「りっちゃんてさ、背が高いけど何センチあるの?」
俺の働いているエメラルド編集部は主にBL漫画を扱っている月刊雑誌だ。
実家のやっている小野寺出版から七光りと言われたことが悔しくて転職したらこの漫画雑誌に配属された。
さすがBL漫画雑誌というだけあって編集部の面々は女性ばかり。
そんなところになんで俺みたいな男が配属されたのか、良くわからないのだけど噂ではエメラルドでは萌えの要素のために若い男子を入れろと盛んに上申があげられていたそうだ。
主にこの隣の席の木佐さんから・・・。
木佐さんは外見は小柄で可愛くてげっ歯類を想像させるのに中身はイケイケガンガンのおねえさんなのだ。
「春の検診では186センチでした。」
「伸びたもんだね・・・。」
「腹減ると牛乳ばっかり飲んでるからですかね。」
「ハハハ。そんだけ背が高いと付き合う女の子もドン引きでしょ?」
「え?ドン引きですか?」
「だってさ、ほら・・・。」
木佐さんが俺の横に立つと150センチないという身長のその顔は遥か下に見える。
そして今度は少しだけニヤリとして
「急にキスしたくなってもさ、自然にできないよね。」
と唇に指をあてて言った。
もうこの人は・・・。
「そんな不埒な真似はすれ違いざまとかにしたりしませんから大丈夫です。」
大きなお世話ですという意味を含めてそう言うと
「え~。りっちゃんそういう衝動ないの?」
「衝動って何ですか!衝動って!」
「男はさ、もっとガツガツしてないともてないよ。」
俺はいろんな人にもてなくてもいいんです。
言いたい言葉をぐっとこらえて
「草食べて生きてますから平気です。」
そう言うと
「あれ?ミルクでしょ?毎晩おっぱい飲んでるのかと思った。」
と胸の強調されたデザインのフリルで囲まれた部分を両手で支えるように突き出してそう言った。
「ぎゅ、牛乳です!飲んでるのは。もう何言ってんですか!」
顔が赤くなるのが分かってもうこの場所から逃げたくなった。
「だべってんじゃねーよ!」
その時俺と木佐さんを後ろからパシっと叩く人がいた。
「高野さん・・・。」
その人は、容貌は絶世の美女なのに口の悪さでは男子よりひどい。
横暴で粗野で俺様で、エメラルドを売上上位雑誌に導いたやり手編集長だった。
慌てて俺は尻を、木佐さんは頭をさすりながら椅子に座ってパソコンのスリープを解除する。
しかし俺の脳裏に浮かぶのは・・・、昨晩の白くて柔らかくていい匂いの水蜜桃みたいな・・・。
「わ~!!!!!!!」
何考えてんだ俺!
こんなところで思い出してどうすんだ!!
兆しそうな下半身をなだめながら慌ててトイレに駆け込んで、冷たい水でバシャバシャと顔を洗った。
丁度キスにいい身長って・・・。
こうやって今日も俺はエメラルドに翻弄されて行く・・・。