グレンを追いかけてみたものの見失った俺は勘で学院の屋上へと向かった。
すると案の定、鉄柵にだらしなく寄りかかったグレンを見つけた。
「向いてないのかね......やっぱ」
遠くを眺めながらグレンは呟いた。
「調子はどうだ?まだまだ未熟な女子生徒に八つ当たりした気分は」
「なんだムラクモ、俺を追ってきたのか?」
俺に気づいたグレンは意外そうにこちらを見る。
「あぁ、教室に居ても気まずいからな。」
「そりゃお前、余計なこと言ったからだろうが」
「余計なことも言いたくなるさ、『人斬り』の前で剣術を馬鹿にするとか死にたいのか?お前は」
「......あれはほんとにすまんかった。お前の殺気で頭が冷えたよ......ま、手遅れだったみたいだが」
「大人気無い、と言いたいが......仕方ないだろう。魔術の裏側に1度身を置いてしまったならな」
「そう、だよな......あいつらが思ってるほど魔術なんてろくなもんじゃねえよ......」
そう言うグレンはとても悲しそうな表情をしていた。
「でも、宮廷魔導師なんか1度は目指したからにはお前もあいつらと、いや、それ以上に魔術が好きだった時期もあったのだろう?」
「......さぁな、昔のことなんて覚えてねえよ。ただまぁ......俺だって悪いとは思ってるよ。魔術の裏側を知らないあいつらに噛みついちまったことに関してはな」
「やっぱ向いてねえんだろうなぁ......講師なんて」
グレンは続けてそう呟いた。
「さぁ?案外それはお前のやる気次第かもしれんぞ?」
「じゃあそのやる気は絶対起きないから向いてねえな」
即答だった。こいつは既に辞める気なのではないだろうか。
グレンが辞めて俺が特に困ることはないのだが、俺の素性を知っているのに敵ではない存在がいるというだけでもここ最近は新鮮な気分だった。正直、まさかこんなにも自分が自然に会話できる人間だとは思っていなかった。
それともこの環境がそうさせたのだろうか。
俺はこの生活を案外気に入っているのかもしれない。そう考えるとやはりグレンが辞めるということは俺にとって困ることなのかもしれない。
さて、ではどうしたものか。
「ん?あれは......」
俺が何かグレンにかける言葉を探していると、当のグレンは今いる館と別にもう1つある館のどこかを見てそう呟いた。
「どうした?」
「あぁ、あそこ見てみろ」
俺の問いにグレンは遠見の魔術を発動させながらとある窓を指差し答えた。
俺も言われた通り遠見の魔術を発動させ、グレンが指差す方向を見た。
「あれは......ルミアさん?」
「あぁ、あれは......魔力円環陣か」
そうだ、ルミアさんで思い出した。
俺はルミアさんを初めて見た時に湧いた疑問についてグレンに聞いてみることにした。
「なぁグレン、あのルミアさんって見覚えないか?」
「なんだ?突然......うーん、たしかに見覚えがあるかないかで聞かれるとあるような......」
「やはり、か。俺はな、あの娘があの時俺達で助けた少女に見える」
「......たしかに、たしかにそう見える!いや待てよ、ってことはルミアも俺らがあの時の奴らって気がついてるんじゃ......」
「お前は気づかれてるかもな。というかその可能性の方が高いだろ。」
「たしかに服が違うだけだしなぁ......いや、というかお前は気づかれてる可能性無いのかよ」
「無いだろ。今でこそこんな格好だが俺の元の格好を思い出してみろ」
「あぁ、そういやお前、妙な服着てたもんな。結局あれはなんだったんだ?武器もなんかよく分かんねえ剣使ってたけど」
「これか?......『来い』」
俺はそう1節唱えると、瞬時に黒の着流し、黒のブーツ、編笠、刀を身に纏った。
「うわ!?ビビった.........こうして見ると......お前ほんとに『人斬り』だったのな」
グレンは突然この姿になったことに驚いたようだがすぐに慣れ、感心したかのように俺を眺めている。
あまりジロジロ見られて嬉しいものではないな。
「ほんと妙な戦闘着だよな、どこの地域の防具なんだこれ。てかこれほんとに防具か?布にしか見えないんだが」
「あぁ、詳しくは言えないが立派な防具だぞ?魔術への耐性付きで動きやすい、更に暗闇に紛れることにも適している」
「なるほど、『人斬り』の強さの秘訣には防具にもあるってか?じゃああのアホみたいな切れ味の得物は?」
そう言ってグレンは腰に差した刀を指差す。
「これは刀と言ってな、刃を薄くすることによって切れ味を極限まで求めた物だ。難点は耐久性だな、薄い分犠牲となっている。どこぞの戦車娘には扱えない代物だろう」
俺は分かりやすくする為、グレンの元同僚でもある1人の宮廷魔導師を例に挙げた。あいつに使わせれば即座に折れること間違いなしだろう。
「リィエルか......たしかに無理そうだな」
グレンは戦車娘に刀を持たせた光景を想像したのか苦笑を浮かべる。
「さて、と。俺の話なんてどうでもいい、あの迷える生徒を助けに行くべきなのではないか?グレン先生?......もう、本調子とは言わずともある程度は大丈夫だろ?」
「まったく......お前が年下とか本気で笑えねえよ......でも、ありがとよ」
「気にするな、ほら行ってこい」
俺がそう言うと、グレンは俺に背を向けルミアさんの元へと向かっていった。
他人のフォローなんて初めてだったが......どうやら上手くいったようだ。
*****
次の日、クラス全員が驚愕する事件が起きた。
といっても俺以外の、クラス全員だが。
なんとグレンがシスティーナさんに対して謝罪し、更に今までの授業はなんだったのかと言わんばかりの質の高い授業を始めたのだ。
謝罪は予想していたがまさか授業まで真面目にするとは、昨日俺と別れてから一体彼の心境に何があったのだろうか。
そんな彼は現在、ショックボルトの基礎について講義をしている。
「はいムラクモ、ショックボルトを本来の呪文を使わずに撃ってみろ」
ぼーっとしていた俺に気づいたのか、グレンはニヤニヤしながら俺を指名した。
本来の呪文を使わずに魔術の行使など出来るのか、そんな疑問が教室を渦巻いておりとても面倒だ。
だがここで出来ないと嘘を吐くことに特にメリットを感じなかったので、仕返しも兼ねて威力を強めに調整し、撃つことにした。
「『お前・マジで・痺れろ』」
俺が適当に3節唱えると、ショックボルトが明らかに通常より強い光を放ちながらグレンへと飛んでいった。
「うお!?あっぶねぇ......おいムラクモ!!お前はショックボルトで講師を殺す気か!?」
「いえ、そんなことは、決して」
「棒読みじゃねえか!!......コホン、まぁこんなことも出来るってこった。さて、これからいよいよ基礎的な文法と公式を解説すんぞ。興味無い奴は寝てな」
こうして授業が終わる頃にはすっかり生徒のグレンを見る目が変わっていた。
いやいや、流石にショックボルトで死にはしないだろう。
......しないよな?
*****
そしてグレンの授業の噂が更に広まっていき、平和な学院生活が続いていたある日。
思わぬ来訪者により、いとも簡単にその平和は崩れ去った。
だいぶ短めですね。
次回から本格的にムラクモの活躍が見れる......はずです。