごせる時間は今日しかなく、この機会を逃す手はない。

 

 ユウキ「じゃあボクはタクヤと一緒にいるよ」

 

 タクヤ「お前もオレに気を使うな。カヤトは2人をちゃんと送っていってやれよ?」

 

 カヤト「分かってるよ。ユウキさん、こればかりは仕方ないですね」

 

 ユウキ「むー…分かったよ」

 

 タクヤ「じゃあオレは一足先に落ちるわ。お疲れー」

 

 そう言い残してタクヤはリズベット武具店を後にして自身のホームへと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年12月28日15時00分 横浜市立大学附属病院

 

 拓哉「…ん」

 

 ホームでログアウトした拓哉は病室で目覚め、ゆっくりと上体を起こす。

 みんなは今頃打ち上げの打ち合わせをしている頃だろう。

 行きたくないと言えば嘘になるが、未だに痛む左腕がそれを良しとはしなかった。

 

 拓哉「…暇だな」

 

 どうせやる事がなかったのだから、ALOで簡単なクエストでもして時間を潰せばよかったと今になって後悔する。

 しかし、またログインするのもあれなのでスマホでネットサーフィンに更けた。

 たまに倉橋が様子を見に来てくれて何気ない会話をしながら時間を潰していった。

 外が薄暗くなっていく中、1人病室で大人しくしているとまたしても倉橋がひょっこり顔を出した。

 

 拓哉「先生は暇なんすか?」

 

 倉橋「いやいや、今回はちょっとしたサプライズがありまして」

 

 拓哉「サプライズ?」

 

 すると、扉が勢いよく開かれ、そこにいたのはユウキを始めとする仲間達の姿だった。

 

 木綿季「来たよー拓哉ー!!」

 

 和人「よっ!さっきぶりだな」

 

 拓哉「な、なんで?打ち上げしにいったんじゃねぇのかよ?」

 

 明日奈「だから、みんなで話し合ってここでやろうと思って料理と飲み物を持ってきたんだ」

 

 よく見てみると袋をたくさん携えたエギルとクラインの姿も見える。

 しかし、個室だとは言えどここは病院だ。

 騒いでしまえば他の患者にも迷惑がかかるんじゃないかと倉橋に視線を戻すが、指で丸を作りニコニコて笑った。

 

 里香「ちゃーんと先生の許可は取ってるから気にしなくていいわよー」

 

 倉橋「そんな話を聞いたなら拓哉君が不憫でしてね。ここは角部屋で隣にもだれもいませんから迷惑はかかりません。

 でも、消灯時間の1時間前には帰っていただきますが」

 

 前代未聞ではないかと拓哉は思ったが、

 

 和人「やっぱり拓哉がいないんじゃみんな盛り上がれないんだよ」

 

 クライン「パァーとやろうぜ!なっ?」

 

 エギル「食事制限もねぇだろ?だったら今度店に出す試作品を試してくれ。色々作ってきたから休めると思うなよ?」

 

 詩乃「それにちゃんとユイちゃんとストレアも連れてきたわ」

 

 木綿季と明日奈のスマホの画面からユイとストレアがこちらに手を振ってくれている。

 双方向通信プローブは他の機材に影響が出る可能性があったので諦めたが、スマホからでも問題はない。

 

 木綿季「さっ、打ち上げしよっ?」

 

 拓哉「…ったく。仕方ねぇ奴らだな!」

 

 そして、拓哉達は病室には似つかわしくない笑い声に包まれ一時の時間を楽しんでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やはり…避けては通れないのですね…』

 

 金色の髪が荒れ狂う嵐で激しく揺れ、波打つ海を傍観しながらその場で祈りを捧げた。

 まるで、神に仕える聖女の如く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?
拓哉を想う仲間達の優しさに胸打たれてくれたらなと思います。
そして、新たな物語の断片が描かれ、これからのタクヤ達の活躍にも注目していてください!


評価、感想などありましたらお待ちしております!


では、また次回!

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